内需を支える人材力投資へ ~ 収縮する経済を抜け出す鍵とは ~ 中期予測班 日本経済は 海外経済が好調に推移してきたことにも支えられ 景気拡大を続けてきたが 足元では変調の兆しもある 中期的には 海外景気に依存して成長していくことはできない 世界経済が冷え込むのは 一部の国で保護主義的な政策が掲げられていることが大きい 短期的にもすでに影響は出ており 経済消耗戦の様相を見せてきた また 中長期的には欧州やアジアの国々で高齢化が進み 成長が鈍化すると想定する 国内に目を向けると 高齢化や情報化が進むにつれ 消費や投資の内容は変化してきている 特に医療や介護をはじめ人的サービスの需要が増えており こうした分野については 人手の確保とともに生産性を引き上げられなければ 需要拡大に十分応えることができない そのためには 情報通信技術 (ICT) やロボティクスを中心とした新技術により 労働集約型の産業体質を変える必要がある 足元では 省力化投資などの国内設備投資も上向いてきているが 企業収益の伸びと比べれば緩やかである また 新技術の導入やそれに伴う人への教育など 人材がもつ力を高める投資が不十分であれば 生産性を引き上げることはできず 人手不足で収縮していく経済状況から脱却することはできない 厳しい海外経済の環境が見込まれる中 国内の需要変化に対応した投資や人材活用 内外の人材をいかに獲得していくかが求められる それが 経済活性化へ向かう鍵となるだろう 4.0 3.0 2.0 1.0 0.0 実質成長率と寄与度 ( 年平均伸び率 % 寄与度% ポイント ) 外需内需実質 GDP 成長率実質 GDP 成長率 ( 改革シナリオ ) 予測 労働力人口と潜在成長率 ( 年平均伸び率 %) 3.0 潜在成長率潜在成長率 ( 改革シナリオ ) 労働力人口 2.0 労働力人口 ( 改革シナリオ ) 予測 1.0 0.0-1.0-1.0 91 96 01 06 11 標準改革標準改革標準改革 -95-00 -05-10 -15 16 21 26-20 -25-30 ( 注 ) 潜在成長率は後方 3 年移動平均 ( 年度 ) ( 資料 ) 日本経済研究センター推計 91-95 96-00 01-05 06-10 11-15 16-20 21-25 26-30 ( 年度 ) - 2 -
標準シナリオ 労働力人口が減少する中 実質成長率はゼロ % 台の半ばに 消費税率を 10% に引き上げても 基礎的財政収支は名目 GDP 比 2% の赤字が続く 成長力 : 潜在成長率は 2020 年代にはゼロ % 台半ばに低下 潜在成長率は 2010 年代後半の 1% 程度から緩やかに低下する 全要素生産性の伸び率については 予測期間中を通して ほぼ現状並みの 0% 台半ばと想定した 生産年齢人口の減少から労働力の潜在成長への寄与は逓減するため 20 年代の潜在成長率の伸びは全要素生産性の伸びとほぼ同程度の 0% 台半ばになる 実質経済成長率は 20 年代の平均で 1% 未満となり 潜在成長率と同程度で推移する 物価 : 消費者物価上昇率は 2020 年代後半には 1% 台で推移する 供給制約が徐々に厳しくなり 需要超過の状況となるため GDP ギャップは 1% 台となる 消費者物価上昇率は 2020 年代後半には 1% 台で推移する 金融緩和的状況が継続する 労働 : 一人当たり雇用者報酬の伸びは 1% 程度 失業率は 2% 台で推移 一人当たり名目雇用者報酬の伸びは 1% 程度で 消費者物価上昇率と同程度となるため 実質で見ると横ばいで推移する 労働力人口の減少もあり 労働分配率は緩やかに低下する 失業率は 2% 台で推移する 財政収支 : 基礎的財政収支でみて名目 GDP 比 2% 半ばの赤字が続く 足元の緩やかな景気回復に伴う税収増加等の影響や 消費税率の引き上げに伴う税収増により 2020 年までに収支は緩やかに改善する しかし 20 年以降については 高齢化等の影響による社会保障費支出の拡大もあり 改善は滞る 結果 国 地方政府合わせた基礎的財政収支は予測期間を通して名目 GDP 比で 2% 台の赤字を見込む 経常収支 : 投資の増勢が見込めず 経常収支黒字が拡大する 貯蓄投資バランスは 現在のアンバランスが拡大する 法人部門では 企業所得が拡大する一方で投資の増勢が緩やかなため 貯蓄超過が続く 家計は 高齢化の進展から貯蓄を取り崩す世帯の割合が増え 貯蓄率が減少する 対海外については 世界経済の成長率が減速していくことから 輸出額の伸びは 2020 年代以降緩やかになるものの 内需の減少に伴い輸入額の増加も緩やかなものとなるため 貿易赤字は拡大しない 30 年には 経常収支の黒字は名目 GDP 比 5% にまで拡大する - 3 -
産業 : 製造業は内需先細りで外需頼みへ 医療 福祉では大幅な雇用増標準シナリオの下での各産業の国内生産の姿を産業連関モデルによって予測した 日本の製造業は国内需要の先細りや厳しい海外経済環境を受け 輸出競争力を持つ 生産用機械 産業用電気機器 その他の輸送機械 1 への依存度が相対的に高まる また 超高齢化の進展で 医療 福祉 2 の従事者に対する需要は拡大を続けるが 人口減少による働き手の減少から労働者の確保が課題になる < 経済環境の前提 > 世界経済 : 国際通貨基金 (IMF) の予測 (2018 年 10 月及び 19 年 1 月改訂 ) のベースケースを参考とする 世界経済は 20 年代前半まで実質年率 3% 台の成長が続く 30 年には 2.6% まで減速する 名目為替レートは緩やかに円高方向に進み 30 年に 100 円 / ドル程度となる 原油価格については 国際エネルギー機関 (International Energy Agency: IEA) の World Energy Outlook や米国エネルギー情報局 (U.S. Energy Information Administration: EIA)Annual Energy Outlook を参考に 116 ドル / バレル程度まで上昇する 環太平洋経済連携協定 (CPTPP) については 20 年前半に 11 ヵ国すべてで発効し 30 年には効果が発現する 人口 : 国立社会保障 人口問題研究所の出生中位 死亡中位推計 (17 年 4 月推計 ) に基づく 日本への移住外国人は 足元の 10 万人超の純流入がしばらく続くと見込まれるが 20 年代には上記推計に織り込まれている外国人入国超過数 ( 年間 7 万人程度 ) となる 労働力人口は 緩やかに減少する 財政 : 消費税率は 19 年 10 月に 10% へ引き上げた後 同水準で据え置く 軽減税率導入も織り込んでいる 法人実効税率は 18 年度以降 29.7% で据え置く 名目公共投資は年平均約 1% 増加する 1 自動車関連以外の輸送機械 ( 船舶 鉄道 航空機 産業用運搬車両など ) とその関連産業 2 産業予測では総務省の産業連関表の部門名に合わせて 産業名に 医療 福祉 を用いる 医療 福祉 には 医療 介護に加えて 年金や健康保険などの 社会保険事業 社会福祉事務所 保育所 児童相談所 老人ホーム 障害者支援施設などの 社会福祉 を含む - 4 -
改革シナリオ 新規技術導入や人的スキル向上により生産性が上昇し 実質成長率は 2% 程度に高まる 企業の成長期待が高まり 設備投資が活発化する 労働生産性の上昇に伴い 賃金が上昇するため 海外からの労働力も増える 成長力 : 人的投資が生産性を押し上げ 2% 成長へサービス業における ICT の効率的な投資や内外から新しく労働に参加してくる人材への教育も充実し 全要素生産性上昇率も 1% にまで高まる 人手不足への対応とともに 成長期待の高まりにより 企業の投資行動も積極化する 実質経済成長率は 2030 年には 2% 程度にまで高まる 労働 : 労働力率は上昇し 海外からの労働参加も増える高齢者と女性の労働力率の上昇が大きい 男性については 60-64 歳の労働力率が現在の 55-59 歳の水準に 65-69 歳の労働力率が現在の 60-64 歳の水準に上昇すると想定 女性は子育て年齢層 ( 特に 30-44 歳 ) の労働力率が高まる 2020 年代後半には外国人の流入が年 25 万人の水準となる 結果 労働力人口は増加に転じる 実質でみた一人当たりの雇用者報酬の伸びは 全要素生産性の伸びを反映しプラスで推移する 物価 : 消費者物価上昇率は 1% 台で推移する 賃金上昇率の高まりを背景に 物価上昇率 ( 消費税率の引き上げ分を除く ) は 1% 台半ばとなる 財政収支 : 消費税率引き上げ等により 2030 年には赤字を解消する需要が拡大する介護や保育 教育に応じるための財源として 2021 年以降 30 年までの 10 年間でさらに 5% の消費税率引き上げを行う 結果 国 地方政府合わせた基礎的財政収支は 30 年までに赤字を解消する 経常収支 : 投資や輸出入が安定的に推移し 名目 GDP 比 4% 程度で推移する企業の国内設備投資の増加により 貯蓄超過は徐々に緩和する 家計貯蓄率は旺盛な消費により 2020 年台後半にマイナスとなる 旺盛な内需を背景に輸入の伸びがわずかに上回り 貿易 サービス収支は赤字となる 経常収支は名目 GDP 比 4% 程度で推移した後 30 年には 3% 台にまで縮小する - 5 -
< 経済環境の前提 > 人口 :2020 年代以降 外国人入国超過数が年間 25 万人程度となる 財政 : 消費税率は 19 年 10 月に 10% へ引き上げ後 21 年度から毎年 0.5% ずつ引き上げ 30 年度に 15% に達する 法人実効税率は 21 年以降 25% となる 予測概要 標準シナリオ 項目 ( 年度 ) 年平均伸び率 * は期間平均 06-10 11-15 16-20 21-25 26-30 実質成長率 0.0 1.0 1.0 0.7 0.6 名目成長率 -1.0 1.3 1.2 1.2 1.4 消費者物価指数 ( 総合 伸び率 ) -0.1 0.7 0.7 1.0 1.3 一人当たり雇用者報酬 ( 伸び率 ) -0.8 0.3 1.0 1.2 1.4 労働力人口 ( 伸び率 ) -0.1 0.0 0.6-0.5-0.4 完全失業率 * 4.4 3.9 2.6 2.3 2.0 国 地方の基礎的財政収支 ( 名目 GDP 比 )* -4.0-4.8-2.6-2.6-2.4 国 地方の債務残高 ( 名目 GDP 比 )* 148.6 182.7 191.9 194.9 197.3 経常収支 ( 名目 GDP 比 )* 3.6 1.6 3.8 4.2 4.8 改革シナリオ 項目 ( 年度 ) 年平均伸び率 * は期間平均 06-10 11-15 16-20 21-25 26-30 実質成長率 0.0 1.0 1.0 1.4 1.8 名目成長率 -1.0 1.3 1.2 2.2 2.8 消費者物価指数 ( 総合 伸び率 ) -0.1 0.7 0.7 1.5 1.9 一人当たり雇用者報酬 ( 伸び率 ) -0.8 0.3 1.0 1.6 2.3 労働力人口 ( 伸び率 ) -0.1 0.0 0.6 0.2 0.3 完全失業率 * 4.4 3.9 2.6 2.2 2.1 国 地方の基礎的財政収支 ( 名目 GDP 比 )* -4.0-4.8-2.6-2.2-0.7 国 地方の債務残高 ( 名目 GDP 比 )* 148.6 182.7 191.9 189.5 176.4 経常収支 ( 名目 GDP 比 )* 3.6 1.6 3.8 4.1 3.7 ( 注 ) 1. 単位 % 2. 一人当たり雇用者報酬を算出する際の雇用者数は労働力調査ベース - 6 -