反応槽 1m 3 あたりの余剰汚泥発生量 (kg/m 3 / 日 ) 2-(3)-2 高負荷運転による水質改善および省エネルギー効果について 流域下水道本部技術部北多摩二号水再生センター葛西孝司 須川伊津代 渡瀬誠司 松下勝一 1. はじめに 21 年度の制限曝気 A2O 法の調査 1 ) の過程で 反応槽の BOD 容積負荷量が全窒素 ( 以下 T-N) および全りん ( 以下 T-P) の除去に対して大きな影響を与えることが判明した この結果をもとに 生物学的窒素りん同時除去法の効果的な運転方法について確立するとともにその効果を実際に検証した 2.BOD 容積負荷と余剰汚泥発生量の関係 まず 余剰汚泥の発生量が T-N T-P の除去性能に影響を与えていることが分かったの で 最初に余剰汚泥発生量について記述する 水処理施設の設計では 余剰汚泥発生量は 流入水の SS および溶解性 BOD などから計算するようになっている 下水道施設計画 設計指針と解説 に記述されている余剰汚泥発生量の計算式を式 1 に示す 余剰汚泥発生量 ( kg/ 日 )= 流入水量 (m 3 / 日 ) { a 溶解性 BOD(mg/L)+b SS(mg/L)} -c MLSS(mg/L) 好気槽容積 (m 3 ) 式 1 ここで a : 溶解性 BOD の汚泥転換率 (.4~.6 g MLSS/gs-BOD) b:ss に対する汚泥転換率 (.9~ 1 : g MLSS/g SS) c : 汚泥の自己分解による減少係数 (.3~.5 : 1/ 日 ) 式 1 は 汚泥の発生源を流入水の溶解性 BOD および SS で 汚泥の減少量を自己分解す る割合で表現している 水処理の原理から 様々な処理方式に当てはまる式であるが 一 方で a, b, c の係数が余剰汚泥発生量に大きく影響してくる これに対して 21 年度の調査では 余剰汚泥発生量は BOD 容積負荷量に左右される ことが分かった 制限曝気 A2O 法および A2O 法について BOD 容積負荷量に対す る反応槽 1m 3 あたりの余剰汚泥発生量 の関係を図 1 に示す 制限曝気 A 2O 法および A2O 法の共通 の近似線から ATU-BOD 容積負荷が約.8kg/m 3 / 日以下では余剰汚泥が発生せ ず それ以上の負荷では直線的に増大す ることが分かる A 2O 法施設の設計では BOD 容積負荷は おおよそ.2kg/m 3 / 日 程度になる これに対して 1.5 倍程度 の.3 kg/m 3 / 日での運転では 余剰汚泥 発生量は 約 1.9 倍となり 結果的に 単位処理水量あたりの余剰汚泥発生量が 3 割ほど 多くなることを示している すなわち 処理水量を増大させ ATU-BOD 容積負荷を上げ ることで 処理水量当たりの余剰汚泥発生量が増大することになり 見方を変えると こ 図 1.4.3.2.1. -.1 制限曝気 A2O 法 A2O 法 y = 1.4296x -.1226 R² =.8149..1.2.3.4 ATU-BOD 容積負荷 (kg/m 3 / 日 ) BOD 容積負荷量と余剰汚泥発生量 - 129 -
余剰汚泥による窒素除去率 (%) T-P 除去量 (g/m 3 / 日 ) T-P 流入量 (g/m 3 / 日 ) 反応槽 1m 3 あたりの T-P 除去量 (g/m 3 / 日 ) の余剰汚泥発生量の増大によって T-N 除去率および T-P 除去率の向上が期待できる 3.BOD 容積負荷とりん除去の関係 活性汚泥に吸収されたりんは 余 剰汚泥として系外に排除されること から 余剰汚泥発生量が多くなるほ ど りん除去には有利といえる 余 剰汚泥の発生量は ATU-BOD 容積 負荷と相関が高いことから りん除 去との関係について 図 2 で確認す る 制限曝気 A 2O 法と A2O 法とも に 一つの近似線付近に点が集まっ ており 両者には りん除去の性能 に大きな差がないといえる また 図 2 の近似線を用いて ATU-BOD 容積負荷量から T-P の除去量を予測 することができる これを図示した のが図 3 である りん除去量の近似 線 ( 実線 ) は 図 2 から得られた ATU-BOD 容積負荷量に対する反応 槽 1m 3 当たりの T-P 除去量の近似線 を示している りんの流入量 ( 破線 ) は反応槽流入水の ATU-BOD を 1mg/L T-P を 3.5mg/L と仮定し て ATU-BOD 容積負荷を ~.4kg/m 3 / 日にまで変化させたとき の反応槽 1m 3 当たりの T-P 流入量との関係を示している りん除去量の近似線 ( 実線 ) は 原点を通過せず りんの流入量 ( 破線 ) よりも傾きが大きいため 両者の交点ができる ( 図 3 では ATU-BOD 容積負荷量で.28kg/m 3 / 日 ) BOD 容積負荷がこれ以上の条件では り ん除去量 りんの流入量 となるため りん除去が安定すると考えられる なお 図 2 の近似線は 降雨時等のデータが含まれているため 降雨の影響のないときでは T-P 除去量はやや上昇する 原理的には 処理水量を増大させ BOD 容積負荷の高い運転を行 うことで りん除去が安定すると考えられる 14 12 1 8 6 4 2-2 図 2 BOD 容積負荷量と反応槽 1m 3 あたりの 16 12 8 4 制限曝気 A2O 法 A2O 法 T-P 除去量 図 3 BOD 容積負荷量と反応槽 1m 3 あたりの りん除去 y = 52.146x - 4.7259 R² =.8175..1.2.3.4 T-P 除去近似線 T-P 流入量 y = 35x ATU-BOD 容積負荷 (kg/m 3 / 日 ) y = 52.146x - 4.7259.1.2.3.4 ATU-BOD 容積負荷量 (kg/m 3 / 日 ) 4.BOD 容積負荷と窒素除去の関係窒素について BOD 容積負荷量と余剰汚泥による T-N 除去率の関係を図 4 に示す ATU-BOD 容積負荷が高くなるほど余剰汚泥による窒素の除去率が上昇する傾向がみられ 窒素除去に対しても有利になることが分かる 4 3 2 1 制限曝気 A2O 法 A2O 法..1.2.3.4 ATU-BOD 容積負荷 (kg/m 3 / 日 ) 図 4 BOD 容積負荷と窒素除去率 - 13 -
全りん累積負荷量 (t) 全窒素累積負荷量 (t) 5. 高負荷運転への変更これまで述べてきたように 従来の A 2O 法に比べて 処理水量を増大させ 高負荷で運転することで余剰汚泥の発生量は増大し 処理水の T-P T-N ともに改善できると考えられる また この効果は 活性汚泥処理全般に共通し 標準法にも当てはまると考えられる そこで 21 年 12 月から使用する反応槽をこれまでの 3 系列から 2 系列分に縮小して 各反応槽への負荷量を増大させた運転方法に切り替えた 具体的な変更内容を図 5 に示す 変更前 休止施設 変更後 1-1 系反応槽 1-2 系反応槽 1-1 系二沈 1-2 系二沈 1-12 系反応槽 1-21 系反応槽 1-1 系二沈 1-2 系二沈 2-2 系反応槽 2-3 系反応槽 2 系二沈 3 系一沈 3 系反応槽 3 系二沈 3 系一沈 4 系反応槽 4 系二沈 4 系反応槽 4 系二沈 使用数量 第一沈殿池反応槽第二沈殿池第一沈殿池反応槽第二沈殿池 1 池 3 系列 3 池 1 池 2 系列 3 池図 5 高負荷運転への切り替え各系列への処理水量を増大させると二沈での汚泥の越流が懸念される これまで使用していた 3 系反応槽は 4 回路の押し出し流れ構造であるため 反応槽内の一部を切り離して停止することはできないが 1 系および 2 系の反応槽は 4 つの水路にそれぞれ分かれているため 1 水路ずつ個別に運転することができる このため 4 つある水路の中央 2 水路分のみを使用して 使用する二沈の数は変更せずに反応槽の容積を 2 / 3 に縮小する運転に切り替えた この運転変更によって 反応槽の BOD 容積負荷は 5 割増大させることができ かつ 反応槽に対する二沈容積が 2 倍になるため 高い MLSS での運転が可能となった 6. 水質改善効果 水質改善効果を確認するため 公共用水域への排出負荷量を年度ごとに比較する T-P について図 6 に T-N について図 7 に示す 18 2 16 18 14 12 1 8 6 運転変更 19 年度 2 年度 21 年度 22 年度 16 14 12 1 8 6 空気量の調節 19 年度 2 年度 21 年度 22 年度 4 2 4 2 運転変更 4/1 6/1 8/1 1/1 12/1 2/1 4/1 6/1 8/1 1/1 12/1 2/1 図 6 年度別 T-P 累積負荷量 ( 排出量 ) 図 7 年度別 T-P 累積負荷量 ( 排出量 ) - 131 -
受水量 1m 3 あたりの送風機電力 (kwh/m 3 ) 日平均受水量 (m 3 / 日 ) 受水量 1m 3 に対する濃縮 脱水にかかる消費電力 (kwh/m 3 ) 受水量 1m 3 あたりの余剰汚泥発生量 (kgds/m 3 ) 放流水質は 降雨などの影響で変動が大きいが 負荷量の累積値を用いることで比較が容易になる T-P の負荷量 ( 排出量 ) では 平成 21 年 12 月の運転変更後 下がり始め 21 年度末には 2 年度と比べて 2 割低下した 負荷量の低下は 22 年度も継続しており 22 年度末時点では 2 年度に比べて 4 割 6 分減 21 年度に比べて 3 割減となり T-P 負荷量の削減が確認できる 一方 T-N については 平成 21 年 4 月に行った空気量の調節による効果が大きかった それまで ほぼゼロであった処理水のアンモニア性窒素を.5 ~ 1mg/L 程度になるように曝気空気量を調節した その結果 反応槽および二沈での脱窒量が増大したと考えられる 21 年度の負荷量は前年比で 22% 減であった 22 年度は 21 年度とほぼ同じ値であり T-N 負荷量削減の効果は継続している 7. 省エネルギー効果省エネ効果について比較するため 5 年間の日平均値について 受水量 1m 3 あたりの送風機電力を図 8 に 濃縮と脱水 ( 以下 汚泥処理 ) にかかる消費電力を図 9 に示す 生汚泥投入あり.15 送風機電力 受水量 75,.5 濃縮 脱水の電力 1.12 6,.4 余剰汚泥発生量 8.9 45,.3 6.6 3,.2 4.3 15,.1 2. 18 年度 19 年度 2 年度 21 年度 22 年度. 18 年度 19 年度 2 年度 21 年度 22 年度 図 8 送風機電力の比較 図 9 汚泥処理にかかる消費電力の比較 高負荷運転への切り替えは平成 21 年 12 月であるため 21 年度のデータは約 4 ヶ月間高負荷運転をおこなった結果である 受水量 1m 3 あたりの送風機電力は 受水量が極端に多かった 2 年度に低かった 完全に高負荷運転に切り替えた 22 年度は比較的降雨が少なかったが 2 年度と同程度であり 省エネ効果もあるように思われる 高負荷運転では 系列あたりの曝気空気量が増大する 散気板の特性として 通気量が増すほど酸素移動効率が低下することから 負荷量が高すぎると 送風機電力の削減効果が小さくなると考えられる 当センターでは 各系列ともに設計水量の 2 倍近い量を処理しているため 散気板の使用範囲の上限付近で運転する時間帯が少なくない このため 送風機電力の削減効果が比較的少なかったと考えられる 今回は BOD 容積負荷を 5 割増大させたが 停止する反応槽を調節することで さらに 省エネ効果が生まれる可能性がある 汚泥処理では A 2O 法施設への生汚泥投入を行っていた 18 年度および 19 年度のデータを除き 22 年度の余剰汚泥発生量 ( 固形物 ) は 2 年度と比較して 2 割近く多く 高負荷による余剰汚泥発生量 ( 固形物 ) の増大が確認できる その一方で 汚泥の濃縮 脱水にかかる電力は下がる傾向であった 22 年度は 返送汚泥量の調節により 余剰汚泥濃度を高くして 遠心濃縮機の運転時間の短縮を行っている これが汚泥処理にかかる消費電力 - 132 -
の低下につながっており 運転方法の工夫によって 余剰汚泥発生量 ( 固形物 ) の増大に よる影響は吸収できるといえる 8. まとめ使用する反応槽の縮小化によって T-N および T-P の除去率が向上することがわかった 特に りんについては 公共用水域への負荷量を大幅に削減できた 一方 省エネ効果では 送風機電力の削減はわずかであったが 使用する反応槽の調節によって さらに改善できる可能性がある 参考文献 1) 葛西孝司他 : 制限曝気 A 2 O 法による水質改善効果および処理コストの比較 東京都下 水道局技術調査年報 21-133 -
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