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立命館地理学 第 16 号 (2004) 41~54 氷上の交通路 チャダル ヒマラヤ北西部 ザンスカールにおける凍結河川上の交通の現状と将来 Ⅰ. はじめに標高 3,000 m を超えるヒマラヤ カラコルム一帯の高地では厳しい自然環境にあって土地生産性が低く 農耕と牧畜による食糧自給には限界があった それゆえ 地形的には隔絶された環境にありながら外部との交易が活発に行われ 隊商が山岳 高原地帯を往来した 1) また チベット高原やヒマラヤ山脈の奥地には仏教やヒンドゥー教の巡礼聖地が点在しており 巡礼者による往来も盛んであった 2) しかし 1940 年代後半以降に周辺国の国境紛争や民族問題が顕在化する 3) と そのような経済的 文化的往来も厳しく制限され 国境を介する交易路や巡礼路は一部の例外を除いて廃れてしまう 加えて 自動車道路と航空路線の開通が山岳 高原地帯における従来の交通路の衰退に拍車をかけた 4) しかし 代替交通手段が貧弱な地域では 古来利用されてきた交易路や巡礼路が依然として重要な役割を果たしている そのなかでも注目すべき例として ヒマラヤ北西部 ラダック (Ladakh) 地方のザンスカール (Zanskar) において 厳冬期に結氷した川が交通路として利用されている チャダル (Chadur) 5) が挙げられる インドのジャンムー カシミール州に属す るラダック地方 6) は 北のカラコルム山脈と南のヒマラヤ山脈に挟まれたインダス川上流域に位置し 大半が標高 3,000 m を超える高地である 2 大山脈に囲まれ 地形的には閉鎖性の高い環境にあるが 同地方はインドと東トルキスタン 7) との中間地帯にあたり インダス川沿いにチベット本土 8) へも通じている ( 第 1 図 ) そのため 1949 年に中印国境が閉鎖されるまで ラダックの首府レー (Leh, 標高 3,505 m) はインドと東トルキスタンおよびチベットを結ぶ国際交易路の重要な中継地であった 9) 国境閉鎖後のレーは国際交易の拠点という性格を失ったが ラダック地方における政治 経済の中心都市であることに変わりはない 10) いっぽう ザンスカールはレーの南西に位置する地域で ザンスカール川およびツァラップ (Tsarap) 川 ドタ (Doda) 川の谷間に集落が点在する 11) ( 第 2 図 ) この地域から周辺の各方面へ往来する場合には いずれも標高 5,000 m 級の高い峠を越えなければならない しかも 7~10 月頃を除く約 8ヶ月は積雪のために峠の通行が困難となり ザンスカールは周辺から孤立する ところが 同地域を貫流してインダス川に通じるザンスカール川は厳冬期に結氷する 1 月中旬頃から2 月末頃まで ザンスカール川が結氷する 41

第 1 図ラダック地方の位置 =ラダック地方都市 :1. レー 2. スリナガル 3. ジャンムー 4. マナリ国境係争地 :a. ジャンムー カシミール州 ( インド実効支配 )b. 北部地域およびアーザード カシミール ( パキスタン実効支配 )c. アクサイチン ( 中国実効支配 ) と ザンスカールの住民はその氷上を歩いてラダック地方の中心都市 レーとの間を往来する この氷上の交通路が現地でチャダルと呼ばれている 1996 年と 2000 年 筆者はチャダルを歩いて厳冬期のザンスカールへ入域する機会を得た 本稿ではおもに 2000 年当時の状況をふまえ チャダルの交通事情について報告する そして このように特殊な交通路が存続している要因と その将来について考察を試みる Ⅱ. ザンスカールの概観 1. 厳しい自然環境と生業形態チベット文化圏の西端に位置するラダック地方にはおもにチベット系民族が居住し その多くが仏教徒である ただし 同地方にはイスラム教徒も多数居住しており 仏教徒が大半を占めるレー地区とイスラム教徒が主流のカルギル (Kargil) 地区に区分される ザンスカールはカルギル地区に属しているが ほとんどの住民がチベット系民族の仏教徒である ( 写真 1) 42

氷上の交通路 チャダル 第 2 図ザンスカールとその周辺の主な交通路 a. チャチャ ラ峠 (5,210m)b. シンギ ラ峠 (5,060m)c. ペンシ ラ峠 (4,401m) d. ウマシ ラ峠 (5,330m)e. シング ラ峠 (5,100m) チャダルの区間は 2000 年 1~2 月に筆者が現地で確認した範囲を図示した 標高 3,000 m を超える高地に位置し ヒマラヤ山脈によってモンスーンが遮られるザンスカールは 基本的に寒冷かつ乾燥した気候の地域である ただし 日差しが非常に強い夏季と雪に閉ざされる冬季とでは気温の較差が大きく 日中と夜間との気温差も大きい このような気候条件ゆえに植生は乏しく 谷間の地表はおもに岩山や砂漠で占められている したがって 付近の山岳渓流から融雪水 を引き 灌漑耕作が可能なところに集落の立地は限られる 12) 耕地では大麦や小麦 エンドウ豆などが栽培されるが 土地生産性の低い高地では十分な収穫は得られない 必然的に牧畜の比重が高くなり 氷河や雪線の近くに分布する牧草地において ヤク 13) やゾ 14) ヤギ 羊などが放牧され バターやチーズが生産される そして 現地での自給が困難な茶葉や塩などの物資は交易によって入手され 43

写真 1 ザンスカールの貴婦人写真の女性はザンラ王家の王妃 チベット系民族の顔立ちは日本人にも似ている (2000 年 2 月 筆者撮影 ) てきた 2. 生活を支えてきた交易活動ザンスカール産の乳製品は高級品として扱われるため ザンスカールの住民にとって貴重な交易商品となった 15) しかし 谷間に集落が分布するザンスカールから周辺各地へ通じる交通路には 北東のレー方面にシンギ ラ (Singi La) 峠 ( 標高 5,060 m) やチャチャ ラ (Charchar La) 峠 ( 標高 5,210 m) 北西のカルギル 16) 方面にペンシ ラ (Pensi La) 峠 ( 標高 4,401 m) 西のジャンムー(Jammu) 方面にウマシ ラ (Umasi La) 峠 ( 標高 5,330 m) 南のマナリ (Manali) 方面にシング ラ (Shingu La) 峠 ( 標高 5,100 m) などが控えており いずれも標高 5,000 m 級の高い峠を越える必要 がある ( 第 2 図 ) しかも 7~10 月頃を除く約 8ヶ月は積雪のためにこれらの峠の通行が困難となり ザンスカールは周辺各地との交通路を断たれてしまうのである ところが 厳冬期の 1 月中旬 ~ 2 月末頃にザンスカール川が結氷し チャダルと呼ばれる氷上の交通路が出現する 従来 ザンスカールの住民は夏季に生産したバターやチーズを携行してチャダルを歩き レーまで交易に出かけた そして 生活に必要な茶葉や塩 日用品などをレーで入手した 17) このように 生活必需品を得るための小規模な交易にも支えられ ザンスカールの集落では厳しい自然環境に適応した半農半牧の生活が営まれてきたのである 1980 年 ペンシ ラ峠を越えてカルギルとザンスカール中心部のパドゥム (Padum, 標高 3,531 m) 18) を結ぶ自動車道路が完成した このカルギル~パドゥム道路の開通によってザンスカールの交通事情は飛躍的に向上し 伝統的な住民の生活が変容していく大きな要因となった しかし 同道路でも 7 ~ 10 月頃を除く約 8ヶ月はペンシ ラ峠付近の積雪のために自動車の通行が不可能となる 19) したがって ザンスカールの住民にとってチャダルが重要な交通路であることは現在も変わりない Ⅲ. チャダルの交通事情 1. チャダルの区間 2000 年 1 ~ 2 月 レーからザンスカールに帰省する知人の一行に加わり 筆者はチャダルを利用してザンスカール中心部のピビティン (Pibiting) を訪ね ツァラップ川流域にも 44

氷上の交通路 チャダル 足を延ばした 20) ザンスカール川はツァラップ川とドタ川の合流点から流下し ニム付近でインダス川に合流する 厳冬期にはその大部分で結氷するが 往来する人々が氷上を歩くチャダルの区間はおもにチリン (Chiling)~ハナムル (Hanumil) 間であった ( 第 2 3 図 ) レーからザンスカールへ向かう場合 チリンまでは川沿いに自動車道路が通じているため 通常はチリンがチャダルの起点になる 21) また チリン~ハナムル間のザンスカール川は深い峡谷の底部を流れ 両岸に断崖が屹立している そのため この区間の河岸にはニェラグ (Nerak) 以外の集落は見あたらず チャダルに並行する陸上の交通路も開削されていない これに対し ハナムルから上流のザンス カール川は氷河作用による比較的広い谷の底部を流れ 22) 谷間に点在する集落を川沿いに結ぶ道が通じている そのため ザンスカール川に張った氷の状態が悪ければ 往来する人々は並行する陸上の交通路を歩くことができるのである 23) なお ザンスカール川の上流部にあたるツァラップ川でもチャダルが利用されている 24) チャダルの主要区間であるチリン~ハナムル間 ( 約 60 km) の通行には通常 4 日程度を要する それを含め レーからザンスカール中心部のピビティンまで ( 約 150 km) の所要日数は約 1 週間である 25) ただし チャダルの所要日数は後述する氷の状態に大きく左右される 2. 氷の状態ザンスカール川が完全に結氷し 氷厚もじゅうぶんであれば チャダルの通行に大きな支障はない しかし 川が完全に結氷する全面結氷の状態 ( 写真 2) はさほど多くない むしろ河岸付近のみ結氷する部分結氷の状態が多く 中央部の流水には氷塊が流れている ( 写真 3) 厳冬期のザンスカールでは早朝の気温が 写真 2 チャダル ( 全面結氷の状態 ) ニェラグ付近 このように川の全面が結氷している状態はさほど多くない (2000 年 1 月 筆者撮影 ) 写真 3 チャダル ( 部分結氷の状態 ) このように河岸付近のみ結氷している状態が多い (2000 年 1 月 筆者撮影 ) 45

30 ~ 40 程度まで下がる 加えて チリン ~ハナムル間のチャダルは深い峡谷の底部に通じているため 早朝のうちは日が差し込まない したがって 早朝の氷は比較的硬く締まって安定しているが 直射日光や断崖からの照り返しを受けると 硬く凍結していた氷も次第に融けてくる そして 脆くなって亀裂の入った氷が割れ 流水や風の影響も受けて流出する しかし いったん氷が流出した箇所でも 冷え込みが厳しくなると上流から流れてくる氷塊もあわせて再結氷する このように 結氷と解氷を繰り返しながら変状する氷は スケートリンクのような安定した平面ではない 氷の表面は波打ち 氷河におけるクレバスのように亀裂が口を開けている場合もある 特に 氷上に雪が積もると亀裂が隠されてしまうので 危険箇所の判別が難しくなる また 急激な融雪の進行がザンスカール川の水位を上昇させる 26) と 氷上に水が溢れる状態となる 逆に気温の著しい低下が水位を下げ 水面との間にできた隙間に氷が崩落することもある 27) さらに 足もとの氷の状態ばかりではなく チャダルを歩く者は頭上からの雪崩にも注意を払う必要がある 河岸に屹立する断崖からの雪崩は氷を崩壊させるだけでなく 通行する者を巻き込む危険をもはらんでいる 3. 通行にともなう危険様々な危険に対処するためにも チャダルを歩く際には親族や同郷の者など信頼できる人とグループを組むことが望ましい 気温 日射 流水 風などの影響を受けて氷の状態は不測の変化を見せる そのため 同行者のなかでも経験豊富な者が先頭に立って進み 氷の状態が安定している部分を慎重に選ぶ そして各自が木杖を持ち 足もとの氷を叩いて状態を確かめながら 転倒しないように摺り足で歩くのである チャダルの通行中に特に恐れられているのは 氷の薄く脆い部分を踏み抜いて 氷の下の流水に流されてしまうことである 流された者は生還しがたいが 運良く体を引き上げた場合でも 濡れた靴と着衣が凍結するので凍傷の危険にさらされる ザンスカールの住民の多くは ゴンチェ と呼ばれるラダック地方伝統の毛織製コートを着込んでいる これは少々重たく動きづらい面もあるが 氷上で転倒した場合も分厚い生地が体を保護してくれる また 足には大概の者がゴム長靴や ジャト と呼ばれる皮製の長靴を履いているが 行く手の氷上に水が溢れている場合には裸足になって浸水域を渡渉する その際 不用意に濡れた足を岩や氷に乗せると 皮膚が凍りついて離れなくなる それを無理に離そうとすれば 足裏の皮が剥がれてしまう 28) 氷が割れて流出した箇所では氷上を通行することができないため チャダルを歩く者は 写真 4 氷上から断崖への迂回ヨツァ付近 各自の荷綱を結び合わせた命綱を用い 崖上から引き上げてもらいながら ひとりずつ登攀した (2000 年 2 月 筆者撮影 ) 46

氷上の交通路 チャダル 陸上への迂回を余儀なくされる しかし 迂回のためには河岸に屹立する断崖を登攀する必要があり 滑落の危険がともなう この危険な迂回に際しても ルート工作や命綱による安全の確保などで同行者と協力しながら ザンスカールの住民は素手と長靴で岩場によじ登る ( 写真 4) パドゥムにあるツーリスト オフィスの役人から聞いた話では 結氷が不完全であるために例年陸上への迂回を余儀なくされる難所が 7 箇所あるという 29) そのなかでも 筆者が該当地点を確認することができた 4 箇所については 第 3 図に記入した 4. 洞窟を利用する野営河岸にニェラグ以外の集落が立地していないチリン~ハナムル間では 河岸に点在する バオ (bao) と呼ばれる洞窟が野営する場所 となる ( 第 3 図 ) 洞窟の間口は大小さまざまであるが奥行きはさほど深くなく ようやく全身が隠れる程度のものが多い したがって 風や雪が吹き込む場合もあり 洞窟内の気温は外とほとんど変わらない 洞窟のなかで 人々は焚き火 30) にあたりながらバター茶 31) を飲み ツァンバ 32) などを食べて体を温める 凍傷にかからないように濡れた靴と衣類を乾かすことも重要である そして 夜間は残り火のまわりに全員が体を寄せ合って寝る しかし 明け方の気温は 30 ~ 40 程度まで下がるため じゅうぶんな睡眠をとることは難しい また 気温の低い早朝は氷の状態も比較的安定しているのでチャダルの通行には都合がよい そのため 洞 第 3 図チャダル ( チリン~ハナムル間 ) に関わる地名結氷が不完全な難所 :1タクマル コンヨク 2ギャルポギャルゾス 3ワマ 4ヨツァ洞窟 :1. タクマル バオ 2. バックリ バオ 3. マルカラ バオ 4. パルダル バオ 5. ホトン バオ 6. ディプ バオ 7. ギャルポギャルゾス バオ 8. ヨカン バオ 9. ニェラグ バオ 10. チェレ バオ 11. キリメン バオランドマーク :a. ラマグル ( 僧院跡?)b. パルダル ツォモ ( 厳冬期にも凍結しない滝 )c. 仏塔現地での確認に基づいて作成 ただし 必ずしも正確には把握できなかったので今後の再確認を要する また筆者による手書き図が原図であるため 本図にも多少のゆがみがある 47

窟に泊まった人々は明け方に目を覚ますとすぐに出発する そして 2 ~ 3 時間歩いて体も温まった頃に適当な場所を見つけて休憩し 朝食をとるのである Ⅳ. チャダルが利用される要因 1. 農閑期の貴重な交通路前述してきたように チャダルを歩く際の状況は氷の状態に大きく左右される 厳しい寒さのなかで チャダルを歩く者は足もとの氷の状態に細心の注意を払い 状況によっては滑落の危険をともなう断崖へ迂回しなければならない また 現在ではカルギル~パドゥム道路にバスが運行され 夏季の交通事情は飛躍的に向上している 33) しかし チャダルの通行にともなう危険や夏季の交通事情の如何に関わらず チャダルはザンスカールの住民によく利用されている そのおもな要因は 半農半牧と交易に頼る生活が営まれてきたザンスカールでは 農閑期に利用できる交通路の存在が非常に重要である点に求められよう ザンスカールと周辺各地との間は 夏季に はカルギル~パドゥム道路やその他の徒歩道で結ばれ 峠越えをともなうとはいえ通行自体に大きな障害はない しかし 基本的に半農半牧の生活を営むザンスカールの住民にとって 様々な農作業や放牧地における家畜の世話に従事する 5~10 月頃は多忙な季節である 加えて 7~9 月頃のトレッキング シーズンには馬方の仕事などが入ることもある 34) それに対し 10 月中に脱穀や製粉が終えられ 11 月末頃までに放牧地から集落に家畜が戻されると 翌春の雪解けまでは農閑期となり 人々に時間的な余裕が生じる 35) ( 第 4 図 ) しかし この長い農閑期に陸上の交通路は峠付近の積雪のために通行困難となり 11 月頃から 6 月頃までザンスカールは周辺から孤立する ところが 厳冬期の 1 月中旬 ~ 2 月末頃にはザンスカール川が結氷し チャダルと呼ばれる氷上の交通路が出現するのである したがって 時間的に余裕の生じる農閑期でありながら外部との交通が途絶する冬季にあっても チャダルが出現する期間にはザンスカールからレーへ出かけることができる 36) 加えて レーにおいて高価で取引 第 4 図ザンスカール中心部 ( トンデ ) における生業暦と交通路の関係 Henry Osmaston, Janet Frazer and Stamati Crook:Human Adaptation to Environment in Zangskar, in John H. Crook and Henry A. Osmaston eds.:himalayan Buddhist Villages, Motilal Banarsidass, 1994, pp. 37 ~ 110 をもとに作成 48

氷上の交通路 チャダル され 貴重な収入源となる乳製品の運搬には 気温の高い夏季よりも厳冬期のほうが適している 37) ザンスカールの住民はチャダルを歩いてバターやチーズをレーまで運び 換金するか物々交換する そして 必要な物資をレーで購入してザンスカールに持ち帰るのである そのほか ザンスカールへの帰省や僧院巡礼など 農閑期に行われるさまざまな所用のためにチャダルが利用されている 2. 山岳地帯における平坦な道程結氷した川を辿るチャダルの道程は基本的に平坦である これは 山岳に囲まれたザンスカールでは他の交通路にはない特徴である カルギル~パドゥム道路開通以前の徒歩と家畜による交通では 平坦なチャダルの道程は峠越えをともなう陸上の交通路よりも物資の運搬に適しており 速達性にも優れていたようである この点も ザンスカールの住民にチャダルが選択される要因になったと考えられる カルギル~パドゥム道路の開通後 ザンスカールへの物資の輸送は同道路を経由するトラックやバスを利用して行われるようになっ 写真 5 チャダルによる材木の運搬ディプ ヨグマ付近 奥の谷から切り出された丸太がリンシェの僧院まで運ばれていく 同様な材木の運搬が ツァラップ川のラルーとイチャーの間でも行われていた (2000 年 1 月 筆者撮影 ) た しかし 自動車道路の整備が遅れているザンスカール 38) の一部では 依然としてチャダルを利用した物資の運搬も厳冬期に行われている 例えば 陸上の交通路に峠越えが多いリンシェ (Lingshot) 付近や 崖沿いの坂路が続くツァラップ川方面では 平坦かつ摩擦の少ない氷上を利用して材木が運搬されていた 材木のように比較的大きな物資にも綱が結びつけられ それを住民が引きずって運ぶのである ( 写真 5) Ⅴ. チャダルの将来 1. 悪化しつつある利用環境ザンスカールの住民にとって チャダルは現地での生活に欠かせない重要な交通路である しかし そのチャダルが将来も存続していくのかについては懐疑的な見方もある ザンスカールの住民の話を総合すると 以前のほうがチャダルの利用環境は良かったらしい 例えば チャダルが出現する期間は 2000 年には 1 月中旬から 2 月末頃までであったが 以前は 3 月上旬まで通行可能であったという 39) また かつては馬がチャダルを通行することもあったらしく それほどザンスカール川の氷の状態は現在よりも良好であったという このように 長年チャダルを利用してきたザンスカールの住民の印象では 以前よりもザンスカール川の結氷期間は減少し 氷の状態も悪化しているようである 2. 望まれる代替交通路ザンスカールの住民のあいだでは ザンスカール川に沿ってパドゥムからレー方面へ通じる自動車道路 ( チャダル ロード ) の早期開通を望む声もあがっている 40) その背景に 49

は 前述したチャダルの利用環境の悪化も影響しているのであろう 既存のカルギル~パドゥム道路やその他の徒歩道は 7~10 月頃を除く約 8ヶ月は峠付近の積雪のために通行困難となる しかし 川沿いのチャダル ロードが完成すれば 積雪の影響は大幅に緩和されると考えられる また この道路はレーに近いチリン ニム (Nimu) に通じるため レーまでの距離も短縮されることになる チャダル ロードの開通によって チャダルはその交通路としての役割を終えるのであろうか チリンからハナムルにかけてのザンスカール川は深い峡谷の底部を流れ 両岸に断崖が屹立している そのため 道路の開削はかなりの難工事になると予想される 41) また 道路の開通後も落石や斜面崩壊 雪崩の発生が懸念され 維持管理には相当な困難がともなうとも予想される 将来 チャダル ロードの開通後に道路の維持管理状況が悪化すれば 厳冬期にはチャダル ロードとチャダルが併用される状況もありうるであろう なお 峠の通行が困難となる冬季に ザンスカールとレーとの間を連絡するチャダル以外の交通手段としてヘリコプターが挙げられる ただし これは病人輸送や行政機関の連絡などのために限定的に運行され チャダルの代替として一般住民に供用される交通手段とはなっていない 3. チャダルの観光化近年 チャダルを歩く者はザンスカールの住民ばかりではない チャダルに関心を抱く個人旅行者や写真家 42) がいるほか 団体によるチャダルの体験旅行も行われている 2000 年 2 月にも 十数名の欧州人旅行者が約 20 名の現地人ガイドとポーターを帯同し リ ンシェを目指してチャダルを歩いていた しかし アイゼン 43) を装着したその一行が通り過ぎた後の氷は表面が削られ 後から通る者が歩きづらい状態になっていた いっぽうではチャダルの利用環境の悪化が言われるなか 本格的な装備と人数の集中がチャダルに負荷をかけていたのである 44) 団体によるチャダルの体験旅行が増加すれば オフシーズンにおけるガイドやポーターの雇用増加につながるであろうが チャダルの利用環境への影響も懸念される Ⅵ. おわりに本稿ではザンスカール川の結氷によって出現する氷上の交通路 チャダル の交通事情について報告し その存続要因と将来について考察した 基本的に半農半牧の生活を営むザンスカールの住民にとって 冬季は時間的に余裕の生じる農閑期であるが 陸上の交通路は峠付近の積雪のために通行困難となる したがって 厳冬期にレーとの往来 ( 交易など ) を可能にするチャダルの重要性は非常に高いといえよう また 山岳に囲まれたザンスカールにおいて チャダルは貴重な平坦路である こうした要因や長年の習慣もあって ザンスカールの住民は厳しい環境のなかでのやむをえない選択ではなく ある程度積極的にチャダルを利用していると考えられる そのため カルギル~パドゥム道路の開通によって夏季の交通事情が飛躍的に向上した現在でも チャダルはザンスカールの住民によく利用されている しかし ザンスカール川の結氷期間や氷の状態など チャダルの利用環境は以前よ 50

氷上の交通路 チャダル りも悪化しているようであり 代替交通路となるチャダル ロードの建設が望まれている また そのいっぽうでチャダルの観光化ともいえる動向も認められる 氷の状態や気象条件 さらには同行者との人間関係などによって チャダルを歩く際の状況は大きく異なってくる したがって 本稿で報告したチャダルの交通事情も多様な状況があるなかでの一事例である また チャダルの旅を体験し ザンスカールに滞在してみると チャダルが利用される要因には 本稿で指摘したような地理的環境に起因する要因以外にも 必ずしも合理的とはいえない文化的 社会的な要因が影響していると感じられる 例えば 伝統的な生活様式や流通体系が着実に変化し 生活必需品を得るための小規模な交易も重要性を失いつつあるなかで ザンスカールの住民はチャダルの旅にザンスカール人としてのアイデンティティーを見出している側面があるのかもしれない 45) また 仏教徒とイスラム教徒との軋轢 46) 自動車交通に対する不安 47) チャダルに寄せられる信仰心 48) などの影響も推察される これらの要因についてもフィールドにおける体験を通じて検討し ヒマラヤ カラコルム一帯における住民と交通路との関係を考えたい 49) 付記 地名のカタカナ表記は 現地で聞いた発音をそれに近い字に置き換えたものです また アルファベット表記は 注 25) の地図などによりました 本稿の作成にあたり 立命館大学の河原典史先生には懇切かつ多大な助言をいただきました また 大谷大学専任講師の三宅伸一郎先生 北海道大学大学院生の池田菜穂氏からも貴重な助言をいただきました 心より御礼申し上げます また ヒマラヤ北西部の魅力を教わり 様々な励ましをいただいた元日本勤労者山岳連盟会長の森田千里先生と ロブ サン トゥプテン氏らチャダルの旅でお世話になった方々に感謝いたします 最後に 2003 年 8 月にザンスカールで消息を絶った坂井能光君の無事を祈ります 注 1)1 川喜多二郎 チベット文化の生態学的位置づけ ユーラシアの文化生態学序説 ( 川喜田二郎 梅棹忠夫 上山春平編 人間人類学的研究 ( 今西錦司博士還暦記念論文集 ) 中央公論社 1966 所収) 289 ~ 342 頁 2 煎本孝 ラダック王国史の人類学的考察 歴史 - 生態学的視点 国立民族学博物館研究報告 11-2 1986 403 ~ 455 頁 3 鹿野勝彦 ヒマラヤの交易 科学 72-12 2002 1243 ~ 1246 頁 2) 例えば 中国チベット自治区西部のカイラス山とマナサロワール湖周辺は チベット仏教やヒンドゥー教の信者から絶大な信仰を集める聖地であり チベット各地をはじめ ヒマラヤ山脈に隔てられたインドからも巡礼者が訪れる カイラス山周辺の聖地とヒマラヤを越える巡礼路に関しては以下の文献に詳しい Swami Pranavananda: KAILAS-MANASAROVAR, 1983 (first edition 1949). また 拙著 西チベット インダス川の源流を訪ねて ( 上 ) ( 下 ) 婦人通信 543 544 2003 27 ~ 29 20 ~ 22 頁も参照されたい 3)1947 年に英領インドからインドとパキスタンが分離独立すると ジャンムー カシミール藩王国 ( 第 1 図中の a,b,c) の帰属を巡って第一次印パ戦争が勃発し 同藩王国領はインド支配地域 ( 第 1 図中の a,c) とパキスタン支配地域 ( 第 1 図中の b) に分断された 印パ両国はその後も停戦ラインを挟んで対峙し 第二次印パ戦争 (1965 年 ) 第三次印パ戦争(1971 年 ) カルギル紛争 (1995 年 ) で大規模な戦闘が行われた また 中国によるチベットと新疆への進駐 (1949 ~50 年 ) や 1959 年のチベット動乱を経て インドと中国との間でも国境問題が表面化し 1962 年の中印国境紛争へ発展した この紛争でインド軍は大敗を喫し それ以来アクサイチン ( 第 1 図中のc) の中国実効支配が続いている 4) 一連の国境紛争の結果 紛争地域への軍用道路と空港の建設が進められた それらは一般にも供用され 輸送力や速達性の面で劣る徒歩 家畜の交通は重要性を失った 前掲 1)3 1243 ~ 1246 頁によると 4 トントラック 1 台の輸送効率は 家畜の約 1,000 倍になるという 5) Chadur の語源ははっきりしない James Crowden: Butter trading down the Zangskar gorge: the winter journey, in John H. Crook and Henry A. 51

Osmaston eds.: Himalayan Buddhist Villages, Motilal Banarsidass, 1994, pp. 285 ~ 292 によると 一説には cha は cha-rog と呼ばれる雪靴 dar は しっかりと凍った川 を意味するという 6) ラダックは仏教を信仰するチベット系民族の王国であったが 1834 ~ 35 年にジャンムー (Jammu) のドグラ族の侵攻を受けてその支配下に置かれ 1846 年にはジャンムー カシミール藩王国に編入された 1947 年に勃発した第一次印パ戦争の結果 ラダックを含む同藩王国の南部はインドの支配地域となり 1964 年にはジャンムー カシミール州が成立した 7) 東トルキスタンは現在の中国新疆ウイグル自治区に該当する トルキスタンとは トルコ人の住む土地 という意味の中央アジアの古称である 8) チベット本土とは 現在の中国チベット自治区および青海省 四川省西部などに該当する この本土を中心としたチベット文化圏の西端にラダック地方は位置する 中国の支配下に置かれ 文化大革命期 (1966 ~ 1976 年 ) には独自の宗教文化を徹底的に破壊されたチベット本土に対し ラダックは 小チベット とも称される 9) 前掲 1)2 403 ~ 455 頁によると 中印国境が閉鎖されるまではラダックを介して周辺各地を結ぶ中継交易が盛んであった 例えば チベット産のヤギ毛がラダック経由でカシミールのスリナガル (Srinagar) に輸出され 織物に加工された この加工品が再びラダックに持ち込まれ カラコルム (Karakoram) 峠 ( 標高 5,575 m) を越えて東トルキスタンのヤルカンド (Yarkand) ヘ輸出された 10) パキスタンおよび中国との国境紛争の影響で国際交易は途絶え ラダック地方は紛争地域の最前線に位置付けられるようになった そのため 同地方に通じる軍用道路の建設が促進され 1960 年にスリナガル ~ レー道路 1987 年にはマナリ ~ レー道路が開通した さらに 1974 年に外国人の入域が解禁されると レーでは人や物資 情報の流入と開発が急激に進行した 現在のレーの人口は約 24,500 人を数える ( 人口は後掲 33) による これ以降の人口に関する記述も同じ ) 11) ザンスカールはパドゥム (Padum) とザンラ (Zangla) の二つの王家を中心とした地方小王国であったが レーのラダック王朝と同様にドグラ族の侵攻を受け ジャンムー カシミール藩王国に編入された 現在のザンスカールは人口約 7,000 人を数え 住民のほとんどがチベット系民族の仏教徒である なお ザンスカール川中流域のリンシェ (Lingshot) 付近は行政区分 上ザンスカールに属していないようであるが 本稿ではザンスカールの一部として扱った その理由は かつてリンシェ付近がパドゥム王家の所領であったという歴史的経緯などによる 12) ヴォルフガンク フリードル著 矢田修眞 井藤広志訳 ザンスカル ( ラダック ) の社会 経済 物質文化 文化書院 1997 8 ~ 10 頁 13) ヤクはチベットおよび周辺地域の標高 4,000 m 以上の高地に生息するウシ科の動物で 長い体毛に覆われている 現在では野生種の数は非常に少ない 14) ゾはヤクと牛の交配種で ヤクよりも性質がおとなしく 温暖な気候に適合しやすい チベットや周辺地域の標高 3,000 m 前後の高地で放牧されている 15) 庄司康治 氷の回廊を行くヒマラヤの星降る村の物語 文英堂 1998 34 ~ 35 頁によると 高標高で育つヤクの乳製品ほど美味との評価を受けるという 16) カルギルは人口約 5,500 人を数えるラダック地方第 2 の都市である 第一次印パ戦争勃発までは カルギルもバルティスタン方面 ( カルギル北方のパキスタン支配地域 ) との交易の中継地として栄えた 現在はカルギル地区の中心地であり スリナガル ~ レー道路上の交通の拠点でもある 17) 前掲 5),pp. 285 ~ 292 によると 厳冬期に約 300 人のザンスカール住民がチャダルを通行してレーとの間を往来する 彼らは 1 人あたり 5~15 kg ほどのバターを携行し レーで換金するか 生活必需品と交換するという 18) パドゥムは人口約 1,500 人を数えるザンスカールの中心集落で ザンスカール唯一のバザールがある 19) 道路の積雪状況は年によってかなり異なる 現地からの情報によると 2003 年は 11 月下旬の時点でもカルギル ~ パドゥム間の通行は可能であった 20) ピビティン出身のロブサン トゥプテン (Lobzang Thubten) 氏らの一行に筆者は同行させてもらった ロブサン氏は 2000 年当時レー郊外に在住していたが レー地区の僧院巡礼を終えてピビティンに帰る老父を送るため チャダルを利用してレー ~ ピビティン間を往復するところであった 21)2000 年 1~2 月当時 レーとチリンとの間 ( 約 50 km) を結ぶミニバスが週に 1 往復運行されていた 所要約 3~5 時間 22)Henry Osmaston: The Geology, Geomorphology and Quaternary History of Zangskar, in John H. Crook and Henry A. Osmaston eds.: Himalayan Buddhist Villages, Motilal Banarsidass, 1994, pp. 1 52

氷上の交通路 チャダル ~36. 23) 筆者らの一行はチリンからハナムルまでチャダルを歩き ハナムルからピビティンまでは川沿いの道を歩いた しかし ハナムル ~ ピドモ (Pidmu) 間の道には崖沿いに足場の悪い箇所もあり 雪に足をとられて歩きにくい状態であった 同行のロブサン トゥプテン氏によると ザンスカール川に張った氷の状態が良ければ 一行もピドモまでチャダルを歩いたという 24)2000 年 2 月当時 ツァラップ川の結氷の状態は不完全であったが ラルー (Reru)~ イチャー (Ichar) 間では氷上の歩行が可能であった ( 第 2 図 ) 25) チリン ~ ハナムル間およびレー ~ ピビティン間の距離は以下の地図上で計測した 1/200,000 Indian Himalaya Maps Sheet-2 JAMMU & KASH- MIR (Zanskar), 発行年不明. 同 Sheet-3 JAMMU & KASHMIR (Ladakh), 発行年不明. 26) 前掲 5),pp. 285 ~ 292. James Crowden の体験 (1977 年 2 月 ) では 支谷での急激な融雪によってザンスカール川の水位が 2 日間に 18 インチ ( 約 45 cm) 上昇したという 27) オリヴィエ フェルミ著 檜垣嗣子訳 凍れる河 新潮社 1995 巻末写真解説文 28) このような場合には 冷たさを我慢してしばらく足を動かさず 凍結面が体温で融けるのを待たなければならない 29) ワマ ヨツァ ツァチュ ギャガラムド ギャルムルシング タクマル コンヨク ギャルポギャルゾスの 7 箇所 30) 薪となる流木は洞窟周辺で集められるが 不足する場合には収集範囲が数 km 先まで拡がることもある また チャダルの通行中に適当な流木を見つけた者は その日泊まる洞窟まで持ち運ぶ 31) バター茶は 茶と塩とバターを円筒状の撹拌機に注ぎ入れ 上下に動かす棒でかき混ぜて作る 体を温め 栄養豊富で唇の乾燥防止にも役立つバター茶は 寒冷かつ乾燥したラダック地方の環境に非常に適している 近年では 砂糖を入れた甘いミルク茶もよく飲まれている 32) ツァンバはラダック地方の主食で 大麦を炒ってから臼で挽いて粉末にしたものである バター茶や湯で練って団子状にしたものが食されるほか すいとんなども作られる そのほか 筆者らの一行は米やダル豆 玉ネギ インスタントラーメンなども携行した 33) 高木辛哉 ラダック ( 旅行人ウルトラガイド ) 旅行人 2001 136 ~ 137 頁によると 夏季にはカルギル ~ パドゥム間のバスが隔日運行されている ( 所要 12 ~ 13 時間 ) このバスとレー ~ カルギル間のバスをあわせて利用すれ ば レーとザンスカール中心部との間は最短 2 日で結ばれる 34) ザンスカールでは宿泊施設や食堂がパドゥム以外にはほとんどない したがって トレッキング シーズンにはキャンプ用具や食料を運搬する馬の需要があり 馬の所有者などが馬方として同行する 夏季のトレッキングに関しては以下の文献を参照されたい 佐藤健 マンダラ探検チベット仏教踏査 人文書院 1981 Charlie Loram: Leh & Trekking in Ladakh, Trailblazer Publications, 1996. 35) 標高や日当たりなどによって 農作業の日程は集落間で差が生じる ここではザンスカール中心部のトンデ (Thonde) に関する下記文献の記述を参考とした Henry Osmaston, Janet Frazer and Stamati Crook: Human Adaptation to Environment in Zangskar, in John H. Crook and Henry A. Osmaston eds.: Himalayan Buddhist Villages, Motilal Banarsidass, 1994, pp. 37 ~ 110. 36) 冬季に峠越えの交通路が全く利用されないわけではないが 積雪のため一般的な交通路とはいえない ザンスカールの住民によると チャダルの氷の状態が悪い場合には やむを得ずシンギ ラ峠 ( 第 2 図中の b) を越えて迂回する場合もあるという 筆者も積雪期にザンスカールの峠を越えたが チャダル以上に体力を消耗した 37) 前掲 5),pp. 285~292. 38)2000 年 2 月の時点では パドゥムからザンスカール川沿いにザンラまで ツァラップ川沿いにラルーまでは自動車道路が延長されていた 39) ザンスカールの住民との会話による 40)1995 年 6 月末 筆者のパドゥム滞在中に行われたザンスカール住民の集会は 要求事項にチャダル ロードの早期開通が含まれていた このときの様子を報じた記事が以下の雑誌に掲載されている Melong Publications, Ladags Melong 1 3, 1995, 6 p. 41)2000 年 1~2 月当時 道路工事の進行は見られなかったが チリンからタ ド付近にかけては既に橋の土台部分などが完成していた また チャダル ロード開削のための測量班が巻尺で距離を計測しつつチャダルを歩いていた したがって 計画自体は進んでいるようであった 42) チャダルの旅を体験した外国人が優れた写真集や手記を出版している 邦訳書および日本人の著書として前掲 15) 前掲 27) のほか ようだ正文 チャダル - 凍れる河 山と渓谷 809 2000 131 ~ 137 頁も挙げられる 43) アイゼンは靴底に装着する金属製のすべり止めで 鋭い歯がついている 44) 厳しい自然環境のなかに人が入っていく場 53

合 じゅうぶんな安全対策を講じることは大切である しかし 過度の用具の使用と人数の集中は冬季の貴重な交通路であるチャダルの利用環境を悪化させることになりかねない なるべく環境に負荷をかけない姿勢も旅行者には必要であろう 45) ラダック地方の厳しい自然環境に適応した伝統的な生活のあり方と 開発 近代化の急激な進行によってそれが変容していく過程については 以下の文献を参照されたい ヘレナ ノーバーグ ホッジ著 懐かしい未来 翻訳委員会訳 ラダック懐かしい未来 山と渓谷社 2003 また 経済的な価値を超えて 伝統的な習慣が住民のアイデンティティーを満たすことはザンスカールに限られない 例えば 白坂蕃 国境を越える羊の移牧 科学 72 12 2002 1261 頁によると ヨーロッパ アルプスにおける羊の移牧にもそうした側面がみられる 46) カルギル~パドゥム道路を利用する場合 イスラムの街であるカルギルを経由することが避けられない しかし イスラム教徒との接触を敬遠するザンスカールの住民も少なくない その背景には イスラム教徒が大半を占めるカルギル地区で 仏教徒のザンスカール住民が不利を感じていることや 第一次印パ戦争の際に ザンスカールに侵入したイスラム教徒のパキス タン兵が僧院の仏像や壁画を破壊した歴史的経緯も影響していると考えられる なお 侵入したパキスタン軍に対し インド軍はチャダルを利用してザンスカールに来援したという 47) ザンスカールでは 女性や子供を中心に自動車に乗り慣れていない人も多い チリン ~ レー間のミニバスの車内でも 気分を悪くして嘔吐する人や失神する人がいた 48) あるザンスカールの住民によると チャダルは女神ダーキニー ( 空行母 ) の秘密の通り道である という また 前掲 15) 92 ~ 94 頁には パルダル ツォモの滝 ( 第 3 図中の b) に関連する高僧の伝説が紹介されている チャダルに信仰上の意義が付加され 人々をチャダルに向かわせる要因のひとつとなっているのかもしれない 49) フィールドにおける姿勢として 知りたいことを効率的に聞き取るばかりではなく 時間をかけた現地での実体験と日常会話を積み重ねたいと筆者は考えている こうした考えには調査地被害の問題も影響している 調査地被害に関しては以下の文献を参照されたい 宮本常一 調査地被害 ( 宮本常一著 田村善次郎編 旅にまなぶ ( 宮本常一著作集 31) 未来社 1986 所収 ) 109 ~ 131 頁 54