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統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

平成14年度研究報告

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

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2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

Microsoft PowerPoint - 資料6-1_高橋委員(公開用修正).pptx

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

本成果は 主に以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究戦略推進プログラム ( 平成 27 年度より文部科学省より移管 ) 研究課題名 : 遺伝子改変マーモセットの汎用性拡大および作出技術の高度化とその脳科学への応用 研究代表者 : 佐々木えり

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

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本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

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論文の内容の要旨

現し Gasc1 発現低下は多動 固執傾向 様々な学習 記憶障害などの行動異常や 樹状突起スパイン密度の増加と長期増強の亢進というシナプスの異常を引き起こすことを発見し これらの表現型がヒト自閉スペクトラム症 (ASD) など神経発達症の病態と一部類することを見出した しかしながら Gasc1 発現

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

核内受容体遺伝子の分子生物学

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プレスリリース 報道関係者各位 2019 年 10 月 24 日慶應義塾大学医学部大日本住友製薬株式会社名古屋大学大学院医学系研究科 ips 細胞を用いた研究により 精神疾患に共通する病態を発見 - 双極性障害 統合失調症の病態解明 治療薬開発への応用に期待 - 慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

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生物時計の安定性の秘密を解明

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 脳内のグリア細胞が分泌する S100B タンパク質が神経活動を調節 - グリア細胞からニューロンへの分泌タンパク質を介したシグナル経路が活躍 - 記憶や学習などわたしたち高等生物に必要不可欠な高次機能は脳によ

報道発表資料 2001 年 12 月 29 日 独立行政法人理化学研究所 生きた細胞を詳細に観察できる新しい蛍光タンパク質を開発 - とらえられなかった細胞内現象を可視化 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 生きた細胞内における現象を詳細に観察することができる新しい蛍光タンパク質の開発に成

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報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する


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統合失調症といった精神疾患では シナプス形成やシナプス機能の調節の異常が発症の原因の一つであると考えられています これまでの研究で シナプスの形を作り出す細胞骨格系のタンパク質 細胞同士をつないでシナプス形成に関与する細胞接着分子群 あるいはグルタミン酸やドーパミン 2 系分子といったシナプス伝達を

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研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

ルグリセロールと脂肪酸に分解され吸収される それらは腸上皮細胞に吸収されたのちに再び中性脂肪へと生合成されカイロミクロンとなる DGAT1 は腸管で脂質の再合成 吸収に関与していることから DGAT1 KO マウスで認められているフェノタイプが腸 DGAT1 欠如に由来していることが考えられる 実際

学位論文の要約

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抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

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記載例 : ウイルス マウス ( 感染実験 ) ( 注 )Web システム上で承認された実験計画の変更申請については 様式 A 中央の これまでの変更 申請を選択し 承認番号を入力すると過去の申請内容が反映されます さきに内容を呼び出してから入力を始めてください 加齢医学研究所 分野東北太郎教授 組

オクノベル錠 150 mg オクノベル錠 300 mg オクノベル内用懸濁液 6% 2.1 第 2 部目次 ノーベルファーマ株式会社

計画研究 年度 定量的一塩基多型解析技術の開発と医療への応用 田平 知子 1) 久木田 洋児 2) 堀内 孝彦 3) 1) 九州大学生体防御医学研究所 林 健志 1) 2) 大阪府立成人病センター研究所 研究の目的と進め方 3) 九州大学病院 研究期間の成果 ポストシークエンシン

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

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4. 発表内容 : 研究の背景 イヌに お手 を新しく教える場合 お手 ができた時に餌を与えるとイヌはまた お手 をして餌をもらおうとする このように動物が行動を起こした直後に報酬 ( 餌 ) を与えると そ の行動が強化され 繰り返し行動するようになる ( 図 1 左 ) このことは 100 年以

Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

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( 平成 22 年 12 月 17 日ヒト ES 委員会説明資料 ) 幹細胞から臓器を作成する 動物性集合胚作成の必要性について 中内啓光 東京大学医科学研究所幹細胞治療研究センター JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO 型研究研究プロジェクト名 : 中内幹細胞制御プロジェクト 1

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

を行った 2.iPS 細胞の由来の探索 3.MEF および TTF 以外の細胞からの ips 細胞誘導 4.Fbx15 以外の遺伝子発現を指標とした ips 細胞の樹立 ips 細胞はこれまでのところレトロウイルスを用いた場合しか樹立できていない また 4 因子を導入した線維芽細胞の中で ips 細

( 図 ) 自閉症患者に見られた異常な CADPS2 の局所的 BDNF 分泌への影響

卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

新規 P2X4 受容体アンタゴニスト NCP-916 の鎮痛作用と薬物動態に関する検討 ( 分野名 : ライフイノベーション分野 ) ( 学籍番号 )3PS1333S ( 氏名 ) 小川亨 序論 神経障害性疼痛とは, 体性感覚神経系の損傷や疾患によって引き起こされる痛みと定義され, 自発痛やアロディ

Microsoft Word - 博士論文概要.docx

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

Microsoft Word CREST中山(確定版)

報道発表資料 2007 年 4 月 11 日 独立行政法人理化学研究所 傷害を受けた網膜細胞を薬で再生する手法を発見 - 移植治療と異なる薬物による新たな再生治療への第一歩 - ポイント マウス サルの網膜の再生を促進することに成功 網膜だけでなく 難治性神経変性疾患の再生治療にも期待できる 神経回

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共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

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スライド 1

ロペラミド塩酸塩カプセル 1mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにロペラミド塩酸塩は 腸管に選択的に作用して 腸管蠕動運動を抑制し また腸管内の水分 電解質の分泌を抑制して吸収を促進することにより下痢症に効果を示す止瀉剤である ロペミン カプセル

グルコースは膵 β 細胞内に糖輸送担体を介して取り込まれて代謝され A T P が産生される その結果 A T P 感受性 K チャンネルの閉鎖 細胞膜の脱分極 電位依存性 Caチャンネルの開口 細胞内 Ca 2+ 濃度の上昇が起こり インスリンが分泌される これをインスリン分泌の惹起経路と呼ぶ イ

2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

HYOSHI48-12_57828.pdf

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

情報提供の例

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

イルスが存在しており このウイルスの存在を確認することが診断につながります ウ イルス性発疹症 についての詳細は他稿を参照していただき 今回は 局所感染疾患 と 腫瘍性疾患 のウイルス感染検査と読み方について解説します 皮膚病変におけるウイルス感染検査 ( 図 2, 表 ) 表 皮膚病変におけるウイ

記載例 : 大腸菌 ウイルス ( 培養細胞 ) ( 注 )Web システム上で承認された実験計画の変更申請については 様式 A 中央の これまでの変更 申請を選択し 承認番号を入力すると過去の申請内容が反映されます さきに内容を呼び出してから入力を始めてください 加齢医学研究所 分野東北太郎教授 ヒ

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

医薬品タンパク質は 安全性の面からヒト型が常識です ではなぜ 肌につける化粧品用コラーゲンは ヒト型でなくても良いのでしょうか? アレルギーは皮膚から 最近の学説では 皮膚から侵入したアレルゲンが 食物アレルギー アトピー性皮膚炎 喘息 アレルギー性鼻炎などのアレルギー症状を引き起こすきっかけになる

学位論文要旨 牛白血病ウイルス感染牛における臨床免疫学的研究 - 細胞性免疫低下が及ぼす他の疾病発生について - C linical immunological studies on cows infected with bovine leukemia virus: Occurrence of ot

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ナショナルバイオリソースプロジェクト ラット 主催 第 3 回ラットリソースリサーチ研究会 講演抄録集 平成 22 年 1 月 29 日 ( 金 ) 13:00 17:30 京都大学百周年時計台記念館

第 3 回ラットリソースリサーチ研究会プログラム 開会の辞 芹川忠夫 ( 京都大学大学院医学研究科附属動物実験施設 ) 13:00-13:15 第 1 部 座長 : 平林真澄 ( 自然科学研究機構生理学研究所 ) 小林英司 ( 自治医科大学先端医療技術開発センター ) ラットリソース 1. ナショナルバイオリソースプロジェクト ラット の近況報告 13:15-13:40 庫本高志 ( 京都大学大学院医学研究科附属動物実験施設 ) 2. ラット生殖工学技術 13:40-14:05 柏崎直巳 ( 麻布大学獣医学部動物繁殖学研究室 ) 3.GABA ニューロンを蛍光分子で標識したトランスジェニックラットの開発 柳川右千夫 ( 群馬大学大学院医学系研究科 ) 14:05-14:30 4. ラット中枢神経系神経回路網の解析 : 14:30-14:55 ウイルスベクター 遺伝子改変動物を用いて日置寛之 ( 京都大学大学院医学研究科高次脳形態学 ) 休憩 14:55-15:25 1

第 2 部 座長 : 北田一博 ( 北海道大学理学研究院附属ゲノムダイナミクス研究センター ) 松本耕三 ( 京都産業大学総合生命科学部 ) ラットリサーチ 5. 好酸球増多症ラット (MES) の分子遺伝学的研究 15:25-15:50 森政之 ( 信州大学大学院医学系研究科加齢生物学分野 ) 6.CYP2D 遺伝的欠損ラットにおける CYP2D6 基質の薬物動態特性と 15:50-16:15 その定量的予測 岩城正宏 ( 近畿大学薬学研究科生物薬剤学 ) 7. ラットの行動から 何が分るか?- 中枢神経系作用薬の前臨床評価法 16:15-16:40 山本経之 ( 長崎国際大学薬学部薬理学研究室 ) 8. ロードーシス行動と性差 16:40-17:05 山内兄人 ( 早稲田大学人間科学学術院神経内分泌研究室 ) 9.Ras がん遺伝子トランスジェニックラットを用いた化学発がん研究津田洋幸 ( 名古屋市立大学大学院医学研究科 ) 17:05-17:30 懇親会 18:00-20:00 主催 : ナショナルバイオリソースプロジェクト ラット 606-8501 京都市左京区吉田近衛町京都大学大学院医学研究科附属動物実験施設 Tel: 075-753-9318 Fax: 075-753-4409 E-mail: nbrprat@anim.med.kyoto-u.ac.jp 2

抄 録 3

1. ナショナルバイオリソースプロジェクト ラット の近況報告 庫本高志 京都大学大学院医学研究科附属動物実験施設 平成 19 年度から 5 年間の予定で開始された第 2 次ナショナルバイオリソースプロジェクト (NBRP) は その 3 年目にあたる平成 21 年度より 文部科学省の委託事業から補助金事業へ移行した その結果 NBRP-Rat の事業主体は京都大学となった 2008 年から 2009 年にかけてのラット関連のトピックスは ES 細胞と ips 細胞の確立 ENU ミュータジェネシスバンクの整備 そして Zinc-finger nuclease (ZFN) 技術を用いた遺伝子ノックアウトラットの作製である これらの技術革新により 遺伝子ノックアウトラットの開発が現実のものとなり 今後 医療や創薬等の応用研究における ラットリソースの利用機会が増加することが予測される それに伴い 寄託者 中核機関 利用機関などの知的財産保護にも十分留意する必要がある そこで NBRP-Rat では これまでの MTA を改訂し 平成 22 年度より 改訂版 MTA に基づき リソースの寄託と提供を行う予定である また リソースの提供に係わる実費の徴収を平成 22 年度より予定している NBRP-Rat は質 量ともに世界最高水準のラットリソースセンターとして国内外から認知されている これからも高品質のラットリソースを研究コミュニティに提供することで 国内外の研究環境や知的基盤の向上に貢献していきたい 最後に 第 18 回国際ラット遺伝システムワークショップを 2010 年 11 月 30 日から 12 月 3 日まで 京都大学で開催する 第 4 回 RRR 研究会との共催となるので 皆様の積極的なご発表とご参加をお願いしたい 4

2. ラット生殖工学技術柏崎直巳麻布大学獣医学部動物繁殖学研究室 ラットは 実験動物としての非常に長い歴史を有し 豊富な遺伝的多様性とそのボディサイズから マウスと同様に生命科学の広範な研究領域で用いられてきた さらにラットの全ゲノムのドラフトシークエンスが明らかにされたことにより 今後その重要性が増加するものと期待されている しかし ラットにおけるジーンターゲッティングに代表される個体レベルでの遺伝子改変モデルの観点からすると その技術的背景である生殖工学分野の研究開発が マウスと比較して遅れている さらには 遺伝子改変ラットの遺伝資源を効率よく利用するには 配偶子や初期胚の超低温保存と保存細胞からの個体復元技術も重要となる その基礎となる体外受精系を中心に 卵細胞質内精子注入 配偶子 初期胚の超低温保存 体細胞クローン などのラット生殖工学研究の展開を紹介したい 主要文献 Fujiwara, K., Sano, D., Seita, Y., Inomata, T., Ito, J., Kashiwazaki, N. J Reprod Dev (in press). Seita, Y., Ito, J., Kashiwazaki, N. 2009. J Reprod Dev 55: 475. Seita, Y., Okuda, Y., Kato, M., Kawakami, Y., Inomata, T., Ito, J., Kashiwazaki, N. 2009. Cryobiology 59: 226. Seita, Y., Sugio, S., Ito, J., Kashiwazaki, N. 2009. Biol Reprod 80: 503. Sano, D., Yamamoto, Y., Samejima, T., Seita, Y., Inomata, T., Ito, J., Kashiwazaki, N. 2009. Zygote 17: 29. Nakajima N., Inomata, T., Ito, J., Kashiwazaki, N. 2008. Cloning Stem Cells 10: 461. 5

3.GABA ニューロンを蛍光分子で標識したトランスジェニックラットの開発柳川右千夫群馬大学大学院医学系研究科 脳は興奮性と抑制性のニューロンから構成される神経ネットワークの集まりからできている 興奮性ニューロンは グルタミン酸を神経伝達物質として放出するグルタミン酸ニューロンが知られている 一方 γ-アミノ酪酸 (GABA) を神経伝達物質として合成 放出する GABA ニューロンが抑制性ニューロンの代表である 大脳皮質や海馬などの興奮性ニューロンはその形態から錐体細胞と呼ばれ 比較的均一であり 同定しやすいことが研究を進める上でとても役立っている しかしながら GABA ニューロンは中枢神経系に散在しており 少数であり 形態も多様なので 生きているスライス標本の中で同定するのは容易ではない ところで ラットとマウスは脳科学研究をするうえで 代表的な実験動物である ラットを使用する利点として (1) 生理学実験の多くがラットで行われており データを照合しやすい (2) 脳幹部などの小さな神経核の解析は脳が大きいラットの方が容易 (3) 神経回路機能を解析する際に 脳の部分破壊や薬物やウイルスの局所注入が容易に行える (4) ハンチントン舞踏病モデルラット てんかん発作モデルラットの存在 が考えられる そこで GABA ニューロンを蛍光分子で標識したトランスジェニックラットを作製し GABA ニューロンが容易に同定できるようになれば 脳科学研究が進捗すると考えた 小胞型 GABA トランスポーター (VGAT) は GABA をシナプス小胞内に輸送する膜蛋白質で GABA ニューロンに発現する VGAT 遺伝子をコードする細菌人工染色体 (BAC) に相同組換えを利用して 黄色蛍光蛋白質 Venus を挿入したコンストラクトを作製した このコンストラクトを導入したトランスジェニックラット (VGAT-Venus ラット ) を作製して解析した結果 大脳皮質や小脳皮質で GABA ニューロン特異的に Venus 分子が発現していることを観察した また 大脳皮質 Venus 陽性ニューロンからホールセル記録した結果 GABA ニューロンに特徴的な fast spiking の発火パターンを観察した 以上の結果は VGAT-Venus ラットが GABA ニューロンの研究を始め 脳科学研究のための有用な資材であることを期待させる 6

4. ラット中枢神経系神経回路網の解析 : ウイルスベクター 遺伝子改変動物を用いて日置寛之京都大学大学院医学研究科高次脳形態学 ゲノムデータベースが整備された今 遺伝子改変動物を利用することは各研究分野において有用であり また必須のツールとなっている 現在では技術的 経済的制約により 主にマウスが遺伝子改変動物として用いられている しかし一方で 実験 解析手技上の問題から マウスではなくラットを用いた方が好ましい研究分野も数多く存在する 1) ラットはマウスよりもサイズが大きく 生体試料の採取や実験処置が容易であること 2) 中枢神経系の高次機能研究においてラットがマウスより優れていること などがその理由である 我々の研究室では約 10 年前から Bacterial Artificial Chromosome (BAC) クローンを用いた遺伝子改変動物の作出を進めてきた 遺伝子改変動物を作出するに当たって BAC DNA を用いる利点は 導入遺伝子の発現特異性が期待出来ることにある BAC DNA はインサートサイズが100から300kbp と非常に大きく ある遺伝子 X の発現制御に必要な領域 ( プロモーター部位等 ) をカバーするには十分な大きさであると考えられる 相同組換えにて 導入遺伝子を BAC クローンに挿入するが 導入遺伝子には我々の研究室で開発された 樹状突起膜移行シグナルが付加された EGFP(myr-EGFP-LDLR; Kameda et al., 2008) を主に用い ある特定の神経細胞集団をゴルジ染色様に可視化することを試みている 本研究会ではその進捗状況を報告すると共に その解析例 応用例を示す 遺伝子改変マウスの整備については 米国 NIH が主体となって既に事業化が進んでいる (NIH Blueprint) 一方 遺伝子改変ラットの作出は個々の研究者が独自に行っているのが現状である 今後 Reverse Genetics による遺伝子改変ラットのインフラ整備が推進されることを期待している 7

5. 好酸球増多症ラット (MES) の分子遺伝学的研究森政之信州大学大学院医学系研究科加齢生物学分野 ある蛋白分子が様々な生命機能に関与する場合 その分子をコードする遺伝子異常が多彩な異常表現型を惹起することが想定される MES 系ラットは信州大学動物実験施設の松本清司博士により発見された 1 好酸球増多症 ( 血液中での好酸球増多 および好酸球浸潤により胃腸炎やリンパ節炎などの組織傷害を呈する ) 2 低体重 ( 正常 SD 系ラットと比較して約 15% 程度低い ) 3 斜頸 4 腸内腐敗 の異常表現型を遺伝的特性とするラット系統である MES 系ラットにおけるこれらの異常の原因を解明するために 原因遺伝子のポジショナルクローニングを試みた (ACI x MES) x MES 戻し交雑仔群 (n = 328) を用いたマイクロサテライトマーカー遺伝子との genome-wide 遺伝連鎖解析の結果 好酸球増多症の原因遺伝子は第 19 番染色体 q 腕端領域に存在することが明らかとなった さらに第 19 番染色体 q 腕端領域に存在する cytochrome b(-245), alpha polypeptide (Cyba; 別名 p22phox) 遺伝子の変異検索を行なった結果 第 4 イントロンのスプライスドナー配列を含む 4 塩基の欠失を認めた その欠失のために mrna 転写産物には第 4 イントロンの 51 塩基分に由来する配列が in frame で挿入されていた 正常型の Cyba 遺伝子によるトランスジェニックレスキュー試験で MES 系ラットの全ての異常形質が矯正されたことから 突然変異型 Cyba mes 遺伝子がこれらの異常形質の一義的な原因であることが証明された CYBA は NOX1, NOX2, NOX3, NOX4 の 4 種の NADPH オキシダーゼ複合体に必須の構成蛋白分子である これらの NADPH オキシダーゼは活性酸素種の生成を通じて様々な生理機能を司ることが明らかとなりつつある 4 種の NADPH オキシダーゼの主要な発現器官は大腸 (NOX1) 白血球(NOX2) 内耳(NOX3) 脂肪細胞(NOX4) である MES 系ラットにおける 4 種の異常表現型は これらの器官での NADPH オキシダーゼ活性の喪失が原因であることが想定された MES 系ラットは白血球の NOX2 NADPH オキシダーゼ活性を完全に欠失していることが確認された また MES 系ラットの内耳には耳石が無く 加速度を感知できないために斜頸を発症することが明らかとなった さらに MES 系ラットにおいては内蔵脂肪の蓄積が顕著に低下しており 低体重の原因は NADPH オキシダーゼ活性の喪失による脂肪細胞の機能低下であることが示唆された 一方 NADPH オキシダーゼ活性の喪失の好酸球増多症を惹起する機構 および腸内腐敗との関連は不明であり 今後の研究課題である また ヒトおよびマウスの CYBA 変異体には好酸球増多症や腸内腐敗などの報告は無く これらの異常表現型はラットに特異的である可能性もある MES 系ラットは未だ詳細が不明な好酸球の分化増殖機構だけでなく NADPH オキシダーゼ および活性酸素の生体機能を解明するための優れたモデルであると考えられる 8

6.CYP2D 遺伝的欠損ラットにおける CYP2D6 基質の薬物動態特性とその定量的予測岩城正宏 近畿大学薬学研究科生物薬剤学 薬物に対する反応性の個体差が生ずる原因の一つに, 薬物動態の個体差があげられるが, 体内動態の個体差の原因として最も影響するのは代謝酵素の個体差である 薬物代謝酵素の代表である cytochrome P450 (CYP) ファミリーの中でも,CYP2D6 は精神神経用薬やβ 遮断薬など広範な薬物の代謝に関与し, 本酵素の遺伝多型性は薬物体内動態や薬効を左右する重要な要因である さらには創薬における開発候補品を評価する上で重要な選択基準と考えられる Dark Agouti (DA) 系ラットは, CYP2D6 基質に対する代謝活性が,Wistar 系ラットや Sprague-Dawley (SD) 系ラットと比較して低く,CYP2D6 の poor metabolizer (PM) のモデル動物となる可能性が示されている そこで,DA 系ラットの薬物代謝能および PM モデル動物としての有用性を検討した DA 系ラットの肝 CYP 活性を Wistar 系ラットと比較すると,CYP2D 活性が低いのに対して,CYP1A,2B および 3A 活性は高かった さらに,DA 系ラットの肝 CYP 分子種の mrna レベルを SD 系ラットと比較した結果, 雄性 DA 系ラットでは, 肝 CYP2D2 mrna レベルが低く,CYP1A1, 3A1 および 3A2 の mrna レベルが有意に高値であった また, 雌性 DA 系ラットでは, 肝 CYP2B1, 3A1 および 3A2 の mrna レベルが高値であることが判明した 一方, 小腸の CYP mrna レベルは両系統間に有意な差異は認められなかった CYP の発現制御に関与する核内レセプターのうち,CYP3A の発現に関与する CAR の mrna レベルも DA 系ラットで高いことが明らかとなった DA 系ラットが CYP2D6 の PM モデルとなるかを,extensive metabolizer, (EM) モデルの Wistar 系ラットと比較検討した メトプロロールおよびプロプラノロールを経口投与したところ,Wistar 系ラットと比較して DA 系ラットではそれぞれ 5 倍および 35 倍高い血漿中濃度 - 時間曲線下面積 (AUC) を示した 一方,in vitro 試験から算出した両薬物の代謝固有クリアランス (CLint) は, 両系統間で 4-7 倍異なっているにすぎなかった 従って, メトプロロールでは in vitro-in vivo (IV-IV) 間でほぼ一致したものの, プロプラノロールでは矛盾が認められた この矛盾は低い Km 値と関連した非線形性体内動態によることが示唆された また, メトプロロールにおける両系統間の差はヒト PM と EM における AUC の比とほぼ一致したが, プロプラノロールでは一致しなかった ラット in vivo での現象を in vitro の代謝パラメータにより, 説明可能なことから, ラットでの IV-IV 間の相関性に関する情報は, ヒトでの遺伝多型性による体内動態の変動を in vitro から予測するのに有益であると考えられるが,DA 系ラットが常に CYP2D6 の PM の適切なモデル動物になるとは限らないことを示している 9

7. ラットの行動から 何が分るか?- 中枢神経系作用薬の前臨床評価法山本経之長崎国際大学薬学部薬理学研究室 精神疾患の動物モデルは 行動薬理学的手法を駆使しての新しい向精神薬の開発の為に極めて重要であり 臨床試験への橋渡しの役割を担ってきた しかし 脳の構造 特に大脳皮質の構造は 動物とヒトでは最も顕著な違いがあり 行動表現も異なる これらの状況から 動物を用いての精神疾患モデルの作成に如何なる意味があるのか? 何処まで臨床像に接近出来るのか?-といった素朴な疑問が起きる 一方 精神疾患の診断は 1) 患者自身の言葉を介しての自発的な内省 と 2) 患者の精神症状 / 行動異常の観察からなされている 動物の異常性を言語を介して理解する事は そもそも動物からの内省が期待できないので不可能である しかし 行動の異常性 は動物でもある程度捉える事が可能であり ヒトでの診断の一部を模倣した実験系 ( 例えば 統合失調症患者に認められる prepulse inhibition の障害 ) も考案されている さらに精神疾患は 環境やストレスに対する適応不全がその背景にあると考えられている これらの因子はヒトと動物に共通する概念と捉えられ 動物を用いての精神疾患モデルの作製に対する妥当性の1つの根拠と成っている 精神疾患の動物モデルの作成には その病態の解明が前提であるが 如何なる精神疾患も未だ充分に解き明かされてはいない その上で 精神疾患の動物モデルの妥当性を何処に求めたら良いのか 以下の 3 点が挙げられている まず 1) 精神疾患の患者が示す症状と動物モデルの行動変容との間の表面的な類似性 ( 例えばうつ病での自発運動性低下 統合失調症での stereotypy 等 ) を問う 表面妥当性 2) モデルの発想の基礎となる仮説 ( 例えば うつ病のモノアミン欠乏仮説 ) の具備を問う 構成概念妥当性 および 3) モデルでの薬物の改善作用がヒトの精神疾患での改善効果を反映するものであるか否かの 予測妥当性 によって評価されている これまでの動物モデルと呼ばれるものの大部分は 薬物の前臨床的評価モデル の意味合いが強い 行動薬理学上の向精神薬の前臨床的評価法としては 以下の3つのポイントが挙げられている 1) ある行動テストにおいて 特定の疾患 ( 例えばうつ病 ) の治療薬 ( 例えば一連の抗うつ薬 ) のみが特異的に反応する 2) ある行動テストにおいて 特定の治療薬クラス以外で臨床上治療効果を持つ薬物が高感度に反応する ( 例えば抗うつ効果を有するある種のβ 受容体刺激薬 ) 3) ある種の治療薬の行動テストにおける作用強度の順番が 臨床上の治療効果のそれと相関する- 等である 真に新しいメカニズムの治療薬の開発は 新しい動物モデルの誕生を必要としている 既存の動物モデルの限界を見極めながら ストレスに対する脆弱性や環境因子を考慮に入れた実験系を導入し 常により妥当性の高い動物モデルへと進化させねばならない 10

8. ロードーシス行動と性差山内兄人早稲田大学人間科学学術院神経内分泌研究室 発情している雌ラットに雄ラットが背面から交尾行動 ( マウント ) をすると 雄の前肢が雌の腹側部に触れ雌は反射的に腰部と頭部をあげ脊柱を湾曲させるロードーシス行動をする 雄ラットを去勢して多量のエストロゲンを投与してもロードーシスの発現は低い 我々はこの原因が前脳の中隔に強い抑制力があるためであることをみつけ 長年研究を進めてきた 本研究会では現在までに明らかになったことを報告したい 雄ラットの中隔を破壊またはイボテン酸の注入 または腹側部下降神経線維切断で ロードーシスをするようになる 雌の中隔を破壊してもロードーシスが促進されるが 雌の中隔に直接エストロゲンを入れると ロードーシスが促進されるが 雄ではされない これらの結果は 雄の中隔の抑制力がエストロゲンで解除できない仕組みになっていることを示す 雄ラットのロードーシス統御機能がある中脳中心灰白質 (MCG) 吻側部右側に逆行性トレーサーである Fluoro-Gold(FG) をいれると 右側中隔外側核 (LS) の中間部に FG 免疫陽性細胞が多数見られる 中隔腹側部水平切断によりロードーシスをするようになった雄ラットに同様の処置をしても LS 中間部の FG 陽性細胞はほとんど見られなくなる これらの結果から LS 中間部の MCG に神経投射している神経細胞がロードーシス抑制力を形成していると考えられる さらに LS-MCG 神経路の投射線維の量は雌の方が多いことも明らかになった 雌ラットのロードーシス発現は新生時期にテストステロンを投与されると低下する 新生時期のアンドロゲンは中隔の抑制力を強めると考えられる すなわち雌ラットの中隔ではロードーシス抑制力がエストロゲンにより解除されるメカニズムとして発達するが 雄では新生時期にアンドロゲンが作用することにより エストロゲンで解除されにくい仕組みに変わるものと推察できる 雌ラット中隔の MCG に対する神経投射の生後発達を神経トレーサーである DiI をもちいて調べた結果では 15 日齢でほぼ大人に近い組織像がみられた LS 中間部体積の生後発達を調べると 6 日から 16 日にかけて上昇し その後雄はあまり増加せず 雌は急激に増加し 31 日齢では雌の LS 中間部の体積が雄より大きくなった それらの結果は LS-MCG は 15-16 日頃には大人に近くなるが その後投射量に性差が生じることを示す アポトーシスを調べた結果では LS 中間部のアポトーシス細胞数は 8 日ごろピークを示し 11 日にいったん低下した後 16 日に上昇し そこで雄のほうが雌より高い値を示した このように 中隔から MCG に投射する神経線維量の性差はアポトーシスにより生じると考えられ ラット新生時期のアンドロゲンは LS 中間部のアポトーシスに対して影響を及ぼし 性差を形成するものと考えられる 11

9.Ras がん遺伝子トランスジェニックラットを用いた化学発がん研究津田洋幸 1 2 深町勝巳 1 名古屋市立大学大学院医学研究科 特任研究室 2 分子毒性学分野 ヒト正常型 c-ha-ras トランスジェニックラット (Hras128) は雄で皮膚 舌 食道 膀胱 雌で乳腺において化学発がん物質に対する感受性が高い このラットでは変異原性発がん物質の投与によって短期に発がんする 発生したがんでは早期から導入遺伝子の変異が見られることから 投与した発がん物質の標的となっていることが分かった (Cancer Sci, 2005) とくに雌ではニトロサミン 芳香族炭化水素 ヘテロサイクリックアミン等 化学構造 機序を問わず多種の変異原性発がん物質の投与短期に低用量の投与によって10 週程度で乳腺がんを発生する これを利用した環境発がん物質の短期検索法を開発した (Tox Path, 2007) さらに 変異型 Hras V12 を Cre-loxP 構築として in vivo の細胞においてコンディショナルに発現させ得るトランスジェニックラット (Hras200 系 ) さらにヒトのがんにより多い変異型 Kras V12 をコンディショナルに発現するラット (Kras300 系 ) を作成した Hras200 及び Kras300 系ラットでは Cre リコンビナーゼ発現アデノウイルスを目的とする細胞に感染させることによって これらに導入遺伝子を活性化する事が可能であり がんの細胞発生から発がん過程を組織学的に観察することによってがんの起始細胞を特定することが出来る 膵では非特異的に Cre リコンビナーゼを発現する Ad-CAG-Cre を総胆管から膵管内に注入した 注入 5 日の Cre リコンビナーゼの発現は主として膵管 (pancreatic duct) 腺房と膵管との間の介在管(intercalated duct) 腺房中心細胞(centroacinar cells) および少数の腺房細胞 (acinar cells) に確認され 2 3 週で膵管上皮の異型過形成 介在管上皮の過形成と介在管の増殖 腺房中心細胞の異型増殖が観察された 5 6 週ではそれぞれから中分化型腺管がんの発生がみられ 腺房細胞には増殖像はなかった (carcinogenesis, 2006) 同様の方法で腺房細胞特異的に Cre リコンビナーゼを発現する Ad-Amylase-Cre によって腺房細胞特異的に K-ras V12 を発現させても腫瘍性病変は発生しないことが分かり 膵腺がんは膵管上皮 介在管細胞および腺房中心細胞に由来することを明らかにした (Cancer Sci, 2009) また血清中の Erc/Mesothelin を測定することによって 早期より膵管がんの血清診断が可能であることも分かった (BBRC, 2009) 以上から ras トランスジェニックラットモデルは 発がん物質の検出 がんの細胞発生の解析等 がんの生物学的特性や治療開発研究への応用は広いと考える 12