拡 張 現 実 感 を 用 いた 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 システムの 開 発 と 評 価 広 兼 道 幸 1 松 岡 隼 平 2 辻 原 涼 3 戸 松 純 一 3 徳 井 亮 輔 3 1 正 会 員 関 西 大 学 教 授 総 合 情 報 学 研 究 科 ( 569-1905 大 阪 府 高 槻 市 霊 仙 寺 町 2-1-1) E-mail:hirokane@res.kutc.kansai-u.ac.jp 2 非 会 員 関 西 大 学 大 学 院 総 合 情 報 学 研 究 科 ( 569-1905 大 阪 府 高 槻 市 霊 仙 寺 町 2-1-1) E-mail:blackjack7743@gmail.com 3 非 会 員 関 西 大 学 大 学 院 総 合 情 報 学 研 究 科 ( 569-1905 大 阪 府 高 槻 市 霊 仙 寺 町 2-1-1) 近 年 の 気 象 状 況 の 変 化 に 伴 い, 集 中 豪 雨 による 災 害 の 発 生 件 数 が 増 加 していることが 指 摘 されている. 集 中 豪 雨 などの 災 害 時 においては, 住 民 自 らが 危 険 を 予 知 し 早 めに 避 難 等 の 行 動 を 起 こすことが, 身 の 安 全 の 確 保 につながると 考 えられているが, 危 機 予 知 能 力 を 高 めるための 教 育 が 十 分 になされていないのが 現 状 である.そこで 本 研 究 では, 集 中 豪 雨 に 対 する 危 機 予 知 能 力 を 高 めることを 目 的 として, 拡 張 現 実 感 という 情 報 処 理 技 術 を 用 いた 集 中 豪 雨 を 疑 似 体 験 できるシミュレータを 作 成 し, 過 去 の 災 害 による 防 災 教 育 との 比 較 を 行 うことで 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレータの 有 用 性 を 検 証 した. Key Words : localized servere rain, safety education, simulator, augmented reality 1. はじめに 近 年 台 風 や 集 中 豪 雨 の 発 生 件 数 が 増 加 していることが 指 摘 されている. 集 中 豪 雨 は 台 風 とは 異 なり 予 測 が 困 難 であり, 土 石 流 や 地 すべりなどの 土 砂 災 害 や 洪 水 などの 水 害 を 発 生 させ, 被 害 がより 拡 大 する 傾 向 にある. 降 雨 による 水 害 の 典 型 的 な 被 害 として, 外 水 氾 濫 と 内 水 氾 濫 がある. 外 水 氾 濫 とは, 川 の 水 が 堤 防 から 溢 れる,ある いはそれによって 川 の 堤 防 が 破 堤 した 場 合 等 に 起 こる 洪 水 のことである. 内 水 氾 濫 とは, 市 街 地 に 降 った 雨 が 雨 水 処 理 能 力 を 超 え, 川 が 溢 れかえってしまい 水 を 排 水 で きなくなり 都 市 内 部 で 浸 水 を 引 き 起 こすことである. 集 中 豪 雨 は 他 の 大 雨 災 害 と 比 べて, 急 激 な 豪 雨 により 市 街 地 における 排 水 能 力 を 大 きく 超 えてしまうことが 多 く, 早 いスピードで 水 位 が 上 昇 して 氾 濫 を 起 こす 事 例 が 多 い. 都 市 化 して, 地 表 面 がアスファルトやコンクリートなど で 覆 われることで 排 水 能 力 が 低 下 し 1), 都 市 部 で 急 激 に 内 水 氾 濫 が 発 生 する 都 市 型 水 害 という 特 徴 も 多 く 見 られてきた.これらをシミュレーションするシステムも 多 く 開 発 されている 2) が, 境 界 条 件 やパラメータの 設 定 などが 複 雑 で, 使 用 するにはパラメータの 調 整 などの 知 識 が 必 要 となる. 防 災 対 策 として, 平 成 12 年 の 東 海 豪 雨 を 契 機 に 各 自 治 体 において 雨 水 貯 留 施 設 の 整 備 等 浸 水 対 策 が 講 じられ てきてはいるものの,ハード 設 備 のみでの 対 策 には 限 界 があり, 町 に 水 があふれるという 前 提 の 下 でソフト 面 も 含 めた 総 合 的 な 対 策 が 急 務 となっている 3). 災 害 発 生 時 に 人 的 被 害 を 減 少 させるためには,とりわけ 避 難 のタイ ミングが 重 要 となる. 現 在, 避 難 行 動 の 研 究 として,コ ミュニケーションによる 情 報 共 有 などに 着 目 した 研 究 が 盛 んに 行 われているいる 4).しかし,これらの 研 究 では, 集 中 豪 雨 のように 急 速 に 拡 大 する 内 水 氾 濫 に 対 して, 危 険 を 回 避 しながら 安 全 な 避 難 経 路 を 選 択 するためには, 課 題 が 残 されている. 一 方, 行 政 機 関 においては, 洪 水 による 外 水 氾 濫 を 想 定 し, 河 道 掘 削, 護 岸 整 備,ダム 建 設 などの 洪 水 対 策 を 講 じている. 同 時 に, 避 難 勧 告 や 連 絡 方 法 などの 危 機 管 理 体 制 の 確 立, 防 災 訓 練 の 実 施,ハ ザードマップの 作 成 などといった 様 々なソフト 対 策 を 実 施 している.しかし, 多 くのハザードマップは 想 定 雨 量 に 対 する 浸 水 領 域 が 記 載 されているものがほとんどであ り,これらの 情 報 が 防 災 対 策 に 有 効 であるのかは 検 証 さ れていない.また 有 効 な 避 難 経 路 の 選 択 の 研 究 5) なども されているが, 地 域 ごとにどのタイミングで 避 難 を 開 始 すればよいかなどの 検 証 はなされていない. 集 中 豪 雨 な どの 災 害 時 においては, 住 民 自 らが 危 険 を 予 知 し 早 めに 避 難 行 動 を 起 こすことが 身 の 安 全 を 確 保 することにつな がるものと 考 えられるが, 危 険 予 知 能 力 を 高 めるための 教 育 はほとんどされていないのが 現 状 であるいる 6). 台 風 や 集 中 豪 雨 などの 災 害 を 過 去 に 経 験 した 人 に 比 べ, 経 験 していない 人 は 危 機 意 識 が 不 足 していると 考 えられる. このことは, 経 験 のなさに 加 えて 台 風 や 集 中 豪 雨 をテレ ビやインターネットなどの 他 地 域 で 発 生 した 災 害 の 状 況 I_141
を 見 ても 現 実 味 がなく, 雨 や 洪 水 の 状 況 をイメージしに くいことが 原 因 であると 考 えられる. このような 経 験 のなさを 補 うために, 大 雨 の 体 験 が 可 能 な 施 設 が 滋 賀 県 のアクア 琵 琶 にあるが, 高 価 な 機 材 や 広 い 場 所 が 必 要 である 7). 一 方,3D 技 術 の 進 歩 実 用 化 とともに, 現 実 環 境 にコンピュータを 用 いて 情 報 の 付 加 提 示 が 可 能 な 拡 張 現 実 感 (AR:Augmented-Reality)に 関 する 研 究 が 急 速 に 進 んでいる. 比 較 的 手 軽 に 現 実 感 を 味 わうことができる 技 術 として,AR が 様 々な 分 野 で 注 目 を 集 めている.AR とは 現 実 の 環 境 から 視 覚 に 与 えら れる 情 報 に,コンピュータが 作 り 出 した 情 報 を 重 ね 合 わ せ, 補 足 的 な 情 報 を 付 加 する 情 報 処 理 技 術 である.そこ で 本 研 究 では, 集 中 豪 雨 に 対 する 危 険 予 知 能 力 を 高 める ことを 目 的 として, 集 中 豪 雨 を 疑 似 体 験 できるシミュレ ータを 作 成 し, 過 去 の 災 害 による 防 災 教 育 との 比 較 を 行 うことで 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレータの 有 用 性 を 検 証 した. 2. システム 概 要 (1) 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレータ 本 研 究 では, 拡 張 現 実 感 という 情 報 処 理 技 術 を 使 い, ヘッドマウントディスプレイを 使 用 した 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレータを 開 発 した. 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレ ータは,2004 年 7 月 13 日 に 新 潟 福 島 での 大 水 害 で, 特 に 雨 量 が 多 かった 新 潟 県 栃 尾 市 の 降 雨 状 況 をモデル 化 したものである.ヘッドマウントディスプレイにはイヤ ホンも 装 備 されており, 本 装 置 を 着 用 することで, 災 害 発 生 時 の 豪 雨 を 映 像 と 音 によって 疑 似 体 験 することがで きる. (2) 3D-CG アニメーションの 作 成 降 雨 の 3D-CG アニメーションを 実 現 するために, 今 回 は OepnGLを 使 用 した. 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレー タで 再 現 した 雨 量 と 雨 音 は, 滋 賀 県 にあるアクア 琵 琶 の 雨 体 験 室 のデータを 参 考 に 作 成 した. 雨 体 験 室 は 体 験 室 上 部 に 設 置 されたスプリンクラーから 水 を 放 出 すること で, 通 常 の 降 雨 状 況 から 世 界 的 に 最 も 雨 量 が 多 かったと される 日 の 降 雨 状 況 まで, 解 説 を 聴 きながらさまざまな 降 雨 体 験 ができる 施 設 である. 体 験 できるのは 5mm/h, 35mm/h,187mm/h,600mm/h の 降 雨 であり,それぞれの 降 雨 の 映 像 情 報 と 音 情 報 を 記 録 した. 降 雨 の 3D-CG ア ニメーションでは, 記 録 した 映 像 情 報 とアニメーション を 比 較 し,アニメーション 内 の 降 雨 の 状 況 を 調 整 しなが ら 5mm/h,35mm/h の 降 雨 の 様 子 を 再 現 した. 図 -1 は OpenGL で 作 成 した 降 雨 の 様 子 である. 雨 音 はアクア 琵 琶 で 記 録 した 音 に 対 して 音 量 増 幅 と 編 集 を 行 い,5mm/h と 35mm/h のアニメーションと 共 に 再 生 されるように 準 備 した.また, 作 成 したアニメーションをもとに 50mm/h と 60mm/h の 降 雨 も 再 現 した. 図 -2 は 2004 年 7 月 13 日 に 新 潟 で 大 水 害 が 起 きた 際, 特 に 雨 量 が 多 かっ た 新 潟 県 栃 尾 市 の 6 時 から 18 時 までの 雨 量 の 時 間 雨 量 データである. 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレータでは, 5mm/h,35mm/h,50mm/h,60mm/h の 降 雨 のアニメーシ ョンとこの 時 間 雨 量 データを 比 較 することで, 当 時 の 栃 尾 市 の 降 雨 状 況 を 再 現 した. (3) ARToolKit とは ARToolKit は AR アプリケーションを 実 装 するために 開 発 された C/C++ 言 語 用 のプログラミングライブラリ であり,1999 年 に 奈 良 先 端 科 学 技 術 大 学 院 大 学 の 加 藤 氏 が 拡 張 現 実 感 の 研 究 のために 開 発 したものである 8). このライブラリを 利 用 することで AR アプリケーシ ョンを 比 較 的 容 易 かつリアルタイムに 実 装 することが 可 能 である.ライブラリでは,マーカーと 呼 ばれる 正 方 形 の 目 印 をカメラで 読 み 取 ることで 3D のオブジェクトを 簡 単 に 表 示 するアプリケーションを 作 ることができる. 3. 実 証 実 験 の 方 法 2011 年 11 月 6 日 ( 日 )13:00~15:00, 高 槻 市 防 災 フェ スティバル 実 行 委 員 会 主 催 で 高 槻 市 消 防 フェスティバル 図 -1 openglによる 降 雨 の 様 子 図 -2 新 潟 県 栃 尾 市 の 毎 時 降 水 量 I_142
(http://www.fdtakatsuki.jp/119/takatsuki/soshiki/honbu/img/fesposter.pdf#search=' 高 槻 市 消 防 フェスタ')が, 高 槻 市 土 室 小 学 校 の 敷 地 内 で 開 催 された.このイベントにおいて, 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレータの 体 験 コーナーを 設 置 し,イベ ントに 参 加 した 市 民 を 対 象 に 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレ ータの 有 用 性 の 評 価 を 実 施 した. 実 験 の 様 子 を 図 -3 に 示 す. 今 回 の 実 証 実 験 では,OpenGL,ARToolKit を 導 入 済 み の PC と,イヤホン 付 きのヘッドマウントディスプレイ を 2 台 ずつ 用 意 して 2 組 に 別 れて 疑 似 体 験 を 行 った.マ ーカーは 視 野 を 確 保 するために 6 つ 用 意 した. 本 実 証 実 験 での 集 中 豪 雨 の 疑 似 降 雨 体 験 の 流 れを 図 -4 に 示 す. (1) 新 潟 で 発 生 した 水 害 の の 提 示 被 験 者 には 2004 年 7 月 13 日 に 新 潟 県 で 発 生 した 水 害 のデータを 提 示 した. 提 示 したデータは,(a) 水 害 によ る 被 害 状 況 を 示 した 表 ( 表 -1),(b) 水 害 発 生 前 日 7/12 (18 時 )から 7/13(24 時 )までの 総 雨 量 分 布 図 ( 図 - 5),(c) 水 害 で 氾 濫 した 刈 谷 田 川 上 流 ダムの 1 時 間 あた りの 放 出 量 を 時 系 列 で 表 したグラフ( 図 -6),(d) 1 時 間 あたりの 雨 量 を 時 系 列 で 表 したグラフ( 図 -7),(e) 水 害 による 被 害 状 況 を 表 す 画 像 ( 図 -8),の 5 種 類 のデー タを 準 備 した. なお, 今 回 使 用 したこれらの 情 報 は 平 成 16 年 7 月 新 潟 福 島 豪 雨 (http://ncmroorg/news/nr_006.h tm), 災 害 時 気 象 速 報 (http://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/ saigaiji/200407gouu.pdf)に 掲 載 された 情 報 を 用 いている. a) 新 潟 福 島 で 発 生 した 水 害 の 被 害 状 況 新 潟 福 島 で 発 生 した 水 害 の 被 害 状 況 を 表 -1 に 示 す. この 表 は 刈 谷 田 川, 決 壊 時 の 被 害 状 況 と 特 に 被 害 が 多 か った 中 ノ 島 町 の 浸 水 状 況 を 示 している. 死 者 や 負 傷 者 な どの 人 的 被 害 も 発 生 しており, 中 ノ 島 町 の 多 くの 世 帯 に 浸 水 被 害 が 出 ていることがわかる. b) 総 降 水 量 分 布 図 水 害 発 生 前 日 の 7/12(18 時 )から 7/13(24 時 )までに 新 潟 周 辺 に 降 った 雨 量 を 図 -5 に 示 す. 同 じ 新 潟 県 内 で も 総 雨 量 が 大 きく 違 うことが 見 て 取 れる. c) 刈 谷 田 川 上 流 ダムの 時 間 別 放 出 量 決 壊 した 刈 谷 田 川 上 流 ダムの 一 時 間 当 たりの 放 出 量 を 時 系 列 で 表 したグラフを 図 -6 に 示 す.7 時 付 近 までは 放 出 量 は 安 定 しているが,それ 以 降 16 時 に 近 づくにつれ, 急 激 に 放 出 量 が 上 昇 している. d) 降 雨 の 時 系 列 グラフ 水 害 発 生 前 日 の 7/12(19 時 )から 7/13(24 時 )までの 1 時 間 あたりの 雨 量 を 時 系 列 でまとめたものを 図 -7 に 示 す.7/13(2 時 )まで 雨 量 は 安 定 しているが,7/13(3 時 ) 以 降 から 7/13(9 時 )にかけて 著 しく 雨 量 が 増 加 し ている 様 子 が 見 て 取 れる. e) 水 害 による 被 害 を 表 すような 画 像 水 害 の 被 害 状 況 を 映 した 図 -8 に 示 すような 写 真 を 複 数 枚 準 備 した. 図 -8 の 左 側 の 画 像 は 川 が 氾 濫 し 住 宅 街 に 水 が 入 り 込 み 浸 水 している 様 子 である. 右 側 の 画 像 は 浸 水 した 町 から 避 難 している 様 子 である. (2) から 水 害 をイメージ 5 つのデータを 見 てもらうにあたって,10 秒 以 上, 提 示 された 各 データから 新 潟 で 発 生 した 水 害 の 状 況 を 毎 回 想 像 してもらった.これは 提 示 した 5 つのデータと 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレータの 6 つのうちどれが 水 害 を 想 像 しやすかったかをアンケートで 尋 ねるためである. (1) 新 潟 で 発 生 した 水 害 の の 提 示 (2) から 水 害 をイメージ (3) 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレータの 説 明 (4) 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 (5) アンケート 図 -4 疑 似 降 雨 体 験 の 流 れ 図 -3 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレータを 行 っている 様 子 表 -1 被 害 状 況 死 者 16 人 全 壊 70 棟 負 傷 者 4 人 半 壊 5,354 棟 出 典 一 部 損 壊 94 棟 新 潟 地 方 気 象 台 床 上 浸 水 2,149 棟 総 務 省 消 防 庁 床 下 浸 水 6,208 棟 I_143
(3) 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレータの 説 明 疑 似 降 雨 体 験 をしてもらうために 必 要 な 説 明, 今 回 作 成 した 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレータがどのようなもの かを 説 明 する.まず ARToolKit の 説 明 として,6 つのマ ーカーのうち 最 低 でも 1 つは 視 野 にマーカーが 入 ってい る 必 要 があること, 床 にマーカーからの 最 適 な 距 離 が 示 してあり,その 付 近 で 視 聴 してもらう 必 要 があることを 被 験 者 に 伝 える. 作 成 した 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレー タは 新 潟 で 水 害 が 発 生 した 日 の 降 雨 状 況 を, 時 間 を 短 縮 してモデル 化 したものであることを 被 験 者 に 伝 える. (4) 疑 似 降 雨 体 験 実 際 に 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレータで 疑 似 降 雨 体 験 をしてもらう.ヘッドマウントディスプレイに 表 示 され ている 映 像 は 別 のディスプレイにも 表 示 され, 被 験 者 が どのような 映 像 を 見 ているかを 確 認 することができる. マーカーはアルファベット A,B,C,D,F,G の 6 つ のマーカーがあり, 扇 状 に 少 し 距 離 をおいて 設 置 するこ とで, 被 験 者 が 周 囲 を 見 やすくするよう 工 夫 している. (5) アンケート アンケートを 実 施 するにあたり, 不 明 な 箇 所 がある 場 合 はその 都 度 質 問 してもらい 補 足 説 明 を 実 施 した. 具 体 的 なアンケートの 質 問 項 目 を 図 -9 に 示 す. 提 示 データ と 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレータの 比 較,あるいは 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレータの 映 像 や 音 がリアルに 見 えた かどうかを 尋 ねるような 質 問 を 実 施 した.さらに, 自 由 記 述 欄 を 設 け 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレータに 対 するコ メントを 自 由 に 記 述 してもらった. 4. 実 証 実 験 の 結 果 約 60 名 に 実 際 に 体 験 していただき,その 中 の 32 名 の 市 民 からアンケートを 回 収 することができた. 回 収 した アンケートの 集 計 結 果 を 以 下 で 述 べる. (1) アンケートの 結 果 今 回 作 成 したアンケートの 内 容 を 図 -9 に 示 す. Q1. CG の 雨 は 見 やすかったですか? Q2. CG の 雨 はリアルに 感 じましたか? Q3. 雨 の 音 はリアルに 感 じましたか? Q4. 洪 水 が 発 生 する 雨 量 をイメージ できましたか? の 4 つの 質 問 は, 本 実 証 実 験 での 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレータでの 体 験 がどれくらいリアル に 感 じたかを 尋 ねる 内 容 になっており,いずれも 5 段 階 (とても 思 う,そう 思 う,どちらとも 言 えない,そう 思 わない,とてもそう 思 わない)で 回 答 してもらった. Q5. 今 回 の 体 験 が 今 後 役 に 立 つと 思 いますか? とい う 質 問 については, 危 険 予 知 能 力 を 高 めるために 有 用 で あるか 否 かを 尋 ねる 内 容 になっている. 図 -5 総 降 水 量 分 布 図 図 -7 降 雨 の 時 系 列 グラフ 図 -6 刈 谷 田 川 上 流 ダムの 時 間 別 放 出 量 図 -8 被 害 状 況 の 画 像 ( 一 部 ) I_144
本 実 証 実 験 と 同 じ 会 場 で 降 雨 体 験 車 での 降 雨 体 験 も 可 能 だったので, Q6. 降 雨 体 験 車 のブースには 行 きまし たか? で 実 際 に 降 雨 を 体 験 したか 否 かの 確 認 を 行 った. これは 降 雨 体 験 車 での 体 験 が 疑 似 降 雨 体 験 にどの 程 度 影 響 しているかを 確 認 するためである.Q6 で 降 雨 体 験 車 に 行 ったと 答 えた 方 には, Q7. 降 雨 体 験 車 とどっちが わかりやすかったですか? で 降 雨 体 験 車 と 拡 張 現 実 感 での 疑 似 降 雨 体 験 のみを 比 較 してもらい, Q8. 災 害 を イメージできた 順 に 順 位 をつけてください で, 最 初 に 提 示 された 5 つの に, 拡 張 現 実 感 による 疑 似 降 雨 体 験, 降 雨 体 験 車 の 2 つの 項 目 も 加 味 して, 合 計 7 つの 項 目 で 災 害 をイメージしやすい 順 に 番 号 を 付 けてもらった. Q6 で 降 雨 体 験 車 に 行 っていないと 答 えた 方 には,Q7 の 質 問 を 飛 ばし,Q8 で 最 初 に 提 示 された 5 つの に, 拡 張 現 実 感 による 疑 似 降 雨 体 験 を 加 え, 合 計 6 つの 項 目 で 災 害 をイメージしやすい 順 に 番 号 を 付 けてもらった. これらの 回 答 には 年 齢 や 性 別 によってばらつきがある ことを 考 え, Q9. あなたの 年 齢 を 教 えてください と Q10. あなたの 性 別 を 教 えてください を 選 択 しても らうことにした. 最 後 に Q11. 何 か 意 見 や 感 想 などが あればお 願 いします で, 意 見 と 感 想 を 自 由 に 書 ける 自 由 記 述 欄 を 用 意 した. アンケートは 32 名 に 答 えてもらった.19 歳 以 下 は 主 に 小 学 生 である.Q1 から Q5 の 集 計 結 果 を 表 -2 に,Q6 で はい を 選 んだ 人 の Q8 の 集 計 結 果 を 表 -3 に,Q6 で いいえ を 選 んだ 人 の Q8 の 集 計 結 果 を 表 -4 に 示 す. (2) 考 察 表 -2 の Q1 から Q4 までの 回 答 結 果 より, 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレータは 災 害 時 の 降 雨 をある 程 度 リアルに 再 現 できていることがわかった.また,Q5 の 回 答 結 果 から 危 険 予 知 能 力 を 高 めるために 有 用 であることがわか った.また, 水 がたまっていく 様 子 があればもっとイ メージがしやすくなるとおもった という 自 由 記 述 の 意 Q1.CG の 雨 は 見 やすかったですか? Q2.CG の 雨 はリアルに 感 じましたか? Q3. 雨 の 音 はリアルに 感 じましたか? Q4. 洪 水 が 発 生 する 雨 量 のイメージができましたか? Q5. 今 回 の 体 験 が 今 後 役 立 つと 思 いますか? Q6. 降 雨 体 験 車 のブースには 行 きましたか? Q7.(Q6.で はい にした 人 だけ) 降 雨 体 験 車 とどっちがわかりやすかったですか? Q8. 災 害 をイメージできた 順 に 順 位 をつけて 下 さい Q9.あなたの 年 齢 を 教 えて 下 さい Q10.あなたの 性 別 を 教 えて 下 さい Q11. 何 か 意 見 や 感 想 などあればお 願 いします. 図 -9 アンケートの 質 問 内 容 見 もあり,これらを 実 現 することで,さらなる 有 用 性 が 期 待 できることがわかった. 降 雨 体 験 車 を 体 験 した 人 に 対 して 尋 ねた 災 害 をイメ ージしやすい 順 序 の 回 答 結 果 ( 表 -3)では,6 名 が 降 雨 体 験 車 が 最 も 災 害 をイメージしやすいと 回 答 していた. 降 雨 体 験 車 に 続 いて 3 名 が 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレー タがイメージしやすかったと 回 答 していて, 危 険 予 知 能 力 を 高 めるために 有 用 であることがわかった.また, 次 に 多 かったのは 5( 図 -8)で, 実 際 の 被 害 状 況 が 再 現 できればさらに 効 果 的 であることがわかった. 降 雨 体 験 車 を 体 験 しなかった 人 に 対 して 尋 ねた 災 害 をイメージしやすい 順 序 の 回 答 結 果 ( 表 -4)では,9 名 が 5( 図 -8)で 災 害 を 最 もイメージしやすかった と 回 答 している.これは 実 際 の 被 害 状 況 の 画 像 を 示 した もので, 水 がたまって 浸 水 していく 様 子 を 再 現 すること でさらに 効 果 があることがわかった. 続 いて 2 位 で 6 名 の 支 持 を 得 たのが 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレータであった.1 位 が 少 なかった 原 因 としては, 表 -2 Q1~Q5の 集 計 結 果 Q1 Q2 Q3 Q4 Q5 とてもそう 思 う 13 8 6 8 10 そう 思 う 16 19 13 13 14 どちらとも 言 えない 5 4 12 6 8 そう 思 わない 0 3 1 5 2 とてもそう 思 わない 0 0 5 5 0 表 -3 Q6 で はい を 選 んだ 人 の Q8 の 集 計 結 果 1 2 3 4 5 拡 張 現 実 感 表 -4 Q6 で いいえ を 選 んだ 人 の Q8 の 集 計 結 果 表 -5 19 歳 以 下 と 20 歳 以 上 の Q4,Q5 の 集 計 結 果 降 雨 体 験 車 1 位 2 0 1 0 2 3 6 2 位 0 3 0 1 4 2 4 3 位 2 2 8 0 1 1 1 1 2 3 4 5 拡 張 現 実 感 1 位 0 1 4 1 9 2 2 位 0 2 2 5 1 6 3 位 1 5 4 3 1 2 年 齢 19 歳 以 下 20 歳 以 上 質 問 番 号 Q4 Q5 Q4 Q5 とてもそう 思 う 6 6 2 4 そう 思 う 3 4 10 10 どちらとも 言 えない 1 3 5 5 そう 思 わない 3 2 2 0 とてもそう 思 わない 2 0 0 0 I_145
当 日 は 小 雨 で 室 内 での 実 験 となり, 降 雨 を 想 像 するには あまり 適 さなかったことや, 風 などの 要 素 を 考 慮 に 入 れ ていなかったため, 実 際 の 災 害 が 想 像 しにくかったため であると 考 えられる.また, 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレ ータは 降 雨 量 の 変 化 が 離 散 的 であったため, 実 際 の 雨 と 違 い 違 和 感 を 覚 える 部 分 もあった. 表 -3 と 表 -4 の 結 果 の 違 いについて, 消 防 フェスティ バルに 参 加 した 人 は 親 子 ずれがほとんどで, 降 雨 体 験 車 を 体 験 した 人 は 子 供 が 多 く, 表 -3 は 主 に 小 学 生, 表 -4 は 小 学 生 の 親 の 回 答 結 果 と 考 えることができる. 表 -4 では, 5 が 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレータに 比 べて 災 害 をイメージしやすいという 結 果 であったが, 表 -3 では 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレータが 5 よりわずか ではあるがイメージしやすいという 結 果 が 得 られた. 表 -5 は 19 歳 以 下 と 20 歳 以 上 の Q4,Q5 の 結 果 をまとめた もので, 表 -5 の 結 果 よりすべての 質 問 において 19 歳 以 下 のほうが とてもそう 思 う という 人 数 が 多 くなって いることがわかる.このことより, 今 回 提 案 した 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレータは, 小 学 生 の 危 険 予 知 能 力 を 高 めることに,より 効 果 的 であると 考 えることができる. 5. おわりに 本 研 究 では, 拡 張 現 実 感 という 技 術 を 使 い,ヘッドマ ウントディスプレイを 使 用 した 集 中 豪 雨 を 疑 似 体 験 でき るシミュレータの 開 発 し, 防 災 教 育 教 材 として 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレータの 有 用 性 を 検 証 した.アンケート の 集 計 結 果 から, 以 下 の 知 見 が 得 られた. 新 潟 で 発 生 した 水 害 の 5 種 類 の と 拡 張 現 実 による 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレータを 比 較 したところ, 水 害 の 被 害 状 況 を 映 した 画 像 以 外 の に 比 べて, 本 実 証 実 験 での 擬 似 降 雨 体 験 の 方 が 災 害 を 想 像 しやすかっ たという 結 果 が 得 られた. アニメーションの 評 価 は 良 かったが, 降 雨 体 験 車 の 降 雨 の 再 現 度 には 至 らなかった. 集 中 豪 雨 疑 似 体 験 シミュレータは 小 学 生 の 危 険 予 知 能 力 を 高 めることに 向 いているものと 考 えられる. 今 後 の 課 題 として, 時 間 経 過 による 水 位 の 変 化 や 水 の 流 れを 再 現 することによって, 水 害 をよりリアルに 想 像 しやすくなるアニメーションを 準 備 する 必 要 がある.ま た,アンケートの 自 由 記 述 より, 瞬 時 に 雨 量 が 変 化 する ことに 違 和 感 を 感 じた 被 験 者 がいた.そのためアニメー ションの 切 り 替 えは, 雨 量 が 徐 々に 変 化 しているように 感 じさせるアニメーションを 準 備 する 必 要 がある.この ようなシミュレータを 用 いて 実 際 に 起 こりうる 災 害 を 想 像 することによって, 個 々の 危 機 意 識 や 危 険 予 知 能 力 が 高 まり 被 害 抑 制 に 繋 がると 考 える. 参 考 文 献 1) 長 滋 彦 : 実 務 者 のための 水 防 ハンドブック, 技 術 堂 出 版, 2008.10 2) 土 屋 光 圀, 砂 口 真 澄 : 都 市 の 雨 水 排 水 区 を 対 象 とした 内 水 氾 濫 解 析, 前 橋 工 科 大 学 研 究 記 要 10,pp.9-14,2007.3 3) 辻 本 哲 郎 : 豪 雨 災 害 洪 水 災 害 の 減 災 にむけて ソフト 対 策 とハード 対 策 の 一 体 化, 技 術 堂 出 版,2006.5 4) 金 井 昌 信 : 局 地 的 災 害 に 対 するコミュニティ 単 位 の 情 報 伝 達 体 制 の 検 討 ツールの 開 発 とその 活 用, 災 害 情 報 学 会 誌,No.8,pp.120-130,2010 5) 鄭 軍 植, 吉 村 英 祐 : 避 難 経 路 の 選 択 法 とネットワーク 信 頼 度 変 化 の 関 係 について, 学 術 講 演 梗 概 集,E-1,pp.827-828,2008.7 6) 岩 田 貢 : 地 震 津 波 に 備 えた 学 校 防 災 教 育 : 和 歌 山 県 広 川 町 の 事 例, 龍 谷 大 学 龍 谷 紀 要,2012 7) 水 のめぐみ 館 :アクア 琵 琶 :http://www.aquabiwa.jp/, 2013.7.1 現 在 8) 加 藤 博 一 :AR のシステム 構 築 ツール ARTOOLKIT の 開 発, 電 子 情 報 通 信 学 会,No.101,pp.79-86,2002 (2013.7.12 受 付 ) DEVELOPMENT AND EVALUATION OF THE LOCALIZED SEVERE RAIN SIMULATOR BASED ON AUGMENTED REALITY TECHNIQUE Michiyuki HIROKANE, Shumpei MATSUOKA, Ryo TSUJIHARA, Jun-ichi TOMATSU and Ryosuke TOKUI With change of a weather situation in recent years, it is pointed out that the generating number of the disaster by Localized Severe Rainis increasing. In disasters like localized Severe Rain, it is important that local residents be able to predict the risk and seek shelter in order to protect themselves; but currently no education to improve the ability to predict such disasters has been implemented. Moreover, the effectiveness of this simulator was evaluated by comparing with the disaster prevention education based on the past disaster documents such as the damage number, the damage photo, the radar rainfall information and so on. I_146