抗菌薬必要な子ども

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耐性菌届出基準

第51回日本小児感染症学会総会・学術集会 採択結果演題一覧

割合が10% 前後となっています 新生児期以降は 4-5ヶ月頃から頻度が増加します ( 図 1) 原因菌に関しては 本邦ではインフルエンザ菌が原因となる頻度がもっとも高く 50% 以上を占めています 次いで肺炎球菌が20~30% と多く インフルエンザ菌と肺炎球菌で 原因菌の80% 近くを占めていま

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10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

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別紙 1 新型インフルエンザ (1) 定義新型インフルエンザウイルスの感染による感染症である (2) 臨床的特徴咳 鼻汁又は咽頭痛等の気道の炎症に伴う症状に加えて 高熱 (38 以上 ) 熱感 全身倦怠感などがみられる また 消化器症状 ( 下痢 嘔吐 ) を伴うこともある なお 国際的連携のもとに

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48小児感染_一般演題リスト160909

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2012 年 11 月 21 日放送 変貌する侵襲性溶血性レンサ球菌感染症 北里大学北里生命科学研究所特任教授生方公子はじめに b 溶血性レンサ球菌は 咽頭 / 扁桃炎や膿痂疹などの局所感染症から 髄膜炎や劇症型感染症などの全身性感染症まで 幅広い感染症を引き起こす細菌です わが国では 急速な少子

2009年8月17日

2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

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糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

医療法人高幡会大西病院 日本慢性期医療協会統計 2016 年度

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります


70 例程度 デング熱は最近増加傾向ではあるものの 例程度で推移しています それでは実際に日本人渡航者が帰国後に診断される疾患はどのようなものが多いのでしょうか 私がこれまでに報告したデータによれば日本人渡航者 345 名のうち頻度が高かった疾患は感染性腸炎を中心とした消化器疾患が

市中肺炎に血液培養は必要か?

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1

減量・コース投与期間短縮の基準

免疫学的検査 >> 5E. 感染症 ( 非ウイルス ) 関連検査 >> 5E106. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤


免疫学的検査 >> 5E. 感染症 ( 非ウイルス ) 関連検査 >> 5E106. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤

インフルエンザ(成人)

は減少しています 膠原病による肺病変のなかで 関節リウマチに合併する気道病変としての細気管支炎も DPB と類似した病像を呈するため 鑑別疾患として加えておく必要があります また稀ではありますが 造血幹細胞移植後などに併発する移植後閉塞性細気管支炎も重要な疾患として知っておくといいかと思います 慢性

案1 SIDMR

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562 当院におけるプロカルシトニンとプレセプシンの比較検討 東恭加 1) 加藤淳子 1) 井元明美 1) 上霜剛 1) 秋篠範子 1) 兵庫県立柏原病院 1) はじめに プロカルシトニン (PCT) は 細菌性敗血症のマーカーとして日常診療に用いられており 当院でもイムノクロマト法 (PCT-Q:

己炎症性疾患と言います 具体的な症例それでは狭義の自己炎症性疾患の具体的な症例を 2 つほどご紹介致しましょう 症例は 12 歳の女性ですが 発熱 右下腹部痛を主訴に受診されました 理学所見で右下腹部に圧痛があり 血液検査で CRP 及び白血球上昇をみとめ 急性虫垂炎と診断 外科手術を受けました し

今週前週今週前週 2/18~2/24 インフルエンザ ヘルパンギーナ 4 4 RS ウイルス感染症 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 7 4 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目

神戸市感染症発生動向調査週報 1 年 月 11 日作成 全数把握対象感染症発生状況 ( 三類感染症細菌性赤痢 ) 女 5 代 - 1 年 月 5 日 1 年 月 日 sonnei(d 群 ) 分離 同定による病原体の検出 ( 便 ) なし 接触感染 第 13 週報告患者の家族 全数把握対象感染症発生

1-11. 三種混合ワクチンに含まれないのはどれか 1 破傷風 2 百日咳 3 腸チフス 4 ジフテリア 疾患と症状との組合せで誤っているのはどれか 1 猩紅熱 コプリック斑 2 破傷風 牙関緊急 3 細菌性赤痢 膿粘血便 4 ジフテリア 咽頭 喉頭偽膜 予防接種が有効なはど

す ウイルスの中で検出頻度の高いものはライノウイルス コロナウイルスが多く これに続くのが RS ウイルス インフルエンザウイルス パラインフルエンザウイルス アデノウイルスです また これらのウイルスには季節的流行の特徴があり ライノウイルスは春と秋 RS ウイルス コロナウイルス インフルエンザ

もちろん単独では診断も除外も難しいが それ以外の所見はさらに感度も特異度も落ちる 所見では鼓膜の混濁 (adjusted LR, 34; 95% confidence interval [CI], 28-42) や明らかな発赤 (adjusted LR, 8.4; 95% CI, ) が

名称未設定

疾患名 平均発生規模 ( 単位 ; 人 / 定点 ) 全国 県内 前期 今期 増減 前期 今期 増減 県内の今後の発生予測 (5 月 ~6 月 ) 発生予測記号 感染性胃腸炎 水痘

シプロフロキサシン錠 100mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにシプロフロキサシン塩酸塩は グラム陽性菌 ( ブドウ球菌 レンサ球菌など ) や緑膿菌を含むグラム陰性菌 ( 大腸菌 肺炎球菌など ) に強い抗菌力を示すように広い抗菌スペクトルを


1-11. 三種混合ワクチンに含まれないのはどれか 1. 破傷風 2. 百日咳 3. 腸チフス 4. ジフテリア 第 17 回按マ指 疾患と症状との組合せで誤っているのはどれか 1. 猩紅熱 - コプリック斑 2. 破傷風 - 牙関緊急 3. 細菌性赤痢 - 膿粘血便 4. ジフテリア

2012 年 1 月 25 日放送 歯性感染症における経口抗菌薬療法 東海大学外科学系口腔外科教授金子明寛 今回は歯性感染症における経口抗菌薬療法と題し歯性感染症からの分離菌および薬 剤感受性を元に歯性感染症の第一選択薬についてお話し致します 抗菌化学療法のポイント歯性感染症原因菌は嫌気性菌および好

改訂の理由及び調査の結果直近 3 年度の国内副作用症例の集積状況 転帰死亡症例 国内症例が集積したことから専門委員の意見も踏まえた調査の結果 改訂することが適切と判断した 低カルニチン血症関連症例 16 例 死亡 0 例

熊本県感染症情報 ( 第 31 週 ) 県内 170 観測医の患者数 (7 月 28 日 ~8 月 3 日 ) 今週前週今週前週 インフルエンザ 0 1 百日咳 0 0 RS ウイルス感染症 7 0 ヘルパンギーナ 咽頭結膜熱 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 感染性胃腸炎

1 MRSA が増加する原因としては皮膚 科 小児科 耳鼻科などでの抗生剤の乱用 があげられます 特にセフェム系抗生剤の 使用頻度が高くなると MRSA の発生率が 高くなります 最近ではこれらの科では抗 生剤の乱用が減少してきており MRSA の発生率が低下することが期待できます アトピー性皮膚炎

ヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib)ワクチン<医療従事者用>

横浜市感染症発生状況 ( 平成 30 年 ) ( : 第 50 週に診断された感染症 ) 二類感染症 ( 結核を除く ) 月別届出状況 該当なし 三類感染症月別届出状況 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月計 細菌性赤痢

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

よる感染症は これまでは多くの有効な抗菌薬がありましたが ESBL 産生菌による場合はカルバペネム系薬でないと治療困難という状況になっています CLSI 標準法さて このような薬剤耐性菌を患者検体から検出するには 微生物検査という臨床検査が不可欠です 微生物検査は 患者検体から感染症の原因となる起炎

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 I 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 茶色 )

第14巻第27号[宮崎県第27週(7/2~7/8)全国第26週(6/25~7/1)]               平成24年7月12日


糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

<B 型肝炎 (HBV)> ~ 平成 28 年 10 月 1 日から定期の予防接種になりました ~ このワクチンは B 型肝炎ウイルス (HBV) の感染を予防するためのワクチンです 乳幼児感染すると一過性感染あるいは持続性感染 ( キャリア ) を起こします そのうち約 10~15 パーセントは

検査項目情報 インフルエンザウイルスB 型抗体 [HI] influenza virus type B, viral antibodies 連絡先 : 3764 基本情報 ( 標準コード (JLAC10) ) 基本情報 ( 診療報酬 ) 標準コード (JLAC10) 5F410 分析物 インフルエン

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報告は 523 人 (14. 5) で前週比 9 と減少した 例年同時期の定点あたり平均値 * (16. ) の約 9 割である 日南 (37. 3) 小林(26. 3) 保健所からの報告が多く 年齢別では 1 歳から 4 歳が全体 の約 4 割を占めた 発生状況 ( 宮崎県 ) 定

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中耳炎診療のすゝめ


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6/10~6/16 今週前週今週前週 インフルエンザ 2 10 ヘルパンギーナ RS ウイルス感染症 1 0 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 8 10 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目 )

日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール

医療連携ガイドライン改

ン (LVFX) 耐性で シタフロキサシン (STFX) 耐性は1% 以下です また セフカペン (CFPN) およびセフジニル (CFDN) 耐性は 約 6% と耐性率は低い結果でした K. pneumoniae については 全ての薬剤に耐性はほとんどありませんが 腸球菌に対して 第 3 世代セフ

平成 28 年度感染症危機管理研修会資料 2016/10/13 平成 28 年度危機管理研修会 疫学調査の基本ステップ 国立感染症研究所 実地疫学専門家養成コース (FETP) 1 実地疫学調査の目的 1. 集団発生の原因究明 2. 集団発生のコントロール 3. 将来の集団発生の予防 2 1

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した つまり 従来から研究されてきた IgE/Fc RI を介した活性化経路は 肥満細胞活性化の一面に過ぎず むしろ生体防御の見地からすると 感染に対する防御こそ肥満細胞の機能の中心的な役割である可能性も出てきたのです この一連の研究は 肥満細胞は何もアレルギーを起こすために存在しているのではなく

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第 12 回こども急性疾患学公開講座 よくわかる突発性発疹症 その症状と対応 ~ 発熱受診患者解析結果を交えて ~ 神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野 長坂美和子

2019 年 7 月 4 日 ( 木 ) 愛知県保健医療局健康医務部健康対策課感染症グループ担当内田 久野内線 ダイヤルイン 手足口病警報を発令します!! 愛知県では 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 に基づき 県内の小児科を標榜する

A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 第 50 週の報告数は 前週より 39 人減少して 132 人となり 定点当たりの報告数は 3.00 でした 地区別にみると 壱岐地区 上五島地区以外から報告があがっており 県南地区 (8.20) 佐世保地区 (4.67) 県央地区 (4.67) の定点当たり報告数は

定点報告疾患 ( 定点当たり報告数の上位 3 疾患の発生状況 ) (1) インフルエンザ 第 51 週のインフルエンザの報告数は 1025 人で, 前週より 633 人多く, 定点当たりの報告数は であった 年齢別では,10~14 歳 (240 人 ),7 歳 (94 人 ),8 歳 (

図 1 鼻炎診療の手順とポイント鼻汁や湿性咳嗽を認める小児では 急性鼻副鼻腔炎がある可能性も念頭に置き 丁寧な問診と鼻腔観察を行う まず いつから どのような症状があるのかを問診で聴取する 鼻水の色や量 性質 ( 水っぽいか ねばねばしているか ) のほか いびきの有無についても聞く 鼻が詰まってい

Ⅱ 夜にどうする? 1 不機嫌 :not doing well not doing well にもいろいろある ( 表 1) よく耳を傾けること! 弱い泣き と 視線が合わない は特に要注意! バイタルサインを大事にする! 1 尿路感染症 2 細菌性髄膜炎 3 腸重積 4 頭蓋内出血, 骨折 5 心

小児科研修プログラム

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第2次JMARI報告書


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審査結果 平成 26 年 1 月 6 日 [ 販 売 名 ] ダラシン S 注射液 300mg 同注射液 600mg [ 一 般 名 ] クリンダマイシンリン酸エステル [ 申請者名 ] ファイザー株式会社 [ 申請年月日 ] 平成 25 年 8 月 21 日 [ 審査結果 ] 平成 25 年 7

Transcription:

診断と治療社 小児科診療 ベテラン小児科医が伝授する外来診療のコツ 抗菌薬が必要な子どもの見つけかた 草刈章 ( くさかりあきら ) 要旨 (200 字 ) Hib PCV-7 ワクチンの導入後 小児の重症細菌感染症は確実に減少している しかし尿路感染症 肺炎 菌血症 眼窩蜂窩織炎などの重症疾患は希ながら必ずあるのであり 小児科医はこのような疾患を見逃さないようにしなければならない 一律に抗菌薬を処方するのではなく 丁寧な診察を行い 必要に応じて血液 尿 迅速抗原検査を実施してウイルス性か細菌感染かを吟味し 適切な抗菌薬使用を心がける必要がある key word(5 語 ); 重症細菌感染症抗菌薬適正使用血液検査 迅速抗原検査 CRP はじめに近年 本邦においても Hib と 7 価結合型肺炎球菌ワクチン (PCV-7) が導入され 髄膜炎などの重症細菌感染症は減少してきている [1] しかし0になるということはなく 小児科開業医は多数の軽症患者の中からさらに稀となっている重症疾患の患者を見逃さないように なお一層の注意深い診療が要求される 欧米においてもこのことは重要視され 小児科外来や救急医療の現場で重症細菌感染症をより確実に見つけ出すことを支援する予測モデルが提唱されてきた [2,3,4] 一般的に体温 発熱日数 呼吸数 酸素飽和度 CRP 値など客観的 数量的データを用いてリスク評価を行い 該当症例が重症疾患の可能性が低い 中等度 高いかどうかを判断するものである このような予測モデルを有用と評価する論文がある一方 [3] 正確性に欠けると評価するものがあり[5] 的確に重症細菌感染症を見つけ出すことがいかに困難かを示唆すると言える

近年 全身炎症性症候群という概念が提唱された 体温 白血球数 脈拍 呼吸数などの分かり易い項目で重症状態を把握するものであり 臨床の現場で応用し易い ( 表 1) 高熱を発している子どもの保護者は大きな不安をもって医療機関を受診する 医療者はこのような親の気持ちを真摯に受け止め 話しをよく聞き 丁寧に診察し 必要な検査を行い 診断や治療 そして見通しを分かり易く説明する必要がある 特にウイルス性と細菌性疾患を鑑別することは重要である 幸い現在の小児科外来は 昔と比較して各種迅速抗原検査や自動血球計測器が普及し このような診療を実践する環境が格段に向上してきている 以下 筆者が日常診療で行っている 抗菌薬が必要な子どもの見つけかた を述べてみたい 主要症候から見分ける 1. 発熱小児科外来 あるいは救急外来を受診する子どもの多くは発熱を主訴としている 多くは自然治癒するウイルス性疾患であるが まれに肺炎 菌血症 細菌性髄膜炎 尿路感染症などの重症細菌感染症がある しかし熱が高い 咳がひどいといって一律に抗菌薬を処方すべきでない 細菌感染症かどうかを十分に吟味し 抗菌薬適正使用を心がける 多くは流行状況や家族歴 特徴的な症状 所見 迅速抗原検査などで病因診断が可能であるが ときに発熱以外の症状所見に乏しく すぐには診断を確定できないことも少なくない 一般状態がよければ 1~3 日間の経過観察を行う この場合 気休めの抗菌薬処方は絶対に行ってはいけない また解熱剤も極力処方せず 自然な体温の変化と症状の推移を観察する 3ヶ月未満の乳児 チアノーゼや意識障害, 脱水状態などを伴っている発熱児は入院精査を考慮する 3 ヶ月以上の小児の高熱患者については 重症細菌感染症の見逃しを防ぐために一定の手順に従った診療を行うことが望ましい ここには抗菌薬適正使用ワーキンググループの推奨案を呈示する ( 図 )[6] 全身状態や発熱の程度 随伴症状のいかんにかかわらず 発熱が4 日以上続く場合には 筆者は血算 CRP 尿検査を行うことにしている 血算はスクリーニングとして指先穿刺による微量採血で白血球数 CRP 値を確認し 細菌感染症の可能性が高いと判断したときは血液培養を行い 抗菌薬を点滴 あるいは経口で投与する ( 表 2)

2. けいれん 意識障害発熱に伴うけいれん 意識障害は ほとんどはウイルス性疾患にともなう熱性けいれん あるいは脳症などであるが 稀に細菌性髄膜炎もあるので 必ず血算 CRP を確認する 可能性が高いと判断したときは入院精査を依頼する 意識障害というほどでないが 乳幼児では表情が乏しい 活気がない, 周囲への関心が少ないなどは重症疾患を示唆するサインであり 血液検査を行う 3. 頭痛発熱に伴う頭痛は 感冒などウイルス感染によることが多いが 稀に細菌性髄膜炎もあり得る 前者の場合 激しい頭痛でもグリセリン浣腸で著しく軽快することがあり 筆者は必ず行うことにしている 排便後 症状が軽快すれば髄膜炎の可能性はない 鼻汁 咳を伴っている場合には急性副鼻腔炎の増悪で起きている可能性もあり 鼻腔の観察や血液検査を行う 4. 咳発熱と鼻汁を伴っているときは 多くはウイルス性疾患である 中耳炎 副鼻腔炎を合併することもあるが この場合も自然治癒することが多いので抗菌薬治療を急ぐべきではない [7] 高熱や重症の症状 所見がなければ去痰薬や鎮痛剤を処方し 鼻汁を吸引して 2 3 日の経過観察を行い 症状の軽快がないときは抗菌薬治療を考慮する [8,9] 39 以上の高熱 あるいは頻呼吸や顔色不良 不活発などの重症の印象があるとき 発熱が 4 日以上続く場合は肺炎の合併を考慮し 血液検査を行う 筆者は年齢 家族歴なども考慮し 白血球数 CRP 値が正常域であればウイルス性として 1~3 日間の経過観察を行う 軽度の異常であればマイコプラズマなどの非定型菌を考えマクロライド系の抗菌薬を処方する 白血球が 15,000 以上 CRP 値が 5mg/dl 以上であれば細菌性肺炎を考慮し AMPC60~90mg/kg を処方する ( 表 2) 発熱を伴わない咳は 多くはアレルギー性素因 ( 咳喘息など ) や心因性などが多いが 百日咳も考慮する 既にワクチンをしている児が多いので 典型的

な症状を現すのは稀である 筆者は 2 週間以上の咳症状があり 夜間の増悪 嘔吐を伴う 連発する レプリーゼ様呼吸などがあれば百日咳と診断し クラリスロマイシンを処方する 明らかな家族歴 接触歴があれば 2 週間を待たないで抗菌薬を処方する 5. 咽頭痛急性咽頭炎 扁桃炎は多くはウイルス感染によるものであり 抗菌薬の処方は必要ない [10] 抗菌薬を必要とするのはほぼ溶連菌感染症のみであり 迅速抗原検査 あるいは培養検査で確認できた場合にのみペニシリン系抗菌薬を処方する 筆者は散薬を好むものにはバイシリン G 錠剤を希望するものにはパセトシン錠 を処方している 強い咽頭痛や呼吸, 嚥下障害を訴える患者は扁桃周囲膿瘍 咽後膿瘍などの可能性があり 口蓋弓の対称性や頸部リンパ節腫脹の有無 首の可動制限の有無などを慎重に確認する 乳幼児は自ら痛み訴えることは少ないため 頭や体を動かさない 表情が乏しい 笑顔が出ないなどの病的所見に注意する 少しでも疑われる患者には必ず血算 CRP 検査を行い 可能性が高ければ入院精査を依頼する 6. 腹痛嘔吐 下痢などの消化器症状を伴う場合 多くはウイルス性胃腸炎によるものであるが 稀に細菌性腸炎によるものもある 一般に発熱や腹痛の程度がひどい 血便や粘血便を認める 白血球の増多を認める場合には カンピロバクター 病原性大腸菌 サルモネラなどの細菌性の可能性が高い 必ず便培養を行い しかる後に抗菌薬を処方する 発熱と腹痛を訴える場合は尿路感染症もあり得る 必ず検尿を行う 7. 発疹小児科でみる発疹の患者の多くは麻疹 風疹などウイルス性感染症によるものだが 細菌が関わるものとしては膿痂疹 猩紅熱 ( 溶連菌感染症 ), ブドウ球菌熱傷様皮膚症候群 (Staphylococcal Scalded Skin Syndrome SSSS) がある 猩紅熱は微細なびまん性発疹と著明な咽頭, 扁桃の発赤 腫脹を認めれば臨床的に溶連菌感染症と診断してよい 肛門周囲の糜爛 発赤 腫脹を伴う皮膚

炎は溶連菌によることがあり 迅速抗原検査で確認される 膿痂疹は水疱性膿痂疹と厚い痂皮を形成する痂皮性膿痂疹に分類される 水疱性は表皮剥脱毒素を産生する黄色ブドウ球菌で発現する 痂皮性は化膿性レンサ球菌が原因になり A 群のみならず B C G 群も証明される しばしば黄色ブドウ球菌もレンサ球菌と同時に あるいは単独で培養されることもある 筆者は膿痂疹に対してはユナシン細粒 0.15~0.3g/kg 分 3 5 日分を処方しよい効果を得ている SSSS は外鼻孔や口周囲のびらん 水疱 痂皮と全身の猩紅熱様紅斑 健常に見える皮膚が容易に剥離する ( ニコルスキー現象 ) などが認められる 年長児は全身に強い痛みを訴えることが多い 新生児や乳児は入院加療が必要である 年長児はダラシンカプセル が有効である 8. リンパ節腫脹発熱にともなうリンパ節腫脹は細菌性以外に様々なウイルス感染症 川崎病 伝染性単核症 亜急性壊死性リンパ節炎などがあり 血液検査やエコー検査を行って慎重に鑑別する 検査所見から見つけ出す 1. 白血球白血球 (WBC) は細菌感染症では一般的に増多をきたすが 起炎菌や病態によっては増加しないこともあり 逆に減少することもある ウイルス感染症では正常域か減少を示すが アデノウイルス感染症では CRP とともに増加を示し 細菌感染症の所見を示す 抗菌薬の使用を考慮する場合は アデノウイルス抗原迅速検査を実施すべきである ( 表 2) WBC は重症細菌感染症の指標として信頼できるという論文もあれば [11] CRP やプロカルシトニンより信頼できないという考え方もある [12] Baraff らは PCV-7 や Hib ワクチン出現以前は 39 以上で WBC;15,000 以上は菌血症の可能性が高いため 血液培養をした後 経験的抗菌薬使用を推奨してきたが 出現後は菌血症の頻度が減少したためこの基準を一律に適用するのは実際的でないと主張し むしろ尿検査の重要性を指摘している [13] WBC は細菌感染症の重要な指標であることは変わりないが それだけで抗菌

薬の適応を決定するのではなく 臨床症状や所見 迅速抗原検査や CRP などを 充分に考慮しながら判断する必要がある ( 表 2) 2.CRP CRP も細菌感染症の指標として重要である Andreola B らは小児救急医療の現場では重症細菌感染症を診断するうえにおいて WBC や好中球数より CRP とプロカルシトニン (PCT) の方が感度 特異度とも高いと評価した [14] 近年 血算と CRP 定量がヘマトクリット管 1 本で同時に検査できる自動血球計数機器 ( 注 1) が利用できるようになり 小児科外来でより病態に即した発熱患者の診療が可能となってきた 筆者の場合 高熱や発熱が4 日以上続いている 保護者の不安が強い患者にはできるだけ血液検査を行い 白血球と CRP の数値を勘案して大凡表 2に示すような方針で診療している 注 1.Microsemi LC667CRP, 堀場製作所 3. プロカルシトニンプロカルシトニンは重症細菌感染症において CRP より早い時期に反応して上昇するため より早期に確認できる指標として臨床の現場で用いられてきている [14,15] 筆者は 2008 年 5 月より 2009 年 3 月の期間 小児科外来において抗菌薬投与の適応を決定するうえで有用かどうかを検討した 対象患者は高熱を主訴に受診し 白血球増多が認められた患者 21 人である 全例に血算 CRP 血液培養を行い また必要に応じてアデノウイルス迅速検査 尿検査も行った 検査結果やその後経過 抗菌薬の効果などを参考にして起炎菌の判定を行った ( 表 3) プロカルシトニンの測定はイムノクロマト法を用い 0.5ng/ml 以上を陽性と判定した ( 注 2) 注 2. ブラームス PCT-Q 和光純薬工業株式会社細菌感染症の鑑別におけるプロカルシトニンの感度 特異度を計算するとそれぞれ 67% 83% であった 一方 CRP については 1.0mg/dl を陽性として感度 特異度を計算すると 80% 50% であった すなわち感度は CRP より低いという結果であった また結果を出すために血漿分離という煩雑な操作が必要なこと イムノクロマト法の反応線の読み取りが難しいことなどから 本方法は小児科外来における有用性は低いと判断した

4. 迅速抗原検査今日 小児科外来の診療において迅速抗原検査 ( 表 4) は欠くことのできないものとなっている 流行時期と症状 所見を勘案し 本検査を行えば多くの疾患で病因診断が可能であり より適切な抗菌薬処方が可能となる [16] 5. 尿検査 3ヶ月未満の乳児 3ヶ月以上の小児で原因が特定できない 39 以上の高熱 あるいは4 日以上の原因不明の発熱が続く場合は必ず尿検査を行う 尿はできるだけ自院で検査をする 尿の一般検査は自動分析装置の利用が便利である ( 注 3) 膿尿や細菌尿の判断には尿沈渣法によるのではなく コバスライド 10G( 注 4) で行う 100 倍で鏡検し1つの大区画に1 個以上の白血球を認めるときは膿尿 (+) と判定し 400 倍で1つの小区画に1 個以上の細菌を認めるときは 10 5 /ml 以上の細菌尿と判定できる [17] 注 3. 尿自動分析装置 クリ二テックステータスプラス シーメンス社注 4. シーメンスヘルスケア ダイアグノスティクス 東京 6. 培養検査発熱があり白血球が 15,000/mm 3 を超えている場合は原則として血液培養を行う 皮膚の消毒はアルコール綿の清拭でよく 小児科の外来では実際上 1 回の採血に限られる 抗菌薬の静脈投与を予定している場合は 留置針からの採血でよい 培地は BCTEC BacT/Alert などが利用できる [18] 一般に血液量が少ないほど また採血してから培地を検査会社の自動分析装置に装填するまでの時間が長いほど培養の陽性率は低くなる 小児では培地にいれる血液は最低でも4ml は必要である 尿路感染症では おむつのとれない乳幼児の場合はカテーテル採尿で培養のための検体を採取する 自律排尿が可能な場合は中間尿を用いる 急性中耳炎 副鼻腔炎に対する抗菌治療を行い場合は 上咽頭培養を行うことが望ましい 細菌性腸炎が疑われる場合には 必ず便培養を行う 引用文献 1. 庵原俊昭他 :7 価肺炎球菌結合型ワクチン (PCV7) 導入が侵襲性 細菌感染症に及ぼす効果 :2012. IASR 2013;34:62-63

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