資料 1-6 ITS に関するタスクフォース 報告書 平成 23 年 3 月
目次 Ⅰ. はじめに 1 Ⅱ. 交通渋滞 環境問題とITS 2 1. 交通渋滞と環境問題の概況 2 2. 交通渋滞のメカニズムと交通渋滞対策の現況 2 3. 交通渋滞対策 環境問題においてITSが果たすべき役割 3 Ⅲ. 交通安全とITS 5 1. 交通事故の概況 5 2. 交通安全対策の現況 5 3. 交通安全対策においてITSが果たすべき役割 6 Ⅳ. ロードマップの策定に向けた提言 7 1. グランドデザインの共有とITSの役割の明確化 7 (1) グランドデザインの共有 7 (2)ITSの役割の明確化 8 2. グリーンITSに関する提言 8 (1) グリーンITSに関するグランドデザイン 8 (2) 実証実験の実施 9 (3) 実証実験を踏まえた次のステップ 10 (4) 海外展開 10 (5) ヒューマンファクターの考慮 10 3. 安全運転 安全行動支援システムに関する提言 11 (1) 安全運転 安全行動システムに関するグランドデザイン 11 (2) 安全運転 安全行動支援システムの普及 発展の推進 12 (3) 実証実験の実施 12 (4) 実証実験を踏まえた次のステップ 13 (5) 国際標準化への対応と海外展開 13 (6) ヒューマンファクターの考慮 14 4. 推進体制の整備に関する提言 14
Ⅰ. はじめに モータリゼーションは ライフスタイルや社会構造を大きく変え 現代の便利で豊かな生活に貢献している また 自動車 交通関連産業は日本経済を支える基幹産業へと成長した 一方 交通事故 交通渋滞 化石エネルギーの大量消費 温室効果ガスの排出等の環境問題 公共交通機関の衰退等の負の側面も顕在化している 国内では CO2 排出量の抑制 高齢化の本格的な進展等の諸課題に対応した総合的な交通対策への取り組みが求められている 海外では 新興諸国におけるモータリゼーションが急速に進展しており 交通事故 交通渋滞 交通による環境問題は 先進国のみならず地球的な課題となりつつある 安全 便利で持続可能な交通社会の実現に向けて 我が国が有する技術と経験を活かして積極的に貢献するとともに 新たな需要創出と経済成長の契機とすることが重要である 情報通信技術は近年急速に進歩し 新たな情報通信機器やサービスが登場 普及しており 自動車の駆動 制御技術等のエレクトロニクス化も進んでいる 安全 便利で環境に優しい交通社会を実現していく上で ITS(Intelligent Tran sport Systems: 情報通信技術を活用し 人と道路と車両を一体のシステムとして構築することで 渋滞 交通事故 環境問題等の道路交通問題の解決を図るもの ) が大きな役割を果たすことが期待される 我が国においては 欧米 アジア等の海外諸国と連携しながら ITSの標準化や官民連携について取り組みが行われ 道路交通情報を提供するVICS(Vehicle Information and Communication System) やE TC(Electronic Toll Collection System) 等の実用化 全国展開が進められた 昨年策定された新成長戦略及び新たな情報通信技術戦略においては 2020 年までに実現すべき政策目標として ITS 等による全国の主要道における交通渋滞の大幅減と交通事故減が掲げられ 2010 年度中にグリーンI TS 及び安全運転支援システムに関するロードマップを策定することとされた 本タスクフォースは 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT 戦略本部 ) 企画委員会からの指示を受けて グリーンITS 及び安全運転支援システムについて 有識者や関係者からのヒアリングを実施し 幅広い観点から意見の交換を行った 本報告書は タスクフォースにおける検討の成果を取りまとめたものである - 1 -
企画委員会においては 本報告書を踏まえてグリーンITS 安全運転支援システムに関するロードマップを策定し 速やかに実行に移されることを期待する Ⅱ. 交通渋滞 環境問題と ITS 1. 交通渋滞と環境問題の概況 CO2 排出量全体のおよそ20% が運輸部門から排出されており 運輸部門の中で自動車からの排出がおよそ90% である 全地球的課題である温暖化に対して 自動車からの排出量の削減が大きな対策の一つである 自動車利用におけるCO2 排出量の削減には 自動車単体対策 交通流の円滑化 自動車の使い方の改善が重要である 交通流の円滑化には インフラ整備 交通管制の高度化 経路案内などの具体策が考えられるが そのすべてにおいてITSの活用が有効である また エコドライブにもドライバーの行動変化を促す手段として効果が期待される 注 ) 京都議定書目標達成計画では ITSを活用したCO2の削減が目標として掲げられている また 国土技術政策総合研究所による調査によれば 自動車の平均走行速度が時速 2 0km から時速 60km に上がった場合 CO2が4 割程度削減される 交通渋滞による時間的 経済的損失も非常に大きく また 交通渋滞は交通事故発生の一因にもなっている したがって 環境問題のみならず 経済効率面 交通安全の観点からも交通渋滞対策は重要である 2. 交通渋滞のメカニズムと交通渋滞対策の現況 交通渋滞とは 交通容量上のボトルネック( 問題箇所 ) に その地点の交通容量を超える交通需要が流入しようとするときに ボトルネックを先頭にして車両列 ( 渋滞車列 ) が生じるものである 大きな渋滞であっても 交通容量に対して10% 程度の需要超過によって引き起こされている 逆に言えば 同程度の需要調整や交通容量の改善によって交通渋滞を大幅に削減できるため インフラ整備のみならず ITSを活用した交通管制等も渋滞緩和に大きく貢献できる - 2 -
交通渋滞の緩和のためには ボトルネックにおける過度な交通流入を解消するための取り組みが必要であり 道路管理者や警察を中心として既に様々な渋滞対策が行われている 1 ボトルネック地点の通過台数の抑制に向けたアプローチ環状道路の整備 交通総量の抑制 ( 公共交通機関利用の促進等 ) 交通需要の分散化 ( 経路案内による空間分散 出発時刻変更による時間分散 ) 等 2 ボトルネック地点の通過効率の向上に向けたアプローチ車両の走行方法の改善 ( サグ部やトンネル入口付近の速度低下の防止 ) 等 3 ボトルネック自体を太くして解消するアプローチ道路の整備 ( 拡幅 交差点改良 駐車場整備等 ) 交通管制の高度化等 行政においては パトロールやカメラによる道路交通状況の把握とともに 路側に設置した車両感知器等により通過交通量等の情報を収集し 道路管理 交通管制 道路の整備等のために活用している また 民間企業においては ユーザーの車両に搭載した車載機を通じてプローブ情報 ( 走行している自動車から収集される速度や位置などの情報 ) を収集し 行政が提供する交通情報と合わせて最適経路案内等のサービスを行っている 3. 交通渋滞対策 環境問題において ITS が果たすべき役割 ITSの活用により必要な交通情報を収集 分析 加工 配信することで 交通流の可視化によるボトルネックの把握 交通制御の高度化 ( 信号制御 ランプ流入制御 柔軟な交通規制 乗り継ぎ制の導入等 ) や交通需要調整 ( 公共交通機関のサービスレベル改善 物流の高度化 時間 空間上の需要調整等 ) 渋滞対策に資する情報提供等の適切な対策の実施 道路交通施策の適正な評価 検証 ( データベースの整備 シミュレーション技術等 ) という 交通渋滞対策の一連のサイクルを確立することが可能になる これら全てに共通して 多様なセンシング情報の収集 融合処理をもって対応することが極めて重要な要素となる 行政が保有する感知器等による道路交通情報と民間が保有するプローブ情報を共有化することで 交通流の可視化 と リアルタイムの交通情報の把握 が実現すれば 効果的な渋滞対策を行える可能性がある 韓国 中国 オランダにおいても官民情報の集約化と活用に取り組んでいる - 3 -
< 活用例 > 高速道路サグ部やトンネル付近の渋滞対策 1) 渋滞の予兆を検知し 情報提供 (ITSスポットなど) することにより 速度や車線利用の変更を促して渋滞を未然に防ぐ 2) 渋滞の先頭に達した車両に速度回復の情報提供を行い 渋滞解消を早める 交通信号制御の高度化 1) 光ビーコンを利用したプローブ情報を活用し リアルタイムで交通状況に合わせた信号制御を行う ( ローカル プローブ ) 2) 交通情報基盤に集約したプローブ情報を統計的 ( 准リアルタイム ) に活用し 大局的交通管制判断に活用する ( グローバル プローブ ) 統計的交通情報の交通施策評価と都市計画への活用インフラ建設 ( 道路 鉄道 ) や道路交通施策 ( 通行規制 道路料金など ) の効果予測および事後評価に活用する 運輸部門における二酸化炭素排出量の計測 1) 固定感知器データ プローブデータを交通流モデル 排出量モデルに入力し 街区ごとの自動車からの二酸化炭素排出量を計測する 2) 排出量の定量評価手法と排出権取引などの二酸化炭素排出量の金銭価値化の仕組みと組み合わせ エコカー普及 交通流円滑化 交通行動変革を促進するメカニズムを構築する さらに 渋滞対策に加えて 災害時などの交通確保のため プローブ情報を活用して 障害発生箇所 周辺道路への影響をリアルタイムに把握し 障害を回避する走行経路の案内等を実現できる可能性がある 平成 23 年 3 月に発生した東北地方太平洋沖地震では道路網も大きな被害を受けたが 被災地における円滑な物流の確保のため 民間のプローブ情報を集約化して車の通行実績がある道路の地図を作成し インターネットを通じて一般に公開する取組が行われている 一方 道路交通情報の収集 作成には費用を要する上に 渋滞対策の目的によって必要となる情報の内容 精度 範囲 量等は異なる そこで 目的とそれに必要となる交通情報の内容 範囲 量等を検討し 実現可能性を踏まえて明確化を行った上で 道路交通情報の収集 分析による効果を検証する必要がある さらに 情報の提供の仕方についても その対象や地域の特性に応じた工夫が必要である 道路交通情報の内容 範囲 量等の例 1 情報の内容 精度リアルタイム情報か過去からの蓄積データか 特定地点の交通量の情報か二地点 - 4 -
間の旅行時間か出発地点から目的地までの経路情報か等 2 情報の範囲特定地域の情報か広域的な情報か 特定日時の情報か一定期間の情報か等 3 情報の量個別管理の少数ソースの情報か複数管理の多量ソース集計情報か等 Ⅲ. 交通安全と ITS 1. 交通事故の概況 行政による様々な交通安全対策 自動車の安全装備の充実等により 2009 年に交通事故死者数は57 年ぶりに5,000 人を下回った 2010 年においては交通事故死者数 4,863 人 負傷者数約 89 万人 発生件数約 72 万件と それぞれ前年を下回っているものの 減少率は鈍化している 自動車乗車中の死亡者が減少する一方 歩行中 自転車乗車中の死者の減少は鈍化し 65 歳以上の高齢者死亡者数が全体の約半数を占める また 生活道路は幹線道路に比べて死傷事故率が高く 歩行者 自転車を巻き込んだ事故が多い 2. 交通安全対策の現況 行政を中心に 車両安全基準の拡充 強化 道路交通環境の整備( 道路の拡幅や歩道の整備 交差点改良 防護柵や信号機の設置等 ) 交通規制の強化( シートベルト着用やチャイルドシートの義務化 飲酒運転の厳罰化 違法駐車規制等 ) 交通管制の高度化 地域住民の交通安全に関する理解 協力の促進 運転者 歩行者に対する交通安全教育の推進 救急救助システムの整備等の様々な交通安全対策が講じられ 一定の成果を上げてきた ITSに関しても 様々な取り組みが行われている 見通しの悪い交差点での車両同士の衝突事故や 見通しの悪いカーブでの追突事故等の防止を目的とした路車協調型システムや車車間通信型システムに関する大規模実証実験が2008 年度に行われ その評価を踏まえて ITSスポットとDSSS(Driving Safety Sup port Systems) の実用化が始まっている 車両単独の安全対策としては 車両の対衝突性能の向上 エアバック ABS(An - 5 -
tilock Brake System) ブレーキアシスト等の安全装置の装備等を進めてきた また レーダーやカメラによる前方 死角の障害物の検知 車間距離自動制御 車線逸脱警告システム等の運転支援システムも導入されている 現在 第 9 次交通安全基本計画の策定が進められており 基本計画の方向性に沿って 事故実態に対応した総合的な交通安全対策を強化していく必要がある 特に最近の交通事故の特徴である生活道路における高齢者 歩行者 自転車を巻き込んだ死亡事故の割合が増えている状況に鑑み 生活道路においてもITSを活用した交通事故対策への取組が期待されている 3. 交通安全対策において ITS が果たすべき役割 ITSに期待される役割としてタスクフォースでは IT 技術を活用した交通事故発生状況の電子データ化と共有による分析 対策立案 効果評価に基づく対策の改善の仕組みの構築 車両の自律型運転支援機能による注意喚起および衝突被害軽減 路車 車車協調による衝突事故防止 生活道路での事故対策のための交通分析に基づく 生活道路 通学路 の合理的ゾーニングと面的速度規制などの施策検討 路車協調による生活道路における速度制限や自転車 歩行者検知 自転車 歩行者への情報提供 安全運転支援機能の利用を通じた認知 判断能力向上が必要であるとの結論を得た 事故実態の把握 分析に基づいた総合的対策の立案 有効なITSの技術選択の手順を踏んだ上で体系的に取り組むことが必要であり その際には ドライバーの過信 過度の依存に対する検討等が必要である 交通事故の衝突過程の観測 分析を行うデータベースの構築や事故車両の車載機 安全機器の搭載 非搭載のデータの収集など 交通事故 ヒヤリハットに関する情報を収集 分析し 対策の効果評価を行うことにより 適切な交通安全対策を講じることが可能になる 情報通信技術の活用によって 車両や歩行者 自転車の存在の検知 運転者に対する危険情報の提供 自動車制御との連動等を通じて 運転者 歩行者 自転車の安全行動 ( 危険の認知 判断 操作 ) を補完 支援するばかりでなく 本来あるべき安全行動を学習していくことが可能になる 人間の認知能力を補うためには 車両同士で直接通信を行う車車間通信型システムや 車と歩行者の直接通信又はセンター間通信によって歩行者の存在を運転者に 車の存在 - 6 -
を歩行者に知らせる 歩車間通信型システムが有効である 特に 見通しの良くないカーブ 交差点や歩行者 自転車を巻き込んだ事故等 相手の検知が困難な状況においては車両単独での対処は困難であり 車両単独で危険の検知を行う自律型安全運転支援システム 車車間通信型システムや歩車間通信型システムに加えて路側に設置されたインフラと車両の間で通信を行う路車協調型システムによる対策が有効である Ⅳ. ロードマップの策定に向けた提言 1. グランドデザインの共有と ITS の役割の明確化 (1) グランドデザインの共有 前述の通り 自動車交通の発展に伴い 交通事故や渋滞の増加 環境問題等の負の側面が顕在化している中で 従来からの様々な取り組みによって 交通事故死者数の減少等の大きな効果が出ているものの 全地球的な課題である温暖化対策に資する自動車から排出されるCO2の大幅な削減や 自動車単体では対処が難しい交通事故 生活道路における歩行者 ( 特に高齢者 ) 自転車を巻き込んだ事故への対応が急務となっており ITSの活用が期待されている そのため 渋滞や事故の実態をデータに基づき科学的に解析し インフラ 車両 I TS 人 制度についての多面的で効果的かつ効率的な総合対策をグランドデザインとして 関係者が共有し 連携して取り組むことが重要である ただし 過度な情報提供等は余計な混乱を招く場合があるほか システムへの過信 依存を深めた場合には運転者等の注意を散漫にさせ 能力を低下させるおそれもある点には留意が必要である 交通安全対策は 道路整備 交通安全施設整備 車両自体の安全対策 ドライバー 歩行者に対する交通安全教育 交通規制 制度 ITS 等を総合的 連携的に取り組む必要がある なお 交通渋滞 環境問題に係るグリーンITSは道路交通情報の収集 分析 提供が中心である一方 安全運転支援は車両の制御に深く関係しており 求められる技術 - 7 -
システムの性格が異なるため 両者は区別して取り組みが行われてきた しかし 交通渋滞は事故の主な発生原因の一つであり また 事故によって深刻な交通渋滞が引き起こされるなど 交通渋滞 環境問題と交通安全とは密接に関係している また 協調型システムについては事故対策のみならず 環境対策 モビリティ向上への活用も期待されている このため グリーンITSと安全運転 安全行動支援の取り組みについて 相互に連携しながら進めることが必要である ITSに関する技術は加速度的に進化しており 社会状況も刻々と変化していることから 技術革新や社会 国民のニーズに対応した不断の情報の収集 共有化 グランドデザインのアップデートが不可欠である 長期的には EV 等の環境対応自動車の増加 スマートハウス / コミュニティの進展や高齢化に伴う事故形態の変化等に対応して 将来の社会システムにおけるITSの活用に関するグランドデザインを検討していく必要がある (2) ITS の役割の明確化 交通渋滞 環境問題 交通安全については 道路整備 交差点改良 通行方法の見直し ( 一方通行の組み合わせなど ) 交通信号制御の高度化 渋滞を避ける経路案内 物流の効率化等を含め 官民において様々な取組が行われ 一定の成果を上げてきている これらの総合的な交通関連施策との効果的で効率的な連携等 個別の具体的な課題の解決に向けた多面的方策の効果が最大限発揮されるように ITSの開発 活用に取り組むことが重要である ITSは 安全 便利で環境にやさしい交通社会を実現するための総合的な交通安全対策の一つであり 今後本格化する高齢化の進展等も見据えて 人間 を中心としたきめ細かな検討が必要である ITSがその機能を効果的に発揮するには 運転者や歩行者の行動 心理特性や安全行動を誘導する教育的役割などのヒューマンファクターを重視した取り組みが必要である 2. グリーン ITS に関する提言 (1) グリーン ITS に関するグランドデザイン 渋滞 ( 交通容量上のボトルネックにおける交通量の超過状態 ) を解消するために 道 - 8 -
路管理者や警察を中心として その地点や状況に応じて交通需要の分散化 車両の走行方法の改善 道路の整備 交通管制の高度化等の対策が図られてきた 新たにITSを活用して様々な道路交通情報( 感知器情報 プローブ情報等 ) を収集 活用することで 交通流の可視化 と リアルタイムの交通情報の把握 が可能となり 前述の道路交通情報の活用例にあるように 渋滞対策 環境問題のみならず 広く交通に係る諸課題により適切に対応できる可能性がある このため 経済性等も考慮しつつ 具体的な目的 テーマを設定し ITSによる交通情報の収集 作成 活用の効果を検証し 実現に向けて取り組むことが必要である 具体的な目的 テーマとしては 例えば 前述の高速道路サグ部やトンネル付近の渋滞対策 交通信号制御の高度化 統計的な道路交通情報の道路交通施策評価と都市計画への活用 運輸部門における二酸化炭素排出量の計測 災害時 交通障害発生時の実態把握等が考えられる 前述した東北地方太平洋沖地震に対応した民間プローブ情報の集約 活用の試みは 先行的事例として大きな意義を有するものであり 今後 その効果と改善すべき課題を検証した上で 今後の検討につなげていくことが重要である こうした一連の取組の明確化をグランドデザインとし 関係者が共有 連携して取り組むことが重要であり どのような道路交通情報がどの位必要なのか 必要な道路交通情報の収集のために感知器等のインフラはどの位必要なのか といった点について 技術的検証を通じて共通認識を形成し 官民が協力して情報の収集 分析 共有化に取り組むべきである (2) 実証実験の実施 民間の最適経路案内サービスの高度化を目的として2010 年度より行われている民間プローブ情報の集約の効果検証により 公共分野における有効活用を検討し 行政が それぞれの利用目的に応じて必要とされるプローブ情報の精度 内容を明らかにし そこで抽出した公共分野における有効活用を検証するための実証実験を行う 実証実験は 後述する官民連携の推進組織の下で 以下の手順で進めることが適当である 1 公共分野におけるITSを活用した渋滞対策の洗い出し ( 何を 何処で 何時 誰が ) と 必要な情報の項目 精度 量 範囲等の整理 2 経済性等も踏まえた実験テーマの明確化 3 効果予測及び検証方法の設定 - 9 -
なお PND 携帯電話 スマートフォンなど 位置情報 交通情報を収集 配信するためのデバイスは多様化していることから 実証実験においては海外を含めて幅広い分野の関係者と連携することが望ましい (3) 実証実験を踏まえた次のステップ (2) の実証実験における技術的な検討を通じて民間プローブ情報の共有 官民データの融合によりもたらされる社会的な便益について検証した上で 公共性や事業性を踏まえて 次のことを検討する 1 行政が感知器等により収集する交通情報とは特性が異なる民間プローブ情報について 民間からの情報の提供を促す仕組み 2 行政が保有する交通情報の活用に向けた 具体的なニーズに応じて特定地点の交通量等の情報を蓄積 公開するための仕組み 3 目的に応じた適切な道路交通情報を収集 作成するための 受益に応じた費用の分担の仕組みや官民の情報の連携 共有の方法 (4) 海外展開 道路交通情報の収集 分析 活用を進める上で 既に官民の情報の集約化と活用に取り組んでいる諸外国の状況について情報を収集し 参考にすることが必要である 将来の国際標準化や海外展開に備えて 技術的検証の段階から海外の政府 団体 企業等との積極的な連携と情報交換を行い 日本の取組に対して理解を得られるようにすることが重要である このためには 国内のプロジェクトへの海外組織の参加を促すことも考慮すべきである また 交通情報の活用については国ごとに状況が異なることから 海外展開に当たっては現地の情報を十分に把握するとともに 道路交通情報の収集システムの適切な組合せと官民の関係者の連携によるアプローチ手法を検討すべきである さらに 我が国において 開発 展開されたシステムについて 国際標準化の場に提案 発信していくことが重要である (5) ヒューマンファクターの考慮 - 10 -
渋滞と運転者の心理は相互に影響し合う 渋滞情報を得た多くの運転者が渋滞箇所を避けて別経路に集中することにより 短時間に渋滞箇所の変動が発生することもある また サグ渋滞における運転行動やエコドライブ支援においても運転者の心理によって現れる反応 効果は異なってくる したがって 渋滞に関する情報提供は 運転者の心理を考慮した方法が必要である 渋滞 環境問題の対策として公共交通機関へのモーダルシフトも重要なアプローチの一つであるが そのための行動変容を促進するには 従来のように構造的方略 ( 料金設定や制度改正等 ) のみならず 心理的方略 ( 啓発や教育等 ) も活用すべきである 3. 安全運転 安全行動支援システムに関する提言 (1) 安全運転 安全行動支援システムに関するグランドデザイン 1970 年頃の交通事故死者数のピーク以来 インフラ対策 教育 車両対策 取り締まりなどの対策が一定の効果を挙げている また 最近では車両構造の進化に加えて自律型安全運転支援システムの実用化 普及や ドライバーや車両センサーから認知が難しい危険に対して路車協調型システムの開発 実用化が始まっており 車車間通信型システムの実用化準備も図られている しかしながら 社会環境変化に伴い顕在化してきた生活道路の交通安全課題への対策として事故実態の把握 (IT 端末などを活用した情報の記録と共有 ) 生活道路と幹線道路のゾーン区分の明確化と生活道路からの通過交通排除 危険の感知と通知の仕組み 技術 高齢者 児童特有の対策の明確化をグランドデザインとし 関係者が共有 連携して取り組むことが重要である 生活道路は 見通しが利きにくい 歩車( 自転車を含む ) が分離されていない 信号機や感知器等の路側インフラが少ない等の特徴があり 幹線道路に比べて死傷者事故率が高く 歩行者 自転車を巻き込んだ事故も多い このため 生活道路における事故実態等に関する情報の収集 分析を行い 事故実態等を踏まえてITSによる安全運転 安全行動の支援の在り方を関係者が検討する必要がある 安全運転 安全行動支援システムは 車両 人の存在や信号情報等の検知 自車の速度 車両状態との照合等による危険の判断 運転者に対する注意喚起 車両制御との連動による危険回避等のサブシステムから構成されている これらのサブシステムを支える技術の開発 標準化動向等を見極めながら サブシステム同士の機能分担や連携方策 - 11 -
等の全体像を検討し 安全運転 安全行動支援システムの普及 発展に取り組むことが必要である (2) 安全運転 安全行動支援システムの普及 発展の推進 自律型安全運転支援システムは既に実用化されているが 普及は上位車種が中心となっているものが多いため 適切な活用を促すための啓発 教育を行いながら 一層の普及を図る必要がある 実用化されているITSスポット DSSS 等の路車協調型システムについては サービス内容 ( アプリケーション ) の充実のほか 利用可能箇所の拡大が普及の鍵である このため 所管省庁において路側インフラの着実な整備を進める必要がある また 官民の関係者が協力して対応車載機の普及に取り組む必要がある 欧米諸国や標準化機関における検討の状況も参考にしつつ 安全だけではなく 可能な限り環境 利便にも資するシステム ( 例えば 路車間通信により青信号のタイミングで交差点を通過できるよう走行支援を行うGreen Waveや 渋滞状況をリアルタイムに把握し路車間通信により車両を適切に誘導するサグ部渋滞緩和システム ) の開発に取り組むことが必要である 欧米諸国では近い将来の規格の策定も視野に入れて路車 車車協調型システムの開発 実証の取り組みが行われている このような動向に鑑み 我が国ではこれまで普及展開してきた路車協調型システムを効果的に活用しつつ 2011 年度には ASVによる車車間通信型システムの技術的指針が策定されることを踏まえ 路車 車車協調型システムについての開発 実証に着手する必要がある また 見通しが利きにくく路側インフラの設置も困難な生活道路や 交差点等における歩行者 自転車を巻き込んだ事故等 既存のシステム単体では対応しきれなかった範囲をカバーするためにも 交通事故の発生状況を踏まえ 歩車間通信型システムの開発 実証を一層推進する必要がある (3) 実証実験の実施 路車 車車協調型システム 歩車間通信型システムの開発 実証のために 既存のシステムを含めた様々なシステムによる適切かつ効果的な分担に係る検証を含めて グリーンITS 同様 後述する官民連携の推進組織の下で 以下の手順で進めることが適当 - 12 -
である 1 これまでの取り組みではカバーできていない事故への対策の整理 2 必要な体制と役割分担の明確化 ( 何を 何処で 何時 誰が ) 3 効果予測及び検証方法の設定 2011 年度に官民の関係者からなる推進組織を整備し 2012 年度に官民で大規模実証実験を実施して 効果を検証するとともに実用化に向けた課題の解決を図る 2 013 年に実用化を見極めるための最終検証を行い 東京で開催される第 20 回 ITS 世界会議においてデモを実施し成果を発信する (4) 実証実験を踏まえた次のステップ 実証実験の成果を踏まえて 2014 年度以降 パイロット運用を行いながら 路車 車車協調型システム 歩車間通信型システムについて既存システムとの連携を含めて実用化に向けた検討を進め 全国展開を図る必要がある なお 将来にわたって 既存システムと新たな技術との連携 移行 統合化を検討するとともに 車載機の統合化とその普及 メディアの効率的な利用等の課題に取り組むことが必要である (5) 国際標準化への対応と海外展開 国際標準化に関し 日本がリーダーシップを発揮することによって 公共調達において国内仕様が国際的に認知されるほか 長期的に見て国際競争力の向上に資することが期待される そのため ISO/TC204やITU-R UN/ECE/WP29 等の協調型システムに関する活動を視野におき 国際標準化への国としての戦略的取り組みと費用面での支援を行うことが必要である 路車 車車協調型システム等の将来の国際標準化や海外展開に備えて 技術的検証の段階から海外の政府 団体 企業等との積極的な連携と情報交換を行い 日本の取り組みに対して理解を得られるようにすることが重要である このためには 国内のプロジェクトへの海外組織の参加を促すことも考慮すべきである ITS 世界会議やITSアジアパシフィック会議等において これらの活動成果を日本のナショナルプロジェクトの成果として外部に発信すべきである とりわけ 201 3 年に東京で開催されるITS 世界会議には注力すべきである また 安全運転 安全行動支援システムの海外展開に向けて 海外政府 団体 企業 - 13 -
等との連携 交流を強化するとともに 各国における交通事故の状況や 路側インフラ 車載機 メディア等の整備 利用の状況について情報収集することが必要である (6) ヒューマンファクターの考慮 ITSによる情報提供や運転支援は 運転者の注意力 判断力の低下やシステムへの過信を招かないよう的確に行われる必要がある その際 ドライバー主権の理念との兼ね合いについて慎重に検討する必要がある 運転支援には 運転の危険性を感知して危険回避の支援をする役割だけでなく 運転者の自発的安全運転を誘導する教育的役割も求められる 教育的役割は 運転者の運転支援への依存を防ぐためにも必要である 歩行者の支援システムは 最も支援を必要とする高齢者の心理 行動特性を考慮し 高齢化社会の理念に基づいた開発 導入が必要である 安全運転 安全行動支援システムの開発 導入に当たっては ヒューマンインターフェイス 運転心理や行動心理関係の専門家による検証が求められる また 運転者や歩行者の新しいシステムに対する適切な理解と利用を促すための啓発 交通安全教育等について 啓発 教育の場や機会の提供も含め 官民が協力して取り組むことが必要である 4. 推進体制の整備に関する提言 ITSは多様かつ広範な情報 技術の組合せにより成立する さらに ITSを適切に活用するためには ヒューマンファクターへの配慮や運転者 歩行者に対する啓発 教育も欠かせない ITS 以外のインフラ整備 車両の進化 制度面の整備等の多面的な対策と併せて ITSの役割 将来像や様々な課題への対処方針等について 幅広い関係者による多角的な議論を通じた連携 協力が求められる 幅広い視点からの多角的な議論を行うためには 特に携帯電話やインターネットなどの情報通信分野の関係者との協業体制を構築すべきである ITSのサービス定義 データベース構成 車両識別 通信方式 公共交通管理 マン マシン インターフェイス 走行制御等に関して 標準化機関や欧米諸国等における検討状況について情報を収集 共有化し 関係者が連携していくことが必要である - 14 -
システムの構築 運用を効果的に行うためにも 車両 車載機の開発 製造 路側インフラの整備や感知器による情報収集等については 官民の密接な意思疎通と協力が不可欠である 特に 戦略的に取り組むべき重要プロジェクトについては その着実な推進を担保するため 目標 期限 推進体制 役割分担等をあらかじめ明確にするとともに プロジェクトの成果の評価 検証を行うことが重要である 当面の重要課題である道路交通情報の活用及び安全運転 安全行動支援システムに関する実証実験をはじめとするロードマップの着実な実行においては 関係府省 民間企業の幹部からなる推進組織を設置することが必要である 推進組織においては 必要に応じて専門家 実務者によるワーキンググループを設置し 実証実験のテーマ 実施期間 場所 実行主体等を具体化した実行計画を企画し 進捗管理を行うとともに 成果の評価を行うべきである 上記の実証実験については 幅広い関係者が連携 共有し 海外諸国や標準化機関の動向を含めた最新の情報や ITSに関するグランドデザインの共有を図りながら取り組むべきである IT 戦略本部企画委員会は 推進組織による実証実験の企画 進捗管理 成果の評価を含むロードマップの進捗についてフォローアップする必要がある さらに 将来的な課題として 大きな権限を付与された責任者( プロジェクトオフィサ ) のもとで 明確な成果目標とその評価手法 手順を持って プロジェクト存続 予算配分判断まで反映できるような推進体制の構築について検討する必要がある - 15 -