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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

核内受容体遺伝子の分子生物学

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

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難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

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汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

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第 20 講遺伝 3 伴性遺伝遺伝子がX 染色体上にあるときの遺伝のこと 次代 ( 子供 ) の雄 雌の表現型の比が異なるとき その遺伝子はX 染色体上にあると判断できる (Y 染色体上にあるとき その形質は雄にしか現れないため これを限性遺伝という ) このとき X 染色体に存在する遺伝子を右肩に

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

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るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

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現し Gasc1 発現低下は多動 固執傾向 様々な学習 記憶障害などの行動異常や 樹状突起スパイン密度の増加と長期増強の亢進というシナプスの異常を引き起こすことを発見し これらの表現型がヒト自閉スペクトラム症 (ASD) など神経発達症の病態と一部類することを見出した しかしながら Gasc1 発現

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博士学位論文審査報告書

SNPs( スニップス ) について 個人差に関係があると考えられている SNPs 遺伝子に保存されている情報は A( アデニン ) T( チミン ) C( シトシン ) G( グアニン ) という 4 つの物質の並びによってつくられています この並びは人類でほとんど同じですが 個人で異なる部分もあ

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

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共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

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「ゲノムインプリント消去には能動的脱メチル化が必要である」【石野史敏教授】

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

1. 背景ヒトの染色体は 父親と母親由来の染色体が対になっており 通常 両方の染色体の遺伝子が発現して機能しています しかし ある特定の遺伝子では 父親由来あるいは母親由来の遺伝子だけが機能し もう片方が不活化した 遺伝子刷り込み (genomic imprinting) 6 が起きています 例えば

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小守先生インタビューHP掲載用最終版

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生物時計の安定性の秘密を解明

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遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

妊娠認識および胎盤形成時のウシ子宮におけるI型IFNシグナル調節機構に関する研究 [全文の要約]

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( 平成 22 年 12 月 17 日ヒト ES 委員会説明資料 ) 幹細胞から臓器を作成する 動物性集合胚作成の必要性について 中内啓光 東京大学医科学研究所幹細胞治療研究センター JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO 型研究研究プロジェクト名 : 中内幹細胞制御プロジェクト 1

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統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

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2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

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るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

八村敏志 TCR が発現しない. 抗原の経口投与 DO11.1 TCR トランスジェニックマウスに経口免疫寛容を誘導するために 粗精製 OVA を mg/ml の濃度で溶解した水溶液を作製し 7 日間自由摂取させた また Foxp3 の発現を検討する実験では RAG / OVA3 3 マウスおよび

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

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ハエで何が分かるのか? ハエを使った遺伝性小児難病研究 東京医科歯科大学難治疾患研究所分子細胞生物学分野 佐藤淳

今日のトピック 1) ヒトとショウジョウバエ 何故ショウジョウバエを使うのか? 2) ショウジョウバエを用いた難治疾患研究 偽性低アルドステロン症 Ⅱ 型を例にして

ウィトルウィウス的人体図 掌は指 4 本の幅と等しい 足の長さは掌の幅の 4 倍と等しい 肘から指先の長さは掌の幅の 6 倍と等しい 2 歩は肘から指先の長さの 4 倍と等しい 身長は肘から指先の長さの 4 倍と等しい ( 掌の幅の 24 倍 ) 腕を横に広げるた長さは身長と等しい 髪の生え際から顎の先までの長さは身長の 1/10 と等しい 頭頂から顎の先までの長さは身長の 1/8 と等しい 首の付け根から髪の生え際までの長さは身長の 1/6 と等しい 肩幅は身長の 1/4 と等しい 胸の中心から頭頂までの長さは身長の 1/4 と等しい 肘から指先までの長さは身長の 1/4 と等しい 肘から脇までの長さは身長の 1/8 と等しい 手の長さは身長の 1/8 と等しい 顎から鼻までの長さは頭部の 1/3 と等しい 髪の生え際から眉までの長さは頭部の 1/3 と等しい 耳の長さは顔の 1/3 と等しい 足の長さは身長の 1/6 と等しい

脊椎動物の初期発生 受精卵

体の設計図 全ての生物の基本設計図は ゲノム にある ヒトチンパンジーイヌマウス魚 ( ゼブラフィッシュ ) 魚 ( ハイギョ ) ショウジョウバエ ゲノムの大きさ ( 塩基対 ) 3.0x10 9 3.1x10 9 2.4x10 9 3.3x10 9 1.7x10 9 1.1x10 11 1.8x10 8 遺伝子の数 26000 - - 29000 26000-14000 ゲノムサイズと遺伝子の数は 進化とは関係無い! 遺伝子のネットワークが重要! 基本となるネットワークは同じものを使っている

例 1)Pax6 遺伝子ファミリー 眼を作る遺伝子群 脊椎動物 頭索動物 尾索動物 棘皮動物 ( ナメクジウオ ) ( ホヤ ) ( ウニ ヒトデ ) 節足動物 有爪動物 ( 昆虫 ) ( カギムシ ) 環形動物軟体動物扁形動物触手冠動物 ( ミミズ ヒル ) ( タコ イカ ) ( プラナリア ) ( 箒虫 ) 刺胞動物 ( イソギンチャク クラゲ )

Eyeless eyeless は 眼の選択遺伝子 ホメオドメイン型の転写因子をコードする wild type eyeless 変異体 ショウジョウバエの遺伝子は 変異体の表現型から名付けられている eyeless の異所発現

野生型ゼブラフィッシュ Pax6 変異 Pax6 変異ゼブラフィッシュ ヒトでの Pax6 欠損

例 2)Hox 遺伝子群 初期発生において 前後軸に沿って発現し 区分けに関与する ショウジョウバエ初期胚 ショウジョウバエ ほ乳類 Hox a Hox b Hox c Hox d ほ乳類初期胚

例 3) シグナル伝達経路 Wnt シグナル伝達経路 様々な組織の発生 分化に重要 大腸ガンなど 多くのガンに関与 TGF シグナル伝達経路 細胞の増殖や分化シグナルとして作用 ガンの悪性化に関与 Wnt/Wingless 分泌タンパク質 TGF /Decapentaplegic LRP6/Arrow Frizzled 受容体 TGFR I/Thickvein TGFR II/Punt Dishevelled Axin GSK3/Sgg APC 細胞内シグナル伝達分子 -Catenin/Armadillo Smad/Mad Co-Smad/Medea TCF/LEF/Pangolin 転写因子

例 4) Hedgehog シグナル伝達経路 様々な組織の発生 分化に必須 手足の小指の位置決定や 毛包の形成と阻害に関与 分泌タンパク質 Sonic Hedgehog/Hedgehog 受容体 Patched Smoothened 細胞内シグナル伝達分子 Fused Kif7/Costal2 ショウジョウバエ初期胚 転写因子 Gli/Ci 増毛剤 育毛剤への応用? マウスでの Hedgehog 阻害剤の塗布

モデル動物 どんな動物がどのような研究のモデル動物として使われているのか? サルブタ イヌ マウス ニワトリ魚類 ( メダカなど ) 両生類 ( カエルなど ) 昆虫 ( ハエなど ) 線虫 酵母大腸菌 行動学移植 発生 分化発生 分化シグナル伝達経路発生 分化発生 分化 細胞内機能 ( 細胞分裂など ) 基本機構 (DNA 複製など )

ショウジョウバエを研究に用いることの利点 1. 世代交代が早い : 一世代約 10 日遺伝学が使いやすい cf) マウス : 3 ヶ月ヒト : 20 年? 2. 遺伝学的ツール様々な遺伝学的ツールが利用可能バランサー染色体 P 因子など 3. 入手の容易さストックセンター ( アメリカ 京都 スイス ) 検疫が不要 ( 通常小包で送れる!) 4. データベース Flybase.org にて ほとんど全ての情報がサーチ可能 (5. ランニングコストが安い!)

ショウジョウバエの一生

ショウジョウバエでどんな研究がされてきたのか? 記憶 学習など 母性効果 神経ネットワークの再生 初期発生 ホルモンによる発生制御 形態形成 器官形成など

今日のトピック 1) ヒトとショウジョウバエ 何故ショウジョウバエを使うのか? 2) ショウジョウバエを用いた難治疾患研究 偽性低アルドステロン症 Ⅱ 型を例にして

遺伝性疾患 一部は 先天性疾患とも呼ばれる 単一遺伝子病 染色体異常 多因子遺伝疾患に分けられる 染色体異常は 染色体に異常が起こっていることから来る 例 ) ダウン症候群小人症 多因子遺伝疾患では 複数の遺伝子の変異が重なることで 発症する 例 ) 家族性腫瘍生活習慣病 単一遺伝子病では 一つの遺伝子の変異により起こり 変異が遺伝するため 子孫でも同じ病気が発症する 例 ) ハンチントン病フェニルケトン尿症ヌーナン症候群原発性免疫不全症候群 ( 一部 ) 血友病

単一遺伝子病 一つの遺伝子の変異により発症する 遺伝子変異は 遺伝子の欠失や不全だけでなく 不完全な機能喪失や新たな機能を獲得している場合もある このため 変異により 遺伝子の機能がどう変わったかは個々に調べる必要がある さらに 発症原因を探索するためには 原因遺伝子そのものの役割 機能を知る必要がある 例 ) フェニルケトン尿症 : フェニルアラニン水酸化酵素の遺伝子に変異 ( 機能欠失 ) ヌーナン症候群 : Ptpn11 遺伝子の変異 ( シグナル調節能の異常 )

偽性低アルドステロン症 厚生労働省により 特定疾患にも指定されている難病である 高血圧症が主な症状であるが 高カリウム血症 低ナトリウム血症 高レニン血症 腎臓からの塩類喪失等のアルドステロン分泌不全と症状が似ているが 血中のアルドステロン濃度は低下していないことから 偽性低アルドステロン症と名付けられた I 型と II 型に分けられているが I 型では他の症状はあまり見られない 一方 II 型では 高血圧症以外の症状として 精神発達遅延 低身長 歯や骨の発育不全等を伴い 小児期より 30 歳以下の成人で発症する I 型は 食塩投与により症状が改善することが分かっている II 型の患者の内 症状が軽い患者では 食塩制限やサイアザイド系利尿薬の処方で改善することが知られている I 型 II 型共に常染色体優性遺伝形式を取ることから 単一遺伝子病であると考えられ 原因遺伝子として I 型では アルドステロン受容体遺伝子 (I 型 A) 及びナトリウムチャネル遺伝子 (I 型 B) が II 型では WNK1 及び WNK4 が単離された

偽性低アルドステロン症 II 型 II 型の高血圧症の発症機構 WNK1/WNK4 SPAK/OSR1 Na,K,Cl 共輸送体 1) WNK1もしくはWNK4の変異により WNK1もしくはWNK4の機能が増強 2) Na,K,Cl 共輸送体の調節がおかしくなることで 血中の塩濃度が変化し 高血圧に II 型のその他の病態 1) 精神発達遅延 2) 低身長 3) 歯や骨の発育不全 いまだに発症原因が分からず しかし 単一遺伝子病であることから WNK1 もしくは WNK4 が何かしているはず! WNK1/WNK4 の機能をもっと知らないと分からない モデル動物を使って 研究してみよう!

ショウジョウバエ WNK 遺伝子 WNK 遺伝子ファミリーは 線虫から ハエ カエル 魚 マウス ヒトまで存在 脊椎動物では 4 つの WNK 遺伝子 (WNK1~4) があるが ハエには 1 つだけ hwnk1 2382 hwnk2 hwnk3 hwnk4 DWNK 95.9% 97.0% 95.9% 94.8% 1243 1743 2217 2253 ショウジョウバエの WNK 遺伝子は まだ誰も解析していなかった

Gal4-UAS 系 ( 過剰発現系 ) A P

ヒト WNK とショウジョウバエ WNK の機能は同じ 野生型 ショウジョウバエ WNK の過剰発現 ヒト WNK の過剰発現

ショウジョウバエ WNK は腹部形成に関与 野生型 機能欠失型 WNK 過剰発現 PHAII Awh 変異体 腹部形成不全の表現型は Arrowhead(Awh) 遺伝子の変異体と同じ表現型!

Awh は 脊椎動物の Lhx8 遺伝子ファミリーの 1 つ Awh 1 ------------------------------------------------------------ 1 hlhx8 1 ---------------------MQILSRCQGLMSEECGRTTALAAGRTRKGAGEEGLVSPE 39 mlhx8 1 MYWKSDQMFVCKLEGKEVPELAVPREKCPGLMSEECGRPAALAAGRTRKGAGEEGLVNPE 60......... Awh 1 ----------------------------MKTELRSCAACGEPISDRFFLEVGGCSWHAHC 32 hlhx8 40 GAGDEDSCSSSAPLSPSSSPRSMASGSGCPPGKCVCNSCGLEIVDKYLLKVNDLCWHVRC 99 mlhx8 61 GAGDEDSCSSSAPLSPSSSPQSMASGSVCPPGKCVCSSCGLEIVDKYLLKVNDLCWHVRC 120.........*.**..*.*...*.*...**..* Awh 33 LRCCMCMCPLDRQQSCFIRERQVYCKADYSKNFGAKCSKCCRGISASDWVRRARELVFHL 92 hlhx8 100 LSCSVCRTSLGRHTSCYIKDKDIFCKLDYFRRYGTRCSRCGRHIHSTDWVRRAKGNVYHL 159 mlhx8 121 LSCSVCRTSLGRHTSCYIKDKDIFCKLDYFRRYGTRCSRCGRHIHSTDWVRRAKGNVYHL 180 *.*..*...*.*..**.*...**.**...*..**.*.*.*...******...*.** Awh 93 ACFACDQCGRQLSTGEQFALMDDRVLCKAHY---LETV----EGGTTSSDEGC---DGDG 142 hlhx8 160 ACFACFSCKRQLSTGEEFALVEEKVLCRVHYDCMLDNLKREVENGNGISVEGALLTEQDV 219 mlhx8 181 ACFACFSCKRQLSTGEEFALVEEKVLCRVHFDCMLDNLKREVENGNGISVEGALLTEQDV 240 *****..*.*******.***...***..*...*...*.*...*.**...*. Awh 143 YHKSKTKRVRTTFTEEQLQVLQANFQIDSNPDGQDLERIASVTGLSKRVTQVWFQNSRAR 202 hlhx8 220 NHPKPAKRARTSFTADQLQVMQAQFAQDNNPDAQTLQKLAERTGLSRRVIQVWFQNCRAR 279 mlhx8 241 NHPKPAKRARTSFTADQLQVMQAQFAQDNNPDAQTLQKLAERTGLSRRVIQVWFQNCRAR 300.*...**.**.**..****.**.*..*.***.*.*...*..****.**.******.*** Awh 203 QKKHI---HAGKNKIREPEGSSFARHINLQLTYSFQNNAQNPMHLNGSKAGLYPTHESSM 259 hlhx8 280 HKKHVSPNHSSSTPVTAVPPSRLSPPMLEEMAYSAYVPQDGTMLTALHSYMDAHSPTTLG 339 mlhx8 301 HKKHVSPNHSSSAPVTAVPSSRLSPPMLEEMAYSAYVPQDGTMLTALHSYMDAHQQLLDS 360

Lhx8 の機能 1) 口蓋部の形成初期胚において 口ができる部分で発現 Lhx8 の機能喪失マウスでは 口蓋裂様の表現型が得られる また 歯根の形成に関与する 2) アセチルコリン性神経の分化前脳基底部において アセチルコリン性神経 ( コリン作動性神経 ) の分化に重要 Lhx8 の機能欠失マウスでは 記憶障害が起こる これらの表現型は 偽性低アルドステロン症 II 型の病態と関連がありそう! 歯根の形成不全 : 歯や骨の発育不全に関係? アセチルコリン性神経への分化 : 精神発達遅延との関係? まずは WNK1 及び WNK4 が上記の Lhx8 の機能に関係するかを調べる

培養細胞を用いた実験 Neuro2A細胞は マウスの神経芽細胞腫由来の細胞 培養液にレチノイン酸を加えることで アセチルコリン性神経等に分化させる ことができる 野生型 Neuro2A Lhx8欠失型 Neuro2A WNK1/WNK4欠失型 Neuro2A WNK1/WNK4の機能欠失型Neuro2A細胞では Lhx8の機能欠失型と同様 神経突起の伸長が抑制されている

まとめ 1) 本研究により 我々は WNK シグナル伝達経路が生物種を越えて 広く保存されていることを示した 2) ショウジョウバエの WNK の解析から 新たな下流因子 Arrowhead を単離し また 脊椎動物でも Lhx8 が WNK の下流で機能していることを示した 3) Lhx8 がアセチルコリン性神経の分化に関与することから WNK シグナル伝達経路も アセチルコリン性神経の分化に関与することを明らかにした 4) 以上の結果と 偽性低アルドステロン症 II 型の高血圧症以外の病態を考え合わせると 精神発達遅延や歯や骨の発育不全といった病態も WNK が原因であると考えることができ 偽性低アルドステロン症 II 型の他の病態にも WNK シグナル伝達経路が関わる可能性を示した始めての結果である

謝辞 本研究は 以下の方々の助けをお借りして 行いました この場を借りて 感謝申し上げます 澁谷浩司 ( 東京医科歯科大学 ) Andrew Tomlinson (Columbia University) 千原崇裕 ( 東京大学 ) 森口徹生 ( 東京医科歯科大学 ( 現 : 北海道大学 )) 田賀哲也 ( 東京医科歯科大学 ) 鹿川哲史 ( 東京医科歯科大学 ) 満友陽子 ( 東京医科歯科大学 ) 山中智子 ( 東京医科歯科大学 ) 文部科学省科学技術振興機構