コンピュータシミュレーション解析手法を用いた自転車乗員頭部の 自動車ならびに路面に対する衝突状況解析 * 面田雄一 1) 鴻巣敦宏 2) Analysis of Bicyclists' Head Impact Situation Against against a Car and the Ground in Bicyclist and Car Traffic Accidents Using a Computer Simulation Method Yuichi Omoda Atsuhiro Konosu The purpose of this study is to clarify the situation of how a bicyclists head impacts against a car and the ground for consideration of their head protection methods. To analyze the situation, computer simulation analyses were carried out using a commercialized software called MADYMO. As a result, it was found that the values of head injury criteria became sevey high at the head impact on the A pillar and the ground. Therefore, it was clarified that the necessity of taking countermeasures for both the A pillar and the ground to promote a bicyclist's head protection. KEY WORDS: Safety, Protection for vulnerable road users, Accident analysis, Bicyclist kinematics (C1) 1. はじめに近年, 交通事故による死亡 重傷者数は減少傾向にある. しかし, 図 1 に示すように, 歩行中および自転車乗車中が全体に占める割合は増加傾向にある (1). このことから交通事故の死亡 重傷者数をさらに削減するには, 歩行者や自転車乗員の死亡 重傷者数を減少させることが重要であるといえる. わが国ではこれまで, 自転車乗員に対する保護対策よりも, さらに交通弱者である歩行者の保護対策に重きが置かれてきた. 具体的には, 自動車の歩行者保護性能を義務付けるための道路運送車両の保安基準の改正による法体系整備に加えて, 自動車アセスメントによる歩行者保護性能に関する評価試験が行われており, 自動車の歩行者保護性能は従来に比べて着実に向上してきている. 一方, 自転車乗員の保護対策については, 殆ど手つかずの状態である. 加えて, 近年, 歩道における自転車の通行を厳格に取り締まるとの警察庁方針が示された. そのため, 今後は自転車の車道への露出が多くなり, 今まで以上に, 自転車対自動車事故が増加し, 自転車乗員の安全性が懸念される状況に陥る可能性も考えられる. したがって, 自転車乗員の保護対策は, 我が国において喫緊に取り組むべき重要な課題の一つといえる. 今後, 自転車乗員の保護対策を推進するには, 自転車乗員に対する安全教育を充実させるとともに, 自転車対自動車衝 *214 年 1 月 24 日受理. 214 年 1 月 24 日自動車技術会秋季学術講演会において発表. 1) 2) ( 一財 ) 日本自動車研究所 (35-822 茨城県つくば市苅間 253) 突事故時の自転車乗員の傷害発生メカニズムを明らかにし, 同メカニズムに基づいた衝突安全に関する自動車側, 自転車乗員側およびインフラ側による抜本的な検討を行う必要があると考える. これまでにも, 槇ら (2) に代表されるように自転車乗員の自動車との衝突時の挙動の特徴を歩行者の挙動と比較した例はあった. しかし, 例えば, 路面と自転車乗員頭部の衝突 (2 次衝突 ) については, 他の研究を含めても十分な解析がなされているとは言い難い. 本研究では, 自動車衝突時の自転車乗員の保護対策の検討を促進させることを目的に, その第一段階として, 特に死亡事故で損傷主部位となる割合が高い自転車乗員の頭部に着目し, 同部が自動車ならびに路面に対する衝突状況を, コンピュータシミュレーション解析手法を用いて解析した. 4 Rate [%] 3 2 1 ehicle Motocycle Pedestrian Bicycle 22 23 24 25 26 27 28 29 21 211 212 Year Fig.1 Transition of fatally and seriously injured persons in the past 1 years (1) 2. シミュレーションモデルの構築 2.1. モデルの概要図 2 に本研究で作成した自転車対自動車事故の衝突シミュ ol.46,no.2,march 215.
レーションモデルの外観を示す. 同モデルは大別して, 自動車モデル (ehicle ), 地面モデル (Ground ), 自転車モデル (Bicycle ) および自転車乗員モデル (Bicyclist ) の計 4つのモデルから構成されている. 本研究では,(1) 2 次衝突までを解析対象とすることおよび (2) 1 ケース近いパラメータスタディを行う理由から, 解析時間の比較的に短いマルチボディダイナミクス解析手法を用いた. マルチボディダイナミクス解析ソルバーには, 市販化されている商業用の解析ソルバー MADYMO (er7.) を使用した. 以下に, 各モデルの詳細を述べる. ehicle Bicyclist Bicycle Ground Fig.2 Bicyclist-vehicle traffic accident simulation model 2.1.1. 自動車モデル図 3 に本研究で作成した自動車モデルを示す. 同モデルの車種は, 乗用車の大半を占めていると考えられる (a), (b)su(sport Utility ehicle) および (c) の 3 車種とし, それらの形状は国際研究調和活動歩行者保護ワーキンググループ (IHRA/PS WG) の活動レポート (3) に記載されている各車種における前面形状コリドーの平均値を用いて作成した. 同モデルは, 図 4 に示すように, 板要素 (Plane Element), 円筒要素 (Cylinder Element) および楕円体要素 (Ellipsoid Element) から構成されている. 各車種の円筒要素については, 断面の直径を.19m, 長さを 1.6m とした. また, 同モデルの前面部に位置する各要素の荷重 - 貫入量特性は, 浅沼らの文献 (4) を参考に, 図 5 に示す Stiff1~Stiff4 の計 4 種類の特性を与えた. (a) (b) SU 特性を与えている. また, 同モデルの各部位の摩擦係数については, ウインドシールドを.3 とし, その他の部位は.1 とした. Roof, (Plane,Stiff2) Part name (Element type, Stiffness) Tyre, (Ellipsoid, No stiffness) Force[kN] Windshield, (Plane, Stiff4) Bonnet, (Plane, Stiff2) Bonnet leading edge, (Cylinder,Stiff1) Grill, (Plane, Stiff3) Bumper, (Cylinder,Stiff1) Skart,(Plane, Stiff3) Bumper lower, (Cylinder, Stiff1) Fig.4 Detailed constructions of vehicle model 15 Stiff1 12 Stiff2 9 Stiff3 6 Stiff4 3.5.1.15.2 Penetration [m] Fig.5 Stiffness of vehicle model 2.1.2. 路面モデル路面モデルの荷重 - 貫入量特性は,Anata らの文献 (5) を参考に, 以下に示す式により定義した. F=1 1 5 x ここで F は路面モデルに加わる荷重 [kn],x は路面モデルに対する貫入量 [m] である. また, 路面の摩擦係数は.67 とした. 2.1.3. 自転車モデル図 6 に本研究で作成した自転車モデルの外観を示す. 同モデルは, 一般的なシティサイクルタイプの形状を参考に, 各パーツを計 9 個の楕円体要素で表現し,27inch サイズと 22inch サイズの 2 種類のモデルを作成した. なお, ペダルについては, 自転車乗員の挙動に対する影響が小さいものと考えて省略した. Handle Fork Sadle Rear frame Rear tyre (c) Fig.3 ehicle models なお, 同モデルのボンネットリーディングエッジ, バンパー, バンパーロアを構成する要素に与えた荷重 - 貫入量特性 (Stiff1) については, 各要素への貫入量が.1m を越えると, 比較的に剛性の高い自動車の内部に位置する構造部材に達すると考え, 貫入量が.1m を超えると傾きが 2 倍になるような Frame Front tyre Sadle post Chain (a)27inch size (b)22inch size Fig.6 Bicycle models 自転車の荷重 - 貫入量特性については, 文献から直接得ることができなかった. そこで, 過去に一般財団法人日本自動車研究所で実施した自転車対自動車の衝突事故実験をシミュレーション上で再現し, 自転車の飛翔距離が実験結果に合うように同特性の同定を行った. 同定した特性は, 以下の式で表される. 486 自動車技術会論文集
F=1 1 2 x ここで F は自転車モデルに加わる荷重 [kn],x は自転車モデ ルに対する貫入量 [m] である. 2.1.4. 自転車乗員モデル図 7 に本研究で作成した自転車乗員モデルを示す. 同モデルのベースには,JARI 歩行者モデル (5) を用いた. 同モデルは, 歩行者の全身を用いた献体実験のデータを用いて, 自動車との衝突時の全身挙動を検証したモデルである. 同モデルにスケーリング手法を適用して, 様々な体格の自転車乗員モデルを作成した上で, 各モデルに自転車の乗車姿勢を取らせた. 以下, 各モデルの詳細について述べる. 本研究では, 自転車乗員の事故において死傷者数が多い 1 歳代男女および 7 歳代男女を解析の対象とし, 各年代の身長 体重データ (6) を基に, 計 5 体の自転車乗員モデルを作成した. はじめに,7 歳代男女のモデル (7Y-M,7Y-F) については,7~79 歳の男女別の身長および体重の平均値を用いて, 同モデルを作成した. 次に,1 歳代のモデルについては, 年齢によって身長が大きく変化するため, 単純に 1~19 歳の平均値を取るのではなく, 最高身長と最低身長の年齢を男女別に選定して, モデル化を行った. 最高身長については, 男性は 19 歳ならびに女性は 15 歳と定めて, 男女別のモデル化 (19Y-M,15Y-F) を行った. 一方, 最低身長については, 男女ともに 1 歳で, かつ, 男女間の差も小さいことから,1 歳の男女の身長および体重の平均値を用いてモデル化 (1Y-C) を行った. なお,1Y-C モデルは,22inch サイズの自転車モデルに乗車させ, その他の自転車乗員のモデルは,27inch サイズの自転車モデルに乗車させた. Height [m] :1.364 Weight[kg]:35.7 H:1.483 W:5.6 H:1.586 W:49.4 (a)1y-c (b)15y-f (c)19y-m H:1.612 W:61. H:1.72 W:65.1 (d)7y-f (e)7y-m Fig.7 Bicyclist models 自転車乗員モデルの乗車姿勢角の定義を図 8 に示す. 脊椎, 大腿部ならびに脛部の角度 ((a),(b),(c)) は各モデルで共通とし, 上腕部の角度と自転車のサドル高 ((d),(e)) については, モデルごとに変化させた. (d) (c) (b) (a) (e) (a) Spine angle [ ] (5 ) (b) Femur angle [ ] (Right:63, Left:29 ) (c) Tibia angle [ ] (Right:13, Left:57 ) (d) Upper arm angle [ ] (Changed by models) (e) Saddle height [mm] (Changed by models) 1Y-C 15Y-F 19Y-M 7Y-F 7Y-M (d) 63 52 4 63 58 (e) 635 72 765 68 72 Fig.8 Definition of bicyclist model posture angle 2.2. 衝突条件本研究では事故類型の中で死亡 重傷者数の最も多い 出会い頭事故 (2) を対象とし, 自転車モデルと自動車モデルの衝突角度を 9 に設定した. また, 両モデルが確実に衝突するように, 自動車モデルの前面中央部に, 自転車モデルのサドル部が衝突するようにした. また, 事故発生頻度分布 (2) から, 自動車モデルの衝突速度は, 2, 3, 4km/h の 3 種類とし, 自転車モデルの走行速度は,, 1km/h の 2 種類とした. 自動車モデルの減速度は.5G の 1 種類とし, 衝突瞬間からブレーキによる車両の減速度が加わる状況を模擬した. 表 1 に衝突条件の一覧を示す. 合計 9 ケースの解析を行うことにした. Table 1 Simulation parameters Parameter Number Detail ehicle Type 3, SU, 1Box Bicyclist 5 1Y-C, 15Y-F, 19Y-M, 7Y-F, 7Y-M ehicle impact velocity [km/h] 3 2, 3, 4 Bicycle traveling velocity [km/h] 2, 1 Total cases 9 (=3 5 3 2) 3. 解析結果本章では, 頭部の衝突状況について,(1) 車両と頭部との衝突 (1 次衝突 ) と (2) 路面と頭部の衝突状況 (2 次衝突 ) に分けて, その特長を述べる. 3.1. 自動車と頭部の衝突状況 (1 次衝突 ) 図 9 にシミュレーション結果の一例として, 各車両モデルにおける 自動車の衝突速度 4km/h, 自転車の走行速度 km/h かつ 7 歳代男性 の場合での自転車モデルの頭部の衝突状況を示す. との衝突時は, 衝突直後から身体がボンネット上をすべるようにして移動した後, 頭部が車両のフロントガラスに衝突する.SU との衝突時は, 衝突後, 最初に腰部付近がボンネット先端に衝突して, 身体がボンネットに対して回転しながら倒れ込んだ後に, 頭部がボンネットに衝突する. との衝突時は, 衝突直後に身体の大半が車両と衝突し, その直後に頭部が車両のフロントガラスに衝突する. いずれの車種においても乗員年齢, 衝突速度および自転車の走行速度が変わると, 頭部の車両に対する衝突位置がやや ol.46,no.2,march 215. 487
変化するものの, 自転車乗員の挙動の特徴については類似していた. そこで, 以下では, まず自転車乗員の頭部の衝突状況を車種ごとに大まかに解析する. (a) (b)su (c) Fig.9 Head impact situation for each vehicle (initial collision) 3.1.1. 対車衝突部位表 2 に 1 次衝突における頭部の対車衝突部位の割合を示す. 本研究では, 対車衝突部位を ボンネット (Bonnet), ボンネットとウインドシールドの境目 (Mid. of B and W) および ウインドシールド (Windshield) の計 3 種類に分類した., との衝突では頭部は 8% 以上のケースでウインドシールドに衝突する一方,SU では全ケースでボンネットに衝突することがわかった. この結果から, や については保安基準をベースとした歩行者頭部保護対策 ( ボンネット剛性の低減 ) が自転車乗員の頭部保護に必ずしも有効ではない可能性があることがわかった. Table 2 Rate of bicyclists' head contact locations Bonnet (B) Mid. of B and W Windshield (W) 11.1 8.9 8. SU 1.... 6.7 93.3 unit [%] 3.1.2. 頭部衝突速度および頭部衝突角度頭部衝突速度および頭部衝突角度の定義を図 1 に示す. 頭部衝突速度は, 車両に対する自転車乗員頭部重心の相対速度の Y 軸方向成分と自転車乗員の頭部重心速度の Z 軸方向成分の合成速度と定義し, その合成速度の水平面からの角度を頭部衝突角度と定義した. 図 11 に自動車の衝突速度と頭部衝突速度との比を示す. 車種に関わらず, 自動車の衝突速度が高くなるにつれて, 頭部衝突速度も高くなる傾向があった. との衝突では衝突速度が高くなるにつれて, 頭部衝突速度が自動車の衝突速度と同等になる傾向がみられる. 一方,SU および との衝突では, 自動車の衝突速度が比較的に高い 4km/h の場合でも, 頭部衝突速度は自動車の衝突速度よりも低い. 全衝突速度 全車種での平均値は.71 となった. 図 12 に頭部衝突角度を示す. 全体的に自動車の衝突速度が高くなるにつれて, 頭部衝突角度が浅くなる傾向がみられた. 頭部衝突角度を全衝突速度の平均でみると, では約 6,SU では約 91 また では約 41 となった. 全衝 突速度 全車種での平均値は 64 となった. 2 2 = bz + ( b y - c y ) - - 1 b y c y α = c o s ( ) Head impact velocity ratio Head impact Angle [ ] bz α by - cy Fig.1 Definitions of the head impact velocity and angle (initial collision) 1.4 1.2 1.8.6.4.2.87.93.63.58.52.5.95.66.56 2 3 4 ehicle impact velocity [km/h] Fig.11 Head impact velocity ratio for each vehicle velocity 12 1 8 6 4 2 (initial collision) 11.3 93.3 65.9 65. 53.1 33.2 49.5 79.4 2 3 4 ehicle impact velocity [km/h] 37.5 Fig.12 Head impact angle for each vehicle velocity (initial collision) SU SU 3.1.3. 頭部傷害基準値図 13 に頭部傷害基準 (HIC) 値を示す. いずれの車種においても, 自動車の衝突速度が低くなると,HIC 値が低くなる傾向があった. 具体的には, 衝突速度が 2km/h の場合での車種全体の平均の HIC 値は約 256 に対し, 衝突速度が 4km/h の場合での車種全体の平均は約 159 であった. 車種ごとに全衝突速度での HIC 値の平均をみると では 989(S.D.:643),SU では 538(S.D.:465), では 519(S.D.:481) であり, 全衝突速度 全車種での平均値は 74 であった. Head Injury Criteria 25 2 15 1 5 : Relative head velocity by : Bicyclist's Head COG velocity (Y) bz : Bicyclist's Head COG velocity (Z) cy : ehicle velocity (Y) α : Head impact angle 411 211 147 Global coordinate system Z Y 1235 561 395 132 95 951 2 3 4 ehicle impact velocity [km/h] Fig.13 HIC values for each vehicle velocity (initial collision) SU 488 自動車技術会論文集
3.2. 路面と頭部の衝突状況 (2 次衝突 ) 3.2.1. 頭部衝突速度および頭部衝突角度図 14 に 2 次衝突における頭部衝突速度および頭部衝突角度の定義を示す. なお,2 次衝突における頭部衝突速度は, 自転車乗員頭部重心の Y 軸方向成分と Z 軸方向成分の合成速度とした. 図 15 に 2 次衝突における自動車の衝突速度と頭部衝突速度の比を示す.2 次衝突時の自転車乗員の頭部は, 全体的に自動車の衝突速度よりも低い速度で路面に衝突していた. また, 全衝突速度 全車種での平均値は.72 となった. 図 16 に 2 次衝突における頭部衝突角度を示す. 各車種の全衝突速度での頭部衝突角度の平均値を求めたところ, では 33,SU では 38, では 26 となった. また, 全衝突速度 全車種での平均値は 32 となった. このことから,2 次衝突において自転車乗員の頭部は, 前述の 1 次衝突の場合よりも比較的に浅い角度で, 路面に衝突していることが分かった. Global Coordinate System Y Z by α Head impact velocity ratio Head impact Angle [ ] bz Fig.14 Definitions of the head impact velocity and angle (secondary collision) 1.2 1.8.6.4.2.72.93.78.73.73.58.57.71.74 2 3 4 ehicle impact velocity [km/h] Fig.15 Head impact velocity ratio for each vehicle velocity 1 8 6 4 2 61.5 36. 46.4-1 α = c o s ( (secondary collision) 2 2 = bz + by 36.4 26.5 27.3 24.4 15.9 15. 2 3 4 ehicle impact velocity [km/h] Fig.16 Head impact angle for each vehicle velocity (secondary collision) by ) : Relative head velocity by : Bicyclist's Head COG velocity (Y) bz : Bicyclist's Head COG velocity (Z) α : Head impact angle SU SU 3.2.2. 頭部傷害基準値 2 次衝突における HIC 値を図 17 に示す. 全衝突速度 全車種での平均値は 234 となった. 車種別に平均値をみると, では 2589(S.D.:3916),SU では 3244(S.D.:3136), では 129(S.D.:1142) であった. この結果から, 各車両ともに前述の 1 次衝突時に比べて非常に大きな HIC ならびに S.D. の値を示している. これは 1 次衝突よりも 2 次衝突のほうが, 頭部が加害部位に衝突するまでの時間が大きく, 頭部の衝突モードが大きく変化しやすいことに加え, 路面の荷重 - 貫入量特性が, 車両に比べてリニアで, かつ, 急激に立ち上がるためと考えられる. なお と では自動車の衝突速度が高くなった場合でも, 必ずしも HIC 値が線形に高くならない傾向がみられた. さらに注目すべき点は, 自動車の衝突速度が 2km/h の場合においても, 車種全体での HIC 値の平均は約 18(AIS4+ 傷害発生リスク :79%) であり, 保安基準等でも用いられている HIC 値 1(AIS4+ 傷害発生リスク :17%) の閾値を越えている. このことから,2 次衝突では自動車の衝突速度が低い場合でも, 頭部に AIS4+ レベルの重篤な傷害が発生する可能性があることが示唆された. Head Injury Criteria 12 1 8 6 4 2 2138 1699 166 585 588 256 982 662 136 2 3 4 ehicle impact velocity [km/h] SU Fig.17 HIC values for each vehicle velocity (secondary collision) 4. A ピラーとの衝突時に発生する HIC 値の検討 3.1.3 項で示したように,1 次衝突時に発生する全車種なら びに全衝突速度での HIC 値の平均は 74 であり, 保安基準等 でも用いられている HIC 値 1(AIS4+ 傷害発生リスク 17%) の閾値を下回っている. この結果だけをみると,1 次衝突の危 険性が低いように思われる. 一方, 図 18 に示す事故データ (7) をみると, ピラー ルー フ が頭部の加害部位になる割合は約 17% であり, 他の加害 部位と比べても無視できない割合であることがわかる. 特に比較的に剛性の高い A ピラーとの衝突時に発生する頭部傷害の程度を把握することは重要であるが, 本研究で作成した車両モデルには A ピラーがモデル化されておらず,A ピラーと頭部の衝突は再現できない. そこで本研究では, 簡易的に A ピラーと自転車乗員の頭部が接触したときに発生する HIC 値を検討できるように, シミュレーションモデルの一部を変更して, 解析を行った. ol.46,no.2,march 215. 489
Bumper, Grill 3% Road, 42% Hood 3% Door,Fender 5% Pillar, Roof 17% Windshield 3% Fig.18 Rate of the vehicle, road surface, etc, causing bicyclist head injuries (N=18,AIS2~6) (7) 4.1. A ピラーの特性への変更方法 A ピラーの特性を反映した自動車モデルへの変更方法を図 19 に示す. 自動車の外観形状は変更せずに, ウインドシールドの荷重 貫入量特性を同図に示す A ピラーの特性 (After Mod.) になるよう変更した. なお A ピラーの荷重 貫入量特性は,Mizuno らの文献 (8) に基づき定義した. 同図より, 変更前のウインドシールドの荷重 貫入量特性 (Before Mod.) では, 貫入量.2m での荷重が 6kN に対し, 変更後の A ピラーの特性 (After Mod.) では貫入量.2m での荷重は 15kN であり, 約 2.5 倍高い. Force[kN] 15 1 5 Before Mod. After Mod..4.8 Penetration [m] Fig.19 Comparison of the windshield stiffness 4.2. A ピラーとの衝突時に発生する HIC 値の解析結果図 2 に,A ピラーとの衝突時に発生する HIC 値を, 自動車の衝突速度ごとに分類して示す. なお SU との衝突では, 自転車乗員の頭部は A ピラーと衝突しなかったため, 同図には と において,A ピラー ( 特性変更前についてはウインドシールド ) に衝突した場合の結果のみを示す. 特性変更後の全車種 (,) および全速度域での HIC の平均値を求めると, 約 23 となり, 変更前のウインドシールド衝突時の平均値である約 94 に対し, 変更後の方が 2.2 倍高くなり,A ピラーの危険性が示唆された. Head Injury Criteria 7 6 5 4 3 2 1 86 399 2726 732 5555 2 3 4 ehicle impact velocity [km/h] Fig.2 HIC values for each vehicle velocity 1422 (collision with windshield which has A pillar stiffness) 5. まとめ本研究では, 自転車対自動車の衝突シミュレーションモデルを構築し, 自転車事故分析に基づいた全 9 ケースの出会い頭事故の衝突シミュレーションを実施した. そして, 自転車乗員頭部の自動車ならびに路面に対する衝突状況の解析を行った. 以下に, 本研究で得られた自転車乗員保護対策における主なポイントを示す. や との 1 次衝突では, 対車衝突部位の約 8% がウインドシールドであったため, 現行の日本の保安基準で求められている歩行者頭部保護対策 ( 対ボンネット ) が自転車乗員頭部保護には, 有効ではない可能性がある. 2 次衝突時に発生する HIC 値は, 全車種ならびに全衝突速度域での平均で約 234(AIS4+ 傷害発生リスク :96%) となり, 頭部に重篤な傷害が発生する可能性が極めて高い. A ピラーに衝突した全車種ならびに全衝突速度域での平均が約 23(AIS4+ 傷害発生リスク :88%) となり, 頭部に重篤な傷害が発生する可能性が高い. なお本稿では, 車種間の違いを主に, 大まかに自転車乗員の頭部衝突状況を解析した. 今後は, 自転車乗員の体格, 衝突速度および自転車の走行速度の影響などについても詳細な解析を行うとともに, 得られた知見に基づき, 自転車乗員の被害軽減対策を具体的に検討していく予定である. 参考文献 (1) 警察庁交通局 : 平成 24 年中の交通事故の発生状況 (212) (2) T. Maki et al:comparative analysis of vehicle-bicyclist and vehicle-pedestrian accidents in Japan, Accident analysis and prevention, 35, p927-94 (23) (3) Y. Mizuno : Summary of IHRA pedestrian safety WG activities(23)-proposed test methods to evaluate pedestrian protection afforded by passenger cars, Proceedings of the 18th ES Technical Conference -58 (23) (4) 浅沼宏幸ほか : 歩行者事故再現可能な簡易車両モデルの検討, 自動車技術会学術講演会前刷集,No.27-13 p.7-12 (213) (5) K. ANATA et al:injury risk assessment at the timing of a pedestrian impact with a road surface in a car-pedestrian accident, Proceedings of the 22nd ES Technical Conference 11-119 (211) (6) 健康局 : 平成 21 年国民健康 栄養調査報告 (213) (7) 公益財団法人交通事故総合分析センター : 交通事故例調査 分析報告書,p424-442 (25) (8) Mizuno and Kajzer, Head injuries in vehicle-pedestrian impact, Society of Automotive Engineers, 2-1-157 (2) 49 自動車技術会論文集