みずほインサイト アジア 2016 年 4 月 13 日 2016 年 全 人 代 と 中 国 の 政 策 展 望 景 気 対 策 への 過 度 な 依 存 を 避 け 改 革 推 進 を 重 視 みずほ 総 合 研 究 所 調 査 本 部 アジア 調 査 部 03-3591-1385 2016 年 3 月 全 人 代 が2016~2020 年 の 中 期 政 策 大 綱 である 第 13 次 五 カ 年 計 画 や2016 年 の 経 済 政 策 方 針 を 採 択 2020 年 に2010 年 対 比 でGDPと 国 民 1 人 当 たり 所 得 を 倍 増 させるという 目 標 を 堅 持 2016 年 の 成 長 率 目 標 は 前 年 比 +6.5~7.0% に 引 き 下 げ 財 政 赤 字 拡 大 により 景 気 下 支 えを 強 め るも 景 気 対 策 に 過 度 に 依 存 せず サプライサイドの 構 造 改 革 や 潜 在 需 要 の 喚 起 にも 注 力 する 方 針 痛 みを 伴 う 改 革 を 遂 行 しつつも 経 済 社 会 の 安 定 を 維 持 できるかが 今 後 の 課 題 改 革 の 進 捗 が 遅 れ 財 政 支 出 の 上 積 みに 頼 るリスク 改 革 の 副 作 用 が 金 融 や 社 会 の 不 安 定 さにつながるリスクが 残 存 1.はじめに 2016 年 3 月 5~16 日 にかけて 中 国 で 国 会 に 相 当 する 全 国 人 民 代 表 大 会 ( 以 下 全 人 代 )が 開 催 され 2016~2020 年 の 中 期 政 策 大 綱 である 第 13 次 五 カ 年 計 画 2016 年 の 施 政 方 針 を 示 す 政 府 活 動 報 告 予 算 などが 採 択 された 2016 年 初 頭 に 元 安 加 速 や 株 価 下 落 など 中 国 の 金 融 市 場 に 大 きな 変 動 が 生 じた 2 月 中 旬 以 降 落 ち 着 きが 取 り 戻 されつつあるものの( 図 表 1) 再 び 大 きな 変 動 が 起 きるのではとの 見 方 が 根 強 い 状 況 だ また1~2 月 の 主 要 経 済 指 標 も インフラ 投 資 などで 下 支 えされた 投 資 を 除 いて 弱 含 んでおり( 図 表 2) 元 高 図 表 1 為 替 レート 株 価 指 数 ( 人 民 元 / 米 ドル) (ポイント) 6.10 人 民 元 / 米 ドルレート( 左 目 盛 ) 5,500 6.20 6.30 上 海 総 合 指 数 ( 右 目 盛 ) 5,000 4,500 図 表 2 主 要 経 済 指 標 工 業 生 産 ( 左 目 盛 ) ( 前 年 比 %) ( 前 年 比 %) 20 社 会 消 費 品 小 売 総 額 ( 左 目 盛 ) 60 固 定 資 産 投 資 ( 右 目 盛 ) 輸 出 ( 右 目 盛 ) 15 45 10 30 元 安 6.40 6.50 6.60 4,000 3,500 3,000 2,500 5 15 0 0 5 15 6.70 15/01 15/03 15/05 15/07 15/09 15/11 16/01 16/03 2,000 ( 年 / 月 ) 10 30 12/01 13/01 14/01 15/01 16/01 ( 年 / 月 ) ( 注 ) 直 近 の 値 は 4 月 11 日 ( 資 料 )Bloomberg より みずほ 総 合 研 究 所 作 成 ( 注 )1. 工 業 生 産 社 会 消 費 品 小 売 総 額 固 定 資 産 投 資 の 1 2 月 は 1~2 月 累 計 の 前 年 同 期 比 2. 固 定 資 産 投 資 は 年 初 来 累 計 を 単 月 に 変 換 3. 工 業 生 産 は 実 質 値 社 会 消 費 品 小 売 総 額 固 定 資 産 投 資 は 名 目 値 輸 出 は 米 ドル 建 ての 名 目 値 ( 資 料 ) 中 国 国 家 統 計 局 中 国 海 関 総 署 CEIC Data より みずほ 総 合 研 究 所 作 成 1
先 行 き 懸 念 がくすぶっている 状 態 だ それゆえに 全 人 代 で 示 される 今 後 の 経 済 運 営 方 針 や 予 算 案 に 衆 目 が 集 まった 本 稿 では 全 人 代 で 採 択 された 文 書 や 会 期 中 の 閣 僚 などの 発 言 を 基 に 第 13 次 五 カ 年 計 画 の 概 要 と 2016 年 の 経 済 政 策 方 針 の 特 徴 について 解 説 した 上 で 今 後 顕 在 化 しうるリスクについても 言 及 する 2. 第 13 次 五 カ 年 計 画 の 注 目 点 (1)2020 年 までのGDP 1 人 当 たり 所 得 倍 増 目 標 を 堅 持 2016~2020 年 の 中 期 政 策 大 綱 である 第 13 次 五 カ 年 計 画 に 関 しては すでに2015 年 10 月 の 中 国 共 産 党 第 18 期 中 央 委 員 会 第 5 回 全 体 会 議 ( 以 下 五 中 全 会 )で 計 画 の 大 枠 を 定 めた 建 議 が 採 択 されており 1 今 回 の 全 人 代 で 正 式 に 計 画 が 採 択 された 第 13 次 五 カ 年 計 画 期 を 小 康 社 会 (ある 程 度 豊 かな 社 会 ) の 全 面 的 完 成 の 勝 敗 を 決 める 段 階 と 位 置 付 け 1 創 新 (イノベーション) 2 協 調 3 緑 色 (グリ ーン) 4 開 放 5 共 享 ( 分 かち 合 い)の5つを 政 策 の 柱 とする 方 針 が 改 めて 確 認 された それに 加 え て 第 13 次 五 カ 年 計 画 期 の 具 体 的 な 数 値 目 標 が 明 らかになった 次 頁 の 図 表 3で 示 したように 経 済 発 展 イノベーションによる 発 展 けん 引 民 生 福 祉 資 源 環 境 に 関 して 多 くの 数 値 目 標 が 設 定 されている 特 に 注 目 される 数 値 目 標 は 次 の 通 りである 経 済 発 展 に 関 しては 年 平 均 +6.5% 以 上 という 水 準 が2016~2020 年 の 成 長 率 目 標 に 据 えら れた 2020 年 までにGDPを2010 年 対 比 で 倍 増 させるという 目 標 が 第 13 次 五 カ 年 計 画 で 再 確 認 された のを 受 けたものだ ただし 単 にこの 成 長 率 を 実 現 すればよいとは 考 えられておらず 経 済 発 展 の 成 果 が 国 民 に 実 感 されなければならないという 思 想 の 下 国 民 1 人 当 たり 可 処 分 所 得 の 目 標 伸 び 率 もGD P 同 様 年 平 均 +6.5% 以 上 に 設 定 された( 民 生 福 祉 内 ) 2 また 生 産 性 の 向 上 や イノベ ーションによる 発 展 けん 引 が 強 く 意 識 された 結 果 労 働 生 産 性 ( 就 業 者 人 口 1 人 当 たりのGDP)や 経 済 成 長 に 対 する 科 学 技 術 進 歩 の 寄 与 率 が 新 たに 数 値 目 標 に 加 えられた サービス 化 や 都 市 化 の 推 進 による 経 済 発 展 も 引 き 続 き 重 視 され 関 連 の 数 値 目 標 が 掲 げられた 小 康 社 会 の 全 面 的 完 成 のためには 農 村 貧 困 人 口 の 脱 貧 困 が 必 要 不 可 欠 であり それが 数 値 目 標 として 第 13 次 五 カ 年 計 画 で 初 めて 加 えられ かつ 政 府 が 自 らの 責 任 によって 必 達 すべき 拘 束 性 目 標 に 指 定 された 居 住 環 境 健 康 面 などで 広 く 国 民 が 生 活 の 質 の 向 上 を 実 感 できなければ 小 康 社 会 の 全 面 的 完 成 は 達 成 しえないとの 考 えから 都 市 部 バラック 地 区 の 住 宅 改 築 数 大 気 の 質 地 表 水 の 質 も 新 たな 拘 束 性 目 標 に 指 定 された (2) 目 標 達 成 のために 必 要 な 3 つのこと 全 人 代 開 幕 日 に 李 克 強 首 相 が 発 表 した 政 府 活 動 報 告 では 第 13 次 五 カ 年 計 画 の 目 標 である 小 康 社 会 の 全 面 的 完 成 を 達 成 するために 1 発 展 という 最 重 要 任 務 にしっかりと 力 をいれること 2 構 造 改 革 を 強 力 に 推 進 すること 3 発 展 の 原 動 力 の 転 換 を 速 めること の3 点 が 必 要 だと 述 べられてい る 1については あらゆる 課 題 を 解 決 する 鍵 は 発 展 である という 思 想 に 基 づき 今 後 5 年 間 で 中 所 得 国 の 罠 を 克 服 すべしとしている また 2については 過 剰 な 資 本 ストックを 調 整 するととも に 新 たな 財 サービスの 供 給 を 拡 大 し 人 々の 需 要 の 充 足 や 喚 起 を 図 る サプライサイドの 構 造 改 革 を 通 じて 生 産 性 を 高 めるべきとしている 3に 関 しては 旧 原 動 力 の 改 良 進 化 を 図 るととも に 新 技 術 新 産 業 新 業 態 の 成 長 を 促 すとしている 構 造 改 革 経 済 の 原 動 力 の 転 換 を 伴 った 2
発 展 を 実 現 できるか それとも 構 造 改 革 や 経 済 の 原 動 力 の 転 換 を 果 たせず 財 政 支 出 拡 大 などによって 成 長 率 の 引 き 上 げを 図 るのか それが 今 後 の 中 国 経 済 を 左 右 する 鍵 になるだろう 図 表 3 第 13 次 五 カ 年 計 画 の 数 値 目 標 指 標 2015 年 時 点 2020 年 目 標 5 年 間 の 増 減 目 標 目 標 種 別 経 済 発 展 実 質 GDP 67.7 兆 元 92.7 兆 元 以 上 年 平 均 +6.5% 以 上 所 期 性 労 働 生 産 性 ( 就 業 者 人 口 1 人 当 たりのGDP) 8.7 万 元 / 人 12 万 元 / 人 以 上 年 平 均 +6.6% 以 上 所 期 性 都 市 化 率 常 住 人 口 ベース 56.1% 60% +3.9%pt 所 期 性 戸 籍 人 口 ベース 39.9% 45% +5.1%pt 所 期 性 GDPに 占 めるサービス 業 の 割 合 50.5% 56% +5.5%pt 所 期 性 イノベーションによる 発 展 けん 引 研 究 開 発 支 出 の 対 GDP 比 2.1% 2.5% +0.4%pt 所 期 性 1 万 人 当 たり 発 明 特 許 保 有 件 数 6.3 件 12 件 +5.7 件 所 期 性 経 済 成 長 に 対 する 科 学 技 術 進 歩 の 寄 与 率 55.3% 60% +4.7%pt 所 期 性 インターネット 普 及 率 固 定 ブロードバンド 世 帯 普 及 率 40% 70% +30%pt 所 期 性 移 動 ブロードバンドユーザー 普 及 率 57% 85% +28%pt 所 期 性 民 生 福 祉 国 民 1 人 当 たり 可 処 分 所 得 の 伸 び 生 産 年 齢 人 口 の 平 均 就 学 年 数 都 市 部 新 規 就 業 者 数 農 村 貧 困 人 口 の 脱 貧 困 基 本 養 老 保 険 加 入 率 都 市 部 バラック 地 区 の 住 宅 改 築 数 平 均 寿 命 資 源 環 境 耕 地 保 有 面 積 新 規 建 設 用 地 面 積 GDP1 万 元 当 たりの 水 消 費 量 GDP1 単 位 当 たりのエネルギー 消 費 量 1 次 エネルギーに 占 める 非 化 石 エネルギーのシェア GDP1 単 位 当 たりのCO 2 排 出 量 年 平 均 +6.5% 以 上 所 期 性 10.23 年 10.8 年 +0.57 年 拘 束 性 累 計 5,000 万 人 以 上 所 期 性 累 計 5,575 万 人 拘 束 性 82% 90% +8%pt 所 期 性 累 計 2,000 万 戸 拘 束 性 +1 歳 所 期 性 18.65 億 ムー 18.65 億 ムー 0ムー 拘 束 性 +3,256 万 ムー 以 下 拘 束 性 23% 拘 束 性 15% 拘 束 性 12% 15% +3% 拘 束 性 18% 拘 束 性 森 林 増 加 森 林 率 21.66% 23.04% +1.38%pt 拘 束 性 森 林 蓄 積 量 151 億 m 3 165 億 m 3 +10 億 m3 拘 束 性 大 気 の 質 都 市 の 空 気 の 質 が 優 良 な 日 の 割 合 76.7% 80% 以 上 拘 束 性 空 気 環 境 基 準 に 達 さなかった 場 合 の 微 小 粒 子 状 物 質 (PM2.5) 濃 度 18% 拘 束 性 地 表 水 の 質 Ⅲ 類 ( 飲 用 水 )もしくはそれ 以 上 に 達 している 割 合 66% 70% 以 上 拘 束 性 劣 Ⅴ 類 ( 飲 用 工 業 農 業 いずれにも 利 用 不 可 ) の 割 合 9.7% 5% 以 下 拘 束 性 主 要 汚 染 物 質 の 排 出 量 化 学 的 酸 素 要 求 量 10% 拘 束 性 アンモニア 性 窒 素 10% 拘 束 性 二 酸 化 硫 黄 (SO 2 ) 15% 拘 束 性 窒 素 酸 化 物 (NOx) 15% 拘 束 性 ( 注 ) 所 期 性 は 政 府 が 環 境 整 備 制 度 改 革 などを 通 じて 達 成 されるよう 努 力 する 目 標 拘 束 性 は 政 府 の 責 任 で 必 達 すべき 目 標 PM2.5 関 連 の 空 気 環 境 基 準 は 年 平 均 値 35 マイクログラム 以 下 ( 資 料 ) 中 华 人 民 共 和 国 国 民 经 济 和 社 会 发 展 第 十 三 个 五 年 规 划 纲 要 ( 中 央 政 府 门 户 网 站 2015 年 3 月 17 日 )より みずほ 総 合 研 究 所 作 成 3
3.2016 年 の 経 済 政 策 方 針 (1) 成 長 率 目 標 は +6.5~7.0% に 引 き 下 げ 全 人 代 では 上 述 の5カ 年 計 画 の 初 年 度 に 当 たる2016 年 の 経 済 運 営 方 針 についても 詳 細 が 定 められた 毎 年 全 人 代 では その 年 の 主 要 経 済 指 標 の 目 標 値 が 発 表 されるが 特 に 注 目 されるのが 実 質 GDP 成 長 率 の 目 標 値 だ 2016 年 の 目 標 値 は 前 年 比 +6.5~7.0% と 2015 年 の 目 標 値 ( 同 +7.0% 前 後 )か ら 引 き 下 げられた( 図 表 4) 政 府 活 動 報 告 の 内 容 を 基 に 成 長 率 目 標 が +6.5~7.0% に 設 定 さ れた 理 由 を 推 察 すると 以 下 3 点 を 挙 げることができる 第 一 に 前 述 のとおり GDP 倍 増 計 画 実 現 のためには 第 13 次 五 カ 年 計 画 期 に 年 平 均 +6.5% 以 上 の 成 長 を 遂 げることが 必 要 とされているからだ それゆえ 今 年 の 成 長 率 目 標 の 下 限 が 前 年 比 +6.5%に 設 定 されたとしてもまったく 不 思 議 ではない 李 克 強 首 相 も 小 康 社 会 の 全 面 的 完 成 という 目 標 と の 兼 ね 合 いから 今 年 の 成 長 率 目 標 を 設 定 したと 政 府 活 動 報 告 で 説 明 している 第 二 に 構 造 改 革 推 進 や 十 分 な 雇 用 機 会 の 創 出 のためには 一 定 程 度 の 成 長 が 必 要 だからだ 後 述 するように 中 国 指 導 部 は 国 有 企 業 改 革 や 過 剰 生 産 能 力 の 解 消 に 力 を 入 れる 構 えをみせており 鉄 鋼 業 や 石 炭 業 などで 人 員 削 減 にも 踏 み 込 む 方 針 を 明 らかにしている このような 調 整 によって 雇 用 に 下 押 し 圧 力 がかかりやすい 状 況 においても 都 市 部 新 規 就 業 者 数 1,000 万 人 以 上 都 市 部 登 録 失 業 率 4.5% 以 下 という 数 値 目 標 を 実 現 して 雇 用 環 境 を 安 定 させるためには 少 なくとも 前 年 比 +6.5%の 成 長 は 確 保 しなければならないとの 判 断 が 下 されたと 推 察 される 第 三 に マーケットの 期 待 の 安 定 誘 導 も 成 長 率 の 目 標 レンジを 決 める 際 の 判 断 材 料 にされたとみ られる 2015 年 の 実 績 対 比 であまりに 低 い 成 長 率 目 標 を 設 定 すれば マーケットで 中 国 経 済 に 対 する 不 安 感 が 広 まり 株 価 や 人 民 元 の 下 落 資 本 流 出 の 加 速 などを 招 く 恐 れがあると 判 断 されたのだろう 一 方 上 限 を 前 年 比 +7.0% に 設 定 した 理 由 については 中 国 政 府 から 明 快 な 説 明 はないが 2015 年 は 前 年 比 +6.9% 成 長 の 下 で 都 市 部 新 規 就 業 者 数 が 目 標 の1,000 万 人 を 大 きく 超 えている(1,312 万 人 ) 図 表 4 2016 年 の 経 済 関 連 数 値 目 標 指 標 2016 年 2015 年 2015 年 目 標 目 標 実 績 実 質 GDP 成 長 率 ( 前 年 比 ) 6.5~7.0% 7.0% 前 後 6.9% 消 費 者 物 価 上 昇 率 ( 前 年 比 ) 3.0% 前 後 3.0% 前 後 1.4% 全 社 会 固 定 資 産 投 資 ( 前 年 比 ) 10.5% 前 後 15.0% 9.8% 社 会 消 費 財 小 売 総 額 ( 前 年 比 ) 11.0% 前 後 13.0% 10.7% 輸 出 入 総 額 ( 前 年 比 ) 回 復 6.0% 前 後 8.0% M2 伸 び 率 ( 前 年 比 ) 13.0% 前 後 12.0% 前 後 12.3% 都 市 登 録 失 業 率 4.5% 以 内 4.5% 以 内 4.1% 都 市 新 規 就 業 者 数 1,000 万 人 以 上 1,000 万 人 以 上 1,312 万 人 国 家 財 政 赤 字 2 兆 1,800 億 元 1 兆 6,200 億 元 1 兆 6,200 億 元 対 GDP 比 率 3.0% 2.3% 2.4% ( 注 ) 輸 出 入 総 額 の 前 年 比 伸 び 率 は 名 目 ドル 建 て M2 伸 び 率 の 2015 年 の 実 績 値 は 月 次 伸 び 率 の 年 平 均 値 ( 資 料 ) 中 国 国 家 统 计 局 2015 年 国 家 经 济 和 社 会 发 展 统 计 公 报 2016 年 2 月 29 日 李 克 强 作 政 府 工 作 报 告 ( 文 字 实 录 ) ( 中 央 政 府 门 户 网 站 2016 年 3 月 5 日 ) 国 家 发 展 和 改 革 委 员 会 关 于 2014 年 国 民 经 济 和 社 会 发 展 计 划 执 行 情 况 与 2015 年 国 民 经 济 和 社 会 发 展 计 划 草 案 的 报 告 2015 年 3 月 17 日 两 会 授 权 发 布 : 关 于 2015 年 国 民 经 济 和 社 会 发 展 计 划 执 行 情 况 与 2016 年 国 民 经 济 和 社 会 发 展 计 划 草 案 的 报 告 ( 摘 要 ) ( 新 华 社 2016 年 3 月 5 日 ) 关 于 2015 年 中 央 和 地 方 预 算 执 行 情 况 与 2016 年 中 央 和 地 方 预 算 草 案 的 报 告 ( 摘 要 ) ( 新 华 社 2016 年 3 月 5 日 )より みずほ 総 合 研 究 所 作 成 4
ことなどから それ 以 上 に 成 長 率 を 引 き 上 げる 理 由 がないと 判 断 されたのではないかと 推 察 される (2) 景 気 てこ 入 れと サプライサイドの 構 造 改 革 の 併 用 で 成 長 目 標 の 達 成 を 狙 う 構 え ただし 今 の 中 国 の 経 済 状 況 に 鑑 みると 前 年 比 +6.5~7.0% という 成 長 率 目 標 は 簡 単 に 実 現 できるものではない 2008 年 の 世 界 金 融 危 機 後 に 実 施 された 大 規 模 な 景 気 対 策 を 契 機 に 鉱 工 業 の 生 産 能 力 が 過 剰 となった 結 果 投 資 に 下 押 し 圧 力 がかかっているためである 2015 年 8~9 月 に 中 国 企 業 家 調 査 系 統 が 行 ったアンケート 調 査 によると 中 国 の 製 造 業 平 均 の 設 備 稼 働 率 は66.6%にまで 落 ち 込 んでいる 3 更 には 住 宅 在 庫 の 過 剰 も 投 資 の 伸 びを 抑 制 する 要 因 となっている 北 京 上 海 広 州 深 圳 といった 大 都 市 ではバブルが 懸 念 されるほど 住 宅 価 格 が 高 騰 しているが 3 級 都 市 4 級 都 市 と 呼 ばれる 地 方 の 中 小 都 市 では 住 宅 在 庫 の 積 み 上 がりが 深 刻 で それも 投 資 回 復 の 足 を 引 っ 張 っている 一 方 個 人 消 費 はタイトな 労 働 需 給 を 背 景 とする 賃 金 の 堅 調 な 伸 びに 支 えられ 比 較 的 底 堅 く 推 移 しているが 成 長 率 を 大 きく 上 向 かせられるほどの 強 さは 持 ちえないだろう 更 に 資 源 国 経 済 の 減 速 が 先 進 国 にも 波 及 しつつあり 世 界 経 済 に 勢 いがない 中 内 需 の 弱 さを 輸 出 で 補 うことも 難 しい こうした 状 況 を 踏 まえて すでに2015 年 12 月 開 催 の 中 央 経 済 工 作 会 議 で 2016 年 のマクロ 経 済 運 営 については 財 政 金 融 政 策 による 景 気 下 支 えを 強 める 一 方 それだけに 依 存 せず サプライサイド の 構 造 改 革 も 併 せて 推 進 し 小 康 社 会 の 全 面 的 完 成 に 必 要 な 成 長 率 を 確 保 するとの 方 針 が 決 めら れていた 4 今 回 の 政 府 活 動 報 告 では その 方 針 を 踏 襲 し 具 体 化 したものとして 2016 年 の8 大 重 点 活 動 が 発 表 されている( 図 表 5) (3)2016 年 のマクロ 経 済 運 営 の 特 徴 8 大 重 点 活 動 のうち 1.マクロ 経 済 政 策 の 安 定 と 改 善 による 合 理 的 範 囲 内 での 経 済 変 動 の 保 持 に 関 しては 中 央 経 済 工 作 会 議 の 時 点 で 積 極 的 財 政 政 策 の 力 を 強 める 穏 健 的 金 融 政 策 をより 柔 軟 にする との 方 針 は 決 まっていたものの 具 体 的 にどの 程 度 財 政 赤 字 を 拡 大 させるのか どの 分 野 に 力 点 を 置 くのか といったことまでは 明 らかになっていなかった それが 今 回 の 全 人 代 の 政 府 図 表 5 2016 年 の 8 大 重 点 活 動 2016 年 の8 大 重 点 活 動 1.マクロ 経 済 政 策 の 安 定 と 改 善 による 合 理 的 範 囲 内 での 経 済 変 動 の 保 持 5. 新 たなハイレベルの 対 外 開 放 の 推 進 による 協 力 ウィンウィン 実 現 への 注 力 積 極 的 財 政 政 策 の 強 化 一 帯 一 路 建 設 の 着 実 な 推 進 穏 健 的 金 融 政 策 を 柔 軟 で 適 度 なものにする 対 外 貿 易 の 革 新 発 展 の 促 進 2.サプライサイド 構 造 改 革 の 強 化 による 持 続 的 成 長 の 原 動 力 強 化 外 資 利 用 のレベル 引 き 上 げ 行 政 簡 素 化 権 限 委 譲 など 行 政 改 革 の 深 化 FTA 戦 略 の 実 施 加 速 起 業 イノベーションの 潜 在 力 の 解 放 6. 環 境 対 策 の 強 化 によるグリーン 型 発 展 での 新 たなブレイクスルーの 促 進 過 剰 生 産 能 力 の 解 消 コスト 引 き 下 げ 効 率 向 上 スモッグ 対 策 と 水 質 汚 染 対 策 の 強 化 財 サービス 供 給 の 改 善 省 エネ 環 境 保 護 産 業 の 発 展 国 有 企 業 の 改 革 推 進 生 態 系 保 護 の 取 り 組 み 強 化 非 公 有 制 経 済 の 活 性 化 7. 民 生 の 適 切 な 保 障 改 善 による 社 会 建 設 の 強 化 3. 深 いレベルでの 国 内 需 要 の 潜 在 力 の 掘 り 起 こしによる 発 展 の 余 地 の 拡 大 雇 用 起 業 の 拡 大 公 平 かつ 質 の 高 い 教 育 の 発 展 医 療 医 療 保 険 医 薬 品 についての 連 動 した 改 革 の 推 進 経 済 成 長 をけん 引 する 消 費 の 基 礎 的 役 割 の 強 化 安 定 成 長 構 造 調 整 に 対 する 有 効 投 資 の 決 定 的 役 割 の 発 揮 新 型 都 市 化 の 推 進 地 域 発 展 の 枠 組 みの 最 適 化 4. 現 代 農 業 の 発 展 加 速 による 農 民 の 持 続 的 な 収 入 増 の 促 進 農 業 の 構 造 調 整 の 加 速 農 業 の 基 礎 強 化 農 村 の 公 共 サービス 改 善 貧 困 脱 却 プロジェクトの 実 施 社 会 保 障 のセーフティーネットの 拡 充 文 化 の 改 革 発 展 の 推 進 社 会 統 治 の 強 化 刷 新 8. 政 府 自 身 の 建 設 強 化 による 施 政 能 力 サービス 水 準 の 向 上 法 に 基 づく 職 責 の 履 行 反 腐 敗 廉 潔 な 政 治 の 提 唱 勤 勉 な 職 責 の 履 行 実 行 力 と 信 頼 性 の 向 上 ( 資 料 ) 李 克 强 作 政 府 工 作 报 告 ( 文 字 实 录 ) ( 中 央 政 府 门 户 网 站 2016 年 3 月 5 日 )より みずほ 総 合 研 究 所 作 成 5
活 動 報 告 ならびに3 月 末 に 公 開 された 2016 年 度 予 算 で 示 された a. 減 税 を 主 眼 とした 財 政 赤 字 の 拡 大 2016 年 の 財 政 赤 字 は 2 兆 1,800 億 元 と 2015 年 の 1 兆 6,200 億 元 から 5,600 億 元 増 額 された(4 頁 図 表 4) それにより 財 政 赤 字 の 対 GDP 比 率 は 2015 年 実 績 の 2.4%から 3.0%に 引 き 上 げられた( 図 表 6) これまで 中 国 政 府 は 財 政 赤 字 の 対 GDP 比 率 を 3.0% 未 満 に 抑 えてきたが 一 段 踏 み 込 んで 財 政 による 景 気 てこ 入 れを 強 める 姿 勢 を 示 したことになる 財 政 赤 字 を 拡 大 するに 際 して 中 国 政 府 は 財 政 支 出 の 拡 大 よりも 減 税 および 行 政 費 用 の 徴 収 削 減 を 重 視 するという 選 択 をしている 今 回 の 財 政 赤 字 の 増 分 5,600 億 元 のうち 5,000 億 元 超 が 減 税 や 行 政 費 用 の 徴 収 削 減 による 企 業 家 計 の 負 担 軽 減 分 に 相 当 すると 政 府 活 動 報 告 の 中 で 述 べられている 減 税 行 政 費 用 の 徴 収 削 減 の 具 体 的 な 中 身 は 次 のとおりである 第 一 に 営 業 税 から 付 加 価 値 税 への 切 り 替 え( 営 改 増 ) の 更 なる 推 進 である 2016 年 5 月 1 日 から 建 設 業 不 動 産 業 金 融 業 消 費 者 向 けサービス 業 にも 試 行 範 囲 を 広 げるとともに 企 業 が 新 たに 購 入 した 不 動 産 を 仕 入 控 除 が 可 能 な 付 加 価 値 税 の 適 用 対 象 に 入 れることになった 第 二 に 規 定 に 反 して 設 立 された 政 府 系 基 金 ( 日 本 の 特 別 会 計 に 相 当 )を 廃 止 し 一 部 の 政 府 系 基 金 に 関 しては 徴 収 停 止 や 合 併 を 行 い 水 利 建 設 基 金 などの 徴 収 免 除 範 囲 を 拡 大 するという 措 置 で ある 第 三 に 18 項 目 の 行 政 費 用 料 金 の 免 除 対 象 を 小 規 模 零 細 企 業 だけでなく すべての 企 業 と 個 人 に 拡 大 する これらの 家 計 企 業 向 け 負 担 軽 減 策 が 採 られる 結 果 2016 年 の 財 政 収 入 の 伸 びは 2015 年 実 績 の 前 年 比 +5.8%から 同 +3.0%に 低 下 する 一 方 財 政 支 出 に 関 しては 抑 制 気 味 の 予 算 が 組 まれている 中 国 政 府 は 積 極 的 財 政 政 策 の 強 化 の 一 環 として 地 方 政 府 特 別 債 務 ( 特 定 プロジェクト 用 の 資 金 調 達 を 目 的 とした 地 方 債 務 で 特 別 会 計 の 一 部 を 構 成 ) の 額 を 2015 年 の 1,000 億 元 から 4,000 億 元 に 増 やし 地 方 の 図 表 6 一 般 公 共 予 算 の 財 政 収 支 (%) 財 政 赤 字 対 GDP 比 ( 左 目 盛 ) ( 前 年 比 %) 3.5 財 政 収 入 伸 び 率 ( 右 目 盛 ) 35 3.0 財 政 支 出 伸 び 率 ( 右 目 盛 ) 30 インフラ 建 設 等 を 強 化 するとの 方 針 を 打 ち 出 し 2.5 25 てはいる しかし 一 般 会 計 に 相 当 する 一 般 公 共 予 算 ベースの 財 政 支 出 の 伸 びは 2015 年 の 前 年 比 +13.2%から 2016 年 には 同 +6.7%に 抑 えられている 3 月 末 に 詳 細 が 発 表 された 一 般 公 共 予 算 ベースの 中 央 政 府 財 政 支 出 の 内 訳 をみると 教 育 や 社 会 保 障 医 療 といった 民 生 に 関 わる 分 野 では 支 出 が 拡 大 される 一 方 交 通 運 輸 関 連 の 支 出 は 昨 年 より 削 減 された このように 財 政 支 出 の 伸 びを 抑 え 気 味 にする 一 方 減 税 行 政 費 用 の 徴 収 削 減 を 重 視 した 理 由 は 政 府 が 支 出 先 を 先 に 決 めるよりも 家 計 や 企 業 の 手 元 にお 金 を 残 したほうが 消 費 に 使 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 0 2008 10 12 14 16 ( 年 ) ( 注 ) 一 般 公 共 予 算 収 支 2016 年 は 予 算 ベース 2015 年 以 降 財 政 収 入 財 政 支 出 いずれも 定 義 が 変 更 されているため それらの 伸 びについて どの 程 度 厳 密 に 時 系 列 の 比 較 ができるか 不 明 な 点 あり ( 資 料 ) 中 国 国 家 統 計 局 关 于 2015 年 中 央 和 地 方 预 算 执 行 情 况 与 2016 年 中 央 和 地 方 预 算 草 案 的 报 告 2016 年 3 月 18 日 より みずほ 総 合 研 究 所 作 成 20 15 10 5 6
われるにせよ 投 資 に 使 われるにせよ 効 率 が 相 対 的 に 高 い との 考 え 方 があるためだ 5 これま での 政 府 による 積 極 的 な 投 資 や 補 助 金 支 出 に 一 定 の 無 駄 があったことへの 反 省 があるのだろう 景 気 テコ 入 れ 策 として 財 政 支 出 もさることながら 減 税 行 政 費 用 の 徴 収 削 減 に 力 点 を 置 くと いう 傾 向 は 今 回 の 全 人 代 で 示 された 新 たな 潮 流 であり 今 後 注 目 に 値 する b. 金 融 政 策 でも 過 度 な 緩 和 を 回 避 する 方 針 金 融 政 策 に 関 しても 穏 健 的 な 金 融 政 策 を 引 き 続 き 実 施 し 柔 軟 かつ 適 度 な 形 で 金 融 政 策 を 運 営 するという 中 央 経 済 工 作 会 議 での 方 針 が 維 持 された その 具 体 的 な 目 安 として M2 の 伸 び 率 が 前 年 比 +13.0% 前 後 に 設 定 された(4 頁 図 表 4) 2015 年 の M2 伸 び 率 の 目 標 である 同 +12.0% 前 後 実 績 値 である 同 +12.3%( 年 平 均 値 )と 比 べて 高 めではあるが 大 きく 引 き 上 げられているわけではない 政 府 活 動 報 告 では 公 開 市 場 操 作 金 利 政 策 預 金 準 備 率 再 貸 出 などの 様 々な 金 融 政 策 手 段 を 用 いて 流 動 性 を 合 理 的 かつ 十 分 な 水 準 に 保 持 したり 資 金 調 達 コストを 引 き 下 げ 小 規 模 零 細 企 業 や 三 農 ( 農 業 農 民 農 村 ) などを 金 融 面 で 支 援 し たりする 必 要 があるとしている 同 時 に 中 国 人 民 銀 行 の 周 小 川 総 裁 は 国 内 外 で 経 済 金 融 の 大 きな 変 動 がなければ 穏 健 的 金 融 政 策 を 維 持 し 成 長 率 目 標 を 達 成 するために 過 度 な 金 融 緩 和 で 経 済 を 刺 激 する 必 要 はない と 全 人 代 期 間 中 の 記 者 会 見 で 述 べている 6 こうした 認 識 が M2 の 目 標 値 にも 表 れているといえよう また 金 利 や 預 金 準 備 率 の 引 き 下 げが 進 んだ 2015 年 でも 過 剰 生 産 能 力 や 過 剰 債 務 の 調 整 圧 力 を 背 景 に 企 業 の 借 入 需 要 の 弱 含 みが 続 いたことを 考 慮 すると( 図 表 7) これらの 過 剰 問 題 の 早 期 解 決 が 困 難 である 以 上 金 融 緩 和 の 景 気 浮 揚 効 果 は 限 定 的 とみられる このことも 強 い 金 融 緩 和 策 を 打 ち 出 さない 理 由 となっているのだろう したがって 2016 年 は 金 融 政 策 より 財 政 政 策 に 軸 足 を 置 いた 政 策 運 営 が 行 われる 見 通 しだ (4) 旧 産 業 の 競 争 力 再 生 と 新 産 業 の 発 展 促 進 このように 中 国 政 府 は 財 政 金 融 政 策 によるてこ 入 れに 一 定 の 抑 制 を 効 かせている その 分 サ プライサイドの 構 造 改 革 を 前 進 させ 旧 産 業 の 競 図 表 7 企 業 の 借 入 需 要 指 数 争 力 再 生 と 新 たな 発 展 の 原 動 力 となる 産 業 業 態 の 100 発 展 を 図 らなければならないこととなる 90 80 2016 年 の 8 大 重 点 活 動 では 2 番 目 に サプ 70 ライサイド 構 造 改 革 の 強 化 による 持 続 的 成 長 の 原 動 60 力 の 強 化 が 挙 げられ 行 政 改 革 起 業 イノベー 50 40 ションの 推 進 過 剰 生 産 能 力 の 解 消 財 サービス 全 体 30 製 造 業 供 給 の 改 善 国 有 企 業 改 革 非 公 有 制 経 済 の 活 性 化 20 非 製 造 業 などへの 取 り 組 みが 本 格 化 することが 明 らかになっ 10 0 た (5 頁 図 表 5) 09 10 11 12 13 14 15 なかでも 重 視 されているのが 過 剰 生 産 能 力 の 解 消 であり それが 2015 年 末 の 中 央 経 済 工 作 会 議 で 2016 年 の 重 要 任 務 の 筆 頭 に 掲 げられた その 後 需 要 拡 大 需 要 縮 小 ( 年 ) ( 注 ) 借 入 需 要 指 数 は 50 を 超 えると 需 要 の 拡 大 下 回 ると 需 要 の 縮 小 を 示 す ( 資 料 ) 中 国 人 民 銀 行 CEIC Data より みずほ 総 合 研 究 所 作 成 7
2016 年 2 月 に 鉄 鋼 業 石 炭 業 の 過 剰 生 産 能 力 解 消 についての 意 見 が 国 務 院 から 発 表 され 鉄 鋼 は 今 後 5 年 で 1~1.5 億 トン( 現 在 の 生 産 能 力 の 約 8~13%) 石 炭 は 3~5 年 で 5 億 トン 以 上 ( 現 在 の 生 産 能 力 の 約 9% 以 上 )を 淘 汰 するという 数 値 目 標 が 明 らかになっていた( 図 表 8) 今 回 の 全 人 代 では こ れらの 方 針 を 確 認 するとともに 調 整 によって 生 じうる 雇 用 への 悪 影 響 に 対 して しっかりと 対 応 す る 姿 勢 が 示 された 雇 用 への 影 響 について 国 家 発 展 改 革 委 員 会 の 徐 紹 史 主 任 は 全 人 代 期 間 中 の 記 者 会 見 で 過 剰 生 産 能 力 の 調 整 によって 大 量 のリストラは 発 生 しない と 述 べ その 理 由 として 1 各 企 業 の 労 働 時 間 や 賃 金 の 調 整 によって 雇 用 者 数 はある 程 度 維 持 できること 21%の 経 済 成 長 が 生 み 出 す 就 業 者 数 が 増 えていること 3 第 3 次 産 業 の 雇 用 吸 収 力 が 高 まっていること 4 大 衆 による 起 業 が 広 まっていること 5 情 報 ネットワークの 充 実 により 業 種 間 地 域 間 の 雇 用 の 流 動 性 が 高 まってい ること を 挙 げている 7 ただし 人 員 の 再 配 置 再 就 職 支 援 には 様 々なコストがかかる そのため 全 人 代 では 中 央 政 府 が 今 後 2 年 間 で 1,000 億 元 の 支 援 金 を 支 給 することが 決 められた この 支 援 額 について 李 首 相 は 必 要 があれば 増 額 も 可 能 と 述 べており 失 業 問 題 が 深 刻 化 しないよう 状 況 に 応 じて 柔 軟 に 調 整 する 構 えだ 国 有 企 業 改 革 については 2016 年 2017 年 は 国 有 企 業 の 質 効 率 向 上 のための 戦 いの 時 期 であ ると 位 置 づけられた 2015 年 9 月 に 国 有 企 業 改 革 の 大 枠 を 定 めた 国 有 企 業 改 革 の 深 化 に 関 する 指 導 意 見 が 公 表 されており 今 後 2 年 間 でいよいよ 改 革 を 加 速 させるということだ 特 に 中 央 国 有 企 業 の 改 革 に 力 が 入 れられることになり 再 編 統 合 更 には 一 部 の 企 業 の 整 理 や 市 場 からの 撤 退 が 図 ら れることになった また 電 力 石 油 天 然 ガスなどの 分 野 での 混 合 所 有 制 の 先 行 実 施 ( 民 間 資 本 導 入 等 )などを 含 む 10 項 目 の 改 革 試 行 ポイント というガバナンス 改 革 の 試 行 も 進 められる 見 込 みだ 一 方 今 後 の 中 国 経 済 の 原 動 力 を 担 っていく 新 産 業 の 育 成 に 関 わるものとして 起 業 イノベーシ ョンの 推 進 や 財 サービス 供 給 の 改 善 がある 前 者 に 関 しては 1 企 業 のイノベーションを 促 す 環 境 整 備 ( 研 究 開 発 費 控 除 の 実 施 国 家 自 主 イノベーションモデル 区 ハイテク 産 業 開 発 区 の 増 設 など) 2 大 衆 による 起 業 イノベーションと インターネットプラス 行 動 計 画 との 相 乗 効 果 発 揮 (クラウ 図 表 8 鉄 鋼 業 石 炭 業 の 生 産 能 力 淘 汰 目 標 鉄 鋼 石 炭 生 産 能 力 12 億 トン 57 億 トン 生 産 量 8 億 トン 37 億 トン 過 剰 生 産 能 力 4 億 トン 20 億 トン 稼 働 率 67% 65% 今 後 の 淘 汰 目 標 2016 年 から5 年 間 で 1~1.5 億 トン ( 生 産 能 力 の 約 8~13%) 2016 年 から3~5 年 間 で 5 億 トン 以 上 ( 生 産 能 力 の 約 9% 以 上 ) 従 業 者 数 363 万 人 ( 都 市 部 就 業 者 の0.9%) 442 万 人 ( 都 市 部 就 業 者 の1.1%) 予 想 失 業 者 数 50 万 人 130 万 人 ( 注 ) 鉄 鋼 の 生 産 能 力 は 中 国 鋼 鉄 工 業 協 会 による 石 炭 の 生 産 能 力 は 国 家 発 展 改 革 委 員 会 の 連 維 良 主 任 の 発 言 に よる 生 産 量 は 国 家 統 計 局 による 過 剰 生 産 能 力 =( 生 産 能 力 )-( 生 産 量 ) 稼 働 率 = 生 産 量 生 産 能 力 予 想 失 業 者 数 の 数 値 は 人 力 資 源 社 会 保 障 部 の 尹 蔚 民 部 長 の 発 言 による ( 資 料 ) 国 務 院 中 国 鋼 鉄 工 業 協 会 国 家 発 展 改 革 委 員 会 国 家 統 計 局 各 種 報 道 より みずほ 総 合 研 究 所 作 成 8
ドイノベーション クラウドソーシング 等 のプラットフォーム 形 成 など) 3 科 学 技 術 管 理 体 制 の 改 革 深 化 ( 大 学 と 科 学 研 究 機 関 の 自 主 権 拡 大 など)を 実 施 する また 財 サービス 供 給 の 改 善 に ついては 1 消 費 財 の 品 質 向 上 2 中 国 製 造 2025 や インターネットプラス 行 動 計 画 などの 政 策 推 進 を 通 じた 製 造 業 の 高 度 化 3サービス 業 の 発 展 加 速 の 3 つが 軸 とされている (5) 国 内 の 潜 在 需 要 の 掘 り 起 こし さらに 8 大 重 点 活 動 の 中 の 3. 深 いレベルでの 国 内 需 要 の 潜 在 力 の 掘 り 起 こしによる 発 展 の 余 地 の 拡 大 も 3(4)で 述 べたサプライサイドの 構 造 改 革 同 様 景 気 テコ 入 れに 頼 らずに 成 長 率 目 標 を 達 成 する 上 で 大 きな 意 味 をもつものだ その 筆 頭 に 経 済 成 長 をけん 引 する 消 費 の 役 割 強 化 との 方 針 が 掲 げられ 具 体 的 には 介 護 ヘ ルスケア 教 育 文 化 スポーツといったサービス 消 費 の 支 援 インターネットコンテンツ スマー トハウスなどの 新 興 消 費 の 強 化 宅 配 便 産 業 の 発 展 促 進 中 古 車 市 場 の 活 性 化 一 部 輸 入 品 の 関 税 引 き 下 げなど 数 多 くの 施 策 が 講 じられることになった 安 定 成 長 や 構 造 改 革 に 資 する 投 資 (いわゆる 有 効 投 資 )も 重 視 されている 第 13 次 五 カ 年 計 画 の 一 連 の 重 要 プロジェクトへの 着 手 8,000 億 元 以 上 の 鉄 道 投 資 1 兆 6,500 億 元 の 道 路 投 資 20 の 新 たな 重 要 水 利 事 業 への 着 手 水 力 発 電 原 子 力 発 電 超 高 圧 送 電 スマートグリッド 石 油 ガス パイプライン 都 市 軌 道 交 通 の 整 備 などが 有 効 投 資 の 具 体 例 として 挙 げられている ただし 2016 年 の 鉄 道 道 路 水 路 関 連 の 投 資 額 は 合 計 2 兆 6,000 億 元 の 予 定 であり 2014 年 2015 年 から 大 きく 積 み 増 されるわけではない 8 やはりインフラ 投 資 規 模 の 拡 大 に 関 しては 一 定 の 抑 制 が 効 いているとみ るべきだろう 都 市 化 の 推 進 による 需 要 喚 起 にも 力 が 入 れられることになった 農 村 からの 移 転 人 口 の 市 民 化 加 速 低 中 所 得 者 向 けの 政 府 支 援 住 宅 ( 保 障 性 住 宅 )の 整 備 や 住 宅 購 入 促 進 のための 税 制 優 遇 策 やロー ン 政 策 の 充 実 などが 都 市 化 関 連 政 策 のメニューに 載 せられている 4. 痛 みを 伴 う 改 革 を 遂 行 しつつも 経 済 社 会 の 安 定 を 維 持 できるかが 課 題 に 今 回 の 全 人 代 では GDP 1 人 当 たり 所 得 倍 増 のために 2016~2020 年 は 年 平 均 +6.5% 以 上 の 成 長 を 達 成 する 必 要 があること そのために 財 政 金 融 政 策 による 下 支 えのみに 依 存 せず サプライサ イドの 構 造 改 革 や 潜 在 需 要 の 掘 り 起 こしによって 成 長 の 原 動 力 の 転 換 を 図 っていく 方 針 が 明 らかにな った 2016 年 はその 大 方 針 を 実 現 に 移 す 1 年 目 の 年 であり その 成 否 に 注 目 が 集 まるだろう なかでも 注 目 すべきポイントは 痛 みを 伴 う 改 革 を 推 進 しつつも 経 済 社 会 の 安 定 を 維 持 できるか という 点 である 今 回 の 全 人 代 では 過 剰 生 産 能 力 の 解 消 や 国 有 企 業 改 革 など 既 得 権 益 者 の 抵 抗 が 根 強 い 分 野 の 改 革 も 実 行 に 移 すという 強 い 意 志 が 示 されたが その 難 度 は 高 く 改 革 が 思 うように 進 まない 事 態 に 陥 る 恐 れも 排 除 しきれない そうした 場 合 には 新 たな 発 展 のけん 引 役 不 足 を 補 ったり 既 得 権 益 者 の 不 満 を 緩 和 したりするために 当 初 の 予 算 案 よりも 公 共 投 資 や 補 助 金 支 給 が 積 み 増 され 財 政 支 出 が 拡 大 する 可 能 性 もある 実 際 2015 年 の 財 政 支 出 の 実 績 値 は 前 年 比 +13.2%と 予 算 ベー スの 同 +10.6%よりも 積 み 増 されている 使 われずに 放 置 されてきた 余 剰 金 を 整 理 して 支 出 に 回 す 額 を 増 やしたり 繰 越 金 を 増 やすことで 財 政 支 出 総 額 を 一 定 の 規 模 に 引 き 上 げるとの 文 言 が 今 回 の 予 算 案 には 盛 り 込 まれており 財 政 支 出 を 上 積 みする 余 力 がないわけではない しかし 度 が 過 ぎれば 9
将 来 の 財 政 余 力 を 先 食 いすることになってしまう こうした 事 態 に 陥 らないかどうか 注 視 が 必 要 で ある 他 方 改 革 を 急 ぎすぎれば 不 良 債 権 が 急 増 し 金 融 不 安 が 広 がったり 想 定 以 上 に 失 業 者 が 増 え 社 会 政 治 不 安 が 高 まったりする 可 能 性 もあり 改 革 と 経 済 社 会 の 安 定 維 持 との 兼 ね 合 いが 問 われ るだろう 2015 年 末 の 商 業 銀 行 全 体 の 不 良 債 権 比 率 は 1.67%と 低 水 準 で 不 良 債 権 引 当 率 も 181.2% と 中 国 版 バーゼルⅢの 基 準 である 150%を 満 たしているが いずれの 指 標 も 悪 化 傾 向 をたどっており 安 心 はできない 状 況 だ 更 に 中 国 政 府 の 意 図 しない 形 で 政 策 が 新 たなリスクを 生 み 出 す 可 能 性 にも 注 視 しなければならな い 例 えば 不 動 産 投 機 規 制 が 継 続 されている 北 京 上 海 など 大 都 市 の 不 動 産 価 格 が 足 元 で 再 び 高 騰 し 問 題 視 されている その 契 機 となったのが 2015 年 以 降 継 続 的 に 実 施 されてきた 1 級 都 市 以 外 の 都 市 での 頭 金 比 率 引 き 下 げなどの 住 宅 購 入 緩 和 策 であった この 政 策 はもともと 地 方 都 市 におけ る 高 水 準 の 住 宅 在 庫 解 消 を 狙 って 実 施 されたものであったが 価 格 上 昇 期 待 を 形 成 し 結 果 として 特 に 住 宅 需 要 の 強 い 1 級 都 市 での 大 幅 な 価 格 上 昇 につながってしまったとみられる 更 に 全 人 代 期 間 中 に 開 催 された 中 国 金 融 当 局 の 記 者 会 見 によると 一 部 の 不 動 産 デベロッパーや 仲 介 業 者 が 規 制 が 厳 格 ではないインターネット 金 融 を 通 じて 手 元 資 金 の 少 ない 不 動 産 の 買 い 手 に 頭 金 を 貸 し 出 すとい うビジネスを 行 っており それが 価 格 高 騰 に 拍 車 をかけていたようだ 9 事 前 に 政 策 の 副 作 用 が 生 み 出 すリスクを 把 握 することができるか リスクが 生 じた 場 合 に 早 急 に 対 応 できるかどうか といった 点 でも 中 国 指 導 部 の 政 策 運 営 能 力 が 問 われている 1 五 中 全 会 で 定 められた 第 13 次 五 カ 年 計 画 の 大 枠 については 三 浦 祐 介 中 国 新 五 カ 年 計 画 の 骨 格 と 特 徴 ~ 小 康 社 会 の 全 面 的 完 成 に 向 けた 習 政 権 の 政 策 課 題 ~ (みずほ 総 合 研 究 所 みずほインサイト 2015 年 11 月 13 日 )を 参 照 2 なお GDPおよび 国 民 1 人 当 たり 所 得 に 関 する 数 値 目 標 は 五 中 全 会 後 の 習 総 書 記 によるコメント 中 で 言 及 されていたため 新 味 に 乏 しいが 今 回 正 式 に 計 画 に 反 映 された 点 に 意 義 がある 3 中 国 企 业 家 调 查 系 统 企 业 经 营 者 对 宏 观 形 势 及 企 业 经 营 状 况 的 判 断 问 题 和 建 议 ( 管 理 世 界 2015 年 第 12 期 ) 4 2015 年 末 に 開 催 された 中 央 経 済 工 作 会 議 の 内 容 については 玉 井 芳 野 難 度 高 まる 中 国 の 経 済 政 策 運 営 ~ サプライサイドの 構 造 改 革 を 推 進 できるか~ (みずほ 総 合 研 究 所 みずほインサイト 2016 年 1 月 26 日 )を 参 照 5 易 纲 : 未 来 仍 应 以 3% 为 赤 字 率 警 戒 线 ( 财 新 网 2016 年 3 月 9 日 ) 6 中 国 人 民 银 行 中 国 人 民 银 行 行 长 周 小 川 等 就 金 融 改 革 与 发 展 答 记 者 问 2016 年 3 月 12 日 7 国 家 发 展 和 改 革 委 员 会 徐 绍 史 主 任 出 席 十 二 届 全 国 人 大 四 次 会 议 新 闻 中 心 经 济 社 会 发 展 情 况 和 十 三 五 规 划 纲 要 记 者 会 2016 年 3 月 6 日 8 交 通 基 建 2016 年 投 资 2.6 万 亿 工 程 机 械 利 多 ( 中 国 工 程 机 械 商 贸 网 2016 年 3 月 7 日 ) 9 脚 注 6 に 同 じ なお 全 人 代 閉 幕 後 の 3 月 25 日 上 海 市 と 深 圳 市 がそれぞれ 住 宅 購 入 規 制 の 強 化 ( 頭 金 比 率 の 引 き 上 げ 所 得 税 社 会 保 険 料 の 納 税 期 間 の 延 長 など)を 発 表 した その 中 で 頭 金 貸 出 を 厳 格 に 取 り 締 まるという 方 針 も 示 されている [ 共 同 執 筆 者 ] アジア 調 査 部 中 国 室 長 伊 藤 信 悟 shingo.ito@mizuho-ri.co.jp アジア 調 査 部 中 国 室 エコノミスト 玉 井 芳 野 yoshino.tamai@mizuho-ri.co.jp 当 レポートは 情 報 提 供 のみを 目 的 として 作 成 されたものであり 商 品 の 勧 誘 を 目 的 としたものではありません 本 資 料 は 当 社 が 信 頼 できると 判 断 した 各 種 データに 基 づき 作 成 されておりますが その 正 確 性 確 実 性 を 保 証 するものではありません また 本 資 料 に 記 載 された 内 容 は 予 告 なしに 変 更 されることもあります 10