STEP3 外来 地域 社会資源との連携 調整 連載最終回となる今回は, 宇都宮 1) による退院支援のプロセス3 段階のうち [STEP3: 外来 地域 社会資源との連携 調整 ] について, 連載第 2 回 ( 本誌 Vol.29,No.1) 第 3 回 ( 本誌 Vol.29,No.2) の同事例 ( 表 ) を用いて紹介する 入退院支援に関する記録の全体像を資料 1に示す STEP3とは, 患者 家族のニーズと社会資源を適合させ, 合意に基づき療養場所 療養方法を決定する段階を指す この段階では, STEP2で明らかになった課題に対する支援内容や継続する課題について, 地域関係者へ適切に引き継ぎを行う必要がある これまで3 回にわたり, 当院の入退院支援に関する記録の実際を紹介してきた しかし, 効果的な退院支援に結び付くような記録の活用については, まだ多くの課題が残されている 本稿では, 記録の活用についてのPFM(Patient Flow Management) 委員会での取り組みについても紹介する 療養環境の準備 調整 退院調整担当者の決定 地域 社会資源との連携 調整は, 患者 家族が希望する退院後の療養場所に応じて退院調整担当者を決めている 担当者は, 病状やADL に大きな変化がなく元の施設へ戻る場合は病棟 看護師, 在宅調整は退院調整看護師, 転院調整 は医療相談員 (MSW) である この事例では, 本人の 自宅に帰りたい と いう思いを家族も尊重し自宅退院となったた め, 退院調整看護師が担当した 退院前カンファレンス 退院前カンファレンスは, 患者 家族, 院内 27
と地域関係者が集まり, 退院後の生活について確認 検討を行う場である 話し合った内容は, 電子カルテの経過記録と アセスメントシート 入退院支援計画書 カンファレンス記録 のカンファレンス記録に記載する この事例では, 患者 家族にカンファレンスの目的や診療報酬上の負担について説明し, 同意を得てから日時 参加者を決定した また, 地域関係者には, 現在の病状や本人 家族の希望について事前に情報提供を行った カンファレンスは本人, 孫, 長男妻, ケアマネジャー, 訪問看護師, 主治医, 病棟看護師, 退院調整担当看護師が参加した 退院前カンファレンスの記録 ( 電子カルテの経過記録 )( 資料 2) 内容としては, 開催場所, 開催時間, 参加者, 診療報酬算定名 ( 介護支援連携指導料または退院時共同指導料 ), 退院までの課題, 話し合った内容などについて記載する この事例では, カンファレンスに参加した主治医から病状の経過説明と医療上の課題や注意 28
事項について説明され, 訪問看護師からは健康管理上必要な事項について質問があり, それらの内容について記載した 検討事項には, 退院後は一人暮らしのため夜間の排泄や入浴方法について記載した ただし, ここでは簡潔に記載し, 詳細はカンファレンス記録( アセスメントシート 入退院支援計画書 カンファレンス記録 ) 参照 とした カンファレンス記録 ( アセスメントシート 退院支援計画書 カンファレンス記録 )( 資料 3) カンファレンス記録は, 退院後も継続する課題や必要な支援について検討した結果を共有するための記録である カンファレンスに参加した病棟看護師または地域連携部門の担当者が作成し, 患者 家族 地域関係者に説明の上, 提供する ❶ID, 氏名, 生年月日 ( 自動記載 ) ❷ 退院前カンファレンスの実施日 ❸カンファレンスの種類介護支援連携指導料 退院時共同指導料の該当欄にチェックする この事例では, ケアマネジャーと訪問看護師の参加があり, 介護支援連携指導料, 退院時共同指導料にチェックを入れた ❹ 患者以外の相談者患者以外の退院後の療養にかかわる家族や地域関係者などを入力する 在宅療養でない場合などは, 施設関係者を入力する場合もある この事例では, キーパーソンに当たる孫と長男の氏名 続柄を入力した ❺ 担当者氏名医師, 担当看護師の名前を記載するほか, かかわりのある院内多職種にチェックを入れる 退院支援にかかわる認定看護師 ( 認知症看護や摂食 嚥下障害看護, 糖尿病看護など ) がいれ ばチェックを入れ, 氏名を入力する この事例では, 主治医と担当看護師の名前を入力すると同時に, 薬剤師, 栄養士, PT, OT,STにチェックを入れた ❻ 現在利用中のサービス基本情報で収集した介護保険, 障害者手帳, 難病に関する申請の有無をチェックする 介護保険サービスについては, 要介護度, 利用中のサービス, ケアマネジャーの事業所と氏名を入力する この事例では, 入院前にすでに介護保険の申請はされていたが, 介護度の認定は決定していなかったため, 暫定という形で担当ケアマネジャーから事前に情報提供があった よって, 介護保険は 申請中 にチェックすると同時に, 事業所名 担当者名を入力した また, 利用中のサービスは 訪問介護 と 福祉用具 にチェックを入れた 障害者手帳 難病申請は該当しなかった ❼ 退院にかかわる課題退院にかかわる課題について収集した情報を基に, 退院にかかわる医療上の課題 介護上の課題を整理してチェックを入れ, チェックだけでは伝わりにくい点は [ 具体的内容 ] に入力する この事例では, 医療上の課題を 有 とし, 次の項目にチェックを入れた 自己注射 創傷 リハビリ 食事 栄養管理( 減塩 塩分 6g 食) 服薬管理また, 介護上の課題も 有 として, 次の項目にチェックを入れた [ 日常生活動作 ] 食事 清潔 29
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更衣/ 整容 移動/ 移乗 排泄( トイレ, ポータブルトイレ, おむつ ) [ 手段的日常生活動作 ] 食事準備 買い物 洗濯 掃除 [ 具体的内容 ] は, 足の浮腫は治療で改善したが, 退院後は週 1 回自己注射を継続する必要があることや食事管理が重要であること, 環境調整の必要性などを入力した ❽ 退院後利用が予測される社会福祉サービス等話し合いで決定した退院後利用する社会福祉サービスにチェックを入れる この事例では, 利用する 制度 は介護保険にチェックを入れた 社会福祉サービス は, 訪問介護, 訪問入浴, 福祉用具, 在宅改修, ショートステイ, デイケア デイサービス, 配食サービスにチェックを入れた また, 夜間の排泄の問題や入浴について検討した内容を空欄に入力した 医療サービス は, 自己注射や健康管理の必要性から訪問看護, 日常生活動作の維持 向上の必要性から訪問リハビリにチェックを入れた ❾ 備考退院日程や退院までの準備, 今後の治療方針, 退院指導の進捗, 本人や家族の希望 不安などを入力する この事例では退院日程のほか, 退院後に管理が必要な事項, 退院後の通院先, 褥瘡の経過, 自己注射指導に関する進捗について入力した ❿ 患者側の参加者氏名患者側のカンファレンスの参加者名を入力する その際, 退院後のケアプランを共有することについて患者 家族の承諾を得る この事例では本人, 孫, 長男妻の氏名 続柄 を入力した ケアプランを共有することについ ては, カンファレンスの場で承諾を得た ⓫ 院内, 地域関係者の参加者 この事例では, 地域関係者はケアマネジャー と訪問看護師の参加があり, それぞれの氏名と 事業所 訪問看護ステーション名を入力した 院内参加者は医師, 病棟看護師, 退院調整担当 看護師の氏名を入力した 意思決定支援 方向性の共有 退院支援担当は, 退院後の療養を担う地域関 係機関との相談により, 退院日 退院手段 退 院時に必要な書類などを決定し, 患者にかかわ る院内の多職種に伝達する必要がある その伝 達方法として, 退院決定テンプレート ( 資料 4) を活用している 退院決定テンプレートは, 伝達 することの多い項目がチェック式になっている この事例では, 家族の迎えの都合に合わせて 退院日時を決定した また, 退院後は訪問看護 師が介入する予定であり, 看護介入の経過やリ ハビリテーションの経過を伝達するため, 看護 サマリーやリハビリ手帳の作成を病棟看護師, 理学療法士それぞれに依頼した さらに, 入院 前は患者は階段昇降がかなり大変だったが, 治 31
療により浮腫がだいぶ軽減したことから, 階段昇降は家族の介助により可能であることを確認し, 移送手段は一般のタクシーとなった これら院内の多職種で共有すべき事項について, 退院決定テンプレートに入力した 委員会での取り組みと今後の課題 PFM 委員会では, その活動において事例検討や知識習得のための勉強会を行い, 退院支援に関する課題についても話し合っている 2018 年度は各病棟から挙げられた入退院支援に関する問題点を次の3つに整理し, グループ活動による取り組みを行った 1. アセスメントシートへの記載が不十分である ( 入退院支援に必要な情報の不足 ) 2. 看護診断を立案できていないため, 退院指導の経過が分かりづらい 3. 医師からの病状説明の内容や自己決定支援についての記録が不十分である 1に対しては, アセスメントシートの中で特に記載できていない個所について, 記載例を示したものをポスターにまとめて各病棟に提示した 2に対しては, 退院指導が必要な患者 家族の状況に応じた看護診断の立案例を示した 3に対しては, 記録が不十分な要因に着目し, 退院支援への関心を高める意識改革に取り組んだ 具体的には, EveryDay 退院支援 という標語を作成し, 本日の受け持ちに退院支援対象者がいるか, 家族やケアマネジャーに確認することはないか, 他職種と積極的にコミュニケーションを図っているかなどについて呼びかけることから始めた これらの取り組みによって, アセスメントシートで空欄が多かった受容支援 自立支援欄への記載が増えたことや, 療養に関する本人や家族の希望欄が単に 自宅 ではなく, 本人 家族の家に帰りたい思いを言葉で記載すること が多くなったなど, 少しずつ取り組みの成果と しての手応えを感じている 入退院支援を充実 発展させていくために は, 今後も各病棟の PFM 委員が中心となって, 現場で発信 働きかけていくことが重要である と考える 本連載では 4 回にわたって当院の入退院支援 に関する記録を紹介した 超高齢社会を迎え, 国が推し進めている地域 包括ケアシステムの流れに沿って, 今後ますま す効率的な入退院支援が求められる 2018 年 度診療報酬改定でも, 退院支援加算から入退院 支援加算へと名称 算定要件が変更された 当 院においても, 入院前から早期にかかわれるよ うサポートセンター体制の見直しを行い, 別組 織だった地域医療連携室と患者サポートセン ターを 2019 年度, 患者支援センター として 組織統合した これまで入院してから行うことが常だった情 報収集は, 入院前から多職種でかかわれるよう な体制づくりへとシフトしはじめている 本連 載でこれまで紹介した入退院支援に関する記録 は, 退院支援のプロセスを理解しやすく導ける ように作成したものである 入院前からの情報 が適切に病棟へ引き継がれ, 入退院支援のプロ セスが継続され, 効率的な流れをサポートでき るよう, 今後も現状の問題点を整理し, 病院全 体で取り組んでいきたいと考える 32