Ⅴ ADHD( 注 意 欠 陥 / 多 動 性 障 害 )とは 1 ADHDとは 興 味 のあることには 集 中 できるのに 嫌 いなことや 苦 手 なことに 対 しては 取 り 組 も うとしない 周 囲 の 刺 激 にすぐ 反 応 し 注 意 がそれやすい あるいは おしゃべりが なかなか 止 まらないという 子 どもたちがいます このような 様 子 は 時 として 多 くの 子 どもに 見 られることがありますが 一 時 的 な 状 態 ではなく しばしばみられ 状 態 が 続 く 子 どもたちの 中 にはADHDといわれる 子 どもがいるかもしれません ADHDとは Attention Deficit/Hyperactivity Disorder の 略 で 注 意 欠 陥 / 多 動 性 障 害 と 訳 されています アメリカ 精 神 医 学 会 の DSM-Ⅳ にある 診 断 名 であり 同 診 断 では 不 注 意 多 動 性 衝 動 性 の 三 つの 症 状 が 中 核 となっています 7 歳 以 前 から その 特 徴 がみられ 社 会 生 活 や 学 校 生 活 を 営 む 上 での 困 難 がみられます その 原 因 については 十 分 に 解 明 さ れていませんが 中 枢 神 経 系 に 何 らか の 機 能 不 全 があるとされています AD/HD Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder 注 意 欠 陥 / 多 動 性 障 害 主 な 症 状 不 注 意 多 動 性 2 ADHDの 症 状 1994 年 アメリカ 精 神 医 学 会 刊 行 衝 動 性 不 注 意 1 注 意 を 十 分 に 払 えないため 簡 単 な 間 違 いが 多 い 同 じ 間 違 いを 繰 り 返 すことが みられる 2 集 中 力 が 持 続 せず 課 題 や 遊 びへの 取 り 組 みが 続 かない 興 味 のないことには 集 中 できない 3 話 が 聞 けず 空 想 にふけることがある 授 業 中 手 遊 びが 多 い 4 指 示 の 内 容 が 理 解 できずに 行 動 できない 指 示 を 忘 れてしまう 5 順 序 よく 取 り 組 むことが 難 しい 6 苦 手 な 課 題 を 避 けようとする 7 教 科 書 やノート 等 の 忘 れ 物 が 多 い 持 ち 物 をよくなくす 8 他 からの 刺 激 に 惑 わされ 気 が 散 る 注 意 や 集 中 がうまくできず 目 的 のある 行 動 がとれないため 先 にあげたような 症 状 がみられることがあります ADHDの 子 どもは 不 適 応 な 症 状 として 三 つの 症 状 が 同 時 に 出 現 することが 多 く 多 動 性 衝 動 性 が 注 目 されやすいのですが 動 きが 少 ない 不 注 意 優 位 の タイプもいるので 注 意 や 気 づきが 大 切 です 10
多 動 性 1 みんなが 着 席 しているところで 席 を 立 ち 歩 き 回 る 2 着 席 していても 身 体 がたえず もじもじ そわそわ 動 いている 3 高 いところに 登 ったり 飛 び 降 りたりする 4 絶 えずしゃべっており 相 手 や 場 所 を 考 えないでしゃべる 本 来 子 どもは 落 ち 着 きがないものです 幼 児 期 には 多 くの 子 どもたちが 多 動 の 様 子 を 示 しますが 多 動 に 関 しては 単 に 落 ち 着 きがないとかいうのでなく 発 達 段 階 にふさわしくないといったことや 周 りの 状 況 に 合 わせた 動 きができないとい ったことが 判 断 基 準 のポイントとなります 適 切 な 支 援 ができることによって その 多 くが 年 齢 があがるにつれ 多 動 が 目 立 たなくなるといわれています 衝 動 性 1 質 問 が 終 わるまえに 出 し 抜 けに 答 えてしまう 2 順 番 が 守 れない 3 人 の 会 話 や 遊 びに 割 り 込 む 等 人 の 邪 魔 をする 集 団 生 活 を 送 るにあたっては ルールが 守 れない 我 慢 ができない という 不 適 切 な 行 動 が 目 立 ってきます 学 校 や 家 庭 での 環 境 や 対 応 の 仕 方 によっては 改 善 する ことも 悪 化 することもあると 考 えられます 3 LDとADHDの 関 係 ADHDは 行 動 発 達 の 面 で LDは 認 知 発 達 面 での 問 題 であり 両 者 は 同 じものではあ りません しかし ADHDの 子 どもの 多 く に 学 習 上 の 問 題 があり 知 的 水 準 に 比 べ 学 力 が 身 に 付 かないということがみられます 集 中 力 が 持 続 しないため 落 ち 着 いて 課 題 に 取 り 組 めないことや 話 が 聞 けないということ 等 も 関 係 しています そのため ADHDの 半 数 以 上 がLDを 併 せ 持 つといわれています LD ADHD ADHD LD( 学 習 障 害 ) ( 注 意 欠 陥 / 多 動 性 障 害 ) 4 問 題 となる 二 次 障 害 ADHDの 子 どもたちは 幼 児 期 から 周 りが 困 るような 行 動 をとるため 強 く 叱 ら れたり 注 意 を 受 けたりすることが 度 々あります してはいけない 意 味 や 行 動 を 自 覚 せぬまま 叱 責 されると 反 発 心 が 強 くなります また 叱 られることやうまくできな いことが 続 くと 自 信 を 失 い 自 己 評 価 を 下 げるようになります そして 心 理 面 だけで なく 適 切 な 対 応 がされない 場 合 非 行 や 不 登 校 いじめ 家 庭 内 暴 力 ひきこもり 等 二 次 障 害 を 引 き 起 こすことも 時 にはみられます そのため ADHDの 子 どもたち の 支 援 に 関 しては 自 尊 感 情 を 育 て 自 信 をつけることを 主 眼 におきながら 二 次 障 害 を 防 ぐことが 重 要 となってきます 11
ADHDの 子 どもたちへの 支 援 は どのように 行 えばよいでしょうか ADHDの 子 どもたちの 不 適 応 な 症 状 は 本 人 のわがままなためでも 家 庭 でのしつけ のためでもありません そして 周 りの 環 境 に 順 応 できず 困 っているのは 子 どもたち 自 身 なのかも 知 れません その 視 点 をもって 子 どもたちへの 支 援 を 考 えていきましょう 1 本 人 の 特 性 を 理 解 する まず 特 性 を 理 解 することから 始 めましょう 苦 手 なことや どのような 場 面 で どのような 行 動 をとるかといった 実 態 を 把 握 するとともに 本 人 の 得 意 なことや 興 味 関 心 を 持 っていることを 見 いだし そのことを 伸 ばし 自 信 をつけるようにしましょう 嫌 いなことや 苦 手 なことには 取 り 組 もうとしない 傾 向 もあるので スモールステップ でできることを 増 やしていきましょう 2 ほめることで 自 信 をつける 叱 ったり 力 ずくで 押 さえたりすること は 逆 効 果 です 少 しでもできることを 見 つけ 学 級 での 支 援 のポイント しっかりとほめてあげましょう ほめられる ことや 認 められることは 子 どもたちの 自 信 はやく 席 につくことが 出 来 たね につながり 意 欲 を 持 って 取 り 組 もうという すぐに 教 科 書 と 本 を 出 したね 字 を 丁 寧 に 書 いているね 姿 勢 を 育 てます それは 即 効 性 があるわけ ほめ 言 葉 をたくさん でなく 長 期 の 持 続 的 な 指 導 が 必 要 です 思 い 浮 かべて 見 ましょう ただし 危 ないことや 乱 暴 なことに 関 し ては 毅 然 とした 態 度 で 注 意 し わかりやす いことばで なぜいけないのかを 説 明 することが 大 切 です 行 動 をコントロールできるほめ 方 などを 工 夫 する 3 学 習 の 環 境 を 整 え 指 示 の 出 し 方 を 工 夫 ADHDの 子 どもたちは 集 団 の 中 では 不 適 応 な 行 動 が 多 くても 個 別 や 少 人 数 では 学 級 での 支 援 のポイント 比 較 的 落 ち 着 いている 様 子 がみられます 情 掲 示 物, 学 習 用 具 の 配 置 や 量, 報 を 処 理 することが 苦 手 な 子 どもたちにとっ 色 を 工 夫 する 身 の 周 りや 物 音 や 声 ては 不 要 な 刺 激 については 配 慮 することが 指 示 や 説 明 の 工 夫 大 切 です 座 席 の 位 置 の 配 慮 集 中 時 間 の 考 慮 また 注 意 を 喚 起 するためには 教 師 に 近 い 等 席 にし 刺 激 の 強 い 窓 側 の 席 は 避 ける 等 座 席 の 位 置 にも 工 夫 しましょう 指 示 については 注 意 を 引 きつけ 注 目 させてから はっきりとしたことばで 話 すこ とが 効 果 的 です 指 示 や 手 順 については 短 くわかりやすくするとともに 視 覚 的 な 補 助 手 段 を 取 り 入 れることが 大 切 です 集 中 時 間 についても すこしずつ 伸 ばしていくようにしましょう 子 どもと 一 緒 に 目 標 を 決 めたり 学 習 の 最 後 は 一 緒 に 終 わることを 目 標 にしたりし それができたら ほめるようにしましょう 12
4 ソーシャルスキルを 身 につける ADHDの 子 どもたちは 多 くの 子 ど もたちが 幼 児 期 から 人 とのつきあいで 自 学 級 での 支 援 のポイント 然 と 身 につける 社 会 生 活 を 送 るための 技 自 分 をコントロールする 技 術 をみつける 能 (ソーシャルスキル)が 身 に 付 きにく カードなどを 見 る いことがみられます そのため 話 の 聞 お 守 りを 身 につける 深 呼 吸 をする き 方 挨 拶 の 仕 方 仲 間 への 入 り 方 等 ソ 落 ち 着 く 場 所 を 決 めておく ーシャルスキルの 向 上 を 図 ることが 大 切 等 です その 際 相 手 の 意 図 や 気 持 ちを 理 解 することや 感 情 や 行 動 をコントロー ルする 力 を 付 けることが 重 要 となってき ます 予 想 される 場 面 や 具 体 的 な 場 面 を 捉 え よりよい 行 動 を 示 し(モデリング) 実 際 に 演 じてみせる(ロールプレイ)こと 等 を 通 して 適 切 な 行 動 が 身 につくように することが 大 切 です 5 保 護 者 との 連 携 ADHDの 子 どもたちの 保 護 者 は 診 断 を 受 けるまで 自 分 の 子 育 てが 悪 いのでは ないかと 悩 んだり しつけが 悪 いと 周 りから 批 判 されたり 辛 い 思 いをしています 学 校 との 対 応 がうまくいかず 子 どもの 捉 え 方 が 行 き 違 うことについて 悩 んでいる 保 護 者 もいます 保 護 者 が 混 乱 したり 不 安 定 であったりすると 子 どもたちにも 大 きな 影 響 を 与 えます まずは 保 護 者 が 安 定 すること そして 学 校 との 信 頼 関 係 を 作 って いくことが 大 切 です そのためには 子 どもの 良 いところを 見 つけ ほめて 育 ててい く 視 点 を 共 有 していきましょう そして 学 校 で 取 り 組 んでいる 支 援 について 理 解 を 求 めながら 家 庭 での 対 応 について 話 し 合 いを 重 ねることが 大 切 です 6 周 りの 理 解 ADHDの 子 どもたちは 周 りの 関 わり 方 によって 大 きく 変 わってきます 学 校 に おいては 全 教 職 員 が 共 通 理 解 をし 子 どもを 支 援 していかなければなりません 研 修 を 行 い 正 しい 理 解 をすること 複 数 の 眼 でみて 対 応 の 方 法 を 考 えて 行 くことが 大 切 です 担 任 一 人 で 抱 え 込 まず 校 内 で 連 携 し 協 力 体 制 を 作 り 対 応 していきましょう また 周 りの 子 どもたちへの 理 解 については ADHDの 子 どもの 行 動 ばかりに 注 目 するのではなく みんなそれぞれ 違 いがあることを 受 け 止 め 一 人 一 人 を 互 いに 認 め 合 う 学 級 経 営 を 基 本 とし その 子 の 苦 手 とすることや 困 った 行 動 が 決 してわざと やっているのではないことを 伝 え がんばっていることや 評 価 する 点 を 理 解 できる ようにすることが 大 切 です 13
7 具 体 的 な 支 援 話 を 聞 いてないように 見 える みんなの 中 で 指 示 したこ とが 聞 けない 空 想 にふける 手 遊 びが 多 い 反 応 が 少 ない 静 かにし 注 目 させてから 話 を 始 める 指 示 は 具 体 的 なことばで 短 く 簡 潔 に まとめる 全 員 の 中 で 話 すときは 子 どもの 肩 に 手 をかけながら 注 意 を 向 けさせてから 話 す 全 員 に 話 した 後 個 別 の 確 認 をする 必 要 に 応 じて 写 真 や 絵 カード 等 の 視 覚 的 手 がかりを 用 いる 作 業 や 課 題 を 仕 上 げられない 課 題 への 取 りかかりに 時 間 がかかる 飽 きっぽい 課 題 が 終 わらないうちに 他 のことを 始 め 完 成 させ ることができない 外 からの 刺 激 を 取 り 除 き 座 席 の 位 置 に 配 慮 する 等 集 中 できる 環 境 をつくる 子 どもが できる と 見 通 しが 立 てられ るような 課 題 の 量 にし 内 容 を 考 慮 する 集 中 力 が 切 れ 続 かないときは 自 由 にで きる 時 間 も 取 り 入 れ 切 り 換 えができる ようにする 多 動 性 が 強 く 離 席 する じっとしていられず 席 を たって 歩 き 回 る 机 の 下 にもぐりこむ 教 室 から 出 ていく 集 中 できる 時 間 や 離 席 は2 回 までは 可 というような 約 束 事 を 決 める 今 からしようとする 行 動 を ことばで 言 う 習 慣 を 付 ける 教 材 配 布 係 等 動 いてもよい 状 況 を 作 る 授 業 中 に 活 躍 の 場 を 与 える 生 活 にめりはりがつくように 時 間 割 りの 組 み 方 を 工 夫 する 休 み 時 間 や 学 習 の 前 に 活 動 エネルギー を 発 散 させ 集 中 しやすくする 人 の 邪 魔 をする 人 の 会 話 や 遊 びに 割 り 込 み 流 れを 中 断 させる 人 のしていることを 邪 魔 をする 気 に 入 らないことがある と 乱 暴 する 行 動 の 理 由 を 尋 ね ~したかったんだ ね と 共 感 的 に 気 持 ちを 受 け 止 めてか ら どうすればよいかということばや 行 動 を 教 える 攻 撃 的 な 感 情 が 生 じたときには その 場 を 離 れる 方 法 をとるなど 衝 動 をコン トロールする 方 法 を 身 につけさせる 危 険 な 行 為 については その 場 でしか り 理 由 について 説 明 する 友 だちと 遊 ぶ 楽 しさや 協 力 する 体 験 14