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5 技術論文 SUS34 鋼電解研磨面の不働態化処理 石見清隆 a,*, 井田義明 b, 津高文幸 c, 杉本克久 a マルイ鍍金工業 千葉 柏工場 ( 277 85 千葉県柏市大青田 692 ) b マルイ鍍金工業 本社 ( 672 823 兵庫県姫路市白浜町甲 42) c マルイ鍍金工業 姫路工場 ( 672 822 兵庫県姫路市白浜町宇佐崎南 29) d 東北大学名誉教授 ( 982 222 宮城県仙台市太白区人来田 2 8) Passivation Treatment of Electro-polished Type 34 Stainless Steel in Environmentally Friendly Organic Acid Solutions Kiyotaka ISHIMI a,*, Yoshiaki IDA b, Fumiyuki TSUTAKA c and Katsuhisa SUGIMOTO d a Chiba Kashiwa Factory, Marui Galvanizing Co., Ltd.(692-, Oaota, Kashiwa, Chiba 277-85) b Head office, Marui Galvanizing Co., Ltd.(42, Ko, Sirahama, Himeji, Hyogo 672-823) c Himeji Factory, Marui Galvanizing Co., Ltd.(-29, Usazaki-minami, Sirahama, Himeji, Hyogo 672-822) d Professor Emeritus, Tohoku University(2--8, Hitokita, Taihaku-ku, Sendai, Miyagi 982-222) d Anodic polarization curves of electro-polished Type 34 stainless steel were measured in organic acid solutions of eight types to develop a safe and environmentally friendly passivation treatment. The pitting potentials of the steel passivated in the solutions were examined in a deaerated 3.5%NaCl solution. Among the organic acid solutions, 8%DL-malic acid, 8%citric acid, 8%L-tartaric acid and 8%glucono-δ-lactone were found to be suitable as treatment solutions because of the low current densities(<.2 A m -2 )of the passive state and high pitting potentials(>7 mv vs. Ag/AgCl(sat. KCl))of the passive films. Passive films formed on Type 34 stainless steel by natural immersion into 8%DL-malic acid+.98%h 2 O 2, 8%citric acid+.98%h 2 O 2, 8%L-tartaric acid+.98%h 2 O 2 and 8%glucono-δ-lactone+.98%H 2 O 2 showed high pitting potentials(> mv)in NaCl solutions of 3.5% - saturation concentration. For solutions containing H 2 O 2, the pitting-potentialraising effects were greater on an electro-polished surface than on a buffer(#4)-polished surface. Keywords : Passivation Treatment, Organic Acid Solution, Type 34 Stainless Steel, Electropolishing, Pitting Potential. 緒言 医薬品工業, 食品工業などでは, ステンレス鋼製の製造装置が多く使われている これらの製造装置の内面は, 耐食性向上と洗浄性向上の観点から電解研磨処理がなされることが多い しかしながら, このような処理をされた装置においても, 製品の製造原料に塩分などが含まれているときには, 使用時間経過後装置内面に孔食が発生することがある 孔食部から溶出した金属イオンは製造物を汚染するので, 品質管理上の問題を引き起こす そのため, 電解研磨面の耐孔食性を一層向上させる方策が望まれている ステンレス鋼の耐孔食性を向上させるためには不働態皮膜の耐食性を高めることが重要であり, このための処理としては硝酸 (HNO ) 処理がよく知られている, HNO 処理によれば高い耐孔食性が得られるので, 既に工業的にも利用 されている しかし,HNO は強酸性であるため取り扱い作業の安全確保や使用済み廃液の中和操作などの環境保全対策が E-mail : kiyotaka_ishimi@e-marui.jp 3 必要である HNO 以外の酸化剤としては, 過酸化水素 (H O ) が検討されている, H O は, オキシドールとして家庭でも使用されているように, 低濃度であれば安全な薬品であるが, ステンレス鋼の表面状態によっては処理による耐孔食性向上効果が十分でないことから, 工業的に一般的に用いられるには至っていない 本研究では, 上述のような HNO の欠点を避けかつ HNO 不働態皮膜に匹敵する耐孔食性を有する不働態皮膜を電解研磨面に形成しうる化学的不働態化処理液を開発することを目的とする そのため, 取り扱い作業上の安全性が高くかつ環境負荷が低い電解液として, 以下の範疇のものを対象とした () 毒物及び劇物取締法 で毒物, 劇物に扱われない濃度範囲の無機酸化剤溶液 (2) 食品衛生法 に酸味料として規定されている有機酸溶液 (),(2) とも低濃度であれば人体にとって安全であり, 不働態化処理後装置内に残留しても人体や環境に有害な影響を及ぼす恐れが少ないと考えられる ステンレス鋼を化学的に不働態化させるためには, 一般に, 不働態化処理液中に酸化剤を添加する必要がある ここでは,

Vol. 67, 3, 26 SUS34 鋼電解研磨面の不働態化処理 5 酸化剤として () に該当する H O を取り上げ, これを不働態 化処理液に添加することを検討する H O は単独でも不働態 化効果を示すが, 低濃度ではその効果は十分ではないので, 他の不働態化処理液と組み合わせて有効に使用することを考える 次に, ベースとなる不働態化処理液としては,(2) に該当する有機酸溶液を検討する 有機酸の内キレート形成能のあるものは, 不働態皮膜中の Fe と反応するとキレートとして Fe を除去し, 皮膜の Cr 濃度を高める その様な有機酸でステンレス鋼表面を酸洗すると金属イオン溶出量の少ない表面が得られるので, 食品工業ではクエン酸がステンレス鋼容器の洗浄液 として, あるいは不働態化処理液 として, 用いられている 有機酸の酸化力は弱いので有効な不働態化処理液として用いられるケースは少ないが, 適当な酸化剤と組み合わせれば効果の高い処理液になる可能性がある 以上のような理由から, 本研究では, 種々の濃度の H O を添加した各種の有機酸中での電解研磨 SUS34 ステンレス鋼の不働態化処理を行い, 処理後 NaCl 溶液中で孔食電位を測定し, 高い耐孔食性が得られる H O と有機酸の組み合わせを探索した 2. 実験方法 2. 試料試料には電極部 (2 l 5 w.3(mm)) t に柄部 (8 l 3 w.3(mm)) t が付いた形状の SUS34 鋼薄板試験片 ( 組成 Cr:8.8,Ni:8.2,C:.5,Si:.6,Mn:.99,P:.3, S:.5 mass%( 以降 mass% は単に % と表示する )) を用いた 最終表面状態はバフ # 4 研磨仕上げおよびバフ # 4 研磨後電解研磨仕上げ ( 以降これを電解研磨と言う ) の 2 種類とした 電解研磨は,45 の硫酸 -リン酸電解液(98%H SO : 85%H PO = 3:( 容量比 )) 中で 8 V,36 s 間行った 電解研磨後, 純水洗浄, 純水超音波洗浄, 窒素ガス乾燥を順次実施した バフ # 4 研磨についても同様の後処理をした 2.2 電解液有機酸としては, 食品衛生法に規定されている有機酸である8%L- アスコルビン酸 (C H O ), 8 % クエン酸 (C H O ), 8%L- 酒石酸 (C H O ), 8 %DL- リンゴ酸 (C H O ), 8 % グルコノデルタラクトン (C H O ), 8 vol% 乳酸 ( C H O ), 8 vol% 酢酸 ( C H O ), 8 vol% グルコン酸 (C H O ) を用いた ( 注 : 溶液の場合の %( 質量 %) は溶液 g 中に含まれる溶質の g 数,vol%( 容量 %) は溶液 m ( cc) 中の溶質の m 数 ( cc 数 ) ) 上記の各有機酸に H O を x%(x =.98~3.5) 添加した溶液, すなわち 8% クエン酸 + x%h O 溶液,8%DL- リンゴ酸 + x%h O 溶液,8 vol% グルコン酸 + x%h O 溶液,8% グルコノデルタラクトン+x%H O 溶液,8%L- 酒石酸 + x%h O 溶液, を不働態化処理液として用いた ( これらの溶液を H O 添加有機酸溶液と総称する ) また, 比較のために, 無機不働態化処理液として kmol m Na SO + x%h O 溶液も使用した ( 注 :kmol m ( モル濃度 ) は m (l) の溶液中に含まれる溶質のグラム分子数 ) よく使用した 8%DL- リンゴ酸 +.98%H O 溶液は ph.9, 8% クエン酸 +.98%H O 溶液はpH.8,8%L- 酒石酸 + 3.98%H O 溶液は ph.7,8% グルコノデルタラクトン+.98%H O 溶液は ph 2.2 であった ベースの有機酸溶液の ph もこれらと同一であった 2.3 アノード カソード分極曲線の測定有機酸溶液中において, 電解研磨 SUS34 鋼の分極曲線を - 5 mv のカソード域から 2 mv のアノード域まで動電位法で測定した 分極曲線上で電流が に収斂する電位が自然電極電位であり, この電位よりも高い領域がアノード分極曲線, 低い領域がカソード分極曲線である なお, アノード分極曲線のみの測定においては, 自然電極電位から酸素発生電位までの分極挙動を測定した 測定にはポテンショスタットを用い, 電位掃引速度は.333 mv s, 溶液は N ガス脱気, 温度は 25 とした 照合電極には Ag/AgCl( 飽和 KCl) 電極を使用した 本文の電位は全てこの電極基準で示す なお測定においては, 試料の電極面 mm (2 l 5 w (mm)) となる部分以外を絶縁被覆 ( 主成分 : メチルエチルケトン ) した 2.4 定電位不働態化処理有機酸溶液中で測定したアノード分極曲線を比較し, 活性態ピーク電流密度が小さく, 不働態維持電流密度が小さく, そして過不働態溶解ピーク電流密度が小さい溶液を 6 種選んだ 選んだ 6 種の溶液中において, 不働態域の低い電位 ( 自然電極電位 ), 不働態域の中央付近の電位 (5 mv), および過不働態域の電位 (2 mv), の三つの電位で電解研磨 SUS34 鋼を不働態化処理した ただし, 自然電極電位での処理は自然浸漬状態で, そして 5 mv と 2 mv での処理は定電位で, 行った 処理時間は 2 h, 温度は 25 とした 2.5 化学不働態化処理 x =.98~3.5の範囲の8% クエン酸 +x%h O 溶液, 8%DL- リンゴ酸 + x%h O 溶液,8vol% グルコン酸 + x%h O 溶液,8% グルコノデルタラクトン+ x%h O 溶液,8%L- 酒石酸 + x%h O 溶液, および kmol m Na SO + x%h O 溶液へ各種表面研磨をした SUS34 鋼を浸漬することによって化学不働態化処理をした 処理時間は 2 h, 温度は 25 であった 2.6 塩化物溶液中での孔食電位の測定定電位的あるいは化学的に不働態化処理した試料について, 25, 脱気 3.5%NaCl 溶液中でのアノード分極測定から孔食電位を求め, 不働態化処理の違いによる耐孔食性の違いを検討した また,NaCl 濃度による耐孔食性の変化を知るために, 濃度 3.5% ~ 飽和の脱気 NaCl 溶液中でのアノード分極測定も行った さらに,3.5%NaCl 溶液中の孔食電位の差異が小さく耐孔食性の優劣の判断が難しい場合には, 脱気. kmol m HCl 溶液中でのアノード分極測定も実施した 分極曲線の測定方法と測定条件は, 溶液の違いを除けば,2.3 で述べたところと同じである 分極曲線は同一条件で 5 本測定した 分極曲線上の不働態維持電流域から孔食の成長によって電流が A m 以上まで急激に増加し始める電位を孔食電位とした なお, 本文中で示す孔食電位の値は, 測定された 5 本の分極曲線の内偏差の少ない 3 本から求めた平均値を指す 2.7 表面仕上げの違いが耐孔食性に及ぼす影響表面仕上げの違いが不働態化処理に及ぼす影響を知るために, バフ # 4 研磨および電解研磨 SUS34 鋼について, 各

52 文 種の H O 添加有機酸溶液中で不働態化処理し, その後脱気 3.5%NaCl 中でアノード分極曲線を測定した 得られた孔食電位の高低から, 表面仕上げと処理液の種類が耐孔食性向上効果に及ぼす影響を評価した 2.8 NaCl 溶液への長期間浸漬による耐食性の変化の測定不働態化処理で形成した不働態皮膜がその後腐食環境に曝された時, いつの時点で劣化するかを知る必要がある そのために,H O 添加有機酸溶液中で不働態化処理をした試料を大気開放,25,3.5%NaCl 溶液中に ~ 83 d 浸漬し, その後脱気 3.5%NaCl 溶液中で孔食電位を測定した 孔食電位の浸漬日数による変化から, 不働態化処理によって得られた皮膜の Cl イオンによる劣化過程を検討した また,83 d 浸漬後の各試料表面を走査電子顕微鏡 (SEM) で観察し, 孔食の発生の有無を調べた 2.9 X 線光電子分光法による皮膜組成の分析不働態化処理をした試験片表面をX 線光電子分光法 (XPS) で分析した 分析機器にはアルバック ファイ株式会社製 ESCA56Ci を使用した 分析には MgKα 線を用いた 線源の出力は 4 W, 電圧は 5 kv であった XPS スペクトルの測定はCs,Os,Cr2p,Fe2p,Ni2p,Mo3d の各電子について行った 測定した各スペクトルの結合エネルギーは, Cs ピークの結合エネルギーを 285. ev として補正した ( ev =.628 J) スペクトルの測定は生成したままの皮膜の表面およびこれに 6 s 間隔でアルゴンイオンスパッタリング ( 回当たり 6 s) を行った後の表面について行った アルゴンイオンの加速電圧は 4 kv であった 3. 結果と考察 3. 有機酸溶液中のアノード分極曲線不働態化処理液として検討したアスコルビン酸, クエン酸, L- 酒石酸,DL- リンゴ酸, グルコノデルタラクトン, 乳酸, 酢酸, グルコン酸の各溶液中における機械研磨 SUS34 鋼のアノード分極曲線が, これらの溶液中での同鋼の腐食特性を調べている研究の中で報告されている それによると, これらの酸の % 溶液中では明瞭な活性態電流ピークがアノード分極曲線上に自然電極電位より少しアノード分極した所に認められる このことは,% 以上の濃度のこれらの有機酸溶液中では SUS34 鋼の不働態化に必要な酸化剤の濃度が大きくなること, またある濃度の酸化剤を添加して不働態化させても酸化剤が消費されて濃度が下がると脱不働態化が起こり,SUS34 鋼に腐食が起こる可能性があることなどから,% 以上の溶液を不働態化処理液として用いるのは好ましくないことを示している そのため, 本研究では活性態電流ピークがほとんど出なくなる % 以下の濃度の溶液について検討した 8%L- アスコルビン酸,8% クエン酸,8%L- 酒石酸, 8%DL- リンゴ酸,8% グルコノデルタラクトン,8 vol% 乳酸, 8 vol% 酢酸,8 vol% グルコン酸の各有機酸溶液中における電解研磨仕上げ SUS34 鋼のアノード カソード分極曲線を図 に示す ( 自然電極電位 (- 4 mv 付近 ) の右側がアノード分極, 左側がカソード分極 ) いずれの溶液中のアノード分極曲線も自然電極電位付近の- 43 ~- 3 mv にごく小 32 さい活性態電流ピークを示した後不働態域に入っている 活性態電流ピークの大きさは, 何れの溶液でも.3~.9 A m であり不働態維持電流密度とほとんど同じ大きさであることから, 何れの溶液中でも電解研磨 SUS34 鋼は自然浸漬するだけで自己不働態化するとみられる ( したがって, 活性態電流ピークと呼んでいるが, 正しくは皮膜の欠陥を通して流れる酸化電流ピーク ) 不働態域(- 3 ~ 8 mv) では, アスコルビン酸を除き, 各溶液の不働態維持電流密度 (. ~.2 A m の範囲 ) にはほとんど差が無く, 不働態維持電流密度が最も小さくなる 5 mv における電流密度はグルコノデルタラクトン 乳酸 酢酸 リンゴ酸 クエン酸 酒石酸 グルコン酸である アスコルビン酸のみが 2 mv 付近から溶解を起こし,5 mv では.4 A m の溶解電流密度を示す 過不働態域 (8 ~ 3 mv) では,2 mv の所で比較すると, 溶解電流の大きさはアスコルビン酸 > 酒石酸 > 乳酸 >クエン酸 リンゴ酸 >グルコン酸 >グルコノデルタラクトン> 酢酸の順になっている 酸溶液の種類によって電位は異なるが, 約 3 mv 以上は酸素ガス発生域である 活性態域, 不働態域および過不働態域の電流密度が共に低い酸溶液が不働態化処理液として適していると考えると, 不働態域ではアスコルビン酸を除いたその他の酸の, また, 過不働態域ではアスコルビン酸と酒石酸を除いたその他の酸の,8% 溶液が有望である 3.2 有機酸溶液中で定電位的に生成した皮膜の耐孔食性各有機酸溶液中で自然電極電位 ( 約 - 38 mv), 不働態域の電位 5 mv, および過不働態域の電位 2 mv において皮膜を形成した試料の孔食電位を脱気 3.5%NaCl 溶液中で測定した その一例として,8%DL- リンゴ酸中で処理した試料のアノード分極曲線を図 2に示す 自然電極電位, 5 mv および 2 mv での処理に対して孔食電位はそれぞれ 463 mv,97 mv および 32 mv であることが分かる すなわち, 不働態域の 5 mv での処理が最も高い孔食電位を与えている 同様の測定を不働態化処理に用いた他の 7 種類の有機酸について行い, 不働態化処理電位と 3.5%NaCl 中での孔食電位の関係をまとめた結果を表 に示す 8%DL- リンゴ酸の場 Current Density,i / A m -2... 8% L-ascorbic acid 8% L-tartaric acid 8% DL-malic acid. -5 5 5 2 8vol% lactic acid 8% citric acid 8vol% acetic acid 8% glucono-δ-lactone 8vol% gluconic acid Fig. Anodic polarization curves of electro-polished Type 34 stainless steels in deaerated organic acid solutions.

Vol. 67, 3, 26 SUS34 鋼電解研磨面の不働態化処理 53 Current Density, i / A m -2 2mV Natural electrode potential(ca.-38mv) 5mV Current Density,i / A m -2.... 8% DL-malic acid+.75%h2o2 8% DL-malic acid+3.5%h2o2 8% DL-malic acid+7.%h2o2 8% DL-malic acid+9.8%h2o2 8% DL-malic acid+.98%h2o2. 8% DL-malic acid. -5 5 5 2 Fig. 2 Anodic polarization curves of electro-polished and then passivation-treated Type 34 stainless steels in deaerated 3.5%NaCl. Passivation treatment: Natural immersion or potentiostatic oxidation at 5 mv and 2 mv in deaerated 8%DL-malic acid solution for 2 h. Table Relationship between passivation treatment potential in organic acid solutions and pitting potential of electro-polished Type 34 stainless steel in deaerated 3.5%NaCl. Treatment Passivation treatment potential, E pass condition Natural Treatment solution Object of electrode 5 mv 2 mv measurement potential 8% DL-malic acid 463 97 32 8% citric acid 477 7 393 8% L-tartaric acid 457 86 27 Pitting potential,e pit /mv 8% glucono-δ-lacton 447 7 258 (vs.ag/agcl(sat.kcl)) 8vol% gluconic acid 427 667 257 8vol% lactic acid 427 38 33 8vol% acetic acid 4 39 383 8% L-ascorbic acid 353 46 53 合と同じように, 他の有機酸についても処理電位による孔食電位の高低は,5 mv 処理 > 自然電極電位処理 > 2 mv 処理の順になっている すなわち, 不働態域のほぼ中央の電位で形成した皮膜の耐孔食性が最も高い それに対して, 過不働態電位で形成した皮膜は孔食抑制効果が低い 8 種類の有機酸の中で,8% クエン酸および8%DL- リンゴ酸の 5 mv 形成皮膜はそれぞれ 7 mv および 97 mv の極めて高い孔食電位を示す これらの酸の自然電極電位形成皮膜の孔食電位もそれぞれ 477 mv および 463 mv であり, 自然浸漬だけでも比較的耐孔食性の高い皮膜を形成することができる 8% グルコノデルタラクトンおよび 8%L- 酒石酸中での 5 mv 形成皮膜の孔食電位はそれぞれ 7 mv および 86 mv であり, また, 自然電極電位形成皮膜の孔食電位もそれぞれ 447 mv および 457 mv と比較的高い したがって, 8% クエン酸,8%DL- リンゴ酸,8% グルコノデルタラクトンおよび 8%L- 酒石酸中 ( 特に前二者中 ) において 5 mv で処理すれば, 高い耐孔食性を持つ皮膜を形成することができる これらの酸中では, 自然電極電位においても比較的高い耐孔食性を持つ皮膜が得られる H O 単独溶液を用いて H O 濃度と SUS34 鋼の自然電極電位の関係を測定した結 33 Fig. 3 Anodic and cathodic polarization curves of electro-polished Type 34 stainless steels in deaerated 8%DL-malic acid and 8%DLmalic acid + x%h O (x =.98-9.8)solutions. 果によれば,.98%H O のときの自然電極電位は 44 mv であった したがって, 極少量の H O をこれらの酸に添加すれば, 処理に適した 5 mv 付近の電位を化学的に得られるのではないかと推測できる 3.3 H O 添加有機酸溶液中におけるアノード カソード分極曲線有機酸溶液へ H O を添加した場合,H O がどのような作用をするかを知るために,H O 添加有機酸溶液中においてアノード カソード分極曲線を測定した 一例として, 脱気した8%DL- リンゴ酸単独溶液および8%DL- リンゴ酸 + x%h O (x =.98~9.8) 溶液中の電解研磨 SUS34 鋼のアノード カソード分極曲線を図 3に示す ( 自然電極電位 (5mV 付近 ) よりも低電位側がカソード分極, 高電位側がアノード分極 ) 8%DL- リンゴ酸 + x%h O 溶液中の電解研磨 SUS34 鋼の自然電極電位は,.98%H O の 38 mv から 9.8%H O の 54 mv まで,H O 濃度の増加につれて高くなっている これらの電位はいずれも 8%DL- リンゴ酸単独溶液中の電解研磨 SUS34 鋼の不働態域にある 8%DL- リンゴ酸 + x%h O 溶液中のアノード カソード分極曲線の電流密度は,H O 濃度の増加につれて共に大きくなっている これに対して,8%DL- リンゴ酸単独溶液中の 5 mv 付近のアノード分極曲線は一定の微小な不働態維持電流を示すだけである このことより,8%DL- リンゴ酸 + x%h O 溶液中における 5 mv 付近を中心にしたアノード カソード分極曲線のカソード部分は H O の還元挙動を, またアノード部分は H O と SUS34 鋼の酸化挙動の重畳を表していると解することができる H O -H O 系電位 -ph 図における H O の酸化還元挙動は, Pourbaix と de Zoubov によって解説されている それに基づくと,5 mv 付近よりも低電位側のカソード分極域では, H O が H O へ還元され (H O +2H +2e 2H O), H O は酸化剤として作用する 一方,5 mv 付近よりも高電位側のアノード分極域では,H O の O への酸化 (H O O +2H +2e ) が行われる 8 mv 以上になると,SUS34 鋼の過不働態溶解電流が大きくなるので, アノード電流には

54 文 その影響が明瞭に顕われる 以上のように,8%DL- リンゴ酸に添加された H O は酸化剤として働き,.98~9.8% の添加により電解研磨 SUS34 鋼の電位を不働態域の 5 mv 付近に化学的に保持することができる 8% クエン酸 + x%h O 溶液および 8%L- 酒石酸 + x%h O 溶液についてもアノード カソード分極挙動は図 3と同じであり,H O の作用については 8%DL- リンゴ酸 + x%h O 溶液の場合と同様のことが言える 3.4 H O 添加有機酸溶液中で化学的に形成した皮膜の耐孔食性 5 mv 形成皮膜の耐孔食性が高かった有機酸溶液に H O を添加し,SUS34 鋼の自然電極電位が 5 mv 付近になるようにすれば, その溶液中に SUS34 鋼を自然浸漬することにより耐孔食性の高い皮膜を化学的に形成できることが期待される 図 4は,8%DL- リンゴ酸 +.98%H O,8% クエン酸 +.98%H O,8% グルコン酸 +.98%H O,8% グルコノデルタラクトン+.98%H O および 8%L- 酒石酸 +.98%H O の各溶液中に浸漬して不働態化処理した電解研磨 SUS34 鋼の脱気 3.5%NaCl 溶液中におけるアノード分極曲線を示す 図中には, kmol m Na SO +.98%H O 溶液中で処理した場合の例も示した リンゴ酸, クエン酸, グルコノデルタラクトン, 酒石酸をベースにした各溶液で処理した試料はいずれも過不働態域内の孔食電位を示し, 高い耐孔食性改善効果が得られることが分かる グルコン酸ベースの溶液で処理した試料は不働態域の高電位側で孔食を起こすが, やはり耐孔食性改善効果は認められる しかし,Na SO ベースの溶液で処理した試料は不働態域内の低い電位で孔食を起こし, 耐孔食性改善効果は得られなかった つぎに,H O 添加量の影響を知るために,x =~3.5% の範囲の各種有機酸 + x%h O 溶液中で処理した電解研磨 SUS34 鋼についても図 4と同様の測定を行った 得られた孔食電位の値を表 2にまとめて示す x =.98~3.5% のリ Current Density,i / A m -2.... kmol m -3 Na2SO4+.98% H2O2 8%gluconic acid+.98% H2O2 8%glucono-δ-lacton+.98% H2O2. 2 4 6 8 2 8%DL-malic acid+.98% H2O2 8%citric acid+.98% H2O2 8%L-tartaric acid+.98% H2O2 Fig. 4 Anodic polarization curves of electro-polished and then passivation-treated Type 34 stainless steels in deaerated 3.5%NaCl. Passivation treatment: Natural immersion in organic acid or inorganic salt solutions containing.98%h O for 2 h. Table 2 Pitting potentials of electro-polished and then passivation-treated Type 34 stainless steels in deaerated 3.5%NaCl. Passivation treatment: Natural immersion in organic acid or inorganic salt solutions containing x%h O for 2 h. Passivation treatment solution Pitting potential, E pit /mv (vs.ag/agcl(sat.kcl)) H 2 O 2 addition x= x=.98 (No addition) x=.75 x=3.5 8% DL-malic acid+x% H 2 O 2 46 48 7 3 8% citric acid+x% H 2 O 2 44 43 73 73 8% L-tartaric acid+x% H 2 O 2 463 5 6 53 8% glucono -δ- lactone+x% H 2 O 2 447 9 67 8% gluconic acid+x% H 2 O 2 427 763 78 94 kmol m -3 Na 2 SO 4 +x% H 2 O 2 377 38 - - ンゴ酸 + x%h O, クエン酸 + x%h O, 酒石酸 + x%h O およびグルコノデルタラクトン+ x%h O の各溶液で処理した試料は, すべて mv を超す高い孔食電位を示す それゆえ, これらの試料の表面皮膜の耐孔食性にはほとんど差がないと考えられる 一方, 同じ H O 濃度範囲のグルコン酸 + x%h O 溶液で処理した試料の孔食電位は 7 mv 台で, これらよりも少し低い したがって, グルコン酸ベース溶液による皮膜の耐孔食性は少し劣ると言える 高い耐孔食性を得るのに必要な H O 添加量については, 表 2に見るように, リンゴ酸, クエン酸, 酒石酸およびグルコノデルタラクトンベース溶液では, mv 以上の高い孔食電位が得られる H O 添加量は.98~3.5% であり, この濃度範囲では差がない それゆえ,.98%H O で十分と考えられる.98%H O 単独溶液で電解研磨 SUS34 鋼を処理したときの孔食電位は 84 mv である ( 後の図 6 参照 ) また,8%DL- リンゴ酸単独溶液で処理したときの孔食電位は 46 mv である ( 表 2のx=の欄参照 ) これに対して,8%DL- リンゴ酸 +.98% H O 溶液で処理した試料の孔食電位は 48 mv である ( 表 2) すなわち, リンゴ酸溶液への H O 添加により孔食電位が大幅に向上する このようなことは, クエン酸, 酒石酸, グルコノデルタラクトンの各溶液についても同様に認められる 上述のように,.98%H O を含む 8%DL- リンゴ酸,8% クエン酸,8%L- 酒石酸および 8% グルコノデルタラクトンの各溶液で処理した試料は, いずれも3.5%NaCl 中では mv 以上の高い孔食電位を示し, 耐孔食性の優劣が付け難い そこで, これらの試料については, 腐食環境がもう少し厳しい. kmol m HCl 溶液中で孔食電位を求めた 図 5 に脱気. kmol m HCl 溶液中での各試料のアノード分極曲線を示す アノード分極曲線から得られる孔食電位の高低をベース溶液で示すと, リンゴ酸 酒石酸 >グルコノデルタラクトン>クエン酸の順となる リンゴ酸処理と酒石酸処理はほぼ同等の耐孔食性を与えると考えられる しかし, 酒石酸処理皮膜は大気開放下 3.5%NaCl 浸漬では比較的早く劣化すること ( 後の 3.7 参照 ) および酒石酸は価格が高いこと ( リンゴ酸の約 4 倍 ) などの難点があるので, 工業的不働態化処理としてはリンゴ酸処理の方が優位であると思われる 34

Vol. 67, 3, 26 SUS34 鋼電解研磨面の不働態化処理 55 Current Density,i / A m -2..... 8%citric acid+.98% H2O2 8%L-tartaric acid+.98% H2O2 8%DL-malic acid+.98% H2O2 8%glucono- δ -lactone+.98% H2O2. 2 4 6 8 2 Fig. 5 Anodic polarization curves of electro-polished and then passivation-treated Type 34 stainless steels in deaerated. kmol m HCl. Passivation treatment: Natural immersion in organic acid solutions containing.98%h O for 2 h. した結果を図 7に示す 分極曲線の形状, 不働態維持電流密度および孔食電位の値は NaCl 濃度によってほとんど変化していない 孔食電位は 53 mv(3.5%nacl) から 5 mv(sat. NaCl) の範囲にある このような測定を8% クエン酸 +.98%H O,8%L- 酒石酸 +.98%H O,8% グルコノデルタラクトン+.98%H O の各溶液中で不働態化処理した電解研磨 SUS34 鋼についても行った いずれの溶液中で不働態化処理した試料の分極曲線も,8% DL- リンゴ酸 +.98%H O 溶液中で処理した試料と同様,NaCl 濃度による変化はほとんどなく, 高い孔食電位を示した すなわち,3.5% NaCl ~ 飽和 NaCl の範囲で,8% クエン酸 +.98%H O 溶液処理試料は 63 ~ 43 mv,8%l- 酒石酸 +.98% H O 溶液処理試料は 53 ~ 33 mv,8% グルコノデルタラクトン+.98%H O 溶液処理試料は 8 ~ 2 mv, の孔食電位を示した それゆえ,.98% H O を含む 8%DL- リンゴ酸,8% クエン酸,8%L- 酒石酸および 8% グルコノデルタラクトン 3.5 表面仕上げの違いが耐孔食性に及ぼす影響本研究では, 試料の表面仕上げは電解研磨を標準にしている 電解研磨によれば, 試料表面から研磨傷などの機械的欠陥や非金属介在物などの化学的欠陥を除去することができる したがって,H O 添加有機酸溶液による SUS34 鋼の耐孔食性改善効果も欠陥密度の小さい電解研磨面と欠陥密度の大きい機械研磨面では異なるものと考えられる このことを確かめるために, バフ # 4 研磨および電解研磨をした SUS34 鋼を.98%H O 単独溶液,8%DL- リンゴ酸 +.98%H O 溶液および 8% クエン酸 +.98%H O 溶液のそれぞれの中で不働態化処理し, その後脱気 3.5%NaCl 中でアノード分極曲線を測定した 得られたアノード分極曲線を図 6に示す バフ # 4 研磨試料のアノード分極曲線は, いずれの溶液中で不働態化処理をしたものも mv 付近から立ち上がり, 電位の上昇と共に電流密度が単調に増加する すなわち,H O 添加有機酸溶液による耐食性改善効果はほとんど認められない これに対して電解研磨試料のアノード分極曲線は,2 mv 付近からかなり高い電位まで不働態域を示し, その後不働態化処理液の種類に応じた孔食電位を示す.98%H O 単独溶液で処理した電解研磨面の孔食電位は 84 mv であるが,8%DL- リンゴ酸 +.98%H O 溶液および 8% クエン酸 +.98%H O 溶液で処理した電解研磨面の孔食電位は mv を超えている 以上のことより,H O 添加有機酸溶液による SUS34 鋼の耐孔食性改善効果は, バフ # 4 研磨面では小さいが電解研磨面では極めて大きいことが分かる このように, 耐孔食性改善効果が試料の表面研磨状態に大きく依存する現象は, 3%HNO 処理 および 3.5%H O 処理 についても認められている 3.6 濃度の異なる NaCl 溶液中における耐孔食性 H O 添加有機酸溶液中で不働態化処理した電解研磨 SUS34 鋼の耐孔食性が溶液の NaCl 濃度によってどのように変化するかを確かめた 電解研磨 SUS34 鋼を 8% DL- リンゴ酸 +.98%H O 溶液中で不働態化処理した後, 濃度 3.5% から飽和までの脱気 NaCl 溶液中でアノード分極曲線を測定 35 Current Density, i / A m -2.... Buffer #4 polishing/.98%h2o2 Buffer #4 polishing/ 8%DL-malic acid+.98%h2o2 Buffer #4 polishing/ 8%citric acid+.98%h2o2 Electropolishing/ 8%citric acid+.98%h2o2.98%h2o2. -2 2 4 6 8 2 Electropolishing/ 8%DL-malic acid+.98%h2o2 Electropolishing/ Fig. 6 Anodic polarization curves of passivation-treated Type 34 stainless steels with different surface finishing in deaerated 3.5%NaCl. Passivation treatment: Natural immersion in single.98%h O or organic acid solutions containing.98%h O for 2 h. Current Density, i / A m -2 Test solutions 3.5%NaCl : %NaCl : 2%NaCl : 25%NaCl : Saturated NaCl : Fig. 7 Anodic polarization curves of electro-polished and then passivation-treated Type 34 stainless steels in deaerated NaCl solutions with concentrations from 3.5% to saturation. Passivation treatment: Natural immersion in 8%DL-malic acid solution containing.98%h O for 2 h.

56 文 の各溶液で処理した試料は,3.5% から飽和までの NaCl 溶液中において十分高い耐孔食性を持っている 3.7 NaCl 溶液中に長期間浸漬した後の耐孔食性 H O 添加有機酸溶液で不働態化処理した電解研磨 SUS34 鋼を大気開放下の 3.5%NaCl 溶液に長期間浸漬した後脱気 3.5%NaCl 溶液中で孔食電位を測定した 測定結果の一例として,8%DL- リンゴ酸 +.98%H O 溶液で処理した電解研磨 SUS34 鋼の NaCl 溶液浸漬日数に伴うアノード分極曲線の変化を図 8に示す 浸漬日数が経過しても分極曲線の形状, 不働態維持電流密度および孔食電位の値にほとんど変化は見られない すなわち, この処理溶液中で形成された皮膜は 83 d 経過後もほとんど損傷を受けていない 同様の測定を他の溶液で不働態化処理した試料についても行い, 浸漬日数と孔食電位の関係を図 9にまとめて示す この図から以下のことが分かる 8%DL- リンゴ酸 +.98%H O 溶液処理試料は, 上述のように,83d の間 5 ~ mv の孔食電位を維持し, 孔食電位の低下は見られなかった 8% グルコノデルタラクトン +.98%H O 溶液処理試料および 8% クエン酸 +.98%H O 溶液処理試料は, d までは孔食電位に変化はなかったが, 83d では孔食電位はそれぞれ 85 mv および 77 mv に低下した 8%L- 酒石酸 +.98% H O 溶液処理試料は,d で孔食電位が 66 mv に低下した 以上のような浸漬日数による孔食電位の変化から判断すると, 不働態皮膜の塩化物による損傷に対する耐久性は,8%DL- リンゴ酸 +.98%H O 溶液処理皮膜が最も良く, 次いで 8% グルコノデルタラクトン +.98%H O および 8% クエン酸 +.98%H O 溶液処理皮膜がほぼ同等でそれに続き,8%L- 酒石酸 +.98%H O 溶液処理皮膜はこれらよりも少し劣っている 大気開放 3.5%NaCl 溶液中に 83d 浸漬後の 8%DL- リンゴ酸 +.98%H O,8% グルコノデルタラクトン+.98%H O, 8% クエン酸 +.98%H O の各溶液で処理した試料および d 浸漬後の 8%L- 酒石酸 +.98%H O 溶液で処理した試料の表面 SEM 写真 ( 倍 ) を図 (a)~( d) にそれぞれ示す いずれの試料も平滑かつ均一な電解研磨面のままであり, 孔食による侵食は全く認められなかった 8%DL- リンゴ酸 +.98%H O 溶液処理試料以外は, 浸漬試験終了時点で孔食電位は最初の値より低下しているが, この程度の低下では, 孔食の発生には至らないことが分かる 3.8 X 線光電子分光法による皮膜組成の分析結果.98%H O 溶液のみの処理および8%DL- リンゴ酸 +.98%H O 溶液処理について, 処理後の電解研磨 SUS34 鋼表面を XPS 測定した これらのうち,8%DL- リンゴ酸 +.98%H O 溶液処理した表面の XPS スペクトルのスパッタリング回数による変化を図 に示す スパッタリング回数 Pitting Potential, Epit / mv(vs.ag / AgCl(sat.KCl)) 8%citric acid +.98% H2O2 8%L- tartaric acid +.98% H2O2 Immersion Time, t / d 8%DL-malic acid +.98% H2O2 8%glucono- δ -lacton +.98% H2O2 Fig. 9 Pitting potential of electro-polished Type 34 stainless steel in deaerated 3.5%NaCl as a function of immersion time in aerated 3.5% NaCl solution. The electro-polished steel was passivated in organic acid solutions containing.98%h O for 2h and then immersed in aerated 3.5%NaCl at 25 for -83d before the measurement of pitting potential in deaerated 3.5% NaCl. Immersion time in aerated 3.5%NaCl d(before immersion) : (a) (b) Current Density, i / A m -2 d : d : 2d : 3d : 6d : d : 83d : (c) (d) Fig. 8 Change in anodic polarization curves of electro-polished and then passivation-treated Type 34 stainless steel in deaerated 3.5%NaCl with immersion time in aerated 3.5%NaCl. The electro-polished steel was passivated in 8%DL-malic acid +.98%H O solution for 2 h and then immersed in aerated 3.5%NaCl at 25 for -83d before the measurement of anodic polarization curves in deaerated 3.5%NaCl. 36 Fig. Scanning electron-micrographs of surfaces of electro-polished and passivation-treated Type 34 stainless steels after immersion in aerated 3.5%NaCl at 25. Passivation treatment was performed in(a)8%dl-malic acid +.98%H O,(b)8%citric acid+.98%h O,(c)8%glucono-δ-lactone+.98%H O, and (d)8%l-tartaric acid +.98%H O. Immersion time in aerated 3.5%NaCl: 83d for(a)-(c)and d for(d).

Vol. 67, 3, 26 SUS34 鋼電解研磨面の不働態化処理 57 Counting Rate, C R / counts / s 595 59 585 58 575 57 CrOOH 576.8eV sputtering:7 times Cr (42s) 574.eV 595 59 585 58 sputtering:9 times (54s) (a)cr2p sputtering: CrOOH 577.eV 575 57 Cr 574.4eV 565 565 8 6 73 725 72 75 8 sputtering:5 times (3s) 6 73 725 72 75 8 sputtering:7 times (42s) 6 (b)fe2p sputtering: Fe 2 O 3 7.eV Fe 76.8eV 7 Fe 2 O 3 7.8eV 7 75 Fe 76.9eV 75 Fe 77.eV 7 7 6 (c)os 5 sputtering: M-OH 532.eV 537 535 533 53 6 5 sputtering:2 times (2s) M-OH 532.eV 537 535 533 53 6 5 sputtering:4 times (24s) M-O 53.3eV 529 M-O 53.3eV 529 M-O 53.3eV 527 527 525 525 595 59 585 58 575 57 565 73 725 72 75 7 75 7 537 535 533 53 529 527 525 Binding Energy, E b / ev Fig. Changes in XPS spectra of electro-polished Type 34 stainless steel passivated in 8%DL-malic acid +.98%H O solution with frequency of sputtering. Total sputter time is given in parentheses.(a)cr2p /,(b)fe2p /,(c)os による変化の特徴は, 次の通りである から,53.3 ev ピークと 532. ev ピークから成っていると Cr2p / スペクトル ( 図 (a)): スパッタリングしていない 考えられる 53.3 ev ピークは酸化物型結合の酸素 (M-O 結 Cr2p / スペクトルは,577. ev にピークを示す このピーク 合,M: 金属 ) の結合エネルギー 529.6 ±.5 ev と一致して は,CrOOH の Cr2p / の結合エネルギー 577. ±.4eV と一 いる また,532. ev ピークは水酸化物型結合の酸素 (M-OH 致している それゆえ, 皮膜中のクロムは CrOOH の形で存 結合 ) の結合エネルギー 53.5 ±.6 ev と一致している ス 在していることが分かる スパッタリングを 7 回行なうと, パッタリング 4 回のスペクトルではほとんど 53.3 ev の スペクトルには CrOOH のピークに加えて 574. ev に別の M-O 結合のピークのみとなる ピークが現れる このピークは金属 Cr の Cr2p / の結合エネ 以上のことから, 皮膜は CrOOH 型結合の Cr,Fe O 型結 ルギー 574.4 ±. ev と一致している スパッタリングに 合の Fe および M-O 結合と M-OH 結合の O から成り, 皮膜 より皮膜が薄くなり, 下地の影響が顕われ始めたことを示し 上層部では M-OH 結合の割合が大きく, 逆に皮膜下層部で ている スパッタリング 9 回では,574.4 ev の金属 Cr のピー は M-O 結合の割合が大きいと言える クのみになる 皮膜の深さ方向の組成変化を知るために, スパッタリング Fe2p / スペクトル ( 図 (b)): スパッタリングしていない 時間に伴う XPS スペクトルの変化を測定した 各時間で測 Fe2p / スペクトルは,7. ev と 76.8 ev のピークからなる 定されたOs,Cs,Cr2p,Fe2p,Ni2p,Mo3d 電子のピー 7. ev のピークは,Fe O の Fe2p / の結合エネルギー ク強度比から皮膜構成元素の原子分率を半定量的に求めた 7.9 ±. ev と一致しており, また 76.8 ev のピークは 図 2(a) および (b) に.98% H O 溶液処理および 8%DL- リ 金属 Fe の Fe2p / 結合エネルギー 77. ±.3 ev と一致し ンゴ酸 +.98%H O 溶液処理の場合の皮膜構成元素の原子 ている これから, 皮膜中の鉄は Fe O の形で存在している 分率とスパッタリング時間の関係をそれぞれ示す クロム分 ことおよび下地由来の金属 Fe が検出されていることが分か 率の曲線から皮膜中の Cr が最も濃縮した部分の平均クロム る 5 回スパッタリングをすると Fe O ピークが小さくなり, 分率を求めると,.98%H O 溶液処理皮膜では 33.3at% であ Fe ピークが大きくなる 7 回スパッタリングをすると下地 り,8%DL- リンゴ酸 +.98%H O 溶液処理皮膜では 36.3at% からの Fe ピークのみとなる であった 8%DL- リンゴ酸 +.98%H O 溶液処理皮膜の方が, Os スペクトル ( 図 (c)): スパッタリングしていない 平均クロム分率が僅かに高い リンゴ酸はキレート剤であり, Os スペクトルは,53. ev にピークを示す このピークは 特定の金属原子 ( イオン ) に選択的に配位してキレート化合物 かなりブロード ( 幅広 ) なピークであり, 通常 SUS34 鋼の不 ( 錯体 ) を形成する作用がある このような作用によって皮膜 働態皮膜の Os ピークは水酸化物型結合の酸素によるピー 中の Fe 原子 ( イオン ) がキレート錯体として選択的に除去さ クと酸化物型結合の酸素によるピークの二つから成ること, れた可能性もある また, 酸素分率の曲線上で酸素分率が半 および 2 回スパッタリングすると 53.3 ev に主ピークを, 分になる時間から膜厚を求めると,.98%H O 溶液処理皮膜 そして 532. ev にショルダー ( 肩 ) を示すピークになること では 3.3nm,8%DL- リンゴ酸 +.98%H O 溶液処理皮膜で 37

58 文 Atomic Concentration, C at / at% Atomic Concentration, C at / at% 9 8 7 6 5 4 3 2 Os Cs Cr2p Fe2p Ni2p Mo3d 3 6 9 2 9 8 7 6 5 4 3 2 (a) (b) Sputter Time, t sp / s Os Cs Cr2p Fe2p Ni2p Mo3d 3 6 9 2 Sputter Time, t sp / s は 2.8 nm( それぞれ SiO 換算 7.83 - nm/s として ) となっ た 8%DL- リンゴ酸 +.98% H O 溶液処理皮膜は.98% H O 溶液処理皮膜よりも少し薄い Time until half rate of Os Time until half rate of Os Fig. 2 Composition of passive films as a function of sputter time obtained from counting rates of Os, Cs, Cr2p, Fe2p, Ni2p and Mo3d electron peaks in XPS spectra.(conversion rate: 7.83 nm/s as SiO ) (a).98%h O treatment,(b)8%dl-malic acid +.98%H O treatment 4. 結論 安全性が高くかつ環境負荷が低い不働態化処理液を開発することを目的として,8 種類の有機酸溶液およびこれに H O を添加した溶液中での電解研磨 SUS34 鋼のアノード分極挙動と不働態化処理後の耐孔食性について検討した 結果は以下のようにまとめられる ()8%DL- リンゴ酸,8% クエン酸,8%L- 酒石酸および 8% グルコノデルタラクトンの中でのアノード分極曲線の不働態維持電流密度は小さく, 不働態域の中央付近の電位 (5 mv) で形成した皮膜は高い孔食抑制効果を示す (2)8%DL- リンゴ酸 +.98%H O,8 % クエン酸 +.98%H O, 8%L- 酒石酸 +.98%H O および 8% グルコノデルタラクトン+.98%H O の各溶液への浸漬処理により形成 した不働態皮膜は,3.5% ~ 飽和 NaCl 溶液中で過不働態域の電位に相当する高い孔食電位を示す (3). kmol m HCl 中での孔食電位は,8%DL- リンゴ酸 +.98%H O および 8%L- 酒石酸 +.98%H O 溶液処理皮膜ではほぼ同程度で高いが,8% グルコノデルタラクトン+.98%H O および 8% クエン酸 +.98%H O 溶液処理皮膜ではこれらよりも低くなる (4)H O 添加有機酸溶液による不働態化処理の耐孔食性改善効果は, バフ # 4 研磨面ではそれほど著しくないが, 電解研磨面では顕著である (5)8%DL- リンゴ酸 +.98%H O 溶液処理試料は,3.5%NaCl へ 83d 浸漬しても孔食電位が低下しない 8% クエン酸 +.98%H O および 8% グルコノデルタラクトン+.98%H O 溶液処理試料はこれよりも少し早く, そして 8%L- 酒石酸 +.98%H O 溶液処理試料はさらに早く, 孔食電位が低下する (6)8%DL- リンゴ酸 +.98%H O 溶液処理皮膜は CrOOH 型結合のCr,Fe O 型結合のFe およびM-O 結合と M-OH 結合の O から成り, 皮膜上層部では M-OH 結合の割合が大きく, 皮膜下層部では M-O 結合の割合が大きい 膜厚は 2.8 nm であった (7) 以上の結果を総合すると,8%DL- リンゴ酸 +.98%H O 溶液処理による皮膜は,NaCl 溶液中における孔食電位が高いことおよび NaCl 溶液中に長期間浸漬しても孔食電位が低下しないことから, 検討した 8 種類の有機酸による処理皮膜の中で最も優れている (Received September 25, 25 ; Accepted December 28, 25) 文献 ₁ ) 金子智 ; ステンレス鋼便覧第 3 版, ステンレス協会編, p.47( 日刊工業新聞社, 995). ₂)ASTM A 967-5 Standard Specification for Chemical Passivation Treatments for Stainless Parts. ₃)T. Shibata ; Zairyo-to-Kankyo, 59, 464(2). ₄)K. Ishimi, Y. Ida, F. Tsutaka, K. Sugimoto ; J. Surf. Finish. Soc. Jpn., 65, 33(24). ₅ ) 毒物及び劇物取締法 ( 昭和 25 年 2 月 28 日法律第 33 号, 最終改正平成 3 年 6 月 29 日 ). ₆ ) 食品衛生法 ( 昭和 22 年 2 月 24 日法律第 233 号, 最終改正平成 2 年 6 月 5 日法律第 49 号 ). ₇) 原田和加太, 足立俊郎, 名越敏郎 ; 特開 2-3453(P2-3453A)(2). ₈)K. Takizawa, Y. Nakayama, Y. Shimizu, I. Tamura ; Boshoku Gijutsu (presently Zairyo-to-Kankyo), 35, 55(986). ₉)M. Pourbaix, N. de Zoubov ; Atlas of Electrochemical Equilibria in Aqueous Solutions, M. Pourbaix, p. 6(National Association of Corrosion Engineers, 974). )K. Ishimi, Y. Ida, F. Tsutaka, K. Sugimoto ; J. Surf. Finish. Soc. Jpn., 66, 58(25). )XPS(X 線光電子分光 ) データベース http://techdb.podzone.net 2)K. Sugimoto, K. Kishi, S. Ikeda, Y. Sawada ; J. Jpn. Inst. Met., 38, 54 (974). 38