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と,Oda et al. 10) は, 日本の 61 地方都市を対象とした鉄軌道駅周辺の人口分布分析に加え, 富山市 高岡市 福井市の人口経年変化を詳細分析することで, 駅周辺の人口は減少傾向にあり, 駅から離れた郊外部の人口が増加傾向にあることを示している. また長尾ら 11) は, 交通アクセシビリティの改善によって人口が増加することや, 運行頻度の高い駅周辺では人口が増加していることを示しており, 公共交通サービス水準の向上が都市の人口に影響を及ぼすことを明らかにしている. また伊藤ら 12) は, 鉄軌道の運行頻度と高齢者の人口分布の関係性を日 仏 独の 3 ヶ国で国際比較しており, 日本では高齢者の多い地区に対して運行頻度の高い鉄軌道駅の整備が整っていないことを明らかにしている. しかし, 欧州諸国等において, 導入が人口保持力へ与える影響ついて定量的に分析している研究は見当たらない. 欧州諸国における 事業と人口変動の関係を横断的に分析しているという点, 人口保持力という側面から の社会的な便益について定量的に示すという点に本研究の特徴がある. 3. 対象地域の選定欧州諸国においては, 我国に先立って多くの都市において が導入されている. 本稿ではその中でも, 導入都市が多い, フランス, イギリス, スペインを対象とする. 今回対象とする 27 都市の概要を表 -1 に示す (1). 表 -1 対象都市の概要 国名 導入年 都市名 路線延長人口 (km) ( 万人 ) France 1994 Rouen 18.3 11.4 1994 Strasbourg 40.2 27.7 2000 Montpellier 58.9 26.5 2000 Nancy 11.0 10.8 2000 Orléans 29.4 11.8 2001 Lyon 46.2 50.0 2002 Caen 15.7 11.2 2003 Bordeaux 44.3 24.3 2006 Mulhouse 16.2 11.2 2006 Valenciennes 18.3 4.5 2006 Clermont-Ferrand 13.7 14.5 2007 Marseille 11.9 85.9 2007 Nice 8.7 34.8 2007 Le Mans 15.4 14.8 United 1992 Manchester 37.0 50.3 Kingdom 1994 Sheffield 29.0 55.2 1999 Birmingham 20.4 107.4 2000 Croydon 28.0 36.5 2004 Nottingham 14.0 30.4 Spain 1999 Alicante/Alacant 52.4 33.4 2002 Bilbao 4.8 35.3 2004 Barcelona 29.2 161.5 2007 Madrid 27.8 326.5 2007 Sevilla 2.2 70.3 2007 Tenerife 12.5 90.9 2007 Murcia 11.0 44.2 2008 Vitoria-Gasteiz 9.0 24.0 は各国共通の明確な定義が存在するわけではないが. 本稿では 2008 年に閣議決定された京都議定書目標達成計画 13) で とは走行空間の改善, 車両性能の向上等により, 乗降の容易性, 定時制, 速達性, 輸送力, 快適性等の面で優れた特徴を有する人と環境に優しい次世代型路面電車システム と定義されており, これを と定義する. 4. 事業と都市人口に関する分析 (1) 人口保持力の定式化先に定義した人口保持力を定式化し, が都市人口を増加させる方向, または減少を抑制する方向に作用する影響を定量的に把握する. ここで, 人口増減率と人口保持力との違いについて触れておきたい. 人口増減率は, 人口の動向を把握する際に広く一般的に用いられている指標であり, 比較年に対する基準年の人口を変化率で表すものである. 一方で, 人口保持力は, 導入といった施策を実施した時点を基準年とし, 基準年前後の人口増減率の変化を比較するものである. 人口保持力は個別施策による影響を考慮できる点に特徴があり, 当該指標が正の値を示せば, 人口増加を助長させる方向, 或いは人口減少を抑制する方向に作用するとみなすことができる. まず 導入年次を基準年とし, 対象国ごとに人口推移の傾向が異なる点を考慮して, 人口推移の特化係数を算出する. 特化係数 (Location Quotient) とは, 経済学の分野で一般的に用いられ, 対象国における当該都市の特化度合いを示すものである. ここでは, 特化係数を国の人口増減率に対する都市の人口増減率の比とし, 次式で表される. bfr bfr1 LQ (1) aft1 aft1 aft1 bfr1 LQ (2) aft2 aft2 aft2 LQ (3) LQ bfr : 導入前の特化係数 LQ aft1 : 導入直後の特化係数 LQ aft2 : 導入から 5 年経過後の特化係数 : 人口の平均値 city: 市域,dom: 国,bfr: 導入前,aft: 導入後 ここで, 一般的に個別施策 ( ここでは 整備 ) のみの影響を前後比較することは理論的には困難であり, 人口変動には多様な要因が内包されている. 特化係数は, 都市の人口増減率を国の人口増減率で標準化したものであり, 国全体の人口トレンドの影響を排除し, 可能な限り他の社会 - 775 -

経済的影響を排除するよう努めている. しかし全ての社会経済的影響を排除できているわけではないことに留意する必要がある. また, 図 -1 は, 導入年と 導入前後の時間軸の考え方を示したものであり, 導入前 (before1,before2) 及び導入後 (after1,after2) にそれぞれ 2 期間設け, 人口変動に関する特化係数の推移を把握するものである. ここで, 大規模な都市開発や 整備には, 一般的に一定の期間を要するため, それらの突発的な状況変化を緩和できる期間を 3 年程度と仮定し,1 期間の人口は平均人口を用いている (2). 特化係数 人口保持力 Before1 導入前 Before2 導入直前 導入 I 1 I 2 LQ (bfr) LQ (aft1) LQ (aft2) (bfr1) () (aft1) (aft2) After1 導入直後 After2 導入後 t-3 ~ t-1 t+1 ~ t+3 t+4 ~ t+6 図 -1 導入年とその前後の時間軸の考え方 時間軸 t 次に人口保持力は, 導入前後の特化係数の変化として次式で表される. 当該指標は, 導入前の人口推移の傾きと導入後の人口推移の傾きの差となっており,I 1 >0 であれば, 導入により, 人口増加を助長させる方向, 或いは人口減少を抑制する方向に作用するとみなすことができる. I 1 LQ aft 1 LQ bfr (4) I 1 : 導入前と 導入直後の人口保持力 また, 整備から一定期間経つことで, 停留場周辺に新規に住宅や商業施設が開発されることが想定される. そのため, 導入から 5 年経過した後の人口推移は次式で表される. る. しかし実際に が導入されているのは中心市のみである場合が多い. 本稿では, 導入に伴う人口変動に着目しているため, その影響を把握することができるように, 市町村単位を基本とし, 中心市の人口データ 14)15)16) を用いて分析することとする. まず, 各国の人口についてみると, いずれの国, いずれの時点においても微増傾向にある一方で, 都市別の人口については, 増加傾向にある都市, 減少傾向にある都市, 減少から増加に転じる都市など様々である. 次に特化係数の試算結果をみると, 導入前の特化係数 LQ bfr が 1.0 以上になっている都市と 1.0 未満になっている都市がある.( 表 -2 参照 )LQ bfr が 1.0 以上になっている都市は, 導入直前に人口が増加していることから, 整備に併せて都市開発が行われている可能性がある. この場合, 人口保持力は抑制される方向に働く. 表 -2 特化係数一覧 国名 導入年 都市名 LQ bfr LQ aft1 LQ aft2 France 1994 Rouen 0.966 1.001 0.985 1994 Strasbourg 0.972 1.021 1.007 2000 Montpellier 1.045 1.062 1.064 2000 Nancy 1.006 0.987 0.978 2000 Orléans 1.038 0.978 0.973 2001 Lyon 1.034 1.027 1.020 2002 Caen 0.974 0.945 0.933 2003 Bordeaux 0.988 1.042 1.046 2006 Mulhouse 0.982 0.964 0.939 2006 Valenciennes 1.036 0.993 0.999 2006 Clermont-Ferrand 0.971 0.977 0.976 2007 Marseille 1.009 0.997 0.987 2007 Nice 0.974 0.971 0.966 2007 Le Mans 0.936 0.976 0.970 United 1992 Manchester 0.977 0.976 0.953 Kingdom 1994 Sheffield 0.988 0.984 0.973 1999 Birmingham 0.986 0.978 0.981 2000 Croydon 1.009 0.995 0.988 2004 Nottingham 0.982 1.027 1.034 Spain 1999 Alicante/Alacant 0.970 0.931 0.891 2002 Bilbao 0.988 1.012 1.053 2004 Barcelona 0.983 0.974 0.945 2007 Madrid 0.985 0.980 0.964 2007 Sevilla 0.950 0.941 0.929 2007 Tenerife 1.027 1.014 1.007 2007 Murcia 1.027 1.007 1.006 2008 Vitoria-Gasteiz 0.975 0.992 1.004 ハッチは LQ bfr が 1.0 以上になっている都市 I 2 LQ aft 2 LQ bfr (5) I 2 : 導入前と 導入から 5 年後の人口保持力 (2) 導入による人口保持力の試算対象都市において, 人口保持力を試算する. ここで, 分析する地域単位は, 州や都市圏, 市町村など国によって異なる. 特にフランスでは, 都市圏交通計画 (PDU) の計画対象区域として, 都市交通区域 (PTU) を設定し, マルチモーダルな交通体系を都市圏全体で構築することを推進してい 次に,LQ bfr が 1.0 未満になっている都市と 1.0 以上になっている都市の人口保持力の試算結果それぞれ図 -2, 図 -3 に示す.LQ bfr が 1.0 未満になっている都市の人口保持力は, 正に働いている都市が一定程度確認できる. これは, 導入によって, 人口増加を助長させる方向, 或いは人口減少を抑制する方向に作用していると推察できる. 一方 LQ bfr が 1.0 以上になっている都市は, 人口保持力が負になっている都市が多いことがわかる. このことから, 導入前から都市開発が完了している場合には, 人口保持力は抑制される傾向に働いてしまうことがわかる. 人口保持力を指 - 776 -

標として扱う場合は, この点に留意する必要がある. なお,LQ bfr <1.0 の都市としては, 約 44.4% の都市で I 1, I 2 ともに正の結果が得られた. また国別に見ると, フランスでは 62.5% で I 1 >0 の結果が得られ, イギリスの 25.0%, スペインの 33.3% と比べると大きく上回っている. また,I 1 と I 2 を比較すると,I 2 >I 1 の結果が得られた都市は 27.8% であり, 導入直後に比べ, 導入から 5 年が経過した後において人口保持力が高まるという結果は必ずしも得られなかった. このように 導入にともなう都市開発は, 導入後だけでなく, 整備と同時並行に行われている可能性が示唆された. -0.100-0.050 0.000 0.050 0.100 0.150 0.200 France UK Spain Bordeaux Strasbourg Le Mans Rouen Clermont-Ferrand Nice Mulhouse Caen Nottingham Manchester Sheffield Birmingham Alicante/Alacant Vitoria-Gasteiz Madrid Barcelona Sevilla Bilbao 0.054 0.059 0.049 0.035 0.040 0.034 0.035 0.020 0.006 0.005-0.002-0.008-0.019-0.043-0.029-0.042 0.045 0.052-0.001-0.024-0.004-0.015-0.008-0.005 0.024 0.065 0.017 0.029-0.006-0.009-0.038-0.009-0.039-0.079 図 -2 人口保持力 (LQ bfr 1 の都市 ) -0.100-0.050 0.000 0.050 0.100 0.150 0.200 France Spain UK Montpellier Lyon Marseille Nancy Valenciennes Orléans Croydon Tenerife Murcia 0.017 0.019-0.007-0.014-0.013-0.022-0.019-0.028-0.042-0.037-0.060-0.065-0.014-0.013-0.020-0.019 図 -3 人口保持力 (LQ bfr <1 の都市 ) (3) 人口保持力に与える要因分析次に, 人口保持力に影響を与える要因を把握する. 人口保持力は, 上述のように社会経済指標を一部排除しているため, 導入と関連性の高い変数 ( 人口規模, 交通環境, 法制度の違い ) を取り上げて分析する. 例えば, 交通環境としては, 都市内鉄軌道交通が他に存在するかどうか, 系統数, 民間企業が運行に参入しているかどうか, があり, 交通のサービス水準が高いほど, 人口保持力に正の影響を与えると考えられる. なお国については, 法制度の違いを示すダミー変数として採用している. このような仮定の下, 人口保持力 I 1 を被説明変数, 人口規模, 他の都市内鉄軌道 I1 I1 I2 I2 交通の有無, 系統数, 民間企業の運行参入の有無, 国を説明変数とする数量化 Ⅰ 類を行った. 分析結果を図 -4, 図 -5 に示す. 図 -4, 図 -5 では, 右にスコアが振れているほど, 人口保持力の値に正の影響を与えていることを示している. 分析結果をみると, まず人口が 20~40 万人以上の都市で, 人口保持力は正に影響している一方で, 人口 20 万人未満の都市で負に影響している. これは, ある一定以上の都市規模であれば, 沿線に都市開発等を誘発させることができるためと推察される. また人口 40 万人以上の大都市では, 都市規模が大きく, 導入による影響は相対的に小さいものとなってしまうためと推察される. 次に, 系統数は複数ある方が, 目的地が多様になるなどシナジー効果を生むため, 人口保持力は正に影響している. 民間企業の運行参入の有無は, 大きな影響を与えていない. 一方で, 他の都市内鉄軌道交通の有無は, ない方が正に影響しているなど想定とは逆の結果が出た. これは, 地下鉄など既に大量輸送公共交通機関が導入されている都市は, 導入による影響が相対的に小さくなってしまうためであると考えられる. また, 国別の結果では, フランスが正に影響している. これは, 次章で詳述するが, フランスは都市交通政策の分野において, 他の国々よりも優れていることが一因として考えられる. また,I 2 の指標についても, 数量化 Ⅰ 類を用いて同様の分析を行ったが, 同様の結果が得られている. 人口 他の都市内交通の有無 系統数 民間企業参入有無 国 人口 他の都市内交通の有無 系統数 民間企業参入有無 国 20 万人未満 20~40 万人 40~80 万人 80 万人以上 有り 無し 系統数 1 系統数 2 以上 参入 非参入 フランス イギリス スペイン -0.030-0.020-0.010 0.000 0.010 0.020 0.030 図 -4 人口保持力 I 1 による数量化 Ⅰ 類の結果 20 万人未満 20~40 万人 40~80 万人 80 万人以上 有り 無し 系統数 1 系統数 2 以上 参入 非参入 フランス イギリス スペイン -0.030-0.020-0.010 0.000 0.010 0.020 0.030 図 -5 人口保持力 I 2 による数量化 Ⅰ 類の結果 - 777 -

公益社団法人日本都市計画学会 都市計画論文集 Vol.50 No.3 2015年 10月 CroixCdheam Npratel 延伸 延伸 Hauts de C College A. 停留場 停留場 Les Vignes Lycee Ambr Les Pistes Musee d'ar Montferran Graviere Stade Marc 1er Mai Les Carmes D elivlle Mo H o t e l d Gaillard Anzin Hote Croix d'an Pont Jacob Gare Clamenoeau Hotel de V Sous-Prefe Porte de P Sainte Cat Nun gesser Saint Waas La Plaine Dutemple Bois des M Le Galibot Solan ge To Bellevue Jaude Vosges La Briquet Jaures Taffin Jean EDsuplaiece Vil Lagarlaye MaisUonivdeersite Jules Chev Chemin Ver Campus Mon Saint-Jacq Moriamez R La Pardieu C HU S GarianbL reijoanc-qblum tlycee Lafa Cheazuexaux Pe Fontaine d La C Margeride Campus 図-6 FAMARS Uni 図-8 Valenciennes の 沿線市街地と人口分布 Clermont-Ferrand の 沿線市街地と人口分布 Haute Vene Cadran-Epi Universite Campus-Rib Hopital Theodor Mo Gambetta-M Lafayette Eperon-Cit Republique Tuilerie Rattacheme Stade de B Prefecture Leclerc-Fl Doller Gares Zola Viaducs Musee de I Lutterbach Espal-Arch Durand-Vai Goya Glonnieres Jules Raim Guetteloup Antares MM 図-7 Grand ReNxordfeld Musees St Martin Pontlieue Nouveau Ba Cite Admin Lefebvre Jaures-Pav Epau-Gue B ChurcAhtilllantidlleess aux S MaPiorirete Jeun Dornach Ga Porte Haut Tour Nesse Republique Zu-Rhein Daguerre Palais des Nations Coteaux Bel Air Universite Illberg Gare Centr 延伸 延伸 停留場 停留場 LeMans の 沿線市街地と人口分布 図-9 5. と沿線人口に関する分析 多数の成功事例を有するフランスの整備事業は 都 市圏交通計画 PDU の中で 都市のアメニティ向上のた めの戦略と位置づけられている だけでなく 交通結 節点からのフィーダーバスネットワーク 環状の整備 コミュニティサイクルやトランジットモールなど 総合的 な都市交通体系として計画されており 沿線に都心商業地 や病院 大学などの都市的サービス施設が集積している また 都市内交通局 AOTU によって 地下鉄や バスなどの公共交通網を一括して管理している そのため イギリスなどの民間事業者による運営 管理という政策に 比べ 他の公共交通手段との連携が取りやすい そのため Mulhouse の 沿線市街地と人口分布 利便性が高く 低運賃での利用が可能である ここでは 前章までの対象都市のうち 財源 制度 組 織体制といった側面 17)から交通計画を総合的に支援してい るフランスの諸都市を対象として 沿線の人口変動に ついて把握する 沿線の人口について分析するために は メッシュなど人口を空間的に把握できる分析単位であ る必要がある EU では 2007 年に INSPIRE に準拠した統 一的なメッシュ統計が整備され 2015 年現在では2006 年 2011年の2時点で1kmメッシュが整備 公開されている(3)18) このように統一的に入手可能なメッシュ人口データは 2 時 点しかないため 本稿では上記 2 時点間において が整 備された都市を対象として人口変動を空間的に把握する - 778 -

2006 年から 2011 年に が整備された都市は, Valenciennes(2006), Mulhouse(2006), Clermont-Ferrand(2006), Le Mans(2007), Nice(2007), Marseille(2007) の 6 都市ある. このうち Nice や Marseile は, と共にや地下鉄ネットワークが張り巡らされており, 単体の影響を把握しづらいため除外する. そのため, 本稿では上記の条件に該当する Clermont-Ferrand, Le Mans Valenciennes, Mulhouse を対象とする.Clermont-Ferrand と Le Mans は, 都市の人口保持力が正となっている都市であり,Valenciennes, と Mulhouse は, 都市の人口保持力が負となっている都市である.( 図 -8~ 図 -9 参照 ) まず,Clermont-Ferrand では 1 路線の が整備されている. 沿線では, 中心市街地等の一部は減少傾向にあり, 南部の郊外部では人口が横ばいとなっている. 一方で, 北部の郊外部では人口が増加傾向にあり,1km メッシュ当たりの人口が 1,000 人以上増加している地区もある.Le Mans では 2 路線の が整備されている. 沿線では, 中心市街地の人口が著しく減少している一方で, 郊外部では人口が増加している地区と減少している地区が斑になっている.Valenciennes では 1 路線の が整備されている. 沿線では, 中心市街地等の一部を除いて人口が増加, 或いは横ばい傾向にある.Mulhouse では 3 路線の が整備されている. 沿線では,Le Mans 同様に, 中心市街地の人口が著しく減少している一方で, 郊外部では人口が増加している地区と減少している地区が混在している. いずれの都市も中心市街地の人口は減少傾向にある一方で, 沿線の郊外部では人口が増加している地区が多く, 整備とセットで住宅開発等が行われていると想定される. また 4 都市の人口増減を比較すると,Clermont-Ferrand, Le Mans という人口保持力が正の値を示している都市の方が,Valenciennes,,Mulhouse という人口保持力が負の値を示している都市よりも, 沿線人口が増加していることが確認できる. 導入が人口変動に与える影響を把握する際には, 人口保持力だけでなく, 空間的な変動についても把握することが重要である. 6. おわりに本稿では, 欧州諸国における 導入が人口変動にどのように影響しているかについて考察した. 本稿より得られた知見は以下の通りである. まず都市人口に関する分析については, 導入による人口保持力の試算より, 導入は人口保持力に一定程度正の影響を与えていることがわかった. 一方, 導入に併せた都市開発等は, 場合によっては人口保持力に負の影響を及ぼす可能性があることなどが示唆された. 人口保持力を指標として扱う場合は, この点に留意する必要がある. また, 人口保持力に影響を与える要因分析より, 人口 20 万人以上の都市規模や の速達性, 目的地の多様性が人口保持力に一定程度正の影響を与えていることが分かった. 最後に, と沿線人口に関する分析より, 人口保持力 の正負とは関係なく, を導入しても既存の中心市街地では人口が減少している一方で, 郊外部の 沿線では人口が増加している傾向にあることが分かった. 中心市街地の扱いについては, 導入等の交通施策単体で評価することは難しく, 総合的に扱う必要があると考えられる. 今回, 欧州 27 都市の人口変動を俯瞰的に整理するとともに, の沿線人口の変動を実現象面から把握した. 土地利用の変遷や個別開発プロジェクトについても併せて分析することで, 導入が人口保持力に与える影響をより綿密に把握することができるが, 今後の課題とする. 補注 (1) 対象都市以外にも は存在するが, 人口データ入手の都合上, 扱えない都市は対象地から外している. また, 欧州には路面電車が多く定着しているドイツがあるが,1880 年代からの路面電車を徐々に 化しているため, 人口変動への影響を考察することが難しいと考えられるため, 今回は対象としていない. (2) 導入年 ( 基準年 ) を中心に, その導入前後をそれぞれ 2 期間設け, 1 期間当たり 3 カ年とっているため, 基準年も含めて合計 13 年間を考慮して分析している. なお, 各国統計局から人口データを収集しているため, データ制約から 3 カ年の人口データを取得できない場合は, 当該データを除いた形で平均した人口を用いている. (3) EU では,2007 年に INSPIRE に準拠した統一的なメッシュ統計が整備され,2015 年現在では 2006 年,2011 年の 1km メッシュが整備, 公開されている. 参考文献 1) 国土交通省 : 等の都市交通整備のまちづくりへの効果, 平成 22 年度政策レビュー結果 ( 評価書 ),2011. 2) 青山吉隆 : 導入の課題と展望, 国際交通安全学会誌,Vol.34,No.2, pp.130-134,2009. 3) 鈴木一将, 森本章倫, 神田昌幸 : 導入による沿線の土地利用変化に関する研究, 土木計画学研究 講演集,Vol.45, CD-ROM, 2012. 4) 阪井清志 : に関する制度 施策の現状と課題 海外の精度 施策から見たわが国への示唆, 国際交通安全学会誌,Vol.34,No.2, pp.135-145,2009. 5) 神田昌幸 : わが国の に関する施策の変遷と制度の発展経緯, 国際交通安全学会誌,Vol.34,No.2,pp.146-154,2009. 6) 藤田知樹 : 路面電車の現状と課題および整備に対する支援制度, 運輸と経済,Vol.72,No.10,pp.35-44,2012,10. 7) 国土交通省都市 地域整備局都市計画課都市交通調査室 : まちづくりと一体となった 導入計画ガイダンス,2005. 8) 望月明彦, 中川大, 笠原勤 : 富山ライトレールが地域交通にもたらした効果に関する実証分析, 日本都市計画学会学術研究論文集,No42-3, pp.949-954, 2007. 9) Javier F. Pacheco-Raguz:Assessing the impacts of Light Rail Transit on urban land in Manila,JTLU,Vol,3 No 1,2010. 10) T. Oda,S. Matsuda,A. Mochizuki,D. Nakagawa,R. Matsunaka:Effect of urban railroads on the land use structure of local cities,wit Transaction on The Built Environment,Urban Transport XIV,Vol.101, pp.437-445, 2008. 11) 長尾基哉, 中川大, 松中亮治, 大庭哲治, 望月明彦 : 地方都市における 軌道の運行頻度に着目した駅周辺人口分布の経年変化に関する研究土木計画学研究 論文集,Vol.29, No.2, pp. 399-406, 2010. 12) 伊藤考史, 中川大, 松中亮治, 大庭哲治 : 日 仏 独の地方都市における鉄軌道駅周辺の高齢者の人口分布に関する研究, 日本都市計画学会学術研究論文集,Vol.46,No.3,2011,10. 13) 京都議定書目標達成計画,2005,4,28. 14) National Institute of Statistics and Economic Studies (INSEE), http://www.insee.fr/en/ 15) Office for National Statistics,http://www.ons.gov.uk/ons/index.html 16) National Statistics Institute(INE),http://www.ine.es/en/welcome_en.htm 17) 板谷和也 : フランスにおける都市交通政策の枠組みと近年の状況, 運輸と経済,Vol.69(5),pp. 71-79,2009. 18) Eurostat HP,http://www.ec.europa.eu/eurostat - 779 -