食品の抗アレルギー活性評価に利用できる マウスモデルの紹介 農研機構食品総合研究所 食品機能研究領域主任研究員 後藤真生 農研機構 は独立行政法人農業 食品産業技術総合研究機構のコミュニケーションネームです
国民の 1/3 はアレルギー症状を自覚している 1 アレルギー症状なし (59.1%) 皮膚 呼吸器 目鼻いずれかのアレルギー症状あり (35.9%) 医療機関に入院 通院中 (58.2%) ( 内 70% はアレルギー診断あり ) 図 1 アレルギー様症状の有無とその診断割合 (H15 厚生労働省保健福祉動向調査概況より作成 ) 無回答 (5%) 医療機関にかかっていない (41.8%) アレルギー性炎症疾患の患者は 増加の傾向にあり 国民の 1/3 は何らかのアレルギー症状を自覚している そのうち 40% 強は医療機関での治療を受けていない 抗アレルギー食品の市場ニーズは大きい
アレルギーの種類 2 Ⅰ 型 ( 即時型 アナフィラキシー型 :20~30 分 ) : 狭義のアレルギーアナフィラキシー 急性じんましん 花粉症 Ⅱ 型 ( 細胞障害型 :5~8 時間 ) 血液型不適合輸血 重筋無力症 Ⅲ 型 ( アルサス型 :2~8 時間 ) 全身性エリスマトーデス 関節リウマチ 膠原病 Ⅳ 型 ( 遅延型 :24~72 時間 ) 接触性皮膚炎 ツベルクリン反応
即時型アレルギーの機序 3 アレルゲン 抗原提示細胞 消化 IgE 抗体産生 アレルゲン FceRⅠ マスト細胞 ヒスタミン放出 アレルギー発症 T 細胞 B 細胞 1, 異なるアレルゲンでも機序は同じ 2, 機序は種を越えて保存されている 3, 症状抑制のためのターゲットが多数存在 アレルギーモデル動物が利用可能 迅速な活性スクリーニングには最終的な症状で評価することが有効
既存のアレルギーモデル動物評価系 4 1 アジュバント免疫モデル 免疫増強剤 ( アジュバント ) を加えたアレルゲンの注射によって強制的に IgE 抗体を産生させる 血清中 IgE 抗体を指標とする アジュバントによって人為的な炎症が起きる 血清中 IgE 抗体量は症状の重さを必ずしも反映しない 2 受動皮膚アナフィラキシーモデル あらかじめ IgE 抗体を注射した動物にアレルゲンを皮内接種し 即時型アレルギー反応である腫脹 ( 皮膚アナフィラキシー ) を誘導する 腫脹の大きさを指標とする アレルゲンで感作されていない 腫脹の大きさを精度良く定量できない ヒトと似た機序で発症し 重症度を精度良く定量できる動物実験系が必要
ヒトのアレルゲン感作 ヒトに似たアレルゲン感作機序をもつ動物モデルの検討 経粘膜アレルゲン感作の長期反復 5 アレルゲンに反応する少数の免疫細胞 数年? アレルゲンに反応する免疫細胞の活性化と蓄積 アナフィラキシー反応 血清 IgE 抗体増大 アジュバント免疫モデル アレルゲンに反応する少数の免疫細胞 新規経口感作モデル T 細胞レセプター遺伝子導入マウス DO11.10 卵白アルブミンに反応する多数の免疫細胞 アジュバントとアレルゲンの腹腔注射による強力な感作 2 週間 2 週間 血清 IgE 抗体増大 アレルゲンに反応する少数の免疫細胞の強い活性化 卵白アルブミンの経口感作 血清 IgE 抗体増大 卵白アルブミンに反応する多数の免疫細胞の活性化 アジュバントを用いず経粘膜感作のみで誘導できるアレルギーモデル動物を確立
皮膚アナフィラキシーの重症度定量法の改良 6 既存法 ( ダイレクトブルー ( 青色色素 ) 定量法 ) ダイレクトブルーを静脈注射 アレルゲンを皮内注射 30 分 改良法 ( 蛍光色素定量法 ) 蛍光標識を静脈注射 30 分 皮膚を切り出し 有機溶媒で色素を抽出 12-24 時間 2-4 時間 切り出した皮膚の蛍光を直接測定 1 分程度 バイオイメージャで皮膚の蛍光を直接測定 アルカリ処理 中和 濾過 抽出液の吸光度測定 有害な試薬を使用 操作が煩雑かつ長時間を要し 精度が悪化 感度が不良 有害な試薬は不要 操作は簡便 時間は 1/10 程度に短縮 高感度 ( 吸光度の 2 倍以上 ) 高精度 (ml 単位で血漿漏出量測定 ) 動物の血管透過性の高感度迅速測定方法 ( 特許登録第 4119981 号 ) 発明者 : 八巻幸二 石川祐子出願人 : 独立行政法人農業 食品産業技術総合研究機構 簡便 迅速にアレルギーの重症度を高感度定量できる方法を確立
確立した新規アレルギー評価モデル 7 アレルギー体質の誘導皮膚アナフィラキシーの誘発蛍光強度の測定 2 週間 30 分 3 時間 患部を切り出し プレートリーダーで測定 卵白アルブミン 抗アレルギー食品の経口投与 蛍光標識の導入 卵白アルブミンの皮内注射 1 分程度 バイオイメージャで直接測定 1. アレルゲン感作から発症までの機序がヒトに類似している 2. 迅速 高感度にアレルギー炎症の重症度を定量できる アレルギー重症度のインデックス化方法 ( 特許登録第 4834819 号 ) 発明者 : 後藤真生 石川祐子出願人 : 独立行政法人農業 食品産業技術総合研究機構
一匹のモデル動物で検討できる項目 8 アレルギー重症度 血清中バイオマーカー リンパ球の応答性 皮膚アナフィラキシー反応 ( 血漿の皮内漏出量 ) 抗アレルゲン抗体価 (IgE IgG1 IgG2A など ) 炎症マーカー 細胞増殖 サイトカイン産生 試料のアレルギー症状への影響 試料の各種免疫応答への影響 結果を突合することで試料の作用機序を効率的に解析可能
抗アレルギー食品の作用機序解析 9 アレルギー重症度による検討 血清漏出量 (ml) ヒスタミン拮抗剤投与 抗アレルギー食品成分 A 投与 抗アレルギー食品 B 投与 1, ヒスタミン拮抗剤 A B はアレルゲン注射による腫脹を抑制する 2, ヒスタミン拮抗剤はヒスタミン注射による腫脹を抑制するが A B は抑制しない A B は マスト細胞のヒスタミン放出を抑制して症状を低減する
コーヒー長期摂取のアレルギー予防効果の作用機序解析 10 コーヒーの投与時期がアレルギー症状に及ぼす影響の評価 B In vitro 試験ではコーヒー成分はヒスタミン放出を抑制するという報告 A 卵白アルブミン コーヒー 皮膚アナフィラキシー反応 血清中抗体価 リンパ球のサイトカイン産生 卵白アルブミン コーヒー 血清漏出量 (ml) 50 40 30 20 10 0 A 溶媒のみヒスタミン 0.1mM 卵白アルブミン * 30 20 * 10 0.5mM 卵白アルブミン 0 溶媒のみヒスタミン 0.1mM 卵白アルブミン 0.5mM 卵白アルブミン アレルギー感作後にコーヒーを摂取しても症状は抑制できない ヒスタミン拮抗阻害 ヒスタミン放出抑制能はない B 対照群コーヒー 12 10 A 8 6 4 2 0 IgE titer 200 150 100 50 0 IL-12 250 200 150 100 IL-4 コーヒー摂取は抗アレルギーサイトカインを誘導し IgE 抗体を抑制 * 50 0 対照群コーヒー コーヒーはアレルギー症状を軽減しないが アレルギー体質になるのを予防する
新技術の特徴 従来技術との比較のまとめ 11 1. 本モデルは ヒトと同様の機序でアレルギーを誘発し 症状の重さを高感度 迅速簡便に定量的に評価できる 2. アジュバントによる人為的な炎症がなく 同一個体で症状と免疫系の挙動を評価できるため 抗アレルギー活性の作用機序の解析が容易になる 3. 抗体価などのバイオマーカーでなく 症状を指標とするため 症状を明らかに軽減する食品を探索できる 4. 受動アナフィラキシー法では探索できないアレルギー予防食品などを探索できる
想定される用途 12 1. 本技術は症状の強さで抗アレルギー活性を評価できる ため 多様な成分を含む食品や漢方薬などの評価に適している 2. 抗アレルギー活性に加え アレルギー予防活性 アレルギー以外の免疫調節機能についても評価可能である 3. 環境などのアレルギーリスク評価にも活用できる
本技術に関する知的財産権 13 発明の名称アレルギー重症度のインデックス化方法 登録番号特許第 4834819 号 出願人農研機構 発明者後藤真生 石川祐子
お問い合わせ先 14 農研機構食品総合研究所 食品機能研究領域主任研究員 後藤真生 TEL/FAX 029-838-8055 E-mail masaogot@affrc.go.jp