病 気 の 有 益 性 発 見 Website こころの 辞 典 のテキストマイニングによる 検 討 Benefit finding of illness A textmining analysis of the website Kokoro no Jiten 戸 谷 知 弘 Kazuhiro TOTANI キーワード 有 益 性 発 見 病 いの 語 り いやし テキストマイニング Keywords benefit finding, illness narrative, curing, textmining 問 題 千 葉 宮 本 船 越 (2010)によれば 慢 性 疾 患 やトラウマティックな 経 験 による 逆 境 に 直 面 した 人 が その 経 験 を 経 て ベネフィット( 得 られたものやポジティブな 変 化 )があっ たと 感 じることを ベネフィット ファインディング( 有 益 性 の 発 見 )という(Tennen & Affleck, 2002) 有 益 性 の 発 見 (ベネフィット ファインディング)は 逆 境 への 適 応 や 疾 患 への 効 果 的 な 対 処 を 促 進 するものであり(Janoff-Bulman & Frantz,1997; Tennen & Affleck, 2002; Sharpe & Curran, 2006), 自 己 効 力 感 や 自 尊 心 楽 観 性 などの 心 理 的 特 性 と の 関 連 も 指 摘 されていることから(Abraido-Lanza et al., 2002) 看 護 学 や 心 理 学 などのヘ ルスケア 領 域 において 重 要 性 が 認 識 されつつある お 互 いに 重 複 し 合 う 類 似 概 念 には posttraumatic growth( 外 傷 後 成 長 : PTG)( Tedeschi et al,1998) adversarial growth(linley & Joseph, 2004)などがある これらの 概 念 を 区 別 した 研 究 がある 一 方 で(Mols et al 2009) 多 くの 研 究 者 は これらを 有 益 性 の 発 見 (ベ ネフィット ファインディング)とともに 集 合 的 に 扱 っている(Helgeson et al., 2006; Joseph & Linley, 2006a; Lechner et al., 2009) ウェブサイト こころの 辞 典 について こころの 辞 典 とは アステラス 製 薬 が 2009 年 8 月 から 9 月 までの 2 ヶ 月 間 実 施 した 病 気 が 教 えてくれたこと エッセイコンテストに 寄 せられた 作 品 集 のウェブサイトであ る 日 本 全 国 から 応 募 された 11,970 通 の 中 から 一 次 審 査 を 通 過 した 全 739 作 品 を こころ の 辞 典 として 掲 載 している 病 気 が 教 えてくれたこと エッセイコンテストとは 自 身 家 族 そして 身 近 な 人 の 病 気 によって 気 付 いたこと 感 じたことをエッセイとして 一 般 募 集 したエッセイコンテストで 審 査 にあたったのは 重 松 清 ( 作 家 ) 倍 賞 千 恵 子 ( 女 1
優 ) 野 村 忠 宏 ( 柔 道 家 ) Chara(アーティスト)の 4 名 である (ウェブサイト こころ の 辞 典 http://www.astellas.com/jp/corporate/brand/essay/より) 目 的 本 研 究 の 目 的 は ウェブサイト こころの 辞 典 の 体 験 記 の 一 部 を 対 象 にして 病 気 の 体 験 をふまえた 有 益 性 発 見 がどのように 語 られているかを 明 らかにすることである 方 法 1. 分 析 対 象 ウェブサイト こころの 辞 典 http://www.astellas.com/jp/corporate/brand/essay/に 掲 載 されている 体 験 文 のうち うつ 病 42 件 乳 がん 42 件 がん 47 件 の 合 計 133 件 の 病 の 語 りデータを 取 得 し テキスト 化 した このとき 同 一 人 物 の 記 述 については 1 つの 事 例 とし てカウントした 2. 分 析 手 順 分 析 手 順 としては 乳 がん がん うつの 133 人 分 のエッセイをテキストファイル 化 し Microsoft Office Excel にて 読 み 込 ませ テキストマイニング 用 にデータを 作 成 した テキ ストマイニングによる 分 析 は(1) 基 本 情 報 (2) 単 語 頻 度 解 析 (3) 係 受 け 頻 度 解 析 (4) 特 徴 語 分 析 (5)ことばネットワーク (6) 対 応 バブル 分 析 の 順 に 行 った 3. 倫 理 的 配 慮 本 研 究 の 対 象 は 人 そのものではなく 公 開 されているサイトの 記 事 であり 著 作 権 に 配 慮 した 結 果 (1) 基 本 情 報 基 本 情 報 とは 表 1 に 示 されたようなテキストの 基 本 的 な 情 報 である こころの 辞 典 に 掲 載 されているうつ 病 がん 乳 がんの 合 計 133 件 のエッセイから 得 られたテキストを 表 1に 示 した こころの 辞 典 を 構 成 するうつ 病 がん 乳 がんのテキスト 情 報 について 総 字 列 数 (133)の 平 均 文 字 数 は 586.4 字 であり 総 分 数 は 5561 文 で 平 均 文 長 は 14 字 であ った タイプ トークン 比 は 0.206 であり 共 通 して 用 いる 単 語 が 多 くはなかったと 言 え る 2
表 1 テキスト 基 本 情 報 (2) 単 語 頻 度 解 析 と 係 り 受 け 頻 度 解 析 単 語 頻 度 解 析 とは テキストに 出 現 する 単 語 の 出 現 回 数 をカウントすることによる 分 析 である 表 2は 単 語 頻 度 解 析 によって 得 られた こころの 辞 典 全 体 の 単 語 頻 度 のうち 上 位 20 単 語 を 示 した こころの 辞 典 において 最 も 高 い 頻 度 で 出 現 した 単 語 は 400 回 で ある 自 分 であり 次 点 に 397 回 である 病 気 があらわされ さらに 母 249 回 人 が 246 回 と 続 くことが 分 かった 係 り 受 け 頻 度 解 析 とは テキストに 出 現 する 係 受 け 表 現 の 出 現 回 数 をカウントすること による 分 析 である 表 3 を 見 ると 他 者 との 関 係 病 気 との 関 係 そして 自 分 のことを 語 っ ている 他 者 との 関 係 では 人 -いる 母 - 病 気 という 例 がある 病 気 については 病 気 - 教 える 病 気 - 向 き 合 う などがある 自 分 については 自 分 -いる 頭 -よぎる などがある 表 2 単 語 頻 度 解 析 ( 出 現 回 数 ) 表 3 係 り 受 け 頻 度 表 回 数 3
(3) 特 徴 語 分 析 特 徴 語 分 析 とは データに 付 随 する 属 性 すなわち 特 徴 的 に 出 現 する 単 語 及 び 係 受 け 表 現 を 抽 出 した 表 4 は うつ 病 の 体 験 談 (42 名 )がんの 体 験 談 (47 名 ) 乳 がんの 体 験 談 (42 名 )の 特 徴 語 を 表 している 結 果 を 見 るとうつ 病 体 験 談 は うつ 病 という 言 葉 が 最 も 多 くつかわれ また 休 職 など うつ 病 者 の 直 面 する 問 題 がうきぼりとなった がん 体 験 談 は がん 乳 がん 体 験 談 は 乳 がん という 言 葉 が 当 然 ながら 同 じく 頻 度 が 高 い こ れらは 当 事 者 が 病 について 語 っていることの 反 映 であると 思 われる 同 様 にうつ 病 の 体 験 談 では 症 状 死 ぬ+してほしい 精 神 科 等 の 言 葉 が 目 立 ち がんの 体 験 談 では 病 室 告 知 死 が 乳 がんの 体 験 談 では 手 術 しこり 治 療 等 の 病 気 治 療 に 使 われる 言 葉 が 特 徴 的 である 表 4 病 気 3 群 による 特 徴 語 分 析 ( 指 標 値 は 補 完 類 似 度 ) うつ 病 (42 人 ) がん(47 人 ) 乳 がん(42 人 ) 表 5 は 男 女 別 に 特 徴 語 を 補 完 類 似 度 で 抽 出 した 結 果 を 見 ると 男 性 は 話 が 最 も 特 徴 的 に 使 われ 女 性 は 人 が 最 も 特 徴 的 に 使 われている また 男 性 の 特 徴 として 下 妻 幸 い 等 の 言 葉 を 特 徴 てきに 使 っている 女 性 は 感 謝 乳 がん 幸 せ 等 の 言 葉 を 特 徴 的 に 使 っている また 男 女 で 幸 という 感 じの 使 い 方 が 異 なり 男 性 は 幸 い 女 性 は 幸 せ と 表 現 の 差 が 興 味 深 い 4
表 5 男 女 別 に 見 た 特 徴 語 ( 人 数 ) 男 性 (20 人 ) 女 性 (113 人 ) 図 1 ことばネットワーク( 名 詞 と 形 容 詞 形 容 動 詞 動 詞 ) 5
(5)ことばネットワーク( 話 題 分 析 ) ことばネットワークとは 単 語 間 及 び 単 語 と 属 性 の 関 連 をネットワーク 図 であらわすこ とである 図 1 に 示 された ことばネットワークの 結 果 をみると 大 きく 分 けて 病 気 自 分 人 の3つの 話 題 が 中 心 に 語 られていることが 明 らかになった すなわち 病 いに おける 有 益 性 に(1) 病 気 の 意 味 (2) 自 分 自 身 の 気 づき (3) 人 間 関 係 の 重 要 性 という 3 つの 要 素 が 大 きく 関 わっていると 示 唆 された 図 2 対 応 バブル 分 析 ( 病 名 と 性 別 の 5 群 の 関 係 ) (6) 対 応 バブル 分 析 ( 病 名 と 性 別 の 5 群 の 関 係 ) 図 2は 病 気 の 種 類 男 女 別 の 結 果 である 病 気 (3) 性 (2)であるが 乳 がん(42 名 )は 女 性 のみであるので 5 群 となった 結 果 を 見 ると 第 1 軸 は 右 側 ががんで 左 側 がうつ 病 そ の 中 間 に 乳 がんが 位 置 している また 第 1 軸 で 見 ると 乳 がん(42 人 )はがん( 一 般 )よりも うつ 病 体 験 者 の 語 りに 近 い 事 が 分 かった また うつ 病 の 男 性 とがんの 男 性 の 特 徴 は 大 き く 離 れている 第 2 軸 は 解 析 が 難 しかった 6
考 察 (1) こころの 辞 典 の 文 章 の 全 体 的 な 特 徴 こころの 辞 典 の 体 験 集 は 病 気 自 分 人 の3つの 話 題 が 大 きな 中 心 と して 構 成 されていることが 明 らかになった こころの 辞 典 に 掲 載 されている 体 験 集 は 病 気 が 教 えてくれたこと を 主 題 とし 分 析 対 象 となっている 自 身 や 家 族 身 近 な 人 々が 病 気 によって 気 づいたこと 感 じたことを 語 っている そのため 主 に 発 病 や 闘 病 から ネ ガティブな 要 因 をどのようにポジティブに 克 服 したか そして 現 在 に 至 っているか とい うことが 語 られているからである 病 気 については テキストの 原 文 参 照 により 引 用 す ると 例 えば 病 気 になって 得 た 事 それは 本 当 に 愛 されるとはどんな 事 かを 学 ばせて もらった とあるように 病 気 にならなければ 気 がつかなかった 事 を 語 っている 自 分 ついて 例 をテキストの 原 文 参 照 により 引 用 すると 自 分 の 見 方 で 不 幸 にも 幸 福 にも 変 わ るのだということ という 様 に 自 分 が 病 気 と 向 き 合 い 受 け 入 れた 状 態 を 語 っている 人 つまり 人 間 関 係 の 重 要 性 については 例 をテキストの 原 文 参 照 により 引 用 すると 支 えて くれる 人 が 沢 山 いた そして 一 緒 に 戦 ってくれる 人 も 沢 山 いた と 周 囲 の 人 々との 関 係 に 支 えられたということを 語 っている すなわち 病 いにおける 有 益 性 の 発 見 に(1) 病 気 の 意 味 (2) 自 分 自 身 の 気 づき (3) 人 間 関 係 の 重 要 性 という 3 つの 要 素 が 大 きく 関 わっている と 示 唆 された (2) 病 気 の 有 益 性 の 発 見 から 見 た こころの 辞 典 慢 性 疾 患 やトラウマティックな 経 験 による 逆 境 に 直 面 した 人 が その 経 験 を 経 て ベネ フィット( 得 られたものやポジティブな 変 化 )があったと 感 じることを 有 益 性 の 発 見 (ベ ネフィット ファインディング)という(Tennen & Affleck, 2002) こころの 辞 典 は 日 本 全 国 から 応 募 された 著 作 品 から 選 ばれており テキストとしての 質 も 高 く 病 気 の 有 益 性 を 研 究 する 上 で 優 れた 研 究 材 料 である 本 研 究 で こころの 辞 典 から 病 気 の 有 益 性 を みると 掲 載 されている 体 験 集 は その 良 い 具 体 例 と 言 える 今 回 はそのうちの 133 件 の みを 分 析 の 対 象 にした 今 後 はより 広 い 範 囲 で 分 析 検 討 を 行 うことで 病 気 の 有 益 性 の 発 見 について さらに 深 く 研 究 を 進 めることができるだろう (3) 本 研 究 の 限 界 と 今 後 の 課 題 本 研 究 では 病 気 の 有 益 性 について ウェブサイト こころの 辞 典 に 掲 載 されている 体 験 集 を 基 に テキストマイニングを 用 いて 検 討 する 手 法 を 用 いた テキストを 数 値 化 可 視 化 することで 病 気 人 自 分 について 向 き 合 うことが 病 気 に 有 益 な 影 響 をも たらすことがわかった しかし テキストマイニングの 限 界 である 言 外 のことは 追 求 で きず 質 的 な 内 容 的 な 分 析 が 今 後 の 課 題 である さらにネガティブな 要 因 をどの 様 にして 受 け 入 れてポジティブに 転 換 していくのか そのきっかけや 環 境 等 をより 明 確 にしていき 研 究 成 果 の 精 度 を 高 めたい 7
謝 辞 この 度 の 学 生 研 究 奨 励 賞 の 原 稿 作 成 にあたり Text Mining Studio を 貸 与 してくださっ た 数 理 システムに 感 謝 致 します また ご 指 導 くださった 和 光 大 学 の 伊 藤 武 彦 先 生 に 心 か ら 感 謝 致 します 文 献 千 葉 理 恵 宮 本 有 紀 船 越 明 子 2010 精 神 疾 患 をもつ 人 におけるベネフィット ファイ ンディングの 特 性 日 本 看 護 科 学 会 誌, 30(3), 32-40. 佐 藤 三 穂 2007 膠 原 病 を 持 つ 人 におけるベネフィトファインディングの 特 性 とその 獲 得 に 関 連 する 要 因 看 護 総 合 科 学 研 究 会 誌, 10(2), 15-25. 竹 内 弥 央 藤 井 勉 2001 有 益 性 発 見 尺 度 の 作 成 と 信 頼 性 妥 当 性 の 検 討 日 本 教 育 心 理 学 会 第 53 回 総 会 発 表 論 文 集, 560. 8