令和元年 10 月 18 日 がん免疫療法時の最適なステロイド剤投与により生存率アップへ! 名古屋大学大学院医学系研究科分子細胞免疫学 ( 国立がん研究センター研究所腫瘍免疫研究分野分野長兼任 ) の西川博嘉教授 杉山大介特任助教らの研究グループは ステロイド剤が免疫関連有害事象 1 に関連するよう

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法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

制御性 T 細胞が大腸がんの進行に関与していた! 腸内細菌のコントロールによる大腸がん治療に期待 研究成果のポイント 免疫細胞の一種である制御性 T 細胞 1 が大腸がんに対する免疫を弱めることを解明 逆に 大腸がんの周辺に存在する FOXP3 2 を弱発現 3 する細胞群は がん免疫を促進すること

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

免疫を使ったがん治療法の検討約 150 年前 免疫ががん治療に活かせるのではないかと考えた医師ががん患者に細菌を感染させて免疫を刺激し がんに対する免疫治療効果を確認する実験を行いました この時には十分な治療効果は現れませんでした 当時は免疫に対する研究が今ほど進んでおらず 免疫の仕組みを理解しない

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小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe


研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

学位論文の要約 免疫抑制機構の観点からの ペプチドワクチン療法の効果増強を目指した研究 Programmed death-1 blockade enhances the antitumor effects of peptide vaccine-induced peptide-specific cyt

平成 28 年 2 月 1 日 膠芽腫に対する新たな治療法の開発 ポドプラニンに対するキメラ遺伝子改変 T 細胞受容体 T 細胞療法 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 脳神経外科学の夏目敦至 ( なつめあつし ) 准教授 及び東北大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 下瀬川徹

これまで, 北海道大学動物医療センターの高木哲准教授, 同大学院獣医学研究院の今内覚准教授及び賀川由美子客員教授らは, イヌの難治性の腫瘍においても PD-L1 が頻繁に発現していることを報告してきました そこで, イヌの腫瘍治療に応用できる免疫チェックポイント阻害薬としてラット -イヌキメラ抗 P

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

がん免疫療法モデルの概要 1. TGN1412 第 Ⅰ 相試験事件 2. がん免疫療法での動物モデルの有用性がんワクチン抗 CTLA-4 抗体抗 PD-1 抗体 2

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

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今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

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報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク


発表者の利益相反関連事項開示 発表者氏名岩澤俊一郎所属 / 身分千葉大学医学部附属病院臨床腫瘍部 / 講師 企業の職員 法人の代表 企業等の顧問職 株式等 講演料等 原稿料等 研究費 ( 治験等 ) 寄附金 専門的助言 証言 臨床試験実施法人の代表 その他 ( 贈答品等 ) 該当なし 該当有りの場合

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

平成14年度研究報告

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するものであり 分子標的治療薬の 標的 とする分子です 表 : 日本で承認されている分子標的治療薬 薬剤名 ( 商品の名称 ) 一般名 ( 国際的に用いられる名称 ) 分類 主な標的分子 対象となるがん イレッサ ゲフィニチブ 低分子 EGFR 非小細胞肺がん タルセバ エルロチニブ 低分子 EGF

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RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

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抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

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60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

八村敏志 TCR が発現しない. 抗原の経口投与 DO11.1 TCR トランスジェニックマウスに経口免疫寛容を誘導するために 粗精製 OVA を mg/ml の濃度で溶解した水溶液を作製し 7 日間自由摂取させた また Foxp3 の発現を検討する実験では RAG / OVA3 3 マウスおよび

ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

平成 30 年 2 月 5 日 若年性骨髄単球性白血病の新たな発症メカニズムとその治療法を発見! 今後の新規治療法開発への期待 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 門松健治 ) 小児科学の高橋義行 ( たかはしよしゆき ) 教授 村松秀城 ( むらまつひでき ) 助教 村上典寛 ( むらかみ

界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

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大腸癌術前化学療法後切除標本を用いた免疫チェックポイント分子及び癌関連遺伝子異常のプロファイリングの研究 

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

手術 抗がん剤 放射線に次ぐ第 4の治療法として期待されるがん免疫療法 いくつかの免疫チェックポイント阻害薬の効果が認められ承認されたことで がん治療におけるがん免疫療法の位置づけは大きく変わりました 今特集では がん治療の新時代の扉を開いたといわれる がん免疫療法について そのしくみや効果に関する

Wnt3 positively and negatively regu Title differentiation of human periodonta Author(s) 吉澤, 佑世 Journal, (): - URL Rig

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疫学研究の病院HPによる情報公開 様式の作成について

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

米国で承認された エロツズマブ という新薬について Q&A 形式でご紹介します Q&A の監修は 新潟県立がんセンター新潟病院内科臨床部長張高明先生です Q1: エロツズマブという薬が米国で承認されたと聞きましたが どのような薬ですか? エロツズマブについてエロツズマブは 患者さんで増殖しているがん

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

ルス薬の開発の基盤となる重要な発見です 本研究は 京都府立医科大学 大阪大学 エジプト国 Damanhour 大学 国際医療福祉 大学病院 中部大学と共同研究で行ったものです 2 研究内容 < 研究の背景と経緯 > H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 1996 年頃中国で出現し 現在までに

研究成果の概要 今回発表した研究では 独自に開発した B 細胞初代培養法 ( 誘導性胚中心様 B (igb) 細胞培養法 ; 野嶋ら, Nat. Commun. 2011) を用いて 膜型 IgE と他のクラスの抗原受容体を培養した B 細胞に発現させ それらの機能を比較しました その結果 他のクラ

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

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るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

研究成果報告書

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

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< 研究の背景 > 肉腫は骨や筋肉などの組織から発生するがんで 患者数が少ない稀少がんの代表格です その一方で 若い患者にしばしば発生すること 悪性度が高く難治性の症例が少なくないこと 早期発見が難しいことなど多くの問題を含んでいます ユーイング肉腫も小児や若年者に多く 発見が遅れると全身に転移する

研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

2. ポイント EGFR 陽性肺腺癌の患者さんにおいて EGFR 阻害剤治療中に T790M 耐性変異による増悪がみられた際にはオシメルチニブ ( タグリッソ ) を使用することが推奨されており 今後も多くの患者さんがオシメルチニブによる治療を受けることが想定されます オシメルチニブによる治療中に約

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( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

上原記念生命科学財団研究報告集, 28 (2014)

平成24年7月x日

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

11 月 16 日午前 9 時 ( 米国東部時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学 技術振興機構 (JST) より移管されたものです 研究の背景 近年 わが国においても NASH が急増しています

スライド 1

平成24年7月x日

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

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令和元年 10 月 18 日 がん免疫療法時の最適なステロイド剤投与により生存率アップへ! 名古屋大学大学院医学系研究科分子細胞免疫学 ( 国立がん研究センター研究所腫瘍免疫研究分野分野長兼任 ) の西川博嘉教授 杉山大介特任助教らの研究グループは ステロイド剤が免疫関連有害事象 1 に関連するような自己抗原 2 に対する親和性 3 が低い CD8 陽性 T 細胞に対して選択的に脂 4 肪酸酸化代謝経路を阻害することで CD8 陽性記憶前駆 T 細胞 5 への分化を抑える一方で がん細胞を殺傷するようながん抗原特異的 T 細胞 6 の中の記憶免疫細胞 7 を阻害しないことで 長期的ながん殺傷効果が維持されることを明らかにしました がん免疫療法 8 を受ける患者さんの一部では 過剰な免疫反応によって引き起こされる免疫関連有害事象があります これらの免疫関連有害事象を抑えるためにステロイド剤が投与されますが このステロイド剤投与が がん細胞傷害性 T 細胞 9 にどのような影響を与えるかについては あまり分かっていませんでした 本研究では 担がん 10 マウスモデルを用いて免疫チェックポイント阻害剤 ( 抗 CTLA-4 抗体 11 および抗 PD-L1 抗体 12 ) 治療時にステロイド剤の一種であるメチルプレドニゾロンを投与することで がんに対する免疫反応にどのような影響が見られるかを検討しました その結果 免疫チェックポイント阻害剤の治療による長期的ながん退縮効果に対するステロイド剤投与による抑制に選択性があることが明らかになりました この長期的ながん退縮効果はがん抗原を標的とするがん細胞傷害性 T 細胞の中の記憶免疫細胞の作用によって発揮されるもので ステロイド剤による T 細胞の中の記憶免疫細胞に対する作用に選択性があることを見出しました T 細胞の中の記憶免疫細胞は脂肪酸酸化代謝を利用して前駆記憶 T 細胞から分化しますが ステロイド剤はこの脂肪酸酸化代謝を阻害することを明らかにし その結果として T 細胞の中の記憶免疫細胞が形成されないことが解明されました この作用は免疫関連有害事象に関連するような自己抗原に対する親和性が低い CD8 陽性 T 細胞に対して選択的に脂肪酸酸化代謝経路を阻害することで CD8 陽性記憶前駆 T 細胞への分化を抑える一方で がん細胞を殺傷するようながん抗原特異的 T 細胞の中の記憶免疫細胞を阻害しないことで 長期的ながん殺傷効果が維持されました この結果を元に 実際に抗 CTLA-4 抗体治療を受けた悪性黒色腫 ( メラノーマ ) 患者さんの治療効果を検討したところ がん細胞の体細胞変異が多い患者ではステロイド剤による免疫抑制は認められないものの 少ない患者さんでは早期のステロイド剤投与により生存率が低くなる傾向があることが分かりました これらの研究成果により 今後はがん免疫療法を受けた患者さんで 免疫関連有害事象が見られたとしても治療効果に影響を与えない最適なステロイド剤投与方法を実現できる可能性があります 本研究成果は 2019 年 9 月 19 日付け米国科学雑誌 The Journal of Experimental Medicine 電子版に掲載されました 本研究は 文部科学省科学研究費助成事業の基盤研究 S(17H06162) の支援によって行われたものです 1

ポイント 免疫チェックポイント分子阻害剤を用いたがん免疫療法は様々な難治性のがん患者に治療効果を示しますが 同時に正常細胞に対する免疫細胞の攻撃を活性化することで免疫関連有害事象を発症します 免疫関連有害事象を抑えるために免疫抑制ステロイド剤が投与されますが ステロイド剤が抗腫瘍免疫応答に与える影響についてはあまり知られていません ステロイド剤が 免疫関連有害事象に関連するような自己抗原に対する親和性が低い CD8 陽性 T 細胞に対して選択的に脂肪酸酸化代謝経路を阻害することで CD8 陽性記憶前駆 T 細胞への分化を抑えることを本研究で解明しました 1. 背景現在 がんに対する治療法として 体内の免疫反応を利用した がん免疫療法 が注目されています その中でも 本来なら過剰な免疫反応を抑える免疫チェックポイント分子 13 が がん細胞に対する特異的な T 細胞で発現していることから 免疫チェックポイント分子阻害剤 が開発され 様々ながん種で治療効果を示すことが明らかになりました 免疫チェックポイント分子阻害剤は 体内の様々な免疫反応の抑制を解除するため がんに対する免疫反応を増強し がんの縮小が見られる反面 過剰な免疫反応が正常な細胞を攻撃してしまい 間質性肺炎や内分泌障害といった免疫関連有害事象を引き起こすことも知られています この過剰な免疫反応を抑えるために 免疫抑制作用のあるステロイド剤が投与されます しかし ステロイド剤投与による免疫抑制作用によって免疫チェックポイント分子阻害剤によるがんに対する免疫応答の増強効果が弱まる可能性もあります 本研究では ステロイド剤が免疫チェックポイント分子阻害剤の治療効果に与える影響について検討し ステロイド剤が免疫を抑制する仕組みを解明することで 免疫チェックポイント分子阻害剤治療時の最適なステロイド剤投与方法の確立を目的としました 2. 研究成果マウス線維肉腫細胞株 CMS5a-NYESO-1 を移植した担がんマウスモデルを用いて ステロイド剤の一種であるメチルプレドニゾロンを投与することで 免疫チェックポイント分子阻害剤の一種である抗 CTLA-4 抗体の治療効果にどのような影響を与えるかを検討しました この時 ステロイド剤の投与量による影響も考慮し 低容量と高容量を設定しました その結果 抗 CTLA-4 抗体治療開始時にステロイド剤を投与した場合には ステロイド剤の投与量を縮小したがんが悪化してきましたが がんが完全に消失してからステロイド剤を投与した場合には投与量に関係なくがんの再発は認められませんでした ( 図 1) 2

図 1. 抗 CTLA-4 抗体治療におけるステロイド剤投与の影響 CMS5a-NYESO-1 担がんマウスに抗 CTLA-4 抗体治療をおこなった ステロイド剤は低容量 (20 µg / マウス ) あるいは高容量 (2000 µg / マウス ) を投与し それぞれ抗 CTLA-4 抗体投与開始時 ( 左図 : 早期投与実験 ) およびがん消失 2 週間後 ( 右図 : 後期投与実験 ) の 2 通りの投与方法を検討した がん免疫療法治療の特徴の一つとして抗腫瘍効果が長期間持続することが知られており これはがん細胞に対する細胞傷害性 CD8 陽性 T 細胞 (CD8+ T 細胞 ) が記憶免疫細胞に分化し がん細胞を持続的に排除しているためと考えられています そのため ステロイド剤は抗 CTLA-4 抗体治療で誘導 / 活性化される CD8+ T 細胞の中でも記憶免疫細胞への分化に影響を与えていると考え がんが完全に消失した後に再度がん細胞を移植しました この時 CMS5a-NYESO-1 と CMS5a という強いがん抗原が存在するものと存在しないマウス線維肉腫細胞株を使用しました NYESO-1 はヒトがん 精巣抗原として知られ マウスにとっては外来抗原であるため CD8+T 細胞は強い反応性を示します この二回目のがん細胞株移植実験の結果 CMS5a-NYESO-1 を移植した場合 がん細胞は完全に拒絶されましたが CMS5a を移植した場合は容量に関わらずステロイド剤を投与されていたマウスにおいて がんの増殖抑制効果が認められませんでした ( 図 2) この結果から ステロイド剤は抗原への反応性が低い CD8+T 細胞 ( 低親和性 CD8+T 細胞 ) の記憶免疫細胞への分化を選択的に阻害していることが示唆されました 図 2. がん消失マウスへのがん細胞再移植実験抗 CTLA-4 抗体治療でがんが消失したマウスにがん細胞の再移植を行なった がん消失時の CD8+T 細胞の機能を解析するために 低容量および高容量ステロイド剤を投与されたグループを含めて検討した 再移植実験ではマウスの左右のそれぞれの背側に異なるがん細胞株を移植し がんの大きさを経時的に測定した 左図は CMS5a-NYESO1 細胞株 右図は CMS5a 細胞株由来のがんの大きさを示している 3

次に ステロイド剤がどのようにして CD8+T 細胞の記憶免疫細胞への分化を阻害しているかを検討するため 抗 CTLA-4 抗体治療後のがん組織浸潤 CD8+T 細胞 14 の記憶免疫細胞への分化を解析しました その結果 ステロイド剤を投与することで CD127 high KLRG1 low を示す記憶前駆細胞 (memory precursor effector cells; MPECs 15 ) のうち低親和性 CD8+T 細胞の数ががん組織中で減少していることが分かりました 一方で がん細胞への反応性が高い CD8+T 細胞 ( 高親和性 CD8+T 細胞 ) の MPECs はステロイド剤の影響を受けませんでした ( 図 3) 図 3. がん組織に浸潤する CD8+T 細胞における MPEC 解析 CMS5a-NYESO-1 担がんマウスに抗 CTLA-4 抗体治療をおこない 抗体投与終了後のがん組織浸潤 CD8+T 細胞を採取し ステロイド剤による MPECs への影響を検討した がん細胞に対する反応性の違いから 高親和性 ( 左図 ) および低親和性 ( 右図 ) の CD8+ T 細胞における MPEC の頻度を解析した さらに ステロイド剤が MPECs を減少させるメカニズムを解明するため 低親和性抗原特異的 CD8+T 細胞の機能に関係している遺伝子を網羅的に解析しました その結果 ステロイド剤を作用させることで脂肪酸酸化代謝に関係する遺伝子の発現が低下していることが分かりました ( 図 4) 図 4. ステロイド剤による低親和性 CD8+ T 細胞の遺伝子発現変化解析左図 : ステロイド剤を作用させた低親和性 CD8+ T 細胞の網羅的遺伝子解析結果 GSEA 解析を実施したところ 脂肪酸酸化代謝関連遺伝子群の有意な発現差があった 右図 : 脂肪酸酸化代謝関連遺伝子群についてのステロイド剤による遺伝子発現変化を解析した この遺伝子解析結果を元に CMS5a-NTESO-1 を移植した担がんマウスにおけるがん組織浸潤 CD8+T 細胞の詳細な解析を行ったところ 低親和性 CD8+T 細胞の脂肪酸酸化代謝関連遺伝子の発現が低下していることが明らかになりました ( 図 5) 4

図 5. ステロイド剤によるがん抗原特異的低親和性 CD8+ T 細胞の遺伝子発現変化解析 CMS5a-NYESO-1 担がんマウスに抗 CTLA-4 抗体治療およびステロイド剤投与をおこない 投与終了後に低親和性 CD8+ T 細胞を採取した その後 細胞から RNA を抽出し リアルタイム PCR 法にて脂肪酸酸化代謝遺伝子発現を解析した 最後に このマウスモデルでの実験結果をヒトで検証するため 抗 CTLA-4 抗体治療を受けた悪 16 性黒色腫患者さんの検体を解析しました がん細胞の体細胞遺伝子変異量が多いほど治療効果が良い傾向にあり これは免疫系が 体細胞遺伝子変異量が多いがん細胞を異物と認識しやすいため 攻撃する高親和性 CD8+T 細胞が多数誘導されるからと考えられています よって 体細胞遺伝子変異解析とステロイド剤の投与歴を元に患者さんの生存率を調べたところ 体細胞遺伝子変異量が低い患者さんでステロイド剤投与を早期に受けた患者さんの生存率が低いことが分かりました ( 図 6) よって ヒトにおいてもステロイド剤は低親和性 CD8+T 細胞の記憶免疫細胞機能を抑制することで 長期的な免疫チェックポイント分子阻害剤の治療効果を弱めることが示唆されました 図 6. 抗 CTLA-4 抗体治療を受けた悪性黒色腫患者の生存率解析抗 CTLA-4 抗体治療を受けた悪性黒色腫患者検体を用い 体細胞遺伝子変異量とステロイド投与方法を元に生存率解析をおこなった 青線は体細胞変異が多い患者を 赤線は体細胞変異が少ない患者を示している また実線はステロイド剤を早期投与された患者を 点線はステロイド剤を後期投与された患者を示している 3. 今後の展開今回の研究成果は がん免疫療法を受ける患者さんで免疫関連有害事象が見られた場合 体細胞遺伝子変異量や投与時期を考慮した上で 適切なステロイド剤を投与する必要があることを示しています 今後は 大規模な臨床研究を実施し ステロイド剤によるがん免疫療法の治療効果に対する影響を解明し 将来的にはそれぞれの患者さんに適したステロイド剤投与方法の確立を目指します 5

4. 用語説明 (1) 免疫関連有害事象免疫チェックポイント阻害剤などのがん免疫療法により体内の免疫系が過剰に反応して正常な細胞を攻撃することで 様々な臓器の機能障害が生じて起こる事象の総称です (2) 自己抗原自分の細胞や組織に発現する分子です (3) 親和性 T 細胞と異物 ( 反応相手 ) との反応性です 親和性が高いこと すなわち高親和性であることは T 細胞が異物と反応し易いことを示します これに対して 親和性が低いこと すなわち低親和性であることは T 細胞が異物と反応し難いことを示します (4) 脂肪酸酸化代謝生体内のエネルギー産生のために脂肪酸を利用する代謝です 細胞内で酸化された脂肪酸はミトコンドリア内に輸送され そこで大量のエネルギーに変換されます (5)CD8 陽性記憶前駆 T 細胞 CD8 陽性 T 細胞のうち 免疫細胞へと分化する前段階の細胞集団です (6) がん抗原特異的 T 細胞がん細胞が持つ抗原に対して反応する T 細胞です (7) 記憶免疫細胞 T 細胞や B 細胞は 異物を認識し活性化することで細胞増殖や異物を排除する機能が向上します やがて異物が排除されると 活性化した細胞のほとんどが死滅しますが 一部は記憶免疫細胞として体内に存在します これらは同じ異物が再度侵入する時に即座に反応し 迅速に排除する能力を持っています (8) がん免疫療法免疫細胞ががん細胞を異物として認識し攻撃することを利用したがん治療法です 従来の標準治療法として知られている化学療法 外科的治療 放射線療法よりも副作用が少なく長期的な治療効果が期待できます (9) 細胞傷害性 T 細胞体内の免疫細胞のうち CD3 分子陽性かつ CD8 分子陽性である細胞集団です がん細胞に発現するがん抗原を認識してがん細胞を殺傷します CD3 や CD8 は細胞表面に存在する分子です (10) 担がんがん細胞をマウスに移植し マウスにがんを発症させることです (11) 抗 CTLA-4 抗体 Cytotoxic T-lymphocyte associated antigen 4 (CTLA-4) に対する抗体です CTLA-4 は抗原提示細胞の CD80/86 分子と相互作用することで細胞傷害性 T 細胞の活性化を阻害しますが 抗 CTLA-4 抗体はこの相互作用をブロックし 細胞傷害性 T 細胞の活性化を維持します また免疫抑制細胞の一種である制御性 T 細胞に発現し 免疫抑制機能を発揮します ヒトではイピリムマブ (Ipilimumab) として悪性黒色腫および腎細胞がん治療に承認されています 6

(12) 抗 PD-L1 抗体 Programmed death-ligand 1 (PD-L1) に対する抗体です PD-L1 はがん細胞や免疫細胞に発現し T 細胞に発現する PD-1 と相互作用します これにより PD-1 が活性化すると T 細胞の機能が低下します 抗 PD-L1 抗体は PD-1 と PD-L1 との相互作用をブロックすることで細胞傷害性 T 細胞の活性化を維持します ヒトではアテゾリムマブ (Atezolizumab) として非小細胞肺がん治療に承認されています (13) 免疫チェックポイント分子免疫細胞に発現する分子で この分子シグナルにより免疫細胞の機能が抑制されます 通常では生体内の過剰な免疫応答を防ぐために機能しています (14) がん組織浸潤 CD8+T 細胞がんの中に入り込んでいる CD8+T 細胞のことです (15)MPEC 記憶前駆免疫細部として知られ 活性化した細胞傷害性 T 細胞は MPEC を経て真の免疫細胞へと分化します (16) 体細胞遺伝子変異がん細胞は 遺伝子変異の蓄積によって生じます この遺伝子変異によって正常細胞では存在しない遺伝子産物を生み出す可能性があります この遺伝子変異が多いほど異物として免疫細胞に認識されやすくなり がん免疫療法が効果的になると考えられています 5. 発表雑誌掲載紙 :The Journal of Experimental Medicine 論文名 :Selective inhibition of low-affinity memory CD8+ T cells by corticosteroids 著者 :Akihiro Tokunaga 1,2, Daisuke Sugiyama 3, Yuka Maeda 1, Allison Betof Warner 4,5, Katherine S. Panageas 6, Sachiko Ito 3, Yosuke Togashi 1, Chika Sakai 1, Jedd D. Wolchok 4,5 and Hiroyoshi Nishikawa 1,3 所属 :1. Division of Cancer Immunology, Research Institute/Exploratory Oncology Research & Clinical Trial Center (EPOC), National Cancer Center, Japan. 2. Oncology R&D Unit, Kyowa Kirin Co., Ltd., Japan. 3. Department of Immunology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Japan. 4. Parker Institute for Cancer Immunotherapy, Swim Across America-Ludwig Collaborative Lab, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, NY. 5. Weill Cornell Medical College, NY. 6. Departments of Epidemiology and Biostatistics, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, NY. DOI:10.1084/jem.20190738 English ver. https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_e/research/pdf/jou_exp_med_190919en.pdf 7