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496 Oct. 2015 総 説 第 41 42 回教育研修会 (2014 年口腔四学会合同研修会 ) 顎口腔の再建と再生 顎口腔の軟組織再建 1 ) 米原啓之 中塚貴志 2 ) YONEHARA Yoshiyuki 1 ) NAKATSUKA Takashi 2 ) : The oral and maxillofacial area includes both static and dynamic structures as well as organs of special functions such as mastication, swallowing and speech. These functions are important for quality of life after treatment. Small tissue defects can be treated with primary suture closing, skin graft and local flaps. To reconstruct large tissue defects, pedicle flap or vascularized free flap transfer is often required. In terms of timing of reconstruction, there are two types: one is immediate reconstruction that is intended to cover and fill the defect just after tumor ablation and another is secondary reconstruction that is performed later to aim at restoration of form and function. In order to perform the free flap transplant successfully, it is necessary to have correct understanding of flap selection and design, anastomosis vessel selection, and postoperative management. Typical flaps used in oral and maxillofacial reconstruction include the forearm flap, rectus abdominis musculocutaneous flap, anterolateral thigh flap and latissimus dorsi flap. : oral and maxillofacial reconstruction ( 顎口腔再建 ),skin graft ( 植皮術 ),pedicle flap ( 有茎皮弁 ),free flap ( 遊離皮弁 ),microsurgery ( マイクロサージャリー ) 緒 固形癌の外科的な治療においては, 癌病巣の完全切除による治療が最も重要である. しかし手術手技のみならず放射線治療や化学療法など各種治療法の進歩により, 癌治療においても生命予後だけではなく, 治療後の QOL (Quality of Life) の維持や向上も重要になっている. 顎口腔領域には, 嚥下 咀嚼 構音と行った日常生活を営む上で, 非常に重要な機能を司る組織や器官が集中している. このために, 顎口腔領域における癌切除後の欠損部再建では, 形態のみならず機能的な再建も QOL 向上には重要である. 一 1) 日本大学歯学部口腔外科学講座顎顔面外科学分野 ( 主任 : 米原啓之教授 ) 2) 埼玉医科大学医学部形成外科 美容外科学講座 ( 主任 : 中塚貴志教授 ) 1) Nihon University School of Dentistry, Division of Maxillofacial Surgery Department of Oral and Maxillofacial Surgery (Chief: Prof. YONEHARA Yoshiyuki) 2) Saitama Medical University, Faculty of Medicine, Department of Plastic, Reconstructive and Aesthetic Surgery (Chief: Prof. NAKATSUKA Takashi) 言 方, 顎口腔領域は創傷治癒の面では, 術野周囲に放射線照射が行われていたり, 創部が食物や唾液にさらされるなど, 厳しい状況であることも事実である. このため, 血流の良い組織で欠損部を再建することが, 術後合併症の軽減には必須である. 頭頸部領域の癌切除後の再建には, 古くより形成外科的再建手技が用いられてきたが, 顎口腔領域においても同様である. 歴史的にみると, 初期には植皮や局所皮弁を用いての再建が行われていたが, その後有茎皮弁 筋皮弁が用いられるようになり, さらに最近ではマイクロサージャリーを用いた遊離組織移植による再建が主流となっている. もちろん現在でも, ごく小範囲の欠損であれば, 一次縫縮による閉鎖, 植皮や局所皮弁, 人工真皮などが用いられるが, ある程度以上の欠損であれば, 遊離皮弁や有茎皮弁などの移植が必要となってくる. この再建には, 切除後の欠損の被覆や支持組織の再建が中心となる一期再建 ( 即時再建 ) と形態の再建や機能の再建を中心とする二期再建がある. 本稿においては, 従来から用いられている各種再建術について遊離皮弁を中心に解説する. 2

Vol. 61 No. 10 顎口腔軟組織再建 497 図 パジェットデルマトームと電動デルマトーム ). 植皮術 体表より表皮と真皮を採取して移植する遊離植皮術は顎口腔領域で顔面皮膚欠損部の再建に用いられるほか, 口腔粘膜組織の再建にも用いられる. 植皮術には植皮片に含まれる真皮の厚さにより, 真皮全層が含まれる全層植皮術と真皮が一部切除され分層になる分層植皮術に分類される. どちらの植皮術においても, 移植後において植皮片に移植床から血管網が進入することにより移植された皮膚が生着する. このため植皮術を行う場合には移植床には血行が必要であり, 骨露出面やプレートなど人工物の露出した部分への植皮は不可能である. また植皮片に血行が再開するまでの期間, 移植床と植皮片がずれないように固定されている必要がある. 皮膚の血流再開は厚みのある皮膚よりも薄い皮膚ほうが容易であり, このため分層植皮が全層植皮に比べ生着しやすい. 植皮は低侵襲で手術手技も単純で適応しやすい再建方法である. しかし, 色素沈着や拘縮などが生じやすいなどの問題がある. ) 分層植皮分層植皮術は植皮片に含まれる真皮の厚さの調整が可能である. 植皮片が薄いほど生着が容易となるが, 皮膚の質感は悪くなり, 拘縮も起こりやすくなるため, 移植部分の必要性に合わせ厚みを調節する. 分層植皮ではパジェット型デルマトームや気動式や電動式デルマトーム ( 図 ) もしくは採皮刀など専用器具により皮膚を採取する. 真皮層が一部採皮部分に残存するので上皮化により創部は治癒する. このため分層植皮は広範囲の植皮が可能である. また, 植皮による被覆面積を拡大す るために, 植皮片に網目状の切れ込みを入れて植皮を行う網状植皮術もある. 植皮片に血行が再開するまでの期間, 移植片を縫合固定した糸を長くのばし, その糸を用いて植皮片直上をガーゼなどで圧迫固定するタイオーバー固定などによる固定が必要である ( 図 ). ) 全層植皮皮膚成分のうち表皮および真皮全層を含む植皮が全層植皮術である. 全層植皮は分層植皮に比べ生着後移植皮膚の質感が良好であり, 移植後の拘縮も少ない. その一方, 生着には皮膚全層の血行再開が必要であり, 確実な生着は分層植皮に比べ難しい. 全層植皮術の採皮はメスを用いて行い, 皮下脂肪などが採皮片に付着しているような場合は切除する. 採皮部分は縫合閉鎖する. このため全層植皮できる面積は採皮部分が縫合閉鎖可能な面積までとなり, 移植量には限界がある. また全層植皮術を行った後においても, 移植片に血流が再開するまでの期間, タイオーバー固定による確実な移植片の固定が必要である. ) 粘膜移植粘膜の欠損に対し植皮術と同様に粘膜移植を行うことは可能である. しかし, 粘膜の採取部位が口腔内の頰粘膜や硬口蓋粘膜に限られるため, 移植可能な粘膜の面積は少なく, 審美的な問題などで必要な症例のみで粘膜移植が行われ, 一般的には粘膜の欠損部分にも遊離植皮術が行われる. 粘膜移植のための粘膜採取部としては, 下唇前庭部, 硬口蓋および頰粘膜がある. 3

498 日本口腔外科学会雑誌 Oct. 2015 図 タイオーバー固定術 図 各種局所皮弁 ). 局所皮弁 皮膚や粘膜の小範囲欠損に対しては, その欠損部周囲組 織を移動させる局所皮弁により欠損部の被覆が可能である. 局所皮弁には, 皮弁の移動方向により横転皮弁, 回転皮弁, 前進皮弁などがある ( 図 ). また, 局所皮弁には主要動静脈が含まれる axial pattern flap ととくに主要動静脈を含まない random pattern flap があり,axial pattern の場合には主要動静脈の支配領域にそったデザインであれば皮弁の幅を狭くして細長くすることが可能である. 一方,random pattern の場合では血流の点から細長い皮弁では先端部の血流が不安定となるため, 皮弁は幅広くする. 口腔領域で用いられる特殊な皮弁として, 下唇動静脈を栄養血管として下唇を上唇に反転させて移植を行う Abbé 皮弁 ( 図 ) や舌を皮弁として挙上する舌弁などがある. 両皮弁とも, 移植部に皮弁を移植後血流が再開した後, 皮弁の切り離しが必要である.. 有茎皮弁移植有茎皮弁移植術は, 組織欠損部より離れた場所より血流を維持した状態の皮膚および脂肪や筋肉などの皮下組織を移植する方法である.1970 年以降体表の血行動態について詳細な研究が行われ, それにより筋膜などに沿って走行して直接皮膚に分布する血行や筋肉内を走行した後皮膚に分布する血行などがあることが判明した. さらにこれらの特定の動静脈血管により支配される皮膚や軟部組織の領域が解明されたことにより, 皮弁が安全に挙上できること 4

Vol. 61 No. 10 顎口腔軟組織再建 499 図 Abbé 皮弁 図 大胸筋皮弁 が証明された. 筋膜上を走行する血管による皮弁の代表が Delt-Pectoral Flap (DP 皮弁 ) であり. 筋肉内を走行する血管による皮弁の代表が Pectoralis Major Flap ( 大胸筋皮弁 ) である. 局所皮弁とは異なり有茎皮弁では移植できる組織量が多く, 含まれる組織も皮膚以外に脂肪, 筋肉, 場合によっては神経や骨も皮弁に含まれる. 有茎皮弁のデザインにおいては, 皮弁の栄養血管の支配領域が確実に含まれるようにする. また皮弁が到達できる範囲は決まっているため, 欠損部分への到達範囲を考慮して再建に用いる皮弁を選択する必要がある. 有茎皮弁において栄養血管周囲のみを連続させ, 移植に必要とされる部分以外の皮下組織を切除して 移植の自由度を高めた皮弁は島状皮弁と呼ばれる. ) 大胸筋皮弁 ( 図 ) ) 有茎皮弁としては顎口腔再建に用いられる機会が多い皮弁である. 大胸筋下層を走行する胸肩峰動静脈が栄養血管として皮弁の血行を維持している. 移植可能な皮弁の大きさは上方が第 4 肋骨, 下方が第 7 肋骨まで, 内側が胸骨正中部, 外側が大胸筋外側縁までである. 皮弁には脂肪層および筋層が含まれるため厚みがあり, 島状皮弁として移植されることも多い. 胸部に作成した皮弁を頸部皮下に作成した皮下トンネルを通して口腔内へ移植する. 口底, 下顎前方, 舌前方などの再建が可能である. 5

500 日本口腔外科学会雑誌 Oct. 2015 サクシンクト口腔外科第 3 版学建書院より改変して引用図 DP 皮弁 ~ ) ) 皮弁 ( 図 ) 鎖骨に水平に前胸部上方に作成される皮弁であり, 薄いため厚みの必要でない部分の再建には有用な皮弁であるが, 移植に際して皮弁の挙上と切り離しの 2 回の手術が必要であり, 移植後皮弁が切り離されるまでの期間は頸部および顔面の動きに制限があるため, 遊離皮弁が行われるようになり使用される機会は減少した. 肋間より皮弁へと穿通している内胸動脈が栄養血管であり, 鎖骨下方の前胸部に鎖骨に平行にデザインされ, 皮弁の外側は上腕部上方となり, 下方は腋窩部までとなる. 頰部皮膚や下顎前方などの再建に用いることが可能である. 皮弁を移植部分に縫合し, 移植後 2 週間程度で皮弁の血行支配が移植床から行われるようになるので, その時点で切り離しを行う. ). 遊離皮弁 有茎皮弁とくに島状皮弁をさらに発展させ, 皮弁を挙上した後, 皮弁の栄養血管を一度切断し, 移植部において血管吻合を行うことで移植を行う方法が遊離皮弁移植である. 手術用顕微鏡下の微小血管吻合手技については,1960 年に Jacobson らにより実験的な成功の報告がなされ,1965 年, 玉井らにより切断指の再接着例が世界初の臨床例の成功として報告された. 皮弁移植においては,1972 年の波利井らによる遊離頭皮皮弁移植 (Free scalp flap) が遊離組織移植として最初の報告であり, これ以降, 臨床応用への道が切り開かれた. さらに, 前述の皮弁 筋皮弁の概念の確立とマイクロサージャリーを用いた微小血管吻合の技術が重なり合い補 完しあって, 遊離組織移植という新しい再建術式が普及するに至っている. 本法の特徴としては, 以下の点が挙げられる.1 欠損部再建に適した構成成分 ( 皮膚, 皮下組織, 筋肉, 骨, 神経など ) を有する組織を選択的に必要な量だけ採取し移植できる.2 血行が豊富で安定した血流の組織を移植できる. 3 体部から切り離した組織の移植であるため, 欠損部への移植後の固定において位置的自由度が高い. これらの利点により, 他の方法に比して, 形態的および機能的により優れた再建が可能となっている. 一方, 欠点としては, マイクロサージャリーという専門的技術が必要であり, 吻合血管の血栓形成により移植組織の全壊死を生じる可能性があり得ることが挙げられる. しかし, 微小血管吻合後の血栓形成率は 5 % 未満とされており, 経験を積むほど少なくなる傾向にある. また, 術後合併症や機能面での回復においても, 他の再建方法に比べ明らかに良好な成績が得られており, 多くの施設において顎口腔領域の再建手術において第一選択として用いられている. 有茎皮弁は安定した血流を維持するために, 皮弁の大きさや移動距離に限界がある. このため顎口腔領域の再建に用いることが可能な皮弁は限定される. 一方, 遊離皮弁は, 移植部周囲に吻合可能な血管があれば, 身体どの部分からでも皮弁を移植することが可能である. とくに頸部リンパ節郭清が口腔癌切除に伴い行われる場合には, 移植に必要な吻合血管を頸部に求めることが容易である. 遊離皮弁では採取部から移植部へ皮弁を移動するときに血流が途絶し, 血管吻合後血流が再開する. このため短時間であるが 6

Vol. 61 No. 10 顎口腔軟組織再建 501 皮弁の血流は遮断されるが, 血流が再開されれば有茎皮弁と同様に皮弁の血流は維持される. このため移植床の血流に関係なく, 移植を行うことが可能であり, 血流のない金属プレートや骨露出面の被覆も可能である. ) 遊離皮弁による再建の注意点 a) デザイン遊離皮弁は有茎皮弁に比べ, 栄養血管が皮弁に確実に含まれていれば, 皮弁全体においてその血流は安定している. 安定した血流の皮弁移植ためには, 皮弁血流について正しい解剖学的知識の上で皮弁のデザインを行う. とくに皮膚穿通枝による血流の維持が必要な皮弁では, 事前にドップラー血流計などにより皮膚穿通枝の確認を行う. 皮弁のデザインにおいて皮弁が大きすぎると, 過大な組織量のため組織の圧迫が生じ, 鬱血や血管柄の圧迫により皮弁壊死が生じることがある. また逆に皮弁が小さすぎると, 過小な組織を緊張させて縫合し移植することになるため, 組織に阻血が生じやすく, このときにも皮弁壊死が生じる. 適切な大きさの皮弁をデザインするためには, 皮弁の大きさを決める際に切除標本で大きさを決めるだけではなく, 必ず欠損部の大きさ実測した上でデザインする. とくに粘膜欠損部においては, 切除された粘膜組織は収縮しているため, 本来の大きさが切除標本では測定できない. また, 腹直筋皮弁など皮下に脂肪層や筋体を含む皮弁では, 欠損部の大きさに合わせた皮膚の面積だけではなく, 皮弁に含まれる筋体などの組織の移植量もデザインで考慮する. b) 皮弁挙上皮弁挙上時には, まず移植組織の含まれる挙上プレーンと吻合血管となる血管柄の走行を確認して, これに注意しながら挙上を行う. 挙上が終了した時点で, 血管柄の切離前に皮弁の血行が十分にあることを確認する. また皮弁断端の止血を十分に行っておく. このとき皮弁を挙上して血管柄を周囲組織より遊離した状態で皮弁に電気メスを接触させ凝固を行わせると, 血管柄に過大な電流が通電し血管柄を障害するので, 必ず皮弁をほかの組織と十分に接触させて止血を行うようにする. 挙上した皮弁の血流の確認後血管を切離するが, 血管切離は移植床の準備が十分できた時点で行うようにして, 皮弁の阻血時間を短くするようにする. c) 吻合血管の準備皮弁血管柄および移植床において吻合血管を剥離, 露出して血管吻合の準備を行う. このとき血管に対して剥離操作を行う際には愛護的な操作を行わないと血管収縮により血流障害が生じるため, 愛護的な操作による剥離を行う. また露出された血管が吻合を行われるまでの間に乾燥しないようにする必要がある. このとき生理食塩水をかけすぎ て過度の冷却が起こらないようにする. 皮弁挙上時や吻合血管剥離後には, 血管拡張剤を吻合血管周囲に散布して吻合血管の血管攣縮を予防する. 血管攣縮が生じていると吻合が行えないだけでなく, 攣縮部分で血栓形成が生じやすい. 血管攣縮予防薬としては 10 倍希釈された塩酸パパベリンが用いられる. 移植床の血管を準備する際には, 血管吻合を行う際に過度の緊張や血管柄の過度のたるみが生じないよう必要十分な長さに血管を剥離露出する. 血管の移植床吻合動脈の結紮, 切離は血管吻合直前に行うようにする. d) 血管吻合血管吻合には, 端々吻合と端側吻合がある. 端々吻合においては血管径の口径差がなるべく少ない血管同士を吻合する必要がある. 端側吻合においては, 口径差は問題とならない. 端々吻合は血流の安定が得られるため, 可能であれば端々吻合を行うようにするが, 頭頸部の再建においては, 頸部の静脈を用いることが可能であり, 端側吻合もしばしば用いられる. 動脈吻合においても端側吻合は可能であるが, 動脈に端側吻合を行う際には,vascular punch を用いて, 移植床の動脈を開窓する. 血管吻合する際の縫合法手技として, 反転縫合法と非反転縫合法がある. 反転縫合法は, まず術者に面している面の吻合面において縫合を行い, その後反転させ反対側の縫合を行う方法である. 反転させた吻合面の縫合を行う際に, 反対側の吻合面まで縫合して, 内腔を閉塞させてしまうことがないように注意が必要である. 非反転法は, 吻合時に血管を内転させることなく縫合を行う方法である. 両端針を用いて縫合を行う場合には, 常に内腔から針を通すことができるため, 内腔を閉塞させてしまう心配がなく, また, 反転しないため深部の縫合が容易であるなどの利点がある. 血管吻合後には吻合部分にねじれが生じたり, 過度の緊張がかからないようにする. また吻合に用いる血管が健全な血管でないと血栓形成などの障害が生じやすいため, 吻合血管を選択する際には健全な血管を選択する. さらに創閉鎖時に血管に捻れや圧迫が生じることがあるため注意する. 患者の体位を変更する際にも血管柄の状態が変化するため, 体位の変更時には血管柄の走行などを検討した上で行うようにする. また, 創部の血腫形成による血管柄の圧迫や術後創部感染も血管柄の閉塞の原因となるため, 予防することが重要である. 血腫予防のための吸引ドレーンを留置する際には, 吸引の圧が吻合血管に影響しないようにする. e) 術後管理遊離皮弁移植直後においては, 皮弁の血流は吻合血管からの血流に依存しており, 吻合血管に生じる血栓などによ 7

502 日本口腔外科学会雑誌 Oct. 2015 図 前腕皮弁 図 前外側大腿皮弁 る血流障害が直ちに皮弁壊死を引き起こす. 頭頸部再建時遊離皮弁に生じる皮弁壊死は約 5 % 以下と報告されているが, 十分な準備, 適切な手術および術後管理で皮弁壊死を極力回避するようにする. 術中の血管攣縮予防剤としては, 術野に直接散布する塩酸パパベリンが用いられるが, 術後血管攣縮予防剤としては,PGE1 や Lip-PGE1 の全身投与が用いられる. 術後の血 にくいことや, 太い血管の端側吻合であるため吻合位置の制限が少なく, 口径差がないなどの利点を有している. 一方, 外頸静脈は, 端々吻合ではあるが, 血管が長い断端となるため捻れや kinking が生じやすく術後に外部からの圧迫も受けやすく, また口径差がある場合もある. このため吻合血管の選択においては, これらの点を考慮して選択する必要がある. 栓発生時期としては, 術後 3 日以内が動静脈ともに約 80% であると報告されている. このため術後 3 日間はとくに術後モニターによる観察を行う必要がある. 術後モニターとして通常用いられる方法としては,Capillary refilling, Pin prick test, Buoy flap, 超音波ドップラー検査など用いられている. 静脈血栓が生じた場合には, 皮弁は鬱血となるため次第に暗赤色となり, 気付かれやすい. 一方, 動脈血栓では, 皮弁が蒼白となる色調の変化が見つけにくい場合もあり, Pin prick test での出血の確認が必要となる. 動脈血栓が発見された場合の再手術による皮弁救済率は約 35% であり, 静脈では約 55% である. 頭頸部再建には, しばしば内頸静脈または外頸静脈が用いられる. 内頸静脈には, 陰圧かかりやすく血流が途絶し ) 各種遊離皮弁 ~ ) a) 前腕皮弁 ( 図 ) 前腕手関節近位より橈骨動静脈を血管柄として採取される, 脂肪層が少なく筋層も含まないため薄い皮弁で, 顔面皮膚欠損部のみならず頰粘膜, 歯肉, 口底や半切程度の舌再建など顎口腔領域で広く用いられる. 皮弁のデザインは橈骨動静脈を中心に前腕橈側から内側で行う. この時, 皮静脈も還流用の血管として用いるため, 皮静脈も含めたデザインとする. 皮弁採取により生じた皮膚欠損部分は遊離植皮により被覆する. ~ ) b) 前外側大腿皮弁 ( 図 ) 大腿部上方より採取される皮弁であり, 外側大腿回旋動静脈が栄養血管である. 皮弁の厚みは前腕皮弁より厚いが 8

Vol. 61 No. 10 顎口腔軟組織再建 503 図 腹直筋皮弁 腹直筋皮弁より薄く, 顎口腔領域の再建には広く用いることが可能である. 栄養血管が外側大腿回旋動静脈であり本血管の皮膚穿通枝が筋間中隔を走行している場合と筋体内を走行している場合があり, 筋体を貫通して走行している場合には分枝の丁寧な処理が必要である. 通常の顎口腔領域の再建に用いる場合の大きさであれば, 皮弁採取部は縫縮可能である. ~ ) c) 腹直筋皮弁 ( 図 ) 皮弁の大きさや形のバリエーションが多彩な皮弁であり, 下腹壁動静脈を血管柄として腹部より挙上される. 横方向にデザインすれば非常に大きな皮弁が採取でき, また縦方向にデザインした場合には腹直筋を長く皮弁に含めることも可能である. 皮弁の厚みがあることから, 皮弁に含む皮下脂肪の量を調節することにより移植する組織量の調節が可能であり, 大きな組織欠損に広く適応可能な皮弁である. 下顎骨を含めた口腔粘膜欠損, 口底の大きな欠損および亜全摘以上の舌再建などに用いられることが多いが, 顎口腔領域の再建は採取可能な腹直筋皮弁の量としては比較的組織欠損量が少ないため, 斜方向のデザインで挙上されることが多い. 皮弁採取部皮膚は縫合閉鎖可能であるが, 縫合時に皮下の腹直筋前壁筋膜を確実に閉鎖して, 腹壁ヘルニアの発生を防ぐ. ~ ) d) 広背筋皮弁 ( 図 ) 筋肉を大きく含むことが可能な, 胸背動静脈を血管柄とする皮弁であり, 移植する皮膚としては細長い皮弁から非 常に大きな面積の皮弁まで挙上可能である. 本皮弁は, 胸背神経を皮弁に含め筋弁として挙上し神経縫合を行うことにより筋肉の再建を行うことも可能である. 頸部から顔面下方の皮膚欠損に用いる場合には有茎皮弁として用いることも可能である. 皮弁に含まれる皮膚が幅狭い場合には皮弁採取部は縫縮可能である. 結 顎口腔領域は治療後に社会生活を送る上で重要な機能を有しており,QOL の維持において, この領域の再建では形態面のみならず機能面に配慮した再建が必要である. 各種再建術式にはその適応や手術手技の難易度の違いなどがあるため, 再建術式の選択に当たっては十分な検討が必要である. 語 本論文に関して, 開示すべき利益相反状態はない. 引用文献 1 )Paletta CE, Pokorny JJ et al : Skin graft. Mathesb SJ ed. Plastic Surgery 2 nd ed. Saunders, Philadelphia, PA, 2006, p293-316. 2 )Jackson IT : Local flaps in head and neck reconstruction 2 nd ed. Quality Medical Publishing, Inc., St.Louis, Missouri, 2007, p1-32. 3 )Ariyan S : The pectoralis major myocutaneous flap; aversatile flap for reconstruction in the head and 9

504 日本口腔外科学会雑誌 Oct. 2015 図 広背筋皮弁 neck. Plast Reconstr Surg 63: 73-81, 1979. 4 )Robertson MS and Robinson JM : Pactoralis major muscle flap in hean and neck reconstruction. Arch Otolaryngol Head and Neck Surg 112: 297-301, 1986. 5 )Bakamjian VY : A two-stage method for pharyngoesophageal reconstruction with primary pectoral skin flap. Plast Reconstr Surg 36 : 173-184, 1965. 6 )Bakamjian VY, Long M et al : Experience with the medially based deltopectral flap in reconstructive surgery of head and neck. Br J Plast Surg 24: 174-183, 1971. 7 )Bakamjian VY and Poole M : Maxillofacial and palatal reconstructions with the deltopectral flap. Br J Plast Surg 30: 17-37, 1977. 8 )Wei FC and Suominen S : Principles and techniques of microvascular surgery. Mathesb SJ ed. Plastic Surgery 2nd ed. Saunders Philadelphia, PA, 2006, p507-538. 9 )Song R, Gao Y, et al : The forearm flap. Clin Plast Surg 9: 21-26, 1982. 10)Soutar DS, Scheker LR, et al : The radial forearm flap: a versatile method for intraoral reconstruction. Br J Plast Surg 36: 1-8, 1983. 11)Harii K, Ebihara S, et al : Pharyngo-oesophageal reconstruction using a fabricated forearm free flap. Plast Recnstr Surg 75: 463-476, 1985. 12)Koshima I, Fukuda H et al : Free anterolateral thigh flaps for reconstruction of head and neck defects. Plast Reconstr Surg 92: 421-428,1993. 13)Koshima I : Free anterolateral thigh flaps for reconstruction of head and neck defects following cancer ablation. Plast Reconatr Surg 105: 2358-2360, 2000. 14)Chen CM, Chen CH, et al : Anterolateral thigh flaps for reconstruction of head and neck defects. J Oral Maxillofac Surg 30: 383-401, 2005. 15)Scheflan M and Dinner MI : The transverse abdominal island flap : Part II Surgical technique. Ann Plast Surg 10: 120-129, 1983 16)Harii K : Inferior rectus abdominis flaps. Baker SR ed. Microsurgical reconstruction of the head and neck. Churchill Livingstone. New York, 1989, p191-210. 17)Kroll SS and Bladwin BJ : Head and neck reconstruction with the rectus abdominis free flap. Clin Plast Surg 21: 97-105,1994. 18)Nakatsuka T, Harii K, et al : Versatillity of a free inferior rectus abdominis flap for head nad neck reconstruction: analysis of 200 cases. Plast Recnstr Surg 93: 762-769, 1994. 19)Olivari N : The latissimus flap. Br J Plast Surg 29: 126-128, 1976. 20)Tobin GR, Moberg AW, et al : The split latissimus dorsi myocutaneous flap. Ann Plast Surg 7: 272-280, 1981. 21)Davis J, Neild DV, et al : The latissimus dorsi flap in head and neck reconstructive surgery: a review of 121 procedures. Clin Otolaryngol Allied Sci 17: 487-490, 1992. 10