多様なモノクロナル抗体分子を 迅速に作製するペプチドバーコード手法を確立 動物を使わずに試験管内で多様な抗体を調製することが可能に 概要 京都大学大学院農学研究科応用生命科学専攻 植田充美 教授 青木航 同助教 宮本佳奈 同修士課程学生 現 小野薬品工業株式会社 らの研究グループは ペプチドバーコー

Similar documents
大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

野菜工場へのマルチオミックス解析の展開 胎児脳発達や抗酸化機能を持つ野菜の開発に成功 概要 京都大学大学院農学研究科応用生命科学専攻の植田充美 教授 青木航 同助教 渡辺祥 同修士課程学生 研 究当時 現 アサヒビール株式会社勤務 ならびに大谷優太 同博士課程学生は 三菱ケミカル株式会社との 共同研

Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

研究成果報告書

PowerPoint プレゼンテーション

「蛋白質発現・相互作用解析技術開発」産業科学技術研究開発基本計画

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

Microsoft Word - PRESS_

小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

Microsoft PowerPoint - 4_河邊先生_改.ppt

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

Untitled

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

Microsoft Word doc

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

目次 1. 抗体治療とは? 2. 免疫とは? 3. 免疫の働きとは? 4. 抗体が主役の免疫とは? 5. 抗体とは? 6. 抗体の構造とは? 7. 抗体の種類とは? 8. 抗体の働きとは? 9. 抗体医薬品とは? 10. 抗体医薬品の特徴とは? 10. モノクローナル抗体とは? 11. モノクローナ

<4D F736F F D F D F095AA89F082CC82B582AD82DD202E646F63>

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

核内受容体遺伝子の分子生物学

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

15K14554 研究成果報告書

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

<4D F736F F D B82C982C282A282C482512E646F63>

化学物質の分析 > 臨床で用いる分析技術 > 分析技術 > 免疫学的測定法 1 免疫学的測定法 免疫反応を利用して物質を分析する方法として 免疫学的測定法 ( イムノアッセイ ) がある イムノアッセイは 抗体に抗原を認識させる ( 抗原抗体反応を利用する ) ことにより 物質を定量する分析法であり

Microsoft Word - TokyoTechPR1201_hisabori.docx

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

Microsoft Word - all_ jp.docx

_PressRelease_Reactive OFF-ON type alkylating agents for higher-ordered structures of nucleic acids

NEXT外部評価書

ルス薬の開発の基盤となる重要な発見です 本研究は 京都府立医科大学 大阪大学 エジプト国 Damanhour 大学 国際医療福祉 大学病院 中部大学と共同研究で行ったものです 2 研究内容 < 研究の背景と経緯 > H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 1996 年頃中国で出現し 現在までに

報道発表資料 2007 年 8 月 1 日 独立行政法人理化学研究所 マイクロ RNA によるタンパク質合成阻害の仕組みを解明 - mrna の翻訳が抑制される過程を試験管内で再現することに成功 - ポイント マイクロ RNA が翻訳の開始段階を阻害 標的 mrna の尻尾 ポリ A テール を短縮

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

報道発表資料 2001 年 12 月 29 日 独立行政法人理化学研究所 生きた細胞を詳細に観察できる新しい蛍光タンパク質を開発 - とらえられなかった細胞内現象を可視化 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 生きた細胞内における現象を詳細に観察することができる新しい蛍光タンパク質の開発に成

<4D F736F F D DC58F49288A6D92E A96C E837C AA8E714C41472D3382C982E682E996C D90A78B408D5C82F089F096BE E646F6378>

リアルタイムPCRの基礎知識

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur


論文の内容の要旨

<4D F736F F D208DC58F498F4390B D4C95F189DB8A6D A A838A815B C8EAE814095CA8E86325F616B5F54492E646F63>

ヒトゲノム情報を用いた創薬標的としての新規ペプチドリガンドライブラリー PharmaGPEP TM Ver2S のご紹介 株式会社ファルマデザイン

平成 30 年 2 月 5 日 若年性骨髄単球性白血病の新たな発症メカニズムとその治療法を発見! 今後の新規治療法開発への期待 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 門松健治 ) 小児科学の高橋義行 ( たかはしよしゆき ) 教授 村松秀城 ( むらまつひでき ) 助教 村上典寛 ( むらかみ

Untitled

スライド 1

Untitled

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

生物時計の安定性の秘密を解明

<4D F736F F D F4390B388C4817A C A838A815B8358>

化学の力で見たい細胞だけを光らせる - 遺伝学 脳科学に有用な画期的技術の開発 - 1. 発表者 : 浦野泰照 ( 東京大学大学院薬学系研究科薬品代謝化学教室教授 / 大学院医学系研究科生体物理医学専攻生体情報学分野 ( 兼担 )) 神谷真子 ( 東京大学大学院医学系研究科生体物理医学専攻生体情報学

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

PowerPoint プレゼンテーション

長期/島本1

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

1-4. 免疫抗体染色 抗体とは何かリンパ球 (B 細胞 ) が作る物質 特定の ( タンパク質 ) 分子に結合する 体の中に侵入してきた病原菌や毒素に結合して 破壊したり 無毒化したりする作用を持っている 例 : 抗血清馬などに蛇毒を注射し 蛇毒に対する抗体を作らせたもの マムシなどの毒蛇にかまれ

平成24年7月x日

<4D F736F F D DC58F49817A81698EC08E7B95FB906A816A816988C482C882B5816A836F B838B2E646F63>

PowerPoint プレゼンテーション

< 背景 > HMGB1 は 真核生物に存在する分子量 30 kda の非ヒストン DNA 結合タンパク質であり クロマチン構造変換因子として機能し 転写制御および DNA の修復に関与します 一方 HMGB1 は 組織の損傷や壊死によって細胞外へ分泌された場合 炎症性サイトカイン遺伝子の発現を増強

報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

Microsoft PowerPoint - 資料6-1_高橋委員(公開用修正).pptx

Microsoft Word - 1 color Normalization Document _Agilent version_ .doc

PowerPoint プレゼンテーション

PRESS RELEASE (2012/9/27) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

New Color Chemosensors for Monosaccharides Based on Azo Dyes

平成 30 年 8 月 17 日 報道機関各位 東京工業大学広報 社会連携本部長 佐藤勲 オイル生産性が飛躍的に向上したスーパー藻類を作出 - バイオ燃料生産における最大の壁を打破 - 要点 藻類のオイル生産性向上を阻害していた課題を解決 オイル生産と細胞増殖を両立しながらオイル生産性を飛躍的に向上

Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc


研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

がんを見つけて破壊するナノ粒子を開発 ~ 試薬を混合するだけでナノ粒子の中空化とハイブリッド化を同時に達成 ~ 名古屋大学未来材料 システム研究所 ( 所長 : 興戸正純 ) の林幸壱朗 ( はやしこういちろう ) 助教 丸橋卓磨 ( まるはしたくま ) 大学院生 余語利信 ( よごとしのぶ ) 教

八村敏志 TCR が発現しない. 抗原の経口投与 DO11.1 TCR トランスジェニックマウスに経口免疫寛容を誘導するために 粗精製 OVA を mg/ml の濃度で溶解した水溶液を作製し 7 日間自由摂取させた また Foxp3 の発現を検討する実験では RAG / OVA3 3 マウスおよび

ポイント 微生物細胞から生える細い毛を 無傷のまま効率的に切断 回収する新手法を考案しました 新手法では 蛋白質を切断するプロテアーゼという酵素の一種を利用します 特殊なアミノ酸配列だけを認識して切断する特異性の高いプロテアーゼに着目し この酵素の認識 切断部位を毛の根元に導入するために 蛋白質の設

HYOSHI48-12_57828.pdf

「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査の手続」の一部改正について

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

Microsoft PowerPoint - DNA1.ppt [互換モード]

研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

Microsoft Word - 研究報告書(崇城大-岡).doc

背景 これまで遺伝子治療には DNA が用いられてきましたが DNA は生体内 DNA への取り込みによる発がんの危険性や 導入に用いるウイルスベクターによる感染の危険性があり 実用化には至っていません そこで DNA に代わって登場してきたのが mrna( 注 1) です mrna は 遺伝子 D

本日の講演内容 1. PMDA コンパニオン診断薬 WG 2. 本邦におけるコンパニオン診断薬の規制 3. 遺伝子パネルを用いた NGS コンパニオン診断システム 1 2 規制上の取扱い 評価の考え方 2


別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

<4D F736F F F696E74202D C835B83938E9197BF288D5291CC88E396F281408EAD8E E A2E707074>

Transcription:

多様なモノクロナル抗体分子を 迅速に作製するペプチドバーコード手法を確立 動物を使わずに試験管内で多様な抗体を調製することが可能に 概要 京都大学大学院農学研究科応用生命科学専攻 植田充美 教授 青木航 同助教 宮本佳奈 同修士課程学生 現 小野薬品工業株式会社 らの研究グループは ペプチドバーコードという新しい標識を用いて遊離型の 抗体を試験管内で生産し 個体生体内での多様な抗体の結合能を有するモノクロナル抗体を迅速かつ簡単にス クリーニングして評価するという 次世代 DNA シーケンサーとモノリス ナノ LC/MS/MS 解析との融合に よる新規手法の確立に成功しました 抗体は 研究 診断 治療などに有用な高分子ですが 主に動物細胞を用いて生産されており 時間とコス トがかかります 近年 従来の抗体と同様の特性を持ちながら 分子量が約 1/10 のナノボデイが注目を集め ています ナノボデイは ラクダ科の動物が持つ単一ドメイン抗体の可変領域です 本研究では 動物個体へ の免疫や培養細胞等の方法を用いずに 新規発想のペプチドバーコードを用いることで 酵母を用いて試験管 内で遊離状態の多様なナノボデイを迅速に作成でき スクリーニングでモノクロナル抗体を調製可能なシステ ムを確立しました 本研究成果は 2019 年 4 月 24 日に国際学術誌 PLOS ONE にオンライン掲載されました

1 背景 これまで抗体は脊椎動物個体に抗原を投与して 時間をかけて作成されてきました 抗体は 重鎖 分子量 の重い鎖 H 鎖 と軽鎖 分子量の軽い鎖 L 鎖 からなる 150kDa キロダルトン ダルトンは分子の質量 を表す単位 の大きなタンパク質分子です その抗原決定部位は ゲノム上に多様な部位の遺伝子としてコー ドされており 外部からの多様な異物の侵入に対抗してその多様性を組み合わせ いわゆるポリクロナル抗体 タンパク質分子を作り出しています さらに 特異性を向上させるために ミエローマ細胞 骨髄腫細胞 と のハイブリドーマ細胞 融合細胞 を試験管内で作成して調製しています 抗体生産は 大きなタンパク質分 子の生産であり ポリクロナル抗体については脊椎動物を モノクロナル抗体については培養細胞を使った費 用と時間のかかる生産方法でした 2 研究手法 成果 我々は ラクダの単鎖抗体の抗原決定部位からだけなる 15kDa を利用したナノボデイをベースにして 真 核生物である酵母を用いて 短期間にモノクロナル抗体を作製する方法を確立しました 酵母で 多様性を現 出させるために ナノボデイの C 末端にペプチドバーコードを付加したバーコード抗体を世界で初めて創製し ました そして 特異的結合活性と多様性の現出に生物個体を使わずに 試験管内で成功しました 図1 ペプチドバーコードついては そのもとになる DNA バーコード 次世代 DNA 配列分析 モノリス ナノ LCMS/MS を駆使した新規なモノクロナル抗体の作製は前例がありません 2 1 ペプチドバーコード付加抗体の発現と結合確認 ナノボデイの発現には 多量のタンパク質を分泌できるメタノール資化性酵母を用いました その分子量は 一般的な抗体の分子量の 1/10 程度であり 微生物での生産が可能であり 細胞内に取り込まれやすく 細胞 内でも機能しやすいといった利点があります 本研究ではモデルとして anti-cd4 ナノボデイと anti-gfp ナ ノボデイにそれぞれ異なるペプチドバーコードを付加して生産しました 図2 CD4 発現細胞を用いた免疫染色(図3)と表面プラズモン共鳴 SPR による解離定数測定の結果から ペプ チドバーコードを付加してもナノボデイの性質に影響を与えないことが確かめられました 2 2 ペプチドバーコーディングによる共結合アッセイ それぞれ異なるペプチドバーコードを付加した anti-cd4 ナノボデイと anti-gfp ナノボデイをマグネティ ックビーズに固定化した CD4 と反応させました 結合していないナノボデイを洗浄して除いた後 エンテロ キナーゼによってペプチドバーコードを切断し モノリス ナノ LC MS/MS によって定量しました その結 果 anti-cd4 ナノボデイに付加していたペプチドバーコードのみが検出されました(図4) これにより ペプ チドバーコードを用いることで 複数の遊離型抗体の結合能力を並列に評価する系の構築が可能になると期待 できました 3 波及効果 今後の予定 細胞内の多くのタンパク質の同定や定量に特異的な抗体を使いたい という要望は多いですが 抗体は非常 に大きな分子で そのすべてを調製するには 現在のところ 動物個体を使わざるを得ない現実があります この閉塞状態を克服するための新しい抗体として 我々の開発したバーコードナノボデイは大きな福音となる と考えられます 本研究の手法であれば 脊椎動物や培養細胞を使った費用と時間のかかる抗体生産に代わり

試験管内 実験室内で多様な性質の抗体タンパク分子を作り出すことができます 基礎的なイメージング研究 やセンシング研究だけでなく 実用的には分子標的薬 抗体 などに展開することが期待されます 4 研究プロジェクトについて JST CREST 研究領域 統合1細胞解析のための革新的技術基盤 研究課題名 細胞膜レセプタ ータンパクの1細胞統合解析技術の開発 1細胞レセプトーム解析技術の創成 用語解説 ポリクロナル抗体 抗原決定部位をいくつか持つ抗体 モノクロナル抗体 抗原決定部位を一つもつ抗体 ナノボディ ラクダの単鎖抗体の抗原決定部位だけからなる抗体 DNA バーコード 特徴的DNA塩基の配列で 個々のDNA断片をシーケンスにより識別可能な配列 モノリス ナノ LC-MS/MS シリカ一体型の超微量定量解析の可能な高速液体クロマトグラフィーと質量分 析装置 ハイスループット 迅速で簡単に処理できる方法 研究者のコメント 抗体は分子標的薬をはじめとして 研究試薬やイメージングプローブとして有用性 が増している分子です しかし これまで抗体は主に 動物に抗原を接種することで取 得されていますが この方法は多くのコストと時間がかかる上に 動物愛護の観点か らも大きな問題になります 動物を用いない抗体作製とスクリーニング法としては 昨年のノーベル化学賞でも有名なファージディスプレイ法がありますが 抗体を担体 と融合させることによって その機能を阻害してしまう場合もあります 本研究では 遊離型の抗体を試験管内で微生物によって生産し ペプチドバーコー ドを用いて抗体の同定と結合能をハイスループットに評価する新規手法を確立しまし 青木助教 た この方法は 遺伝子型情報を包含するペプチドバーコードを設計し それを抗体に 付加して発現させたもので 次世代 DNA シークエンサーで遺伝子型情報を モノリス ナノ LC/MS/MS で ペプチドバーコードを解析することで ネイティブ構造 細胞環境におけるタンパク質構造 に極めて近い遊 離型抗体の結合能を有するモノクロナル抗体をハイスループットに評価し獲得できます 分子標的薬 抗体 などの創薬や 細胞内のイメージングの分子プローブなど 多様な用途に展開できるものと期待されます 論文タイトルと著者 タイトル Peptide barcoding for establishment of new types of genotype phenotype linkage (遺伝子型と表現型を結びつける新しい発想からなるペプチドバーコード法の確立 著 者 Kana Miyamoto, Wataru Aoki, Yuta Ohtani, Natsuko Miura, Shunsuke Aburaya, Yusei Matsuzaki, Kaho Kajiwara, Yoshinori Kitagawa, Mitsuyoshi Ueda 掲 載 誌 PLOS ONE DOI 未定

参考図