KPMG Insight Vol. 14 / Sep. 215 1 Jリーグの 現 状 分 析 有 限 責 任 あずさ 監 査 法 人 スポーツアドバイザリー 室 室 長 パートナー 大 塚 敏 弘 得 田 進 介 スポーツ 科 学 修 士 1993 年 に 開 幕 した 日 本 プロサッカーリーグ 以 下 Jリーグ というは 順 調 に 市 場 規 模 を 広 げ 一 時 期 低 迷 したものの 日 韓 W 杯 が 開 催 された22 年 以 降 は 再 び 盛 り 上 がりを 見 せ 市 場 規 模 をさらに 拡 大 させたことで28 年 には 営 業 収 入 が 過 去 最 高 となりました しかしながら29 年 以 降 市 場 規 模 は 下 降 線 をたどり 211 年 には 東 日 本 大 震 災 の 影 響 で 大 きく 減 少 してしまいました 212~213 年 にかけて 回 復 基 調 に 転 じましたが まだ211 年 以 前 の 水 準 には 戻 っていません また 観 客 動 員 数 は2 年 以 降 年 々 増 加 していましたが 29 年 をピークに 徐 々に 減 少 傾 向 にあります この 結 果 多 くのJリーグ 加 盟 クラブ 以 下 Jクラブ というは 入 場 料 収 入 を 増 やすことができないことから 広 告 料 収 入 に 頼 らざるを 得 ず クラブ 経 営 が 安 定 しているとは 言 い 難 く 現 状 のままでは 営 業 収 入 の 伸 びはあまり 期 待 でき ません 選 手 や 監 督 といった 人 件 費 に 投 資 することができないため 魅 力 的 なリーグと なっておらず 観 客 動 員 数 を 増 やすことができていない 結 果 営 業 収 入 が 増 え ないといった 悪 循 環 に 陥 ってしまっていると 考 えられます 以 上 から Jクラブ 全 体 で 営 業 収 入 を 増 加 させていきJリーグを 盛 り 上 げていく ためには 特 定 の 収 入 項 目 に 依 存 することなく Jクラブが 営 利 企 業 として 自 立 していくことが 急 務 であると 言 えます なお 本 文 中 の 意 見 に 関 する 部 分 は 筆 者 の 私 見 であることを あらかじめお 断 りいたします ポイント 収 入 項 目 ごとに 変 動 リスクは 異 なる J リーグに 加 盟 するほとんどのクラブは スポンサー 企 業 からの 広 告 料 収 入 に 過 度 に 依 存 した 経 営 状 態 にあると 言 える ドイツ ブンデスリーガと 同 様 に J リーグも 営 業 収 入 人 件 費 比 率 が 5%を 下 回 っているが J リーグの 場 合 には 人 件 費 を 削 減 している 結 果 であると 考 えられ クラブ 経 営 が 健 全 であるとは 必 ずしも 言 えない J リーグに 必 要 なのは 積 極 的 な 投 資 による 成 長 戦 略 である おおつか 大 としひろ 塚 敏 弘 有 限 責 任 あずさ 監 査 法 人 スポーツアドバイザリー 室 室 長 パートナー と く だ 得 しんすけ 田 進 介 有 限 責 任 あずさ 監 査 法 人 スポーツアドバイザリー 室 スポーツ 科 学 修 士 Ⅰ J リーグの 収 入 項 目 Jクラブの 収 入 項 目 は 大 きく5つの 項 目 に 分 けることができ ます 図 表 1 参 照 Jクラブの 収 入 項 目 と 欧 州 サッカーリーグ との 違 いは 欧 州 のサッカークラブで 金 額 が 大 きくなっている 放 映 権 料 収 入 が Jクラブでは 非 常 に 小 さくなっている 点 です 欧 州 サッカーリーグでは 放 映 権 料 収 入 の 割 合 が5%を 占 め ているリーグもあり 欠 かせない 収 入 となっています 日 本 の 放 映 権 料 収 入 はまだそのような 規 模 になっていないため J クラブで 収 入 の 柱 となるのは 広 告 料 収 入 と 入 場 料 収 入 の2つで す 一 方 で 欧 州 サッカーリーグの 収 入 の 柱 は 広 告 料 収 入 と 入 場 料 収 入 に 放 映 権 料 収 入 を 加 えた3つとなっています International Cooperative KPMG International, a Swiss entity. All rights reserved.
2 KPMG Insight Vol. 14 / Sep. 215 広 告 料 収 入 は 一 般 的 に1 取 引 当 たりの 金 額 は 大 きくなります が 景 気 やスポンサー 企 業 の 業 績 によって 大 きく 変 動 するリス クがあり 場 合 によってはなくなることもあり 得 ます これに 対 して 入 場 料 収 入 は 販 売 単 価 が 小 さく 勝 敗 や 人 気 で 変 動 するリスクは 多 少 あるものの 少 なくとも 一 定 水 準 の 収 入 は 確 保 できると 考 えられます これらの 変 動 リスクを 最 小 限 に 抑 え ることができる 適 切 なセールスミックス を 把 握 することが 重 要 であると 言 えます 図 表 1 Jリーグの 収 入 項 目 と 内 容 収 入 項 目 広 告 料 収 入 入 場 料 収 入 Jリーグ 配 分 金 アカデミー 関 連 収 入 その 他 収 入 内 容 スポンサー 企 業 からの 協 賛 金 チケット 販 売 による 収 入 公 式 戦 の 放 映 権 料 やJリーグに 対 するスポン サー 料 の 各 クラブへの 分 配 金 ジュニアスクール 等 の 育 成 スクールに 関 する 収 入 商 品 販 売 による 収 入 や 移 籍 金 収 入 等 ると 半 数 のクラブで 広 告 料 収 入 の 割 合 が 概 ね5%を 超 えて おり 過 度 に 広 告 料 収 入 に 依 存 している 状 況 であることがわ かります また ほとんどのクラブで 広 告 料 収 入 が 入 場 料 収 入 を 大 きく 上 回 っています 図 表 2 参 照 欧 州 サッカーリーグで 最 も 経 営 が 安 定 していると 言 われてい るブンデスリーガ 所 属 クラブの 広 告 料 収 入 入 場 料 収 入 放 映 権 料 収 入 の 割 合 はそれぞれ3% 程 度 であるため Jクラブが 特 定 の 収 入 に 依 存 していることは 明 らかです また Jリーグの 観 客 動 員 数 は 概 ね 横 ばいとなっており 増 加 させることができていません 図 表 3 参 照 そのため スタ ジアムの 空 席 が 目 立 ってしまい 人 々の 試 合 観 戦 のニーズはそ れほど 高 まらず 試 合 観 戦 のニーズが 低 いと 試 合 の 放 映 権 を 高 額 で 売 却 することができないことに 加 えて 試 合 放 映 がほと んど 行 われないことからスポンサー 企 業 は 広 告 を 打 つことをた めらってしまうと 考 えられ 結 果 として 営 業 収 入 を 増 加 させる ことが 困 難 になってしまいます このように Jクラブは 営 業 収 入 を 獲 得 していくうえでクラブ 経 営 の 悪 循 環 に 陥 ってしまっ ていると 言 えます 出 典 : Jクラブ 個 別 経 営 情 報 開 示 資 料 J.LEAGUE DATA Siteおよびコンサドー レ 札 幌 公 式 H P 決 算 情 報 を 基 に 作 成 Ⅲ J リーグの 課 題 Ⅱ J リーグの 経 営 状 態 多 くのJクラブでは 広 告 料 収 入 に 過 度 に 依 存 しているため クラブ 経 営 を 行 ううえでリスクが 高 いと 言 えます 213 年 シー ズン J 1リーグの 営 業 収 入 上 位 1クラブの 収 入 項 目 割 合 を 見 スポンサー 企 業 はスポーツの 発 展 に 不 可 欠 であると 考 えら れるため スポンサー 企 業 からの 広 告 料 収 入 が 増 えるもしく は 今 後 も 変 わらない 見 込 みであれば 問 題 は 小 さいと 言 えます が 28 年 のリーマンショック 以 降 は 企 業 の 国 内 での 広 告 宣 伝 費 は 削 減 傾 向 にあり 広 告 宣 伝 に 関 する 投 資 を 海 外 に 振 り 向 けている 傾 向 にあります 図 表 4 参 照 そのため 今 後 も 図 表 2 J1リーグの 営 業 収 入 上 位 1クラブの 収 入 割 合 212-213シーズン 1% 9% 8% 7% 6% 5% 4% 3% 2% 4.1% 35.1% 58.1% 45.2% 4.1% 57.1% 49.9% 71.1% 53.% 46.7% 1% % 浦 和 横 浜 FM 名 古 屋 鹿 島 F 東 京 柏 磐 田 大 宮 川 崎 F C 大 阪 広 告 料 収 入 入 場 料 収 入 Jリーグ 配 分 金 アカデミー 関 連 収 入 その 他 収 入 出 典 : Jクラブ 個 別 経 営 情 報 開 示 資 料 J.LEAGUE DATA Siteを 基 に 作 成 International Cooperative KPMG International, a Swiss entity. All rights reserved.
KPMG Insight Vol. 14 / Sep. 215 3 スポンサー 企 業 から 毎 期 同 額 の 広 告 料 収 入 がJクラブに 安 定 的 に 入 ってくるとは 考 えにくいと 言 えます そもそも 広 告 料 収 入 は 景 気 やスポンサーの 業 績 など 外 部 環 境 の 影 響 により 変 動 す るリスクが 高 いため 過 度 に 広 告 料 収 入 に 依 存 したクラブ 経 営 は 避 けるべきであり 営 利 企 業 として 自 立 していけるクラブ 経 営 が 必 要 です また 企 業 の 広 告 宣 伝 費 と 比 例 するようにJクラブの 営 業 収 入 も 減 少 傾 向 にあるため 選 手 や 監 督 に 投 資 することができ ていないと 考 えられます 図 表 5 参 照 J1リーグの 営 業 収 入 人 件 費 比 率 は26 ~ 213シーズンまでいずれのシーズンも 5%を 下 回 っていることから 形 式 的 に 見 るとクラブ 経 営 は 健 全 であると 言 えます しかし ここで J1リーグと 同 様 に 営 業 収 入 人 件 費 比 率 が 5% 以 下 となっているブンデスリーガと 比 較 してみます J1 リーグの 場 合 には 営 業 収 入 が 横 ばい あるいは 減 少 している なかで 人 件 費 について 緊 縮 策 を 取 っている 結 果 営 業 収 入 人 件 費 比 率 が5% 以 下 になっていると 考 えられます 一 方 で ブンデスリーガの 場 合 には 毎 期 積 極 的 に 選 手 や 監 督 に 投 資 を 行 っていますが その 投 資 の 成 果 である 営 業 収 入 の 増 加 幅 が 投 資 の 増 加 幅 よりも 大 きいことから 営 業 収 入 人 件 費 率 が5% 以 下 になっている 点 が 異 なっていると 考 えられます 営 業 収 入 および 観 客 動 員 数 が 伸 び 悩 んでいるJリーグにおい 図 表 3 J1リーグの 観 客 動 員 数 推 移 7,, 6,, 観 客 動 員 数 人 5,, 4,, 3,, 2,, 1,, 26 27 28 29 21 211 212 213 出 典 : Jクラブ 個 別 経 営 情 報 開 示 資 料 J.LEAGUE DATA Siteを 基 に 作 成 図 表 4 Jクラブ 全 体 の 営 業 収 入 推 移 と 有 力 企 業 の 広 告 宣 伝 費 単 体 推 移 7 35, 6 3, 営 業 収 入 億 円 5 4 3 2 25, 2, 15, 1, 広 告 宣 伝 費 億 円 1 5, 26 27 28 29 21 211 212 213 営 業 収 入 広 告 宣 伝 費 出 典 : Jクラブ 個 別 経 営 情 報 開 示 資 料 J.LEAGUE DATA Siteおよび 有 力 企 業 の 広 告 宣 伝 費 214 年 度 版 日 経 広 告 研 究 所 を 基 に 作 成 International Cooperative KPMG International, a Swiss entity. All rights reserved.
4 KPMG Insight Vol. 14 / Sep. 215 図 表 5 J1リーグの 営 業 収 入 人 件 費 比 率 推 移 7 6.% 単 位 億 円 6 5 4 3 2 5.% 4.% 3.% 2.% 営 業 収 入 人 件 費 比 率 1 1.% 26 27 28 29 21 211 212 213.% 営 業 収 入 人 件 費 営 業 収 入 人 件 費 比 率 出 典 : Jクラブ 個 別 経 営 情 報 開 示 資 料 J.LEAGUE DATA Siteを 基 に 作 成 ては 積 極 的 な 投 資 による 成 長 戦 略 を 練 ることが 求 められて いると 考 えます スポーツアドバイザリー 室 の 概 要 バックナンバー スポーツビジネスの 現 状 について KPMG Insight Vol.12/May 215 欧 州 サッカーリーグドイツ ブンデスリーガの 財 政 健 全 性 について KPMG Insight Vol.13/July 215 本 稿 に 関 するご 質 問 等 は 以 下 の 担 当 者 までお 願 いいたし ます 有 限 責 任 あずさ 監 査 法 人 スポーツアドバイザリー 室 TEL: 3-3548-5155 代 表 番 号 室 長 パートナー 大 塚 敏 弘 toshihiro.otsuka@jp.kpmg.com スポーツ 科 学 修 士 得 田 進 介 shinsuke.tokuda@jp.kpmg.com KPMGジャパンは 一 般 事 業 会 社 で 培 った 知 見 や 経 験 を 活 用 し ス ポーツ 業 界 に 属 するチーム 団 体 が 強 固 な 経 営 および 財 務 基 盤 を 構 築 し 勝 利 し 続 ける 組 織 作 りの 支 援 を 行 うため 有 限 責 任 あずさ 監 査 法 人 内 に スポーツアドバイザリー 室 を 設 置 しました スポー ツアドバイザリー 室 はスポーツに 関 連 するチームや 団 体 が 攻 めのマ ネジメントを 行 う 一 助 となるべく 一 般 企 業 で 培 った 経 営 や 財 務 管 理 の 知 見 を 活 用 し 経 営 課 題 の 分 析 中 長 期 計 画 の 策 定 予 算 管 理 および 財 務 の 透 明 性 等 に 資 するアドバイスを 提 供 します スポーツ 業 界 を 熟 知 したきめ 細 やかなサービスを 提 供 するとともに KPMG ジャパンのグループ 会 社 の 知 見 やスキルも 活 用 しながら スポーツ 関 連 チームや 団 体 を 包 括 的 に 支 援 してまいります 主 なサービス 経 営 課 題 の 分 析 業 績 評 価 項 目 指 標 に 関 する 各 種 調 査 データ 収 集 に 係 る 支 援 目 標 値 設 定 および 分 析 手 法 に 係 る 開 発 支 援 経 営 管 理 に 係 るアドバイザリー 中 長 期 計 画 支 援 予 算 管 理 支 援 経 営 戦 略 経 営 目 標 と 整 合 し た 予 算 数 値 設 定 支 援 差 異 原 因 分 析 組 織 目 標 達 成 のための 具 体 的 施 策 設 定 支 援 財 務 管 理 資 金 出 納 管 理 : 各 種 資 金 表 の 作 成 と 実 績 比 較 を 通 じた 資 金 管 理 体 制 構 築 固 定 資 産 管 理 : 設 備 投 資 の 意 思 決 定 段 階 における 採 算 性 計 算 維 持 更 新 にかかる 経 済 性 分 析 支 援 等 内 部 統 制 構 築 支 援 情 報 システムに 係 るアドバイザリー ガバナンス 強 化 およびコンプライアンス 支 援 International Cooperative KPMG International, a Swiss entity. All rights reserved.
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