現 代 クメール 語 の 三 人 称 代 名 詞 平 成 21 年 1 月 提 出 外 国 語 学 部 カンボジア 語 専 攻 言 語 情 報 コース 松 岡 奈 々 子
目 次 0. はじめに 2 1. 先 行 研 究 3 1.1. 主 な 要 素 3 1.2. 現 代 クメール 語 の 呼 称 詞 に 関 する 先 行 研 究 5 1.2.1. 坂 本 (1972) 5 1.2.2. 岡 田 (1992) 7 1.3. 三 人 称 代 名 詞 についての 先 行 研 究 8 1.3.1. 坂 本 (2001) (1988) 8 1.3.2. Huffman(1970) 9 1.3.3. Jacob(1968) 9 1.3.4. Khin(1999) 9 1.4. 他 言 語 の 三 人 称 代 名 詞 についての 先 行 研 究 9 2. 原 則 10 2.1. 出 現 する 三 人 称 代 名 詞 10 2.2. 三 人 称 代 名 詞 の 選 択 基 準 12 2.2.1. 話 し 手 聞 き 手 第 三 者 の 関 係 12 2.3. 三 人 称 代 名 詞 の 原 則 12 2.3.1. 親 族 間 13 2.3.2. 非 親 族 間 16 3. 原 則 に 従 わない 場 合 20 3.1. 身 分 の 差 20 3.2. 話 し 手 - 第 三 者 の 親 疎 関 係 感 情 21 3.3. 女 性 らしさ( 結 婚 適 齢 期 ) 21 4. その 他 の 用 法 24 4.1 噂 話 の/kèe/ 24 4.2. 夫 婦 の 場 合 26 4.3. /puok/ ~たち 27 4.4. 三 人 称 代 名 詞 + 指 示 詞 29 4.5. 三 人 称 代 名 詞 と 名 詞 + 三 人 称 代 名 詞 30 4.6. 二 人 称 詞 としての/kɔət/ 32 5. おわりに 32 参 考 文 献 35 付 録 1
0. はじめに クメール 語 も 日 本 語 と 同 様 に 敬 語 を 用 いるが クメール 語 の 敬 語 は 動 詞 よりも 人 称 詞 1 によって 表 わされると 考 えられるため 適 切 な 人 称 詞 を 選 ぶことが 必 要 とされる 人 称 詞 の 選 択 には 自 己 ( 話 し 手 )と 聞 き 手 との 関 係 会 話 で 言 及 される 第 三 者 との 関 係 が 考 慮 される 坂 本 (1972)によれば クメール 語 の 親 族 呼 称 を 選 択 する 際 には 世 代 年 齢 性 別 が 三 大 要 素 となって 考 慮 され 世 代 年 齢 性 別 の 順 に 優 先 される また 話 し 手 と 聞 き 手 第 三 者 との 親 密 さを 表 すために 非 親 族 であっても 親 族 名 称 が 転 用 されることが 多 い 親 族 呼 称 以 外 の 呼 称 については 岡 田 (1992)に 詳 しく 親 族 間 では 世 代 と 年 齢 が 非 親 族 間 では 実 年 齢 が 考 慮 すべき 要 素 とされている しかし 先 行 研 究 中 では 主 に 一 人 称 と 二 人 称 が 扱 われ ており 三 人 称 についての 言 及 は 皆 無 に 等 しい 系 統 は 異 なるが 同 じ 東 南 アジア 地 域 に 話 者 人 口 の 多 いタイ 語 とラオ 語 でも 非 親 族 間 で 親 族 呼 称 を 転 用 し さらに 人 称 詞 の 選 択 には 親 疎 関 係 が 影 響 する とくにラオ 語 では 目 上 ( 上 位 者 )については 失 礼 に 当 たるため 三 人 称 代 名 詞 を 用 いない とされている しか しながらタイ 語 の 研 究 ( 三 上 1981)でもラオ 語 の 研 究 ( 鈴 木 2007)でも 人 称 代 名 詞 の 中 でも 一 人 称 二 人 称 についての 考 察 が 中 心 で 三 人 称 についての 言 及 は 少 ない クメール 語 の 三 人 称 代 名 詞 にはどのようなものがあるのだろうか 先 行 研 究 で 三 人 称 代 名 詞 を 独 立 した 項 目 として 説 明 しているものは Khin(1999)と 坂 本 (1988)である 両 者 が 共 通 して 挙 げている 語 もあるが 全 体 としては 三 人 称 代 名 詞 として 挙 げられている 語 の 数 も 説 明 も 異 なる また 坂 本 (2001) Huffman(1970) Jacob(1968)は 入 門 書 という 性 質 もあるが 巻 末 の 索 引 でそれぞれの 語 に 辞 書 的 な 説 明 がなされているのみである 即 ち 三 人 称 代 名 詞 の 種 類 について 明 確 にされてはいない さらに 三 人 称 代 名 詞 の 選 択 基 準 も 明 らかではない 尊 敬 的 代 名 詞 や ぞんざいな 代 名 詞 ( 坂 本 1988)という 定 義 はあるものの 明 確 な 選 択 基 準 は 示 されておらず 親 疎 関 係 で どのように 用 法 が 変 わるのか についての 説 明 もない 以 上 に 示 したとおり クメール 語 の 三 人 称 代 名 詞 にはどのようなものがあるのか 三 人 称 代 名 詞 の 選 択 基 準 は 何 か はまだ 明 確 にされていない そこで 本 稿 では 三 人 称 代 名 詞 の 選 択 基 準 用 法 を 明 らかにし 三 人 称 代 名 詞 の 体 系 を 示 すこと の2 点 を 研 究 の 目 的 と する なお 本 稿 では 岡 田 (1992)を 参 考 に 文 学 作 品 2 から 例 文 を 集 め 分 析 したが 現 代 小 説 の 会 話 文 からのみ 三 人 称 代 名 詞 を 抽 出 し 叙 述 部 分 は 扱 わなかった 個 人 名 親 族 呼 称 1 人 称 詞 とは 自 己 や 会 話 をする 相 手 会 話 に 登 場 する 第 三 者 を 呼 ぶ 語 のことである 人 称 詞 の 中 には 名 前 親 族 名 称 親 族 呼 称 職 業 名 称 人 称 代 名 詞 などがある 2 出 所 に4~6ケタの 番 号 がついているものは 東 京 外 国 語 大 学 カンボジア 語 専 攻 のデータベースを 使 用 さ せていただいた なお それぞれの 小 説 の 特 徴 やあらすじについては 付 録 を 参 照 2
役 割 名 称 は 三 人 称 代 名 詞 として 扱 わない また 再 帰 代 名 詞 /kluon/ 3 とゼロ 代 名 詞 4 につい ても それらを 扱 うと 対 象 が 膨 大 になりすぎること それぞれを 見 分 けることがそもそも 難 しいことから 本 稿 では 三 人 称 代 名 詞 として 扱 わなかった 以 下 出 所 の 示 されていな い 例 はすべてインフォーマント 5 から 得 た 例 である 例 の 音 韻 表 記 は 坂 本 (1988)に 従 い 先 行 研 究 からの 引 用 も 本 稿 に 掲 載 するに 当 たり 表 記 を 統 一 した 1. 先 行 研 究 1.1. 主 な 要 素 本 稿 で 扱 う 用 語 を 主 に 坂 本 (1972)と 岡 田 (1992)をもとに 以 下 に 定 義 する 三 人 称 代 名 詞 とは 名 前 や 職 業 名 詞 や 親 族 名 称 などを 用 いずに 第 三 者 を 指 すための 語 のことである 日 本 語 でいう 彼 彼 女 彼 ら あいつ あの 方 などの 語 のこと である クメール 語 の 三 人 称 代 名 詞 には 尊 敬 的 なもの 侮 蔑 的 なものなど 第 三 者 によっ て いくつかある 三 人 称 代 名 詞 を 使 い 分 けなければならない 親 族 名 称 とは 親 族 の 中 でその 人 は 自 分 から 見 て 何 に 当 たるか と 説 明 するときの 呼 び 方 である いっぽう 親 族 呼 称 とは 親 族 の 中 のある 人 を 自 己 が 呼 ぶときの 名 前 のこ とである 私 の 従 兄 (いとこ)です と 言 うときの 従 兄 は 親 族 名 称 だが お 兄 ちゃ ん 遊 びに 行 こうよ と 従 兄 に 話 しかけるときの お 兄 ちゃん は 親 族 呼 称 である クメール 語 では 一 人 称 二 人 称 三 人 称 で 親 族 間 非 親 族 間 に 関 わらず 広 範 に 親 族 呼 称 を 用 いる 非 親 族 間 では 親 族 呼 称 を 用 いることにより 親 近 感 や 尊 敬 の 意 を 表 すことができ る この 親 族 呼 称 の 転 用 はクメール 語 以 外 にタイ 語 やラオ 語 日 本 語 にみることがで 3 再 帰 代 名 詞 /kluon/の 先 行 詞 はどのように 特 定 されるのかについて 述 べた 岡 田 (1995)は /kluon/が 単 文 あるいは 主 節 にある 場 合 副 詞 節 にある 場 合 名 詞 修 飾 節 にある 場 合 補 文 にある 場 合 の4つの 場 合 に 分 け それぞれで 先 行 詞 はどこにあるのか 例 を 挙 げて 分 析 している すべての 場 合 で 先 行 詞 は 先 行 する 文 または 節 の 主 語 である しかし/kluon/が 名 詞 修 飾 節 の 一 部 である 場 合 には 例 外 的 に 先 行 する 文 節 の 主 語 以 外 も 先 行 詞 となりうる その 場 合 文 脈 で 先 行 詞 を 判 断 する 分 析 の 中 で 多 くの 例 が 挙 げられてお り その 中 では/kluon/の 先 行 詞 は 老 若 男 女 を 選 ばないということがわかる 強 いて 言 えば /kluon/が 三 人 称 代 名 詞 の 代 わりに 用 いられるのは 先 行 詞 が 人 の 名 前 であり 先 行 詞 のある 文 節 を 際 立 たせたい 場 合 に 用 いられているようである また 所 有 関 係 を 明 確 に 示 すことができるようである 4 ゼロ 代 名 詞 の 先 行 詞 はどのように 特 定 されるのかについて 述 べた 岡 田 (1994)は 主 語 でも 補 語 でもゼロ 代 名 詞 の 先 行 詞 となれるということを 証 明 し また 同 じ 構 造 の 文 でも 動 詞 や 副 詞 句 を 変 えることでゼロ 代 名 詞 の 先 行 詞 が 変 わるということを 証 明 している そこから クメール 語 のゼロ 代 名 詞 は 統 語 的 な 規 則 から ではなく 言 語 外 の 要 素 から 特 定 されるという 結 論 を 導 き 出 している その 後 先 行 詞 があいまいである 文 を 例 に 挙 げ その 先 行 詞 はクメール 語 の 話 し 手 / 聞 き 手 の 常 識 や 文 脈 などの 言 語 外 の 要 素 から 判 断 されるという 結 論 を 補 強 している /kluon/と 同 様 ゼロ 代 名 詞 も 老 若 男 女 を 問 わず 先 行 詞 にすること ができる ゼロ 代 名 詞 を 用 いる 場 合 と 用 いない 場 合 には 何 か 基 準 があるのかについての 分 析 は ここでは なされていない 5 インフォーマントとして Samreth Sothea 氏 と Sea Lida 氏 にご 協 力 いただいた Sothea 氏 は 1973 年 カンボジア 王 国 コンポンチャム 州 に 生 まれ 1980 年 にプノンペン 市 へ 移 住 した 1994 年 から 王 立 プノンペ ン 大 学 で 文 学 部 で 教 鞭 を 執 る 2003 年 にフランスへ2ヶ 月 間 留 学 したほか 2008 年 4 月 から 来 日 中 Lida 氏 は 1985 年 カンボジア 王 国 プノンペン 市 に 生 まれた 交 換 派 遣 留 学 生 として1 年 間 日 本 に 留 学 したほか 2007 年 10 月 より 来 日 中 3
きる 自 己 の 世 代 を 同 世 代 自 己 の 親 の 世 代 以 上 の 世 代 を 上 の 世 代 自 己 の 子 ども 以 下 の 世 代 を 下 の 世 代 と 認 識 する クメール 社 会 では 親 族 名 称 呼 称 を 選 択 する 際 年 齢 や 性 別 よりも 一 番 に 世 代 を 重 視 する 話 し 手 の 年 齢 が 相 手 もしくは 話 題 にしている 第 三 者 より 年 上 だとしても 世 代 が 下 であれば 目 下 の 者 として その 世 代 にあった 名 称 呼 称 を 選 択 しな ければならない 結 婚 した 当 事 者 同 士 は 同 世 代 と 見 なされる 三 人 称 代 名 詞 については 世 代 や 年 齢 がどのように 関 係 しているのか またはしていないのか 坂 本 (1972)での 言 及 は ない 同 世 代 間 では 年 齢 が 考 慮 される 相 手 や 第 三 者 の 年 齢 がはっきりとわからない 場 合 にはその 人 に 対 して 年 上 のほうの 親 族 名 称 を 用 いる 例 えば 年 齢 がはっきりしない 同 世 代 の 相 手 に 対 しては お 姉 さん または お 兄 さん と 呼 びかける 6 坂 本 (1972)によれば 目 上 の 者 に 対 して 二 人 称 に 代 名 詞 を 使 うことはないが あなた という 意 味 で 同 年 代 の 相 手 に 二 人 称 として 尊 敬 的 三 人 称 代 名 詞 /kɔət/が 用 いられることがある 7 男 女 差 については クメール 社 会 では 男 性 のほうが 女 性 よりも 上 位 とされる( 坂 本 1972) 上 位 者 下 位 者 同 等 については 自 己 よりも 相 手 もしくは 第 三 者 の 立 場 が 上 位 か 下 位 か 同 等 を 判 断 することはクメール 語 の 呼 称 詞 選 択 において 重 要 である 立 場 を 判 断 する 際 に 考 慮 されるのは 世 代 年 齢 性 別 で 前 から 順 に 優 勢 である クメール 語 では 親 族 呼 称 を 選 択 する 際 まずは 自 己 より 世 代 が 上 か 下 か 同 世 代 かを 判 断 し 同 世 代 ならば 自 己 よりも 年 上 か 年 下 か 同 年 齢 かを 判 断 し 同 年 齢 ならば 相 手 の 性 別 をみるのである 本 稿 では 自 己 よりも 上 位 の 人 を 上 位 者 下 位 の 人 を 下 位 者 同 じ 立 場 の 人 を 同 等 と 呼 ぶこと とする 年 長 者 同 年 代 年 少 者 については 上 位 者 下 位 者 同 等 とは 異 なり 年 齢 のみ が 考 慮 されたときの 呼 び 方 とする 同 年 代 は 同 年 齢 の 人 だけでなく 2~3 歳 年 長 年 少 の 人 も 含 めた 範 囲 を 指 す 血 縁 関 係 については 血 縁 関 係 がなくても 親 族 名 称 が 広 く 名 称 または 呼 称 として 使 われている 親 族 間 では 三 人 称 代 名 詞 /kɔət/ /kèe/を 使 うことはほとんどないが 姻 族 間 で 用 いる 義 理 の 息 子 のことは/kɔət/と 言 うが 義 理 の 娘 のことはそう 言 わない 配 偶 者 間 では 妻 が 目 上 の 人 に 夫 のことを 話 すときには/kèe/を 使 うことがあり まれに/kɔət/を 用 い ることもある 一 方 夫 は 妻 を/kèe/と 呼 ぶことがあるが/kɔət/は 用 いない 敬 意 については 日 本 語 に 敬 語 や 侮 蔑 的 な 言 葉 遣 いがあるのと 同 じように クメー ル 語 にも 敬 語 や 侮 蔑 的 な 言 葉 遣 いがある クメール 語 は 尊 敬 的 な 動 詞 もあるが どちらか といえば 名 詞 で 敬 語 をつくる 言 語 だといえる 名 詞 で 敬 語 をつくる とは 上 位 者 の 名 前 6 坂 本 (1972)によれば クメール 語 では 非 親 族 に 対 しても 親 族 呼 称 を 転 用 する 7 坂 本 (2001)では /kɔət ʔaeŋ/ 1あなた 2 彼. 彼 女 (/kɔət/より 親 しみがあり 従 って 親 しくない 人 に 対 して 使 うと 乱 暴 ) という 記 述 がある 4
や 職 業 名 詞 を 何 度 も 呼 ぶ 目 上 の 親 族 呼 称 で 相 手 や 第 三 者 をよぶ といった 方 法 がある 三 人 称 代 名 詞 についていえば クメール 語 の 三 人 称 代 名 詞 は 尊 敬 度 によって 使 い 分 けら れていると 先 行 研 究 では 示 されている 第 三 者 の 呼 称 を 選 択 するとき 親 族 名 称 では 話 し 手 と 聞 き 手 のうち 目 下 の 者 が 基 準 になる また 親 族 名 称 や 名 前 親 族 名 称 + 名 前 職 業 名 称 職 業 名 称 + 名 前 と 比 べ 三 人 称 代 名 詞 を 用 いる 場 合 にはそれは 失 礼 になるのかとい った 言 及 もない 結 婚 適 齢 期 については 話 し 手 が 結 婚 適 齢 期 である 場 合 三 人 称 代 名 詞 の 選 択 に 影 響 がある 結 婚 適 齢 期 とは 10 代 後 半 から 20 代 のあいだを 指 す 1.2. 現 代 クメール 語 の 呼 称 詞 に 関 する 先 行 研 究 現 代 クメール 語 の 呼 称 詞 に 関 しては 坂 本 (1972)と 岡 田 (1992)が 詳 しい 坂 本 (1972)は 親 族 名 称 と 呼 称 の 体 系 を 詳 しく 明 らかにしている 岡 田 (1992)は 呼 称 詞 の 中 の 一 人 称 と 二 人 称 の 用 法 の 原 則 について 述 べている 坂 本 (1972)では 非 親 族 間 について 述 べる 際 にも 職 業 や 地 位 を 考 慮 に 入 れていなかったが 岡 田 (1992)では 職 業 を 考 慮 した 場 合 についても 論 じ ている 坂 本 (1972)では 親 族 呼 称 の 選 択 では 世 代 年 齢 性 別 の3 要 素 があり 前 から 順 番 に 重 要 とされる と 述 べている 岡 田 (1992)は 親 族 間 では 世 代 と 年 齢 と 親 疎 関 係 が 非 親 族 間 では 年 齢 と 親 疎 関 係 が 上 位 者 下 位 者 を 決 定 する 要 素 となる と 述 べている 結 婚 適 齢 期 にある 未 婚 の 男 女 間 以 外 では 性 による 上 下 関 係 はない それから 下 位 者 に 対 しては 親 疎 関 係 が 働 くが 上 位 者 に 対 しては 親 疎 関 係 が 働 かない 坂 本 (1972)と 岡 田 (1992)に 共 通 して 呼 称 詞 について 明 らかにされていることは 呼 称 詞 を 選 択 する 際 には 世 代 年 齢 性 別 が 考 慮 されるという 点 親 族 間 と 非 親 族 間 では 呼 称 詞 の 選 択 基 準 が 異 なるという 点 下 位 者 に 対 しては 親 疎 関 係 が 働 くが 上 位 者 に 対 しては 親 疎 関 係 が 働 かないという 点 の3 点 である しかしながら 坂 本 (1972)では 親 族 呼 称 について 論 じているため 人 称 代 名 詞 については 詳 しくない また 岡 田 (1992)では 人 称 代 名 詞 を 扱 っているものの 一 人 称 と 二 人 称 のみで 三 人 称 代 名 詞 の 用 法 は 明 らかにされていない 1.2.1. 坂 本 (1972) 坂 本 (1972)では 親 族 名 称 と 呼 称 について 詳 しく 述 べている 本 稿 で 三 人 称 代 名 詞 につ いて 論 じる 前 に クメール 語 の 呼 称 詞 体 系 を 概 観 する 親 族 名 称 は 血 族 姻 族 に 分 け 血 族 の 中 でも 直 系 血 族 と 傍 系 血 族 に 分 けて 論 じている 直 系 血 族 では G+1 8 以 上 の 世 代 に 相 手 の 性 の 区 別 があり G+5 G-5まで 名 称 があ る 話 し 手 の 性 は 関 係 ない 傍 系 血 族 では 母 親 父 親 どちらの 系 統 かの 区 別 はなく 年 齢 の 大 小 による 名 称 の 区 別 が 自 己 の 世 代 以 上 にある 傍 系 血 族 は 父 の 世 代 の 血 族 ならば 8 自 己 の 世 代 を G+1 と 表 し G+1 は 自 己 よりも 1 世 代 上 G-1 は 自 己 よりも1 世 代 下 を 意 味 する 5
父 の 年 齢 母 の 世 代 の 血 族 ならば 母 の 年 齢 を 基 準 に 考 える 自 己 の 年 齢 は 関 係 ない イト コ マタイトコ マタイトコの 子 まで 名 称 があるがそれは 当 事 者 同 士 が 共 通 に 持 つ 直 系 親 族 について それを 共 有 する 間 柄 という 意 味 である その 共 通 に 持 つ 直 系 親 族 は 祖 父 ではなく 祖 母 であり 母 系 制 社 会 を 反 映 しているようにも 見 える 自 己 よりも 上 の 世 代 の 血 族 は ( 直 系 ):( 傍 系 )という 対 立 ではなく ( 直 系 + 直 系 の 年 長 ):( 直 系 の 年 少 )の 対 立 をしている 姻 族 では 配 偶 者 の 血 族 の 名 称 は 自 己 との 実 際 の 年 齢 関 係 ではなく 世 代 が 考 慮 される 血 族 名 称 との 本 質 的 な 差 異 はない 呼 称 では 直 系 血 族 のすべてについて 相 手 の 性 による 区 別 はない 直 系 と 傍 系 との 区 別 が 名 称 においてはG+1とG-1とに 見 られたが 呼 称 ではG+1にしか 見 られない 名 前 だけ 又 は/ʔaa/+ 名 前 の 形 の 呼 びかけは 親 族 には 限 られないので 世 代 が 下 の 者 もしくは 同 世 代 で 年 少 の 者 に 対 しては 親 族 としての 特 別 な 呼 称 はない 親 族 間 での 呼 称 の 形 式 には 以 下 の4 種 がみとめられる A) 世 代 が 上 の 年 長 者 及 び 同 世 代 の 年 長 者 ( 但 し 男 女 をのぞく)に 対 してはいわゆる 親 族 名 称 を 用 い 相 手 の 名 前 を 使 わない B) 世 代 が 上 の 年 少 者 に 対 してはAに 更 に 相 手 の 名 前 を 添 える C) 世 代 が 下 の 年 長 者 男 から 同 世 代 の 年 長 の 女 及 び 女 から 同 世 代 の 年 少 の 男 に 対 して は 相 手 の 名 前 のみを 用 いる D) 同 世 代 の 年 少 者 ( 但 し 女 男 を 除 く) 及 び 世 代 が 下 の 年 少 者 に 対 しては 相 手 の 名 前 の 前 に/ʔaa/をつける すなわち 相 手 への 呼 びかけ 方 は 先 ず 相 手 が 自 己 よりも 1) 世 代 が 上 であるか 下 であるか 2) 年 長 者 であるか 年 少 者 であるか によって 定 められ 同 世 代 の 相 手 に 対 してはさらに 3) 相 手 の 性 が 考 慮 に 入 れられる そうしてすべての 親 族 のうち 1 世 代 が 上 の 者 最 も 強 い 2 年 長 者 3 男 性 (2と 同 等 ) が 目 上 とみとめられる 姻 族 についても 以 上 の 法 則 に 従 う 結 婚 の 当 事 者 は 上 記 の 同 世 代 間 の 法 則 に 則 る 子 どもが 生 まれてからは 子 どもを 指 す 三 人 称 代 名 詞 /vèə/または 子 どもの 名 前 を 使 って ~ のお 母 さん という 意 味 で 妻 を/mae vèə/(もしくは/ʔaa/+ 子 どもの 名 前 ) /mak vèə/ (もしくは/ʔaa/+ 子 どもの 名 前 )で 呼 ぶようになることもある 姻 族 に 対 する 呼 びかけは 血 族 に 対 する 呼 びかけよりもやや 遠 慮 丁 寧 さが 現 れる 代 名 詞 的 な 場 合 一 人 称 には 相 手 が 自 己 よりも 目 上 ならば/kɲom/ 目 下 ならば/ʔaɲ/を 6
使 うのが 普 通 である 9 相 手 が 幼 い 場 合 は お 父 さん などと 相 手 から 見 た 自 己 の 呼 称 を 用 いることもある 二 人 称 には 親 族 には 呼 称 をそのまま 使 うほか 目 下 に 対 しては/ʔaeŋ/を 用 いることもできる 目 上 に 対 しては 代 名 詞 を 使 わない 三 人 称 には 親 族 同 士 の 会 話 中 で 第 三 の 親 族 について 話 す 場 合 会 話 をしている 者 のうち 目 下 の 方 から 見 た 親 族 名 称 又 は 呼 称 を 用 いる 呼 称 に/ʔaeŋ/を 添 えて お 前 の という 意 味 をはっきりさせることもある 妻 が 目 上 の 人 に 夫 のことを 話 す 場 合 名 称 又 は/kèe/ 又 は/kɔət/を 用 いる いっぽう 夫 は 妻 のことを 名 称 又 は/kèe/ 又 は/ʔaa/+ 名 前 を 用 いる 名 称 および 呼 称 については 常 に 世 代 が 上 のものが 基 準 に 置 かれたが 彼 女 の 場 合 には 目 下 世 代 が 下 の 者 に 基 準 が 置 か れる 1.2.2. 岡 田 (1992) 岡 田 (1992)は 一 人 称 詞 と 二 人 称 詞 について 親 族 内 の 場 合 と 親 族 外 の 場 合 について 論 じ そして 以 上 の 二 つの 場 合 を 合 わせてみたときの 一 般 原 則 を 述 べている また 職 業 を 考 慮 した 場 合 についても 論 じている 研 究 方 法 としては 小 説 中 の 登 場 人 物 の 呼 称 詞 の 分 析 と インフォーマントによる 呼 称 用 法 の 分 析 の 二 つの 方 法 を 用 いている 前 者 は 現 代 クメール 語 の 小 説 中 に 出 てくる 呼 称 をそれぞれの 小 説 ごとに 分 析 して 表 にあらわし まとめている 特 に ゆれのある 呼 称 用 法 ( 親 子 間 結 婚 適 齢 期 にある 未 婚 の 男 女 間 )についてはより 詳 しく 分 析 している インフォーマントによる 呼 称 詞 用 法 では 多 数 のインフォーマントに 対 して 年 齢 を 12 に 区 分 し さらにその 区 分 の 中 で 親 しさを3 段 階 設 定 し それぞれの 場 合 にどのような 一 人 称 詞 二 人 称 詞 を 用 いるかインタビューを 行 った その 結 果 をまとめて いる 職 業 を 考 慮 した 場 合 では 職 業 を5 段 階 に 区 分 し 職 業 ごとによる 呼 称 用 法 の 違 い を 親 族 内 親 族 外 での 呼 称 用 法 の 原 則 に 照 らし 合 わせて 検 討 し その 職 業 がカンボジア 社 会 でどのような 位 置 を 占 めているかを 考 察 している 親 族 内 では 上 位 者 に 対 しては 一 人 称 詞 に 人 称 代 名 詞 /kɲom/ あるいは 相 手 からみた 親 族 呼 称 を 使 い 二 人 称 詞 には 親 族 呼 称 親 族 呼 称 +FN(ファーストネーム)を 使 う 下 位 者 に 対 しては 一 人 称 詞 に 人 称 代 名 詞 /kɲom/ /ʔaɲ/ あるいは 相 手 からみた 親 族 呼 称 を 使 い 二 人 称 詞 には 人 称 代 名 詞 /ʔaeŋ/ 親 族 呼 称 親 族 呼 称 +FN FN などを 使 う 特 に 小 説 内 では 一 人 称 二 人 称 ともに 親 族 呼 称 を 使 うことによってお 互 いの 親 密 さ 結 びつきの 強 さなどを 表 現 している 上 位 者 下 位 者 を 成 立 させる 基 準 は 世 代 年 齢 であり 上 位 者 と されるのは 世 代 が 上 年 長 者 である 世 代 のほうが 年 齢 という 基 準 よりも 優 勢 に 働 き 性 による 上 下 の 差 は 見 られなかった 親 疎 関 係 に 応 じて 呼 称 用 法 にゆれが 見 られることもあ るが それは 一 時 的 なものに 過 ぎない 親 族 外 での 呼 称 詞 の 使 い 方 は 親 族 内 での 使 い 方 とほぼ 同 様 である ただ 相 手 が 高 齢 に なると 相 手 の 絶 対 的 年 齢 に 応 じた 擬 似 親 族 呼 称 ( 相 手 の 世 代 年 代 を 自 分 の 親 族 の 親 族 名 称 に 当 てはめた 呼 称 )を 使 うこともある 小 説 内 では 年 齢 差 があまりなく 親 しさを 表 9 そのほか 親 しい 間 柄 での 会 話 での 一 人 称 として/knèə/や 尊 大 で 丁 寧 でない 一 人 称 /jə əŋ/がある 7
現 するために 関 係 語 /sɔmlaɲ/や/mɯt/を 使 うことがある 上 位 者 下 位 者 を 決 定 する 基 準 は 年 齢 のみである 結 婚 適 齢 期 にある 未 婚 の 男 女 間 での 呼 称 用 法 を 除 いて 性 による 差 異 あるいは 上 下 の 区 別 は 見 られない このほかに 年 齢 という 基 準 のほかに 親 疎 関 係 という 基 準 が 加 わり 上 位 者 は 親 疎 関 係 に 応 じて 多 種 の 二 人 称 詞 から 選 ぶことができるが 下 位 者 に 対 しては 親 疎 関 係 が 働 くが 上 位 者 に 対 しては 親 疎 関 係 が 働 かないということがいえ る 言 い 換 えれば 上 位 者 に 対 しては 親 しくしてはいけないが 下 位 者 に 対 しては 親 しくし てよいという 社 会 規 範 があるともいえる 親 族 内 親 族 外 の 呼 称 用 法 を 通 してみると 基 準 は 年 齢 と 世 代 親 疎 関 係 である 一 人 称 詞 と 二 人 称 詞 を 比 較 してみると 二 人 称 詞 の 方 が 種 類 が 圧 倒 的 に 多 い 一 人 称 詞 よりも 二 人 称 詞 によって 親 密 度 や 丁 寧 度 を 表 すことがわかる 岡 田 (1992)では 一 人 称 詞 と 二 人 称 詞 しか 扱 っておらず 三 人 称 詞 の 体 系 の 分 析 はまだし ていない 岡 田 (1992)で 言 われているように 戯 曲 や 小 説 などでは 登 場 人 物 の 感 情 や 登 場 人 物 同 士 の 関 係 を 表 すために 実 際 の 生 活 で 使 われる 呼 称 よりも 多 種 の 表 現 が 用 いられて おり また 丁 寧 な 呼 称 が 用 いられている 1.3. 三 人 称 代 名 詞 についての 先 行 研 究 クメール 語 の 三 人 称 代 名 詞 の 研 究 はほとんどされていない クメール 語 の 先 行 研 究 には 坂 本 (2001) (1988) Huffman(1970) Jacob(1968) Khin(1999)があるが それぞれ 三 人 称 代 名 詞 とみとめている 語 にも 違 いがあるうえ 三 人 称 代 名 詞 を 体 系 立 てて 説 明 している のは Khin(1999)と 坂 本 (1988)のみである /kɔət/が 尊 敬 的 だという 点 /vèə/がぞんざい だという 点 /kèe/には 不 特 定 の 人 一 般 の 人 を 指 す という 点 は 共 通 しているが 明 確 な 用 法 は 明 らかにされていない 1.3.1. 坂 本 (2001) (1988) 坂 本 (2001)は 辞 書 である それぞれの 語 について 以 下 の 説 明 がなされている /kɔət/( 代 名 )( 丁 寧 ) 彼. 彼 女. /kèe/( 代 ) 彼. 彼 女.( のほうが 丁 寧 / 尊 敬 ).( 名 ) 一 般 の 人 々. 他 人. /lòok/( 代 )( 男 性 への2 人 称 及 び3 人 称 代 名 詞 ). /nèəŋ/( 代 名 )1あなた( 年 下 の 若 い 女 性,または 男 性 への 呼 び 掛 け)2 彼 女 ( 若 い 女 性 に). /vèə/( 代 )(3 人 称 ).あいつ.あれ.それ( 物 や 事 柄 をさす. 人 に 使 うとあまり 丁 寧 でない). 坂 本 (1988)には 三 人 称 代 名 詞 の 項 目 がある そこでは/kɔət/と/vèə/の 二 種 類 が 挙 げら れており その 違 いは/kɔət/(ていねい) /vèə/(ぞんざい)である それ 以 上 について は 言 及 がない 8
1.3.2. Huffman(1970) He, she, they (polite): /kɔət/,/kèe/; (condescending): /vèə/; (indefinite):/kèe/ 1.3.3. Jacob(1968) /kɔət/: n. pron., he, she, they, (respectful), you(friendly) /kèe/: n. pron., one, someone, people, a person, he, she, they /vèə/: n. pron., he, she, they (familiar), it (re animal) 以 上 の3 者 に 共 通 しているのは/kèe/が 不 特 定 の 人 をあらわす という 理 解 である 坂 本 (2001)と Jacob(1968)では/kɔət/が 二 人 称 として 用 いることができると 述 べている 1.3.4. Khin(1999) ここではほかの 先 行 研 究 と 違 って 三 人 称 代 名 詞 が 体 系 だてて 説 明 されている さらに それぞれの 語 がどのような 立 場 の 人 に 向 かって 使 われるのかも 説 明 されている /kɔət/ /kèe/ /prɛ əh ʔɔŋ/ /lòok/ /vèə/ /nɛ ək baat/ /nɛ ək muoj/が 三 人 称 代 名 詞 とし て 挙 げられているが /nɛ ək baat/については 筆 者 の 集 めた 資 料 中 に 一 度 も 登 場 しないこと /prɛ əh ʔɔŋ/については 王 族 にしか 用 いられないということが 明 らかであるため /nɛ ək muoj/については 三 人 称 代 名 詞 というより 名 詞 であるため 扱 わない /nèəŋ/は 三 人 称 代 名 詞 として 挙 げられていなかった /kɔət/ 成 人 を 指 すときに 用 いられる 礼 儀 正 しい 語 で 若 者 が 年 上 の 者 を 指 すときにはこ の 語 を 用 いなければならない /kèe/ 青 年 や 成 人 のことを 指 すときに 用 いる 子 供 について 用 いられることは 少 ない 1 人 の 人 だけでなく 複 数 の 人 についても 使 うことができる 親 しい 者 の 間 で 用 いられ ると 距 離 感 を 感 じさせる /lòok/ 王 族 の 祖 先 やなどについて 話 すときに 用 いることもできる 説 法 や 古 典 文 学 の 書 物 の 中 ではこの 語 は 経 験 豊 富 な 人 例 えば 筆 者 や 年 配 の 人 を 指 す /vèə/ 若 者 や 青 年 動 物 のことを 指 すときに 用 いられる 若 者 が 年 上 の 者 や 同 世 代 の 者 に ついて 用 いるときには 軽 蔑 の 気 持 ちを 含 むが 親 しい 者 同 士 で 用 いるときには 全 く 軽 蔑 的 な 言 い 回 しにはならない /kɔət/が 丁 寧 な( 礼 儀 正 しい) 語 だという 点 は 他 の 先 行 研 究 と 共 通 している /kèe/ が 親 しい 間 柄 で 用 いられるときには 距 離 感 を 感 じさせるという 点 には 疑 問 が 残 る 1.4. 他 言 語 の 三 人 称 代 名 詞 についての 先 行 研 究 クメール 語 の 呼 称 詞 三 人 称 代 名 詞 の 先 行 研 究 が 少 ないため 研 究 方 法 を 参 考 にするた めに 他 の 言 語 の 呼 称 詞 の 研 究 をみる 三 上 (1981)によるタイ 語 の 研 究 と 鈴 木 (2007)による ラオ 語 の 研 究 を 参 考 にした タイ 語 とラオ 語 はどちらも おもに 東 南 アジアで 話 されてい 9
る タイ カダイ 諸 語 のひとつである クメール 語 とは 語 族 が 異 なるが 文 法 など 似 てい る 点 が 多 くみられる タイ 語 とラオ 語 の 呼 称 詞 体 系 は 非 親 族 間 でも 親 族 呼 称 を 転 用 する 点 尊 敬 的 な 人 称 代 名 詞 とぞんざいな 人 称 代 名 詞 が3 語 以 上 あり それが 場 合 によって 上 下 関 係 を 考 慮 して 使 い 分 けられている 点 がクメール 語 と 共 通 している また 注 目 すべき 点 として ラオ 語 では 目 下 の 者 が 目 上 の 者 に 向 かって 人 称 代 名 詞 を 使 うことはなく 親 族 名 称 を 用 いる 同 世 代 間 では 人 称 代 名 詞 を 使 うとかえって 疎 遠 であることを 表 すため 一 般 的 には 目 上 から 目 下 に 向 かって もしくは 同 等 の 者 同 士 で 人 称 代 名 詞 を 使 う ということがあった また ラ オ 語 においては 人 称 代 名 詞 を 使 うことは 失 礼 であると 理 解 されていることがわかった こ れに 対 してクメール 語 では 同 様 かどうかについて 坂 本 (1972)は 明 確 な 言 及 はしていない 10 三 人 称 代 名 詞 についていえば クメール 語 とタイ 語 ラオ 語 の 三 人 称 代 名 詞 の 選 び 方 は 違 っていることが 明 らかになった クメール 語 では 話 し 手 と 聞 き 手 のうち 目 下 の 方 の 者 と 第 三 者 との 関 係 で 決 定 される ラオ 語 では 話 し 手 と 聞 き 手 のうち 第 三 者 とより 近 い 関 係 にある 方 との 関 係 で 人 称 代 名 詞 が 決 定 される タイ 語 では 話 し 手 と 聞 き 手 との 関 係 によ って 決 定 される 以 上 に 示 したとおり クメール 語 の 三 人 称 代 名 詞 にはどのようなものがあるのか 三 人 称 代 名 詞 の 選 択 基 準 は 何 か はまだ 明 確 にされていない 次 の 章 から 三 人 称 代 名 詞 の 選 択 基 準 用 法 はどのようであるか 三 人 称 代 名 詞 の 体 系 はどのようであるかを 分 析 してい く 2. 原 則 本 章 では 三 人 称 代 名 詞 の 用 法 の 原 則 を 見 いだすため さまざまな 例 を 用 いて 分 析 をする 2.1. 出 現 する 三 人 称 代 名 詞 登 場 したのものをすべて 挙 げる どれが 多 く どれが 少 なかったか 表 やグラフで 提 示 す る ソパート には / lòok, kèe, mɔǹuh kèe, vèə, mèe nih vèə, kluon vèə, nèəŋ, nèəŋ tɛ əŋ ʔɔh, knèə, nɛək tɛ əŋ ʔɔh knèə /の 10 種 類 が 登 場 した 10 小 説 でも 実 際 の 会 話 でも 頻 繁 に 目 下 の 者 が 目 上 の 者 に 向 かって 人 称 代 名 詞 を 使 っている 親 密 な 同 世 代 間 ( 友 人 間 )でも 人 称 代 名 詞 を 頻 繁 に 使 っているので 疎 遠 である 感 じがあるようには 思 われない 10
三 人 称 代 名 詞 kèe m nuh kèe vèə mèe nih vèə kluon vèə nèəŋ nèəŋ tɛ əŋ ʔɔh kluon neang lòok knèə nɛək tɛ əŋ ʔɔh knèə 萎 れた 花 には / lòok, kɔət, kèe, vèə /の4 種 類 が 登 場 した 三 人 称 代 名 詞 lòok 3% vèə 25% kɔət 25% kèe 47% kèe kɔət lòok vèə ソパート と 萎 れた 花 に 共 通 して/lòok/ /kɔət/ /kèe/ /vèə/ /nèəŋ/がみ とめられたが これらのうち/lòok/は 僧 侶 もしくは 地 位 のある 男 性 を 指 すことが 明 らか である それから/nèəŋ/も/lòok/と 同 様 比 較 的 若 い 女 性 を 表 すことが 明 らかである ま たこの 二 つの 三 人 称 代 名 詞 はどちらも 名 称 の 前 に 付 けて ~さん という 意 味 をつくる という 働 きを 持 っており 基 本 的 には ~さん のことを 指 す ほかの3 種 の 三 人 称 代 名 詞 /kɔət/ /kèe/ /vèə/と/nèəŋ/ /lòok/とは 性 質 が 異 なるため 本 稿 では 基 本 の 三 人 称 代 名 詞 を/kɔət/ /kèe/ /vèə/の3 種 と 定 めて 重 点 的 に 分 析 をし /nèəŋ/ /lòok/は 補 助 的 な 三 人 称 代 名 詞 として 扱 うこととする 11
2.2. 三 人 称 代 名 詞 の 選 択 基 準 三 人 称 代 名 詞 3 種 の/kɔət/, /kèe/, /vèə/の 選 択 基 準 を 分 析 する なお 各 例 文 の 文 頭 に * のついたものは 非 文 であることを 示 す 2.2.1. 話 し 手 聞 き 手 第 三 者 の 関 係 基 本 的 には 話 し 手 と 第 三 者 との 関 係 で 三 人 称 代 名 詞 が 決 定 される 三 人 称 代 名 詞 は 以 下 のようにそれぞれの 性 質 がまとめられる /kɔət/ 年 長 者 について 用 いる 性 を 問 わない 尊 敬 的 また 夫 婦 間 で 妻 が 夫 について 用 い る /kèe/ 同 年 代 の 男 女 について 用 いるほか 結 婚 適 齢 期 の 女 性 が 年 少 の 男 性 について 夫 婦 間 でそれぞれの 伴 侶 について 用 いる 三 人 称 代 名 詞 のなかで 最 も 広 い 範 囲 を 占 める 下 位 者 について 用 いることもあるが ほとんど 用 いない 第 三 者 が 会 話 の 場 に 居 合 わせ るときには 用 いない 特 定 の 人 だけでなく 世 間 一 般 の 人 不 特 定 の 人 について 用 いる こともできるため 特 定 の 人 について 用 いると 特 定 性 が 低 い あまり 自 分 と 関 係 ない 人 もしくは 関 係 を 持 ちたくない 人 という 意 味 を 含 意 する /vèə/ 年 少 者 について 用 いる 坂 本 (1972)によれば 親 族 名 称 と 呼 称 では 常 に 世 代 が 上 のものが 基 準 におかれ また 親 族 間 で 彼 女 を 用 いる 場 合 には 目 下 ( 世 代 が 下 )のものに 基 準 がおかれる とあるが そうではない 話 し 手 の 立 場 が 基 準 となる そのため 同 じ 人 のことを 話 題 にしていても それぞれ 違 う 三 人 称 代 名 詞 を 用 いることもある 以 下 は 母 親 と 息 子 による 同 じ 場 面 の 連 続 した 会 話 である (1) mak bɔɔŋ kɔət dee khao kɲom ruoc haəj nə v 母 兄 姉 kɔət 縫 う ズボン 私 成 し 遂 げる( 完 了 )( 未 完 了 ) 母 さん! 姉 さん( 彼 女 )は 僕 のズボンをもう 縫 い 終 わった? vèə dee ruoc haəj vèə kɔmpoŋ tə v ŋuut tɯk naa... vèə 縫 う 成 し 遂 げる( 完 了 )vèə ~している 行 く 水 浴 びする 水 ( 強 意 ) <あの 子 はもう 縫 い 終 わって (あの 子 は) 水 浴 びしに 行 っているところだよ! > (RCTV p.160 ll.1-2) この2 人 は 長 女 について 話 しているが 息 子 は 上 位 者 である 姉 について/kɔət/を 用 い 母 親 は 下 位 者 である 娘 について/vèə/を 用 いている 2.3. 三 人 称 代 名 詞 の 原 則 岡 田 (1992)による 一 人 称 二 人 称 の 分 析 では 親 族 間 と 非 親 族 間 でその 選 択 に 違 いが あり 親 族 間 でのみ 世 代 の 影 響 を 受 け 非 親 族 間 では 実 年 齢 のみが 選 択 の 際 に 考 慮 されて いた 三 人 称 代 名 詞 の 選 択 でもその 違 いがあるかどうかを 調 べるため ここでも 親 族 間 12
非 親 族 間 各 世 代 に 分 けて 分 析 をする なお 話 し 手 は 三 人 称 代 名 詞 を 使 い 分 けられる 知 識 があり 話 す 場 はとくにかしこまっ た 場 でもなく 内 輪 話 をする 場 でもなく 話 し 手 は 第 三 者 のことを 知 っている という 場 合 を 基 本 とする 2.3.1. 親 族 間 親 族 間 では 世 代 上 について/kɔət/もしくは/lòok/を 用 い 同 世 代 年 長 については/kɔət/ を 用 い 同 世 代 年 少 については/kèe/もしくは/vèə/を 用 い 世 代 下 については/vèə/を 用 いる 2.3.1.1. 世 代 上 親 族 の 上 世 代 については /kɔət/ /lòok/を 用 いる 以 下 は 親 族 の 上 世 代 について/kɔət/を 用 いる 例 である (2) mae kɔət mɯn tə v tèe kɔə tə v vɔət phot tə v haəj 母 kɔət ( 否 定 ) 行 く( 否 定 )kɔət 行 く 寺 過 ぎる 行 く( 完 了 ) <お 母 さん( 彼 女 )は 行 かないわ 彼 女 はお 寺 へ 行 ってしまったわ> (PSP 4208) 10 代 後 半 の 女 性 が 母 親 も 一 緒 にお 祭 りに 行 こうと 誘 いに 来 た 同 世 代 の 男 性 に 対 して 母 親 の 不 在 を 告 げる 場 面 のせりふである /kɔət/は 女 性 の 母 親 を 指 している 以 下 に 同 様 の 例 を 挙 げる (3) haet ʔvəj kɔɔ mɯn prɔkaek nɯŋ kɔət なぜ そうして ( 否 定 ) 反 論 する ~に kɔət <どうして 彼 女 に 反 論 しなかったの?> (RCTV p.79 l.15) ユイイー(20 代 後 半 女 性 )の 母 親 はルイチアン(23 歳 男 性 )のことを 自 分 の 息 子 だと 取 り 違 えている 息 子 になりすましているルイチアンに 向 かって ユイイーが 怒 り 気 味 に 尋 ね る 場 面 のせりふである 話 し 手 はユイイー 聞 き 手 はルイチアン /kɔət/で 指 されている 第 三 者 はユイイーの 母 親 である 1 世 代 以 上 うえの 親 族 について 話 す 場 面 は 見 つからなかった 父 親 について 話 す 場 面 は あったが 三 人 称 代 名 詞 を 用 いていなかった 三 人 称 代 名 詞 を 用 いる 場 合 には/kɔət/では なく/lòok/を 用 いていた 以 下 は/lòok/を 用 いる 例 である (4) ʔəvpòk ceɲcəm kɲom lòok srɔɔlaɲ rɔəp ʔaan kmeeŋ kmeeŋ nah 父 親 養 う 私 lòok 愛 する 親 しくする 子 どもたち とても < 僕 の 養 父 彼 は 子 どもたちが 大 好 きで とても 仲 よしなんです> (SPT 2107) 13
男 の 子 (10 歳 くらい)が 初 対 面 の 友 達 (10 代 後 半 男 性 )に 自 分 の 養 父 のことを 教 える 場 面 のせりふである 話 し 手 は 男 の 子 聞 き 手 は 初 対 面 の 友 達 /lòok/で 示 される 第 三 者 は 男 の 子 の 養 父 である 以 下 に 同 様 の 例 を 挙 げる (5) rɯəŋ nih kɲom dəŋ mɯn dɔl tèe prɔ h lòok mɯn dael lɯɯ niijèəj 話 この 私 知 る ( 否 定 ) 着 く ( 否 定 ) ~だから lòok ( 否 定 ) ( 経 験 ) 聞 く 話 す dooc mdac sɔh laəj ~の 様 に どの まったく~ない ( 強 意 ) <この 話 については 私 はそこまでは 知 らないわ 彼 がどんなふうに 話 しているかまったく 聞 い たことがないんだもの> (KLP 9204) 宝 石 商 の 娘 ニアリー(10 代 後 半 女 性 )とその 使 用 人 チャット(10 代 後 半 男 性 )は 恋 仲 であ る 自 分 たちの 関 係 について 宝 石 商 は 知 っているかどうか チャットがニアリーに 尋 ねた ところ ニアリーは(5)のように 答 えた 話 し 手 はニアリー 聞 き 手 はチャット /lòok/ で 示 されているのはニアリーの 父 親 である しかしながら 以 下 にあげた 例 は 70 年 前 ( ソパート ) 55 年 前 ( パイリンの 薔 薇 )の 小 説 から 抽 出 したもので インフォーマントによると 今 の 時 代 はもっぱら 父 親 について も/kɔət/を 用 いるということであった 2.3.1.2. 同 世 代 以 下 に 同 年 代 者 を 指 す 場 合 の 例 を 挙 げる 同 年 代 の 中 でも 同 年 代 年 長 同 年 齢 同 年 代 年 少 に 分 けた 同 年 代 年 長 については/kɔət/を 同 年 齢 については/kèe/を 同 年 代 年 少 に ついては/vèə/を 用 いる 同 世 代 年 長 以 下 は 同 世 代 年 長 の 親 族 について/kɔət/を 用 いる 例 である (6) jii coh bònthɯən vèə tə v naa bat tə v nɔɔ ( 感 嘆 詞 ) では ( 人 名 ) vèə 行 く どこ 消 える 行 く ( 感 嘆 詞 ) <おや じゃあブントゥアン あいつはどこに 行 っちゃったんだい なあ?> bɔɔŋ kɔə tə v cuoj stuuŋ mae cək 兄 kɔət 行 く 助 ける 田 植 えをする お 母 さん お 父 さん < 兄 さん 彼 は 母 さんが 田 植 えをするのを 手 伝 いに 行 ったわ 父 さん> (PSP 3007) ブントゥアン(10 代 後 半 男 性 )の 妹 サオポアン(10 代 女 性 )が 父 親 に 兄 の 所 在 を 聞 かれ 田 植 えに 行 ったことを 教 える 場 面 である 話 し 手 はサオポアン 聞 き 手 はサオポアンとブ ントゥアンの 父 /kɔət/で 示 されているのはブントゥアンである 14
以 下 に 同 様 の 例 を 挙 げる (7) ʔoo kɔət cèə bɔɔŋ koʔsɔɔl bɔɔŋ koʔsɔɔl cèə bɔɔŋ cii doon muoj kɲom ( 感 嘆 詞 ) kɔət ~である 兄 ( 人 名 ) 兄 ( 人 名 ) ~である 従 兄 私 nɯŋ bɔɔŋ niʔsaj ~と 兄 ( 人 名 ) <ああ! 彼 はコソール 兄 さんよ 私 の 従 兄 のコソール 兄 さんとニサイ 兄 さんよ> (BDPR p.73 ll.16-17) ティダー(10 代 後 半 女 性 )が 友 人 (10 代 後 半 女 性 )と 話 しているところにちょうど 従 兄 が やって 来 たため 友 人 に やってきたのが 自 分 の 従 兄 だと 説 明 している 場 面 である 話 し 手 はティダー 聞 き 手 はティダーの 友 人 /kɔət/で 指 されている 第 三 者 は 従 兄 コソール(20 代 後 半 男 性 )である 同 世 代 年 長 者 について/kèe/を 用 いる 例 は 見 つからなかった 同 世 代 同 年 齢 データの 中 に 親 族 の 同 世 代 同 年 齢 に 三 人 称 代 名 詞 を 用 いる 例 は 見 つからなかった イ ンフォーマントによれば 普 通 は 第 三 者 の 名 前 を 用 い 名 前 を 知 らない 場 合 にのみ/kèe/を 用 いるということであった 同 世 代 年 少 以 下 は 同 世 代 年 少 について/vèə/を 用 いる 例 である (8) huh cap taŋ pii tŋaj nih tə v jòjsaŋ pɯt praakɔt lɛ ɛŋ trɔɔlɔp ( 感 嘆 詞 ) 捕 まえる ~から 日 この 行 く ( 人 名 ) 本 当 本 当 止 める 帰 る mɔ ɔk vɯɲ haəj vèə slap haəj 来 る 戻 る ( 完 了 ) vèə 死 ぬ ( 完 了 ) <ふう!この 日 からというもの ユイサンは 本 当 に 帰 って 来 なくなってしまったんだわ! 彼 は 死 んでしまったのよ!> (RCTVp.89 l.7) 家 出 していた 弟 が 殺 される 現 場 を 見 た 感 想 を 述 べている 話 し 手 はユイイー(20 代 後 半 女 性 ) 聞 き 手 はルイチアン(23 歳 男 性 ) /vèə/で 示 される 第 三 者 はユイサン(23 歳 男 性 ) で ユイサンは 話 し 手 ユイイーの 実 弟 である 2.3.1.3. 世 代 下 親 族 の 下 世 代 については/vèə/を 用 いる 以 下 は 自 分 の 子 どもについて 話 す 例 である (9) pʔoon proh ʔaeŋ ʔəjləv cɛh kɯt craən nah cɔmpɔ h srəj srəj vɯɲ 弟 お 前 今 ~できる 考 える たくさん とても ~の 方 女 性 たち ~の 方 15
vèə mɯn crɔɔlaəh baəh dooc mòn tèe... vèə ( 否 定 ) 礼 儀 をわきまえぬ ~の 様 以 前 ( 否 定 ) <お 前 の 弟 は 今 じゃあずいぶん 考 えられるようになったじゃないか 女 性 のことについては 彼 は 以 前 のように 女 遊 びをしないし > (RCTV p.49 l.16) (9)は 長 い 間 家 出 していた 息 子 が 改 心 して 戻 ってきたのを 見 て 母 親 が 長 女 である 娘 に 向 かって 息 子 のことをほめる 場 面 のせりふである /vèə/は 息 子 (23 歳 男 性 )を 指 している 以 下 に 同 様 の 例 を 挙 げる (10)ʔae naa kmuoj cae どこ 姪 姉 <あの 子 ( 姪 )はどこ? 姉 さん> vèə nə v cam ʔae laan ʔae nuh vèə いる 待 つ ~で 車 ~で その < 彼 女 はそっちの 車 で 待 ってるよ> (PSP 8401, 8402) 知 り 合 いの 中 年 女 性 トーが 中 年 女 性 ヌオンに ヌオンの 娘 はどこにいるのかを 聞 く 場 面 で ある ヌオンは 自 分 の 娘 のことを/vèə/を 用 いて 指 している インフォーマントによれば 年 上 の 甥 姪 については 甥 姪 の 名 前 もしくは/kɔət/を 用 いるということであった 2.3.2. 非 親 族 間 次 に 非 親 族 間 での 三 人 称 代 名 詞 の 用 例 について 挙 げる 世 代 上 については/kɔət/が 用 いられ 同 世 代 年 長 については/kɔət/と/nèəŋ/が 用 いられ 同 世 代 年 少 については/nèəŋ/ と/vèə/が 用 いられ 世 代 下 についても/nèəŋ/と/vèə/が 用 いられていた 同 世 代 年 長 の /nèəŋ/を 例 外 と 考 えれば 非 親 族 間 では 実 年 齢 のみが 考 慮 され 上 位 者 については/kɔət/ を 下 位 者 については/nèəŋ/と/vèə/を 用 いると 整 理 することができる 2.3.2.1. 世 代 上 以 下 は 世 代 上 について/kɔət/を 用 いる 例 である (11) kɲom jɔ l haəj ʔɔɲcəŋ tèe baan cèə kɲom cuop nɯŋ lòok ʔòm 私 理 解 する ( 完 了 ) そのようだ ( 強 意 ) だから~だ 私 会 う ~と 伯 父 さん saan kɔət kɔɔ mɯn hèən niijèəj rɯəŋ pɯt prap mdaaj nɛ ək nèəŋ dae ( 人 名 ) kɔət ~も ( 否 定 ) あえて~する 話 す 話 本 当 言 う 母 あなた ~も <( 僕 は 理 解 した)なるほど!そうなのか だから 僕 がサーンおじさんに 会 ったとき 彼 もあえ て 本 当 のことをあなたの 母 親 に 言 わなかったんだね!> (RCTV p.86 ll.6-7) 16
話 し 手 はルイチアン(23 歳 男 性 ) 聞 き 手 はユイイー(20 代 後 半 女 性 ) 第 三 者 はサーンお じさん( 中 年 男 性 )である ルイチアンは 世 代 上 のサーンおじさんについて/kɔət/を 用 い て 示 している 以 下 に 同 様 の 例 を 挙 げる (12) kɔət cèə mɔ ɔnuh cah baə kɯt tvə ə kaa ʔəvəj niimuoj niimuoj kɔət ~である 人 年 配 の もし 考 える 働 く 何 ひとつ ひとつ səŋ tae mə əl dɔmnaə kaa nuh baan tluh vɛ ɛŋ cŋaaj ほとんど~である 見 る 成 り 行 き その ( 可 能 ) 先 を 見 通 す 長 く 遠 く < 彼 女 は 年 配 の 人 だから いろいろなことを 考 えると ほとんどいつもことの 成 り 行 きを 見 て ずっと 先 まで 見 通 すことができるんだよ> (PSP 7810( 手 紙 )) ブントゥアン(10 代 後 半 男 性 )が 恋 人 ヴィティアヴィー(10 代 後 半 女 性 )に 向 けて 書 いた 手 紙 の 一 節 である ブントゥアンはヴィティアヴィーの 母 親 ヌオン( 中 年 女 性 )が 下 した 決 断 は 正 しいから それに 従 ったほうがよいと ヴィティアヴィーに 諭 している 話 し 手 はブントゥアン 聞 き 手 はヴィティアヴィー /kɔət/で 示 されている 第 三 者 はヌオンであ る 以 上 上 世 代 については/kɔət/のみが 見 られた 2.3.2.2. 同 世 代 非 親 族 間 の 同 年 代 者 を 指 す 場 合 には 親 族 間 の 同 年 代 について 用 いる 三 人 称 代 名 詞 と 同 様 のものを 用 いる なお インフォーマントによれば 同 年 代 者 についての 三 人 称 代 名 詞 は/kèe/を 用 いるが 普 通 は 第 三 者 の 名 前 を 用 い 第 三 者 の 名 前 がわからなかったときにのみ/kèe/を 用 いる そ の 理 由 は/kèe/は 名 前 を 知 っている 人 について 用 いることについては 抵 抗 を 感 じるから で ある インフォーマント 自 身 は 友 人 に 対 して 敬 意 を 持 っているため/kɔət/を 用 いるという ことであった 同 年 代 年 長 以 下 は 非 親 族 の 同 世 代 年 長 について/kɔət/を 用 いる 例 である (13) kɲom baan claəj prap kɔə thaa kɲom mɯn cɔŋ rɔ h nə v tii nih 私 ( 過 去 ) 答 える 言 う kɔət ~と 私 ( 否 定 ) ~したい 暮 らす ~で ( 場 所 ) この tèe cɔŋ ceɲ pii tii nih ( 否 定 ) ~したい 出 る ~から ( 場 所 ) この < 僕 は 彼 女 にこう 答 えました 僕 はここで 暮 らしたくはない ここから 出 て 行 きたいって> (RCTV p.129 l.7) 話 し 手 は 23 歳 男 性 聞 き 手 は 近 所 に 住 むおじさん( 中 年 男 性 ) /kɔət/で 示 される 第 三 者 17
は 20 代 後 半 女 性 である 以 下 は 女 性 が 非 親 族 の 同 世 代 年 長 の 女 性 について kɔət を 用 いる 同 様 の 例 である (14) kɲom cɔŋ cuop nɛ ək bɔɔŋ saophèə daəmbəj còmrèəp kɔət... 私 ~したい 会 う ~さん ( 人 名 ) ~のために 申 し 上 げる kɔət < 私 はサオピアさんに 会 いたいの 彼 女 に 申 し 上 げるために > (BDPR p.104 l.4) プリム( 当 時 20 代 前 半 女 性 )はある 事 情 からある 人 の 愛 人 になっている 愛 人 の 正 妻 サオ ピア( 当 時 20 代 半 ば 女 性 )に 会 おうとしてサオピアの 部 屋 の 前 まで 来 たのだと サオピア の 義 弟 (10 代 後 半 男 性 )に 言 う 場 面 である 話 し 手 はプリム 聞 き 手 はサオピアの 義 弟 /kɔət/で 示 されている 第 三 者 はサオピアである 同 世 代 同 年 齢 以 下 は 同 年 齢 の 男 性 について 男 性 が/kèe/を 用 いる 例 である (15) nae prɔ h ʔòm kuo tae dəŋ thaa jòjsaŋ pii mòn kèe mèən ( 呼 びかけ) ~だから 伯 父 ~するはずだ 知 る ~だと ( 人 名 ) ~から 以 前 kèe ある cmɔ h mɯn səv lʔɔɔ doocnɛh haəj tə əp kɲom lòp lèəŋ nɯŋ kae prae 名 ( 否 定 ) あまり 良 い だから したがって 私 消 す 洗 う ~と 改 める 変 える ʔaakappaʔkeʔriʔjaa nih laəŋ vɯɲ 悪 行 この 上 げる ( 方 向 の 転 換 ) <ねえ 以 前 彼 はあまりいい 名 を 持 っていなかった(そこそこに 悪 名 高 かった)ということを おじさんはご 存 知 だったはずです だから 僕 はその 悪 行 を 洗 い 落 とし 改 善 したんです > (RCTV p.149 ll.3-5) ルイチアン(19 歳 男 性 )はユイサンという 青 年 になりすましている 自 分 がにせもののユ イサンだということをおじさん( 中 年 男 性 )に 向 かって 主 人 公 が 説 明 しているせりふであ る ユイサンは 同 い 年 で おじさんは 本 物 のユイサンのことを 幼 いころから 知 っている 話 し 手 はルイチアン 聞 き 手 はおじさん /kèe/はユイサンを 指 している 以 下 に 同 様 の 例 を 挙 げる (16) nɛ ək nèəŋ niilaa kɲom còmrèəp lèə dae haəj ( 女 性 に 対 して)~さん ( 人 名 ) 私 申 し 上 げる 別 れ ( 文 の 調 子 を 弱 める) ( 完 了 ) pdam tə v daaraa phɔɔŋ thaa kèe mèən sɔŋsaa lʔɔɔ dooc cèə nɛ ək nèəŋ 伝 える ~に ( 人 名 ) ~してください ~と kèe 持 つ 恋 人 良 い ~の 様 な あなた kɯɯ cèə sɔmnaaŋ kèe haəj ~である 幸 運 kèe ( 完 了 ) <ニラーさん 私 もおいとまします ダラーに 彼 はあなたのような 素 晴 らしい 恋 人 を 持 ってい て ( 彼 は) 幸 運 だと そうお 伝 えください> (BDPR p.202 ll.16-17) 18
ニサイ(20 代 男 性 )が 友 人 ダラー(20 代 男 性 )の 恋 人 ニラー(10 代 後 半 の 女 性 )に 窮 地 を 助 けられた ニサイが 別 れの 際 にニラーに 向 かってダラーへの 言 伝 を 頼 むせりふである /kèe/は 同 年 代 の 同 性 の 友 人 ダラーを 指 している 同 年 代 年 少 以 下 は 同 世 代 年 少 について/vèə/を 用 いる 例 である (17) mak vèə tə əp tae mɔ ɔk dɔl mac kɔɔ mak dəŋ 母 さん vèə ~したばかりだ 来 る 着 く どのように そうして 母 さん 知 る < 母 さん! 彼 は 来 たばかりじゃないの どうしてそうだとわかるの?> (RCTV p.49 l.16) 会 ったばかりの 若 者 (23 歳 男 性 )を 息 子 だと 取 り 違 えている 母 ( 中 年 女 性 )に 娘 (20 代 後 半 女 性 )が 問 いただす 場 面 である 話 し 手 は 娘 聞 き 手 は 母 親 /vèə/で 示 される 第 三 者 は 若 者 である 2.3.2.3. 世 代 下 以 下 は 非 親 族 の 下 世 代 について/vèə/を 用 いる 例 である (18) mac kɔɔ jaaŋ nih どのよう そうして ~の 様 に この <どうして?> kɲom cɔŋ ʔaoj vèə riən tɛ əŋ pii nɛ ək tiət pʔoon kɯt nih trəv 私 ~したい ( 使 役 ) vèə 勉 強 する ~ 共 2 ~ 人 さらに ( 二 人 称 ) 考 える これ 正 しい haəj pontae bɔɔŋ jɔ l thaa soophaat vèə krɔɔ lòmbaak nah baə ( 完 了 ) しかし ( 一 人 称 ) 理 解 する ~と ( 人 名 ) vèə 貧 しい 困 窮 する とても もし jə əŋ rɔ ɔk kaa ŋèə ʔaoj vèə tvə ə vèə treek ʔɔɔ cèəŋ jə əŋ ʔaoj vèə 私 たち 探 す 仕 事 ( 使 役 ) vèə する vèə 喜 ぶ 喜 ぶ ~よりも 私 たち ( 使 役 ) vèə riən tə v tiət 勉 強 する 行 く さらに < 私 は 彼 ら 二 人 ともさらに 勉 強 させたいよ きみがそう 思 うのは 正 しい でも( 僕 は)ソパート 彼 はとても 貧 しいから もし 私 たちが 彼 がするための 仕 事 を 探 してあげたら 彼 は 私 たちがこの 先 さらに 勉 強 させてあげるよりも 喜 ぶと 思 うんだよ> (SPT 3002) ソパート(10 代 後 半 男 性 )の 主 人 であり ナルン(10 歳 くらいの 少 年 )の 養 父 である 政 府 高 官 ( 夫 )がソパートとナルンについて 妻 と 話 す 場 面 である 養 子 たちについて 相 談 があ る という 夫 に 対 し 妻 が どうして? と 聞 き 次 に 夫 が 相 談 内 容 を 話 している 1 つ 目 の/vèə/はソパートとナルンを 指 し 2 つ 目 以 降 の/vèə/はソパートのみを 指 す ナルンは ソパートよりも 身 分 が 高 いが どちらについても/vèə/を 用 いている 19
以 下 に 同 様 の 例 を 示 す (19) nae jòjii mèən ʔaajuu bɔɔŋ jòjsaŋ pii cnam tèe tae vèə cɛh ほら ( 人 名 ) ある 年 齢 年 上 ( 人 名 ) 2 年 ( 強 意 ) でも vèə ( 可 能 ) srɔɔlaɲ nɯŋ cɛh thae tɔəm pʔoon vèə nah 愛 する ~を ( 可 能 ) 世 話 する 弟 vèə とても <ほら!ユイイーはユイサンよりも 2 歳 しか 年 上 でないんだよ それなのに 彼 女 は 彼 女 の 弟 を 愛 して 面 倒 を 見 てやることができるんだよ > (RCTV p.138 l.18) ユイイー(20 代 後 半 女 性 )とユイサン(23 歳 男 性 )が 食 事 をするところを 見 て 近 所 のお じさん( 中 年 男 性 )がユイイーをほめている 場 面 である 話 し 手 は 近 所 のおじさん 聞 き 手 はユイイーとユイサンの 母 親 ( 中 年 女 性 ) /vèə/で 示 されているのはユイイーである 以 上 のことをまとめると 三 人 称 代 名 詞 は 原 則 的 に 親 族 間 あろうと 非 親 族 間 であろう と 選 択 の 際 に 考 慮 される 要 素 は 同 じである 年 齢 が 優 先 的 に 考 慮 され 年 長 者 について は/kɔət/ 同 年 齢 については/kèe/ 年 少 者 については/vèə/が 用 いられる 3. 原 則 に 従 わない 場 合 以 上 の 場 合 を 基 本 として 三 人 称 代 名 詞 が 選 択 されるが あえて 基 本 に 従 わないこともあ る 基 本 に 従 わないことによって 話 し 手 の 第 三 者 に 対 する 感 情 を 露 骨 に 表 し また 会 話 の 場 の 雰 囲 気 を 反 映 させているのである 基 本 に 従 わないことによって 表 せる 内 容 は 主 に 1 身 分 の 差 2 話 し 手 - 第 三 者 の 親 疎 関 係 感 情 3 女 性 らしさ( 結 婚 適 齢 期 ) である 以 上 の 要 因 とは 別 に 人 の 噂 話 をするときに 原 則 に 反 して/kèe/が 用 いられることがあ る 噂 話 の/kèe/ については 別 の 章 で 述 べる 3.1. 身 分 の 差 以 下 は 同 等 の 人 について/kèe/もしくは/kɔət/もしくは 第 三 者 の 名 前 を 用 いるべきとこ ろを あえて/vèə/を 用 いている 例 である (20) nɔ ɔ naa prap lòok thaa kɲom cool cət tə v niijèəj claəj clɔɔŋ nɯŋ vèə 誰 告 げる あなた ~と 私 好 きだ 行 く 話 す 問 答 する ~と vèə < 私 が 彼 とおしゃべりするのが 好 きだなんて いったい 誰 があなたに 言 ったというの!> (KLP 5603) 話 し 手 は 大 宝 石 商 の 一 人 娘 ニアリー(10 代 後 半 ) 聞 き 手 は 副 郡 長 ( 結 婚 適 齢 期 の 男 性 )で 20
ある この 前 文 で 副 郡 長 が ニアリーと 使 用 人 チャット(10 代 後 半 )が 楽 しそうに 言 い 合 いをしている とからかったのを 聞 いて ニアリーが 腹 を 立 てた 場 面 のせりふである /vèə/で 指 されているのはチャットである ニアリーは 同 世 代 のチャットをあえて/vèə/で 指 すことによって チャットの 身 分 が 低 いということを 強 調 し そんな 人 と 話 すのが 楽 し いなんてとんでもない と 高 飛 車 な 気 持 ちを 表 しているのである 3.2. 話 し 手 - 第 三 者 の 親 疎 関 係 感 情 岡 田 (1992)で 下 位 者 に 対 しては 親 疎 関 係 が 働 くが 上 位 者 に 対 しては 親 疎 関 係 が 働 か ない とあることから 三 人 称 代 名 詞 の 選 択 の 際 にも 同 じ 原 則 がはたらくと 考 えられる つまり 上 位 者 について/kɔət/を 用 いていたところは いくら 親 しくても 変 わらず/kɔət/ を 用 いる ということである 以 下 はその 原 則 をあえて 守 らず /kɔət/を 用 いるべきところに/vèə/を 用 いた 例 である (21) hɯh kɲom khɔm tvə ə kaa bɔmraə vèə cɔŋ ŋɔəp vèə dooc cèə kmèən ( 感 嘆 詞 ) 私 一 生 懸 命 ~する 働 く 仕 える vèə ( 未 来 ) 死 ぬ vèə ~の 様 だ ない rɔ ɔvɔ l nɯŋ cuoj kɯt kuu chɯɯ cʔaal ʔvəj nɯŋ kɲom bɔntəc tèe 忙 しい ~で 助 ける 考 える 考 える 同 情 する 何 ~と 私 少 し ( 否 定 詞 ) <ふう! 僕 は 死 にそうになるくらい 彼 に 付 き 従 い 働 いたんだが 彼 は 僕 の 痛 みを 少 しもわかって くれようとはしなかった > (RCTV p.105 ll.10-11) ルイチアン(23 歳 男 性 )の 祖 母 が 危 篤 状 態 になったとき ルイチアンをこき 使 っていたボ ス( 中 年 男 性 )は 貧 しいルイチアンがいくら 頼 んでも 祖 母 の 治 療 費 を 貸 してくれなかっ た ルイチアンがそのときのことを 思 い 出 して ボスの 悪 口 を 言 う 場 面 のせりふである 話 し 手 はルイチアン 聞 き 手 はユイイー(20 代 後 半 女 性 ) /vèə/はルイチアンのボスを 指 す ボスはルイチアンより 上 の 世 代 だが ルイチアンは 祖 母 の 命 を 救 ってくれようとしな かったボスを 憎 んでいるため /vèə/を 用 いている 上 位 者 についての 三 人 称 代 名 詞 は 親 疎 関 係 がその 選 択 にほとんど 影 響 しないため もし /kɔət/が 他 の 三 人 称 代 名 詞 に 変 わっていた 場 合 それは 話 し 手 が 第 三 者 に 対 して 相 当 な 憎 しみや 軽 蔑 の 念 を 表 したい 場 合 である 3.3. 女 性 らしさ( 結 婚 適 齢 期 ) 結 婚 適 齢 期 の 男 女 では 例 外 が 生 じる 話 し 手 が 女 性 で 第 三 者 が 年 下 の 男 性 である 場 合 と 第 三 者 が 結 婚 適 齢 期 の 女 性 である 場 合 である 原 則 に 敢 えて 従 わないことによって 話 し 手 の 女 性 らしさ 第 三 者 の 女 性 らしさを 強 調 している 話 し 手 が 女 性 で 第 三 者 が 年 下 の 男 性 である 場 合 第 三 者 の 同 年 代 年 少 の 男 性 について /vèə/を 用 いず/kèe/を 用 いることがある その 方 が 丁 寧 な 言 い 方 だからである あえて 原 則 に 従 わずに/vèə/より 一 段 階 上 の/kèe/を 用 いることにより 男 女 の 差 を 露 骨 に 表 し 女 21
性 らしさを 表 している インフォーマント(23 歳 女 性 )によれば 年 下 の 叔 父 については 彼 が 幼 いうちは/vèə/と 呼 び 成 長 したら/vèə/とは 呼 ばず 名 前 などで 呼 ぶようになる とのことであった 第 三 者 が 話 し 手 よりも 年 少 の 結 婚 適 齢 期 の 女 性 である 場 合 /vèə/ではなく/nèəŋ/が 用 いられることがある 話 し 手 が 第 三 者 の 女 性 のことを 女 性 だ とはっきり 意 識 している のだと 表 すことができる 夫 婦 間 では 夫 は 妻 について/nèəŋ/を 用 いることはできない また 以 上 の2 点 以 外 にもインフォーマントによれば 同 性 同 士 の 会 話 中 で 同 性 について /vèə/を 用 いるのは 親 しみをこめた 表 現 として 受 け 入 れられるが 異 性 について 用 いると 偉 そうに 聞 こえるのでよくないので あまり 使 わない とのことであった /vèə/は 日 本 語 の あいつ にあたる 三 人 称 代 名 詞 で きれいな 言 葉 ではない と 考 えられていることが 用 いられない 理 由 である 話 し 手 か 第 三 者 が 結 婚 適 齢 期 ではない 場 合 三 人 称 代 名 詞 には 男 女 差 が 表 されない し かしながら 結 婚 適 齢 期 の 男 女 間 では 例 外 的 に 男 女 の 差 がはっきりと 意 識 され 三 人 称 代 名 詞 の 選 択 に 反 映 される 一 人 称 や 二 人 称 は 結 婚 適 齢 期 の 男 女 でなければただの 親 族 呼 称 であるのに 気 婚 適 齢 期 の 男 女 が 用 いると 不 必 要 に 恋 愛 感 情 を 含 んでしまうものもある そのため とくに 気 をつけて 適 切 な 人 称 詞 が 選 ばれる( 岡 田 1992) 同 様 に 三 人 称 代 名 詞 でも 結 婚 適 齢 期 という 要 素 が 多 分 に 影 響 するのである 以 下 は 結 婚 適 齢 期 の 女 性 が 同 年 代 年 少 の 男 性 について/kèe/を 用 いる 例 である (22) ʔoon taeŋ baep nih səŋ tae rɔəl tŋaj taə bɔɔŋ ( 一 人 称 ) いつも 様 子 この ほとんど~である 毎 日 ( 文 の 調 子 を 弱 める) ( 二 人 称 ) haəj baə ʔoon jaaŋ mac jaaŋ mac jòp nih pʔoon niisaj mɯn そうして もし ( 一 人 称 ) ~の 様 だ どの ~の 様 だ どの 夜 この 弟 ( 人 名 ) ( 否 定 ) baan tə v jèəm ʔae mɔǹtii pɛ ɛt tèe kèe ʔaac nɯŋ mɔ ɔk cuoj pjèəbaal ( 過 去 ) 行 く 番 をする ~で 病 院 ( 否 定 ) kèe ( 可 能 ) ( 未 来 ) 来 る 助 ける 治 療 する ʔoon baan naa bɔɔŋ ( 一 人 称 ) ( 可 能 ) ( 強 意 ) ( 二 人 称 ) < 私 はほとんど 毎 日 いつもこんな 感 じなのよ あなた それでもし 私 がどうにかなったとし ても 今 夜 ニサイ 君 は 病 院 に 夜 勤 しに 行 かなかったから 彼 が 私 を 治 療 してくれるわ あなた> (BDPR p.98 ll.14-16) 夜 用 事 があって 出 かけなければならないが 夫 (20 代 後 半 男 性 )は 妻 (20 代 後 半 女 性 )の 体 調 を 気 遣 って 出 かけようとしないため 妻 が 心 配 無 用 だ と 告 げるせりふである /kèe/は 夫 の 弟 で 医 師 であるニサイ(20 代 前 半 男 性 )を 指 している 妻 にとっては 義 弟 に あたるため 親 族 とみなす 同 年 代 年 少 については/kèe/を 用 いることが 多 いが 結 婚 適 齢 期 の 女 性 が 同 年 代 年 下 の 男 性 について 話 すときに 限 り /kèe/を 用 いる 以 下 に 同 様 の 例 を 挙 げる 22
(23) tèe mak kaa pɯt kèe cmɔ h lòjchèəŋ naa mak ( 否 定 ) 母 さん こと 本 当 kèe 名 前 を~という ( 人 名 ) ( 強 意 ) 母 さん < 違 うの 母 さん! 本 当 は 彼 はルイチアンというのよ 母 さん!> (RCTV p.211 l.19) 20 代 後 半 女 性 が 自 分 の 母 親 に 23 歳 のルイチアンという 名 の 男 性 を 紹 介 する 場 面 のせりふ である 話 し 手 は 20 代 後 半 女 性 聞 き 手 は 女 性 の 母 親 ( 中 年 女 性 ) /kèe/で 示 される 第 三 者 はルイチアンである 以 下 に 結 婚 適 齢 期 の 年 少 の 女 性 について/nèəŋ/を 用 いる 例 を 挙 げる (24) jòjsaŋ koon mèən pèək mɯn sɔɔm rɔ ɔm cɔmpɔ h nèəŋ rɯɯ ( 人 名 ) ( 二 人 称 ) ある 言 葉 ( 否 定 ) 適 切 な ~に 向 かって nèəŋ ( 疑 問 ) <ユイサン!おまえ 彼 女 によろしくない 言 葉 でも 言 ったのかい?> (RCTV p.142 l.16) 近 所 の 10 代 後 半 女 性 が 食 事 の 真 っ 最 中 に 突 然 泣 き 出 して 帰 宅 してしまった それを 見 た 母 親 が 近 所 の 10 代 後 半 女 性 が 泣 いた 理 由 は 自 分 の 息 子 にあるのではないかと 考 え 息 子 に 尋 ねる 場 面 のせりふである 話 し 手 は 母 親 ( 中 年 女 性 ) 聞 き 手 は 23 歳 男 性 /nèəŋ/で 示 さ れる 第 三 者 は 10 代 後 半 女 性 である 以 下 に 同 様 の 例 を 挙 げる (25) ʔoon phèə bɔɔŋ mɯn prɔɔkaek tèe bɔɔŋ mèən ( 名 前 の 前 につけて 愛 称 をつくる) ( 人 名 ) ( 一 人 称 ) ( 否 定 ) 反 論 する ( 否 定 ) ( 一 人 称 ) ある cət srɔɔlaɲ nèəŋ mɛ ɛn ( 中 略 ) tae ʔoon phèə sɔmrap bɔɔŋ kɯɯ ʔoon 心 愛 する nèəŋ 本 当 ( 中 略 ) でも ( 人 名 ) ~にとって ( 一 人 称 ) ~である 伴 侶 lʔɔɔ cèəŋ nèəŋ naa 良 い ~よりも nèəŋ ( 強 意 ) <ピア! 僕 は 反 論 するつもりはないよ 僕 に 彼 女 を 愛 する 心 があるというのは 本 当 だ ( 中 略 ) でも 僕 にとってのピアは 彼 女 よりも 良 いパートナーだよ > (RCTV p.96 l.15) (25)はある 夫 婦 の 会 話 である この 夫 婦 には 子 どもがいないため 後 継 者 をつくるために 代 理 母 (20 代 前 半 女 性 )を 雇 ったが 次 第 に 夫 (20 代 後 半 男 性 )と 代 理 母 が 仲 を 深 めていく さまを 見 て 妻 (20 代 半 ば 女 性 )が 悲 しむようになる 夫 が 妻 を 慰 めようとするせりふで ある 夫 は 代 理 母 について/kèe/を/nèəŋ/を 用 いて 指 すことによって 代 理 母 は 妻 として 認 識 していないのだという 気 持 ちを 暗 に 妻 に 伝 えている 話 し 手 は 夫 聞 き 手 は 妻 /nèəŋ/ で 示 される 第 三 者 は 代 理 母 である /nèəŋ/は 女 性 であっても 年 長 者 について 用 いることはできない /nèəŋ/を 年 長 者 につい て 用 いることができない 例 を 以 下 に 挙 げる 23
*(26)sʔaek bɔɔŋ liidaa mɔ ɔk saalaa rɯɯ tèe 明 日 姉 (~さん) ( 人 名 ) 来 る 学 校 ( 疑 問 ) < 明 日 リダさんは 学 校 に 来 る?> ʔɔt mɔ ɔk tèe nèəŋ rɔ ɔvɔ l nah ( 否 定 ) 来 る ( 否 定 ) nèəŋ 忙 しい とても < 来 ないよ 彼 女 はとても 忙 しいから> 話 し 手 は 20 歳 男 性 聞 き 手 は 19 歳 女 性 話 題 になっているリダは 23 歳 女 性 である リダ はこの 会 話 が 聞 こえる 場 所 にいる この 文 をインフォーマントに 見 せたところ インフォ ーマントは/nèəŋ/を/kɔət/もしくは/kèe/に 直 した 直 した 理 由 としては 第 三 者 が 話 し 手 よりも 年 上 である /nèəŋ/を 用 いるのはもっぱら 高 齢 者 の 話 し 手 である の 二 つの 理 由 からであった /nèəŋ/は 年 下 の 男 性 に 対 する 二 人 称 としても 用 いられる また 結 婚 適 齢 期 を 過 ぎた 女 性 に 対 する 二 人 称 としても 用 いられる しかしながら 三 人 称 代 名 詞 としては 結 婚 適 齢 期 の 年 少 の 女 性 についてしか 用 いられない 4. その 他 の 用 法 この 章 では 三 人 称 代 名 詞 のその 他 の 用 法 について 述 べる 4.1. 噂 話 の kèe 会 話 の 人 がその 場 にいるかいないかによって 三 人 称 代 名 詞 の 選 択 に 影 響 が 出 る 第 三 者 がその 場 にいない 場 合 選 択 肢 が 広 がる その 場 にいるかいないかではなく 話 の 内 容 がゴシップ 的 なものである 場 合 /kèe/を 用 いることが 多 い 以 下 は 年 下 の 男 性 について/kèe/を 用 いる 例 である (27) kèe daə lèeŋ paolae paolao kèe phək sraa srɔɔvəŋ ŋɔ ɔŋòl kèe daə caol kèe 歩 く 遊 ぶ うろうろと 遊 んでいる kèe 飲 む 酒 酔 う 耽 る kèe 歩 く 放 る prɔɔpɔǹ koon tòk ʔaoj deek tram tɯk pnɛ ɛk nə v ptɛ əh 妻 子 ども 置 く ( 使 役 ) 寝 る 我 慢 する 涙 ~で 家 < 彼 はうろうろと 遊 び 歩 いて ( 彼 は) 酒 を 飲 んで 酔 っ 払 うだろうよ ( 彼 は) 自 分 は 遊 び 歩 いて 家 に 捨 て 置 かれた 妻 子 のほうは 涙 を 我 慢 しながら 眠 ることになるだろうよ!> (PSP 2208) ヴィティアヴィー( 青 年 女 性 )に 恋 人 ブントゥアン( 青 年 )のことをあきらめさせようと 母 親 ヌオン( 中 年 女 性 )がブントゥアンの 悪 口 を 言 っているせりふである /kèe/はブント ゥアンを 指 している 24
以 下 は 自 分 の 娘 について/kèe/を 用 いる 例 である (28) hah hah kɔ mnɯt kmuoj lʔɔɔ tvə ə ʔaoj puu nɯk khə əɲ lbac muoj daəmbəj ( 笑 い 声 ) 考 え 甥 良 い ( 使 役 ) 叔 父 思 い 描 く 見 える 方 法 一 ~するために cuoj ʔaoj kmuoj nɯŋ kèe ʔaoj kan tae jɔ l cət pii knèə 助 ける ( 使 役 ) 甥 ~と kèe ( 使 役 ) もっと~になる 理 解 する 心 ~から 互 いに thaem tiət 加 える さらに <ハッ ハッ 君 の 考 えはいいね おかげでおじさんは 君 と 彼 女 がお 互 いの 気 持 ちをもっと 理 解 し 合 えるようになるための 方 法 を 思 いついたよ> (BDPR p.178 ll.11-12) 医 師 ニサイ( 青 年 男 性 )が 思 いを 寄 せるペイチョロナイ( 十 代 後 半 の 女 性 )を 遊 びに 連 れ 出 すためにはどうしたらいいかと ペイチョロナイの 父 親 に 相 談 に 行 く ペイチョロナイ の 父 親 がニサイを 助 けてやろうと 考 えを 伝 授 しようとするせりふである /kèe/は 娘 であ るペイチョロナイを 指 している 以 下 は 女 性 が 同 年 代 の 男 性 について/kèe/を 用 いる 例 である (29) baan cèə ʔəvpòk ʔaeŋ hèən pdacɲaa jaaŋ nih prɔ h sɔmləŋ khə əɲ だから 父 親 お 前 敢 えて~する 決 める ~の 様 に この ~だから 見 る 見 える thaa cək bònthɔn mèən trɔəp thɔǹ thèən lmɔ ɔm caek koon kèe ʔaoj ~だと 叔 父 ( 人 名 ) ある 財 産 ~するのにふさわしい 分 ける 子 ども kèe ( 使 役 ) skɔəl tae seeckdəi sok baan ~である ( 形 容 詞 の 前 につけて 抽 象 名 詞 をつくる) 健 康 だ ( 可 能 ) <だからお 前 のお 父 さんは 敢 えてこんなふうに 決 めたんだ それというのも ブン トンおじさ んには 彼 の 子 どもが 健 康 に 暮 らしていけるぐらいに 分 け 与 えられる 財 産 があるものと 見 越 して いたからだよ> (PSP 2004) 母 親 ヌオン( 中 年 女 性 )が 娘 ヴィティアヴィー( 青 年 女 性 )に ヴィティアヴィーの 恋 人 ブントゥアン( 青 年 )の 父 親 ブン トン( 中 年 男 性 )の 噂 話 をしているせりふである /kèe/ で 示 されている 第 三 者 はブン トンおじさんである 以 上 の 様 に /kèe/が 様 々な 条 件 下 で 用 いられている 世 代 や 年 齢 上 位 者 下 位 者 同 等 のくくりもない 共 通 しているのは 第 三 者 が 会 話 の 場 におらず 話 題 が 噂 話 である と いうことである ただし 噂 話 をしているときでも 親 族 の 世 代 が 上 の 年 長 者 にだけは/kèe/を 用 いること ができない 小 説 の 中 にも 親 族 の 世 代 が 上 の 年 長 者 について/kèe/を 用 いる 例 はなく イン フォーマントもそのように 話 していた 以 下 に 親 族 の 世 代 が 上 の 年 長 者 について/kèe/を 用 いることができない 例 を 挙 げる 以 下 は 親 族 の 年 長 者 について/kèe/を 用 いる 例 である 25
(30) bɔɔŋ srəj kɲom kèe mèən koon pii nɛ ək haəj 姉 私 kèe ある 子 ども 2 ~ 人 ( 完 了 ) < 私 の 姉 彼 女 にはもう 子 どもが2 人 いる> (30)で/kèe/は 私 の 姉 を 指 している インフォーマントによれば 姉 がこの 会 話 を 耳 に していなければ(30)は 問 題 ない とのことであった いっぽう 話 題 の 人 を 親 族 の 同 世 代 の 年 長 者 である 私 の 姉 から 親 族 の 世 代 が 上 の 年 長 者 である 私 の 叔 母 に 変 えると /kèe/を 用 いることができない 以 下 にその 例 を 挙 げ る *(31)miiŋ kɲom kèe mèən koon pii nɛ ək haəj 叔 母 私 kèe ある 子 ども 2 ~ 人 ( 完 了 ) < 私 の 叔 母 彼 女 にはもう 子 どもが2 人 いる> インフォーマントは(31)を 以 下 のように 直 した (32) miiŋ kɲom kɔət mèən koon pii nɛ ək haəj 叔 母 私 kɔət ある 子 ども 2 ~ 人 ( 完 了 ) < 私 の 叔 母 彼 女 にはもう 子 どもが2 人 いる> 世 代 が 上 の 人 については/kèe/を 用 いることはできないのである 4.2. 夫 婦 の 場 合 夫 婦 の 場 合 他 の 親 族 や 他 人 についての 三 人 称 詞 とは 違 った 体 系 をもつ 夫 婦 間 では 男 性 のほうが 上 位 とされており 三 人 称 代 名 詞 を 用 いる 場 合 には 自 分 の 夫 については/kɔət/ を 自 分 の 妻 については/kèe/を 用 いる 妻 が 夫 について/kèe/を 用 いることもある 先 行 詞 に 夫 妻 もしくは 聞 き 手 が 配 偶 者 だと 知 っている 名 前 が 出 てきていなくても/kèe/ と 言 うだけで 配 偶 者 のことを 指 すこともできる 以 下 は 妻 が 夫 について/kèe/を 用 いる 例 である (33) ʔaə ʔaeŋ dəŋ rɯəŋ bònthɯən nih kaal ʔəvpòk ʔaeŋ kèe rɔ h nə v ( 感 嘆 詞 ) お 前 知 る 話 ( 人 名 ) この ~のとき 父 親 お 前 kèe 生 きる いる kèe baan rɔəp ʔaan kruosaa bònthɯən nih nah kèe ( 過 去 ) 親 しくする 家 族 ( 人 名 ) この とても <ああ お 前 はこのブントゥアンの 話 を 知 っているだろう!お 前 のお 父 さん( 彼 )が 生 きてい たとき ( 彼 )はこのブントゥアンの 家 族 ととても 親 しくしていたね> (PSP 1909) 母 親 ヌオン( 中 年 女 性 )が 娘 ヴィティアヴィー( 青 年 女 性 )に 死 んでしまった 父 親 のこと を 話 しているせりふである 話 し 手 は 母 親 ヌオン 聞 き 手 は 娘 ヴィティアヴィー /kèe/で 示 されるのはヌオンの 夫 である 以 下 に 同 様 の 例 を 挙 げる 26
(34) coh najseən kèe tə v naa tə v baan cèə kèe bɔndaal ʔaoj nèəŋ piʔbaak jaaŋ nih では ( 人 名 ) kèe 行 く どこ 行 く だから kèe ( 使 役 ) あなた 大 変 だ ~ 様 に この <じゃあ ナイスィアン( 彼 )はどこかへ 行 ったのね だから 彼 はあなたをそんなに 大 変 にさ せたのでしょう?> caah cae kèe rɔ ɔvɔ l tə v mə əl koon kuurii croot srəv ʔae cɔǹdaəsvaa はい お 姉 さん kèe 忙 しい 行 く 見 る 苦 力 たち 刈 る 稲 ~で ( 地 名 ) <はい(お 姉 さん) あの 人 はチョンダウスヴァで 苦 力 たちが 稲 刈 りをするのを 見 に 行 っていて 忙 しかったんです> (PSP 6507 6508) 上 はトー( 中 年 女 性 )に 夫 の 様 子 を 聞 くヌオン( 中 年 女 性 )のせりふ 下 は 夫 が 忙 しかっ たと 答 えるトーのせりふである 話 し 手 はトー 聞 き 手 はヌオン /kèe/で 示 されている 第 三 者 はトーの 夫 ナイスィアンである 以 下 は 夫 が 妻 について/kèe/を 用 いる 例 である (35) ʔoon phèə pɯt cèə srɔɔlaɲ prɔ h pii msəl məɲ bɔɔŋ baan suo ʔoon phèə 妹 ( 人 名 ) 本 当 に 愛 する ~だから 昨 日 ( 一 人 称 ) ( 過 去 ) 尋 ねる 妹 ( 人 名 ) thaa koon rɔ ɔbɔh puok jə əŋ cèə proh taə ʔoon phèə srɔɔlaɲ tèe pèel nuh ~と 子 ども ~の ~ 達 我 々 ~である 男 ( 疑 問 ) 妹 ( 人 名 ) 愛 する ( 疑 問 ) 時 その ʔoon phèə claəj thaa kèe srɔɔlaɲ haəj nèəŋ kɯt thaa koon jə əŋ praakɔt cèə ( 人 名 ) 答 える ~と kèe 愛 する そうして 彼 女 考 える ~と 子 ども 我 々 確 かに~である mèən mòk dooc bɔɔŋ tae bɔɔŋ prap nèəŋ vɯɲ thaa... 持 つ 顔 ~に 似 ている ( 一 人 称 ) でも ( 一 人 称 ) 言 う 彼 女 ( 方 向 の 転 換 ) ~と <ピア(のこと)は 本 当 に 愛 しているよ 昨 日 僕 はピアに 僕 達 の 子 どもは 男 の 子 だけど (そ の 子 を)ピアは 愛 するかと 聞 いたら 彼 女 は 愛 すると 答 えたんだから そして 彼 女 は 僕 達 の 子 ど もの 顔 はきっと 僕 に 似 ていると 考 えていたよ でも 僕 はこう 言 ったんだ > (BDPR p.92 l.12-15) 不 妊 に 悩 む 夫 婦 が 代 理 母 を 雇 った 自 分 達 の 子 どもを 果 たして 正 妻 はいつくしみ 育 てるこ とができるかどうか と 悩 む 代 理 母 (20 女 性 )を 夫 が 慰 め 励 ますせりふである /kèe/は 正 妻 ピアを 指 している 4.3.puok ~たち どの 三 人 称 代 名 詞 も 単 数 複 数 を 問 わないが 複 数 だということをはっきりさせたいとき には/puok/を 語 頭 につけて ~たち と 言 う 日 本 語 の ~がた と ~ども ほどの 丁 寧 さや 敬 意 の 違 いはないが あまり 丁 寧 な 言 い 方 ではない 27
(36) puok kɲom mɔ ɔk som kaa bɔmplɯɯ rɯəŋ bɔɔŋ srəj naalin nɯŋ lòok pɛ ɛt puok 私 来 る 乞 う こと 明 らかにする 話 お 姉 さん ( 人 名 ) ~と 医 師 khaaŋ nèh taə bɔɔŋ srəj skɔəl puok kɔət tɛ əŋ pii cbah 側 nah こちら ( 疑 問 ) ( 二 人 称 ) 知 っている puok kɔət どちらも 2 はっきりと mɛ ɛn tèe とても 本 当 ( 疑 問 ) < こちらにいるナリンさんとお 医 者 さんの 話 を 明 らかにしていただきたいのですが お 姉 さ んは2 人 のことをご 存 じですか?> (BDPR p.199 ll.4-5) (36)は 主 人 公 の 女 性 ペイチョロナイが 恋 敵 ナリンに あなたの 婚 約 者 である 医 師 と 私 はも ともと 恋 人 同 士 で 私 は 一 度 医 師 の 子 を 堕 胎 させられたことがあるのだ とだまされ 自 分 医 師 ナリンの3 人 で 中 絶 の 手 術 をしたという 医 師 のもとへ 真 相 を 確 かめに 行 く 場 面 である 話 し 手 は 主 人 公 ペイチョロナイである ペイチョロナイは 医 師 にだまされていた のだと 憤 慨 している 医 師 とナリンは 年 上 であるし 初 めて 会 う 医 師 の 前 なので 二 人 に ついて 尊 敬 的 代 名 詞 /kɔət/を 用 いてはいるものの 軽 蔑 的 な 気 持 がある 以 下 に 同 様 の 例 を 挙 げる (37) coh puok kèe mac kɔɔ mɯn rɔ ɔk rɔ ɔbɔɔ pseeŋ pii nih では puok kèe なぜ ( 否 定 ) 探 す 仕 事 他 ~から これ <それで どうして 彼 らは 他 の 仕 事 を 探 そうとしないの?> (RCTV p.101 l.5) (37)はユイイー(20 代 女 性 )が ユイサン(20 代 男 性 )と ユイサンが 以 前 不 良 に 絡 まれた 時 の 話 をしている 場 面 である 不 良 はいつもユイサンの 仕 事 を 邪 魔 しに 来 ていた とユイ サンが 話 すと ユイイーはなぜ 不 良 は 悪 さばかりするのか と 思 い 質 問 をする /puok kèe/ は 不 良 たちのことである 以 下 は 目 上 の 人 について/puok/を 用 いる 例 である (38) khə əɲ puok nɛ ək kruu mɔ ɔk taə 見 える puok 先 生 来 る ( 文 の 意 味 を 弱 める) < 先 生 達 が 来 るのが 見 えるよ> インフォーマントによれば (38)は 間 違 いではないが 先 生 方 の 耳 に 入 る 場 所 では 言 って はならない その 代 わりに/puok/をとった (39) khə əɲ nɛ ək kruu mɔ ɔk taə 見 える 先 生 来 る ( 文 の 意 味 を 弱 める) < 先 生 が 来 るのが 見 えるよ> ならば 先 生 方 の 耳 に 入 っても 問 題 ないということであった 話 し 手 は 第 三 者 である 先 生 と 同 世 代 でもあまりふさわしい 言 い 方 ではなく 下 の 世 代 の 人 が 言 うと 失 礼 であるというこ とであった 以 下 の 例 はそれを 立 証 している 28
(40) caah lòok paa nɯŋ mak nə v ʔae lə ə ʔae nɔ h bɔɔŋ tə v cuop kɔə tə v はい 父 ~と 母 いる ~の 方 上 ~の 方 あちら ( 二 人 称 ) 行 く 会 う kɔət 行 く ʔoon cuun mɯt tə v krav sən naa bɔɔŋ ( 一 人 称 ) 送 る 友 人 行 く 外 ちょっと ( 強 意 ) ( 二 人 称 ) <はい 父 と 母 はあちらの 方 の 上 の 方 にいるわ お 兄 さん どうぞ 彼 らに 会 いに 行 って 私 はち ょっと 友 達 を 送 ってくるから> (BDPR p.72 ll.13-14) 自 宅 を 訪 ねてきた 年 上 の 従 兄 弟 に 対 し 10 代 後 半 の 女 性 が 両 親 の 居 場 所 を 教 えている 場 面 のせりふである /kɔət/は 女 性 の 両 親 を 指 している 複 数 人 を 指 しているから/puok/を 付 けたいところだが /puok/を 付 けると 両 親 に 対 して 失 礼 になるため 付 けていないのであ る 4.4. 三 人 称 代 名 詞 + 指 示 詞 指 示 詞 は 本 来 感 情 とは 関 係 のない 語 である しかしながら 三 人 称 代 名 詞 の 語 尾 に 付 けて 使 うと 話 し 手 の 第 三 者 に 対 する 嫌 悪 や 軽 蔑 といった 感 情 を 表 す 三 人 称 代 名 詞 そのもの を 変 えるよりも 軽 く 嫌 悪 感 や 軽 蔑 感 を 表 すことができる 指 示 詞 を 三 人 称 代 名 詞 以 外 の 三 人 称 詞 つまり 名 前 親 族 名 称 職 業 名 詞 に 付 けて 用 い たときにはこの 限 りではない 以 下 に 三 人 称 代 名 詞 + 指 示 詞 を 用 いる 例 を 挙 げる (41) kɯɯ knèə sʔɔp kɔət nuh puukae diəl srəj srəj nɯŋ naa つまり 私 憎 む kɔət その( 指 示 詞 ) 上 手 だ 侮 辱 する いろいろな 女 性 ( 強 意 ) ( 強 意 ) <つまりあたしは 彼 が 女 性 を 侮 辱 するのが 上 手 いってことが 憎 らしいのよ> (BDPR P.6 l.15) こちら /nih/ あちら /nuh/ この /nɯŋ/を 用 いたとき どれが 嫌 悪 感 を 強 く 表 せるかといった 強 さの 違 いはない 以 下 に 三 人 称 代 名 詞 + 指 示 詞 を 用 いず/kɔət/を/vèə/に 変 えた 例 を 示 す (42) kɯɯ knèə sʔɔp vèə puukae diəl srəj srəj nɯŋ naa つまり 私 憎 む vèə 上 手 だ 侮 辱 する いろいろな 女 性 ( 強 意 ) ( 強 意 ) <つまりあたしは 彼 が 女 性 を 侮 辱 するのが 上 手 いってことが 憎 らしいのよ> (41)よりも 乱 暴 で 軽 蔑 感 の 強 く 表 れた 表 現 になる /ʔaa/+ 三 人 称 代 名 詞 + 指 示 詞 は 三 人 称 代 名 詞 + 指 示 詞 よりも 失 礼 な 言 い 方 である /ʔaa/は 下 位 者 の 名 前 の 語 頭 に 付 けて ~ちゃん という 愛 称 をつくる 女 性 について 使 う のは 問 題 ないが 男 性 に 対 して 使 うと ~ 野 郎 という 意 味 になり 失 礼 である 11 人 名 の 語 頭 に 付 けるのが 普 通 だが 三 人 称 代 名 詞 にも 付 けることができる 三 人 称 代 名 詞 の 中 には 尊 敬 的 な 意 味 を 持 つものがあるが どの 三 人 称 代 名 詞 に 付 けて 使 っても 非 常 に 失 礼 な 言 い 11 /ʔaa/に 対 応 する 女 性 についての 蔑 称 は/mii/である 29
方 になり 話 し 手 が 第 三 者 に 対 して 嫌 悪 や 憎 悪 といった 感 情 を 持 っていることがわかる こちらも 三 人 称 代 名 詞 そのものを 変 えるよりは 軽 く 嫌 悪 感 や 軽 蔑 感 を 表 す 以 下 に/ʔaa/+ 三 人 称 代 名 詞 + 指 示 詞 を 用 いる 例 を 挙 げる (43) haəj cam knèə tə v rɔ ɔk rɯəŋ ʔaa kɔət nɯŋ coh naa niilaa それで 待 つ 私 行 く 探 す 話 ʔaa kɔət nɯŋ ( 強 意 ) ( 強 意 ) ( 人 名 ) <それじゃ あたしがあいつの 話 を 探 しに 行 ってくるのを 待 っててよね ニラー> (BDPR p.8 l.7) (43)は 主 人 公 のペイチョロナイ(10 代 後 半 女 性 )が 友 人 ニラー(10 代 後 半 女 性 )と 嫌 いな 男 (20 代 男 性 )の 話 をしているところである ニラーが 男 の 住 所 をペイチョロナイに 教 え ペイチョロナイがその 住 所 に 行 ってみる と 言 うのである /ʔaa kɔət nɯŋ/はその 嫌 い な 男 のことである 以 下 に 同 様 の 例 を 挙 げる (44) ʔaa kɔət nuh vèə mɯn mɔ ɔk kluon ʔaeŋ tèe vèə praə daj cə əŋ ʔaa kɔət nuh あいつ ( 否 定 ) 来 る 自 身 自 分 ( 否 定 ) vèə ( 使 役 ) 手 足 vèə mnɛ ək cmɔ h ʔaa kmav ʔaoj mɔ ɔk cuop nɯŋ kɲom vèə 一 人 名 前 ( 人 名 ) ( 使 役 ) 来 る 会 う ~と 私 <あいつは 自 分 では 来 なかったんです!あいつは 自 分 の 手 足 であるアークマウって 奴 に 僕 に 会 いに 来 させたんです!> (RCTV p.108 ll.10-11) (44)は 主 人 公 の 男 性 ルイチアンが 女 性 ユイイーに 悪 者 と 渡 り 合 ったときの 話 をしている 場 面 である チャンイーはルイチアンと 約 束 した 取 引 の 場 に 来 なかったのだと ルイチア ンは 怒 りながら 話 している 話 し 手 はルイチアン 聞 き 手 はユイイー /ʔaa kɔət nuh/で 示 される 第 三 者 はルイチアンを 裏 切 った 悪 者 チャンイーである 4.5. 三 人 称 代 名 詞 と 名 詞 + 三 人 称 代 名 詞 名 詞 + 三 人 称 代 名 詞 といった 形 で 第 三 者 のことを 指 すことがある 会 話 の 中 で 新 たに 登 場 した 人 ( 先 行 詞 のない 第 三 者 )は 名 前 や 親 族 名 称 や 職 業 名 称 で 呼 ばれることがほとんど であるが 名 詞 + 三 人 称 代 名 詞 が 用 いられることもある この 場 合 の 名 詞 とは 名 前 や 親 族 名 称 職 業 名 称 を 言 う この 用 法 について 先 行 研 究 はないが Khin(1999)に/vèə/の 場 合 のみ 記 述 がある 話 し 言 葉 の 中 で 代 名 詞 /vèə/が 主 語 と 動 詞 の 中 にあり 主 語 が 人 間 ではない 場 合 に 現 れ る 場 合 /vèə/という 語 は 文 の 主 題 を 繰 り 返 している (45) tòmnèɲ vèə laəŋ tlaj rɔəl tŋaj 商 品 それ 上 がる 値 段 毎 日 <ものの 値 段 は 毎 日 上 がっている> この 文 の 中 での 主 題 は/tòmnə ɲ/で 述 部 は/vèə laəŋ tlaj rɔəl tŋaj/である /vèə/とい 30
う 語 は 主 題 /tòmnèɲ/を 繰 り 返 している 主 題 を 繰 り 返 すことにどういった 意 味 があるのか という 点 について Khin(1999)の 言 及 はない Khin(1999)の/vèə/についての 解 釈 は 他 の 三 人 称 代 名 詞 にも 応 用 できる 以 下 は 名 詞 + /kɔət/を 用 いる 例 である (46) ʔaə knèə nɯŋ mɔ ɔk mòn kèe daəmbəj mɔ ɔk cuoj kəckaa klah dɔl ʔaeŋ うん 私 ( 意 志 ) 来 る 前 人 ~のために 来 る 手 伝 う 仕 事 ( 到 達 点 ) あなた niijèəj ʔəjcəŋ lòok sɔmrac niisaj sʔəj nuh kɔət nɯŋ cool ruom knoŋ 言 う そのように ~さん ( 人 名 ) 何 それ kɔət ( 未 来 ) 参 加 する 中 piithii ʔaeŋ dae tèe 催 し 物 あなた ~も ( 疑 問 ) <うん!あたし あんたの 仕 事 を 手 伝 うために 他 の 人 より 前 に 来 てあげるつもりよ そういえ ば ソムレイニサイさんとか 何 とかいう 人 彼 もあんたのパーティーに 来 るの?> (BDPR p.70 ll.3-4) (46) 中 の/kɔət/は 先 行 する 人 名 /lòok sɔmrac niisaj sʔəi nuh/を 繰 り 返 している 花 ひ らく 心 では 名 詞 + 三 人 称 代 名 詞 を 用 いる 場 面 が(46)の 他 に4 回 あり どの 場 合 も 会 話 の 中 に 新 しい 第 三 者 を 登 場 させるとき また 話 題 ( 主 題 )を 変 えるときであり そういえ ば という 語 を 使 いたくなるような 場 面 である しかしそういった 場 面 ならばいつも 名 詞 + 三 人 称 代 名 詞 を 用 いるわけではないため 名 詞 + 三 人 称 代 名 詞 は 会 話 の 中 に 新 しい 人 物 を 登 場 させるときのマーカーであるとは 言 えない /kɔət/に 限 って 言 えば 丁 寧 さ 敬 意 という 観 点 からも 分 析 することができる クメー ル 語 には 敬 語 に 相 当 する 動 詞 や 名 詞 があるが 相 手 の 呼 称 を 文 末 につけて 呼 びかけること で 敬 意 や 丁 寧 さをプラスすることができる 以 下 は 相 手 の 呼 称 を 文 末 につけて 呼 びかけることで 敬 意 をプラスする 例 である (47) nɛ ək kruu sok sapbaaj tèe ( 女 性 の) 先 生 元 気 楽 しい ( 疑 問 ) < 先 生 ご 機 嫌 いかがですか?> (48) nɛ ək kruu sok sapbaaj tèe nɛ ək kruu ( 女 性 の) 先 生 元 気 楽 しい ( 疑 問 ) 先 生 < 先 生 ご 機 嫌 いかがですか 先 生?> 二 つのうち 後 者 の(46)のほうが 丁 寧 尊 敬 的 である この 例 からわかるように クメー ル 語 では 呼 称 を 多 く 用 いるほうが 丁 寧 尊 敬 的 だと 受 け 取 られる 三 人 称 についても 第 三 者 の 名 称 を 繰 り 返 したほうが 話 し 手 の 第 三 者 に 対 する 敬 意 を 表 すことができる しかしながらこの 解 釈 は/kɔət/ 以 外 の 三 人 称 代 名 詞 に 応 用 することはできない /kèe/ や/vèa/が 名 詞 + 三 人 称 代 名 詞 として 用 いられることもあるが /kèe/と/vèa/という 語 自 体 に 敬 意 が 含 まれないため 三 人 称 代 名 詞 の 付 加 を 敬 意 の 付 加 だと 解 釈 することはできな 31
いからである 4.6. 二 人 称 詞 としての kɔət 筆 者 ( 日 本 人 )は クメール 人 ( 女 性 同 年 代 )( 男 性 年 上 )や ラオス 人 の 留 学 生 ( 男 性 同 年 代 )から/kɔət/を 用 いて 呼 びかけられた 経 験 がある また プノンペン 在 住 のクメール 人 女 性 が 電 話 口 でクメール 人 男 性 に/kɔət/を 用 いて 呼 びかけているところを 目 にしたこともある 状 況 は 以 下 である クメール 人 女 性 ( 当 時 30 代 後 半 )はタクシーの 運 転 手 (20 代 半 ば)と 待 ち 合 わせをして いたが 約 束 の 時 間 になってもタクシーが 現 れなかったため 運 転 手 に 電 話 をして 今 どこ にいるのかを 尋 ねた このときクメール 人 女 性 は 今 あなたはどこにいますか と 尋 ね あなた に 相 当 する 語 として/kɔət/を 用 いた /kɔət/を 用 いた 理 由 を 尋 ねてみたところ /puu/(おじさん) よりも/kɔət/と 呼 びかけた 方 が 丁 寧 な 感 じがするから ということであった 親 族 名 称 を 用 いると 相 手 との 親 密 さをあらわすことができる ( 坂 本 1972) 反 面 それほど 親 密 でない 相 手 に 対 して 用 いるとぞんざいな 感 じがするからだろう 女 性 が 男 性 について もしくは 男 性 に 対 して 話 すとき 上 下 関 係 が 生 じる 女 性 が 年 下 の 男 性 を 指 すときに/vèə/を 用 いず /kèe/を 用 いる 例 があるように ある 意 味 女 性 は 男 性 をたてる 表 現 をすることがある 5. おわりに 以 上 クメール 語 の 三 人 称 代 名 詞 について 三 人 称 代 名 詞 にはどのようなものがあるのか 三 人 称 代 名 詞 を 使 い 分 けるときの 基 準 は 世 代 にあるのか それとも 年 齢 にあるのか 親 族 間 と 非 親 族 間 では 用 法 に 違 いがあるのかどうか 用 法 の 基 準 に 従 わない 場 合 はどのような 場 合 か またその 場 合 は 何 を 表 すのか の5 点 を 文 学 作 品 中 の 会 話 文 をみること イン フォーマント 調 査 をすることにより 検 討 した その 結 果 三 人 称 代 名 詞 にはどのようなものがあるのか について 本 稿 では 基 本 の 三 人 称 代 名 詞 を/kèe/ /kɔət/ /vèə/の3 種 類 に /nèəŋ/と/lòok/を 補 助 的 な 三 人 称 代 名 詞 と 定 義 した それから それらを 使 い 分 ける 基 準 は 親 族 非 親 族 に 共 通 して 年 齢 である 用 法 の 基 準 に 従 わない 場 合 は 話 し 手 または 第 三 者 が 結 婚 適 齢 期 の 女 性 かどうか 話 し 手 と 第 三 者 との 親 疎 関 係 会 話 が 第 三 者 の 耳 に 入 るかどうか 会 話 の 場 があらたまった 場 か どうか といった 要 素 が 影 響 し あえて 尊 敬 的 な 三 人 称 代 名 詞 を 用 いたり ぞんざいな 三 人 称 代 名 詞 を 用 いたりするのだということがわかった 現 代 クメール 語 の 三 人 称 代 名 詞 の 選 択 では 世 代 ではなく 年 齢 が 最 も 優 先 的 に 考 慮 され る 話 し 手 と 第 三 者 の 年 齢 を 比 べ 自 己 よりも 年 長 か 年 少 かそれとも 同 年 齢 かの3つのカ テゴリーに 分 ける さらに 親 疎 関 係 や 会 話 の 場 等 の 条 件 を 考 慮 に 加 え 三 人 称 代 名 詞 が 決 32