芥 川 賞 直 木 賞 受 賞 が 余 命 に 与 える 影 響 : 社 会 的 地 位 の 余 命 効 果 に 関 する 自 然 実 験 佐 々 木 周 作 a 明 坂 弥 香 b 黒 川 博 文 c 大 竹 文 雄 d 要 約 社 会 的 地 位 の 上 昇 は, 健 康 や 長 寿 を 促 進 するだろうか. 両 者 の 相 関 関 係 はよく 知 られてい るが, 前 者 から 後 者 への 因 果 関 係 の 有 無 を 検 証 することは 難 しい. 本 研 究 では, 日 本 国 内 で 最 も 権 威 ある 文 学 賞 である 芥 川 賞 及 び 直 木 賞 のデータを 用 いて, 因 果 関 係 の 有 無 を 検 証 した. 具 体 的 には, 受 賞 者 と 候 補 者 を 同 質 的 で 比 較 可 能 な 個 人 と 考 えて, 受 賞 による 社 会 的 地 位 の 上 昇 が 余 命 にどのような 効 果 を 持 つかを 捉 えた. 純 文 学 の 新 人 賞 である 芥 川 賞 で は, 受 賞 者 の 平 均 寿 命 が 候 補 者 のものよりも 約 6.4 年 長 かった. 共 変 量 の 影 響 を 考 慮 した 分 析 でも, 芥 川 賞 受 賞 者 の 死 亡 確 率 は 候 補 者 よりも 27-8% 低 くなるという 結 果 が 得 られた. 一 方, 大 衆 小 説 作 品 の 賞 で 中 堅 作 家 を 主 な 対 象 とする 直 木 賞 では 上 述 の 傾 向 は 観 察 されな かった.これらの 結 果 は, 賞 が 純 粋 に 名 誉 を 上 げることによって 余 命 を 伸 ばすというより は, 社 会 経 済 的 な 地 位 の 上 昇 によって 余 命 を 伸 ばす 可 能 性 を 示 唆 している. JEL 分 類 番 号 :I12 キーワード: 社 会 的 地 位, 健 康, 死 亡 率 a 大 阪 大 学 大 学 院 経 済 学 研 究 科 博 士 後 期 課 程, 日 本 学 術 振 興 会 ssasaki.econ@gmail.com b 大 阪 大 学 大 学 院 経 済 学 研 究 科 博 士 後 期 課 程, 日 本 学 術 振 興 会 mika.akesaka@gmail.com c 大 阪 大 学 大 学 院 経 済 学 研 究 科 博 士 後 期 課 程, 日 本 学 術 振 興 会 hirofumi.96kawa@gmail.com d 大 阪 大 学 社 会 経 済 研 究 所 ohtake@iser.osaka-u.ec.jp 本 予 稿 の 作 成 にあたり, 株 式 会 社 テレビマンユニオンの 椎 葉 百 合 子 氏, 中 嶋 旭 洋 氏, 野 溝 友 也 氏, 及 び 大 阪 大 学 の 蒲 原 純 氏, 松 尾 佑 太 氏 には, 芥 川 賞 直 木 賞 データの 整 理 段 階 において 多 大 な 支 援 を 頂 戴 した. また, 佐 々 木 は 文 部 科 学 省 科 学 補 助 金 ( 特 別 研 究 員 奨 励 費 14J04581)を 受 けている. 明 坂 は 文 部 科 学 省 科 学 補 助 金 ( 特 別 研 究 員 奨 励 費 14J07655)を 受 けている. 黒 川 は 文 部 科 学 省 科 学 補 助 金 ( 特 別 研 究 員 奨 励 費 13J05272)を 受 けている. 大 竹 は 社 会 経 済 研 究 所 共 同 利 用 共 同 研 究 資 金 と 文 部 科 学 省 科 学 補 助 金 ( 基 盤 (A) 26245041)を 受 けている. 1
1. イントロダクション 社 会 的 地 位 と 寿 命 や 健 康 の 間 に 正 の 相 関 があることが 多 くの 研 究 で 明 らかにされてきた. その 背 景 には, 主 に 2 種 類 の 経 路 があるとされる. 一 つは, 地 位 の 低 い 人 は 就 業 状 態 が 不 安 定 で,それが 強 いストレスや 鬱 症 状 の 原 因 になるという 地 位 の 低 さが 経 済 的 状 態 を 経 由 して 健 康 に 影 響 を 与 えるというものである.もう 一 つは, 地 位 が 低 いことで 劣 等 感 を 抱 き やすくなり,それがストレスに 繋 がるという 相 対 的 地 位 が 直 接 的 にメンタルヘルスに 影 響 を 与 えるというものである. 社 会 的 地 位 と 健 康 長 寿 の 相 関 関 係 を 示 す 実 証 結 果 は,これまでに 多 数 ある.しかし, 前 者 が 後 者 に 対 して 因 果 効 果 を 持 つかどうかについての 検 証 は 困 難 である. 健 康 的 で 長 寿 な 人 ほど 社 会 的 地 位 が 高 くなりやすい,という 逆 の 因 果 関 係 の 可 能 性 もあるからだ. 社 会 的 地 位 から 余 命 に 対 する 因 果 関 係 の 検 証 のため,アカデミー 賞 やノーベル 賞 といっ た 権 威 ある 賞 の 受 賞 者 及 びノミネート 者 のデータが 用 いられてきた.それは, 受 賞 による 社 会 的 地 位 の 上 昇 を 外 生 的 なショックとして 捉 えることができるからである. 受 賞 者 とノ ミネート 者 はほとんど 同 質 的 だと 考 えられるので,たまたま 受 賞 したことがその 後 の 余 命 や 健 康 状 態 に 与 える 影 響 を 取 り 出 すことができる. 賞 データを 用 いた 先 行 研 究 は 複 数 存 在 する.ただし,その 結 果 は 一 様 ではない. Redelmeier and Singh(2001a)は,アカデミー 賞 俳 優 賞 のデータから, 受 賞 者 の 平 均 寿 命 の 方 がノミネート 者 よりも 3.6 年 程 長 くなることを 示 した.Rablen and Oswald(2008)は, ノーベル 化 学 賞 物 理 学 賞 のデータから, 受 賞 者 の 平 均 寿 命 が 1.6 年 程 長 くなることを 示 した.しかし,アカデミー 賞 脚 本 賞 のデータを 用 いた 時 には, 受 賞 者 の 平 均 寿 命 の 方 が 長 いという 結 果 は 観 察 されなかった(Redelmeier and Singh 2001b). 先 行 研 究 の 結 果 が 異 なる 理 由 としては, 年 齢 が 若 く 社 会 的 地 位 がまだ 確 立 されていない 個 人 にとっては 受 賞 することの 効 果 は 大 きいが,ノミネート 段 階 で 社 会 的 地 位 が 既 に 確 立 されている 個 人 にとっては 受 賞 の 効 果 は 小 さいのではないか,という 仮 説 が 考 えられる. アカデミー 賞 俳 優 賞 のデータは 若 手 俳 優 を 含 む. 一 方 で,ノーベル 化 学 賞 物 理 学 賞 はノ ミネート 時 の 平 均 年 齢 が 高 い.この 違 いにより, 前 者 の 方 が 平 均 余 命 の 伸 びが 大 きくなっ ているのかもしれない.アカデミー 賞 脚 本 賞 は,ノーベル 化 学 賞 物 理 学 賞 よりもノミネ ート 時 の 平 均 年 齢 は 高 くない.ただし, 処 女 作 から 初 回 ノミネート 時 まで 平 均 的 に 8 年 の 期 間 がある. 脚 本 家 は,その 間 に 社 会 的 地 位 を 確 立 している 可 能 性 がある. 以 上 のように, 先 行 研 究 の 結 果 から 仮 説 に 関 する 推 論 は 可 能 である.ただし, 仮 説 を 検 証 することは 困 難 である.アカデミー 賞 俳 優 賞 とノーベル 化 学 賞 物 理 学 賞 では, 賞 と 職 業 が 異 なるし,アカデミー 賞 俳 優 賞 とアカデミー 賞 脚 本 賞 でも, 職 業 が 異 なるからである. そこで 本 研 究 では, 直 接 比 較 が 可 能 な 2 種 類 のデータを 用 いる. 分 析 に 用 いるのは, 日 2
本 で 最 も 権 威 のある 文 学 賞 である 芥 川 賞 直 木 賞 1 のデータである. 芥 川 賞 は 純 文 学 に 対 す る 新 人 賞 なので, 候 補 者 が 若 く 社 会 的 地 位 を 確 立 していない 可 能 性 が 高 い. 大 衆 小 説 の 作 品 に 与 えられる 直 木 賞 の 候 補 者 には 中 堅 以 上 の 作 家 も 含 まれるので 社 会 的 経 済 的 地 位 を 既 に 確 立 している 候 補 者 が 多 い.リサーチ クエスチョンは 2 つある.1 つ 目 は,どちらの データを 用 いた 場 合 にも, 受 賞 者 の 平 均 寿 命 の 方 がノミネート 者 よりも 長 いという 結 果 が 観 察 できるかというものである.2 つ 目 は, 仮 に, 双 方 で 結 果 が 異 なる 場 合,その 差 は 何 によって 生 じているかというものである. 2. データ,および 推 定 モデル 2.1. データの 概 要 芥 川 賞 と 直 木 賞 は 共 に 1935 年 に 創 設 された. 毎 年 2 回 のペースで 開 催 され,2015 年 7 月 までに 153 回 を 数 える.これまでに 1,066 名 がノミネートされ, 内 341 名 がいずれかの 賞 を 受 賞 している. 選 考 システムは, 両 賞 で 共 通 している. 候 補 作 は 文 藝 春 秋 社 の 社 員 により 選 出 され, 受 賞 作 品 はその 候 補 作 の 中 から 選 考 委 員 の 作 家 により 選 出 される. 特 徴 的 なルールは, 芥 川 賞 直 木 賞 どちらかの 賞 しか 受 賞 できないというものである.つまり, 一 度 いずれかの 賞 を 受 賞 した 者 は,もう 片 方 の 賞 にノミネートされることはない.ただし, 両 賞 のどちらも 受 賞 していない 場 合 は, 芥 川 賞 直 木 賞 いずれにもノミネートされる 可 能 性 は 残 る. 分 析 に 用 いるデータセットは, 文 藝 春 秋 特 別 編 集 芥 川 賞 直 木 賞 150 回 全 記 録 ( 文 藝 春 秋 2014a), 新 潮 日 本 文 学 辞 典 ( 新 潮 社 1988), 文 藝 年 鑑 日 本 文 藝 家 協 会 編 ( 日 本 文 藝 家 協 会 2015)を 下 に 作 成 した.また, 文 藝 春 秋 ホームページ(2014b), 芥 川 賞 の すべて のようなもの ホームページ( 川 口 2015a) 直 木 賞 のすべて ホームページ( 川 口 2015b)も 参 考 にした. 2.2. 推 定 モデルと 変 数 分 析 手 法 には,Rablen and Oswald(2008)に 準 じ,Cox 比 例 ハザード モデルを 採 用 す る.この 手 法 では, 年 齢 を 時 間 依 存 変 数 としてコントロールできるので, 長 寿 な 人 ほど 受 賞 しやすいという 逆 の 因 果 関 係 の 問 題 に 対 処 することが 可 能 である. 具 体 的 なモデルは, 以 下 の 通 り. λ(t x) = λ 0 (t) exp(β 0 + β 1 Winner + β 2 Year born + β 3 Age + β 4 Years nominated + β 5 Winning rate) 1 芥 川 賞 の 名 称 は 作 家 芥 川 龍 之 介 に 由 来 し, 直 木 賞 は 直 木 三 十 五 に 由 来 する. 両 賞 共 に, 作 家 菊 池 寛 によって 創 設 された. 現 在, 公 益 財 団 法 人 日 本 文 学 振 興 会 が 主 催 している. 3
モデルは,ベースラインハザードを 表 す λ 0 (t) と 回 帰 部 分 を 表 す exp( ) に 二 分 される. 回 帰 部 分 の 主 要 変 数 は Winner であり, 受 賞 者 かそうでないかを 識 別 する 変 数 である. また, 共 変 量 として, 初 回 ノミネート 時 の 年 齢 Age,ノミネート 回 数 Years nominated, 受 賞 時 あるいはノミネート 時 の 勝 ちやすさの 指 標 Winning rate 2 を 含 める. 最 後 に, 上 述 した 逆 の 因 果 関 係 の 問 題 に 対 処 するため,Age 及 び Years nominated を 時 間 依 存 変 数 とした. 3. 結 果 3.1. 記 述 結 果 分 析 には, 芥 川 賞 からは 381, 直 木 賞 からは 401 の 観 測 データを 使 用 する. 受 賞 者 とノ ミネート 者 の 元 々の 総 観 測 数 は, 両 賞 を 合 算 して 2,057 ある.まず, 複 数 回 ノミネートさ れた 作 家 については, 受 賞 時 あるいは 最 終 ノミネート 時 のデータのみ 使 用 した. 続 いて, 法 人 としてノミネートされた 者 は 除 外 し, 二 人 一 名 の 作 家 として 候 補 に 挙 がった 者 も 除 外 した.さらに, 生 年 が 不 明 な 者, 生 死 が 不 明 な 者 3 も 除 外 した. 最 後 に, 平 均 寿 命 には 男 女 差 があることを 考 慮 するため, 男 性 サンプルに 限 定 した. 表 1. 記 述 統 計 受 賞 者 ノミネート 者 受 賞 者 - ノミネート 者 変 数 名 Obs Mean Std. Dev. Obs Mean Std. Dev. Mean Diff. Std. Dev. 芥 川 賞, N=381 生 年 115 1936.104 22.259 266 1931.759 22.218 4.345 2.481 死 亡 ダミー 115 0.487 0.502 266 0.549 0.499-0.062 0.056 死 亡 時 の 年 齢 56 74.143 12.703 146 67.767 15.647 6.376 2.341 初 回 ノミネート 時 の 年 齢 115 34.922 6.991 266 36.278 8.214-1.356 0.878 受 賞 時 あるいは 最 終 ノミネート 時 の 年 齢 115 36.670 7.260 266 37.722 8.681-1.052 0.924 2015 年 現 在 の 年 齢 58 61.155 14.507 119 64.630 17.461-3.475 2.651 総 ノミネート 回 数 115 2.078 1.358 266 1.733 1.188 0.345 0.139 受 賞 時 あるいは 最 終 ノミネート 時 の 勝 ちやすさの 指 標 115 0.225 0.093 266 0.143 0.107 0.082 0.012 直 木 賞, N=401 生 年 140 1931.136 19.636 261 1928.241 20.386 2.895 2.109 死 亡 ダミー 140 0.607 0.490 261 0.628 0.484-0.021 0.051 死 亡 時 の 年 齢 85 72.118 11.203 164 74.415 12.025-2.297 1.571 初 回 ノミネート 時 の 年 齢 140 40.936 7.870 261 41.188 8.507-0.252 0.868 受 賞 時 あるいは 最 終 ノミネート 時 の 年 齢 140 44.429 8.591 261 43.571 8.867 0.858 0.919 2015 年 現 在 の 年 齢 55 67.145 13.802 97 67.773 16.810-0.628 2.666 総 ノミネート 回 数 140 2.557 1.719 261 1.885 1.354 0.672 0.156 受 賞 時 あるいは 最 終 ノミネート 時 の 勝 ちやすさの 指 標 140 0.260 0.126 261 0.156 0.111 0.104 0.012 表 1 は, 受 賞 者 とノミネート 者 に 分 けて 算 出 した 記 述 統 計 の 結 果 である.まず, 結 果 変 数 である 死 亡 時 年 齢 を 見 ると, 芥 川 賞 と 直 木 賞 で 結 果 が 正 反 対 であることが 分 かる. 芥 川 賞 の 場 合, 受 賞 者 の 死 亡 時 年 齢 がノミネート 者 よりも 約 6.4 年 長 い. 両 者 に 差 がないとい う 帰 無 仮 説 は 1%の 有 意 水 準 で 統 計 的 に 棄 却 される. 直 木 賞 の 場 合 は 逆 に, 受 賞 者 の 死 亡 2 勝 ちやすさの 指 標 は,その 回 の 受 賞 者 数 をノミネート 者 数 ( 受 賞 者 含 む)で 除 して 算 出 した. 3 生 死 不 明 な 作 家 は, 受 賞 者 よりもノミネート 者 に 多 かった.さらに, 直 木 賞 よりも 芥 川 賞 に 多 かった. 4
時 年 齢 がノミネート 者 よりも 約 2.3 年 短 い. 両 者 に 差 がないという 帰 無 仮 説 は 10%の 有 意 水 準 で 棄 却 される. 共 変 量 の 分 布 の 傾 向 に 関 しては, 両 賞 で 共 通 している.まず, 生 年 については 受 賞 者 の 方 が 大 きい.つまり, 受 賞 者 サンプルの 方 が 平 均 的 に 若 いことを 示 している.それに 関 連 して, 初 回 ノミネート 時 年 齢 も 受 賞 者 の 方 が 若 くなっている. 総 ノミネート 回 数 は 受 賞 者 に 多 く, 勝 ちやすさの 指 標 も 受 賞 者 で 高 い 4. 社 会 的 及 び 商 業 的 に 作 家 として 成 功 する 者 は, 芥 川 賞 直 木 賞 の 受 賞 とは 無 関 係 に 社 会 的 地 位 が 高 まる 可 能 性 がある. 社 会 的 成 功 者 が 受 賞 する 可 能 性 が 高 ければ, 受 賞 すること の 効 果 にバイアスが 生 ずる 可 能 性 がある. 共 変 量 の 分 布 の 差 は, 受 賞 者 に 受 賞 以 前 の 段 階 で 成 功 者 が 多 い 可 能 性 を 間 接 的 に 示 しているため, 分 析 ではこれらの 共 変 量 を 含 める 必 要 がある. Cox 比 例 ハザード モデルを 使 用 した 分 析 に 移 る 前 に,カプラン マイヤー 法 により 計 算 された 生 存 関 数 を 見 てみよう. 図 1 は, 生 存 関 数 をグラフ 化 したものである. 始 点 は, 初 回 ノミネート 時 とした. 図 1. カプラン マイヤー 法 による 比 較 0.00 0.25 0.50 0.75 1.00 芥 川 賞 0 20 40 60 80 0.00 0.25 0.50 0.75 1.00 直 木 賞 0 20 40 60 80 受 賞 者 ノミネート 者 左 図 は 芥 川 賞 の 結 果 を, 右 図 は 直 木 賞 の 結 果 を 示 している. 芥 川 賞 では, 初 回 ノミネー ト 時 から 40 年 程 度 の 期 間 は, 受 賞 者 の 生 存 率 はノミネート 者 よりも 高 く,Wilcoxson 検 定 では, 任 意 の 時 点 の 生 存 率 に 両 グループ 間 で 差 がないという 帰 無 仮 説 は 5%の 有 意 水 準 で 統 計 的 に 棄 却 される 5. 一 方, 直 木 賞 では, 受 賞 者 の 生 存 率 とノミネート 者 のそれは 大 きく 4 ただし, 勝 ちやすさの 指 標 の 解 釈 については, 受 賞 者 が 存 在 しない 回 が 一 定 数 あることを 考 慮 する 必 要 がある. 5 ログランク 検 定 では 棄 却 できないが,Tarone-Ware 検 定 (10%),Peto-Peto 検 定 (5%)ではそれぞれ 棄 却 される.() 内 は 有 意 水 準 を 示 す. 5
違 いがなく,いずれの 検 定 結 果 でも, 上 述 と 同 様 の 帰 無 仮 説 は 棄 却 されない. 3.2. Cox 比 例 ハザード モデルによる 分 析 表 2 には,Cox 比 例 ハザード モデルの 分 析 結 果 を 示 した.これによると, 芥 川 賞 デー タでは, 受 賞 により 死 亡 確 率 が 27-8% 下 落 する.この 効 果 の 存 在 は,10%の 有 意 水 準 では あるが 統 計 的 に 支 持 される. 一 方, 直 木 賞 データでは, 受 賞 が 死 亡 確 率 を 上 昇 させる 方 向 性 を 示 しているが,この 効 果 の 存 在 はいずれの 有 意 水 準 でも 統 計 的 に 支 持 されない. 共 変 量 の 影 響 については, 両 賞 で 共 通 するところと 異 なるところがある. 生 年 が 直 近 に 近 づくほど 死 亡 確 率 は 双 方 で 下 落 する. 但 し,その 内 実 は 異 なるようだ.1-2 列 と 2-2 列 を 見 れば, 明 治 生 まれをベースとした 時,どの 世 代 の 死 亡 確 率 が 下 落 するかは 大 きく 異 なる. 初 回 ノミネート 時 年 齢 の 上 がると 死 亡 確 率 は 双 方 で 上 昇 するが, 総 ノミネート 回 数 や 勝 ち やすさの 指 標 は, 直 木 賞 データでは 統 計 的 に 有 意 な 影 響 を 持 たない. 表 2. Cox 比 例 ハザード モデルによる 分 析 結 果 Cox 比 例 ハザード モデル 芥 川 賞 (N=381) 直 木 賞 (N=401) 1-1 1-2 2-1 2-2 受 賞 者 ダミー 0.728* 0.719* 1.267 1.263 (0.126) (0.126) (0.198) (0.198) 生 年 0.964*** 0.985*** (0.006) (0.005) 大 正 生 まれダミー 0.632** 0.843 (ベース: 明 治 生 まれ) (0.115) (0.131) 昭 和 生 まれ( 戦 前 ) 0.482*** 0.768 (0.120) (0.163) 昭 和 生 まれ( 戦 時 中 ) 0.244*** 0.540*** (0.059) (0.116) 昭 和 生 まれ( 戦 後 ) 0.177*** 0.770 (0.084) (0.273) 初 回 ノミネート 時 年 齢 1.021*** 1.021*** 1.025*** 1.024*** (0.004) (0.004) (0.003) (0.003) 総 ノミネート 回 数 1.052*** 1.051*** 1.004 1.004 (0.019) (0.020) (0.012) (0.012) 勝 ちやすさの 指 標 3.861** 5.118** 1.341 1.394 (2.624) (3.466) (0.597) (0.638) seeform in parentheses *** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1 4. 結 論 1 で 挙 げたリサーチ クエスチョンのうち,1 つ 目 は 3 の 結 果 から 検 証 できた. 芥 川 賞 の データでは, 受 賞 者 の 平 均 寿 命 がノミネート 者 のものよりも 約 6.4 年 長 かった. 共 変 量 の 影 響 を 考 慮 した 分 析 でも, 芥 川 賞 受 賞 者 の 死 亡 確 率 はノミネート 者 よりも 27-8% 低 くなる 6
という 結 果 が 得 られた. 一 方, 直 木 賞 のデータでは 上 述 の 傾 向 は 観 察 されなかった. では,この 違 いはどこから 生 じているのだろうか.これが,2 つ 目 の 問 いである. 正 式 な 議 論 には 追 加 的 な 分 析 が 必 要 であるが, 違 いを 生 む 要 因 は 幾 つか 考 えられる. 一 つは, 受 賞 者 あるいはノミネート 者 の 平 均 年 齢 の 違 いである. 表 1 を 見 ると, 芥 川 賞 データの 平 均 年 齢 の 方 が 直 木 賞 データよりも 低 い. 直 木 賞 サンプルには 中 堅 以 上 の 作 家 も 多 く 含 まれ ているため, 受 賞 者 とノミネート 者 共 に 社 会 的 地 位 を 既 に 獲 得 していることが 多 く, 受 賞 すること,あるいは 受 賞 しないことの 影 響 が 小 さい 可 能 性 がある. 一 方, 脚 注 3 で 挙 げた, 芥 川 賞 ノミネート 者 のサンプルに 現 時 点 での 生 死 不 明 な 者 が 多 いという 結 果 も 示 唆 的 だ. この 結 果 は,ノミネートで 終 わった 者 が,その 後 寡 作 であったり,そのまま 作 家 を 辞 めて しまったりする 可 能 性 を 表 している. 芥 川 賞 は 新 人 賞 であるため, 受 賞 できないことがそ の 後 の 仕 事 の 量 や 本 人 の 精 神 状 態 に 及 ぼす 影 響 の 程 度 が, 直 木 賞 の 場 合 よりも 大 きいのか もしれない.これらの 観 点 を 下 に, 今 後 の 分 析 を 進 める. 参 考 文 献 文 藝 春 秋. (2014a). 文 藝 春 秋 特 別 編 集 芥 川 賞 直 木 賞 150 回 全 記 録. 文 藝 春 秋, 東 京 都, 日 本. 文 藝 春 秋. (2014b). 各 賞 紹 介. http://www.bunshun.co.jp/award/, ( 閲 覧 日 :2015 年 9 月 7 日 ). 川 口 則 弘. (2015a). 芥 川 賞 の す べ て の よ う な も の. http://homepage1.nifty.com/naokiaward/akutagawa/, ( 閲 覧 日 :2015 年 9 月 7 日 ). 川 口 則 弘. (2015b). 直 木 賞 のすべて. http://homepage1.nifty.com/naokiaward /, ( 閲 覧 日 :2015 年 9 月 7 日 ). 日 本 文 藝 家 協 会. (2015). 文 藝 年 鑑 日 本 文 藝 家 協 会 編. 新 潮 社, 東 京 都, 日 本. Rablen, M. D., & Oswald, A. J. (2008). Mortality and immortality: The Nobel Prize as an experiment into the effect of status upon longevity. Journal of Health Economics, 27(6), 1462-1471. Redelmeier, D. A., & Singh, S. M. (2001a). Survival in Academy Award winning actors and actresses. Annals of Internal Medicine, 134(10), 955-962. Redelmeier, D. A., & Singh, S. M. (2001b). Longevity of screenwriters who win an academy award: longitudinal study. BMJ: British Medical Journal, 323(7327), 1491. 新 潮 社. (1988). 新 潮 日 本 文 学 辞 典. 新 潮 社, 東 京 都, 日 本. 7