学 位 論 文 内 容 の 要 約 甲 第 号 論 文 提 出 者 神 谷 昇 論 文 題 目 骨 片 固 定 法 の 違 いによる 下 顎 枝 矢 状 分 割 術 の 術 後 安 定 性 について ロッキングプレート 固 定 とスクリュー 固 定 の 比 較
No. 1 Ⅰ. 緒 言 下 顎 枝 矢 状 分 割 術 (Sagittal split ramus osteotomy:ssro)は 下 顎 の 骨 格 的 位 置 異 常 に 広 く 適 用 される 顎 矯 正 手 術 の 一 つである SSRO は 多 様 な 骨 片 固 定 法 が 用 いられているが 術 後 の 安 全 管 理 や 周 術 期 の 患 者 の 苦 痛 軽 減 を 目 的 に 術 後 の 顎 間 固 定 を 不 要 としたり 軽 度 な 顎 間 ゴム 牽 引 で 術 後 の 咬 合 が 安 定 するような 強 固 な 骨 片 固 定 が 望 まれるようになっている しかし 強 固 な 骨 片 固 定 は 術 中 や 術 後 の 歯 科 矯 正 治 療 中 に 下 顎 頭 の 偏 位 や 回 転 などを 生 じる 可 能 性 があり 一 方 で 骨 片 固 定 が 弱 ければ 治 癒 不 全 や 後 戻 りなど が 問 題 とされている 術 後 の 下 顎 骨 の 位 置 や 骨 接 合 部 の 評 価 は 以 前 は 頭 部 X 線 規 格 写 真 の 様 な2 次 元 での 評 価 をされていたが 近 年 は CT により3 次 元 評 価 が 可 能 にな ってきた これまでにも 術 後 の 下 顎 頭 の 偏 位 や 回 転 に 関 する 報 告 や 骨 接 合 部 の 安 定 性 に 関 する 報 告 は 少 なくないが その 多 くはプレート 固 定 とスクリュー 固 定 の 比 較 である これらではスクリュー 固 定 の 方 が 強 固 で プレート 固 定 では 骨 片 間 の 位 置 変 化 が 起 きやすいとの 報 告 や 2つの 固 定 法 に 差 は 認 められないとした 報 告 も 存 在 し プレート 固 定 がスクリュー 固 定 と 同 等 の 固 定 力 を 有 するか 否 かについては 明 確 な 結 論 が 得 られていない 今 回 3D-CT を 下 顎 単 体 での 重 ね 合 わせと 頭 蓋 での 重 ね 合 わせ 法 の 二 つ の 重 ね 合 わせ 法 を 用 いて SSRO における 下 顎 頭 と 骨 接 合 部 の 術 後 の 骨 偏 位
No. 2 について 評 価 し モノコーティカルにスクリューを 用 いるロッキングプレ ート 固 定 (プレート 固 定 )とバイコーティカルスクリューを 用 いた 固 定 (ス クリュー 固 定 )のそれぞれについて 比 較 検 討 を 行 ったので 報 告 する Ⅱ. 対 象 および 方 法 1. 患 者 対 象 は 2004 年 4 月 から 2013 年 3 月 までに 歯 学 部 附 属 病 院 歯 科 口 腔 外 科 第 二 診 療 部 において 顎 矯 正 手 術 を 施 行 した 患 者 のうちで 術 後 7 日 目 と 術 後 1 年 目 に CT の 撮 影 が 行 われた SSRO 単 独 症 例 33 症 例 ( Class Ⅲの 後 退 症 例 :31 例 ClassⅡの 前 進 症 例 :2 例 )を 対 象 とした 2. 術 式 手 術 は Obwegeser 原 法 に 準 じて 下 顎 枝 矢 状 分 割 を 行 った 顎 間 固 定 後 に 徒 手 的 に 下 顎 頭 を 中 心 位 に 誘 導 するように 可 及 的 に 復 位 し 固 定 した 骨 片 固 定 はロッキングプレート 固 定 とスクリュー 固 定 の2 種 類 を 用 いた 骨 片 固 定 後 に 顎 間 固 定 を 解 除 し 数 回 のタッピングにて 無 理 なく 中 心 位 で 咬 合 することを 確 認 した 3. 画 像 解 析 術 後 7 日 目 (PO7D)と 術 後 1 年 目 (PO1Y)に CT で 撮 影 されたデータ を DICOM 形 式 で 保 存 し 3 次 元 構 築 ソフト(Mimics ver.16.0 Materialise 社 )を 用 いて3D-CT を 作 製 した 1) 遠 位 骨 片 を 基 準 とした 下 顎 3D 重 ね 合 わせ 法
No. 3 PO7D と PO1Y の3D-CT から 下 顎 骨 を 抽 出 し 近 位 骨 片 部 分 を 暫 間 的 に 分 離 し 排 除 した 重 ね 合 わせをする 際 の 点 として 左 右 のオトガイ 孔 とオトガイの 最 突 出 点 を 用 い 概 ねの 位 置 合 わせをした その 後 重 ね 合 わせでズレが 最 小 になるよう ソフトウェア 上 で 最 小 二 乗 法 による 計 算 (オ ートレジストレーション 処 理 )をすることで3 次 元 画 像 を 重 ね 合 わせた 2つの 画 像 が 適 合 良 く 重 なると 斑 模 様 の 状 態 が 均 一 となるため 視 覚 的 に 重 ね 合 わせができたと 判 断 した その 後 に 遠 位 骨 片 の 重 ね 合 わせが 保 持 された 状 態 でそれぞれの 近 位 骨 片 を 再 配 置 し 下 顎 3D 重 ね 合 わせモデ ルを 作 成 した( 図 1) 図 1. 下 顎 3D 重 ね 合 わせモデルの 重 ね 合 わせ 2) 頭 蓋 底 部 を 基 準 とした 頭 蓋 3D 重 ね 合 わせ 法
No. 4 頭 蓋 3D 重 ね 合 わせは 頭 蓋 底 部 の 鶏 冠 蝶 形 骨 前 床 突 起 卵 円 孔 の 点 を 用 い 概 ねの 重 ね 合 わせをし その 後 は 下 顎 3D 重 ね 合 わせ 法 に 準 じて3 次 元 画 像 を 重 ね 合 わせた 適 合 状 態 は 同 様 に 斑 模 様 の 状 態 が 均 一 となった 時 点 を 視 覚 的 に 重 ね 合 わせができたと 判 断 した( 図 2) 図 2. 頭 蓋 3D 重 ね 合 わせモデルの 重 ね 合 わせ 4. 計 測 方 法 1) 基 準 平 面 の 設 定 3 次 元 画 像 の 基 準 平 面 の 設 定 は Nasion(N) Sella(S) Basion(Ba) を 通 る 平 面 を 矢 状 平 面 とした 矢 状 平 面 と 直 交 し S N を 通 る 平 面 を 冠 状 平 面 とし 矢 状 平 面 と 冠 状 平 面 と 直 交 し Ba を 通 る 平 面 を 前 頭 平 面 とし それ ぞれを 基 準 平 面 とした( 図 3)
No. 5 図 3. 基 準 平 面 の 設 定 2) 計 測 点 左 右 下 顎 頭 最 外 側 点 (CL) 左 右 筋 突 起 最 上 方 点 (CP)およびオトガイ の 最 突 出 点 (Pog)の 計 5 点 を 計 測 点 とした 3)3 次 元 座 標 計 測 基 準 平 面 を 設 定 後 下 顎 3D 重 ね 合 わせ 法 と 頭 蓋 3D 重 ね 合 わせ 法 とも に PO7D と PO1Y の 各 計 測 点 から 各 基 準 平 面 までの 距 離 をそれぞれの 座 標 値 として 計 測 した 矢 状 平 面 に 直 交 する 軸 を X 軸 としプラスが 左 側 マ イナスが 右 側 となるように 設 定 した 計 測 点 CL CP は 左 右 の2 点 存 在 し ており 右 側 の 計 測 点 について X 座 標 は 絶 対 値 で 計 測 した 前 頭 平 面 に 直 交 する 軸 を Y 軸 としプラスが 前 方 マイナスが 後 方 冠 状 平 面 に 直 交 する 軸
No. 6 を Z 軸 としプラスが 下 方 マイナスが 上 方 になるように 設 定 した また 各 固 定 法 での PO7D と PO1Y の 変 化 量 の 算 出 には 各 座 標 の 差 を 変 化 量 とした 計 測 点 は 検 査 者 内 誤 差 および 検 査 者 間 誤 差 は 有 意 差 を 認 めず 3 次 元 座 標 の 散 布 による 95% 信 頼 楕 円 は1ボクセル 以 内 であった( 図 4) 図 4. 頭 蓋 3D 重 ね 合 わせモデルの 重 ね 合 わせ 4) 統 計 解 析 統 計 解 析 には JMP(ver.8 SAS Institute Japan)を 使 用 した 正 規 性 の 検 定 には Shapiro-Wilk の 正 規 性 の 検 定 を 使 用 し 各 計 測 点 における 術 後 の 変 化 量 やプレート 固 定 とスクリュー 固 定 の 比 較 には Student s t-test paired t-test を 用 い P<0.05 にて 有 意 差 ありとした Ⅲ. 結 果 SSRO 症 例 で 33 症 例 ( 男 性 8 例 女 性 25 例 )について 検 討 した 症 例 の
No. 7 平 均 年 齢 は 26.2±8.7 歳 で 平 均 手 術 時 間 124±21 分 平 均 出 血 量 92g であ った 全 例 術 後 1 日 目 より 顎 間 ゴム 牽 引 および 退 院 後 より 術 後 矯 正 治 療 が 行 われ 術 後 1 年 目 では 視 覚 的 にも 咬 合 模 型 上 においても 後 戻 りは 認 め られなかった 1. 下 顎 3D 重 ね 合 わせ 法 プレート 固 定 群 において CL は 内 側 後 方 に 変 化 し CP は 外 側 後 方 お よび 上 方 に 変 化 を 認 め またスクリュー 固 定 群 では CL は 後 方 CP は 後 上 方 に 変 化 を 認 めた 固 定 法 別 の PO7D と PO1Y の 変 化 量 は CL は 内 外 側 方 向 ( P=0.035)と 前 後 方 向 (P=0.012)に CP については 前 後 方 向 ( P=0.003) 上 下 方 向 (P=0.012)で 統 計 学 的 な 有 意 差 を 認 めた( 表 1) 表 1. 固 定 法 別 の 変 化 量 の 比 較
No. 8 2. 頭 蓋 3D 重 ね 合 わせ 法 プレート 固 定 群 において CL は 内 側 上 方 に 変 化 を 認 め CP は 外 側 お よび 前 上 方 に 変 化 を 認 め スクリュー 固 定 群 では CL は 上 方 CP も 上 方 の みに 変 化 を 認 めた Pog はプレート 固 定 群 において 変 化 を 認 めず スクリュ ー 固 定 群 では 前 方 へ 変 化 を 認 めた 固 定 法 別 の 変 化 量 は Pog の 上 下 方 向 (P=0.017)に CL の 内 外 側 方 向 (P=0.007)に 統 計 学 的 な 有 意 差 を 認 めた ( 表 1) Ⅳ. 考 察 1. 下 顎 3D 重 ね 合 わせ 法 下 顎 骨 の 近 位 骨 片 と 遠 位 骨 片 を 分 離 した 後 に 遠 位 骨 片 のみを 重 ね 合 わせ その 後 近 位 骨 片 を 再 配 置 した 下 顎 骨 体 で 重 ね 合 せられる 為 に 計 測 した 点 の 変 化 は 下 顎 骨 単 体 での 変 化 として 評 価 が 可 能 となった そのため 本 研 究 の 目 的 であるプレート 固 定 とスクリュー 固 定 の 比 較 として 骨 接 合 部 で の 変 化 を 評 価 できた プレート 固 定 は 術 後 1 年 目 で 下 顎 体 の 骨 接 合 部 において 近 位 骨 片 は 左 右 を 軸 とした 前 後 方 向 の 反 時 計 周 りの 回 転 が 生 じ 下 顎 角 が 開 大 する 動 き であった また CL は 内 側 に CP は 外 側 へ 偏 位 する 上 下 を 軸 とした 内 外 側 の 回 転 が 認 められた スクリュー 固 定 群 では プレート 固 定 群 と 同 様 に 前 後 方 向 の 回 転 が 生 じて CL は 後 方 に 偏 位 するものの 内 外 側 方 向 では 安 定 し ていた また 変 化 量 はスクリュー 固 定 群 がプレート 固 定 群 よりも 少 なく
No. 9 骨 の 固 定 についてスクリュー 固 定 は 安 定 していた これより スクリュー 固 定 群 がより 下 顎 骨 の 変 化 は 少 ないと 言 えた しかし その 変 化 量 の 差 は 軽 微 であり この 報 告 で 用 いているようなロ ッキングプレート 固 定 は その 構 造 上 ノンロッキングプレートより 強 固 な 固 定 が 可 能 とされ absolute-rigid な 固 定 が 可 能 なスクリュー 固 定 に 近 似 し た 骨 接 合 部 での 安 定 性 が 得 られると 考 えられた 2. 頭 蓋 3D 重 ね 合 わせ 法 頭 蓋 3D 重 ね 合 わせ 法 の 結 果 からスクリュー 固 定 群 は 下 顎 全 体 が 上 方 へ かつ 反 時 計 回 りで 回 転 したと 考 える Pog は 前 方 に CL が 上 方 へ 偏 位 しており また CL に 比 べ CP の 方 が 上 方 への 動 きが 大 きく それを 肯 定 し ていた プレート 固 定 群 においては 術 後 1 年 目 の CL は 上 方 かつ 内 側 に 偏 位 し CP は 上 方 かつ 外 側 前 方 に 偏 位 していた スクリュー 固 定 と 同 様 に 下 顎 全 体 が 上 方 へかつ 反 時 計 回 りで 回 転 したと 考 える プレート 固 定 群 は Pog の 偏 位 は 認 めなかった プレート 固 定 群 は Pog に 有 意 な 変 化 を 認 められなかったが 下 顎 頭 の 位 置 や 顎 間 固 定 顎 間 牽 引 などによって 影 響 されるため 断 定 は 困 難 であった 特 に 長 期 のゴム 牽 引 の 場 合 が 関 連 するとの 報 告 があるため 今 後 の 研 究 で は 周 術 期 から 術 後 の 咬 合 についても 検 討 することが 必 要 である Ⅴ. 結 語
No. 10 今 回 統 計 解 析 上 は 骨 接 合 部 での 安 定 性 はスクリュー 固 定 がより 有 意 に 高 かったが その 差 は 僅 かであった この 報 告 で 用 いているようなロッキ ングプレート 固 定 は スクリュー 固 定 より 骨 接 合 部 での 安 定 性 は 劣 るとい えども スクリュー 固 定 に 近 似 した 骨 接 合 部 での 安 定 性 が 得 られるものと 考 えられた