09 2018 Aug. Issue Baroque Street Journal 仮想通貨プロジェクトの活動 指標間の相関分析 Baroque Street
本誌刊行にあたって 本誌の位置づけ 2008 年に登場したビットコインは 通貨の信用を非中央集権的にする という 従来から議論の行われていた課題を初めて実現した暗号技術として脚光を浴びた 一方で暗号通貨を実際に売買することのできる取引所では その大部分が暗号通貨本来の性質を反映しない状態で あたかも ETF や FX の取引所のような管理体制で運営が行われている そのため 現在の暗号通貨は インターネットを通じて売買することのできる有価証券 的な性質を持っているといえる 暗号通貨自体はそれ以外にも モノやサービスを購入することのできる通貨や 改ざんが困難なデータベースといった側面を持つが 本誌ではそういった性質については取り上げない また 暗号通貨の取引所が非中央集権的でなければ 暗号通貨の意味がない 暗号通貨を金融商品として認めると相当なリスクがある といった議論も盛んに行われているが 本誌では 一旦暗号通貨の金融商品としての性質のみにフォーカスし 客観的な情報提供を行うことを第一義としており そういった議論に対しての立場を明確にするものではない 暗号通貨の流通促進現在 日本における暗号通貨取引は個 や小規模なファンドが主導しており 政府や 企業は未参入 様子見のスタンスをとっている 相場のボラティリティが非常に大きく プロの投資家よりもむしろギャンブル的な思想の一般人ばかりが市場に流れ込む傾向にあるため 相場は為替や株式のように安定的に推移しないし その新たな相場変動をビジネスチャンスとする詐欺まがいの行為も多い このような状況が改善され 暗号通貨が広範囲に普及し 安定した取引が行われるには 企業や政府の参 が かせない しかしながら そういった大きな組織が暗号通貨市場を判断するに足る客観的かつ定量的な情報は 現時点で圧倒的に不足しており 噂や憶測が情報の中心となっているのもまた事実である このような不確実な情報ではなく 客観的かつ定量的な情報を第三者的な立場から示すことで 暗号通貨の金融商品としての性質を議論するための一つの材料を提供することが今後の暗号通貨市場の安定には不可欠である
目次 1. 要旨 1 2. 調査の背景 1 3. 方法 2 4. 結果 4 5. 考察 7 6. 最後に 9
仮想通貨プロジェクトの活動指標間の相関分析 株式会社 Baroque Street (2018 年 7 月 31 日 ) 1. 要旨仮想通貨プロジェクトの活動指標について これらの関係性を明らかにすることを目的に相関分析を実施した CoinGecko が提供する API を用いて 時価総額上位 200 通貨のデータを収集し 対数変換後 ピアソンの相関係数を算出した 結果として 同じウェブ媒体の活動指標には強い正の相関が示されたが 媒体間の相関は他の指標と同程度の正の相関にとどまった そのため プロジェクトのウェブ上での活動量を示すには 各ウェブ媒体の指標をそれぞれ用いることが望ましいことが示唆された また これら項目を用いて主成分分析を行い 要約された指標によって各仮想通貨の特性を分類できる可能性を示した 2. 調査の背景プロジェクト評価への関心前年の連続した BTC 価格の高騰に伴って過熱していた仮想通貨プロジェクトも現在は一旦落ち着きを見せ 市場も比較的冷静さを取り戻しつつある状況にある しかしながら 現在も日夜新たなプロジェクトが生まれ それぞれが掲げるビジョンやアイディアを世に発信し続けている このようの状況下で 数あるプロジェクトの中から本当に注目すべきプロジェクトはどれなのかという ものさし を求める声は多く プロジェクトの分類や評価に対して関心が高まっている 活動指標の関係性現在 インターネットで確認されるだけでも 仮想通貨プロジェクトのレーティングを行なっているサイトは多く存在する これらのレーティングサイトでは SNS の活動を元にした社会的スコアなどが示されていることも多い プロジェクトを定量的な形で評価する上では このような数値が利用できれば取得も比較的容易なため利便性が高い しかしながら 社会的スコアがどのようにプロジェクトの性質と関連があるのかは不透明な点が多い またこれらの指標を用いて統計解析を行う場合 相関の強いもの同士が混在することで誤った結果を生じる多重共線性の回避のためにも これらの変数間の関係性についての知見は必要である そこで今回の調査では 仮想通貨プロジェクトの活動指標について これらの関係性を相関分析によって明らかにすることを目的とした 1
3. 方法データの取得 CoinGecko(https://www.coingecko.com/) が提供する API を用いて 時価総額上位 200 通貨の属性情報について 2018 年 7 月 31 日時点のデータを収集した 取得できた項目については表 1 に示した いくつかの通貨や項目についてはデータの記載がなかったため 以後の分析に十分なデータセットを揃えるため 表中の 18 項目を共通項目として ジェネシスブロック生成からの日数 の記載があるデータセットと ICO 開始からの日数 ICO 実施期間 ICO 調達額 の記載があるデータセットの 2 パターンのデータセットを用意した ( 以後 それぞれを データ G および データ I と呼ぶ ) 対象とした通貨とデータセットの組み合わせについては表 2 に示したとおりである データ取得時点の時価総額の順に並べているが データが欠損していた通貨については除外している データ G は 130 通貨 データ I については 64 通貨分のデータを使用した 仮想通貨情報の相関分析各指標について通貨によって数値の桁が大きく異なる場合が多く見られたため 指標それぞれに常用対数を取ることでスケールの差を小さくした なお 指標に 0 が含まれることがあったため 指標に 1 を加えた数値の対数として算出を行なった これらデータ G およびデータ I の対数化した指標に対してピアソンの相関分析を実施した 表 1 本調査で使用した仮想通貨の特徴項目名と詳細 market_cap (USD) G I total_volume 24 (USD) facebook_likes Facebook twitter_followers Twitter reddit_average_posts_48h Reddit (48 ) reddit_average_comments_48h Reddit (48 ) reddit_subscribers Reddit reddit_accounts_active_48h Reddit (48 ) github_forks Github github_stars Github github_contributors Github github_total_issues Github github_closed_issues Github github_pull_requests_merged Github github_pull_request_contributors Github github_commit_count_4_weeks Github (4 ) alexa_rank Alexa rank bing_matches Bing match genesis_date ico_start_date ICO ico_period ICO total_raised ICO 2
表 2 本調査で対象とした仮想通貨とデータセットの組み合わせ Bitcoin Ethereum EOS Litecoin Tron Monero NEO Dash Ethereum Classic NEM Binance Coin Tezos VeChain Zcash OmiseGo Huobi Token 0x Qtum Zilliqa Bytecoin Decred BitShares Aeternity ICON Ontology Maker DigiByte Verge Dogecoin Siacoin Augur Basic Attention Token Bytom Bitcoin Diamond Golem RChain Stratis KuCoin Shares Waves Mithril Pundi X Status MaidSafeCoin Waltonchain IOStoken Populous Loopring DigixDAO Wanchain GXChain Ardor aelf Aion Kin SmartCash MOAC MonaCoin Bitcoin Private Dentacoin Nebulas Cryptonex FunFair ODEM EmerCoin Decentraland Monaco Bancor Network Token Kyber Network Reddcoin Ark Metaverse ETP Polymath Network Power Ledger Dropil Paypex ChainLink NXT Elastos TenX CyberMiles Nuls Electroneum Bibox Token Veritaseum Enigma ZCoin QASH WAX KickCoin Centrality Gifto Factom Nexus Storm Substratum Ethos High Performance Blockchain WINCOIN Infinity Economics True USD Game Santiment Network Token BnkToTheFuture Storj Dragonchain Gnosis Matrix AI Network Civic Dai Libra Credit Vertcoin GAY Money SALT Skycoin Particl Iconomi Blocknet Crypterium Ubiq Nucleus Vision Ignis Bluzelle Aragon iexec RLC Time New Bank SmartMesh Bankera Groestlcoin Ravencoin Neblio Dynamic Trading Rights Bottos SingularityNET CRYPTO20 MediShares THEKEY DigitalNote Cindicator Request Network Po.et SONM Raiden Network Token Noah Coin Streamr DATAcoin Engagement Token ProximaX Seele 3
4. 結果取得データ取得したデータのいくつかの指標に関して データ G を図 1 にデータ I を図 2 に示す それぞれのデータは対数化した数値を示しており 数値の上位 5 位の通貨を図中に示している 図 3 暗号通貨 トークンの変化率の推移 図 1 データ G の各仮想通貨の指標 ( 全て対数値を示す ) データ G データ I ともに時価総額と似た傾向を示す指標と 関連性が見られない指標があることが 分かる また データとして 0 の値を示すものも少なからず見られた 4
図 2 データ I の各仮想通貨の指標 ( 全て対数値を示す ) 相関分析項目間の相関分析の結果について データ G における相関係数を図 3 に データ I における相関係数を図 4 に示す 縦軸と横軸には同じ項目が並んでおり それぞれの項目が水平垂直に交わるブロックの色の濃さが項目間の相関の強さを示している 濃い緑であるほど 一方が大きい値である時にもう一方も大きい値となる傾向が強いことを示す 5
図 6 変化率に基づいたクラスタリング分析の結果 図 3 データ G における項目間の相関係数 まず両方の図に共通していることに 時価総額と取引量 Reddit ポスト数とコメント数 Reddit サブ数とアクティブアカウント数 GitHub 関連項目の間で強い正の相関が確認できた また時価総額と Reddit ポスト数の間にも強い正の相関が見られた Reddit 関連項目の中であっても上記以外の相関は比較的弱かった Alexa rank についてはいずれの項目との相関が弱く 独立性の強い指標であることが示唆された また Facebook いいね数についても各指標と比較的弱い相関が示された データ G に関して ジェネシスブロック生成からの日数は コミット数を除く GitHub 関連項目との相関は比較的強く 他の項目との相関は中程度であった データ I に関して ICO 実施期間や調達金額は他の項目との相関が弱く ICO 開始からの日数は他の項目と中程度の相関を示した 6
図 7 相対標準偏差に基づいたクラスタリング分析の結果 図 4 データ I における項目間の相関係数 5. 考察指標間の関連性本調査では Facebook Twitter Reddit GitHub における活動指標を取り扱ったが これら 4 つの媒体間の相関は中程度にとどまった これは媒体それぞれの活動間にそれほど強い関連は無いことを示しており プロジェクトのウェブ上の活動量を定量化するならば 媒体ごとの指標を別々に用いることが適していることを示唆する また今回相関が低かった Facebook いいね数や Alexa rank のような指標には 他の指標にない観点を評点できる可能性がある一方で 全くプロジェクトとは無関係である可能性も高い プロジェクトを定量的に評価するためには 多くの指標を用意することで何を解明しようとするのか 被説明変数を適切に設定することが重要である また本調査で用いたデータには欠損値として 0 の値が散見された より厳密な分析を行うためにはすべての項目について揃ったデータセットを用いることが望ましい 7
主成分分析共分散行列の固有値問題によって主成分分析を実施すると 第一 第二主成分によって各通貨が図 5 6 のようにプロットされた 各々の累積寄与率は 62% 55% であった 主成分に要約された変数の解釈については割愛するが 各成分がおおむね規模の大きい通貨によって引っ張られていることが推察される 主成分分析は 回帰分析の際に問題となる多重共線性も 変数が要約されることで解消される手法であり 多くの変数を含んだビッグデータ解析にも有用な手法である ある特徴 ( 例えばマイニング手法の種類など ) がどのような変数に影響を与えるかを洞察する材料にもなる しかしながら 主成分に要約された変数の解釈が必要であること 大きく外れた値によって左右されやすいことなどに注意しなければいけない 図 5 データ G に対する主成分分析による仮想通貨のマッピング (pc1 寄与率 :49% pc2 寄与率 13%) 8
図 6 データ I に対する主成分分析による仮想通貨のマッピング (pc1 寄与率 :42% pc2 寄与率 12%) 6. 最後にボラティリティーの大きい IPO( 新規株式公開 ) 市場であっても 申請や監査などで 3 年ほどの準備期間を要する資金調達であり 責任の所在も含め ICO は全く別次元の金融取引であると考えるのがよいであろう 仮想通貨は 分散的 であるため 第三者の責任や信用を借りることなく プロジェクトを自由に迅速に世界に広めることができる環境となりつつある しかしながら この 分散的 であるが故に 既存の金融市場では相手にされないような計画性の無いプロジェクトも多いのは事実であり 金儲けのための無法地帯となる危険性をはらんでいるのが現状である 証券市場や為替市場と比べれば 仮想通貨プロジェクト市場は極めて歴史が浅く 未だ手に入るデータも限られているということは留意しなければいけない点である 過去の全てのデータを用いても翌日の動向を推定することすら困難であり 今回の調査もあくまで現時点における状況の分析にとどまるということを強調しておきたい また社会的スコアのような定量的な指標も 表面的な数値のみで判断をするのではなく 内実も意識することが肝要であることは言うまでもない ネット活動に由来する指標は API などによって取得が容易である反面 やり方次第で数値の操作も用意に行うことができる 基本的に信用を担保する第三者を必要としない仮想通貨の世界に対して我々がどのように向き合うべきなのか ネットリテラシーを超えた仮想通貨リテラシーが求められているのである 9
会社概要 商号 株式会社 Baroque Street 設立 平成 29 年 10 月 4 日 所在地 106-0032 東京都港区六本木 7-7-7 Tri-Seven Roppongi 8 階 代表者名 福島健太 HP http://www.baroque-st.co.jp/
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