性格心理学研究 2000 第 8 巻第 2 号 79 88 原 著 情動認識力, 語彙力, エモーショナル 構成要素間の関連性の検討 イ ンテリジェンスの 酒井久実代 立教大学文学部 1 > 自己の情動を言語化することにより多様な感情を認知する能力を, 情動認識力と定義し, 好きな人に対する自己の情動の言語化指標を用いて測定した. 概念的に関連のある他者認識力, 語彙力. ーエモショナル インテリジェンスの構成要素である共感性, 創造性との関連性を検討するため,7 つの下位尺度を高校生 108 名, 大学生 77 名に実施した. 情動認識力は他者認識力との間に有意な相関関係が見ら れ, 語彙力とは有意な相関関係が見られなかっ た. また認識力, 共感性, 創造性の 3 因 f 分析モデルが 共分散構造分析により確証され, 認識力と共感性は, 創造性との問に有意な相関関係を示した. これら は情動認識力概念の有効性を支持する結果である. 最後に収束的 弁別的妥当性のあるエモーショナ ル インテリジェンス概念を構成することの必要性が述べられた, キーワード : 情動認識力, 他者認識力, 語彙力, エモーショナル インテリジェ ンス 問 題 and highlydifferentiated sets of feelings ) を認識 することが出来ると考えた. また Gendlin (1962) イザード (1996) によれば, 情動を経験するこ の体験過程 (experiencing ) 理論も, 感情の流れ とと情動を認知することは互いに異なった現象で ある. たとえば, 人は情動を認知することなく, 情動に動かされて行動することがある. そしてそ の行動が時として破壊的なものとなる場合もあ る. それに対して, 情動を認知することは情動の 制御において重要な役割を演ずる ( イザード, 1996) 点で, きわめて重要な心的機能であると考 えられる. この情動を認知する能力の個人差に焦点を当て た概念の一つに Gardner (1983 ) のイントラ パーソナル インテリジェンス (intra personal intelligence ) がある. Gardner は感情を象徴化す ることにより, 複雑で分化した感情 (complex 1 ) 本研究を行うにあたり終始, 貴重なご助言をいただきました立教大学文学部石井巌教授に深く感謝致します. (the flow of the feeling) を象徴化することにより 感情の意味が創造されるとする点で共通してい る,Gendlin,Beebe,Cassens,Klein& Oberlander (1968) は感情過程を象徴化する能力と創造性と の問に関連があることを示している.Lane & Schwartz (1987) は. 情動の組織化の程度は情動 の言語的な表象に反映されると考え, 情動認識力 (emotional awareness ) の認知的発達段階を示し た. その最高水準では, より複雑で分化した情動 状態 (complex and differentiated emotional states ) を記述でき, 情動の質や強さをより分化して認識 できるとしている. これらの研究で取り上げられている諸概念は, 自己の感情または情動を認識することに焦点を当 てている点で共通している. また, 情動を認識す
80 性格心理学研究第 8 巻第 2 号 るためには, 情動にラベ ルをつけること, 情動を 象徴化すること, あるいは言語で表現することが 必要であるとする点も一致している. Gendlin (1962) によれば, 体験過程は象徴化することに より, 無限に (endlessly ) 分化される. たとえば ある対象に対する感情はつだけということはな く, 我々 が適用するシンボルに依存して, いくつ にも分化してとらえられるという. 本研究では, 自己の情動を認識する能力を情動 認識力として, 自己の情動の言語化という指標を 用いて測定し, それが他の構成概念とどのような 関連性を持つかを検討したい. まず他者のもつ様々な側面を言語化し, 認識す る能力を他者認識力と定義し, 測定する.Lane & Schwartz (1987) では他者の経験 状態を多面 的に認識することを情動認識力の一部として概念 化している. すなわち. 他者認識力が情動認識力 概念の中に含まれており, 情動認識力の一つの側 面として位置づけられている. 本研究では, 自己 の情動を認識の対象とする情動認識力と, 他者を 認識の対象とする他者認識力を分けて概念化し, 両者の関連性について検討する. 次に語彙力を取り上げる. 情動を言語化するに は, 情動を表すための言葉を知っていることが必 要である, 情動認識力と一般的な語彙力との間に はどの程度の関連性があるかを検討したい. 最後にエモーショナル インテリジェンス (Emotionallntelligence ) との関連性を検討する. エモーショナル インテリジェンスは,Salovey & Mayer (1990 ) によって導入され,Goleman (1995) によって広く知られるようになった概念 である. 日本では一般的には EQ という言葉で IQ と対比させて紹介されたが, エモーショナル イ ンテリジェンス概念の中には, 指数という意味合いは全くないので, 本論文ではエモーショナル インテリジェンスを EI と略す. Salovey & Mayer (1990) によれば,E I には情 動の評価と表現, 情動の制御, 情動の利用という 3 つの側面があるが, 各側面はまたいくつかの構成要素からなっている. 情動の評価と表現とは, 情動を認知し, 言語化するなどの表現をすることを指している. 自己と他者に分かれており, 他者の情動の評価と表現は, 共感性とされている. 情動の制御も自己と他者に分かれている. 自己の情動の制御とは, 衝動を抑制するという意味ではなく, ネガティブな気分 (mood ) を避けて, ポジティブな気分を維持することを指している, 他者の情動の制御とは, 他者の感情的反応 (the affective reactions ) を制御し, 変えることを指している. 情動の利用とは, 問題解決のために自己の情動を利用することを指している. 情動の自由さ (emotion swings mood swings, ) が大きい, すなわち, 認知される情動の幅が大きく, 多様に変化する場合には, 柔軟な計画, 多様な可能性を考えることができるという, また, ポジティブな情動や気分を利用して, 課題に持続的に挑戦するよう動機づけることも含まれている. 情動の利用の中には, 柔軟な計画性, 創造的思考, 注意の再方向づけ t 動機づけ, の 4 つの要素がある. このように Salovey & Mayer (1990) の EI 概念は, 多くの構成概念を含んでおり, それらをまとめ一たつの概念としての有効性に疑問も投げかけられている. Sternberg& Kauiman (1998) は 1990 年代の知能に関する文献をレビーュした中で, 最後の項目として EI を取り F: げ, その概念の存在を示すいくつかの証拠はあるが, 充分な収束的 弁別的妥当性の検証が必要 であろうと結論づけている. Davies,Stankov& Roberts(1998) は EI 概念の妥当性を検証するため, 延べ 530 名の被験者に対し,EI の自己報告式テスト 客観的テスト, 認知能力テスト ( 流動性知能テスト 結晶性知能テスト ), パーソナリティ テストを実施し, いくつかの否定的な結果を見出している. たとえば,
情動認識力, 語彙力, エモーショナル インテリジェンスの構成要素間の関連性の検討 81 EI の自己報告式テストである特性メタムード尺 いう側面に焦点を当ててい る. 情動の言語化ある 度 (traitmeta mood scale ) は信頼性はあるが語彙力以外の他の認知能力テストとは相関がなく, Mayer,Dipaolo& Salovey(1990) による EI の客観的テスト, 情動知覚テスト (emotion perception test) とも全く相関がなかった. そしてパーソナリテ ィテストの神経症傾向との相関は高く, 因子分析により両者は識別できなかった. また情動知覚テストの信頼性は低く, 認知能力テスト, いは象徴化は, 情動を認知する際に必要な心的プロセスであり, 情動の制御, 情動の利用においても前提となると考えられる. すなわち, 情動認識力は EI の土台となる能力であり, また EI 概念を狭めたものとも言えよう. 本研究では,EI の構成要素とされる共感性と創造性を測定し, 情動認識力との関連性を検討したい. パーソナリティ テストとも無相関であった. こ れらの結果は. 知能の一つとしての EI 概念の有 方 法 効性を支持していない,DaVieset al.(1998) は, 情動の知覚因子を測定する信頼性のある尺度が開発されれば, パーソナリティ特性とは独立した EI の構成概念妥当性を示せるかもしれないが, 対象者東京近郊の高校 1 年生 108 名 ( 男子 72 名, 女子 36 名 ), 都内の大学 3,4 年牛 77 名 ( 男子 23 名, 女子 54 名 ) に調査を実施した, その際には EI 概念はより範囲の狭められたもの となるであろうと結論づけている. Izard, Schultz, Fine & Ackerman (1998) や Izard, Levinson, Ackerman,Kogos & Blumberg (1998 99) は, 情動の理解のための知識やスキル に焦点を当てることにより, 情動の知識 (emo テスト内容情動認識力情動認識力 を自己の情動を言語化することにより 2, 多様な感情 ) を認知する能力と定義し た, たとえばある人に対しての自己の感清につ い tionalknowledge) を EI の一つ の重要な構成要素 て考えてみると, たった一つということはありえ と位置づけている. 情動の 知識は顔の表情写真に ない その人と様々なやりとりがあればあるほど, 合う情動のラベルをつける課題, 物語の主役の情 あるいはその人との関係が深ければ深いほど, 動にラベルをつ ける課題, 情動を経験したときの 様々な感情を経験するはずである. 感情を経験す 状況や出来事を記述する課題により査定している.Izardet a1.(1998, 199899 ) の情動の知識は, 3 つの側面からなる EI のうち, 情動の認知と表現に最も関連しており,EI 概念をより狭めた概念と位置づけられる. Goleman (1995) は, EI の根幹となる能力を, 現在進行中の自己の心的状態を認識することと し. それを情動の自己認識力 (knowing one s emo ることと, その感情を認知することとは別であるが, ここでは様々な感情を認知する能力を測定する. 自己の情動または感情をより良く認識する人, すなわち情動認識力の高い人は, 日常生活の巾で他者に対する自己の様々な感情を言語化し, 認識している. ゆえにテスト場面で, 感情を言語化するように指示されると, 多様な感情を言語化する tion: self awareness ) と名づけている. この情動 ことができると考えられる. そこでテストでは, の 自己認識力も,EI 概念をより狭めた概念と位 置づけることができる. 本研究で取り上げる情動認識力は, 情動を言語化することにより認知する能力であり, 言語化と 2 > 情動は感情と感情に伴う身体的運動変化, 自律神経変化. 心理変化のすべてを包含する心理過程であり, 感情は情動過程のうち内的に経験される主観的な心理過程 ( 山鳥, 1994) である. 本研究では, 情動の主観的経験に焦点を当てている場合には感情という用語を使用する.
82 性格心理学研究第 8 巻第 2 号 大好きな人に対する気持ちを, な感じという た. 言葉の長さ, 数, 時間は自由にした, 形式で記述してもらっ た. 好きな人を対象に選ん 反応語の該当する他者特性のカテゴリー数を指 だのは, 一般に好きな人に対する感情は強く経験されること, また多様な感情を経験しやすいこと, さらに好きな人は自分にとって重要な意味を持っているので, その人に対する自分の様々な気持ちに気づきやすいことなどが考えられるからである. これらのことから情動認識力を測定するのに適切な刺激語であると考え, 選択した. インストラクションではできるだけいろいろな気持ちを表現するように求めた. 言葉の長さ, 数時間は自由にした, 得点化の指標として反応語の該当する感情カテゴリー数を取り上げた. 多くのカテゴリーにわたる感情を言語化し記述できるということは, 自己の情動を言語化することにより, 多様な感情を 認知する能力すなわち情動認識力が高いことを示していると考えられる. 主要な感情カテゴリーについてはいくつかの説があるが, 本研究では Plutchik (1980) の形容詞チェックリストからなる emotion mood index を使用した. 感情を表す形容詞の 9 つのクラスターのうち,8 つは主要情動次元すなわち受容, 驚き, 恐れ, 悲しみ, 嫌悪, 期待, 怒り, 喜び, に対応している. 残りの 1 つは活動性である, 各クラス 標とした, 多くのカテゴリーにわたる側面を言語化し記述できるということは, 他者のもつ様々 な側面を言語化し, 認知する能力 すなわち他者 認識力が高いことを示していると考えられる. 他 者特性のカテゴリーは, ビッグファイブ理論の 5 つのカテゴリー ( 柏木, 1998) に, 外見的特徴. 自分との関わり 自分がもつ評価, 能力 特技, の 3 カテゴリーを加えた 8 カテゴリーである. 語彙力 日本版 WAIS R 成人知能検査法 ( ウェクスラー, 1994) のド位テスト, 甲語の 35 問のうち,8 問を 使用した. 単語は言葉の意味を説明する問題で, 難易度順に並んでいる. はじめの問題は,1 電車, 2 食器,3 冬, というように, 大学生には簡単す ぎ, 終わりの問題は,35 寡聞,34 高邁な,33 ろ うたけた, というように日常的にはあまり使用し ない難しい問題である, そこで中程度の難易度で ある 17 番から 24 番までの問題を選択した, 制限 時間は 5 分間で, 分かる語から順に意味を記述し てもらった. 採点基準は手引きに従った.8 問の 合計得点を算出した. 共感性 共感性尺度には, 認知的な側面を重視するもの ターにつき,8 個の形容詞があげられており, 反 と, 感情的な側面を重視するものがあるが, 本研 応語を分類するときの参考にした. 他者認識力他者認識力は 他者のもつ様々な側面を言語化 し. 認知する能力 と定義した. 他者をより良く 究では Davis (1983) の対人反応指標のうち. 認知的な側面を測定する観点取得尺度と, 感情的な側面を測定する共感的関心尺度の全 14 項目 5 件法を使用した ( 宮城 1990)., 認識する人, すなわち他者認識力の高い人は, 日 常生活の中で他者の持つ様々な側面を言語化し, 創造性 S A 創造性検査 ( 恩 [H,1969) を使用した. 本 認識している. ゆえにテスト場面で, 他者につ い 検査は, 知能検査では測定しえなかっ た知能の て言語化するように指示されると, 多様な側面を 言語化することができると考えられる. そこでテ 別の側面を測定するために開発された. 知能テ ストは答えが一つしかない問題で収束的思考を ス トでは, 好きな人がどんな感じの人か, な 見ようとしているのに対し,S A 創造性検査は 人という形式で記述してもらった. できるだけそ 答えがいくつも考えられる問題で拡散的思考を見 の人のいろいろな側面を表現するように指示し ようとしている.S A 創造性検査と知能テス ト総
情動認識力, 語彙力, エモーショナル インテリジェンスの構成要素間の関連性の検討 83 合点との相関は 0.22, 国語 算数などの教科テス Table1 感情カテゴリーごとの反応の出現頻度 トとの相関は 0.33 から 0.39 であった. またある企業での業務成績と知能テストが無相関であるのに対し,S A 創造性検査との相関は事務系業績で は 0.64 で 1 % 水準で有意であっ た. 折半法による 信頼度係数は O.80 であっ た (N =258 ) ( 恩田, 1969). 本検査には, 応用力テスト, 生産力テスト, 空 受容 q 4 悲しみーユーラ怒り (2) 驚き ( 8 嫌悪ーユ0ラ喜び (93) 恐れー 2 期待む4 ラ宇舌動 生 (16) ( ) 内の数字は反応の出現頻度を示す. 分類による頻度 ) を Table 1 に示した. 反応語のカテゴリーへの分類は筆者と研究協力者 ( 心理学 想力テスト, が各 2 題ずつあるが, 応用力テスト 専攻大学院生 ) の 2 名で別々に行っ た. 反応語の ( 日常よく使う品物の用途を転換させ, 応用する能力を測定する ) の刺激語が, 牛乳びん, ゴム風船, で現在はあまり使用されていない単語であったので, 本研究では用いなかった. 調査時間の関係もあり, 生産力テスト ( 現実の品物をよりすぐ 総数は 510 語で, そのうちカテゴリーへの分類が一致したのは 473 語, 評定の. 一 致率は 92.7 % と高 かった. 反応語の該当するカテゴリー数を得点とした, 得点の範囲は 0 点から 7 点までであった, れたものに改良する思考力を測定する ), 空想力 他者認識力 テスト ( 起こり得ない事態において生ずる変化を 想像する能力を測定する ) から各 1 題ずつ選択した, 問題 1 は, 品物がどのようなものであったら 他者特性カテゴリーごとの反応の出現頻度 ( 筆者の分類による頻度 ) を Table 2 に示した. 反応語のカテゴリーへの分類は筆者と研究協力者 ( 心 よいか, その夢をなるべ くたくさん書いてもらう 理学専攻大学院生 ) の 2 名で別々に行った. 反応 問題であり, 品物は L かばん であった, 答えを 10 以. ヒあげる必要はなく, 制限時間は 3 分間で あった. 問題 2 は, ふつうでは考えられないよう なことが起こったらどうなるかをなるべくたくさん書いてもらう問題で, もしこの世に紙が一枚 もなくなってしまったら を使った, 答えを 10 以上あげる必要はなく, 制限時間は 3 分間であっ た. 採点基準は手引きに従い, 各テストごとに総 合点を算出した. 語の総数は 1197 語で, そのうちカテゴリーへの分類が一致したのは 1052 語, 評定の一致率は 87.9 % と高かった. 反応語の該当するカテゴリー数を得点とした. ただし, 自分との関わり 自分の持つ評価カテゴリーの反応が複数見られた場合は, それらをまとめて 1 点とするのではなく, 各反応語を 1 点として計算した. 自分の持つ評価が複数見られる場合は, 他者の異なる側面についてのそれぞれの評価 であったので, 1 つのカテゴリーにはまとめられ 手続き ないと考えたからである. 得点の範囲は 0 点から 7 つの下位尺度を授業時間中に集団で実施し た, 実施に要した時問はおよそ 30 分間であっ た. 結 果 基礎データの分析情動認識力感情カテゴリーごとの 反応の出現頻度 ( 筆者の Table 2 他者特性カテゴリーごとの反応の出現頻度 外向性 (158) 外見的特徴 (149) 協調性 (262) 自分との関わり 自分がもつ 評価 (343) 勤勉性 (148) 能力 特技 (6> 情緒不安定性 (28) 開放性 (1 3) ( ) 内の数字は反応の出現頻度を示す,
84 性格心理学研究第 8 巻第 2 号 Table 3 対人反応指標の因子パターン行列 ( 主因子法,Oblimin 回転後 ) 質問項目 1 [ * 5 困っている人を見ても気の毒に思わないときがある * 7 不公平に扱われている人を見たとき, あまりかわいそうだと思わない 11 不運な人を見ると親切な気持ちが起こり, 気にかける *13 他人が不幸に見舞われたとき, それによって心がかき乱されることはない 1 私はしょっちゅう物事に感動する 9 利用されている人を見るとかばってあげたくなる 3 私は気の優しい人間だと思う 2 すべての問題には一二つの側面があるので両方を見ようと心がけている 4 人に混乱させられたときはしばらくの間その人の立場に立ってみようとする 6 決定を下す前にはすべての人の不一致点を見ようとする 14 友達から見たら物事がどう見えるか想像して友達を理解しようとする 10 誰かを批判する前に自分が批判される立場だったらどう感じるかを想像しようとする * 8 相手の視点で物事を見ることはない * 12 もし自分が正しい と確信が持てるなら他者の意見を聞くのに時間を浪費することはしない.595.068.581,017.568,266.565.118.457.007.366.245,190.147.101.626.084.580.234,539.278.470,130.467.201.395.145.165 固有値 2.9.12 1.050 * は逆転項目を表す 15 点までであった. 共感性主因子法による因子分析を行った. 先行研究の結果や固有値の減衰状況を考慮して. 抽出基準を 2 因子とし, 斜交解を求めた ( 回転前の累積寄与 率 = 28.3 % ). オブリミン回転後, 各因 r 一に含まれる項目を見ると, 第 1 因子に共感的関心尺度の 7 項目, 第 2 因 f に観点取得尺度の 7 項目が見ら Table 4 情動認識力 他者認識力 語彙 力 観点取得 共感的関心 生 産 力 空 想 力 下位尺度の平均値と標準偏差 平均値 1,714.316.7420.3020.7719.5022.04 標準偏差 1.092.462.803,873,977,369.12 れた (Table 3 参照 ). 第 1 因子で因子負荷が 0.190 の項目 3, 第 2 因子で因子負荷が 0.165の項目ユ2 以外の項目は 0.3 以上の因子負荷を示しているので, 両項目を除外して,6 項目で各尺度を構成した. 第 1 因了と第 2 因アの因 f 間相関は 0.323 であった. の合計点をそれぞれ算出した, 創造性検査の α 係 数は,0.653 であっ た. 下位尺度を減らしたため に信頼性が低くなってしまったと思われれる. 7 つの下位尺度の平均値と標準偏差を Table 4 に示した. 観点取得尺度, 共感的関心尺度, 各 6 項目の α 係数はそれぞれ O.698, 0.705 で, 十分とはいえないが, ある程度の信頼性が見られた.6 項目の合計点を各尺度得点とした, その他語彙力は難易度順に並べられた 8 項日の合計点を算出し, 創造性は生産力テストと空想力テスト 相関分析各下位尺度間のピアソンの積率相関係数を Table 5 に示した (N =185). 情動認識力は他者認識力, 生産力, 空想力と 1 % 水準で有意な相関を示したが, 語彙力, 観点取得, 共感的関心とは有意な相関が見られなかった.
Japan Society Soolety of Personallty Personality Psyohology Psychology 情動認識力, 語彙力, エモーショナル インテリジェンスの構成要素間の関連性の検討 85 Table 5 下位尺度間の相関係数 (1> 三 185 ) 他者認識力 語彙力 観点取得 共感的関心 生産力 空想力 * *p く.Ol, * 1 <.05 情動認識力他者認識力語量力観点取得共感的関心生産力 O.321 * * 0.0950,0830.0040.194 * * 0,2 ユ 9 * * 0.0450.1410.1020.178 * O.279 * * 一〇.012 O.081 0.134 0,216 * * 0358 ** 0.059 0.220 ** 0.212 ** 0.220 * * 0.454 ** 他者認識力は生産力, 空想力と有意な相関を示 したが, 語彙力, 観点取得, 共感的関心とは有意 な相関が見られなかった. 語彙力は空想力と 1 % 水準で有意な相関を示し たが, 観点取得, 共感的関心, 生産力とは有意な 相関が見られなかった. この結果は知能テストと 創造性テス トとの相関がある程度見られた先行研 究の結果 ( 恩田,1969) と一致している. 観点取得と空想力, 共感的関心と生産力, 空想 力は有意な相関を示した. 先行研究にも同様の結 果が見られている burt, (Carlozzi, Bull, Eells& Hurl 1995 ; Kalliopuska, 1992 ; 恩田,1969,1982). 相関分析により, 下位尺度間の関連性が示された. 共分散構造分析 概念的に, 情動認識力と他者認識力の背後には 感的関心の背後には共感性という構成概念が想定され, 生産力と空想力の背後には創造性という構成概念が想定された これら 3 つの構成概念が F 位尺度により測定される検証的 ( 確証的 ) 因子分析モデルをつくり, 共分散構造分析により分析した.EQS の version5.1 を使用し, 推定法は最尢法を用いた. 結果を Figure1 に示す. 各構成概念から下位尺度への影響指標はいずれも高く, 測定状況は良好であった, 適合度指標も GFI が O.987 と高く,0.90 以上の基準を満たしていた. 構成概念間の相関関係を見ると, 認識力と創造性との間に 1 % 水準の有意な相関が見られ, 共感性と創造性の間にも 1 % 水準の有意な相関が見られた. 希薄化の修正 ( 狩野,1997) がなされたため, 構成概念問の相関係数は, 下位尺度間の相関係数よりも高くなった. 認識力という構成概念が想定され, 観点取得と共 * *P く,01 Figure1 3 因子の確証的因子分析モデル NII-Electronic N 工工一 Eleotronlo Llbrary Library
86 性格心理学研究第 8 巻第 2 号 考 察 推測される. 情動認識力と観点取得, 共感的関心との間には 本研究では, 情動認識力を情動の言語化指標を 関連が見られなかっ た. 概念的にも, 自己の多様 用い て測定した. 情動は常に変化していくもので な感情を認知することと, 他者の心理的見方を自 あり, その認識において一つ の正解があるという 然に取る傾向, 不幸な他者に対する同情や心配と ものではない, そのため知能テス トのような収束 いっ た他者中心的な感情とは識別される. 他者認 的思考をみるためのテスト形式では測定すること はできないと思われる. 本研究で用いた白由記述 識力と観点取得, 共感的関心との問には有意では ないが, 正の相関が見られた. 他者の多様な側面 式のテス トは, 情動認識力をとらえるための適切 を認知することは, 他者を対象としており, その な方法であると考える. ただ, 今回は課題が好き 点で観点取得, 共感的関心と概念的に関連性があ な人に対する感情の記述だけであっ たので, 表さ る. 情動認識力と他者認識力の背後に想定された れた感情が, 期待 受容 喜びなどの肯定的な感情カテゴリーに入ることが多く, 怒り 恐れ 悲しみなどの否定的な感情カテゴリーの反応はあま 認識力と, 観点取得と共感的関心の背後に想定さ れた共感性との間には有意な相関は見られなかっ た. 両者はいずれも EI に含まれる構成概念であ り見られないという偏りがあっ た. そのような偏 るが, その関連性は低いことが示された. りをなくすように, また信頼性の検討ができるよ うに, 課題を複数用いて測定する必要があるだろ 認識力と創造性との問には有意な相関関係が見 られた. 測定に用いられた S A 創造性検査は, う, 知能テス トでは測定されていない拡散的思考力を 情動認識力は他者認識力と, 対象の多様な側面 測定するために作成されたものである. 情動認識 の認識という点で概念上の共通性を持っていた, 力, 他者認識力は知能テス トで測定される知的能 測定の結果, 両尺度の間には 1 % 水準で有意な相 関が見られ, 自己の多様な感情を認知することと, 力とは関連が見られなかったが, 知能テストで測 定されていない知的能力とは関連が見られた, 創 他者の多様な側面を認知するこ とが示された. とに関連があるこ 造性も EI に含まれる概念であり,EI の他の構成 要素である認識力, 共感性との関連性が高いこと 情動認識力は語彙力とは相関が見られなかっ た. 情動認識力は情動の言語化という側面を持ち, が示された. 以上のように, 本研究ではこれまであまり注日 言葉を使用するが, 一般的な語彙の知識量が多い されてこなかっ た情動認識力を測定し, 概念的に こ ととは関連がないことが示された. しかし情動 関連のある他の構成概念との関連性を明らかにす 認識力は感情に関する語彙の知識量とは関連があるかもしれない. 両者の関連性の検討は今後の課題である. ることができた. これらの結果は情動認識力概念の有効性を支持している. また情動認識力は EI の根幹となる概念であり,EI 概念を狭めた概念 語彙力測定に使用した単語テス トは WAIS R の と位置づけられる. 今後, 本研究では取り上げて 言語性評価点の合計点との相関が最も高い下位尺 いないが関連のある他の構成概念を測定し, それ 度であり (r O.87, 18 19 歳群 ), また動作性検査 らの関連性を調べ ることにより, 収束的 弁別的 評価点も含めた全検査評価点合計との相関も高い (r =O.80, 18 19 歳群 ) ことが分かっている ( ウェ クスラー, 1994). このことから情動認識力は知能 妥当性のある EI 概念を構成するこ る課題だと思われる. とも意味のあ テス トで測定される知能とは関連性がないことが
情動認識力, 語彙力. エモーショナル インテリジェンスの構成要素間の関連 1 生の検討 87 引用文献 Carlozzi,A.F.,Bul1,K.S,Eells,G.T.,& Hurlburt,J.D. 1995Empathy as related to creativity,dogmatism, and expressiveness.the / burnal Of Ps ソ chology,129, 365 373. Davies,M,Stankov,L.,& Roberts,R.D.1998 Emo tionalintelligence :Insearch of an elusive constmct. ノburnal OfPersonality and SocialPsychology,75, 989 1015. Measuring indivisual dfferences in Davis,M.H.1983 empathy. ノ bumat efpersonality and SociatflSychology, 44,113 126. Gardner,H,1983 Frαmes Ofmind,New York :Basic Books. Gendlin, E.T.1962 Experiencingand the creation Of meaning.a Philosophical and Psychological approach to thesubiective.new York :The Free PressGlencoe. Gendlin,E.T.,Beebe,J.,Cassens,J.,Klein,M.,& Oberlander,M,1968 Focusing abilitiy inpsy chotherapy,personality,and creativity.researchin PsychotheraPyVI 皿,217 241. Go eman,d.1995 Emotionalintelligence more than IQ.New York :Bantam Books. matter way itcan イザード, C,E. 荘厳舜哉 ( 監訳 ) 比較発達研究会 ( 訳 ) 1996 感情心理学ナカニシヤ出版 (lzard, C.E.1991 The psychology of emotions.new York : Plenum Press.) Izard,C,E,Schultz,D.A.,FineS.E.,& Ackerman,B.P. 1998 Emotionality,intelligence,and emotional knowledge as predictors of socially adaptive behav ior.unpublished manuscript. Izard, C.E.,Levinson, K.L.,Ackerman, B,P.,Kogos,J. L,& Blumberg,S.H 1998 99 Children s emotional memories :An analysis in terms of differential eme tionstheory.lmagination,cognitionand Personality, 18 (3),173 188. Kalliopuska,M,1992 Creativeway of living. 治卿 o ( 管 icalreports,70, 11 14. 狩野裕 1997AMOS,EQS,LISREL によるグラ フィカル多変量解析現代数学社 柏木繁男ユ 998 性格特性における階層構造 α β γ モ デルの可能性について ( 当日配布資料 ) コア コ ンセプト項日による性格 5 特性の評価と表現 日本 心理学会第 62 同大会発表論文集,S17. Lane, R.D., & Schwartz, G.E.1987 Levelsof emotion al awareness :A cognitive developmentaltheory and ournal itsapplicat ]on to psychopathology.amen can 丿のfkychiatry,144,133 143, Mayer,J.D.,Dipaolo,M.,& Salovey,P.1990 Perceiv ingaffective content inambiguous visual stimuli :A component of emotional intelligence sonatity Assessment, 54, 772 781..fournal OfPer 宮城真理 1990 PT EC 尺度の検討立教大学心理 学科卒業論文 恩出彰 1969 S A 創造性検査手引き東京心理 恩田彰 1982 創造性の発達詫摩武俊 飯島婦佐子 ( 編 ) 発達心理学の展開新曜社 Pp.172 186. Plutchik,R.1980 Emotion,New York : Harper& Row. Salovey,P.,& Mayer,J.D.1990 Emotionalintelli gence.imagination, Cognition and Personali むy,9, 185 21L Sternberg, R.J., & Kaufman, J.C,1998 Human abili ties,annualreview OfPsychology, 49,479 502. ウェクスラー,D. 品川不二郎 小林重雄 藤田和 弘 前川久男 ( 訳編 ) 1994 日本版 WAIS R 成人 知能検査法第 5 版日本文化科学社 (Wechsler, D.1981 物朋 α 力厂伽 WechsterAdutt Intetligence Scale Revised. The PsychologicalCorporation ) 山鳥重 1994 情動の神経心理学伊藤正男 梅 本守 山鳥重 小野武年 往住彰文 池田謙一岩波講座認知科学 6 : 情動岩波書店 Pp.36 69. 1999.5.6. 受稿 1999.9.28, 受理一
JapanSociety Society ofpersonality of Personality Psychology 88tras,Li-\Mn ng8# eg2e Kumiyo Sakai(Departrnent of Psychology,Faculty of Letters,rdkkyo University).A study ofthe relationship vocabttlary, and some components ofemotional intelligence. THEJApANEsE among seijtawareness ofemetions, JouRNAi.oFPERsoNAi.rry 2000, Vol.8 No.2, 79-88. Self-awarenessof emotions was definedas the ability to know one's various feelingsby expressing them with words. Itwas measured by coding the descripbionthe person writes about his/her emotions toward another per$on whom hefshe likes.seven scales were administered to 108 high school and 77 university students to investigate therelationship among selfawareness of emotions, awareness of others, vocabulary, empathy, and creativity, all of which were conceptually related, with the lasttwo being components of emotionalintelligence.results showed thatseliawareness ef emotions had a significant correlation with aware ness of others, but not with vocabulary. A three-factormodel of self-awareness, empathy, and creativity was confirmed by covariance stmcture analysis. Self-awarenessand empathy were found to correlate significantly with creativity. 'Ihe results suggested thatthe construct of selfawareness of emotions was usefu1 and fullconvergent-discriminant validation of the emotional intelligence construct necessary. Key words : self-awareness ol emotions, awareness of others, vocabulary, emotional intelligence NII-Electronic Library