関東東山病害虫研究会報 第62集

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関東東山病害虫研究会報第 62 集 (2015) 101 アラビアンジャスミンおよびグミ類交配種 Elaeagnus ebbingei に発生した炭疽病 ( 新称 ) 近藤まり 市之瀨玲美 森田琴子 菅原優司 * 小野剛 * 星秀男 ** 竹内純 ** 石川成寿 堀江博道 *** ( 法政大学生命科学部 * 東京都小笠原亜熱帯農業センター ** 東京都農林総合研究センター *** 法政大学植物医科学センター ) First Report of Anthracnose on Arabian Jasmine and Elaeagnus ebbingei in Japan Mari KONDO, Remi ICHINOSE, Kotone MORITA, Yuji SUGAWARA, Tsuyoshi ONO, Hideo HOSHI, Jun TAKEUCHI 1, Seiju ISHIKAWA and Hiromichi HORIE Abstract Two severe leaf spot diseases were observed on Arabian jasmine and Elaeagnus ebbingei in Japan. Fungal isolates were obtained from acervuli on these diseased leaves. Based on morphological and ITS sequence data, the isolates were identified as Colletotrichum tropicale on Arabian jasmine and C. siamense on Elaeagnus ebbingei. This is the first report of Arabian jasmine and Elaeagnus ebbingei causing Anthracnose in Japan. アラビアンジャスミン ( 別名マツリカ,Jasminum sambac (L.) Ait.,Arabian jasmine) は, モクセイ科ソケイ属の常緑低木で, 芳香のある白色の花を着ける 元来, 花を乾燥させたものは香料として広く活用されており, ジャスミンティーなどの原料の一つとしても利用されているが, 近年は鉢花や植栽としての需要が高まっている 2013 年 9 月に東京都小笠原村母島において, 展示試験栽培中のアラビアンジャスミンの葉に斑点症状の発生を初めて確認した また,Elaeagnus ebbingei cv. Gilt Edge( 以下グミ ギルトエッジ と表記する ) は, グミ科グミ属のマルバグミ ( オオバグミ,Elaeagnus macrophylla Thunb.) とナワシログミ (Elaeagnus pungens Thunb.) の交配種であり, 葉縁の美しい黄色斑入りが特徴の常緑低木で, 生け垣やカバープランツとして広く植栽されている 2012 年 11 月に東京都立川市の試験圃場において葉枯れ症状を確認した アラビアンジャスミンの葉の斑点症状およびグミ ギルトエッジ の葉枯れ症状について, その原因について究明したので報告する なお, グミ ギルトエッジ の葉枯れ症状については, 著者の一人竹内 (2008) が農林水産省所管の先端技術を活用した農林水産研究高度化事業委託事業課題 花き類病害の双方向型総合診断 防除システムの開発および公開 ( 主査 : 花き研究所 ) の中で取り上げた その成果の一部は, 花き研究所のホームページにおいて 花き病害図鑑 のグミ類の項に炭疽病 ( 病原菌 :Colletotrichum gloeosporioides) として登載されたが, その症状と今回確認した症状が酷似することから併せて検討した 材料および方法 1. 発生状況および病徴アラビアンジャスミンの斑点症状およびグミ ギルトエッジ の葉枯れ症状について, それぞれ圃場での発生状況を調査, 記録し, さらに実験室において採集したサンプルの病標徴などを詳細に観察, 記録した その後, 各罹病葉は, さく葉標本とし, アラビアンジャスミンは標本番号 13O-0009, グミ ギルトエッジ は同 13-B0207として法政大学植物医科学センターに保管した 2. 病原菌の分離両植物の病斑, 枯死組織に形成された分生子層から分生子をかき取り, 滅菌水と0.1% 硫酸銅水溶液の等量混合液に懸濁させた 分生子懸濁液を, 先端をループ状に成形した白金耳で素寒天 (WA) 平板培地に塗付し,24 時間 20 暗黒条件下で培養した発芽分生子単体を円筒形白金耳で培地ごと釣り上げ, ジャガイモ煎汁ブドウ糖寒天培地 (PDA) に1 個ずつ移植して菌株を得た 以下の試験では13O-0009( アラビアンジャスミン分離菌株 ),13-B0207( グミ分離菌株 ) を供試菌株とした 3. 接種試験分離菌の病原性の有無を確認するために, アラビアンジャスミン苗およびグミ ギルトエッジ 苗に対する接種試験を行った アラビアンジャスミンについては, 供試菌株を PDA 平板培地上に25 暗黒下で7 日間培養後, 培養菌叢に熱したメスで約 1cm 角のマス目状の焼き傷を付け, さらに7 日間培養し, 鮭肉色の分生子粘塊を形成させた 分生子粘塊が豊富 1 Address:Edogawa Branch, Tokyo Metropolitan Agriculture and Forestry Research Center, 1-15-22 Shishibone, Edogawa, Tokyo 133-0073, Japan 2015 年 5 月 14 日受領 2015 年 9 月 28 日登載決定

102 Annual Report of the Kanto-Tosan Plant Protection Society, No. 62 2015 に形成されたことを確認後, シャーレ内に滅菌水 (DDW) を注ぎ, 面相筆で分生子をよく懸濁した ビーカーにガーゼを二重に張り, 上記懸濁液中の菌糸片などを濾し取り,9.1 10 5 個 /ml の分生子懸濁液を作製し, 展着剤として Tween 20を0.02% 添加したものを接種源とした 接種に供試した株数は接種区 2 株, 対照 ( 無接種 ) 区は1 株とし, 接種株には4 号昆虫針を約 100 本まとめた針束 ( 直径約 4mm) を押し当てた有傷区と, 熱した金属棒を押し当てることによる焼傷区の異なる2つの付傷区を設けた それぞれの付傷は1 株あたり2 葉,1 葉あたり2か所とした 無接種株 ( 対照区 ) にも同様に, 有傷区, 焼傷区, 無傷区とも各 2 枚の葉を供した これら接種用の株に, 上記で作成した分生子懸濁液を9 cm ポット植え1 株あたり25ml 噴霧接種した 無接種区は, DDW に同濃度の Tween 20のみを添加して, 同様に25ml を噴霧した 接種後 3 日間, ポリエチレン袋で湿室に保ち, 温室内 (25 ~ 30 の自然光下 ) で経過観察をした さらに, アラビアンジャスミンと同じソケイ属に所属するハゴロモジャスミンとリンゴ果実に対しても同様の接種試験を行った グミ ギルトエッジ については, PDA 培地上で25 暗黒下 6 日間培養した菌叢をコルクボーラー (2 号 ; 直径 5.5mm) で打ち抜き, 貼り付け接種を行った 対照区には PDA 平板培地を同様に打ち抜いたものを使用した 供試株数は18cm ポット植えのものを接種区 2 株, 対照区 1 株とし, アラビアンジャスミンと同様の方法で有傷区, 焼傷区, 無傷区を設け,1 株あたり2 枚の葉に2か所 ( 黄色の斑の部分と緑色の部分各 1か所 ) ずつ貼り付けた リンゴ果実に対しても同様の方法で接種試験を行った グミ ギルトエッジ の病徴は葉の周縁部に発生することが多いため, 葉縁から溢出する分泌液を通しての感染も考慮し, 葉の周縁部を上下から菌叢で挟む接種も同時に行った この接種は,1 株あたり2 枚の葉を供試し, 対照区 4 枚には PDA 平板培地で挟んだ 接種後 3 日間は接種部分を滅菌水で湿らせた脱脂綿で覆って鉢ごとポリエチレン袋で湿室に保ち, 温室内 (25 ~ 30 の自然光下 ) で経過観察を行った 4. 病原菌の形態菌体が形成された病斑部をピスに挟み込んで, 徒手切片を作製し, 菌体断面形状, 大きさなどを観察した また, PDA 平板培地で,20, 暗黒下で7 日間程培養して形成された分生子の形態を観察 測定した さらに, 約 1cm 角に切り取ったジャガイモ ニンジン煎汁寒天 (PCA) 平板培地を滅菌したスライドグラスの中央に置床し, その四隅に分離菌の菌糸を載せ,20, 暗黒条件下で7 日間程培養したスライドカルチャー法により, 菌糸上に形成された付着器の形状と大きさを観察, 記録した 以上の結果を既知の文献の記載および, グミについては竹内 ( 東京都,2008) のデータとも比較検討し, 供試菌株の分類学的所属を明らかにした 5. 菌叢生育と温度反応菌糸生育の温度特性を明らかにするため,PDA 平板培地で培養した菌叢先端部を直径 5.5mm のコルクボーラーで打ち抜き,PDA 平板培地の中央に置床した 培養温度は5, 10,15,20,22.5,25,27.5,30,32.5,35,37.5および 40 の12 区を設け, 各温度区にシャーレを3 枚ずつ供試し, 13O-0009( アラビアンジャスミン ) は6 日後に,13-B0207 ( グミ ) は5 日後に各温度区における培養菌叢の直径を測定した 6. 病原菌の遺伝子解析両分離菌株の培養菌叢上の気中菌糸をかき取り,PrepMan Ultra Reagent( ライフテクノロジーズジャパン株式会社, 東京 ) を用いて全 DNA を抽出した ITS 1および ITS 4 (White et al.,1990) を用いて PCR を行い,rDNA-ITS 領域を, また, 大腸菌を用いたクローニングにより,ACT 領域, CAL 領域および TUB 領域も増幅した 得られた塩基配列を NCBI(National Center for Biotechnology Information) のホモロジー検索プログラム (BLAST) により既知菌株との相同性を調査した 結果および考察 1. 発生状況および病徴アラビアンジャスミン葉に発生した斑点症状 ( 第 1 図 1 2 ):2013 年 9 月に東京都小笠原村母島の展示試験圃場において, アラビアンジャスミンの葉に大小様々な円形 ~ 不整形病斑を多数生じ, 激しい場合は葉枯れに至る症状を認めた 病斑は初め直径 3mm 程度であるが拡大 融合し大型不整斑となった 病斑周縁部は褐色で, 周囲との境界は明瞭であるが, その外側は病斑部を囲むように黄変していた 病斑内部は灰白色で葉組織は薄くなり, その上には褐色 ~ 黒色の小点 ( 分生子層 ) がやや盛り上がって群生した グミ ギルトエッジ に発生した葉枯れ症状 ( 第 1 図 5): 2012 年 11 月に東京都農林総合研究センター ( 東京都立川市 ) の試験圃場においてマルバグミとナワシログミの交配種 Elaeagnus ebbingei の斑入り品種である ギルトエッジ (Gilt Edge) に葉枯れ症状の発生を確認した 本症状は9 ~ 10 月にかけて葉周縁の黄色斑入り部分が淡褐色に変色し, 変色部分には淡褐色 ~ 褐色の小点 ( 分生子層 ) が多数生じた 症状が進行すると病斑部は次第に拡大するとともに, 乾燥してくすんだ褐色となり, 病斑部組織が崩れて虫食いのように欠けるようになり, 激しい場合には, 落葉も認められた 2. 分離菌株の病原性アラビアンジャスミン分離菌株の接種 : アラビアンジャスミンに対して, 葉の焼傷区では噴霧接種 5 日後に接種部が薄い鮭肉色を呈し, 接種 11 日後には, より明瞭な鮭肉色となった 焼傷を付けた部分からは鮭肉色の粘塊 ( 分生子の集塊 ) が押し出されるように溢出しており, この粘塊から単胞子分離を行ったところ, 接種菌と同一の形状の菌株が得られた 有傷区では, 接種 11 日後に接種部位が薄く変色したものの, 分生子粘塊の形成は観察されなかった また, 無傷区は発病しなかった ハゴロモジャスミンに対しては, アラビアンジャスミン同様に, 焼傷区のみで接種 3 日後に病斑を生じ, 徐々に拡がり, 接種 11 日後には病斑上に鮭肉色の分生子塊が形成された リンゴに対する接種では, 焼傷区, 有傷区において褐色 ~ 黒色の変色とくぼみが生じ, 焼傷区では黒色の斑点

関東東山病害虫研究会報 を形成した ハゴロモジャスミン リンゴ果実とも対照区 無 接種区 では発病しなかった 第 62 集 2015 103 おいて いずれも本菌株の病原性が認められた 3 病原菌の形態的特徴 グミ ギルトエッジ 分離菌株の接種 グミ ギルトエッ アラビアンジャスミン 自然発生の病斑上において 分生 ジ に対して 菌叢貼り付け接種では4日後に有傷区 焼傷 子層は表皮下に形成されており 暗褐色 暗灰色 皿状 区において接種部分周辺が薄く褐変した 7日後には変色部 レンズ状 第2図① で 剛毛を有する 第2図② 大き 分が拡がり 病斑が形成され始めた 9 11日後には褐色 さは直径130 189µm 高さ54 99µm であり PDA 培 の程度が濃くなり 両区とも病斑上に鮭肉色の分生子塊が形 地上では鮭肉色 橙色の分生子粘塊を形成した 第1表 成された 無傷区では貼り付け部周辺にわずかな褐変が認め 分生子は 無色 単胞 両端に向かいやや細まる円柱形 長 られたが 病斑形成には至らず また 無傷区では病徴は認 楕円形で 時にやや湾曲 両先端部は丸みがあり 分生子内 められなかった 菌叢挟み込み接種では3日後に病斑の形成 部には数個の油滴が観察された 第2図③ 分生子の大き が認められ 発病部からはいずれも接種菌と同一形状の菌が さは 11 12 17.8 3.6 7.6 8.1 µm 長径と短 分離された 無接種区では発病を認めなかった 発病葉は接 径の比 L/B 比 は2.4であった また 菌糸上に形成され 種2週間程で 落葉した 以上の結果 原病徴の再現と接種 た付着器は茶褐色 暗褐色で 棍棒状 ときに不規則 第2 菌の再分離に成功し 供試菌株のグミ ギルトエッジ に対 図④ で 大きさ 7.3 8 11.6 14 3.7 6.6 する病原性が確認された ナワシログミに対しては 分生子 8.1 µm であった 懸濁液の接種において有傷区と焼傷区で病徴が発現し 付傷 グミ ギルトエッジ 病斑上の分生子層は 茶褐色で皿 部から病斑が拡大したが 落葉は確認されなかった リンゴ 状 レンズ状 第2図⑤ 剛毛を有し 第2図⑥ 大きさ 果実に対する接種では 焼傷区 有傷区 無傷区の試験区に は直径111 176µm 高さ68 117µm であった 第1表 第1図 アラビアンジャスミンおよびグミ ギルトエッジ の症状 アラビアンジャスミン ①罹病葉 ②病斑部拡大 黒点は分生子層 グミ ギルトエッジ ③罹病葉 ④病斑部拡大 同上 第2図 アラビアンジャスミンおよびグミ ギルトエッジ 病斑上の分生子層と各分離菌株の分生子および付着器 bar 20µm アラビアンジャスミン 上段 ①分生子層の断面 ②剛毛 ③分生子 ④付着器 グミ ギルトエッジ 下段 ⑤分生子層の断面 ⑥剛毛 ⑦分生子 ⑧付着器

104 Annual Report of the Kanto-Tosan Plant Protection Society, No. 62 2015 PDA 培地上では鮭肉色 ~ 淡橙色の分生子粘塊を形成した ( 第 1 表 ) 分生子は無色, 単胞, 両端に向かいやや先細る円柱形 ~ 長楕円形で両先端部は丸みがあり, 分生子内部には0 ~3 個の油滴が観察された ( 第 2 図 7) 大きさは,12.5 ~ 16.5(~ 17.5) 3.2 ~ 5.4µm であり, 長さと幅の比 (L/B) は3.3であった また, 菌糸に形成された付着器は茶褐色 ~ 暗褐色で棍棒状, ときに不規則で ( 第 2 図 8), 大きさ6.1 ~ 12 3.8 ~ 7.5µm であった 以上のアラビアンジャスミンおよびグミ ギルトエッジ 病斑上の分生子層および培養上の菌体の特徴から, 両菌とも,Sutton(1980), 我孫子 (1992) および堀江 (2014) における Colletotrichum 属の特徴の記述と一致し, 同属に所属すると判断される Sutton(1980) および Arx(1987) の Colletotrichum 属の種分類検索表および種の記載をもとに, 分離菌株の分類学的所属を検討したところ, 分生子および付着器の形態的特徴は Colletotrichum gloeosporioides (Penzig) Penzig & Saccardo 種複合体の記載とほぼ一致した ( 第 1 表 ) 4. 菌叢生育と温度反応アラビアンジャスミン分離菌株の菌叢生育は10 ~ 37.5 で認められ, 生育最適温度は27.5 であった また, グミ ギルトエッジ 分離菌の菌叢生育は10 ~ 37.5 で認められ, 生育最適温度 30 付近であった 5. 分離菌の遺伝子解析アラビアンジャスミン分離菌株 : 調査した4 領域の塩基配列について相同性を調査した結果,rDNA-ITS 領域においては C. gloeosporioides と同定されている既知の登録塩基配列 AB981196 他,C. siamense と同定されている同 KJ813612 他, C. tropicale と同定されている KC702962とそれぞれ99% の相同性を示した ACT 領域では C. tropicale と同定されてい る KC533726(Lima et al., 2013) 他,C. gloeosporioides と同定されている KF712382(Ma et al., 2014) 他と 99% の相同性を示した また,TUB 領域では C. tropicale と同定されている登録塩基配列 JX010407(Weir et al., 2012) 他と 100%,C. siamense と同定されている GQ849441(Yang et al., 2010) 他と99% の相同性を示した CAL 領域では,C. tropicale と同定されている登録塩基配列 JX009719(Weir et al., 2012) と100% の相同性を示した グミ ギルトエッジ 分離菌株 ; 各領域の塩基配列相同性検索の結果,rDNA-ITS 領域において C. gloeosporioides と同定されている既知の登録塩基配列 KM889666 他と99% の相同性を示した ACT 領域においては C. siamense と同定されている登録塩基配列 JX009435(Weir et al., 2012), C. gloeosporioides と同定されている登録塩基配列 KF712382 (Ma et al., 2014) とそれぞれ100% の相同性を示した また, TUB 領域では,C. siamense と同定されている登録塩基配列 GQ849441(Yang et al., 2010) 他と99% の相同性を示し, CAL 領域では,C. siamense と同定されている登録塩基配列 KC296961(Liu et al.,2013) と100% の相同性を示した 6. 病原菌の所属および病名の提案上記のように, アラビアンジャスミンおよびグミ ギルトエッジ から分離された菌株は, 宿主植物への接種により病原性を示したことより, 病原菌であることが確認された 宿主上の分生子層および培養上の分生子, 付着器等の形態的特徴から, 両菌は Colletotrichum gloeosporioides (Penzig) Penzig & Saccardo 種複合体と同定される 同複合体は近年, 遺伝子の複数領域の解析により多数の種に分割されている そこで,Weir et al.(2012) による C. gloeosporioides 種複合体の新分類体系に準拠すると rdna-its 領域,ACT 領域,CAL 領域,TUB 領域の塩基配列の解析結果から, 第 1 表アラビアンジャスミンおよびグミ ギルトエッジ 分離菌株と既知 Colletotrichum gloeosporioides との形態比較 菌株 ( 分離植物名 ) 菌名 高さ 幅 µm 分生子層 形態 長さ 幅 µm (L/B 比 ) 分生子 付着器 形態長さ 幅 µm 形態 菌叢生育可能温度 ( 最適温度 ) 菌叢の特徴 13O-0009 a) ( アラビアンジャスミン ) 130~189 54~99 表皮下に形成, 褐色 ~ 黒色, 皿状 ~ レンズ状, 剛毛を有す (11~)12~17.8 3.6~7.6(~8.1) (2.4) 無色, 単胞, 楕円形 ~ 長い楕円形, 両端に丸みがある (7.3~) 8~11.6(~14) 3.7~6.6(~8.1) 10~37.5 (27.5) 気中菌糸は白色 ~ 明灰色, 分生子塊は鮭肉色 ~ 橙色 13-B0207 a) ( グミ ギルトエッジ ) 111~176 68~117 表皮下に形成, 褐色 ~ 黒色, 皿状 ~ レンズ状, 剛毛を有す 12.5~16.5(~17.5) 3.2~5.4 (3.3) 無色, 単胞, 楕円形 ~ 長い楕円形, 両端に丸みがある 6.1~12 3.8~7.5 10~37.5 (30) 気中菌糸は白色, 分生子塊は鮭肉色 ~ 淡橙色 Colletotrichum gloeosporioides group b) 9~24 3~4.5 真直, 円筒形, 先端に丸みがある 6~20 4~12 C. gloeosporioides c) 11~21 4~6 円筒形 あるいは楕円形 C. tropicale d) (9.5~)12.5~16.5(~21.2) (4.0~)4.8~5.5(~6.5) やや円筒形, 稀に (4.7~)7.0~11.0(~20.0) (4.0~)5.2~7.2(~11.5) 類球形 ~, 紡錘形 気中菌糸は白色 ~ 明灰色, 分生子塊は橙色 C. siamense e) 7~18.3 3~6 無色, 単胞, 紡錘形 4.7~15.3 3.5~5.3 綿毛状の菌叢, 気中菌糸は密集し濃灰白色, 分生子塊は淡黄色 ~ 桃色 a) 分生子層は植物体の病斑上, 分生子は PDA 培地上, 付着器はジャガイモ ニンジン煎汁寒天 (PCA) 培地上 b) Sutton (1980) c) Arx (1987) d) Rojas et al. (2010) e) Prihastuti et al. (2009)

関東東山病害虫研究会報第 62 集 (2015) 105 アラビアンジャスミン分離菌株は Colletotrichum tropicale E. I. Rojas, S. A. Rehner & Samuels, グミ ギルトエッジ 分離菌株は Colletotrichum siamense Prihast., L. Cai & K. D. Hyde に該当する 両分離菌株の形態的および培養的特徴の記載はそれぞれ Rojas et al.(2010),prihastuti et al.(2009) ともほぼ一致することから, アラビアンジャスミン分離菌株は C. tropicale, グミ ギルトエッジ 分離菌株は C. siamense と同定した わが国におけるアラビアンジャスミンの病害記録について, 日本植物病名目録第 2 版 ( 日本植物病理学会 農業生物資源研究所,2012; 以下 病名目録 ) には登載されてないが, 同じソケイ属であるハゴロモジャスミン (Jasminum polyanthum) には C. gloeosporioides による炭疽病が記録されている ( 梶谷ら,2009) C. gloeosporioides は, アラビアンジャスミン分離菌株である C. tropicale と同じ種複合体に包括され, 本研究においてアラビアンジャスミン分離菌株がハゴロモジャスミンにも病原性を示したことから, 今後, 両菌の異同を確認する必要がある なお, 外国においては, アラビアンジャスミンに対して C. capsici( インド ; Sarbhoy and Agarwal, 1990),C. gloeosporioides( 中国 ;Zhuang, 2005) による病害が報告されている グミ ギルトエッジ に関しては, 竹内 (2008) が東京都秋川市の露地ポット栽培グミ ギルトエッジ で類似症状の発生を確認している 平成 19 年度花き類病害の双方向型総合診断 防除システムの開発および公開委託事業に関する委託研究実績報告書 ( 東京都農林水産振興財団,2008) によると, 葉身に暗褐色 ~ 灰褐色, 不整形の病斑が拡大し, 葉枯れを起こした 病斑部には黒色小粒 ( 分生子層 ) が多数形成された 分離菌接種により病徴が再現し, 接種菌が再分離された 分生子は無色, 単胞, 楕円形 ~ 長楕円形, 円筒形,10 ~ 22 4 ~ 6µm( 図 2) 付着器は, 暗褐色, 不整で, 切れ込みが多く,7.5 ~ 19 4~ 13µm 菌叢生育は10 ~ 35 で認められ, 生育適温は25 ~ 27 であった とし, 病原菌を C. gloeosporioides と同定している この成果は, 花き研究所のホームページで公開されている 花き病害図鑑 のグミ類の項に炭疽病として登載されている 同報告書に記載された菌の形態は今回のグミ ギルトエッジ の記載, ならびに Sutton(1980) および Arx(1987) による C. gloeosporioides の記載とほぼ一致することから同種と同定できる しかし, 竹内 ( 東京都農林水産振興財団,2008) の分離菌株が残っておらず, 遺伝子解析ができないため,C. gloeosporioides sensu lato(sutton, 1980) に留めることになる グミ類にはグミ ギルトエッジ 交配親のナワシログミに矢口ら (2004) が炭疽病を報告したが, 病原菌は Colletotrichum sp. とし, 種の同定は保留している 今回のグミ ギルトエッジ 分離菌株はナワシログミに対しても病原性を有することから, 両菌の異同についても検討する必要がある なお, 外国においては,Alfieri Jr. et al.(1984) がフロリダにおいて, グミ属への Colletotrichum sp. による被害を報告している 今回報告したアラビアンジャスミン斑点症状およびグミ ギルトエッジ 葉枯れ症状はわが国では未記録である このため,Colletotrichum 属菌による病害の慣行的な命名に従い, 病名として, アラビアンジャスミン炭疽病 および Elaeagnus ebbingei 炭疽病 ( いずれも英名 Anthracnose ) を提案する 謝辞 : 本報告をまとめるにあたり, 有益なご助言をいただいた法政大学生命科学部鍵和田聡博士ならびに廣岡裕吏博士に厚く御礼申し上げる 引用文献我孫子和雄 (1992) 植物病原菌類図説 ( 小林享夫ら編 ). 全国農村教育協会, 東京. pp. 408-409. Alfieri Jr., S. A. et al. (1984) Div. Plant Ind. Bull. 11: 1-389. Arx, J. A. von (1987) Plant Pathogenic Fungi. J. Cramer, Berlin. pp. 218-220. 堀江博道 (2014) 植物病原菌類の見分け方第 Ⅱ 編 ( 上巻 ). 大誠社, 東京. pp. 213-218, 414-415. 梶谷裕二ら (2009) 日植病報 75: 186. ( 講要 ) Lima, N. B. et al. (2013) Fungal Divers. 61: 75-88. Liu, F. et al. (2013) Fungal Divers. 61: 89-105. Ma, W. J. et al. (2014) Plant Dis. 98: 991. 日本植物病理学会 農業生物資源研究所 (2012) 日本植物病名目録 ( 第 2 版 ), CD 版. 日本植物病理学会, 東京. 1536pp. Prihastuti, H. et al. (2009) Fungal Divers. 39: 98. Rojas, E. I. et al. (2010) Mycologia 102: 1318-1338. Sarbhoy, A. K. and D. K. Agarwal (1990) Descriptions of Tropical Plant Pathogenic Fungi. Set 1. Malhotra Publ. House, New Delhi. Sutton, B. C. (1980) The Coelomycetes Fungi Imperfecti with Pycnidia Acervuli and Stromata. Commonwealth Mycological Institute, England. pp. 523-537. 東京都農林水産振興財団 (2008) 平成 19 年度 花き類病害の双方向型総合診断 防除システムの開発および公開 委託事業に関する委託研究実績報告書. 竹内純 (2008) グミ炭疽病 ( 花き病害図鑑 ). 花き研究所. http:// www.naro.affrc.go.jp/flower/kakibyo/plant_search/ka/ gummi/post_598.html Weir, B. S. et al. (2012) Stud. Mycol. 73: 115-180. White, T. J. et al. (1990) PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications (M.A. Innis et al. ed.). Academic Press, San Diego. pp. 315-322. 矢口行雄ら (2004) 日植病報 70: 218. ( 講要 ) Yang, Y. L. et al. (2010) Colletotrichum Anthracnose of Amaryllidaceae. Fungal Diversity. Online advance, pp. 123-146. Zhuang, W. -Y., ed. (2005) Fungi of Northwestern China. Mycotaxon, Ltd., Ithaca, NY. pp. 430.