経済 産業 / 業界展望 新興国市場としての中東地域 日本企業にチャンスはあるか ( 後編 ) 中東電機市場の状況と日本企業の中東ビジネス発展へ向けてのインプリケーション 永井知美 ( ながいともみ ) 産業経済調査部シニア産業アナリスト 山一証券経済研究所外国企業調査部を経て 1999 年から東レ

Similar documents
Jp_080_113_09

世界経済モデルにおける貿易連関モデルおよび地域モデルについて

untitled

第4章 日系家電メーカーにおけるグローバル化の進展と分業再編成

資料7(予測結果の評価方法)

42

ITI

ITI

Dynamics-NAV

順調な拡大続くミャンマー携帯電話市場

国際知的財産活用フォーラム 2013 シスメックス株式会社のご紹介 ~ 事業のグローバル展開とそれを支える知財活動 ~ 2013 年 1 月 28 日シスメックス株式会社知的財産部長井上二三夫 1

VAS xlsx

PowerPoint プレゼンテーション

日本企業による国外での環境への取り組みに係る

78 資料編 Data Chapter 年の日本の貿易 Japan s Trade in 2016 資料編 Data Chapter 年の日本の貿易 Japan s Trade in Indexes of Trade on a yen

特集 東南アジア進出企業の人財育成 経営現地化および労務管理 前編 図表1 東南アジアの日系企業を取り巻く環境 出所 JOI作成 図表2 グローバル経営を進展させるための本社側視点 による主要経営課題 用した理由 として 現地従業員のモラールアップ になる 優秀な現地社員を採用できる というのは 現

Microsoft Word - 5_‚æ3ŁÒ.doc

2017年第3四半期 スマートフォンのグローバル販売動向 - GfK Japan

中国携帯電話市場に関するアンケート調査

調査結果 自動車購入時重視点で カ国共通して高いのは 燃費の良さ 次いで重視される 安全性能 今後自動車を購入する際に重視する点をつまで を聞いたところ 燃費の良さ と回答した人がマレーシア (%) インドネシア(%) フィリピン(%) インド(%) で最も多く タイで 番目 (%) ベトナムで 番

Microsoft Word - 本文-1.doc

はじめに マーケティング を学習する背景 マーケティング を学習する目的 1. マーケティングの基本的な手法を学習する 2. 競争戦略の基礎を学習する 3. マーケティングの手法を実務で活用できるものとする 4. ケース メソッドを通じて 現状分析 戦略立案 意思決定 の能力を向上させる 4 本講座

1 食に関する志向 健康志向が調査開始以来最高 特に7 歳代の上昇顕著 消費者の健康志向は46.3% で 食に対する健康意識の高まりを示す結果となった 前回調査で反転上昇した食費を節約する経済性志向は 依然厳しい雇用環境等を背景に 今回調査でも39.3% と前回調査並みの高い水準となった 年代別にみ

スライド 1

2003年1月23日

Microsoft PowerPoint - DynamicsNAV_業務に合わせたシステムの構築 ppt

[ 調査の実施要領 ] 調査時点 製 造 業 鉱 業 建 設 業 運送業 ( 除水運 ) 水 運 業 倉 庫 業 情 報 通 信 業 ガ ス 供 給 業 不 動 産 業 宿泊 飲食サービス業 卸 売 業 小 売 業 サ ー ビ ス 業 2015 年 3 月中旬 調査対象当公庫 ( 中小企業事業 )

電通、「ジャパンブランド調査2014」を実施

The Water Gap - State of Water report1

<4D F736F F F696E74202D FA8C6F B938C8FD888EA95948FE38FEA8AE98BC6817A81758A4F8D91906C97AF8A7790B682CC8DCC977082C693FA967B8CEA945C97CD82C98AD682B782E992B28DB881768C8B89CA838C837C815B83678DC58F4994C52E70707

東京センチュリー株式会社統合レポート2018

JA (115) 国別の支払方法 この資料は ロータリアンが海外に支払いを行うための情報 また ロータリーが各国への支払いを行う際に必要な情報を挙げたものです 必要な情報は 国によって異なります 必要な銀行コードがわからない場合は 最寄りの銀行にお問い合わせください 本資料について または支払いに必

HR-DS2

Microsoft Word - 20_2

平成 25 年 3 月 19 日 大阪商工会議所公益社団法人関西経済連合会 第 49 回経営 経済動向調査 結果について 大阪商工会議所と関西経済連合会は 会員企業の景気判断や企業経営の実態について把握するため 四半期ごとに標記調査を共同で実施している 今回は 2 月下旬から 3 月上旬に 1,7

<4D F736F F F696E74202D20834F838D815B836F838B D815B E738FEA93AE8CFC82C68DA18CE382CC94AD935795FB8CFC5F53756D6D F F >

Microsoft Word - 10 統計 参考.doc

第 70 回経営 経済動向調査 公益社団法人関西経済連合会 大阪商工会議所 < 目次 > 1. 国内景気 2 2. 自社業況総合判断 3 3. 自社業況個別判断 4 4. 現在の製 商品およびサービスの販売価格について 8 参考 (BSI 値の推移 ) 11 参考 ( 国内景気判断と自社業況判断の推

目次 要旨 1 Ⅰ. 通信 放送業界 3 1. 放送業界の歩み (1) 年表 3 (2) これまでの主なケーブルテレビの制度に関する改正状況 4 2. 通信 放送業界における環境変化とケーブルテレビの位置づけ (1) コンテンツ視聴環境の多様化 5 (2) 通信 放送業界の業績動向 6 (3) 国民

PDF用.indd

( 参考様式 1) ( 新 ) 事業計画書 1 事業名 : 2 補助事業者名 : 3 事業実施主体名 : Ⅰ 事業計画 1 事業計画期間 : 年 月 ~ 年 月 記載要領 事業計画期間とは 補助事業の開始から事業計画で掲げる目標を達成するまでに要する期間とし その期限は事業実施年 度の翌年度から 3

PowerPoint プレゼンテーション

四校

XV-Q10-S/B/N

国際航空貨物運送に関する条約 1929 ワルソー条約 1955 ヘーグ議定書 ( 改正ワルソー条約 ) 1961 グアダラハラ条約 - 契約運送人の定義 1975 モントリオール第四議定書 (MP-4) 1998 モントリオール第四議定書発効 - 現在 57 ヵ国締結 1999 モントリオール条約

原産国効果

02 IT 導入のメリットと手順 第 1 章で見てきたように IT 技術は進展していますが ノウハウのある人材の不足やコスト負担など IT 導入に向けたハードルは依然として高く IT 導入はなかなか進んでいないようです 2016 年版中小企業白書では IT 投資の効果を分析していますので 第 2 章

企業ブランディング計画

1.VOX について ヴォークス トレーディング プロフェッショナルなフードエンジニアリングを通じてソリューションを提供する 食 の商社 グローバル拠点 中国 タイ インドネシア ベトナム 米国 ポーランド オーストラリア 売上高 約 160 億円 従業員数 約 80 名

Dynamics-NAV

XV-PZ55

ワシントン条約締約国及び同条約締約国ではない国又は地域であって同条約に係る管理当局に準ずる当局を持つ国又は地域一覧 ( 令和元年 7 月時点 ) 1. ワシントン条約締約国 (183 か国 ) 英語名 ( 表記は CITES 事務局 HP より ) 国名 ( 表記は輸入公表より ) 国コード (IS

ワシントン条約締約国及び同条約締約国ではない国又は地域であって同条約に係る管理当局に準ずる当局を持つ国又は地域一覧 ( 令和元年 9 月時点 ) 1. ワシントン条約締約国 (183 か国 ) 英語名 ( 表記は CITES 事務局 HP より ) 国名 ( 表記は輸入公表より ) 国コード (IS

XV-MK550

< 目次 > 概要 1 1. 香港 2. 台湾 3. 韓国 4. 中国 5. シンガポール 6. マレーシア 7. ブルネイ 8. インドネシア 9. タイ 10. ベトナム ミャンマー 12. フィリピン 13. インド 14. 中

海事条約締約国一覧表 STATUS OF MARITIME CONVENTIONS as of 1 January 2019 本表に掲載されている条約はすべて発効済です X 印は当該国において条約の効力が発生しています The conventions listed below have alread

ワシントン条約締約国及び同条約締約国ではない国又は地域であって同条約に係る管理当局に準ずる当局を持つ国又は地域一覧 ( 平成 30 年 12 月時点 ) 1. ワシントン条約締約国 (183 か国 ) 英語名 ( 表記は CITES 事務局 HP より ) 国名 ( 表記は輸入公表より ) 国コード

リサーチ Press Release 報道関係者各位 2015 年 7 月 29 日 アウンコンサルティング株式会社 世界 40 カ国 主要 OS 機種シェア状況 2015 年 6 月 ~ iphone 大国 日本 高い Apple シェア率 ~ アジア 8 拠点で SEM( 検索エンジンマーケティ

国の名称一覧表 英語の国の名称は 英語名称 または 2 文字コード のいずれかで記載可能です ( 特許協力条約に基づく実施細則第 115 号 ) 日本語名称 1 英語名称 2 文字コード アイスランド共和国 Iceland IS アイルランド Ireland IE アゼルバイジャン共和国 Azerb

Microsoft Word - 報告書.doc

~この方法で政策形成能力のレベルアップが図れます~

中小企業支援ツール 中小企業支援ツール は 金融機関における中小企業支援の一助となることを目的に 自社製品開発などにより下請脱却に取り組んだものづくり中小企業の知財活用を調査 分析し 経営 事業上の課題を事業ライフステージごとに整理するとともに その課題解決に向け 知財活用の観点から考えられるアクシ

カーボヴェルデ共和国 Cabo Verde CV ガイアナ共和国 Guyana GY カザフスタン共和国 Kazakhstan KZ カタール国 Qatar QA カナダ Canada CA ガボン共和国 Gabon GA カメルーン共和国 Cameroon CM ガンビア共和国 Gambia GM

第 2 章 産業社会の変化と勤労者生活

中東 地域 正式国名 ( 和 ) 正式国名 ( 英 ) 記載例 ( 略称 ) 中東 アフガニスタン イスラム共和国 Islamic Republic of Afghanistan Afghanistan アラブ首長国連邦 United Arab Emirates United Arab Emirat

ご参考資料 オーナー経営者経営者の意識調査 - 概要 - 調査期間 2003 年 9 月 1 日 ~10 月 31 日 調査機関日本では ASG グループが本調査の主体になり 日経リサーチ社に調査を委託した 調査の一貫性を保つために 各国のデータの取りまとめは 国際的な調査機関である Wirthli

<4D F736F F D F4390B3817A4D42418C6F896390ED97AA8D758B60985E814091E63289F AE8E9197BF E646F63>

<4D F736F F D E937890AC96F18EC090D195F18D C A E646F63>

XV-521

<4D F736F F F696E74202D A B837D836C CA48F435F >

ニュースリリース

<4D F736F F F696E74202D202895CA8E86816A89638BC694E996A78AC7979D8EC091D492B28DB88A E >

DR-MH55

イノベーション活動に対する山梨県内企業の意識調査

Microsoft PowerPoint - 08economics4_2.ppt

1. 沖縄県における牛肉の輸出動向 2015 年は 輸出額が過去最高 数量 金額 2015 年は数量が 18,424 KG( 前年比 97.0%) 金額が 87 百万円 ( 同 111.8%) となり 輸出額が過去最高を記録しました 沖縄県の輸出額シェアは 1.1% となっています 国別金額シェア

最終デジタル化への意識調査速報

おカネはどこから来てどこに行くのか―資金循環統計の読み方― 第4回 表情が変わる保険会社のお金

「第12回信用金庫取引先海外事業状況調査結果 資料編」

PowerPoint プレゼンテーション

コード表.xls

CSR(企業の社会的責任)に関するアンケート調査結果《概要版》


XV-A550

第 1 章調査の実施概要 1. 調査の目的 子ども 子育て支援事業計画策定に向けて 仕事と家庭の両立支援 に関し 民間事業者に対する意識啓発を含め 具体的施策の検討に資することを目的に 市内の事業所を対象とするアンケート調査を実施しました 2. 調査の方法 千歳商工会議所の協力を得て 4 月 21

DR-MH50

新興国市場開拓事業平成 27 年度概算要求額 15.0 億円 (15.0 億円 ) うち優先課題推進枠 15.0 億円 通商政策局国際経済課 商務情報政策局生活文化創造産業課 /1750 事業の内容 事業の概要 目的 急速に拡大する世界市場を獲得するためには 対象となる国 地

有価証券報告書・CG報告書比較分析

エコノミスト便り

「組織マネジメントに関する調査」結果(概要)

ソーシャルセクター組織実態調査 2017 特定非営利活動法人新公益連盟 2017 年 12 月 6 日 Copyright 2017 Japan Association of New Public All Rights Reserved,

1. 世界における日 経済 人口 (216 年 ) GDP(216 年 ) 貿易 ( 輸出 + 輸入 )(216 年 ) +=8.6% +=28.4% +=36.8% 1.7% 6.9% 6.6% 4.% 68.6% 中国 18.5% 米国 4.3% 32.1% 中国 14.9% 米国 24.7%

[000]目次.indd

特許庁工業所有権保護適正化対策事業

ー ス 西濃シェンカー 西濃シェンカー う り う り 業 国 ロジスティクス市 業 業 大 成 り 業 う ー り く ー ス り 道 シェンカー ロジスティクス ーク カ国 所 西濃 国 カ ー 所 ク 市 業 成 り 海 ー ス 中 市 り 西濃シェンカー ェーン ー ス ロジスティクスセンタ

TCS_AI_STUDY_PART201_PRINT_170426_fhj

Microsoft Word - keiei04.doc

2019 年 3 月期決算説明会 2019 年 3 月期連結業績概要 2019 年 5 月 13 日 太陽誘電株式会社経営企画本部長増山津二 TAIYO YUDEN 2017

2. 利益剰余金 ( 内部留保 ) 中部の 1 企業当たりの利益剰余金を見ると 製造業 非製造業ともに平成 24 年度以降増加傾向となっており 平成 27 年度は 過去 10 年間で最高額となっている 全国と比較すると 全産業及び製造業は 過去 10 年間全国を上回った状況が続いているものの 非製造

概要 1. 概観 2. 中小企業向け事業分野における位置 3. 営業戦略 4. 要約 Seite 2

Transcription:

経済 産業 / 業界展望 中東電機市場の状況と日本企業の中東ビジネス発展へ向けてのインプリケーション 永井知美 ( ながいともみ ) 産業経済調査部シニア産業アナリスト 山一証券経済研究所外国企業調査部を経て 1999 年から東レ経営研究所勤務 日本証券アナリスト協会検定会員 2005 年 1 月から金融庁企業会計審議会委員 E-mail:Tomomi_Nagai@tbr.toray.co.jp Point ❶ 本誌 2010 年 5 月号掲載の 新興国市場としての中東地域 日本企業にチャンスはあるか ( 前編 ) では 中東地域が (1) 人口増加率が高い (2) 若年層が多い (3) 一定の富裕層が存在し 今後中間層の増加が見込まれる (4)( トルコを除いて ) 地元企業との競合がほとんどない (5) 日本製品を高く評価している ことなどから 日本企業にとって有望市場に成長する可能性があることを確認した ❷ 前編では 所得水準が高く人口規模が比較的大きいサウジアラビアとアラブ首長国連邦 (UAE) 人口規模が大きく 経済成長が期待されるエジプト トルコの 4 カ国を分析対象として 中東地域の自動車市場の状況を概観した 日本企業は UAE サウジアラビアといった所得水準の高い国では高いプレゼンスを誇っているものの 典型的な新興国市場であるエジプト トルコでは現代自動車 ( 韓国 ) に追い上げられている ❸ 後編では中東の電機市場の状況を概観する 電機市場では エジプト トルコはもちろんのこと 所得水準の高い UAE やサウジアラビアでも サムスン電子や LG エレクトロニクスのプレゼンスが高い ❹ 韓国メーカーは 現地ニーズを徹底的に研究し お値打ち品からハイエンドまで幅広い価格帯の製品を取り揃えて営業攻勢をかけ シェアを拡大している 日本メーカーは 新興国市場の中間上位層 富裕層には一定の支持を得ているが 今後市場拡大が期待される中間層からは 高品質ではあるが値段が高い とのイメージを持たれている ❺ 中東地域は 現地代理店を通じた販売が主流であること 統計が未発達であるため現地ニーズがつかみにくいなど 新興国市場特有の難しさもある ❻ 中東地域の電機市場では Made in Japan は依然として最上位ブランドに位置づけられているが 市場開拓に本腰を入れている韓国メーカーに対して劣勢に立たされている 日本企業は 現地ニーズに対応した製品の投入 製品ラインアップ拡充による中間層の取り込み等を図り 失地を回復する必要があるだろう 40 経営センサー 2010.6

1. はじめに本稿は 筆者が委員として参加 執筆した機械工業経済研究報告書 H21-2 新興国市場としての中東地域における日系企業の現状と展望 の第 4 章第 4 節 新興市場としての中東地域の特性と日系企業のビジネスの可能性 に加筆修正したものを 前号と今号の 2 回にわたって報告するものである 前号では 中東地域の市場としての特性と今後の可能性を検討したうえで 日本企業の中東地域での取り組みを 機械振興協会経済研究所が行ったアンケート 1 と国内外有力企業へのヒアリング内容を踏まえて 自動車業界を中心に報告した 本稿では 中東地域の電機市場への日本企業の取り組みを概観したあと 韓国企業の台頭著しいこの地域で 日本企業がビジネス発展に向けてどのような方策をとるべきか考察する 2. 中東地域における日本企業の取り組み テレビ市場 前編の自動車に続いて電機市場を概観する 残念ながら 中東地域の電機市場に関する統計は不十分である ここでは 中東アフリカという大きなくくりではあるが 2 統計が入手可能なテレビ市場を中心に 中東地域の現況と日本企業の対応を見ていきたい 調査会社ディスプレイサーチによれば 2010 年 1 3 月期の中東アフリカのテレビ市場が世界全体に占める割合は 7% 液晶テレビ市場における割合は同じく 4% に過ぎない ( 図表 1 2) だが 同市場は今後順調に拡大し 液晶テレビの出荷台数で 2013 年には日本を上回ると見られる ( 図表 3 ) 中東アフリカでは 液晶テレビが順調に販売台数を伸ばしている 液晶テレビで高シェアを取っ 図表 1 世界テレビ市場の地域別シェア (2010 年 1 ~ 3 月期 ) 図表 2 世界液晶テレビ市場の地域別シェア (2010 年 1 ~ 3 月期 ) 注 : 出荷台数ベース 総計 5,478 万台 出所 : ディスプレイサーチ 注 : 出荷台数ベース 総計 4,060 万台 出所 : ディスプレイサーチ 1 機械振興協会経済研究所は 中東及び近隣地域における日本企業のビジネスチャンスに関するアンケート調査 と国内外有力企業に対するヒアリング調査を行った 同アンケート調査は (2009 年 10 月 11 月実施 ) 東京商工会議所会員企業で従業員数 70 名以上の企業から抽出された 1,000 社を対象に行われた ( 金属製品製造業 204 社 一般機械器具製造業 369 社 電気機械器具製造業 205 社 輸送用機械器具製造業 120 社 精密機械器具製造業 156 社の計 1,054 社から抽出 ) 回収件数は 85 件 有効回答は 78 件 2 ディスプレイサーチの TV 市場調査における中東アフリカ地域は Algeria, Angola, Bahrain, Benin, Botswana, Burkina Faso, Burundi, Cameroon, Cape Verde, Central African Republic, Chad, Comoros, Congo, Cote d'ivoire, Djibouti, Egypt, Equatorial Guinea, Eritrea, Ethiopia, Gabon, Gambia, Ghana, Guinea, Iraq, Israel, Jordan, Kenya, Kuwait, Lebanon, Lesotho, Liberia, Libya, Madagascar, Malawi, Mali, Mauritania, Mauritius, Morocco, Mozambique, Namibia, Niger, Nigeria, Oman, Palestine, Qatar, Reunion, Rwanda, Sao Tome & Principe, Saudi Arabia, Senegal, Seychelles, Sierra Leone, Somalia, South Africa, Sudan, Swaziland, Syria, Tanzania, Togo, Tunisia, UAE, Uganda, Western Sahara, Yemen, Zambia and Zimbabwe 2010.6 経営センサー 41

経済 産業 / 業界展望 図表 3 液晶テレビの地域別出荷台数推移 ( 新興国市場と日本市場 ) 図表 4 中東アフリカの液晶テレビのシェア内訳 (2010 年 1 ~ 3 月 ) 注 :2010 年以降は予想値出所 : ディスプレイサーチ 注 : 出荷台数ベース 総計 170.1 万台 出所 : ディスプレイサーチ ているのはサムスン電子 LG エレクトロニクス ソニーであり ( 図表 4) 韓国メーカーのプレゼンスが高い 中東アフリカでは 日本の電機メーカーの主要ターゲットは中間上位層 富裕層である サムスン電子と LG エレクトロニクスもほぼ同じ層を狙っているが 高価格帯から値ごろ感のある商品まで幅広く取り揃え やや下の層までターゲットを広げている 薄型テレビは 日本から本格普及が始まった製品なのに なぜサムスン電子と LG エレクトロニクスが強いのだろうか サムスン電子で役員経験があり 現在 東京大学大学院経済学研究科ものづくり経営研究センターで特任研究員を務める吉川良三氏は 韓国メーカー躍進の理由に ものづくりのグローバル化とデジタル化にうまく対応したことを挙げている 吉川氏は 国際化とグローバル化は違うと指摘する 日本企業の海外進出は多くの場合国際化であり 海外市場においても日本のやり方で通している サムスン電子や LG エレクトロニクスは 韓国と海外市場では求められているものが異なるとまず認識したうえで 進出先のニーズを徹底的に調査してニーズに合わせた製品を投入する 日本の大手電機メーカーの多くは技術に重きを置き 最先端の製品をいかに低コストでつくるか にしのぎを削っている サムスン電子や LG エレクトロニクスは 最先端製品へのこだわりは強くなく 基礎研究より売れる製品の開発 ( 市場分析 商品企画 市場ニーズに応じた設計開発 ) を重視している 先進国市場より所得水準の低い新興国市場では 韓国 2 社の 売れる商品開発 という割り切りぶりは一層顕著である 他社 ( 主に日本メーカー ) の製品を研究し 現地でいらない機能を捨てる一方で ニーズのある機能を付加する 日本メーカーの場合 技術者とマーケティング担当者では 基本的に技術者の立場が強い 海外に展開する際も 商品開発は日本国内の技術者主導の場合が多く オーバースペックになりがちと言われている かつて 欧米先進国に進出した際はそれでも機能していたが 新興国市場では 必要な機能を盛り込んでいて手ごろな価格で手に入る商品 を求める傾向が強いので 技術重視で価格と機能のバランスは後回しになりがちな日本メーカーは 現地ニーズにすばやく対応し手ごろな価格で提供する韓国メーカーに押されている 中東地域の消費者ニーズへの対応例として LG エレクトロニクスの コーラン内蔵プラズマテレビ と メッカフォン がある コーラン内蔵プラズマテレビは 市場調査の結果 ホームシアターでコーランを聞いたり コーランを朗読するラジオ放送を聴いたりするイスラム教徒が多いことが 42 経営センサー 2010.6

分かり コーランの表示機能や朗読機能をつけている メッカフォンは イスラム教徒が 1 日 5 回 メッカの方向へ礼拝を行うことに注目し メッカの方向を指し示す機能を搭載している この他にも メッカフォンには コーランを音声と文字で同時提供する機能 1 日 5 回の礼拝時間を知らせる機能 礼拝中には受信を拒否して案内文字メッセージを自動発送する機能もついている コーラン内蔵プラズマテレビもメッカフォンも ヒットしたことは言うまでもない ヒアリング1 トルコ市場 韓国電機メーカー躍進の理由 ジェトロ イスタンブールセンターへのヒアリングよりトルコのデジタル家電市場ではサムスン電子と LG エレクトロニクスが強い 韓国メーカーシェア拡大の背景には ウォン安と販売攻勢がある 日系メーカー劣勢の理由としては 1 中途半端なスタンス ( ディーラービジネスによるリスクヘッジ ) 2オーバースペックが考えられる ブランド イメージについては 日本製品はブランド力があるが トルコは親韓的であり 韓国ブランドに対するイメージも悪くない したがって 日本製や日本ブランドのメリットは少ないといえる 日本ブランド品は 良い品物だが高い というイメージであり 中国メーカーの製品については信用がない トルコの消費者はアフターサービスを重視しており 中国製品が売れたこともあったが 低品質だったため 現在はあまり売れていない ブランドの順番としては 1 日本製 ( 耐久性はあるが高い ) 2 韓国製 台湾製 3 中国製 ( 品質に問題があるが安い ) である 視察 1 イスタンブール ( トルコ ) の家電量販店では韓国メーカーのプレゼンスが圧倒的 機械振興協会の家電量販店視察よりイスタンブールの高級ショッピング センター ASTORIA にある家電量販店で販売されていた薄型テレビは 多くがサムスン電子と LG エレクトロニクスの製品であり 日本メーカーはソニーと東芝が少しある程度だった 同スペック (46 インチ フル HD) で価格を比較したところ 東芝製品はサムスンの約 1.6 倍 近年 サムスン電子と LG エレクトロニクスは品質向上 派手で巧みな広告戦略でブランド イメージを向上させている インターブランドのブランドランキングによれば サムスン電子 (19 位 ) は ソニー (29 位 ) パナソニック(75 位 ) より上位である ( 図表 5) この家電量販店のサムスン電子コーナーには 販売員が張り付き購入を勧めてきたのに対して 日本メーカーのコーナーには販売員がいなかった これでは なぜ高価格なのか分からない 説明なしで韓国メーカーの 6 割高という価格で売るのは 相当難しいと思われる 図表 5 インターブランド社の世界ブランドランキング (2009 年 ) 1 コカコーラ 2 IBM 企業名 3 マイクロソフト 4 GE 5 ノキア 6 マクドナルド 7 グーグル 8 トヨタ自動車 9 インテル 10 ディズニー 11 HP 12 メルセデスベンツ 13 ジレット 14 シスコ 15 BMW 16 ルイ ヴィトン 17 マールボロ 18 ホンダ 19 サムスン電子 20 アップル コンピュータ 29 ソニー 33 キヤノン 39 任天堂 69 現代自動車 75 パナソニック 96 レクサス 注 :21 位以下は日韓企業のみ抽出 出所 : インターブランド 2010.6 経営センサー 43

経済 産業 業界展望 ヒアリング② Made in Japan プレミアムは 15 程度 大手電機メーカー A 社へのヒアリングより ヒアリング③ 最大のライバルは韓国メーカー SANYO Gulf FZE へのヒアリングより 家電製品からプラント 建機まで展開している デジタル家電から太陽光発電まで手掛けている 大手電機メーカー A 社は 中東地域でハイエンド SANYO Gulf FZE へのヒアリングでは ①韓国 製品を扱っており 日系大手各社 サムスン電子 メーカーとは購買層がほぼバッティングしており LG エレクトロニクスと競合している 競 合 が 一 番 厳 し い こ と ② 価 格 は 同 程 度 か サムスン電子は LED テレビを投入するなど戦 略がうまく 高級感を出すとともに韓国製を売り SANYO Gulf FZE 製品の方が安い との回答が あった 物にしている A 社としては 技術的優位性 超 Made in Japan なら韓国メーカーに勝てるかもし 薄型など を前面に出して対抗したい 消費者は れないが 実際には多くが Made in Asia であるた 中国製に抵抗があるため 中国製はあまり売れて 図表 6 いない模様である だが 日本メーカーの製品の ドバイモールにおける有力各社の展示例 1 LG エレクトロニクスの薄型テレビ 多くは Made in Japan ではなく Made in China か Made in 中国以外の海外 である 消費者 は Made in Japan 志向なのに Made in Japan 以外 で売るしかない 実物を見てもらって Made in Japan と変わらないことを体感してもらうように LGはMade in KOREAと 表示して展示している している 価格面で見ると ①日本メーカーの Made in Japan ②日本メーカーの Made in Japan 以外の製 品 ③韓国メーカーの Made in Korea で見た場合 ①の②と③に対するプレミアムは 最大で 15 と 考えている つまり ①が②や③より 15 以上高 ければ 消費者は②か③を選ぶということである 2 パナソニックの専門店 Made in Japan MATURI との表示も 視察② ドバイの売れ筋はサムスン製品 機械振興協会のショッピングセンター視察より 機械振興協会がドバイのショッピングセンター ドバイモール で行った視察によると 薄型テレ 3 シャープの薄型テレビ ビではサムスン電子製品が一番売れているとのこ とである 同スペックだと 日本メーカーの製品 シャープはJapan Made LCD Panel と表示して展示 している はサムスンより 1,000 ディルハム 3 は高い その 一方で Made in Japan への信頼は厚く パナソニッ ク製品が パネルが日本製であるため 売れてい る 図表 6 3 2010 年 5 月 27 日時点で 1 ディルハム 24.52 円 44 経営センサー 2010.6 出所 機械振興協会経済研究所 近藤信一氏

め十分に対抗できていない 環境とエネルギーの先進メーカーとしてのスタンスを前面に打ち出すことでブランド価値を高めていきたい 中国メーカー製品は 品質に信頼性がなく市場で受け入れられていないため 脅威は感じていない SANYO の製品でも Made in China 以外はないのか との問い合わせがある SANYO ブランドでも Made in China だと代理店に対する販売価格は 10% 程度低いのが当たり前である たとえ OEM 生産している製品でも品質管理は同じ基準なので 品質は同じであることを地道に訴えていくしかない Made in Japan であればよく売れるので 日本製神話 が健在であるといえる ただ Made in Japan でなければ ブランド イメージは韓国メーカーも含めて横並びである いかにブランド イメージを高めていくかが重要である ヒアリングから浮かび上がってきたのは 中東地域では日本メーカーの Made in Japan 製品は依然として最上位に位置づけられているが それ以外の国 地域で作ると韓国製と大差ないという事実である 中国製は ( たとえ日本メーカーが作ったものであっても ) あまり信用がない その一方で サムスン電子 LG エレクトロニクスは Made in Korea を前面に打ち出し ブランドの一段の向上を図っている サムスン電子 LG エレクトロニクスが中東市 図表 7 日系企業の代理店 ( ドバイ ) ソニー 東芝 三洋電機 パナソニック トヨタ自動車 ホンダ TOTO パイオニア ヤマハ 伊藤忠商事 川崎汽船 三菱商事 Jumbo Electronics Eastern Commercial Agencies Thomsun Sharaf Sharaf AL Ghurair 出所 : アサヒインターナショナル 中東ビジネスの現状 留意点と対応策 場の開拓に本腰を入れているのに比べると 日本の電機メーカーは 全般的に割高で製品展開も薄く 劣勢は否めない 3. 販売チャネルの構築次に 日本企業の中東地域における販売チャネルの状況を見ていきたい UAE サウジアラビア トルコ エジプトの 4 カ国中 UAE 以外の 3 カ国では外資 100% での会社設立が可能である ただ 中東地域は 法の適用状況であいまいな点があるなど人治的な面があること 人脈の重要度が高いこと 情報の入手が難しいこと 商習慣の違い 市場規模が小さいこと等から 独自の販売ネットワークを築いている日本企業は少ない UAE では 市場に参入する際 1 現地ナショナルズ 100% 資本の企業と 代理店契約 を結ぶか 2 現地ナショナルズ 100% 資本企業をパートナーとして 合弁企業 を設立しなければならない 現地の有力企業グループと代理店契約を結んでいる日本企業が多い ( 図表 7) 機械振興協会が実施したアンケートでも 同地域に進出している日本企業の販売チャネルは現地販売代理店 日系商社が多い ( 図表 8) 中東地域に進出している日系企業にとって 代理店販売 にはどのような課題があるのだろうか まず 早期に進出した企業では 代理店が複数の同業メーカーの商品を手掛けている場合がある 4 図表 8 中東地域で活用している販売チャネルは? ( アンケート結果 ) 37 営の販売 点 現地販売代理店 日系商社 その他 無回 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100(%) 5.4 8.1 18.9 27.0 56.8 出所 : 機械振興協会 中東及び近隣地域における日本企業のビジネスチャンスに関するアンケート調査 4 電機メーカーを例にとると 後発企業の方が複数の代理店からパートナーを選べるなど 選択の幅が広がっている 2010.6 経営センサー 45

経済 産業 / 業界展望 競合しているので 自社製品を重点的に売ってもらうよう働きかけなければならない 何らかの問題が発生した際も 代理店契約を解除するのは難しい 思うように売上が伸びない状況も考えられるので 代理店契約を結ぶ際は 出口戦略を考える必要がある ( 図表 9) 代理店は いかに儲けるか を重視して 効率よく売れる製品を求める傾向がある 日系企業は 代理店をどのようにコントロールしているのだろうか ヒアリング4 代理店との地道なコミュニケーションを重視 コマツ中近東へのヒアリングよりコマツ中近東は 販売自体は代理店に任せているが 現地法人が代理店サポートに注力している コマツ中近東は 代理店と Face to Face でコミュニケーションを 地道に とっていくことを重視しており アフターサービス 部品供給に加えて トレーニング ( サービス セールス 部品系について現地法人内でコースを設定している ) を行っている 現地ニーズの把握方法 ( マーケティング ) については 人材育成 がポイントであると考えている 中東市場でのアラブ人やトルコ人との交渉は非常に厳しいビジネスである したがって 営業系の人材育成 特に日本人駐在員のレベルアップ ( 代理店とコミュニケーションができる人材の育成 ) が必要であると考えている 中東地域で 代理店を途中で変えるのは困難の ようである かつては 売り手市場 であった代理店も今では 売らせてほしい という姿勢に変化しており 代理店に関する情報も増えている 情報を集めた上で 1オーナーが有能 2 資金豊富 3 販売力が強い代理店を選ぶ必要があるだろう 代理店のコントロールに関しては 市場や製品構成の変化に対応できていない代理店もあるため 商品特性や販売方法についてのセミナーを開催するなど 代理店向けの教育が重要である 中東地域は統計が未発達であり 代理店も販売データの開示に消極的なケースが多い 自動車販売においても 中東各国の総代理店に投入された 在庫としてある車を売る 方式をとり 売れた車の色などの経験値や市場動向から売れる車を予測し オーダーをかけている大手自動車メーカーもある 顧客ニーズをつかむため 1 代理店と取引先に出向く 2セミナー開催の際 Tier2 代理店の声を聞く などの対応をとっている企業もある 4. 中東ビジネス発展に向けてのインプリケーション (1) 存在感を高める韓国企業ここまで見てきたように 中東地域は市場として有望でありながら GCC 諸国の自動車市場以外では サムスン電子 LG エレクトロニクス 現代自動車といった韓国有力企業に押され気味である 日本国内では 韓国メーカーの自動車や電気製品を見かけることはめったにないが 一歩日本から出ると様相は全く異なる 欧米先進国でも新興 図表 9 単独事業と合弁事業のメリット デメリット ( サウジアラビアの場合 ) メリット デメリット 単独事業 重要事項の意思決定を自社でマネージできる 合弁相手の色がつかないので そのパートナーを嫌う企業とも取引が容易である 立上げからすべて自社でやらないといけないため 時間やコストがかかる 合弁事業 市場に関する情報が入りやすくなる 相手の経営資源 ( 人材 セールス ネットワークなど ) を活用できる可能性が高い 経営方針が合わない場合 現地法人として重要な意思決定が迅速にできない サウジ 100% 企業と課税体制が違うため 最終利益という観点から同じベースで協議できない 出所 : ジェトロ リヤド事務所 サウジ現地事業では 外資単独か サウジ資本との合弁か どちらが有利か (2007 年 11 月 16 日 ) 46 経営センサー 2010.6

国市場でも 韓国の自動車や電気製品のプレゼンスは高く 電気製品はかつての 安かろう悪かろう からプレミアムブランドに脱皮している 韓国は人口 4,869 万人 (2008 年現在 ) と日本に比べ市場が小さく 所得水準も低い 事業の拡大 成長を目指すには海外に出ざるを得ないことから サムスン電子 LG エレクトロニクス 現代自動車は 1990 年代後半頃から海外進出を本格化させた 韓国企業躍進の背景には 国内市場で多数の企業が激しい同質的競争を繰り広げ消耗戦に陥っている日本に比べ 韓国では電機 自動車 鉄鋼等の分野で有力企業が寡占状態にあり 余力があるという利点もある ウォン安も追い風となった だが 韓国有力企業躍進の本質は 企業の方針が明確であること 人材育成に成功していること ではないだろうか 今は飛ぶ鳥も落す勢いのサムスン電子も 1990 年代前半までは日本メーカーの後追い企業に過ぎなかった それが 1997 年の IMF 危機を契機に全社的に危機感が広がり 量から質への転換 海外市場への本格展開を進めていった 1オーナー企業であるため意思決定が早い 2 勝機と見ると大規模投資を行う 5 2 終身雇用ではないので 会社にとどまるには何が何でも結果を出さなければならないという事情もある これに対して日本メーカーは 技術水準では勝っているものの 全社的な戦略が不明確で何をするにも時間がかかるケースが多い LG エレクトロニクスのマーケティング重視の姿勢は前述したが サムスン電子もマーケティング重視の立場をとっている 2000 年からサムスン電子のグローバル マーケティングを支援していた飯塚幹雄氏は次のように語っている ( サムスンでは ) グローバルで使える技術や機能もギャラリー化して マーケティング担当者が選べるようにしています 例えば 欧州の北部やカナダは寒いので 洗濯機に温水機能が必要になります 東南アジアなど暑い国では 洗濯機にバクテリアを殺す装置を付加することも可能です こうした機能はギャラリー化されており 現地のマーケティング担当者は 自分の国に適した機能を自由に選ぶことができます 韓国の本社が決めるのではなく 現地主導で 自分たちの国の商品にはどのような機能が必要か 広告宣伝の図柄は何を使うのかを考える こうすることでマーケティング担当者は 自分たちが決めたという意識が強くなり モチベーションも高まって一生懸命売ろうとします ( 日経ビジネスオンライン 2010 年 2 月 2 日山崎良兵 ものづくり より 商品作り で負けた日本黒子が語るサムスン流マーケティングの強さ から ) 人材育成にも熱心である サムスン電子の 地域専門家制度 6 は広く知られているが 海外駐在員は英語のみならず現地語も習得する 習得が困難とされるアラビア語でも 中東地域に派遣された社員は 1 年程度でつたないながらも確実に会話できるようになるそうである 語学力は人材レベルの一部分を表すに過ぎないが 現地ニーズを本気で探ろうと思えば 現地語習得は大きな力となる 国内に約 1 億 3,000 万人の大市場を擁する日本メーカーと違って 韓国メーカーは海外が主戦場である 新興国市場でも技術重視で 売れなければ 高価格 を言い訳にできる日本メーカーとは対照的に 韓国メーカーはニーズを最優先にして商品を開発し 現地顧客にとっての 手の届く価格 をつけてシェアを拡大してきたのである 5 アジアを例にとると 本社主導でインド タイ ベトナム インドネシアなどターゲット国を決めて集中的に資源を投下する 6 サムスン電子の人材グローバル化の試みとしては 90 年代から開始された 地域専門家制度 が有名である 同制度は 世界各地に優秀な社員を送り込み 1 年間仕事をさせずに語学を学びながら海外で生活させるというもので 地域事情に通暁した社員の育成に資している 1 人当たり 1,000 万円程度かかるとされるが これまでに世界中に約 3,800 人を派遣している 2010.6 経営センサー 47

経済 産業 / 業界展望 (2) 日本企業の中東ビジネス発展に向けて中東地域では 今後 日本製品を購入できる層 の増加が予想される 韓国企業のプレゼンスが高まっているこの市場で 日本企業が収益を伸ばすには何が必要だろうか ここまで見てきたように 日本企業は GCC 諸国の自動車市場のように 先進国並みの所得があり 厳しい気候条件等から高い品質が求められる市場では成功しているが それ以外では必ずしもうまくいっていない 全般的な印象だが 日本企業が つくったものを売っている のに対して 韓国企業は 売れるものをつくっている 日本企業はこれまでの いいものであれば売れる という成功体験を一度忘れて 新興国市場で売れる製品作りに真剣に取り組まなければならないだろう 国 商品別に取るべき方策は異なると思われる 例えば 日本の自動車メーカーは GCC 諸国で高シェアを取っている 日本メーカーのターゲットは中間上位層 富裕層だが 日本より高価格であっても Made in Japan への安心感 信頼感の高さが購入に結びついている 日本メーカーは いたずらに価格競争に走ることなく Made in Japan のプレミアム維持に努めるべきだろう 一方 エジプト トルコのような所得が高くない国では 値ごろ感のある商品も前面に打ち出す必要がある 電気製品に関しては このままプレミアム感を強調して富裕層 ニッチ層を狙うのか 中間層でも手の届く値ごろ感のある商品も手掛けるのか決める必要がある 今後 中間層が拡大することを考慮すると 新興国向けの 必要な機能があり手の届く価格 の商品を投入するのが得策と思われる ただ 一方で 経済成長に伴い 中間層の所得水準が上がり 自動車や電気製品に対する要求水準が高まることも予想される たやすいことではないが ボリュームゾーンのみならず中間上位層や富裕層まで幅広い顧客層を満足させる製品ライ ンアップを展開することが理想と言えるだろう 中東地域の消費者は Made in Japan へ高い信頼を寄せている 問題は中間層の多くに いい製品だが高すぎる と思われている点である 他国企業の製品より割高であれば 価格差を補って余りある優れた点を消費者に訴求する必要があるし 現地で求められていない機能を削って価格を下げるという方策も考えられる いずれにせよ 現地ニーズを探って製品に反映させる努力をしなければならない また 中東地域の消費者は たとえ日本企業の製品であっても日本以外で作られた製品を胡散臭く思う傾向が強い Made in China Made in Egypt であっても 日本企業が作る以上 高品質であるということを広く認知させねばならないだろう 中東地域では 情報の少なさ 本社との意識の乖離 代理店法に代表される中東特有のビジネスのあり方 も 日本企業がビジネスを行う際の課題として浮かび上がってきた 統計が整備されておらず 販売も代理店 商社経由が主流であるため 需要 競合先動向の把握 ニーズの吸い上げが難しい ニーズをどう吸い上げて 競合と差別化を図り販売増に結び付けていくか 今後の課題といえる ヒアリングでは 現場と本社の意識の乖離が大きいことを指摘する声もあった 日本本社が考える重要市場は 多くの場合 1 日本 2 欧米 3 中国 4 中国以外の新興国であり 中東地域への関心は 残念ながら高いとはいえない サムスン電子 LG エレクトロニクスといった韓国企業に比べて現地への権限委譲が進んでいないとみられることも 現地ニーズを製品に反映させる際 マイナスに作用する恐れがある 中東地域は 代理店法に見られるようにビジネスのあり方が特有の面があり 一部の国では法律が遵守されない 7 あるいはインフラが未整備である等の問題を抱えている Made in Japan のプレミアムの強さを活かしつつ 7 大手自動車メーカーへのヒアリングによると 中東の現地工場から輸出しようとした際 非課税のはずなのに関税がかかったりすることがあるという 48 経営センサー 2010.6

競合とどう戦っていくか 日本企業の本気度が試されている 参考文献 1) 機械工業経済研究報告書 H21-2(2010) 新興国市場としての中東地域における日系企業の現状と展望 財団法人機械振興協会経済研究所 2) 沼上幹 (2000) わかりやすいマーケティング戦略 有斐閣アルマ 3) 畑村洋太郎 吉川良三 (2009) 危機の経営サムスンを世界一企業に変えた 3 つのイノベーション 講談社 4) 手島恵美 (2010) 日本勢 品質で家電市場をリード中韓企業躍進への対応 ( マレーシア ) ジェトロ日刊通商弘報 5) 此本臣吾 (2010) 新興国市場の成長と日本企業の戦略 NRI 知的資産創造 /2010 年 2 月号 特集 : 新興国市場に対応したビジネスモデルの再構築 より 2010.6 経営センサー 49