Microsoft Word - å⁄ºçŽºé•²è¡„

Similar documents
2016表紙

<4D F736F F D208E7182C782E082CC90B68A888EC091D492B28DB870302D70362E646F63>

失敗がこわいから ルールに反するから 仕事をしてるから 恥ずかしいから 人脈がないから 女だから で ほんとはどうしたいの?名言集 01.indd p11 修正時間 2016 年 10 月 13 日 17:35:42 名言集 01.indd p10 修正時間 2016 年 10 月 13 日 17:

CL8 ええ それで母に相談したら そんな会社に行かずに地元に戻って就職しなさいと言われま した 就職活動はまた始めた方が良いような気がしますけど でも 本当にどうしてよいか わからなくて CO9 今は どうしたらよいかわからないのですね CL9 そうなんです でも 破綻した会社に行くのは不安だし

< 評価表案 > 1. 日本人 ( ロールプレイ当事者 ) 向け問 1. 学習者の言っていることは分かりましたか? 全然分からなかった もう一息 なんとか分かった 問 2 へ問 2. 学習者は, あなたの言っていることを理解し, 適切に反応していましたか? 適切とは言えない もう一息 おおむね適切

男鹿東中105号P1とP4_6.indd

◎公表用資料

第 9 回料理体験を通じた地方の魅力発信事業 ( 石川県 ) アンケート結果 1 属性 (1) 性別 (2) 年齢 アンケート回答者数 29 名 ( 参加者 30 名 ) 7 人 24% 22 人 76% 女性 男性 0 人 0% 0 人 0% 0 人 0% 0 人 0% 8 人 28% 2 人 7

14福岡高校同窓会P.1-6-4

別に 何とも って感じかな 何か考えてみようか って 思えるといいね 別に 面倒くさいなぁ っていう 何か言ってみようか って感じかな 面倒なものは面倒思えると良いね だよね 何か思ったり言ったりって 面倒だもんね でも 少しでも考えてみようか って思えるといいね わかんない そりゃそうだ わかんな

200508月号

小 4 小 5 小 6 男子 女子 小計 男子 女子 小計 男子 女子 小計 合計 度数 % 度数 % 度数 % 度数 % 度数 % 度数 % 度数 % 度数 % 度数 % 度数 % F-3 あなたの家庭はあなた自身を入れて何人ですか 2 人家族 2 1.6% 3 2.5% 5 2.0% 2 1.9

中 1 中 2 中 3 男子 女子 小計 男子 女子 小計 男子 女子 小計 合計 度数 % 度数 % 度数 % 度数 % 度数 % 度数 % 度数 % 度数 % 度数 % 度数 % F-3 あなたの家庭はあなた自身を入れて何人ですか 2 人家族 2 1.6% 3 2.5% 5 2.0% 2 1.9

2

いよいよ、4月よりアクアパソコン教室がオープンしました

家庭における教育

< F2D91E4967B81408F AED95A891B989F32E6A7464>

TopEye277

pdf

生徒用プリント ( 裏 ) なぜ 2 人はケンカになってしまったのだろう? ( 詳細編 ) ユウコは アツコが学校を休んだので心配している 具合の確認と明日一緒に登校しようという誘いであった そのため ユウコはアツコからの いいよ を 明日は登校できるものと判断した 一方 アツコはユウコに対して 心

小次郎講師のトレーダーズバイブル第33回.pages

演習:キャップハンディ ~言葉のわからない人の疑似体験~

1. 子どもとの朝活歴 半数近くに上る Q. 朝活 について質問です 子どもと一緒に何らかの朝活をしたことがありますか? もしくは現在朝活をしていますか? ( 単一回答 N=417) 子どもと一緒に朝早くに何らかの活動に取り組んでいるかを質問したところ 現在 朝活している と回答したのは全体の 43

日本のファッション雑誌や女性の自己像への影響 Japanese Fashion Magazines and their Effect on Women's Self Image 1. はじめに ロウアディラ Adila Loh : Advanced Japanese II このプロジェク

漢字練習シート.indd

世の中の人は信頼できる と回答した子どもは約 4 割 社会には違う考え方の人がいるほうがよい の比率は どの学年でも 8 割台と高い 一方で 自分の都合 よりみんなの都合を優先させるべきだ は 中 1 生から高 3 生にかけて約 15 ポイント低下して 5 割台にな り 世の中の人は信頼できる も

HIv9_P02P03

Taro-プレミアム第66号PDF.jtd

調査の結果 問 1 あなたの性別は 調査に回答していただいた生徒の性別は 男 が問 % 女 が 49.5% です 男 女 問 2 あなたは, 生まれてからずっと鈴鹿市に住んでいますか 生まれたときから鈴鹿市に ずっと住ん

最初に 女の子は皆子供のとき 恋愛に興味を持っている 私もいつも恋愛と関係あるアニメを見たり マンガや小説を読んだりしていた そしてその中の一つは日本のアニメやマンガだった 何年間もアニメやマンガを見て 日本人の恋愛について影響を与えられて 様々なイメージができた それに加え インターネットでも色々

こんにちは! ふっさんです 今回は 時間で数万円を 今 稼ぐ方法をレポートにまとめたので公開します 僕がこのレポートを作った理由は 多くの人が抱える 2 つの悩みを解決するためです. 稼げる自信がなくて 不安です 2. 教材などを買って学びたいが お金を捻出するのが難しいです というものです まず

表紙案8

< このアンケートの中の言葉の意味 > 情報通信機器 携帯電話やスマートフォン パソコンなど他の人とメッセージのやりとりができるような機 器 インターネット世界中の情報通信機器をつなげてメッセージのやりとりができるようにした仕組み 例えば インターネットを利用して 次のようなことができます 友だちと

1

中 2 数学 1 次関数 H ダイヤグラム宿題プリント H1 A 君は 8 時に家を出発して 12 km 離れた駅へ自転車で行く途中 駅からオートバイで帰ってくる B 君に出会った 8 時 x 分における 2 人の位置を 家から ykm として A 君とB 君の進行のようすを表したものが右のグラフで

演習:キャップハンディ ~言葉のわからない人の疑似体験~

140327子ども用ヘルメット調査リリース(最終稿).pptx

CONTENTS

00

Microsoft Word - 文書3

<4D F736F F D D182D AB816A30372E E388EA906C95E982E782B B A838A815B83582E646F6

案3                            ⑤なかまの誘い方(小学校低学年)

第34課

スライド 1

話してみよう

============================== < 第 6 章 > 高校生 大学生 社会人の反応 ============================== 本調査研究では 高校生が社会に出ていく上での実効性のある資質 能力の重要性が感じられ また 調査問題そのものについての興味 関

Ⅰ「こども110番の家の役割」

クライエント :CL 28 歳男性仮称 M さん カウンセラー :CO 40 歳男性 CL1: こんにちは よろしくお願いいたします CO1: こんにちは こちらにいらっしゃるのは初めてですね CL2: そうですね 自分がこういうところに来るとは思いませんでした CO2: 今日はどうされたのでしょう

(4) ものごとを最後までやりとげて, うれしかったことがありますか (5) 自分には, よいところがあると思いますか

スライド 1

untitled

Outlook2010 の メール 連絡先 に関連する内容を解説します 注意 :Outlook2007 と Outlook2010 では 基本操作 基本画面が違うため この資料では Outlook2010 のみで参考にしてください Outlook2010 の画面構成について... 2 メールについて

3 学校の部活動部活動についてについてお聞きします 問 7: あなたは 学校の部活動に参加していますか 学校の部活動に参加していますか 部活動部活動に参加している人は 所属している部活動の名前も記入してください 1. 運動部活動に参加 ( 問 8へ ) 2. 文化部活動に参加 ( 問 9へ ) 3.

調査の項目 Q1. 一日 ( 平日 ) にどの位時間を使っていますか? また希望する時間は? 外で遊んでいる時間 は 35 年間で半減 テレビ離れも進む (3P~) Q2. あなたにとって 大切な時間 と 無駄な時間 は? 大切な時間は1 睡眠 2 食事 3 家族と一緒にいる ゲーム の時間は大切で

Interview 02 vol. 15 vol

[1-12].indd

untitled

生徒用プリント ( 裏 ) 入力した内容はすべて記録されている!! 占いサイトの場合 印 : 授業で学んだこと 管理者のパソコンには どのパソコンから いつ どのような書き込みがされたか記録されています 占いだけではなく 懸賞サイトやメール 掲示板の内容も同じように記録されています もし 悪意のある

Microsoft PowerPoint - sousa pptx


小学校国語について

M28_回答結果集計(生徒質問紙<グラフ>)(全国(地域規模別)-生徒(公立)).xlsx

~ 自立を支援するということ ~ 1 自己決定の尊重 利用者の選択可能な, 個人を尊重した個別的サービスを事前に提案して知らせ, 利用者自 らの決定を尊重してサービスを提供します ( 継続や変更, 中止等も含む ) 自己決定能力を評価し, 必要に応じて後見人 ( 家族等 ) によって決定する場合もあ

201508_立ち読み_F_ヒルデ01_.indd

資料3 平成28年度京都府学力診断テスト 質問紙調査結果 28④ 28中① 27④ 27中① 平成28年度京都府学力診断テスト小学4年質問紙調査結果 平成28年度京都府学力診断テスト中学1年質問紙調査結果 平成27年度京都府学力診断テスト小学4年質問紙調査結果 平成27年度京都府学力診断テスト中学1

9 月 26 日 ( 火 ) 京都市内班別自主研修 ( タクシー研修 ) タクシー研修の目的 自ら学び 調査し 体験したことをまとめ 調べる力 伝える力を身につけよう 京都にある文化( 歴史 芸術 技術 自然 生活など ) を実際につくった人 受け継いでいる人のすばらしさをも実感しよう お互いに認め

L( ) 本屋さんに買い物に行き 持っていたお金の 7 割を使って本を買いました 持って行ったお金が 00 円のとき 本の値段は何円でしたか 800 円持って本屋に行き そのうちの 6 割を使って本を買いました この本は何円でしたか 900 円の本を買うのに 00 円持って出かけました 本の値段は持

< 調査結果 > 現在 単身赴任をしていますか? 単身赴任者 43.3% 非単身赴任者 56.7% Q. 現在 単身赴任をしていますか?( 対象 :598 名 有効回答 :598 名 ) 56.7% 43.3% 転勤先へは単身赴任かどうか聞いたところ と回答したのは 43.3% でした 家族も一緒に

[ 中学校男子 ] 1 運動やスポーツをすることが好き 中学校を卒業した後 自主的に運動やスポーツをする時間を持ちたい 自分の体力 運動能力に自信がある 部活動やスポーツクラブに所属している 3 運動やスポーツは大切 [ 中学校女子

untitled

JAF|チャイルドシートの使用実態に関するアンケート調査結果(2013年3月)

HからのつながりH J Hでは 欧米 という言葉が二回も出てきた Jではヨーロッパのことが書いてあったので Hにつながる 内開き 外開き 内開きのドアというのが 前の問題になっているから Hで欧米は内に開くと説明しているのに Jで内開きのドアのよさを説明 Hに続いて内開きのドアのよさを説明している

平成 20 年度全国学力 学習状況調査回答結果集計 [ 児童質問紙 ] 松江市教育委員会 - 児童 小学校調査 質問番号 (1) 朝食を毎日食べていますか 質問事項 選択肢 その他 無回答 貴教育委員会 島根県 ( 公

3 時限目日本にあるブラジル生まれの食べ物を知る 4 時限目なぜピラルクがへっているのかを考えて, 自分たちに何ができるのか考える 一部が隠れた写真を使い, 日本にあるブラジルのものを考える活動を行う 感想を交流する ピラルクがへっているのかを考えて, 自分たちに何ができるのか考える活動を行う 感想

キリン食生活文化研究所レポート vol.73 調査レポート誰かに自分の力を貸す

生徒用プリント ( 裏 ) 入力した内容はすべて記録されている!! 印 : 授業で学んだこと 管理者のパソコンには どのパソコンから いつ どのような書き込みがされたか記録されています 占いだけではなく メールや掲示板の内容も同じように記録されています もし 悪意のある管理者から個人情報が洩れたらど

< F2D91AC E7793B188C481408BEF91CC934982C987402D>

高齢者サポートサービスとは? お一人暮らしの高齢者 お子さんがいらっしゃらなかったり 遠くにお住いの高齢者の方は 医療機関への入院 介護施設等への入居の際の身元保証人 ( 身元引受人 ) の手配や 亡くなった後の葬儀の手配や遺品整理について不安を抱えることが多くあります そのほかにも 日々の見守りな

Microsoft PowerPoint - 5.ppt [互換モード]

この仕事に興味を持ったきっかけを教えてください 小さい頃からわたしの将来の夢はずっと漫画家で 高校を卒業後 専門学校に入学しました その専門学校に漫画家がいて 彼女のお手伝いをしていたのですが わたしには漫画家が向いてないことに気づかされたのです 24 時間働きっぱなしでまともな生活じゃなかったし

問 1-1 現在の成人のつどいの内容等についてどう思いますか?(1 つ選択 ) 11.4% 19.0% 69.6% 現在のままでよい 213 名 分からない 58 名 変更したほうがよい 35 名 問 1-2 成人のつどいに参加又はお子様等が参加したことがありますか?(1 つ選択 ) 45.1% あ


財団法人ハイライフ研究所 研究報告「銀座座会~銀座が残すべきもの~」

附帯調査

H25 港南区区民意識調査

プログラム22: 聞いて 聞いて わたしの悩み ~ 子どもの異性とのつきあい方 ~ 時間形態講座の流れ 1 分全体 1. ねらいを確認する 1 分 キーワード 悩みの共有 42 分 2. 悩みリスト をもとに相談者になったりアドバイザーになったりする 25 分 全体 (1) 方法を知る 3 分 1

09-41_朝井まかて×内田春菊.indd

性別 女性 48% 男性 52% 男性 女性 年齢 29 歳 5% 30 歳以上 16% 20 歳未満 21 歳 1% 1% 22 歳 7% 23 歳 10% 20 歳未満 21 歳 22 歳 23 歳 24 歳 28 歳 8% 24 歳 14% 25 歳 26 歳 27 歳 27 歳 12% 26

リバノス5月号.indd

本文/目次(ウラ白)

PowerPoint プレゼンテーション

性別 女性 48% 男性 52% 男性 女性 年齢 29 歳 5% 30 歳以上 16% 20 歳未満 21 歳 1% 1% 22 歳 7% 23 歳 10% 20 歳未満 21 歳 22 歳 23 歳 28 歳 8% 24 歳 14% 24 歳 25 歳 26 歳 27 歳 27 歳 12% 26

【あんしん安全編】スマートフォンをあんしん安全に利用するために[入門編]

平成18年度

本物のコピーライティングvol.2


<4D F736F F D2082B182C782E F94D482CC89C691CE899E837D836A B2E646F6378>

29 Vol.127

(Microsoft Word \217\254\215\373\216q \203G\203R\203h\203\211\203C\203u\202b.doc)

リーダーでは メンバー A さんから 報告お願いします メンバー A 昨日は 登録まわりのコーディングをして この 2 つのタスクを終わらせました メンバー A カンバンのタスクカードを指差すメンバー A 今日も登録まわりのタスクを終わらせる予定です 問題はありません 以上です 全員 固まるナレータ

Transcription:

出発進行! 真弓 高校二年の夏 ねぇ ちょっと~ 来月十七日だけど休み? 知ってて良く言うよ キッチンの上の戸扉の淵にきれいに並べて貼ってある缶ビールの応募シールを器用に手の指五本にそれぞれ貼りつけ それを真剣に応募はがきに貼りなおしながら淳一は言った もちろん! その日は絶対に休み取ってよって先月 真弓から言ってきたじゃないか? しかも リビングに貼ってあるカレンダーの淳一の休み印を すでに真弓はチェック済みだ コンサートがあるから 福井まで連れてって欲しいんだけど 孝美と浩子も一緒だからね と真弓は 当然のことのような口調で淳一に向けた ふくい~? これまた遠くだな! まぁ別にいいけど さ お父さんは 本当に真弓のことになると甘いんだから そんな遠いところに子供だけで しかも女の子だけで行くなとか よそのお父さんなら言うかもよ と食卓に夕食を運びながら 裕美子が呆れた口調でそう言った そう言うけどさぁ母さん ドライブもできて現地の旨いものも食べれるし 観光もできるし 一日中のんびりできて 結構ストレス解消になるんだぜ と淳一は 自分に言い聞かせるかのように言った いつも裕美子は このツアーには参加しない 両親揃っていくと家族旅行の相乗りみたいで友達も嫌がるだろうからと辞退し続けている もっとも今までにも真由美は何度か母親の運転で連れて行ってほしいと頼んだこともあったのだが 裕美子は 長距離はもちろん 深夜の高速を運転することが苦手だからという理由で いつも留守番をする羽目になっている 真顔で応募シールを貼る淳一の姿を見ながら真弓は 一生懸命貼っちゃって! それって当たるの? と少しからかい気味に言った もれなくと書いてあるからな 必ずもらえる と淳一はドヤ顔でこたえた ふ~ん もれなくってそういう意味なの? と真弓 しかし 毎度思うがビール会社の人間はこの苦労を知っているのかなぁ? まず缶ビール買うだろ? そして缶に貼ってあるシールを剥がし 扉の淵に貼る それを応募はがきにきれいに貼りなおす この小さなマスに上手く貼るのは至難の業だぞ それで全部貼り終えたら 住所 氏名を書いて切手を貼って投函だ と このために相当の時間と手間を割いているんだと淳一は自慢気に言った 缶ビール ( 五 00ml) 六本セット欲しさに 一生懸命シールを貼る姿に 真弓は 子どものような父親の言動を可愛らしいと思った 一昨年の夏は 埼玉 広島 大阪 去年は 三重 熊本 横浜 アイドルグループの

コンサートへ行くため いつも淳一は休みを取って 真弓たちを現地まで連れて行った 断ったことは一度もない コンサートだけなら遅い出発でも良いのだが それとは別にコンサート会場限定のグッズも買うので 遅くても現地に朝八時には到着して並ばないと売り切れてしまう そのため いつも夜中の二時か三時 行く場所によっては日付が変わる前に出発するようにしている 完全に真弓の アッシー君 になっている 淳一は いつもは休みを一日しかとらないが さすがに熊本まで行った時は 長距離で相当疲れるだろうからと連休を取った 二年前に それまで乗っていたセダンから 淳一は 家族みんなでいろんな場所にドライブに行きたいとの思いでワンボックスのノアに車を買い替えた 今となっては 当初の目的とは大幅な違いはあるが いずれにしても功を奏した形となった 一緒に行く真弓の友達も毎回 固定メンバーなので住所もナビに入れてある 次の日の夜 淳一の枕元には会社で調べてプリントアウトしたであろう福井までの地図 ETC 料金 給油所 現地の名所 食事処 駐車場 友人宅への送迎順番 どこそこのサービスエリアでアイスをごちそう などなど 事細かに書いたものが一式クリアファイルに入れてある 楽しみでしょうがないのであろう おやつとか飲み物はどうする? と淳一は テレビに夢中の真弓に向かって話しかける 欲しいものがあったら途中のサービスエリアに寄ってもらうし と真弓の素っ気ない返事 出発一時間前 あれだけ諄いほど言ったにもかかわらず すでに車の後部収納スペースにはクーラーボックスが置いてあり 中には ジュースやウーロン茶 お菓子やチョコ そして紙コップも多めに入れてあった 深夜一二時四〇分 出発 気を付けて行ってね! と裕美子は心配そうに 運転席の淳一に向かって声をかける 由美子もきっとついて行きたいんだろうな? いつも留守番ばかりで申し訳ないけど 年に何回もない娘とのドライブだから我慢してね! とでも言いたげな表情を醸し出しながら 淳一は裕美子に目で合図をした さぁ 仮眠は十分だ 出発進行! まずは孝美ちゃん宅からだな! 気合を入れるために淳一は自分の顔を二 ~ 三回叩いた そして まだ寝静まった 走り慣れたいつもの道を進む 先週までの台風が嘘のように 今週は真夏日が続くそうだ 今年は例年になく台風が多かった しかも強烈なものばかりで なおかつ進路が急に変わるという厄介者の台風だった 今日も暑くなりそうだ 着替えを持ってきて正解だったな と淳一は独り言のように呟いた 孝美の家が見えてきた 家の前で孝美は孝美の母親と二人で持っていた 淳一は 挨拶するため運転席から降りた

孝美の母親が いつもすみません 折角のお休みのところ よろしくおねがいします とスーパー袋に入ったクッキーの詰め合わせを淳一に手渡しながら言った こちらこそ いつも夜遅くにすみません 本当にお気遣いなく 好きでやっていることなので 折角なので有難く頂戴します 安全運転 無事に帰ってきますので とホテルマンという職業柄 満面の笑顔でこたえる淳一 淳一たちの車を見送る孝美の母親の姿が段々小さくなるのをドアミラー越しに見ながら 淳一はハンドルを右へ回し 最初の角を曲がった 孝美ちゃん 学校楽しい? 普通に楽しいですよ ね! 真弓 真弓の あまり話しかけないで! という空気が車内全体を漂う それを察知したかのように淳一は そりゃ良かった いつもありがとね! とだけ言って バックミラーの角度を調整した 孝美 夏休みの課題 終わった? と後部座席の真弓が話しかける 全然! ラスト三日で仕上げるつもり と孝美は余裕の表情でこたえる 孝美は頭良いからなあ 私には真似できないっス 家ではあまり聞かない真弓の 笑声 に 淳一の顔がほころぶ 続いては浩子の家 ここから四〇分ほどかかる ほぼ淳一のスケジュール通りに進んでいた 浩子の家が見えてきた すでに深夜二時を回っているので さすがに家族の見送りはない 玄関の門燈横で蚊を払いながら 浩子が一人でぽつんと立っている ハザードランプをつけ 玄関前に車を停めた 助手席の窓を開け 浩子ちゃん お待たせ! と淳一が言うやいなや 真弓と孝美も後部座席の窓を降ろし 浩子 お待たせ~ と顔を出す おいおい 深夜だぞ! 大声出すなって 淳一は二人を諭す いつもすみません よろしくお願いします とペコリと頭を下げ浩子は車に乗り込んだ あのう これうちの親から 梨をたくさん貰ったそうなので と 紙袋を淳一に慣れない所作で差し出した ありがとうね お父さん お母さんによろしく言っといてね どうぞお気遣いなくって それとさぁ この時間帯は 何かと危ないから家を出るのは この車の音がきこえてからにしないとダメだよ と 受け取った袋を助手席の下に置きながら淳一は言った はい! と浩子は いつもの屈託のない笑顔でこたえた この車の音なんてメーカーの人にもわからないでしょ! メールしあっているから大丈夫だって! と真弓 そりゃそうだよな 近頃の子はその手があるよね 淳一は 今日初めての笑いが取れたというような満足げな顔で言った

さぁ福井まで直行だ! 途中で気分が悪くなったり トイレに行きたくなったら言ってよ それまでみんな少し寝といた方がいいよ と あたかも三人娘の父親のような口調で淳一は言った 今度は三人揃って は~い と答える 最初は 大声で話が盛り上がっていた後部座席の三人娘だが 眠りについたようで直に静かになった 淳一は CDのボリュームを少し下げ 深夜の道を一路 インターチェンジへと向かった 朝四時 遠くの空が少しだけ明るくなりかけた頃 最初の休憩のためサービスエリアに立ち寄った 後部座席の三人娘は まだ寝ているので 喫煙所で一服だけして 買ってきた缶コーヒーを啜りながら 福井に向け一気に車を走らせた 七時三十分 予定より少し早くコンサート会場横の駐車場に到着 ここの駐車場は六時からオープンしているが すでに七割ほどが埋まっている みんな考えることは一緒だな ある程度予測していたかのように淳一は言った 駐車場に車を入れ さあ 着いたぞ! と後部座席に向かって声をかける コンサートが終わるまでここに車を止めておくから 迷ったらここね! ただ駐車位置が変わるかもしれないから みんな携帯の番号って変わってないよね? わからないことがあったら電話してね それと 今日は暑くなりそうだからね こまめに水分補給を と淳一が言いかけたところで三人娘はいつものように は~い と心ここにあらずな返事で 足早にグッズ売り場へと急行 ご贔屓のメンバーのお手製の顔写真付うちわやボードを手にしながら さぁて 夜までどうやって時間を潰そうか と 淳一はクーラーボックスから冷えたウーロン茶を取り出しながら呟いた 駐車場に車を止めたら最後 途中で出ようものなら もうこの駐車場には 停める場所がない あとは帰りのことを考えて いかに駐車場出口付近まで車を移動させるかが大きなポイントとなる その方が 帰る時 早く駐車場から出られるという圧倒的有利に立つからだ 淳一の今までの経験から グッズだけ買いに車で来ているファンや 送り迎えだけ親が車で来るパターンが多々あることは わかっていた 淳一は とりあえず車内で地元のテレビを見ながら しばし休憩 福井の名物料理を食べ歩き! のような番組が流れていて 最近のテレビって食レポ系が多いな とチャンネルを全国ネットの朝の情報番組にチャンネルを切り変える エアコンをつけっぱなしにしているとガソリンがなくなるのはわかっているが 窓を開けるとやはり暑い そしてまたエアコンをつける その繰り返しだ 気付いたら三時間ほど眠っていた 倒したシートを戻し 外に目をやると 出口に一番近い場所が空いていた

チャンス! 速攻で車を移動させる淳一 無事確保!! よし これで自由に動けるぞ! 自分の勘の鋭さに改めて感動する淳一 車から降りて 大きく背伸びをしながら淳一は 予め調べておいた行きたいところリストを片手に駐車場を後にする 見渡す限り田んぼばかりで気の利いた喫茶店や時間を潰すためのパチンコ店や本屋もない コンビニがポツンポツンとあるぐらい 最初から調べてわかってはいたものの 実際に来てみて 本当に何もないんだな でもなんか落ち着くんだよな この感じ 淳一は目の前に広がる田んぼを眺めながら思った どこまでも続く田んぼの風景が 自分の生まれ育った故郷に似ていて懐かしく感じていた 淳一は結局 どこへも行かず車に戻っていた いつものパターンだ 行きたいところや食べたいものは 事前に調べてあるのに行ったためしがない 淳一としては 娘たちに何かトラブルがあってはすぐに駆けつけられないからと 大抵 いつも会場の近くで待機している 車に戻ってテレビを見ては また外に出て の繰り返しだ 案の定 娘たちが戻ってきた どうやらお目当てのグッズが買えたようで 荷物になるから車に置いといて欲しいとだけ言い残し 再び三人はコンサート会場へ向かった コンサートまで まだ時間があるのにみんな元気だな~ 俺なら絶対に車の中で寝て待機だけどな! と淳一はリクライニングを倒し 再び眠りについた 夜六時 蒸し暑さで目覚めた淳一は 腹ごしらえのため駐車場から一番近いコンビニへ歩いた フランクフルトとおにぎりを買って 頬張りながら駐車場までの帰り道を歩いた 車に着いて クーラーボックスの少しぬるくなったウーロン茶を取出し 一杯飲み干したあと 淳一は 再び会場周辺をぶらついた さすがに ファンの子はまばらだが チケットが無く会場に入れなかったファンの女の子たちが 中から漏れ聞こえてくる音楽や歓声に耳を傾けながら聞き入っている 夜七時 コンサート会場から一人の女の子が出てきた 何か違反でもして追い出されたのか もしくは駅の方向へ走って行ったので遠方から来ていて電車の時間に間に合わないのか? 最後まで見れないのは可哀想だよな と淳一は まるで我がことのように思った そろそろ終わるころかな? 淳一は車に戻りエンジンをかけ エアコンをつけた アイドルのコンサートは比較的終わりの時間が読みやすい 圧倒的に学生 未成年者が多く アンコールなどで時間延長がないからだ コンサートが終了したらしく一斉に駐車場めがけてファンの女の子たちが押し寄せてくる もう一つの人の流れは 駅方向に向かう人の流れだ 当然 電車でやってくるファンの方が多い

車の外に出て待っている淳一に向かって 三人娘は手を振って近寄って来た 車に乗りながら お待たせしました と孝美と浩子 お疲れさま! どうだったコンサートは? 楽しかったかい? コンサート気分が壊れるから話しかけないでよ! と真弓 わかった わかったというような表情で淳一は さあ出発しようか? みんな忘れ物ない? と声をかけた 駐車場から一斉にファンを乗せた車が出ていくので 普通なら二十分もかからない国道までの道だが 少なくても一時間は掛かってしまう 幸い 駐車場出口に一番近い場所に停めれた淳一は 慌てても仕方ないというような表情で カーナビのCDボタンに手をかけた 曲が流れ始めると後部座席の三人娘たちは あの時のケイ君 めっちゃ格好よかったよね 私 リョウ君と目と目があったし 私だって手を振ったら返してくれたし と エンディングで降ってきたと思われる金や銀色のテープを大事そうに持ちながら まだ興奮冷めやらぬ感じで盛り上がり 車内はその熱気に包まれた 三 0 分ほど経った頃 やがてみんな疲れたのか眠りに入ってしまう 高速に入ると 急に大型トラックの台数が多くなった ナンバープレートを見ても関西あり 九州あり 全国各地のナンバーを付けたトラックが淳一たちの車を追い抜いて行く 前方遥かかなたまで続く車のテールランプの灯りと路面を照らすオレンジ色の電灯 こうやって真弓と一緒にドライブできるのは あとどれくらいあるのかな? 淳一は 深夜特有の人恋しさや寂しさを感じながら ふとそう思った 一九九三年四月一日 真弓が生まれた 当日 義母から もうすぐ生まれそうだよ と電話があり 淳一は 会社を早退して急いで病院に向かった 淳一が病院に駆け付けた時には すでに真弓は生まれた後で 分娩室から ベビールームと呼ばれるガラス張りのお披露目専用のような部屋に通されていた 淳一は 裕美子の待つ病室よりも先に その手前にあるベビールームを覗いた たまたま同じくらいの時間に もう一人別の赤ちゃんも生まれたようで ガラス越しに二人の赤ちゃんがすやすやと眠っていた 淳一は 辛うじてベッド脇に見えた名字の 河 の字を確認し 目の前の赤ちゃんを見て 無事に生まれてきてくれたことに感動し 人目も憚らず その場で号泣した 嗚咽を漏らしながら号泣する淳一に 看護師さんが 河野さん こちらの赤ちゃんですよ って 隣にいるもう一人の赤ちゃんの方を差して教えてくれた そのベッド脇の名前には確かに 河

野由美子様 と書いてあった 淳一は よその子を見て号泣していたのだ あっ? すみません とその子の親御さんである河内さん夫妻が失笑される前を頭をかきながら通り過ぎ 我が子の前へ行った 少し恥ずかしい気持ちもあったが 淳一は そこでもまた泣いた 目は瞑っていたが 可愛い指をおしゃぶりしながら 時折 元気よく手足をばたつかせて動いている その我が子の姿を見て また泣けた その年の二年前 淳一の兄夫婦の六歳になる英樹が 来年から小学一年生という矢先 白血病で亡くなった 悲しみのどん底に突き落とされた 憔悴しきった兄夫婦を目の当たりにし 淳一自身も辛かった 兄弟でありながら 実の兄に対して何の言葉もかけられなかった 英樹は淳一にもよく懐いていて たまに淳一が帰省した時も おじちゃん おじちゃん と四六時中まとわりついてきていた いつも元気な子で 病気になるとは微塵も思っていなかった 初めて英樹の病名を医師から告げられた時の兄夫婦のショックは想像を絶することだろうし ましてや わが子が亡くなるということがどんなことか淳一には痛いほどわかっていた だから 我が子が無事に生まれて来てくれたことに感謝し あられもなく泣いた 四月一日は早生まれだから学年で一番最後の誕生日になるので 体力的な面で不安もあったが 女の子だから少しでも年を取るのが遅くなる方が好都合かもしれないと裕美子は笑いながら言った 真弓はとにかく元気な子で 泣き声も女の子とは思えないほど強烈だった 当時住んでいたマンションの三階から 一階まで響き渡るほどの大きな泣き声だった しかもこぶしがきいていた 仕事から帰宅した時 はやる気持ちを抑えて すぐに家には帰らず 我が家のベランダが見える一階のいつもの場所から少しの間だけ 真弓の泣き声を聞いていた 今日も元気だな と 幼稚園では 人見知りする真弓だったが おとなしいというわけでもなく 何か幼い時から自分というものを持っているような そんな芯のある子のように淳一には親バカながら思えた 小学校では裕美子に似て勉強ができた 吹奏楽部のキャプテン 生徒会の役員なども務めた たまに部活や生徒会のことで 先生とも意見が対立したこともあったようだが 同級生や下級生からは本当に慕われていた 中学校は地元の中学へは行かず 通学に電車で一時間半かかる中高一貫で その上に大学まである名門女子中に進学した 元々 塾にも何にも行っていなかったし 私立を受験する子は四年生くらいから専門塾に行ったり 正月もホテルに缶詰めになって最終の受験勉強をしたりしていて 合格するに

は相当の努力がいることはわかっていたし 小学校の担任の先生からも ちょっと無理かもしれないよ と言われていた でも真弓は その中学校に合格した 初めは 地元での環境とは違い また学校が都会にあることや 中高一貫の名門女子校というのも真弓の肌には合わず 中々 友達もできなかったが 次第に雰囲気にも慣れ友だちもたくさんできた 孝美や浩子は 中学 高校を通して今一番仲の良い友達だ みんな お腹は大丈夫かい? 十五分くらい休憩しようか? とサービスエリアに入り車を停め淳一は言った 娘たちは 目をこすりながら みんなどうする? じゃあ行こうか と三人一緒に売店のある建物へと歩いていった 淳一は トイレを済ませ 売店でガムと缶コーヒーを買い 喫煙所のある方へと歩いた すると孝美が喫煙所の隅の方でタバコを吸っている姿が見えた 遠くからではあったが特徴のあるオレンジ色のTシャツに白色タンパン おかっぱ頭で すぐに孝美とわかった 淳一は 見てはいけないものを見てしまったという感じがした 淳一は 仕方なく 顔を洗いに 再びトイレに戻った 少し時間をつぶした後 喫煙所で一服して車に戻ると すでに孝美たちも戻っていて 何食わぬ顔でみんなと喋っている 淳一は ただいま戻りました~ と言いながら運転席に座ると 遅かったね~ と真弓 ごめんごめん 自分で十五分と言っておいてダメだね~ やっぱり規則は大人から破るもんだね と淳一は あまり受けなかったジョークを口にした 真弓は このことを知ってるのか? もしかしたら真弓も煙草を吸ってるのか? こんなとき父親として何と言えば どう接すればいい? 淳一は少しばかり動揺しながら フットブレーキを外した 最初に送る浩子の家まであと数キロの所まで来た あと少しで着くよ! と淳一は 時折バックミラーに目をやりながら まだ寝静まっている後部座席に向かって声をかけた 三人娘は目をこすり 大きなアクビをしあいながら 割と空いてたんだね? 高速 と外の景色を見ながら真弓が言った 間もなくして浩子の家に到着 浩子を降ろし じゃあね またね メールするね! と車中の二人と別れの挨拶 浩子ちゃん お疲れさま! お父さんお母さんによろしくね ありがとうございました 本当に楽しかったです と浩子は小走りで家の門の中へ入る その後 孝美の家にも無事到着 真弓のお父さん 今日はありがとうございました とぺこりと頭を下げる 孝美ちゃん お疲れさま お母さんによろしく! と淳一は右手を上げながら孝美に声

をかけた後 ゆっくりと車を動かし家路へと急いた 今回のミッションも八割がた終わったな 淳一は もうひと踏ん張りだと言わんばかりに 手で顔を摩った 後部座席に一人になった真弓は 再び眠りについていた 我が家が見えてきたところで 真弓ちゃん 着きましたよ! と淳一は何年かぶりに ちゃん付け で真弓を起こしたが 当の真弓は聞こえていなかったのか無反応な表情だった 玄関を開け 淳一と真弓を出迎えた裕美子は お疲れさまでした お風呂湧いてるよ と淳一に声をかけた リビングのソファーに腰かけた真弓は また一から裕美子にコンサートの話をし始めた リビングから裕美子の え~ うそぉ ~ホントに~ 良いなぁ と年甲斐のない合いの手が聞こえ 二人して盛り上がっている様子に淳一の疲れも癒された 淳一は車の中から 大きな袋に入ったグッズ 持ち込んだうちわやプレート 誰かの飲みかけのジュースのペットボトルなど荷物を取り出し 愛車ノアにシャワーをかけ 簡単に洗車しながら 今回もありがとね! と熱くなっているボンネットを軽く叩いた ただ 淳一は孝美の煙草のことが どうしても気になって仕方がなかった このまま黙っておくべきか それとも真弓に知らせておくべきか 女の子を持つ父親として どう接すればよいのだろうか? 真弓二十四歳 高校を卒業した私は そのお嬢様学校からストレートで行ける女子大学には行かず 少しハードルは高かったが 自宅から通える私立の外語大学を選び見事合格した 大学での四年間は いろいろあったが それなりに楽しい学園生活を送り そして今の会社に就職した その頃からか 父はいつも疲れた表情を見せるようになった それは本当に急だった 父の会社の健康診断で異常が見つかり 大学病院での精密検査の結果 膵臓癌だとわかった 自覚症状がまったくないから きっと何かの間違いだと思うよ と父は話していたが 実際は かなり進行しているものだった 大学病院に入院する数日前 家族で近所のステーキハウスへ行った 父に何が食べたいか聞くと スタミナをつけないといけないから やっぱ肉だろう と そのお店に決めた 食事中 母と私は 出来るだけ明るく振る舞った 父は そんなに食欲があるわけでもないのに 三 00グラムのステーキを注文し 他愛もない昔話で場を盛り上げてくれた 食事を終え 母が運転する帰りの車内で父は

いいか 俺にもしものことがあっても絶対に泣くなよ! 俺は十分幸せだったんだから 何バカなことを と あの温厚な母が激昂した 病気のことは 家族はもちろん 父本人も知っていた 母さんも真弓も良く考えてよ 人は絶対に死ぬ いつかは 絶対に の後に続く言葉は 人は死ぬという言葉だけだ 保険金や会社からもいくらか出るだろうから海外旅行に行くも良し きれいな服を買うもよし 温泉に行くも良し 美味しいもの食べてな いいか 絶対だぞ! 泣くなよ もし泣いたら化けて出るからな 父の精一杯のジョークだった 横顔から見える父の目にも 対向車のライトに反射する光るものが見えた 入院当日 家を出ていく時 家の外で父は我が家に向かって ちょっと行ってきます と笑顔で言った それから一か月が過ぎた頃 私たちが見守る中 病室で父は静かに息を引き取った 葬儀には 孝美や浩子も来てくれて一緒に泣いてくれた 葬儀も終わり少し落ち着いた頃 母と二人で二階の父の部屋の片付けをした 普段はあまり入ったことのない 三畳ほどの小さな部屋だが 父はいつもここを書斎と呼んで私たちを笑わせていた 書斎という割には本が少なく その代わりに父が好きだったジャズのCDやDVDがきれいに並べてある 母から この書斎では 絶対にたばこは吸わないでと きつく言われていたので壁紙は比較的きれいで煙草臭さもなく 父の匂いだけが残っている ふと机の下に目をやると 段ボール箱が一つ置いてあった お母さん この箱なに? さあ? いろんなものしまいこんでたから 何だろうね? 目一杯 箱に詰め込んであるので 箱の上の部分は 少し膨らんでいる 箱の上の埃を優しく手で拭い箱を開けてみた コンサートへ行った時の地図やら高速道路マップが 一回目の埼玉からきれいにファイルしたものが目に入った 物持ちの良さは天下一品だよね と私が言うと 母が 断捨離するぞって言っても いつもまた大半をしまってたもん アルバムも入っていて 写真の他に 古びた千円札も一緒にファイルしてある 鉛筆で 二 00 一年一月二日真弓よりお年玉をもらう と書いてあった そういえば いつだったか親戚のおじさんからもらったお年玉で お父さんにもお年玉 ってその中の千円札を渡したことがあった 二 00 一年だと私が九歳の時だ 大事にとっておいたんだ その下のA4サイズの書類封筒の中には 何かのレシートの束が日付順に輪ゴムに止められて入れてある

そのレシートはコンビニで缶ビールを買ったものばかり 同じ日付のものもあり 一本買って 三 0 分くらいしてまた一本 時間は どれも夜七時以降のものばかりだった こまめに応募シール集めてたんだね と冗談交じりに私は言った 束ねられたレシートには何かが書いてあって ほとんど滲んで読めないが 今日も異常なし と何枚かのレシートに書いてある文字が読める どれも同じコンビニで 待ってこのコンビニ!! 私が大学に入って初めてバイトした居酒屋の前のコンビニ そういえば 普段は帰りが早いのに 私が週に三日ほどバイトしていたその日に限って 決まって私より後に帰って来ていた その時は 母が 最近遅いね? と言っても 会議 会議で疲れるわ! と父は 自分の右肩を叩きながら答えていた 同じ電車にすればいいのにね と母は言ったが 私が そんなの絶対いやっ と 頑なに断っていた でも何故このコンビニで毎回ビール買っていたのか? 母に尋ねた すると母が 母も今 辛いはずなのに精一杯の笑顔を私に向けて あの時は 会議って誤魔化してたけど 良く考えたらそんなに会議ばっかりあるわけないのにね それで聞いてみたら あんたのことが心配だから 居酒屋前のコンビニの外でビール飲みながら待ってたそうよ バイトも何時に終わるか日によって違ってたでしょ? お客さんの入り具合で 日によっては二時間で終わったり 終電に間に合うくらいまで延ばされたり マチマチだったものね それでね 母が続ける 居酒屋から駅まで酔っ払いや暗い道で危ないからって 雨の日も傘差しながらね 気づかれないように真弓の後ろを着いて行ってたらしいよ 父さん なんか うざい! 私は 本心ではない言葉を口にした そう言えば 居酒屋でお客さんを見送りに玄関に出た時 何かの視線を感じた時が何度かあった 電車も気づかれないように違う車輌に乗って お父さん 駅に着いたときも真弓が降りたのを確認して ドアが閉まる寸前に飛び降りてたそうよ そして駅から家まで また後をついて行って あたかも次の電車で帰ってきましたってね それでね 電車内で 真弓にもし酔っ払いがからんで来たら いつでも行ける態勢にあるぜ! って お父さんいつも豪語してたよ お父さん 本当に真弓のことが心配だったんでしょうねと母が言う あの時も すごく喜んでたっけ 母が思い出したように言った 真弓がアルバイトしたお金で父の日に黒のポロシャツをプレゼントしてあげたでしょう? あれすごく喜んでて 着るのがもったいないってずっと押入れにしまってね あんた

は なんで着ないの? って怒ったけどね お父さん 着れるわけないじゃないか! ず~としまっておく ってリボンや包装紙も大切にきれいに畳んでね 幸せだね 真弓は 母は優しく語りかけてくれた 溢れる涙を手で拭いながら 私はその古びた千円札を胸にあてた 決して 過保護とか娘離れができないとかじゃなく おじさんの子が小さい時に亡くなって 自分の子どもに対する愛情や思いが たぶん 他の人よりも強くなったのだろうと思う 思えば 父にありがとうやごめんと面と向かっていったことはなかった いつも遠くまでコンサートに連れて行ってくれた時も 幼稚園の頃 父が永年勤続で会社から貰った旅行券に付け足して家族でハワイに行った時 部屋はツインベッドで本当は母と添い寝する予定だったのに 大きなベッドを気に入った私は ここは真弓の寝るところ! と私一人で占領し 母も父と一緒のベッドだと父の歯ぎしりが酷いから嫌がり 結局 父は床にバスタオル敷いて寝てくれた時も 小学三年の時 男の子に意地悪されたり ランドセルに落書きされたことを知った父は 相手の男の子をこっぴどく叱ってくれた時も 中学生になって初めて母と一緒にバレンタインチョコを作り 失敗した楕円形の しかもドラマみたいに砂糖と塩を間違えて入れてしまい 捨てようとした失敗作を たまたま通りがかった父にあげるつもりはなかったが どうぞ と手渡すと ものすごく喜んでくれて 本当は不味いはずなのに にこにこして 美味しい美味しい 世界一や! って全部食べてくれた時も 中学受験で父と臨んだ親子面接で 制限時間一杯まで 私の長所を面接の先生に力説してくれた時も 大学にも行かせてもらい 入ったサークルはいわゆる ( 飲み会サークル ) で帰りはいつも終電 飲み会のときは酔っ払うので 毎回 真夜中に迎えに来てもらった時も 大学を卒業する時 父は地元の役所に入ってと言っていたのに 何の相談もなく今の会社に就職を決めた時も 最初に配属された営業所が 自宅から二時間ほどの場所だったので 初めてアパートでひとり暮らしをすることになったのだが 荷物の運搬で実家とアパートを何往復もして 最後の荷物運びが終わった後 実際にアパートから会社まで歩いて行ってきた父は この道を通った方がいいぞ って 地図にわざわざ遠回りの 夜は商店街の灯りで明るい大通りに赤い線を引っ張って渡して来たり いらないっていうのに ちょっと買い物に行くのに便利だから と 小さな自転車を買ってきてライトを二個もつけて~ 結局 一度も乗らなかったけれど~ アパートの駐輪場に停めておいたり 挙句に アパートの部屋のいたるところに懐中電灯を置いたり 玄関ドアの裏には 一人暮らしの心得 かなんか気づいたら貼ってあり 第一条 帰ったら必ず鍵を閉めよ 第二

条 何かあったらすぐに警察 その後に父に連絡 第三条 夜は出歩くな 第八条は お化けなんかいないから心配するなと書いてあり 逆にこの文字を見ると怖いのですぐに剥がしたけれど 虫の多いところだったので 虫よけ剤を玄関にぶら下げたり ベランダに防犯のためと男物の靴下を干したり 勝手なことばかりしてうっとうしかった 就職して二年目で 実家から通える営業所に異動となり また家に戻ることになったのだが 父は もう一人暮らしは終了かい? と言いながらも 引越しの日は 昼から荷物出しをすると言ってあったのに 朝八時頃にはアパート前に来ていて車の中で寝て待っていたり そして半年ほど前のある夜 父の会社近くに買い物に行く用事があって車で出かけたが 帰る時に大雨となり 母から聞いて心配した父が私の車の横に傘を差して待っていたのだが 私は なんで何も言わずに突然来るの! 気持ち悪い って 父をその駐車場に一人残して私だけ車で帰ってしまったことがあった その後一時間くらいして 電車で帰ってきた父は 今日はごめんな とだけいって寂しそうな顔を見せたが 無視してしまった時も その時は 鬱陶しくてものすごく嫌だった でも 大切に思われていたんだと 今は心からそう思う 本当は これから働いたお給料で 温泉にも連れて行きたかった 美味しいものも食べに連れて行きたかった おしゃれな洋服をプレゼントしたかった と母に呟いた すると母は お父さん 入院してる時にね と前置きしながら もし真弓が 何かしてあげれば良かったとか こうすれば良かったとか ちょっとでも後悔しているようなことがあれば言ってやって欲しいんだけどって 優しく母は続ける 真弓に何かをしてもらいたかったとか お父さんは何にもない 今までいろんな場所に真弓と一緒に行けて十分幸せだったから お父さんなんかにお金使うより 美味しいもの食べたり 綺麗な洋服でも買いなさいって まあ 孫の顔が見れないのは少し心残りだけどなって言ってた もしお父さんが向こうに行っても じいちゃん ばあちゃん マサエおばさん 子供のころ飼ってた犬のシロやラン丸にも会えて楽しくやれそうだし 知り合いもたくさんいるだろうから心配するなって それよりも 真弓がいつもニコニコ笑って幸せで 周りの人に親切で そして良い人に巡り合って 家庭を持って幸せに暮らしている姿を あっちのみんなに自慢させて欲しいって お父さん いつも見てるから そう真弓に伝えてほしいって 父の私への遺言とも取れる言葉に 思わず母の胸にすがりつきながら泣いた

母は いつまでも泣くのはやめなさい お父さんも言ってたでしょ? 化けて出るってよ お化けでもいいから もう一度逢いたい 話がしたい 母も今までこらえていた涙を抑えきれず二人して泣いた 泣いて泣いて また泣いた やがて母は もう十分泣いたね と私の右肩を優しく撫でた 私は泣くのはこれで終わりと大きく息を吐き立ち上がった時 書斎の窓から駐車場に止まっている我が家の愛車ノアが見えた 真弓は 無性に傍に行ってみたくなり 車のキーを握りしめ駐車場に駆け寄った 君とは本当に長い付き合いだね ノアくん とドアミラーを摩りながら声をかけ 気づいたら運転席でなく後部座席に座っていた やっぱりココが一番落ち着く ここから見る父の運転する姿 左の横顔 時折あくびをしたり 目をこすったり 自分の頬を叩いたり たまにバックミラーで目と目が合ったり すぐに目をそらしたが でも 私にとっての思い出の場所 お父さん いつもありがとう 安全運転でお願いしま ~ す 誰もいるはずのない運転席に向かって 真弓は 笑声 で話しかける 出発進行! 車窓からは きれいな夕陽が見える 遠くでひぐらしが鳴いている