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資料6 (気象庁提出資料)

別 紙 2

廃棄物再生利用における環境影響評価について

平成 2 9 年度 大気汚染物質の常時監視測定結果について 平成 3 0 年 8 月 3 日埼玉県環境部大気環境課 (1) 測定結果の概要ア大気汚染常時監視体制県 大気汚染防止法の定める政令市 ( さいたま市 川越市 川口市 所沢市 越谷市 ) 及びその他の2 市 ( 草加市 戸田市 ) では 大気

1. 天候の特徴 2013 年の夏は 全国で暑夏となりました 特に 西日本の夏平均気温平年差は +1.2 となり 統計を開始した 1946 年以降で最も高くなりました ( 表 1) 8 月上旬後半 ~ 中旬前半の高温ピーク時には 東 西日本太平洋側を中心に気温が著しく高くなりました ( 図 1) 特

2018 年 12 月の天候 ( 福島県 ) 月の特徴 4 日の最高気温が記録的に高い 下旬後半の会津と中通り北部の大雪 平成 31 年 1 月 8 日福島地方気象台 1 天候経過 概況この期間 会津では低気圧や寒気の影響で曇りや雪または雨の日が多かった 中通りと浜通りでは天気は数日の周期で変わった

NO2/NOx(%)

第 41 巻 21 号 大分県農業気象速報令和元年 7 月下旬 大分県大分地方気象台令和元年 8 月 1 日

Q. 平成 25 年 1 月の中国の大気汚染の際には 日本で濃度上昇がみられたのですか A. 日本国内では 西日本の広い地域で環境基準を超える濃度が一時的に観測されましたが 全国の一般測定局における環境基準の超過率について 平成 25 年 1 月のデータを平成 24 年や平成 23 年の同時期と比較

(c) (d) (e) 図 及び付表地域別の平均気温の変化 ( 将来気候の現在気候との差 ) 棒グラフが現在気候との差 縦棒は年々変動の標準偏差 ( 左 : 現在気候 右 : 将来気候 ) を示す : 年間 : 春 (3~5 月 ) (c): 夏 (6~8 月 ) (d): 秋 (9~1

佐賀県気象月報 平成 29 年 (2017 年 )6 月 佐賀地方気象台

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8.特集「大気汚染の現状と課題」

平成 30 年 2 月の気象概況 2 月は 中旬まで冬型の気圧配置が多く 強い寒気の影響を受け雪や雨の日があった 下旬は短い周期で天気が変化した 県内アメタ スの月降水量は 18.5~88.5 ミリ ( 平年比 29~106%) で 大分 佐賀関 臼杵 竹田 県南部で平年並の他は少ないかかなり少なか

微小粒子状物質(PM2

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3. 調査結果 (1)PM2.5, 黄砂の状況調査期間中の一般環境大気測定局 5 局の PM2.5 濃度 ( 日平均値 ) の平均値を図 1 に示す 平成 26 年度は 9.9~49.9μg/m 3 ( 平均値 28.4μg/m 3 ), 平成 27 年度は 11.6~32.4μg/m 3 ( 平均

大気汚染常時監視測定局 ( 一般局 ) 大気汚染常時監視測定局 ( 自排局 ) 調査地点県北地域県央地域県南地域天草地域 図 1 PM 2.5 注意喚起地域区分 (~ 平成 27 年 2 月 ) 平成 27 年 3 月に熊本市内の大気汚染常時監視測定局の再配置が完了し, 県北地域及び県央地域の一部が

第 41 巻 13 号 大分県農業気象速報令和元年 5 月上旬 大分県大分地方気象台令和元年 5 月 1 3 日

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三重県の気象概況 ( 平成 30 年 9 月 ) 表紙 目次気象概況 1P 旬別気象表 2P 気象経過図 5P 気象分布図 8P 資料の説明 9P 情報の閲覧 検索のご案内 10P 津地方気象台 2018 年本資料は津地方気象台ホームページ利用規約 (

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Wx Files Vol 年4月4日にさいたま市で発生した突風について

風力発電インデックスの算出方法について 1. 風力発電インデックスについて風力発電インデックスは 気象庁 GPV(RSM) 1 局地気象モデル 2 (ANEMOS:LAWEPS-1 次領域モデル ) マスコンモデル 3 により 1km メッシュの地上高 70m における 24 時間の毎時風速を予測し


2019 年 5 月の青森県の天候 ( 速報 ) 特徴 高温〇少雨〇多照 令和元年 6 月 5 日青森地方気象台 1 天候経過全般この期間は高気圧に覆われ晴れる日が多かった 2 日と 8 日は気圧の傾きが大きくなり 暴風となった また 25 日から 27 日にかけて 最高気温が 30 以上の真夏日と

空間相関を考慮した ベイズ統計による PM2.5濃度解析

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2. エルニーニョ / ラニーニャ現象の日本への影響前記 1. で触れたように エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海洋 大気場と密接な関わりを持つ大規模な現象です そのため エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海流や大気の流れを通じたテレコネクション ( キーワード ) を経て日本へも影響

あら

武蔵 狭山台工業団地周辺大気 環境調査結果について 埼玉県環境科学国際センター 化学物質担当 1

また 積雪をより定量的に把握するため 14 日 6 時から 17 日 0 時にかけて 積雪の深さは と質 問し 定規で測っていただきました 全国 6,911 人の回答から アメダスの観測機器のある都市だけで なく 他にも局地的に積雪しているところがあることがわかりました 図 2 太平洋側の広い範囲で

3. 調査結果 3.1 期間を通じた気温の比較連続気象観測値から 今切川橋と土工部の徳島 IC 山沿いの大代古墳 IC( 標高約 20m) における期間を通じた気温の統計結果をまとめると 以下の通りとなった 1 今切川橋の雪氷期の平均気温は 大代古墳 TNより0.7 高く 徳島 ICより0.9 低か

Wx Files Vol 年2月14日~15日の南岸低気圧による大雪

理科学習指導案指導者海田町立海田西中学校教諭柚中朗 1 日時平成 30 年 1 月 24 日 ( 水 ) 2 学年第 2 学年 1 組 ( 男子 14 名女子 18 名計 32 名 ) 3 単元名天気とその変化 ~ 大気の動きと日本の天気 ~ 4 単元について (1) 単元観本単元は, 学習指導要領

3 大気の安定度 (1) 3.1 乾燥大気の安定度 大気中を空気塊が上昇すると 周囲の気圧が低下する このとき 空気塊は 高断熱膨張 (adiabatic expansion) するので 周りの空気に対して仕事をした分だ け熱エネルギーが減少し 空気塊の温度は低下する 逆に 空気塊が下降する 高と断

島 という ) の SPM と SO 2 の 1 時間値データも国立環境研究所と地方環境研究所の共同で行われているⅡ 型共同研究のメンバーサイト 5)6) より入手して使用した これらはすべて速報値である 図 1 に調査対象とした地点の位置関係を示した 各地点の大気汚染の状況は 2012 年度の年平

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年の鹿児島県下の環境大気データとして得られる SO 2 ガスと浮遊粒子状物質の地表濃度について解析し, 桜島火山の火口から大気中に放出されるこれらの広域的な挙動や統計的な経年変化研究について新たな知見を得た さらに坂本 木下 (2014b) では, 桜島火山の火口から大気中に放出される SO 2 ガ

平成10年度 ヒートアイランド現象に関する対策手法検討調査報告書

S1:Chl-a 濃度 8.5μg/L S1:Chl-a 濃度 8.4μg/L B3:Chl-a 濃度 8.0μg/L B3:Chl-a 濃度 7.5μg/L B2:Chl-a 濃度実測値 67.0μg/L 現況 注 ) 調整池は現況の計算対象外である S1:Chl-a 濃度 8.7μg/L S1:

参考資料

S1:Chl-a 濃度 18.6μg/L S1:Chl-a 濃度 15.4μg/L B3:Chl-a 濃度 19.5μg/L B3:Chl-a 濃度 11.0μg/L B2:Chl-a 濃度実測値 33.7μg/L 現況 注 ) 調整池は現況の計算対象外である S1:Chl-a 濃度 16.6μg/

第 2 学年理科学習指導案 日時平成 28 年 月 日 ( ) 第 校時対象第 2 学年 組 コース 名学校名 立 中学校 1 単元名 天気とその変化 ( 使用教科書 : 新しい科学 2 年東京書籍 ) 2 単元の目標 身近な気象の観察 観測を通して 気象要素と天気の変化の関係を見いだすとともに 気

2 気象 地震 10 概 況 平 均 気 温 降 水 量 横浜地方気象台主要気象状況 横浜地方気象台月別降水量 日照時間変化図 平均気温 降水量分布図 横浜地方気象台月別累年順位更新表 横浜地方気象台冬日 夏日 真夏

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気象庁技術報告第134号表紙#.indd

気象庁 札幌管区気象台 資料 -6 Sapporo Regional Headquarters Japan Meteorological Agency 平成 29 年度防災気象情報の改善 5 日先までの 警報級の可能性 について 危険度を色分けした時系列で分かりやすく提供 大雨警報 ( 浸水害 )

【WNI】第二回花粉飛散傾向2018

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電気使用量集計 年 月 kw 平均気温冷暖平均 基準比 基準比半期集計年間集計 , , ,

されており 日本国内の低気圧に伴う降雪を扱った本研究でも整合的な結果が 得られました 3 月 27 日の大雪においても閉塞段階の南岸低気圧とその西側で発達した低気圧が関東の南東海上を通過しており これら二つの低気圧に伴う雲が一体化し 閉塞段階の低気圧の特徴を持つ雲システムが那須に大雪をもたらしていま

花粉が飛散している時期でも 花粉症の症状が重い日と軽い日があるが これは天気の違いによる花粉飛散量が密接に関係している 花粉は 飛散が始まって 7~10 日後ぐらいから量が多くなってくる その後 4 週間程度が花粉の多い時期にあたり この期間内に次のような天気になると 花粉が特に多く飛散する 湿度が

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気候変化レポート2015 -関東甲信・北陸・東海地方- 第1章第4節

2 気象 地震 10 概 況 平 均 気 温 降 水 量 横浜地方気象台主要気象状況 横浜地方気象台月別降水量 日照時間変化図 平均気温 降水量分布図 平成 21 年 (2009 年 ) の月別累年順位更新表 ( 横浜 ) 23

資料 2 3 平成 29 年 1 月 18 日火力部会資料 西条発電所 1 号機リプレース計画 環境影響評価方法書 補足説明資料 平成 29 年 1 月 四国電力株式会社 - 1 -

1 章夏季のイベントにおける暑熱環境 (3) 夏季のイベントにおける暑熱環境 (3) 夏季のイベントにおける暑熱環境 イベント会場の中や周辺では 熱中症が発生するリスクが高い状況が存在します 本項目では どのような状況 で熱中症が発生しやすくなるか 実際に屋内外の複数施設で測定したデータに基づいて考

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福島第1原子力発電所事故に伴う 131 Iと 137 Csの大気放出量に関する試算(II)

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宇都宮と日光 ( 中宮祠 ) の気象表 要素平均気温 ( ) 降水量 (mm) 日照時間 (h) 地点平年差階級平年比階級平年比階級旬実況値平年値実況値平年値実況値平年値 ( ) 区分 (%) 区分 (%) 区分上旬 かなり高い かなり多い 5

タイトルはMS明朝16ポイント”~について”は避ける

別表第 1 大気の汚染に係る環境上の基準 物質基準値対象地域 二酸化硫黄 1 時間値の1 日平均値が0.04pp m 以下であり かつ 1 時間値が0.1ppm 以下であること 一酸化炭素浮遊粒子状物質二酸化窒素光化学オキシダント 1 時間値の1 日平均値が10ppm 以下であり かつ 1 時間値の

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佐賀県の地震活動概況 (2018 年 12 月 ) ( 1 / 10) 平成 31 年 1 月 15 日佐賀地方気象台 12 月の地震活動概況 12 月に佐賀県内で震度 1 以上を観測した地震は1 回でした (11 月はなし ) 福岡県 佐賀県 長崎県 熊本県 図 1 震央分布図 (2018 年 1

9 報道発表資料平成 29 年 12 月 21 日気象庁 2017 年 ( 平成 29 年 ) の日本の天候 ( 速報 ) 2017 年 ( 平成 29 年 ) の日本の天候の特徴 : 梅雨の時期 (6~7 月 ) は 平成 29 年 7 月九州北部豪雨 など記録的な大雨となる所があった梅雨の時期

10 月の気象概況 期間の前半は 高気圧に覆われて晴れの日と 気圧の谷や前線等の影響で曇りや雨の日が短い周期で経過し 後半は 高気圧に覆われて概ね晴れの日が多かった また 上旬に台風第 25 号や前線の影響で大気の状態が非常に不安定となり 4 日 23 時から24 時にかけて発達した積乱雲により 宮

スライド 1

5 月の気象概況 上旬と下旬は 前線を伴った低気圧や気圧の谷等の影響で曇りや雨の日が多く 日降水量が 10mm を超える大雨となった所があった 中旬は 高気圧に覆われて概ね晴れの日が続き 暖かい空気の影響で平年よりも気温が高く推移した また 九州南部 ( 宮崎県を含む ) は26 日ごろ梅雨入り (

接している場所を前線という 前線面では暖かい空気が上昇し雲が発生しやすい 温帯低気圧は 暖気と寒気がぶつかり合う中緯度で発生する低気圧で しばしば前線を伴う 一般に 温帯低気圧は偏西風に乗って西から東へ移動する 温帯低気圧の典型的なライフサイクルは図のようになっている 温帯低気圧は停滞前線上で発生す


種にふくまれているものは何か 2001,6,5(火) 4校時

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2 月の気象概況 期間の中旬は高気圧に覆われて晴れの日が続いたが 上旬と下旬は低気圧や前線 気圧の谷及び湿った空気の影響で天気は短い周期で変わった 上旬は強い寒気の流れ込みで日最低気温の低い方からの観測史上 1 位を更新した所があった また 中旬と下旬は日最小相対湿度や日最大 1 時間降水量 日最大

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(/9) 07 年に発生した地震の概要. 佐賀県の地震活動 07 年に佐賀県で震度 以上を観測した地震は 9 回 (06 年は 85 回 ) でした ( 表 図 3) このうち 震度 3 以上を観測した地震はありませんでした (06 年は 9 回 ) 表 07 年に佐賀県内で震度 以上を観測した地震

64 March 2017 PM 2.5 の観測と シミュレーション 天気予報のように 信頼できる予測を目指して

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ぐに花粉の飛散シーズンに入らなかったのは 暖冬の影響で休眠打破が遅れたことが影響していると考えられます ( スギの雄花は寒さを経験することにより 休眠を終えて花粉飛散の準備に入ると言われています ) その後 暖かい日や風が強い日を中心にスギ花粉が多く飛びましたが 3 月中旬には関東を中心に寒い日が続

梅雨 秋雨の対比とそのモデル再現性 将来変化 西井和晃, 中村尚 ( 東大先端研 ) 1. はじめに Sampe and Xie (2010) は, 梅雨降水帯に沿って存在する, 対流圏中層の水平暖気移流の梅雨に対する重要性を指摘した. すなわち,(i) 初夏に形成されるチベット高現上の高温な空気塊

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富山 巻 太宰府 松江 - 長崎 図 2-1 調査地点配置 (5 地点 ) 表 2-1 黄砂調査地点一覧 地点名長崎 ( 長崎県 ) 太宰府 ( 福岡県 ) 松江 ( 島根県 ) 富山 ( 富山県 ) 巻 ( 新潟県 ) サンフ リンク 長崎県環境保健国設松江富山県環境科学国設新潟巻福岡県保健環境研

平成28年4月 地震・火山月報(防災編)

Transcription:

資 料 2013 年度の鹿児島県における PM2.5 高濃度事例 四元聡美肥後さより東小薗卓志福田哲也満留裕己 1 はじめに 2013 年 1 月, 中国の北京等で発生した広域大気汚染並びに西日本を中心とする微小粒子状物質 ( 以下 PM2.5 という ) の越境汚染が大きく報道された これらを受け,PM2.5について一般的に知られるようになり, 関心が急速に高まった 国のPM2.5 対策として,2009 年 9 月にPM2.5の環境基準が告示され,1 年平均値 15μg/m 3 以下かつ1 日平均値 35μg/m 3 以下と定められた 注意情報を発表するための暫定指針は, 日平均値が 70μg/m 3 を超えると予測される場合で, 当初の判断方法は, いずれかの測定局の午前 5 時から7 時までの1 時間値の平均値の最高値が85μg/m 3 を超過した場合とされたが, 2013 年 11 月に改善された それに併せて本県でも,2014 年 1 月から判断基準を見直し, いずれかの測定局の午前 5 時から7 時までの1 時間値の平均値が85μg/m 3 を超える場合, 又はいずれかの測定局の午前 5 時から12 時までの1 時間値の平均値が80μg/m 3 を超える場合に注意情報を発表することとなった 本県においては, それ以前の2013 年 9 月から, 日中の連続する3 時間の1 時間平均値が70μg/m 3 を超える場合, 比較的高い濃度が継続するとして, より 1) 丁寧な情報の提供を行っている 2013 年度においては, 注意情報の発表はなく, より丁寧な情報提供を4 回行った 今回,2013 年度に環境基準 ( 日平均値 ) を超過し, 最も高濃度となった事例と, より丁寧な情報提供を行った事例について, 長期間高濃度が続く場合と短時間で急上昇する場合の2 種類の高濃度パターン別に分類し, 質量濃度の挙動や, 後方流跡線解析, 天気図等の解析結果から若干の知見が得られたので報告する 2 調査方法 2.1 調査地点本県では2010 年度から自動測定機を設置し,2013 年度 末までに, 県内に10 局,7 市で測定をしている PM2.5 自動測定機が設置してある10 測定局の地点は図 1のとおりである 出水 薩摩川内 羽島 鹿児島市役所 鴨池 谷山支所 南さつま 県設置一般環境大気測定局 県設置自動車排出ガス測定局 鹿児島市設置一般環境大気測定局 鹿児島市設置自動車排出ガス測定局 図 1 霧島 喜入 調査地点 鹿屋 2.2 調査日本調査で解析した調査日は, 高濃度が続いた2013 年 5 月 22 日 ~24 日の間, より丁寧な情報提供を行った2013 年 11 月 17 日,2014 年 2 月 3 日,2 月 28 日,3 月 19 日である 2.3 測定方法 PM2.5の質量濃度については, 大気常時監視測定結果を用い, 解析を行った 後方流跡線については米国海洋大気庁 (National Oceanic and Atmospheric Administration: NOAA) のHYSPLIT Modelを使用し作成した 起点は高 - 77 -

Ann.Rep.Kagoshima Pref.Inst.for E.R.and P.H.Vol.15 (2014) 表 1 PM2.5 高濃度日の日平均値 鹿児島月日鴨池谷山支所喜入鹿屋出水薩摩川内霧島羽島南さつま大気現象等注意情報等市役所の発表状況 5 月 22 日 83.2 84.4 68.3 59.4 72.4 67.3 76.8 もや 煙霧 - 5 月 23 日 80.1 82.8 66.3 64.7 68.0 69.0 66.2 もや 煙霧 - 5 月 24 日 74.1 71.9 57.1 52.4 65.8 61.7 58.2 もや 煙霧 - 11 月 17 日 31.7 34.7 28.4 28.4 37.8 25.3 31.3 35.9 34.8 31.3 もや 煙霧 濃度情報提供 * 2 月 3 日 52.5 52.6 46.1 39.5 56.3 46.6 52.0 46.7 60.7 46.2 もや 煙霧 濃度情報提供 * 2 月 28 日 34.3 36.6 37.1 26.3 27.3 28.1 42.6 31.6 54.1 40.0 煙霧 濃度情報提供 * 3 月 19 日 58.1 58.8 47.9 42.5 47.1 47.9 48.9 50.3 43.3 もや 煙霧 濃度情報提供 * * 日中の連続する 3 時間の 1 時間平均値が 70μg/m 3 を超える場合 度 500m,1500mで72 時間さかのぼって計算した 大気現象等の観測については, 鹿児島地方気象台のデータを用いた PM2.5 濃度全国分布図については, 大気汚染常時監視システム そらまめ君 の公開データ ( 速報値 ) を利用した, 千葉大学環境リモートセンシング研究センター 大気汚染常時監視局データの広域分布図 を用いた 天気図については, 気象庁の日々の天気図を用いた 表 2 高濃度パターン分類表 高濃度パターンⅠ 高濃度パターンⅡ 2013 年 11 月 17 日, 調査日 2013 年 5 月 22 日 ~24 日 2014 年 2 月 3 日,28 日, 3 月 19 日 特徴 長期的に高濃度が継続 短期的な濃度の上昇 高気圧に覆われる 前線が通過した後 3 結果及び考察 3.1 測定結果の概要高濃度日の日平均値を表 1に示す 5 月 22 日 ~24 日の高濃度日は,3 日連続してもや, 煙霧が観測され, 全測定局で環境基準 ( 日平均値 :35μg/m 3 ) を超過し,22 日は4 局で暫定指針値 ( 日平均値 :70μg/m 3 ) を超過していた 特に5 月 22 日の鴨池局では, 日平均値が84.4μg/m 3 と高濃度となった 2 月 3 日,28 日の高濃度日は, 西側に位置し, 地域発生源による影響が少ないとされる羽島局の日平均値が最も高くなり, 大陸に近い測定局で高濃度が観測された また,11 月 17 日の日平均値は35μg/m 3 前後で暫定指針値と比べると低く, 濃度情報提供を行った日の日平均値は, 必ずしも高いとは限らなかった 3.2 高濃度日の気象と輸送パターン調査日を気象条件と高濃度の持続する長さで2つのパターンに分類した その高濃度パターンに分類した調査日と特徴を表 2に示し, 各パターンについて解析を行った 3.2.1 高濃度パターンⅠ 2013 年 5 月 20 日 ~25 日のPM2.5 質量濃度 1 時間値の推移を図 2に示す PM2.5 質量濃度は全局とも21 日の昼間から上昇し24 日まで高濃度が継続した 九州でも多くの地点で上昇がみられ ( 図 3),22 日,23 日は熊本県及び宮崎県でも日平均値 70μg/m 3 を超える局があった 2) 注意喚起の状況は, 当時の判断基準である午前 5 時から7 時までの1 時間値の平均値の最高値が85μg/m 3 を超過しなかったため, 注意喚起は実施されなかった 21 日の羽島局の後方流跡線を図 4に示す 2 本の後方流跡線はどちらも中国大陸から伸びており, 高度 1500m 上空の気団はゴビ砂漠周辺から上海付近を経由し飛来していた 濃度の上昇に越境汚染の影響を受けている可能性が示唆された 当期間の天気図を図 5に示す この期間の気象条件については,21 日の西日本から東北は, 南から高気圧に覆われ晴れて気温が上昇し, 西日本を中心に真夏日となっていた 西日本は24 日まで高気圧に覆われ晴れが続いていた 風が弱く汚染物質が溜まりやすい気象条件があったと考えられる 21 日から大陸東岸から移動性高気圧が張り出しを開始し,24 日にかけて, 次々と東進する移動性高気圧が帯状高気圧として九州地方を覆い続けた この高気圧が大陸からの気魂をもたらし高濃度を引き起こしたと考える このような気圧配置で起こる高濃度は移動性高気圧周回流パターンの輸送とされ 3),2013 年 5 月 22 日 ~24 日は移動性高気圧周回流パターンであったと考えられる - 78 -

図 2 PM2.5 質量濃度の経時変化 (5 月 20 日 ~25 日 ) 図 3 PM2.5 濃度全国分布図図 4 後方流跡線 図 5 天気図 (5 月 21 日 ~24 日 ) 3.2.2 高濃度パターンⅡ 2013 年 11 月 17 日,2014 年 2 月 3 日,28 日,3 月 19 日のPM2.5 質量濃度 1 時間値の推移を図 6-1~6-4に示す 図 6-1~6-3の濃度の上がり始めは, 西側に位置する羽島局から濃度が上昇しており, 濃度ピークは全てのグラフで羽島局が最初であることが分かる 各調査日の 70μg/m 3 以上の継続は6 時間に満たない程度で,11 月 17 日については35μg/m 3 以上の継続が7 時間程度であった 短 時間の濃度上昇であったが, 日中の連続する3 時間の1 時間平均値が70μg/m 3 を超えたため (2013 年 9 月から, より丁寧な情報提供開始 ), 濃度情報提供を行った 各調査日の羽島局の後方流跡線を図 7に示す 各調査日とも大陸の各方面を経由しており, 越境汚染の影響を受けている可能性が示唆された 各調査日の天気図を図 8に示す 鹿児島の気象については,11 月 17 日は, 寒冷前線による雲一時雨,2 月 3 日は - 79 -

Ann.Rep.Kagoshima Pref.Inst.for E.R.and P.H.Vol.15 (2014) 暖かく湿った空気が流入し晴後曇一時雨,2 月 28 日は冬型の気圧配置で一時曇,3 月 19 日は東シナ海の前線の影響を受け夕方以降雨であった 各日とも晴天の日はなかった また, この天気図から, 北海道付近に低気圧がそれぞれ発達していることが分かる 各期間とも日本列島 を前線が通過した気圧配置であった 寒冷前線の後面の比較的幅の狭い物質輸送は, 北太平洋上を比較的長い距離にわたって輸送され, この影響による高濃度は長距離輸送パターンであるとされており 3), 今回の高濃度事例はこの長距離輸送パターンであると考えられた 図 6-1 PM2.5 質量濃度の経時変化 (11 月 17 日 ) 図 6-2 PM2.5 質量濃度の経時変化 (2 月 3 日 ) 図 6-3 PM2.5 質量濃度の経時変化 (2 月 28 日 ) 図 6-4 PM2.5 質量濃度の経時変化 (3 月 19 日 ) 11 月 17 日 2 月 3 日 2 月 28 日 3 月 19 日図 7 後方流跡線 - 80 -

11 月 17 日 2 月 3 日 2 月 28 日 3 月 19 日図 8 天気図 4 まとめ本県において,PM2.5 高濃度事例から, 濃度推移の傾向や高濃度時の特徴について, 以下のことが分かった 1) 長期間高濃度が継続する場合は, 晴天の日が続き, 移動性高気圧に覆われる移動性高気圧周回流パターンであることが分かった 2) 短期間に濃度が急上昇する場合は, 曇り又は一時雨の日で前線が通過する長距離輸送パターンであることが分かった 3) 本県の高濃度事例は, 後方流跡線から大陸からの移流の影響が大きいと考えられた 参考文献 1) 鹿児島県 ; 微小粒子状物質 (PM2.5) に関する注意情報について, http://www.pref.kagoshima.jp/ad05/kurashi-kankyo/kank yo/taikisouon/taikiosen/taikikannkyoujyouhou/pm25_attenti on.html 2) 大気汚染常時監視システム, そらまめくん公開データ ( 速報値 ),http://soramame.taiki.go.jp/ 3) 兼保直樹, 高見昭憲, 他 ; 九州北部における春季の高濃度 PM2.5と長距離輸送, 大気環境学会誌,45,227 ~234(2010) - 81 -