Analecta Nipponica Journal of Polish Association for Japanese Studies



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2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 平 成 27 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 役 名 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 2,142 ( 地 域 手 当 ) 17,205 11,580 3,311 4 月 1

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リング 不 能 な 将 来 減 算 一 時 差 異 に 係 る 繰 延 税 金 資 産 について 回 収 可 能 性 がないも のとする 原 則 的 な 取 扱 いに 対 して スケジューリング 不 能 な 将 来 減 算 一 時 差 異 を 回 収 できることを 反 証 できる 場 合 に 原 則

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第 3 章 会 員 ( 会 員 の 資 格 ) 第 5 条 協 会 の 会 員 は 協 会 の 目 的 に 賛 同 して 入 会 した 次 の 各 号 に 掲 げる 者 とする (1) 軽 種 馬 を 生 産 する 者 (2) 軽 種 馬 を 育 成 する 者 (3) 馬 主 (4) 調 教 師 (


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2. ど の 様 な 経 緯 で 発 覚 し た の か ま た 遡 っ た の を 昨 年 4 月 ま で と し た の は 何 故 か 明 ら か に す る こ と 回 答 3 月 17 日 に 実 施 し た ダ イ ヤ 改 正 で 静 岡 車 両 区 の 構 内 運 転 が 静 岡 運

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根 本 確 根 本 確 民 主 率 運 民 主 率 運 確 施 保 障 確 施 保 障 自 治 本 旨 現 資 自 治 本 旨 現 資 挙 管 挙 管 代 表 監 査 教 育 代 表 監 査 教 育 警 視 総 監 道 府 県 警 察 本 部 市 町 村 警 視 総 監 道 府 県 警 察 本 部

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3/2013 Analecta Nipponica JOURNAL OF POLISH ASSOCIATION FOR JAPANESE STUDIES

Analecta Nipponica Journal of Polish Association for Japanese Studies

3/2013 Analecta Nipponica Journal of Polish Association for Japanese Studies

Analecta Nipponica Journal of Polish Association for Japanese Studies Editor-in-Chief Alfred F. Majewicz Editorial Board Agnieszka Kozyra Iwona Kordzińska-Nawrocka Editing in English Editing in Japanese Editorial Advisory Board Moriyuki Itō Mikołaj Melanowicz Sadami Suzuki Hideo Watanabe Estera Żeromska Adam Mickiewicz University in Poznań, Copernicus University in Toruń University of Warsaw, Jagiellonian University in Kraków University of Warsaw Aaron Bryson Fujii Yoko-Karpoluk Gakushūin University in Tokyo University of Warsaw International Research Center for Japanese Studies in Kyoto Shinshū University in Matsumoto Adam Mickiewicz University in Poznań The publication was financed by Takashima Foundation Copyright 2013 by Polish Association for Japanese Studies and Contributing Authors. ANALECTA NIPPONICA: Number 3/2013 ISSN: 2084-2147 Published by: Polish Association for Japanese Studies Krakowskie Przedmieście 26/28, 00-927 Warszawa, Poland www.psbj.orient.uw.edu.pl University of Warsaw Printers (Zakłady Graficzne UW)

Contents Special issue in memory of Professor Wiesław Kotański Editor s preface... 7 ARTICLES Wiesław Kotański, すべては 混 沌 から 始 まる ヴィエスワフ コタンスキ 著 日 本 の 神 々の 遺 産 意 訳 その1-... 11 Wiesław Kotański 古 代 文 化 伝 来 原 本 の 解 釈 の 諸 問 題... 29 Wiesław Kotański, 私 の 古 事 記 研 究 をめぐって 古 事 記 のなかに 上 代 文 化 が 映 じてある... 45 Wiesław Kotański, 古 事 記 の 原 文 を 研 究 する 理 由 方 法 抱 負... 61 Wiesław Kotański, 古 代 歌 謡 の 解 読... 68 Wiesław Kotański, The antecedence in the shintō gods pedigree in the light of linguistic argumentation... 115

EDITOR S PREFACE Volume One of our journal is entirely devoted to the late Professor Wiesław Kotański (1915-2005), so far the most outstanding figure in the field of academiclevel Japanese studies in Poland. With this volume we wish to pay tribute to the men who for decades served as a teacher to subsequent generations of students at Warsaw, and toward the end of his long and arduous life: August 8, 2015 will mark the tenth anniversary of his passing away. Professor Kotański left behind not only scores of his pupils but also an impressive amount of his writings and, out of necessity, he had to write about virtually every matter related to Japan because for decades there was hardly anyone else competent to fill in the gap between Poland and other countries as far as reliable information on things Japanese was concerned. For various reasons Poles manifested friendly interest in the land of the Rising Sun, especially after Japan s 1905 victory over Russia, and were eagerly reaching for texts of foreign provenience that could introduce those interested to the life, culture, and institutions of the faraway country; original writings on Japan by Polish authors were scarce and limited either to travel accounts and second-hand reports based on foreign sources. Although Professor Kotański published his writings in English, Japanese, German, Russian the major part of his output was created and published in Polish (again, out of necessity). In the present volume we decided to include materials of three different kinds. The text that opens the core of this book is the first part of a broad Japanese translation of fragments from Kotański s 1995 book Dziedzictwo japońskich bogów [ inherited from Japanese gods ; Wrocław &c.: Zakład Narodowy im. Ossolińskich] provided by Agnieszka Żuławska-Umeda. What follows are four texts reprinted from Kotański s book edited and published in 2004 by XXX Yoshikazu Matsui (ヴィエスワフ コタンス キ 著 者 松 井 喜 和 編 著 者 古 事 記 の 新 しい 解 説 コタンスキの 古 事 記 研 究 と 外 国 語 訳 古 事 記 錦 正 社 ; pp. resp. 198-211, 21-37, 279-285, and 212-261), now hardly accessible. The last item by Kotański in the present volume is so far unpublished. Stęszew-Toruń-Poznań, March 2013.

Wiesław Kotański (1915-2005) 1915 ワルシャワ 生 まれ 1934-38 ワルシャワ 大 学 東 洋 学 研 究 所 で 日 本 学 家 庭 を 修 める この 間 予 備 軍 士 官 学 校 で 兵 役 義 務 に 就 く 1938 ワルシャワ 大 学 人 文 科 学 中 国 研 究 に 従 事 1939 軍 事 動 員 され 従 軍 1940-44 この 間 結 婚 ドイツ 占 領 下 のワルシャワ 大 学 で 秘 密 授 業 に 出 席 疎 開 1945 外 務 省 の 業 務 など 従 事 1946 中 国 語 と 日 本 語 の 漢 字 の 古 辞 典 における 見 出 し 語 の 順 番 の 古 典 的 根 本 原 則 により 学 士 号 取 得 1947 ワルシャワ 大 学 中 国 学 科 講 師 に 就 任 1948 国 立 東 洋 言 語 兼 緒 問 題 研 究 所 で 日 本 研 究 の 教 官 に 就 任 1951 現 代 日 本 語 からポーランド 語 への 翻 訳 の 際 に 現 れる 言 語 学 の 諸 問 題 でワルシャワ 大 学 より 博 士 号 を 授 与 される 1952-54 ワルシャワ 大 学 文 献 学 部 副 部 長 1956-61 ワルシャワ 大 学 文 献 学 部 東 洋 学 研 究 所 副 所 長 1973-78 同 研 究 所 所 長 1975 ワルシャワ 大 学 文 献 学 部 正 教 授 に 昇 進 1978-82 ワルシャワ 大 学 近 代 文 献 学 部 長 1985-2004 ワルシャワ 大 学 名 誉 教 授 担 当 を 継 続 受 賞 歴 1973 ポーランド 国 家 復 興 十 字 勲 章 1977 日 本 国 勲 三 等 瑞 宝 章 授 与 される 1986 日 本 国 勲 三 等 旭 日 章 授 与 される 1990 国 際 交 流 基 金 賞 受 賞 1999 山 片 蟠 桃 賞 受 賞

ARTICLES

Wiesław Kotański すべては 混 沌 から 始 まる ヴィエスワフ コタンスキ 著 日 本 の 神 々の 遺 産 意 訳 その1-1. はじめに 第 二 次 世 界 大 戦 後 のポーランドの 日 本 研 究 を 支 え 今 日 の 同 国 の 日 本 研 究 の 隆 盛 の 基 礎 を 築 いて 支 えてきた 故 ヴィエスワフ コタンス キ 博 士 ( 一 九 一 五 ~ 二 〇 〇 五 )は 古 事 記 研 究 をライフワークと して 人 生 の 後 半 四 十 年 を 古 事 記 の 解 読 に 傾 注 し 古 事 記 を めぐる 四 十 編 を 越 える 著 書 や 論 文 を 公 刊 させている その 集 大 成 の 書 物 が ポーランドの 教 育 省 科 学 研 究 委 員 会 および 高 島 記 念 財 団 の 助 成 を 得 て OSSOLINEUM(オソリネウム 記 念 科 学 出 版 会 )から 一 九 九 五 年 に 刊 行 された Dziedzictwo Japońskich Bogów である 同 書 は 古 事 記 は 人 類 にとって 貴 重 なメッセージを 伝 えてい る 文 化 遺 産 であるという 観 点 から そのメッセージに 籠 められた 意 味 を 解 読 した 大 作 で そのタイトルは 邦 訳 すれば 日 本 の 神 々 の 遺 産 となる 古 事 記 には 現 代 にも 訴 える 人 生 へのメッセージがあるとし たコタンスキは 古 事 記 に 登 場 する 百 五 十 ほどの 神 々の 名 前 の 解 釈 をそのメッセージの 解 読 の 有 力 な 方 法 の 一 つとした 例 えば イザナギの 命 がアマテラス 大 御 神 誕 生 以 前 の 古 事 記 の 主 人 公 で あるとして その 命 が 国 土 の 修 理 固 成 のためにイザナミの 命 と 結 婚 し 夫 婦 で 国 生 みと 神 生 み 大 事 業 を 遂 行 されたことが 物 語 から 明 らかなように その 二 柱 の 神 々の 事 跡 がその 後 の 日 本 人 の 理 想 的 な 行 動 のモデルとなったとする その 神 名 に 寵 められた 宇 宙 生 成 にお ける 意 味 を 解 読 する その 結 果 岐 美 二 神 の 事 跡 は 偶 然 の 行 動 で はなく 天 つ 神 の 仰 せに 従 った 行 動 であって 理 想 郷 を 現 実 化 する ことをその 後 の 神 々と 日 本 人 に 教 えている と 言 うのである その 教 訓 が 神 道 の 教 えだとするコタンスキは 同 書 で 神 名 の 解 読 を 通 じ て その 教 えをスケッチすることができた と 述 べている 同 書 は B 五 判 ほどの 判 型 で 二 段 組 みの 二 百 七 十 六 頁 にも 及 ぶ 大 著 である 上 に 全 編 が 象 徴 的 で 諧 謔 に 満 ちた 詩 的 表 現 に 溢 れるきわめて

12 Wiesław Kotański 洗 練 された 表 現 によって 綴 られていて 難 解 であることがポーランド 人 からも 指 摘 されている そのため 本 稿 では その 詩 的 表 現 の 日 本 語 による 再 現 という 難 事 業 は 断 念 し コタンスキの 古 事 記 解 読 の 内 容 の 理 解 を 主 眼 にして 同 書 を 意 訳 して 紹 介 することにした 同 書 の 概 要 を 知 る 一 助 と 目 次 をここに 仮 訳 として 記 述 しておこ う 同 書 の 構 成 はⅠ~Ⅲの 三 部 立 てで 目 次 には それぞれの 部 の 下 位 に 算 用 数 字 での 章 立 てが 示 され さらに ローマ 字 により 節 が 示 されているが 以 下 には 部 と 章 だけの 邦 訳 を 掲 げておく はじめに Ⅰ 神 秘 を 解 く 鍵 すなわち 聖 霊 伝 達 の 形 式 1 読 者 のために 2 情 報 伝 達 の 日 本 的 解 決 法 3 記 念 碑 的 名 作 の 栄 光 回 復 への 道 はあるか Ⅱ 日 本 神 話 の 秘 儀 の 探 究 すなわち 聖 霊 伝 達 の 智 恵 1 神 話 の 内 容 から 探 し 出 せるもの 2 すべては 混 沌 から 始 まる 3 白 然 界 における 永 久 運 動 の 構 想 4 三 極 以 外 の 独 神 5 最 初 の 男 女 対 偶 神 四 代 6 一 対 の 造 物 主 の 登 場 7 造 物 主 に 下 された 至 上 命 令 とそのもたらすもの 8 造 物 主 の 最 初 の 業 績 9 天 空 と 大 地 の 間 の 連 携 10 国 生 みすなわち 神 聖 なる 空 間 の 拡 大 11 島 々への 初 めての 入 植 12 造 物 主 の 子 孫 13 小 宇 宙 に 生 じた 混 沌 とその 結 末 14 火 の 変 成 と 分 断 15 黄 泉 国 訪 問 16 深 淵 な 場 での 出 来 事 17 造 物 主 の 対 偶 関 係 の 断 絶 以 後 に 世 界 を 担 う 者 18 魔 除 けの 持 ち 場 八 ヵ 所 19 洗 浄 の 経 過 と 海 の 気 風 による 感 化 の 初 め Ⅲ 天 の 支 配 制 度 の 黄 昏 すなわち 太 陽 神 の 支 配 体 制 の 基 礎 固 め 1 三 貴 子

すべては 混 沌 から 始 まる ヴィエスワフ コタンスキ 著 日 本 の 神 々の 遺 産 意 訳 その1-13 2. 支 配 体 制 確 立 の 要 点 本 稿 で 以 下 に 紹 介 するのは 上 の 目 次 の 第 Ⅱ 部 の 第 2 章 の 全 体 で ある なるべくコタンスキのポーランド 語 表 現 に 即 した 日 本 語 にす るのが 紹 介 者 としての 責 務 だが 既 述 の 通 り 逐 語 訳 ではない 例 えば 同 書 のポーランド 人 の 読 者 を 意 識 した 表 現 は 改 変 し 名 詞 表 現 を 日 本 語 らしい 動 詞 表 現 にしたり 語 順 は 言 うに 及 ばす 文 の 順 序 も 原 文 に 縛 られない 姿 勢 で 臨 んだ とくに 本 文 ではほとんど 改 行 がなされていないのだが 段 落 構 成 に 留 意 して 改 行 し また 表 現 されていない 文 言 を 附 加 するなどして 理 解 の 便 に 供 した 第 Ⅱ 部 第 2 章 すべては 混 沌 から 始 まる Ⅱ-2-A 混 沌 はどのように 考 えられていたのか ものごとのごく 普 通 の 過 程 は 常 に 過 去 の 出 来 事 から 未 来 の 出 来 事 へと 推 移 するものである 一 方 人 間 の 行 う 観 察 においては も っぱらある 過 程 の 究 極 的 段 階 を 認 識 すること あるいは 長 い 過 程 で 最 終 的 に 生 じた 出 来 事 と 直 接 に 関 わりをもつことがしばしばで そ の 後 で 観 察 者 たちは その 出 来 事 の 由 来 に 興 味 が 注 がれて それ が 生 成 してきた 過 程 を 知 ろうと 努 めるようになるものだ そして そうしようとした 時 に 例 えば 歴 史 的 な 学 問 探 究 であたかも 通 則 のようになっている 経 過 の 段 階 を 逆 転 させることが 生 じている こ の 逆 転 の 動 因 は 映 画 や 叙 事 詩 を 作 るときにも 人 々の 心 を 捉 えてい る その 逆 転 とは あるできごとが 徐 々に 段 階 を 経 てどのように 生 成 してきたかを 明 らかにするために 最 後 の 出 来 事 から 叙 述 を 始 め ることであり それは 専 門 的 用 語 で 言 えば 遡 及 つまり 物 語 の 時 の 逆 転 ということである 本 章 の 表 題 すべては 混 沌 から 始 まる は 我 々が 時 間 を 表 現 するにあたっては 時 の 倒 置 を 行 わないが そ のことがごく 当 然 のことだとは 言 えないことを 読 者 にほのめかして いるのである 物 語 は たいてい 平 行 した 二 つの 軌 道 に 沿 って 始 原 より 進 展 し て 流 れていく その 一 つは 日 本 の 神 話 に 見 られる 出 来 事 を 直 に 見 たような 口 承 である その 場 合 には 時 間 は 何 の 障 害 もなく 自 然 の ままに 流 れて 行 っている すなわち 宇 宙 の 進 展 の 歴 史 で 何 らか の 始 源 の 瞬 間 からその 次 々と 若 い 時 代 へと 発 展 的 に 展 開 していくの である これが 概 観 をするときの 主 要 な 流 れであるが 第 二 の 流 れ とする 時 間 の 倒 置 の 契 機 は 神 話 の 出 来 事 に 間 接 的 にのみ 関 わりを もって 口 承 する 場 合 に 生 じてきたのだろう そして その 第 二 の 流 れの 目 的 は 何 よりもまず 秘 儀 の 開 示 なのである

14 Wiesław Kotański 聖 なる 文 献 が 何 を 秘 めているのか その 秘 儀 の 十 分 な 解 明 なく しては 我 々にとって 神 話 の 主 要 な 趣 旨 を 描 き 出 すことはできな いだろう しかも その 第 二 の 流 れの 時 間 は 通 常 の 時 間 とは 異 な った 原 則 で 流 れている それは 伝 承 者 の 解 釈 活 動 による 時 間 であ る 解 釈 する 人 は まずはじめに 書 かれた 文 献 において 何 らか の 方 法 でカムフラージュされた 記 録 に 出 会 うのである そして ど ういうふうにその 記 録 がそうなってきたのかをある 程 度 解 明 して さらに 推 論 をくだして その 解 釈 を 立 証 しようと 努 力 するものであ る 典 型 的 な 倒 置 がここにある 神 話 の 制 作 者 たちによって 隠 され た 秘 儀 の 扉 をわずかにでも 開 かせるために どのような 手 順 に 拠 れ ばよいのか 厳 密 に 説 明 するのは 難 しい とは 言 っても 認 識 論 的 研 究 にあっては 正 しく 選 択 された 研 究 方 法 がその 証 明 となってい るのだから 少 なくとも 最 も 根 本 的 だと 考 えられる 時 間 の 再 現 には 根 拠 があるのだ 神 話 に 独 自 な 筋 書 きを 示 すことばかりに 限 定 して 秘 儀 の 復 原 を 無 視 する 研 究 は 十 全 な 神 話 研 究 とはならない と 言 うのは 神 話 解 釈 の 論 証 が 適 切 であるとする 証 拠 が 提 示 されていて 神 話 の 扱 いが 見 事 であっても それについて 疑 念 を 呈 することは 容 易 にでき るのであるから 確 かに 読 者 の 誰 もが 確 認 できるわけではないが 神 話 は 事 実 無 根 の 作 り 話 が 読 者 に 提 示 されているのではなく むし ろ それぞれの 読 者 の 前 に 秘 儀 の 解 読 がなされ それが 専 門 諸 家 により 十 分 な 根 拠 の 論 証 がなされることが 早 晩 強 化 されること を 期 待 したい このような 条 件 での 確 信 を 確 立 させることは おそ らく 成 果 をもたらすことだろう では なぜ 時 間 の 倒 置 があるのだろうか それこそが 本 章 で 混 沌 という 表 現 で 問 題 にしているところだ 実 は それは 厳 密 な 議 論 が 必 要 な 概 念 なのである なぜなら 古 事 記 のテキスト では 図 像 文 字 つまり 漢 字 が 使 われていて ポーランド 語 での 説 明 に は 当 初 から 正 確 さを 欠 くポーランド 語 の 得 手 勝 手 な 選 択 という 要 素 が 介 在 してしまうからである ポーランド 語 で 説 明 するという 目 的 で 選 択 した chaos ( 混 沌 )という 言 葉 は 辞 書 を 参 照 しての 単 純 な 操 作 の 結 果 から 出 てきたのではない それは 世 界 は 一 体 何 から 始 まっているのかという 日 本 の 神 話 の 重 要 な 秘 儀 を 解 明 した 一 つの 最 終 段 階 で 行 われた 議 論 や 検 証 のすべての 過 程 を 経 た 結 果 なのである 日 本 の 注 釈 者 たちは この 言 葉 の 二 つの 図 像 文 字 混 と 沌 をどのように 音 読 したらよいのか 意 見 の 一 致 を 見 ていない この 問 題 ではないが 序 文 と 古 事 記 の 上 巻 の 冒 頭 の 文 脈 の 中 では 宇 宙 の 同 じ 状 態 が 異 なって 表 現 されている 序 文 の 中 で 一 つの 読 み 方 は コンゲン で もう 一 つは マロカレ と 読 む 言 葉 に 出 会 う もともとシナ 語 である 混 元 は 漢 語 でまとめられた 文 脈 の 中 で 用 いられていて 確 かに 混 乱 状 態 天 と 地 とが 分 離 する 以 前

すべては 混 沌 から 始 まる ヴィエスワフ コタンスキ 著 日 本 の 神 々の 遺 産 意 訳 その1-15 の 物 質 の 混 合 ( 藤 堂 : 学 研 漢 和 辞 典 ) 1 という 意 味 があるが また 全 般 的 に まだその 中 に 何 も 分 離 していない 何 か 全 体 の 古 代 的 状 態 ( 日 本 思 想 大 系 1 古 事 記 ) 2 つまり 漢 文 の 簡 潔 な 表 現 は 日 本 的 な 考 え 方 を 非 日 本 的 な 世 界 観 へと 近 づけてしまう 試 みだ と 考 えることができる その 上 この 表 現 は その 混 合 あるいは 未 分 化 は 一 体 どうしてなのかはっきりしていないのである シナの 普 遍 化 はものすごく 抽 象 的 であって 古 代 の 日 本 人 にとってそれは 仰 々しいものと 感 じられたのだ 日 本 思 想 大 系 本 の 注 釈 で 提 示 されている マロカレ という 日 本 語 は 幾 分 かはこの 状 態 を 正 確 に 表 現 している というのは 希 薄 にする という 意 味 を 暗 示 しているし マレ 稀 という 言 葉 と 確 実 に 同 類 であり おそらく マリ ( 空 にする 下 痢 排 泄 排 泄 物 糞 )という 言 葉 との 関 連 を 残 しているのだろう そこ で 古 代 の 混 乱 は 質 的 に 区 別 されていない 物 質 の 流 動 する 希 薄 な 粥 状 のものとして 表 現 されるという 考 え 方 が 生 まれる ここで 議 論 している 断 片 は 序 文 では すぐにこの 物 質 が すでに 凝 り (すぐに 凝 固 し) その 浮 遊 を 確 認 し そして その 浮 遊 する 不 安 定 な 状 態 を 知 らせている しかしながら ここから 西 郷 が 言 って いるように( 古 事 記 注 釈 ) 3 太 古 の 混 沌 は 動 きの 状 態 だった という 結 論 が 導 き 出 せるかどうかは 疑 間 である 凝 固 凝 結 凝 集 固 まり 等 々 を 動 く 何 かそうした 種 類 として 考 えることは 困 難 だ とくに 遠 い 昔 の 動 きとして 考 えられることは 疑 問 である さ らに 浮 遊 の 観 念 を 動 きと 同 一 視 することは 絶 対 にできないし あ る 空 間 の 中 にぬりつけられたり こぼれたりするものはもっぱら 動 きのないものとして 考 えられる 次 の 節 では この 古 代 の 状 態 が 実 際 の 古 事 記 の 本 文 にどのように 表 れているか 記 述 する Ⅱ-2-B 古 事 記 上 巻 の 冒 頭 句 上 巻 は 非 常 にややこしい 具 合 に 始 まっている 冒 頭 部 分 をどう 音 にして 読 むかについては 種 々の 見 解 があって 読 み 方 は 様 々で 多 彩 1 藤 堂 明 保 学 研 漢 和 辞 典 学 研 マーケティング 一 九 八 〇 2 青 木 和 夫 日 本 思 想 大 系 1 古 事 記 岩 波 書 店 一 九 八 二 十 八 頁 の 頭 注 に 日 本 古 代 の 観 念 ではアメに 対 応 するのはクニであるとみられ こ こがアメツチ( 天 地 )であるのは 注 意 すべきである とある 3 酉 郷 信 綱 古 事 記 注 釈 第 一 巻 平 凡 社 一 九 七 五 の 七 十 頁 で 著 者 の 西 郷 氏 は 古 事 記 の 冒 頭 句 の 天 地 初 発 を アメツチノハジメ と 訓 読 するのは 古 事 記 の 序 文 にある 乾 坤 初 分 や 天 地 開 闢 と ず れ て い る こ と だ け で な く あ ま り に も 静 的 だ と い う 理 由 で ア メツ チハジメテヒラケ シトキニ と 訓 読 することを 捉 言 して いる

16 Wiesław Kotański だ だが その 相 違 は 大 体 のところ 最 重 要 課 題 というわけではな く 今 はさらに 厳 密 な 議 論 をするには 価 しない その 部 分 のそんな ややこしさを 考 慮 して 私 の 説 明 は まだ 中 途 半 端 だと 自 分 自 身 が 思 っている 訳 文 に 基 づいて 始 めている つまり 神 名 の 重 要 性 の 少 ない 部 分 は 気 儘 にポーランド 語 に 訳 したままで 検 討 したということ である とは 言 っても 誠 実 な 感 受 性 に 基 づいた 態 度 があれば 様 々な 本 質 的 要 素 が 原 文 に 残 された 音 声 によって 今 後 解 明 されて くるだろう( 交 替 した 可 能 性 のある 音 は 括 弧 内 に 示 した) その 冒 頭 の 部 分 とは amatutiアマツチ( amëtutiアメツチ)の 初 めに (takamanöfaraタカマノハラ)に amanöminakanusiアマノミ ナカヌシ( amënöminakanusiアメノミナカヌシ)という 名 のカミが 出 現 した であり ここでもうすでに 研 究 の 眼 前 には 様 々な 困 難 が 幾 重 にも 立 ちはだかり 始 めるのだ 括 弧 の 中 に 示 されたすべての 表 現 は 概 して 従 来 の 権 威 者 たち が 薦 めている 読 み 方 である それらは 意 味 論 的 なより 深 い 理 解 のためには 無 益 であるが 今 のところは 形 態 としてはどれもが 等 しく 容 認 されるものである しかし それにもかかわらず 従 前 の 解 釈 者 を 満 足 させていている 上 辺 だけの 解 釈 も 存 在 していて それは 神 話 の 文 脈 に 符 合 した 適 切 な 解 決 を 導 くことはない しか し takamagafaraタカマガハラと amanöminakanusiアマノミナカヌシ という 読 み 方 を 支 持 する 人 もすでにいるのだが ただ これらの 言 葉 が 書 かれている 漢 字 の 中 で amatutiアマツチ という 読 み 方 だけ は 例 外 的 な 提 案 となっている それは 古 代 日 本 語 の 法 則 に 裏 付 け られているのだが この 読 み 方 に 関 して 次 のように 言 われている つまり a) amaアマという 形 は amëアメより 古 い b)どんな 場 合 に 古 い 形 を 適 用 して 当 てはめるのか どんな 場 合 に 新 しい 形 を 適 用 させるのかはっきりとした 基 準 がない c) 古 代 の 日 本 語 の 形 だ と 考 えられる 原 則 に 従 って amatutiアマツチという 語 が 辞 書 に 採 用 されていない 理 由 は おそらく 書 記 者 たちがよく 知 られていた 言 葉 amëtutiアメツチ( 何 らかの 別 の 意 味 がある)と 同 一 視 したからだ ろう その 同 一 視 は 意 味 論 上 の 結 果 を 考 慮 しないで 行 われたのだ った さしあたっては amëtutiアメツチは 天 と 地 あるいは 天 の 神 と 地 の 神 ( 岩 波 古 語 辞 典 による) 4 を 意 味 し 従 って それに 基 づいて 日 本 の 神 話 では その 宇 宙 の 曙 の 時 に 天 と 地 が 存 在 していたと 考 えてよいだろう しかし これを 結 論 とする のは 軽 率 なのかもしれない すでに 引 用 した 古 事 記 の 冒 頭 の 訳 文 の 一 部 に 初 めに という 言 葉 があったが それを 厳 密 に 翻 訳 す 4 岩 波 古 語 辞 典 岩 波 書 店 一 九 八 一 年 版 には 次 のように 説 明 されている あめつ ち 天 地 天 地 の 訓 読 語 か 古 くは アメは 天 界 の 意 で 地 上 の クニ の 対

すべては 混 沌 から 始 まる ヴィエスワフ コタンスキ 著 日 本 の 神 々の 遺 産 意 訳 その1-17 れば まさに 生 起 したその 時 に~ と 言 えるのであって その 表 現 は 神 々が 出 現 したTakamagafaraタカマガハラという 場 所 がある amëtutiアメツチはそのときには 存 在 していたが その 時 まで には 出 来 上 がっていなかった と 理 解 できるだろう 古 事 記 では 天 地 が 原 初 の 太 古 から 存 在 していたかどうかとい うことに 対 して 激 しい 論 議 があるが それは 序 文 と 矛 盾 が あるからである 序 文 の 五 番 目 の 文 章 にははっきりと 天 と 地 はそれぞれに 分 離 しはじめた あるいは 上 に 昇 る 要 素 と 下 に 降 り ていく 要 素 とがそれぞれに 分 かれはじめた と 述 べられている 古 事 記 の 上 巻 に 先 行 する 序 文 は 全 体 の 一 部 であり 部 分 的 に 全 体 と 一 致 している だから その 序 文 にはシナの 影 響 の 層 が 覆 っているという 条 件 はあるものの 本 文 で 言 及 されていないこと をどうにかして 推 測 する 補 足 となる amëtutiアメツチを 天 と 地 とする 原 則 を 揺 るがす 重 要 な 根 拠 と して さらに 全 体 的 に 古 代 日 本 の 語 彙 ではkuniクニ( 土 地 )が 概 して amë アメ( 天 )の 概 念 の 対 義 語 であった( 同 じように 天 上 と 国 土 の 罰 が 区 分 され 神 々あるいは 精 霊 の 範 疇 も 同 様 とされた)と いうことの 立 証 を 認 めることもできる これに 関 連 して ごく 稀 に tutiツチ( 土 )( 地 面 土 壌 大 地 )が 対 義 語 の 役 割 を 担 っていた それについては 岩 波 古 語 辞 典 ( 一 九 八 一 )が amëtutiアメツ チという 言 葉 はシナ 語 の 熟 語 t ien-ti 天 地 ( 天 空 と 大 地 )( 日 本 で は 現 在 はテンチとなる)の 言 語 的 な 翻 訳 の 結 果 として 人 為 的 に 成 立 した 表 現 だと 想 定 している これはきわめてあり 得 ることだ そこ で 古 事 記 の 教 養 のある 編 者 はどちらかと 言 うと 人 為 的 に 作 ら れたものを 使 わなかっただろうといことは 考 えておく 必 要 がある それだから ここでは その 時 代 にはばしば 起 こっていたように 天 と 地 という 書 記 記 号 つまり 漢 字 に 関 して 言 語 あるいは 語 の 別 の 構 成 異 なった 意 味 を 示 していることも 認 めることが 可 能 なの である そうすると amëtutiアメツチが 除 外 されることになる それ ならば amatutiアマツチは 一 体 何 を 意 味 するのだろうか 末 尾 にみえる-utiは 辞 書 には wuti=wutu=wututuつまり 現 つ 事 実 現 実 ( 幻 想 や 錯 覚 等 々と 対 照 )という 意 味 に 相 当 すると 記 されている 声 調 の 規 制 は tu 1 ti 1 -wu 1 tu 1 tu 1 となるので amat- を amata( 数 多 無 制 限 は 際 限 の 無 さ 終 わりの 無 さ 等 々)という 形 で 補 完 して 再 現 させ その 語 の 構 成 を 常 識 的 に 求 めると amatauti amat( 数 多 )-utu( 現 )となり 制 限 のない 現 実 すなわち 実 際 に 現 実 に 生 起 するものすべて という 意 味 を 得 る 声 調 からもこ れには 問 題 はない ところで 正 直 言 って この 天 地 は もっとあり 得 そうな 表 現 で 間 違 えやすく 間 違 いとなっていても 知 的 欲 求 をかなり 満 たす

18 Wiesław Kotański 表 現 なのである だから 私 も 以 前 の 論 文 Japońskie Quod erat in Principio ( Euhemer 1986) 5 では まだ amëtutiアメツチという 形 態 から 超 脱 して 考 察 を 進 めることがなかった その 後 今 は amë は ami-më am-më amë 液 体 状 の 密 度 ある 組 織 液 状 の 物 質 ( 飴 滴 どろどろしたもの 等 々)と 生 成 してきたと 考 えて いる そこで すべての 合 成 要 素 を 声 調 に 一 致 させて 解 釈 すると 液 状 の 物 質 の 目 に 見 える 世 界 となる すでに 凝 固 したと 知 られ る 以 前 は 物 質 は 浮 遊 するものつまり 液 体 状 雫 状 のもの と 考 えていたのだが その 解 釈 では 細 かすぎて 事 実 から 離 れすぎ ていると 思 うので 今 はこの 考 えを 改 めようと 思 っている 続 いて 解 読 すべき 部 分 の 秘 儀 は Takamagafaraタカマガハラとし て 知 られている 地 域 のことである これは たいていは 表 意 文 字 が 構 成 している 意 味 の 通 りで 表 音 文 字 の 四 つの 部 分 から 形 成 してい るとされる つまり tak-ama-ga-fara 高 い 天 井 の 広 がり ( 三 番 目 の 部 分 は 所 有 格 の 助 詞 が である) その 構 成 要 素 のこの ような 意 味 論 的 解 釈 は 文 書 化 された 神 話 という 範 囲 ではまったく 根 拠 があることであった なぜなら 地 上 の 上 方 の 解 放 された 領 域 は 神 話 の 作 られた 時 代 には 天 空 の 偉 大 な 神 々の 居 るところだと 考 えられていたからである だが その 解 釈 は その 名 の 比 喩 的 な 繰 作 の 結 果 なのだった 神 話 時 代 の 観 点 では 混 沌 としたマグマ 状 態 からまだ 天 も 地 も 姿 を 現 してはいなかった したがって 神 話 創 作 者 たちにとっては 予 め 不 調 和 なことを 構 想 することは 許 されなかった 天 空 はなかった が 彼 らは 何 らかのその 予 知 をしていたのである 日 本 神 話 は インドやギリシヤあるいはゲルマンの 神 話 のような 改 善 する という 考 え 方 の 原 則 と 関 係 している 点 では 少 なくと も 同 類 である だから その 神 話 の 秩 序 立 てられる 結 末 に 注 意 を 払 うべきなのである この 見 解 を 支 えるために 一 九 八 八 年 に 京 都 で 開 催 された 世 界 における 日 本 - 方 法 と 解 釈 というテーマで 行 われたシンポジウム の 際 のC. Lévi-Straussの 講 演 の 言 葉 は 引 用 に 価 する(なぜなら 日 本 神 話 の 資 料 に 世 界 の 機 構 に 対 する 一 貫 した 見 解 を 認 めることがで きない 稚 拙 な 翻 訳 や 解 釈 をする 懐 疑 主 義 者 たちに 出 くわすことがあ るからだ) その 講 演 の 記 録 は 世 界 における 日 本 文 化 の 位 置 という 題 で 会 議 の 記 録 である 論 集 に 日 本 語 で 公 刊 されている ここ では その 箇 所 を 紹 介 しよう 5 Japonskie Quod erat in Principio Euhemer vol.139 NO.1 1986ワル シャワ 松 井 嘉 和 訳 日 本 の はじめにありしもの は 何 か 大 阪 国 際 大 学 紀 要 第 9 巻 第 1 号 一 九 九 七

すべては混沌から始まる ヴィエスワフ コタンスキ著 日本の神々の遺産 意訳 その1 19 日本神話と同じ物語がインドネシアや南北アメリカにもあっても それはいず れも断片的ですし また 話も全く同一ではありません 日本の神話は 内容がも っとも豊かであるだけでなく その構成もしっかりしています 中略 神語を構成するいろいろな要素が日本ほどしっかりと組上げられているとこ ろはありません 八世紀の日本の文献ほど広汎な総合の材料を提供するものは ありません 日本の文献が失われたモデルを忠実に写しているのか それとも作 り変えているのか それはわかりませんが コタンスキ補足 モデルとは有史以前 のすべての人類に共通の神話 源神話ということ いずれにしてもこれらの文献 は日本文化の特質をよく表しています それには二つの面があります 日本は均 質性の比較的高い一つの民族 一つの言語 一つの文化を形成していますが それに加わった要素は様々であったに違いありません ですから日本はまず出会 いと混和の場所だったのす ところが 旧大陸の東端というその地理的位置や何 度も繰り返された孤立のために 日本はまた一種のフィルターの役割も果したの です 別の言い方をするなら 蒸留装置のランビキのようなもので 歴史の流れ に運ばれて来た様々な物質を蒸留して 少量の貴重なエッセンスだけを取り出 すことができたのです 借用と総合 シンクレティズム 混合 とオリジナリティ 独 創 のこの反復交替が 世界における日本の文化の位置と役割を規定するのに もっともふさわしいものと私は考えます 6 というわけで 以上のような観点に従いつつ神話の韻律に一致し て いっそう古い解答を見出すことが必要とされている すでに述べたとおり 最も困難な問題は 天 とされる部分 の-ama-に表れている しかも 私自身 私は一九八四年まではその 立場から離れることができないでいたのである その年になってや っと古い伝統から離別する最初の提言が私に示された 声調の原則 にまだ導かれてはいなかったのである Taka 高 -mi 霊 - agë 上 -fara 原 taka-m-aga-fara taka-maga-fara 崇高な聖霊が発生 してくる場所 となる しかしながら それは適切なことではなか った -aga-という要素に関連する声調に関する疑念と関係なく 崇高な聖霊が発生する という語句の意味は 神道が皇族一族に 死後の天上界での特権を保持させようというよく知られた儀礼上の 動機という別の側面から上代の思想を導いてきたのである おそら く Takamagafaraタカマガハラという地域の観念は 皇室の神格化 崇高な聖霊 の制度化よりもかなり古いのだろう だから そう した面を考慮する観点から 従来の解釈に留まり続けるのは難しい のだ それでも その後 やがて声調が正しく解釈基準の基礎となった ときには-aga-を ta1ka1ma1ga2fa1ra1toという形に符合する何らかの表 現に変換する必要があった その際 ma1ga1fi2 紛 という形態を 6 日本研究 第一集 国際日本文化研究センター

20 Wiesław Kotański もった 混 ざり 合 う それ 自 身 が 溶 け 合 う 混 ざって 区 別 がつかな い の 意 味 の 動 詞 が 十 分 に 近 似 した 声 調 があって さらに 興 味 深 い 意 味 を 示 していた そして 同 じような 意 味 のあるその 他 の 表 現 は 見 出 すことができなかった もちろん taka( 高 )-mi( 霊 )( 崇 高 な 聖 霊 )は そのような 見 解 とは 共 鳴 していなかったのだが 高 い 天 空 としてのtaka- amaの 翻 訳 からそうした 範 囲 からは 何 も 認 識 できないものしかない 空 間 ということが 明 確 で 了 解 されてい るように 何 かが 生 起 したということすら 認 められないのである もっとも 単 純 な 天 空 という 意 味 を 期 待 することを 避 けるために は 混 同 混 合 混 乱 混 沌 という 名 詞 に 相 当 するmagafiという 要 素 が 認 知 される それは 古 代 日 本 語 の 言 語 に 関 する 見 解 に 完 全 に 一 致 する 結 論 となっていて 既 述 した 古 事 記 の 序 文 の 中 で 扱 われているマロカレmamrökare( 根 元 )という 観 念 と 意 味 論 的 に 近 づくことになる 序 文 と 文 献 の 本 文 との 一 致 はもっとも 重 要 な 望 ましいことである taka-というが 限 定 詞 で 一 番 重 要 だという わけではないが 最 も 意 味 のある 解 決 を 提 言 することは 必 要 だ し かし それは 単 純 な 課 題 ではない しかし ある 時 は wuto- aki to- aka t-aka taka 表 明 されていない 耳 を 聾 するように 鋭 い とい う 意 味 の 形 態 であったのだろうが 意 味 のある 観 念 としてはたぶん takë taka 継 続 する 長 引 く 続 いた 絶 え 間 ない ( 声 調 も 齟 齬 はない)となった こうして Takamagafaraは 長 引 いている 混 沌 の 地 域 という 意 味 をもつことになる その 他 の 同 義 語 Takamanöfaraはその 地 域 の 新 しい 名 前 なのだろう が 似 たような 意 味 内 容 の 結 果 をもたらす 分 析 方 法 で 分 析 が 可 能 で ある ta 1 ka 1 ma 1 nö 1 fa 1 ra 1 は ta 1 kë 1 - a 1 mi 1 -wu 1 mi 1 -fa 1 ra 1 tak-ama-wunifara tak-ama-wunö-fara takama-nö-fara 変 わらない 紛 糾 や 腐 敗 の 地 域 という 意 味 になる これはどちらかと 言 うと 新 しい 表 現 だが それより 混 乱 はない 古 い 表 現 タカマガハラTakamagafaraをここでは 保 持 することにしよう Ⅱ-2-C 神 話 の 主 要 な 主 人 公 たち 上 巻 の 初 めの 文 言 の 中 で はっきりとしていない 次 の 用 語 はカ ミkamïである 疑 いもなくそれは ポーランド 語 のbóstwo( 神 性 ) bóg( 神 ) bożyszcze( 多 神 の 神 々)といった 言 葉 が 最 も 近 い 意 味 として 関 係 がある 実 際 に その 対 応 関 係 は 日 本 語 の 表 現 の 意 味 のおおよその 内 容 に 相 当 するし 説 明 に 十 分 であるが 理 論 的 な 解 明 には 日 本 人 自 身 の 固 有 の 文 化 伝 統 に 由 来 するさらに 深 い 意 味 の 考 察 が 必 要 である なぜならば 現 代 の 日 本 人 は 外 から 列 島 に 移 入 された 多 種 の 世 界 観 の 影 響 下 にあるからで 今 日 の 日 本 人 のカミ

すべては 混 沌 から 始 まる ヴィエスワフ コタンスキ 著 日 本 の 神 々の 遺 産 意 訳 その1-21 kamïに 対 する 見 方 も 外 国 の 要 素 によって 多 かれ 少 なかれ 程 度 は 様 々でも 常 に 潤 色 されているからである この 視 点 からは 日 本 語 でのこの 言 葉 がどんな 環 境 の 中 に 現 れてきたのかを 見 ることは 妥 当 だろう この 言 葉 が 他 の 言 語 からの 借 用 または 断 受 であることを 証 明 する 多 数 の 調 査 がある 神 を 表 すためのアイヌ 語 の 言 葉 カムイkamuiとの 類 似 性 に 興 味 を 惹 きつけられている 学 者 たちが 少 なからずいる ア ルタイ 系 言 語 との 関 係 を 探 っている 人 々もいて kamという シャー マン 祈 祷 医 術 師 非 凡 な 力 をもたらす 人 等 々 を 意 味 する 語 も 類 義 語 として 提 示 されている 一 方 ツングース 語 でのkanあるいは khan( 統 治 者 )との 関 連 も 論 じられている また 日 本 語 の 語 源 だ としてクメール 語 のkamoi( 悪 魔 )も 提 言 されている さらに マラ イ 語 やサンスクリット 語 やセミ 語 や 朝 鮮 語 と 等 しいとも 取 り 上 げら れている アルタイ 系 に 属 するというのが 最 も 説 得 力 のある 仮 説 だ と 考 えられ アイヌ 語 の 形 態 は 日 本 語 の 中 の 借 用 語 として 扱 われて いる 日 本 語 をアルタイ 語 に 関 連 させる 理 論 は 概 して 比 較 的 に もっとも 遺 漏 なく 記 述 されていて そのカミkamïの 論 証 の 蓋 然 性 は むしろ 高 いと 考 えられる しかし アルタイという 共 通 性 は もしその 全 体 を 想 定 したとし ても すでに 数 千 年 前 にゴビ 砂 漠 の 境 界 を 越 えて 成 立 していた 可 能 性 があり そこから ある 一 族 が 東 に 移 動 してやがて 日 本 列 島 に 至 ったのだろう その 動 きは 幾 百 年 も 続 き 進 展 したその 種 族 の 言 語 は 原 アルタイ 語 からの 分 離 が 起 こっていた 言 語 の 系 統 を 分 類 する 研 究 者 にとって アルタイ 語 族 の 確 定 は 重 要 なことだ とりわけこ の 語 族 の 研 究 者 にとっては より 古 い 時 代 の 関 係 を 否 定 する 証 拠 は ないものの その 語 族 の 分 離 の 歴 史 がいっそう 重 要 な 問 題 となって いる 日 本 人 の 知 識 人 自 身 が 行 ってきたように カミkamïの 語 につ いて 熟 考 することには 意 味 があるのだ つまり そのグループのす べての 要 素 が 列 島 に 到 達 したとして もしその 言 語 が 大 陸 を 駆 け 抜 けた 歴 史 の 一 駒 があるならば その 最 果 ての 日 本 列 島 にまでそれ 自 身 に 伴 ってきたものすべては 長 い 経 過 の 旅 程 の 果 てに 届 けられ た 細 々とした 土 産 物 として 付 随 してくることができたと 仮 定 できる のだろうが しかし それは 異 国 の 密 輪 品 として 受 入 れられ 難 い ものとしてではなく 個 人 的 な 手 荷 物 による 贈 物 だったと 見 なすべ きものである しかしながら カミkamïがそうして 新 しく 取 り 入 れ られた 品 の 一 つだと 説 明 するものは 何 もない カミkamïという 言 葉 についての 現 代 の 言 語 学 の 観 点 に 立 って 考 察 するならば 経 験 豊 富 な 学 者 は 直 ちに それが 同 質 の 単 一 のもの から 生 成 したのではないことに 気 がつく なぜなら その 形 態 は 日 本 語 の 言 葉 のどんなグループにも 同 根 の 関 係 が 見 られないからであ る 母 音 ( 例 えばiと 区 別 されたï)や 声 調 のような 細 かなことが 意

22 Wiesław Kotański 識 されることがなかったのは 比 較 的 それほど 古 い 時 代 のことでは なかったし 今 日 でも 未 だに 多 くの 論 文 で そんな 古 風 な 方 法 が 学 問 だとされている しかし 真 撃 な 研 究 者 はそれを 認 めることはで きない 今 や カミkamïの 形 態 の 訂 正 が 受 け 入 れられる 時 が 来 た カミと いう 語 のもう 一 つの 意 味 である お 上 上 役 頭 部 上 司 等 々 つまりカミに 役 所 や 人 間 の 上 司 や 上 位 であることや 上 役 であること の 属 性 を 見 ることが 認 められていたのである それは 日 本 の 神 学 者 の 間 では 都 合 のよいことであって 今 でもそんな 好 都 合 な 解 釈 が 捨 て 去 られていない ところが 言 語 学 者 にとって カミkamiが 上 役 で 神 kamïであることはiの 母 音 が 違 うことも 声 調 も 異 なっている ことも 考 慮 されていないので 上 と 神 を 同 一 にしておくことはとて も 維 持 できない こうした 観 点 から 声 調 や 母 音 変 化 の 原 理 に 一 致 させていないあまり 一 般 化 していない 論 証 など 他 の 仮 説 は 無 視 して 除 外 すべきだ カミkamïという 語 の 多 様 性 については いまなお 開 かれた 検 討 課 題 なのである カミkamïが 日 本 語 のどんな 語 彙 とも 語 源 的 に 関 係 がない 孤 立 した 独 自 の 言 葉 だという 主 張 の 証 明 は 今 は 締 めることにするが そう すると それが 複 合 的 な 言 葉 であるかどうかが 解 決 の 原 理 となるだ ろう ともあれ この 理 論 を 確 立 させて 論 拠 とすると 分 割 の 一 つ の 可 能 性 として mi 1 という 部 分 の 抽 出 がある(-amï 1 という 形 態 は 認 めることができない) その 上 辞 書 にはこのような 形 態 のもう 一 つの 意 味 として 甑 篩 濾 過 器 があり それは 考 察 している 合 成 語 に 有 益 だとは 思 えないが その 語 の 注 釈 には 動 詞 fi 種 を 蒔 く まき 散 らす という 動 詞 と 同 系 だとするものもある そうするなら ば mï 1 は 蒔 かれたその 物 まき 散 らす その 蒔 く 物 等 々 の 意 味 をもつ 動 名 詞 形 の 名 詞 だと 認 められる ka 1 という 部 分 は そんな 動 詞 の 目 的 語 だろうから 特 定 の 善 や 徳 や 力 の 授 与 者 分 配 者 種 蒔 く 者 としての 神 という 考 えは 的 はずれの 推 定 だとは 思 われない ( 豊 かさを 授 与 する 者 としてのDadzbogという 古 代 スラブの 神 等 を 参 照 ) それでは ka 1 とは 何 だろうか その 音 には ただ 一 つの 意 味 が 見 いだせる それは 鹿 だろうが 意 味 ある 関 連 が 考 えられない そこで 冒 頭 の 音 を 古 代 日 本 語 によく 見 られる 消 滅 があった wu- かyi-を 補 足 して 議 論 をする 道 が 残 されている こうして wukaあ るいはyikaという 二 つの 可 能 性 が 出 てくる ウカ 食 糧 滋 養 栄 養 となる 道 理 に 叶 った 一 貫 した 意 味 に 惹 かれるが 別 の 箇 所 で も 食 糧 (wuka)を 保 護 しているさらに 三 ~ 四 の 神 々が 神 の 一 覧 の 中 に 知 られる だから ウカwukaは 明 らかに 意 味 が 限 定 された ものである と 言 うのは カミkamïは 基 本 的 概 念 の 用 語 だからで ある そこで yi 1 ke 1 という 形 に 注 目 され 声 調 を 考 慮 した 形 態 を

すべては 混 沌 から 始 まる ヴィエスワフ コタンスキ 著 日 本 の 神 々の 遺 産 意 訳 その1-23 求 めると yi 2 ka 1 あるいはyi 1 ka 1 となって 意 味 は 強 い 生 命 寿 命 活 力 が 導 き 出 される それはyi 1 kë 1 という 形 から 苦 もなく 生 じてい る yi 1 kë 1 は 元 気 づける 生 命 が 具 現 する 導 く という 意 味 で さらにそこからyi 1 kï 1 力 溢 れる 生 命 生 命 力 エネルギー という 言 葉 からカミkamïが 現 れた 結 局 カミkamï 神 は 元 気 を 蒔 く( 授 与 する) 者 生 命 活 力 活 発 さ エネルギー という 意 味 をも つyi 1 ka 1 とmï 1 の 結 合 として 派 生 している この 用 語 は 一 世 紀 ごろ に そのころまで 様 々に( 例 えば 力 威 力 執 行 者 実 現 者 元 凶 者 などとして) 理 解 されていたあらゆる 神 々を 一 般 的 に 定 義 する ものとしておそらく 構 成 されたのである カミkamïという 語 の 成 立 は アニミズム(この 用 語 を 原 始 的 な 宗 教 に 限 定 していない)と 名 付 けることができる 新 しい 信 仰 段 階 の 形 成 へと 向 かったということの 明 確 なシグナルとなっている その 当 時 この 語 は 人 々が 物 質 のあらゆる 種 類 の 動 きに 人 々が 一 定 の 生 命 力 を 賦 与 し その 生 命 力 が 形 になったものであり 人 々が 認 知 し ている 対 象 物 とは たいていは 精 神 的 な 存 在 でありながらもしばし ば 知 られている 対 象 とは 関 係 なく 常 に 確 かな 存 在 を 与 えているの である これ 以 前 の 段 階 は 何 よりも あらゆる 対 象 は 自 然 条 件 の 変 化 によって 自 然 に 表 示 される 目 的 に 向 かうという 信 念 であるエン テレケイアかあるいは 生 殖 崇 拝 であつた アニミズムの 段 階 は 生 殖 崇 拝 を 徹 底 的 なやりかたで 抹 消 したわけではない もっぱら 当 該 の 物 質 をその 他 の 存 在 に 依 存 するという 理 念 を 物 質 の 自 己 展 開 や 自 己 制 御 の 理 念 の 代 わりをすることなのである 同 様 に 生 殖 崇 拝 は さらにもっと 早 い 段 階 のあとに 続 いたので あって それはダイナミズムと 名 付 けてもよく 様 々な 客 観 物 に 賛 嘆 や 恐 怖 や 崇 拝 を 喚 起 する 威 力 の 源 泉 を 見 ることであり まだ 宇 宙 生 成 の 過 程 やこの 現 実 の 世 に 与 えられている 物 体 の 役 割 が 何 であるかに ついての 理 解 と 結 びついていないのである この 段 階 では 火 は 点 火 と 聖 化 の 要 素 で 雨 は 土 地 を 潤 す 湿 気 であり 山 は 天 上 の 空 間 に 達 する 山 塊 である このように 単 純 に 自 然 を 理 解 することは こと あるときに 知 らされることがあるように 我 々の 時 代 までも 信 仰 や 神 話 の 中 に 生 き 残 っている そのように アニミズムは 本 当 にすべ ての 過 去 の 相 続 者 であり ここで カミkamïという 用 語 が 生 殖 崇 拝 やダイナミズムの 感 覚 の 残 余 から 解 放 されることはないのである Ⅱ-2-D 1 アマノミナカヌシノカミ- 宇 宙 の 最 初 の 神 列 挙 している 説 明 から 明 らかなように カミkamïは 概 括 的 包 括 的 な 概 念 であり だから それぞれの 神 々は 自 身 を 個 別 化 させてい る 名 前 をもっていなければならない その 名 は 適 切 な 解 釈 を 求 め

24 Wiesław Kotański ることによって 現実世界でその神に与えられた宇宙生成の役割が 何であるかを我々に示している そればかりか 日本の神話は そ れぞれの神の出現が 宇宙生成の新しい行動の開始と同一のことと なっていて その一連の行為が宇宙生成の段階を形成しているとい う構成となっているのである というわけで 本書では 以下の論述で 言及する神々に の括弧の中に通し番号を付して それぞれの神の個別の存在意義に 言及する 通し番号は 古事記 の原文に登場する順序と一致させ る しかし 原文の中には 様々な異形の名称が現れていて その 神が並はずれた意義をもっていることが論じられ 神々は現れた場 所でこそその意義を獲得することから 他の研究者たちがその神を 同一と見なさない場合が考えられたとしても 本書での番号は一致 させる そこで 本書で付した神々の番号は かならずしも西宮一 民が付した番号 一九七九 7とは同一とならないだろう また 番 号を付された神々が 名称の最後尾のカミkamïが常にあるわけでも ないが その限定詞は省略する 名称 1 アマノミナカヌシは 宇宙生成の出来事の中の一つに ついての情報をそれ自身でもたらしてくれている そして もし神 話が適切に整理されていれば 太古の日本人の考え方の最初の行動 の人格化が その形の中に認められるべきだろう 古事記 の解 釈で伝統的な訳文では 神名の表記に使われた漢字に即したいわゆ る文字通りの解釈があらゆる伝統的解釈に保持されていると思って も間違いではない つまり それは 天の中心の聖なる主 とい う解釈だが これは宇宙生成の最初の行為についての情報を示して いないだけでなく 聖なる中心 という抽象的な観念を導き出し ている さらに 最初の神の出現段階ですでに 天 が何らかの形 で設定されているし その天の出現はまだ記述されておらず その 時にはあり得ないのだ ここで 認められる可能性があるのは ただ以下の点ばかりで ある a 記述の通りであると認めること b その文章は確認されていないので 何らかの調整を必要とすること c アマノミナカヌシ ama-nö-mi-naka-nusiと読まれている漢字で書かれてはい るが それはひとえに神名の発音が図像的な表記で記されているだけであっ て その漢字による発音は文字が担っている意味とは関係なく 神名の意味 は解読する必要がある とすること 7 Japonskie Quod erat in Principio Euhemer vol.139 NO.1 1986ワルシャワ 松井嘉和 訳 日本の はじめにありしもの は何か 大阪国際大学紀要 第9巻第1号 一九 九七

すべては 混 沌 から 始 まる ヴィエスワフ コタンスキ 著 日 本 の 神 々の 遺 産 意 訳 その1-25 c)の 要 請 に 対 応 して 心 から 納 得 できる 解 釈 に 到 達 するのは 困 難 であるとしても 解 決 の 実 現 を 目 指 すことが 必 要 だ なぜな ら a)の 要 求 は 文 脈 から 矛 盾 するし(つまり 天 はまだ 形 成 されて いないはずなのだ) それにまして b)の 要 求 に 尽 力 するのは 余 りにも 安 易 だと 認 められるからである これらの 三 つの 可 能 性 は 古 事 記 の 原 文 の 注 釈 者 のもっとも 多 数 を 占 める 優 れた 人 々の 一 群 が 一 致 してa)かb)という 外 れた 方 法 に 方 向 性 を 取 るのが 習 わし となっていて それは 古 事 記 の 神 々の 名 前 の 解 釈 のほとんど 全 てのケースで 選 択 されているのである しかし 示 された 解 釈 が 文 脈 に 合 致 しているかあるいは 正 確 性 に 叶 っているかどうか 問 われる べきであり 必 要 があればc)に 提 示 された 疑 問 を 受 け 入 れることに なるだろう 問 題 にされる 漢 字 表 記 は 音 を 含 んでいるだけでな く a 1 ma 1 nö 1 mi 2 na 1 ka 1 nu? si? となるように ほとんど 全 ての 音 に 声 調 の 再 現 がみとめられるのである こうした 中 で 最 も 手 近 なのは 最 後 尾 の-nusiから 検 討 を 始 めることである 古 事 記 には そ の 部 分 をもつ 名 称 が 数 十 もあり その 最 後 部 の 部 分 によってしばし ば 人 格 化 や 神 格 化 の 意 味 を 表 示 となることが 期 待 されている つま り -nusiは 主 人 家 主 支 配 者 支 配 人 の 意 味 であり また は 所 有 者 支 配 人 統 治 者 等 々 を 意 味 する-usiという 部 分 だけ を 用 いて 翻 訳 することも 可 能 である( 確 実 にwosu 統 治 する 取 り 仕 切 る と 同 類 である) これに 前 置 された 部 分 はkan-で それは 困 難 もなくkane 見 渡 す 見 張 る 世 話 をする 監 視 する と 解 釈 できる 次 にはkaneの 補 語 として 選 び 出 せるnöminaやminakaがある この 支 配 人 は 何 を 監 視 するのだろうか 筆 者 は 一 九 八 〇 年 以 来 すでにいくつかの 解 決 策 を 提 示 してきているが 想 念 していた 混 沌 の 神 (Takamagafara タカマガハラの 統 治 者 として)が 自 身 の 名 称 が 分 析 される 状 況 を 執 念 深 く 観 察 していて 何 がその 神 の 本 性 に 合 致 するかについて 私 が 考 えようとすると その 構 成 要 素 の 適 切 な 確 定 を 承 認 させないか の 如 く まさにその 名 が 担 っている 混 沌 という 機 能 が 研 究 の 過 程 に 入 り 込 んで 私 を 混 乱 させてきた 混 沌 の 神 が 実 際 に 自 身 の 働 き が 偏 在 することを 実 証 しながら 私 の 目 指 す 秩 序 を 乱 してしまって いたのである そんな 神 名 の 影 響 だという 以 上 の 一 言 は 半 ば 冗 談 だが ともあれ 考 察 してきた 名 称 の 意 味 を 示 す 様 々な 形 容 句 が 形 態 的 考 察 によって 次 々に 否 定 されてきた 一 九 八 〇 年 には 全 部 (mina 皆 ) で 一 九 八 四 年 には 静 止 安 定 (naki, nagï 凪 ) 一 九 八 六 年 には 居 眠 り 睡 眠 状 態 (yine, ne) と 私 は 解 釈 してい たのである ところが 一 方 では 最 近 古 代 の 感 覚 を 新 しく 再 構 成 するチャ ンスが 生 じている チャンスは 以 前 の 証 明 にも 真 実 に 何 らかの 接

26 Wiesław Kotański 近 を 達 成 していたものもあるが 今 回 は 真 実 にいっそう 近 くなる 希 望 と 結 びついている( 真 理 に 一 歩 一 歩 接 近 することは 研 究 の 代 表 的 な 特 徴 の 一 つである) 新 たな 分 析 の 材 料 となるのは 以 前 は 誤 って 皆 としたmina ミナである minaの 分 析 の 一 つの 可 能 性 としてmi-naという 構 成 を 認 めることができる すると naが 寝 ではなくて 不 在 欠 席 生 存 の 形 跡 のないこと 無 非 存 在 の 意 味 をもつnasiナシと いう 形 容 詞 の 語 根 である 公 算 が 高 い その 上 で miミには 多 くの 意 味 があるが 注 釈 者 に 応 じて 選 べば 後 ろにある 膿 腐 敗 の 意 味 となるwumiウミの 部 分 ( 声 調 の 状 況 が 十 分 も 明 確 ではないが こ れは 明 らかにmi 1 とmi 2 だと 考 えられる)が 縮 約 されてmiとなってい て 神 名 の 後 半 部 分 の 意 味 の 再 現 は 活 力 の 崩 壊 と 欠 落 を 監 視 す る 管 轄 者 となる これが 秩 序 立 て 組 織 立 て 破 壊 されずに 物 質 の 発 展 を 可 能 にすることの 反 対 者 としての 混 沌 の 描 写 のようなも のである このような 描 写 は 古 事 記 の 序 文 にあるmarökareマロカレ( 混 元 )という 表 現 がはっきりと 裏 付 けている マロカレとは 物 質 の 解 体 状 態 と 生 命 表 象 が 欠 落 した 粥 状 に 名 前 が 与 えられているので ある このような 描 写 は 宇 宙 生 成 の 第 一 段 階 を 見 事 に 描 き 出 して いて そのとき あらゆるその 後 の 段 階 が 存 在 物 とその 生 命 力 の 付 加 つまり 生 命 の 表 象 の 解 体 と 欠 落 に 対 峠 する 組 織 化 を 導 き 出 すこと になるのである まだ 冒 頭 の 章 句 の 部 分 で 解 明 すべき 箇 所 が 残 っている それ は amanö-あるいは amanöm-である amaを 天 と 翻 訳 するのが 不 適 切 かあるいはまったくの 誤 りだと 評 価 し また ama を 最 小 の 単 位 に 分 割 する 可 能 性 がないので aman-という 形 態 を 基 礎 として 考 察 するまでに 広 げることが 認 められる その 形 態 は a 1 ma 1 ne 2 ( 全 ての 領 域 至 る 所 遍 く)という 意 味 の 表 現 の 最 後 の 母 音 を 除 外 した 結 果 で 生 じていて それが nöあるいはnömi あるいはömiと 結 びついて amanö-という 形 態 になっているので ある 異 形 のnö 1 mi 1 ( 手 を 伸 ばす 伸 びる)と 選 ぶことによって 混 沌 の 神 の 全 体 像 は 腐 敗 を 得 ようと 努 力 し 至 る 所 に 伸 びて 偏 在 する 元 気 に 欠 けている 統 治 者 他 の 可 能 性 として たぶん 可 能 性 はかなり 低 い 形 だが あらゆる 所 に 広 がっている 細 分 化 された 物 質 を 世 話 する 主 人 という 意 味 にも 注 目 できるのであって 物 質 はne 1 ( 根 根 本 基 底 実 在 物 物 質 )から 派 生 した 形 態 -na- なのだろう ということに 留 意 したい 論 じている 神 は 典 型 的 な 死 消 減 瀕 死 に 関 係 しているのでは なく より 大 きな 全 体 の 一 要 素 としてその 行 動 がまだ 統 合 されてい ないで 宇 宙 生 成 の 経 過 が 始 まっていない 原 初 の 様 子 について 述 べ ているのである しかしながら その 混 沌 状 態 と 宇 宙 生 成 の 行 動 と

すべては 混 沌 から 始 まる ヴィエスワフ コタンスキ 著 日 本 の 神 々の 遺 産 意 訳 その1-27 の 様 子 は それぞれ 互 いに 近 似 しているのであって それだから 後 に 秩 序 および 職 務 遂 行 に 対 するいい 加 減 さが 原 因 となって 混 沌 に 逆 戻 りすることがあり その 逆 戻 り 一 つ 一 つが 解 体 や 消 滅 や 死 亡 に 近 づいていくということを 意 味 することになるのである その 結 果 Amanöminakanusiアマノミナカヌシの 名 は 生 命 をもたら す 種 活 動 の 鼓 舞 威 力 の 散 布 の 意 味 をもつ-nö-kamïノカミとい う 限 定 詞 とのつながりが 名 称 の 内 容 とある 意 味 で 矛 盾 しているのだ が その 難 点 はこの 神 名 にだけ 現 れることである この 矛 盾 を 解 決 するために 以 下 のことを 確 認 することができるだろう 1) 生 命 力 活 動 力 は 非 常 な 幸 運 と 同 意 で その 名 の 本 性 ( 結 局 は 力 の 付 与 あるいは 物 質 を 構 成 する 要 素 を 活 発 にしてその 活 発 化 を 抑 制 する 実 現 者 これらはいまだ 矛 盾 を 解 消 してはいないのだ ろうが)を 考 慮 しないで 名 称 に 示 されている 宇 宙 生 成 の 職 能 につ いて 言 及 しているのだ 2) 神 々の 役 割 に 関 するいくつかの 情 報 は 消 し 去 られている 新 しい 時 代 になって -no-kamiノカミという 限 定 詞 がかえって 付 け 足 されはじめているので 矛 盾 は 意 図 されたもの ではなく 例 えば ポーランド 語 の 翻 訳 ではそれに 倣 わなければな らないわけでもないのである ここでついに 古 事 記 の 原 文 の 冒 頭 文 の 言 葉 を いままでは 部 分 的 に 分 析 をしていた 全 体 を 正 確 に 翻 訳 する 試 みが 可 能 になった それはつまりこうである 混 沌 が 続 いている 地 域 に 崩 壊 を 推 進 さ せる と 名 付 けられているいつでもどこにでも 達 して 生 命 の 活 力 の 不 足 に 種 子 を 散 布 する 力 が 際 限 のない 現 実 の 原 初 に 出 現 する と なる このように 考 えれば 神 道 的 な 宇 宙 生 成 論 では すべてが 混 沌 か ら 始 まっているのであるから 逆 説 的 に 神 道 的 な 宇 宙 生 成 論 は 混 沌 が 何 らかの 秩 序 の 出 現 の 根 源 となる( 原 初 の 混 沌 がなければ その 後 の 秩 序 についての 言 及 もないわけである) ということを 証 明 しているのである すべてが 天 の 中 心 から 初 まっているとい う 様 々なところで 認 められている 従 来 通 りの 理 解 ならば それ は もはや 信 用 に 欠 けるのだと 覚 知 させる 権 利 がうまれている 従 来 の 解 釈 は 世 界 の 起 源 に 関 する 典 型 的 な 描 写 とは 相 反 するものだ ろうし 最 も 避 けるべきであって 日 本 に 相 応 しい 原 文 からのいく つかの 情 報 と 矛 盾 することにもなるのだと 私 は 主 張 する

Wiesław Kotański 古 代 文 化 伝 来 原 本 の 解 釈 の 諸 問 題 ソシュールというスイスの 言 語 学 者 は 言 語 を 体 系 自 体 として 考 察 す る 学 問 を 内 的 言 語 学 と 名 づけ 体 系 とは 直 接 の 関 係 を 持 たないが 言 語 生 活 や 言 語 発 達 に 影 響 を 与 える 様 々な 生 活 環 境 そのうち 自 然 的 社 会 的 文 化 的 教 育 的 環 境 などの 外 延 関 係 の 考 察 を 外 的 言 語 学 と 名 づけている 彼 にとっては 前 者 は 後 者 に 優 先 するけれども 外 的 条 件 も 重 視 すべきで ある すなわち ソシュールのLANGUEは 言 語 活 動 の 能 力 の 社 会 的 所 産 で あり 同 時 にこの 能 力 の 行 使 を 個 人 に 許 すべく 社 会 団 体 が 採 用 したる 必 要 な 制 約 の 総 体 である と 主 張 する こういう 風 に 彼 は 疑 いなく 重 点 を 体 系 自 体 としてのラングにおくけれども そのラングを 更 に 広 い 背 景 のも とで 定 義 すべきであると 主 張 した もちろん 外 的 状 況 から 孤 立 させて 単 独 化 した 言 語 という 概 念 は 無 効 なものではない 多 分 それは 社 会 科 学 の 対 象 である 個 性 的 事 実 を 困 果 的 に 理 解 する 手 段 としてMax WeberのたてたIDEALTYPUS 理 想 型 のようなもので ある そのようなアプローチはむしろ 静 的 一 面 的 な 立 場 であるので それと 対 立 する 有 力 な 意 見 は 少 なくない 一 般 的 に 言 えば そのような 反 論 は さまざまな 視 点 から 表 現 されており 動 的 全 面 的 に 観 察 する 試 みであっ たに 相 違 なく ここでは 詳 細 を 言 及 せずに 省 きたいと 思 う もっともそれ は 単 なる 反 論 ではなくて 言 語 研 究 の 新 傾 向 を 受 けて 研 究 者 が 全 く 新 し い 見 解 を 持 つ 実 例 である 時 枝 誠 記 氏 の 例 をあげよう 彼 のいわゆる 言 語 過 程 説 によると 言 語 は 人 間 に 外 在 するものではなく 人 間 の 行 為 それ 自 体 であるというのが 基 本 的 考 え 方 である 本 論 文 の 著 書 は 長 年 にわたって 日 本 の 文 化 文 明 を 探 究 する 努 力 を してきたと 同 時 に 日 本 語 も 我 がものにしようとしたために その 言 語 と 文 化 文 明 との 間 には 密 接 な 関 係 があることに 注 目 したのである けれど も 当 時 はまだ 構 造 言 語 学 に 携 わる 方 がよいと 確 信 していたので 文 化 と 言 語 を 結 びつける 研 究 は 必 要 がないと 考 えていた やっと 七 〇 年 代 ごろ 私 は 古 事 記 という 上 代 古 典 作 品 を 調 べることに 専 念 した 時 以 前 から 潜 在 していた 機 知 のひらめきが 蘇 ってきたのである

30 Wiesław Kotański 私 は 文 化 人 類 学 の 研 究 者 F. Boas, B. Malinowski, E. Sapir, B. L. Whorf, F. Znanieckiらの 労 作 を 熱 心 に 調 べてみたが それらの 異 なった 学 説 には ある 普 遍 的 な 法 則 がよこたわっているのではなかろうか と 考 え るにいたった この 法 則 を 文 化 文 明 の 法 則 として 文 化 法 あるいは 文 法 と 名 づけよう この 文 法 はグラマーの 語 法 とも 相 似 点 を 持 っているけれど それは 言 語 生 活 が 文 化 文 明 と 密 接 な 関 係 にあるに 違 いないからである だが 文 化 の 文 法 については 以 前 から 必 要 な 課 題 であったのにまだ 解 明 されていない ここで その 課 題 に 挑 戦 してみたい 個 人 間 また 複 数 の 人 間 集 団 とし ての 人 間 の 外 部 の 環 境 に 起 こる 文 化 や 文 明 現 象 は 非 常 に 混 乱 した 状 態 に あるので それらを 分 析 することは 困 難 である 特 に 我 々に 近 い 周 りの 環 境 から 離 れた 諸 現 象 は 直 接 的 に 観 察 できないので 何 らかの 規 則 性 斉 一 性 を 見 いだすことができるかどうかは 疑 問 の 余 地 を 残 す そこで ある 理 論 あるいは 自 分 自 身 によって 選 び 出 した 仮 説 に 基 づき これを 一 定 の 因 果 関 係 の 図 式 の 中 に 組 み 入 れて 言 わば 文 化 のメカニズムの 基 本 的 な 関 係 を 示 し 得 るようにした 上 で そこに 文 化 の 働 きを 分 析 し 予 測 するという 手 法 が 生 まれてくる このような 文 化 の 如 き 社 会 現 象 の 機 構 についての 抽 象 的 図 式 を 組 み 立 てることをモデルと 言 おう この 文 化 モデルに 関 する 方 法 論 上 の 準 備 過 程 はここでは 省 略 せざるを 得 ない ( 参 照 システムとして の 文 明 文 化 の 概 論 世 界 の 日 本 研 究 1 号 ) 私 見 によれば 言 語 を 含 むが 一 言 語 に 対 しより 根 本 的 で 動 的 全 体 的 な 文 化 モデルは 文 化 交 換 モデルと 呼 ばれるべきである へラクレイト スの 有 名 な 格 言 PANTA RHEl 万 物 は 流 転 す によると 万 物 は 絶 えず 生 成 変 化 して 一 瞬 も 止 っていない これをA.KORZYBSKI(1879-1950)の 一 般 意 味 論 によって 言 い 換 えれば 人 間 のどの 行 動 も 常 に 正 確 な 時 点 によっ て 規 定 されているのである たとえば 俳 句 連 歌 などでは 季 節 の 感 じを 表 わす 季 語 のような 要 するに 種 々の 時 季 語 が 入 れられる このような 時 間 関 係 のネットワークは 世 界 定 位 すなわち 現 存 在 における 物 について の 断 片 的 な 認 識 の 土 台 をなす 世 界 定 位 換 言 すれば 方 向 づけとは 非 常 に 役 に 立 つ 根 本 観 念 なのであ る 旅 人 は 地 図 と 羅 針 盤 をたよりに 方 向 づけを 行 う 科 学 は 又 可 変 のも のを 不 可 変 の 概 念 に 関 係 づけて 現 象 界 において 一 定 の 秩 序 体 系 の 中 に 人 間 の 位 置 をきめようとする けれども 科 学 は 即 時 的 に 存 在 するものの 認 識 ではなく 人 間 が 自 己 の 世 界 において 行 う 実 際 的 な 定 位 の 認 識 である 人 間 を 世 界 のうちに 存 在 するものとして 世 界 定 位 においてある 程 度 まで 対 象 として 認 識 することもできるにはできるが 人 間 の 本 質 は 全 体 として は 概 念 的 合 理 的 な 認 識 を 超 えて 自 己 存 在 への 可 能 性 であると 考 えられ る そうではあるが 並 みの 個 人 の 目 では 大 抵 その 場 所 環 境 まして 世 界 の 状 況 宇 宙 の 機 構 などなどは ほとんど 秩 序 をもたず 乱 れている と 思 われる 自 己 存 在 を 守 って 維 持 するために 手 に 届 く 諸 手 段 で 針 路 を 見 失 った 個 人 は 時 空 連 続 体 の 中 に 自 分 の 位 置 を 偵 察 する 必 要 がある そし

古 代 文 化 伝 来 原 本 の 解 釈 の 諸 問 題 31 て その 周 囲 に 姿 を 現 わす 都 合 の 悪 い 不 利 な 条 件 をできる 限 り 取 り 除 い て 改 善 しようとするのが 当 然 であろう 以 上 から 文 化 交 換 モデルを 構 成 するいくつかの 要 素 (エレメント)が 導 き 出 される 1 まず 一 定 の 場 所 に 認 められる 状 況 事 態 に 関 係 する 自 己 の 一 定 の 態 度 すなわち 評 価 作 用 が 予 想 される そのような 評 価 作 用 の 主 体 たる 自 己 の 性 格 に 応 じて 自 己 の 感 情 や 意 志 の 要 求 をみたす 価 値 が 生 ずる 条 件 が 必 須 である 評 価 の 結 果 として 事 物 の 状 況 において 欠 点 や 短 所 などが 自 覚 されるに 応 じて 矯 正 関 係 の 漠 然 とした 想 念 内 容 が 胚 胎 し 適 当 な 課 題 の 選 択 や 整 頓 しうる 考 えなどが 主 体 の 内 部 で 熟 し 始 める そして 未 発 達 の 想 念 内 容 が 主 体 の 想 像 力 により 明 瞭 な 形 態 や 秩 序 をとって 確 立 される それはのちに 続 く 行 為 の 動 機 の 中 身 になりうるものである 2 価 値 に 基 づく 行 為 の 判 断 にさいして 動 機 を 唯 一 もしくは 主 要 の 対 象 とする 立 場 がある そのもっとも 極 端 なものは 意 図 さえ 正 しければ 手 段 や 結 果 のいかんは 問 わない 目 的 は 手 段 を 神 聖 にするという 立 場 であ る そのさい 動 機 をひろく 解 して そこには 実 現 さるべき 目 的 に 向 かった 意 図 を 中 心 として 目 的 の 実 現 に 必 要 な 手 段 予 期 さるべき 結 果 の 観 念 も また 含 まれているとする 場 合 は 当 然 手 段 や 結 果 も 顧 慮 され 一 種 の 結 果 説 に 帰 着 する 3 精 神 内 に 統 一 完 成 された 形 の 意 図 をもって 技 巧 や 手 段 を 用 い 具 体 的 客 観 的 な 成 果 を 収 め 実 現 することができる 以 上 の 三 段 階 は 一 人 の 主 体 において 次 々に 移 行 する 場 合 があるが 各 段 階 は 個 人 の 役 割 の 変 更 として 考 えて 頂 きたい 概 略 を 示 して 配 役 をする と 1. 評 価 者 2. 構 想 者 3. 実 現 者 という 三 つの 役 割 である しか しながら 一 定 の 評 者 は 自 分 の 疑 念 か 査 定 か 批 評 かを 提 案 ないし 暗 示 として 他 の 構 想 者 に 伝 えることがある 同 様 に 一 定 の 構 想 者 は 自 分 の 動 機 や 意 図 を 他 の 実 現 者 に 伝 達 して 委 託 する 場 合 もしばしば 起 こる このような 委 託 は 文 化 交 換 連 続 体 の 中 での 協 同 動 作 と 言 えるものであるが 同 連 続 体 の 一 環 でしかないとも 考 えられる なお 注 意 を 要 することは 各 段 階 はあ る 程 度 迂 回 される 場 合 に 対 しても 処 置 をとれる 例 えば ある 評 価 者 は 悪 弊 を 見 ても 矯 正 をする 代 りに 順 応 する 態 度 をとる また ある 構 想 者 は 以 上 に 述 べた 通 り 手 段 や 結 果 のいかんを 問 わずに 目 的 を 実 行 したいとす る 最 後 に 一 例 を 挙 げれば 潜 在 的 な 実 現 者 は 指 示 を 受 けても それを 中 断 してしまう そればかりか どの 段 階 の 役 割 についている 人 物 も その 役 目 を 軽 視 したりボイコットしたりするなどという 場 合 もある 評 価 者 は 下 心 があって 一 目 瞭 然 であるにもかかわらず 最 大 の 弱 点 をも 絶 賛 するこ とがあり 構 想 者 は 正 義 を 軽 んじ 邪 道 をとることがあり 実 現 者 は 怠 け て 遊 んだり それどころか 損 害 を 与 えることなどのような 悪 事 が 重 ねられ る それは 社 会 生 活 や 文 化 に 絶 え 間 なく 伴 う 暗 黒 面 である また 忘 れてならないことは 各 段 階 の 操 作 を 遅 延 させる 可 能 性 であ る 例 えば 評 価 などを 行 った 時 に 主 体 はすぐに 次 の 溝 想 を 練 る 段 階 へ 必 ず 移 る 緊 急 性 を 要 しない 後 に かなりの 時 間 が 経 ってから 主 体 は

32 Wiesław Kotański 他 の 好 機 を 利 用 して その 評 価 の 内 容 を 思 い 出 して 適 合 する 構 想 を 立 て ることができる 構 想 段 階 や 実 現 段 階 も 前 例 と 同 様 にして その 操 作 を 遅 延 させても 差 し 支 えない さらに 段 階 を 進 めて これからは 四 番 目 の 段 階 について 考 察 しよう こ こまでは 三 段 階 の 要 点 を 示 して それらは 文 化 交 換 連 続 体 の 三 鐶 であると 規 定 した では なぜ 始 めから 四 段 階 を 予 想 しなかったかと 尋 ねられるな らば 前 の 三 段 階 は 四 段 階 の 一 まとめの 中 では 特 質 ある 部 分 をなしている からである その 特 質 とは 動 機 づけられた 行 為 を 代 表 する 機 構 であって これに 対 して 第 四 の 段 階 を 付 け 加 える 理 由 を 以 下 に 説 明 したいと 思 う 物 事 を 判 断 したり 決 めたりする 時 の 基 礎 となる 資 料 を 最 近 ではデータ と 言 う それをもとにして 推 理 して 結 論 を 導 き 出 す またはそれによって 人 事 行 為 動 作 行 動 など を 決 定 する そのようなデータをコンピュ ーターの 専 門 家 は 電 子 計 算 機 に 入 れ 計 算 の 最 終 結 果 が 取 り 出 されるまで のあいだ データは 計 算 機 に 貯 えられる 計 算 機 は データを 貯 える 装 置 を 内 蔵 するが この 装 置 はデータを 高 速 度 で 記 憶 し 消 去 すべき 時 まで 確 実 に 保 持 し 必 要 なときには 高 速 度 でデータを 読 みとり あるいは 消 去 し て 直 ちに 新 しいデータを 貯 えることができるようにするので その 装 置 は 人 間 の 記 憶 になぞらえて 記 憶 装 置 と 名 づけられる 文 化 という 機 構 には 記 億 装 置 のような 仕 掛 けも 内 蔵 せざるを 得 ないと 仮 定 できよう 実 現 段 階 のあいだのどの 動 作 も 一 定 の 成 果 あるいは 結 果 に 終 って それらのありとあらゆる 結 末 は 具 体 的 であれ 抽 象 的 であれ 直 ぐには 消 えず 長 い 間 確 実 に 保 持 されていて 世 間 に 使 われている その ような 仕 掛 けを 全 体 として 社 会 記 億 と 言 ってもよいであろう けれども 本 論 文 では 文 化 のメカニズムを 個 人 の 内 の 文 化 交 換 連 続 の 形 で 紹 介 するの で 記 億 という 現 象 も 個 人 主 体 の 役 割 として 表 現 したいと 思 う その 一 方 でまた ある 集 団 が 社 会 グループの 内 の 文 化 交 換 連 続 をもたらすので 多 分 社 会 記 憶 という 観 念 をも 利 用 して 差 し 支 えがない とは 言 うものの 特 に 個 人 主 体 の 場 合 は その 役 割 を 貯 蔵 者 と 名 づけよう ついでに 言 うと コンピューター 分 野 でも 貯 蔵 装 置 STORAGE という 用 語 が 記 憶 装 置 の 代 りに 用 いられる この 四 番 目 の 役 割 は 文 化 交 換 モデルの 中 に 筋 道 を 立 てて 実 現 者 と 評 価 者 の 間 に 位 置 づけると 三 つとも 同 一 の 主 体 でも 次 々 移 行 するにつれて その 役 割 を 変 更 すること 三 人 の 主 体 にそれぞれの 役 割 を 配 分 することも 可 能 なのである とにかく 実 現 者 はその 活 躍 の 成 果 を 貯 蔵 者 に 委 託 調 達 したならば 後 者 はその 調 達 物 の 扱 い 方 を 自 分 自 身 の 経 験 や 習 慣 によ って 決 めるのである 先 ず 第 一 に 可 変 環 境 を 含 めた 条 件 配 置 に 慣 れた 状 態 の 方 向 を 目 指 して ある 程 度 その 調 達 物 を 順 応 させる 努 力 をする つまり 重 点 をおくべきものは 貯 蔵 そのものである すなわち 同 環 境 の 中 にあとで 使 用 するために ものを 貯 えて しまっておくことである 個 々の 調 達 物 は 決 して 問 題 を 起 こさないが 実 際 においては いずれかの 貯 蔵 者 の 方 へ 絶 えず 分 野 仕 事 場 実 現 者 などを 問 わず いたる 所 から

古 代 文 化 伝 来 原 本 の 解 釈 の 諸 問 題 33 種 々の 成 果 が 流 れてくる いろんな 製 品 家 畜 交 友 関 係 書 物 手 紙 質 問 報 道 招 待 贈 り 物 などなど 洪 水 のように 流 れてくる もし ある 社 会 集 団 を 観 察 したならば この 集 団 も 貯 蔵 と 見 なす 昜 合 その 貯 蔵 地 帯 は 長 い 間 利 害 得 失 とからみあった 物 事 の 氾 濫 に 陥 って 個 々の 集 団 員 は このような 状 態 を 見 れば 混 乱 する 凡 人 にはそのような 需 要 のない 供 給 過 剰 は 断 片 的 にしか 理 解 できず 混 乱 状 態 に 近 い 不 規 則 な 有 り 様 を 表 すの みである 以 上 のような 不 利 な 現 状 を 墨 守 し 心 理 的 な 惰 性 に 安 住 する 社 会 的 態 度 はまれにしか 認 められない 初 めは 現 状 維 持 の 味 方 であっても 多 少 とも 改 革 陣 営 に 移 る 覚 悟 をきめる その 時 まさしく 純 貯 蔵 者 は 評 価 者 の 役 割 に 移 行 する 自 発 的 な 評 価 に 基 づいて 欠 点 や 短 所 などを 矯 正 する 課 題 が 登 場 する こういうふうにして われわれは 議 論 の 出 発 点 へ 戻 り ひと 回 りした ことになる 上 述 の 四 段 階 をなす 四 つの 役 割 は 持 続 的 に 全 体 に 並 べられ 典 型 的 な 周 期 的 に 再 生 する 永 久 運 動 を 行 う 連 続 体 をなす これは 著 者 が 求 める 文 化 交 換 モデルとして 役 立 ち 得 るものである 以 上 モデルに 関 する 説 明 を 簡 略 に 述 べたが 二 三 の 注 釈 をつけ 加 え たいと 思 う まず 以 上 に 採 用 した 1 ないし 4 の 段 階 役 割 の 順 番 は 絶 対 的 ではなく 論 証 の 過 程 において 随 意 に 起 こる 順 序 である 段 階 の 時 間 的 連 続 は 守 るべきであり 回 転 の 出 発 点 は 不 定 であると 考 える

34 Wiesław Kotański けれども 推 論 諒 解 に 根 拠 を 置 くため 同 じ 番 号 を 利 用 する なかんずく 1 2 3の 連 関 群 をすでに 動 機 づけた 創 造 的 行 為 の 特 性 連 結 と 定 義 したの である また3 4 1の 連 関 群 は 再 生 用 の 材 料 を 雑 然 と 集 める 操 作 の 連 続 分 と 名 づけよう もちろんのことであるが この 場 合 1と3の 役 割 は 二 面 性 を 持 つことが 注 目 される すなわち 両 方 とも 同 時 に 以 上 のモデルに 対 立 された 二 つの 連 関 群 に 属 するのである この 見 地 から 観 察 すると 以 上 の 回 転 変 化 の 四 段 階 とも 文 化 交 換 に 適 用 するなら 図 の 左 側 に 代 表 される 人 間 態 度 は 原 則 的 に 活 動 的 能 動 的 積 極 的 であり 右 側 の 人 間 態 度 は 逆 に 受 動 的 守 勢 的 消 極 的 である そ うすると 1と3の 区 画 は 半 活 動 半 受 動 的 の 性 格 を 示 すこととなるのであ る どうしてそうなるかと 言 えば 1 評 価 者 は 調 達 物 を 受 け 取 るとき まず 自 分 からすすんで 行 動 しないでまず 貯 蔵 者 からの 働 きかけを 待 つか らである 一 方 表 面 のみを 見 て 評 価 する 可 能 性 があるが のちに 主 体 の 感 情 や 意 志 の 要 求 をみたし 完 全 な 価 値 を 活 かすことによって 活 動 化 の 傾 向 が 起 こる これとは 逆 に 3 実 現 者 は 構 想 者 から 何 らかの 意 図 や 技 法 を 受 け 取 り まず 直 ちに 注 文 を 調 達 する 活 動 力 を 示 すが それが 実 現 されると 無 為 になって 受 け 身 の 態 度 に 戻 る これら1と3の 段 階 が それぞれ 二 面 性 を 示 すのに 対 し 2 4の 段 階 は 一 面 性 を 示 す すなわち 一 義 的 に2は 能 動 的 で 4は 受 動 的 なのである 図 形 の 右 側 は 概 して 文 明 の 外 延 を 示 すと 思 われるが 文 化 を 文 明 開 化 とすれば それは 概 念 としては 等 価 であり しかし 文 化 は 文 明 の 積 極 化 を 意 味 するので その 反 定 立 になっている なるほど 人 間 の 外 部 の 事 物 を 人 間 の 諸 目 的 に 従 属 させ それらにしたがって 構 成 すること その 成 果 を 文 明 と 呼 ぶしかない すなわち 文 明 という 観 念 は 文 化 の 機 能 を 示 して いる したがって 文 明 は 文 化 全 体 を 意 味 づけ 他 方 では 文 化 は 創 造 的 活 動 として 文 明 を 可 能 にするという 二 つの 面 がある この 相 互 依 存 は 明 瞭 で 文 明 すなわち 再 生 用 の 資 源 の 貯 蔵 庫 長 期 間 の 伝 統 遺 産 の 貯 蔵 所 は 廃 物 や 汚 物 をも 含 んでいるけれども きわめて 重 要 なものである 文 化 交 換 モデルの 四 つの 役 割 についての 詳 細 な 説 明 は 省 略 せざるをえ ないが 言 語 活 動 に 関 連 させるなら 次 のように 改 称 してよいと 確 信 してい る 1 言 語 表 出 者 2 語 彙 貯 蔵 者 3 高 次 言 語 操 作 者 4 概 念 構 想 者 という 役 割 である このようなテーゼにどんな 価 値 があるか 疑 いがある 一 見 すると 言 語 に 関 する 以 上 の 考 察 は 構 造 言 語 学 の 説 明 とは 余 り 異 なっていないかもしれ ないが 言 語 に 対 する 外 的 現 象 としての 文 化 との 結 びつきに 関 しては 私 の 上 述 のアプローチは 独 自 なものである さて これからは 著 者 は 理 論 的 な 考 察 から 具 体 的 な 資 料 を 例 とする 解 釈 の 問 題 を 展 開 したいと 思 う 資 料 としては 古 事 記 の 若 干 の 断 片 の 翻 訳 に 関 連 する 興 味 深 い ケースに 光 を 当 てるつもりである だがまず 解 釈 者 の 位 置 について 二 言 三 言 述 べるのが 妥 当 だろう さて 解 釈 者 は 一 九 九 一 年 のワルシャワ 市 に 住 み ポーランド 語 がその 母 語 である 一 九 三 四 年 以 来 日 本 語 を 習 得 しつ

古 代 文 化 伝 来 原 本 の 解 釈 の 諸 問 題 35 つ 口 語 を 初 め 文 語 にも 関 心 を 持 ってきた 一 九 七 〇 年 ごろ 研 究 の 中 心 になったのは 八 世 紀 の 古 典 作 品 であるが その 内 容 は 3 2 混 元 既 凝 =まロかれすでにコりて ( 訓 読 はすべて 日 本 思 想 大 系 1 古 事 記 に より 引 用 文 前 の 数 字 は 国 宝 真 福 寺 本 古 事 記 によって 頁 と 行 数 をさ す)から 始 まるので 前 代 未 聞 の 昔 のことであろう この 悠 久 の 想 像 でき ない 経 過 時 間 を ある 程 度 限 定 するために 宇 宙 の 根 元 の 問 題 を 神 話 説 と 見 なし 日 本 神 話 自 体 はいつ 生 みだされたものであるかを 調 べると 歴 史 家 は 早 くとも 紀 元 前 四 世 紀 ごろ 成 立 し 始 めたと 考 えている さて モデル の 回 転 によれば 構 想 者 は 前 四 世 紀 の 人 であり その 思 想 を 表 記 する 実 現 者 は 八 世 紀 であり 貯 蔵 者 の 活 動 は 八 世 紀 から 二 十 世 紀 までであり 現 代 の 評 価 者 は 二 〇 世 紀 末 の 人 である こうして これらの 活 動 は 全 体 として 二 五 世 紀 近 くの 時 にわたっている このように 長 い 時 間 の 間 日 本 語 も 日 本 人 の 考 え 方 も 生 活 条 件 も 大 いに 変 わっている 言 うまでもなく ポーランド 人 の 著 者 の 現 代 の 様 子 も この 状 況 では 風 変 わりなものではないかと 考 えられる けれども 現 実 には 現 代 日 本 人 の 解 釈 者 の 状 況 も 日 本 人 だからといって 好 都 合 好 適 であるとは 言 いがたい この 立 場 は ポーランド 人 とは 違 った 意 味 で ハンディキャップをもっている まず 古 事 記 の 本 文 は 漢 字 で 記 された ものであって 現 代 日 本 人 が 同 じ 表 意 文 字 を 用 いると 考 えるのは 幻 想 であ る 彼 にとって 現 代 の 論 文 などを 読 むのは 簡 単 であるが 古 典 の 内 容 を 把 握 しようとする 場 合 には 読 み 方 においても 意 味 を 取 るにも 迷 路 が 多 いのである 特 に 矛 盾 のない 翻 訳 を 達 成 しようとする 解 説 者 は 翻 訳 上 の 難 点 の 説 明 に 頭 を 悩 ます 場 合 が 多 い 実 例 として 古 事 記 の 本 文 の 天 地 初 発 の 段 を 再 考 してみよう 8 3 天 地 初 発 之 時 於 高 天 原 成 神 名 天 之 御 中 主 之 神 =あメつちはじメて おコりし トき たかまノはらになりませるかミノなは あメノみなかぬしノかミ 著 者 は 客 観 的 に 序 文 の 3 2 混 元 既 凝 から 推 断 を 下 して 初 め はまだ 凝 っていない 混 沌 があったと 見 なし 天 または 地 という 概 念 は 混 沌 とは 反 対 で 8 3 の 段 の 天 地 高 天 天 之 御 中 という 連 字 は 何 を 意 味 するかを 考 えたいと 思 う 本 居 宣 長 という 偉 大 な 学 者 は 混 元 について 先 天 的 に 漢 籍 に 云 る 趣 もて 云 るなり と 主 張 する これはことばだけの 根 拠 のない 断 言 であろう 私 見 によれば この 問 いに 肯 定 的 に 答 えること もできよう 最 初 に 天 之 御 中 主 という 神 名 に 注 目 したが 伝 統 的 に 認 められているその 解 釈 は 逐 語 訳 で 全 く 現 代 風 の 翻 訳 法 となっていて 一 千 二 百 年 前 の 語 法 にそむいている 古 事 記 の 表 記 法 は 多 彩 である 中 国 語 による 文 章 もあり 日 本 語 による 文 章 もあるので 漢 文 と 和 文 の 二 類 を 識 別 することが 取 り 扱 いの 基 本 になっている だが 両 方 とも 表 意 文 と 表 音 文 によって 異 なった 様

36 Wiesław Kotański 相 を 帯 びている 表 意 文 は 一 文 字 あるいは 連 字 体 がそれぞれあるきまっ たことばとその 意 味 を 表 わしている 表 音 文 は 一 文 字 あるいは 連 字 体 が それぞれ 特 定 の 意 味 を 直 接 に 表 わすことなく 読 法 だけを 表 面 に 出 し その 通 読 によって 新 しい 連 語 として 表 現 した 上 で その 内 容 が 理 解 でき ることになる ちょうどあの 天 之 御 中 主 の 神 名 を 和 文 の 表 音 文 当 て 字 と 言 ってよ い と 認 知 すれば 伝 統 的 でない 内 容 を 獲 得 することができる そうした 結 果 を 達 成 するために 特 定 の 音 訳 が 必 要 である 母 音 と 子 音 を 別 々にし たり 上 代 特 珠 仮 名 遣 いによる 甲 類 乙 類 音 節 や 六 種 声 調 を 認 定 したりす るために ローマ 字 で 注 記 をつけよう そして 動 機 づけたり 根 拠 づけた りした 場 合 は 私 は 伝 統 的 な 読 法 を 変 更 することがあるだろう たとえば A 1 MË T -NÖ? -MI 2 -NA 1 KA 1 -NU? SI? という 語 形 は A 1 MA 1 -NÖ 1 MI 2 NA 1 KA 1 -NU? SI? ではないのかと 想 定 してみる AMËとAMAは 両 方 とも 語 法 上 同 等 であるが しかし A 1 MË T という 形 は 高 々 天 と 雨 を 代 表 し A 1 MA 1 の 範 囲 はそれ 以 外 にも 及 んでいると 思 われる さらに 通 読 の 連 結 A 1 MA 1 NÖ 1 MI 2 NA 1 KA 1 NU? SI? をもって 文 脈 の 前 後 の データを 顧 慮 して 混 沌 と 連 想 できる 意 味 をこの 一 連 の 連 結 から 汲 み 取 れ るかどうかという 課 題 が 迫 ってくる それは 学 問 的 理 論 的 な 問 題 で 著 者 はその 問 題 を 起 こす 際 に 主 観 的 事 前 認 識 また 予 知 のようなものは 何 も もたない 望 ましい 答 えがその 神 名 や 本 文 前 後 から 演 繹 されることができ ないなら あらためて 他 の 解 決 をさがすことが 必 要 となる 上 代 日 本 語 の 語 法 は 現 代 の 膠 着 語 のように 単 純 化 した 接 合 性 を 示 さず 種 々の 語 中 音 省 略 性 変 異 性 などのような 現 象 があったので 古 事 記 における 出 力 結 果 は 入 力 形 態 と 大 分 違 ったものであり 後 者 は 前 者 に 基 づ いて あらためて 復 元 されねばならない 詳 しい 復 元 過 程 は 省 いて その 結 果 だけを 述 べよう 最 初 の 分 析 は 表 面 の 成 分 の 意 を 超 えて 推 測 した 新 成 分 の 連 結 を 露 出 させることにある そこで A 1 MA 1 N+NÖ 1 M+MI 2 +NA 1 +KA 1- N+U? Sl? という 再 現 形 を 露 出 させ 入 力 形 態 を 再 現 することができた けれ ども AMAN, NÖMなどの 成 分 は 省 略 形 態 でしかなく それらを 拡 張 して 初 めて 内 容 がはっきりと 表 われてくる さて 拡 張 形 態 は 次 のようである A 1 MA 1 NE 2 普 = 余 すところなく 及 んで NÖ 1 MI 2 延 = 広 くなり WU 1 MI 1 MI 1 膿 = 膿 汁 がたまること 腐 敗 腐 れ NA 1 無 = 生 存 していない KA 1 NE 1 兼 = 気 をつかう WU? SI? 卿 = 君 主 人 これら 全 部 を 統 合 すれば 余 すところなく どこにも 及 んでいる 腐 敗 および 不 生 存 のことに 気 をつかう 主 人 になる そのような 中 身 はまち がいなく 混 乱 混 沌 などと 近 いと 思 われる この 神 は 日 本 神 話 のもろも ろの 神 祇 の 先 頭 に 立 って カオスの 後 継 者 である 可 能 性 が 十 分 ある 形 式 的 な 見 地 からは 古 語 法 は 声 調 法 のテスを 含 めて 完 全 に 内 外 の 条 件 と 符 号 する これこそが 著 者 の 意 図 するところであった 天 という 観 念 は 一 時 的 に 遠 ざかったのである

古 代 文 化 伝 来 原 本 の 解 釈 の 諸 問 題 37 このような 結 果 に 達 したが まだ 他 の 不 明 点 が 残 っている この 天 之 御 中 主 之 神 は いつ 現 われたのかという 問 題 である 8 3 天 地 初 発 之 時 という 文 句 にはまた 天 地 が 見 えるが 天 上 地 上 というところは まさに 混 沌 の 時 期 の 物 と 見 なすことは 無 理 であろう 矛 盾 したようすを 明 らかにするため あメつち という 読 み 方 に 限 を 向 けてみよう 日 本 思 想 大 系 1 の 解 釈 者 は 日 本 古 代 の 観 念 ではアメに 対 応 するのはクニで あるとみられ ここがアメツチ( 天 地 )であるのは 注 意 すべきである と 書 いている 混 沌 との 矛 盾 を 見 落 として 地 の 異 例 性 にだけ 注 意 をそそぐの は 枝 葉 にこだわる 立 場 ではないか 著 者 としては アマノミナカヌシの 前 例 に 基 づいて 端 的 に あメつち を あまつち に 直 そうと 思 う その 上 で 仮 定 的 に 入 力 形 態 を 解 明 しようとするのである A 1 MA 1 +TU 1 TI 1 AMATUTI A 1 M 1 T+U 1 + TI 1 という 変 形 から 始 め る 両 成 分 を 拡 張 すると 仮 に A 1 MA 1 TA 2 AMAT 数 多 く 数 えきれ ないほど 多 く WU 1 TI 1 -U 1 TI 1 現 =うつつ うつ うち 現 実 と なる 意 味 全 体 は 無 限 の 現 実 ということになり これは 全 く 思 いがけ ない 結 果 である けれども 天 という 成 分 は もう 一 度 ここで 考 究 されている 本 文 の 冒 頭 の 一 句 に 出 てくる それは 高 天 原 という 連 字 の 中 にある これに 添 えた 原 注 ははっきり この 訓 注 阿 麻 は 本 文 の 天 の 単 字 の 訓 を 示 し 高 天 原 という 語 の 音 節 結 合 までは 拘 束 しない と 注 張 する 非 常 に 疑 わしい 注 であると 思 う 私 としては 上 記 の 訓 注 ではむしろ 高 の 発 音 質 が 考 慮 されていないと 思 うが 上 代 語 法 によって 語 の 区 分 線 は 必 ずしも 音 節 区 分 と 一 致 せず TAK AMAというパターンを 保 つこともあった その 訓 注 はこれまでの 分 析 の 例 解 の 場 合 このような 音 則 を 無 視 する 可 能 性 があ るとして 信 頼 できる 資 料 を 提 供 している その 上 同 解 説 者 はTAKAMANÖFARAという 読 み 方 を 認 めている が TAKAMAGAFARAという 形 も 根 強 く 伝 統 に 基 づいている 伝 統 的 な 解 説 によれば 両 者 とも 天 上 の 神 々の 世 界 を 象 徴 するので NÖとGAの 区 別 は 無 意 味 であるという ところが 天 上 神 々 世 界 などという 観 念 は 古 事 記 の 冒 頭 の 記 述 とは 全 く 共 通 点 がなく 全 部 が 随 意 に 捏 造 された 偽 データであるに 相 違 ない 特 にアマノミナカヌシの 神 や 混 沌 状 態 とは 矛 盾 している したがって 高 天 原 の 再 検 討 が 必 要 なのである 手 続 きは 前 と 同 じである TA 1 KA 1 GA? FA 1 RA 1 あるいはTA 1 KA 1 MA1NÖ 1 FA 1 RA 1 と いう 通 読 連 語 は 仮 定 的 に 次 のように 分 析 できる TAKA-MAGAF-FARAな いしTAK-AMA-NÖ-FARAとするのがふさわしいと 思 われる 前 者 の 成 分 を 説 明 すれば TA 1 KA 1 はTA 1 KË 1 からの 派 生 語 で その 意 味 のニュアンスは 長 = 時 がたつ その 場 にゆるぎなく 位 する となる MA 1 GA 1 F はMA 1 GA 1 FI 2 紛 = 入 り 乱 れる まじりあって 見 分 けがつかなくなる と 認 められる FARA は 原 = 広 くつづいた 平 地 広 々となったところ となろう 全 体 として は ゆるぎなく 入 り 乱 れて 広 々となったところ を 意 味 し 永 遠 のカオ スの 地 帯 と 同 義 である

38 Wiesław Kotański 後 者 はすこし 複 雑 で もっと 簡 単 に 説 明 される 前 者 に 比 べて 十 分 信 頼 することができない すなわちTAK=TAKË 長 =ゆるぎなく 位 する AMAは A 1 MI 1 の 派 生 語 で 編 = 組 み 合 わせる もつれる 紛 糾 する NÖ 1 =NI 1 =WU 1 MI 1 膿 = 腐 敗 * WU の 脱 落 形 WUSIFO SIFO, WUKARA KARAなど* N Mの 互 換 は 正 規 の 語 法 であって 例 えば たたみ=た たね かたむ=かたぬなど* YÖKI-YÖKÖ NORO-NÖRÖFIなどはNI-NÖの 互 換 の 正 しさを 証 明 している FARA 原 = 広 々となったところ 全 体 と しては ゆるぎなく 紛 糾 したり 腐 敗 したりする 広 々となったところ を 意 味 するので ここでもカオスの 地 帯 が 描 かれている 今 のところ 文 脈 に 適 合 する 意 味 を 得 たが 高 天 原 はのちほど 他 の 意 味 も 帯 びて 現 われること になるから この 説 明 を 再 考 することは 避 けられない とにかく 古 事 記 の 冒 頭 の 文 句 は 次 の 通 りに 解 釈 されうる 無 限 の 現 実 が 初 めて 起 ったりするとき ゆるぎなく 入 り 乱 れて 広 々となった 空 間 では 一 定 の 神 が 現 われ その 名 は 余 すところなく どこにでも 及 ん でいる 腐 敗 および 不 生 存 に 気 をつかっている 主 人 という 神 であった このような 舞 台 にはどういう 筋 書 きが 登 場 するかを 簡 略 に 述 べたい それはもちろん 神 道 宗 教 の 根 本 的 な 信 仰 原 則 である 周 知 の 通 り 神 道 の 倫 理 観 では 善 神 や 悪 神 があって 多 分 このように 定 義 されたアマノミナカヌシは 悪 神 の 列 に 加 えられるだろうと 思 う だが 客 観 的 な 見 地 からは この 神 は 周 りの 世 界 を 時 としていかなる 性 質 のもの とみるかという 理 解 を 示 している 善 悪 の 問 題 はここに 含 まれていないの である 逆 に この 神 の 真 の 役 割 は もし 試 みにこの 神 を 文 化 交 換 モデル に 適 応 させるならば 貯 蔵 者 に 相 応 する 貯 蔵 者 の 性 格 によって 事 物 を 集 めて そのままに 保 存 すべきであるが 適 当 な 評 価 者 が 居 るならば そ の 貯 蔵 法 を 判 断 して 欠 点 や 弱 点 を 見 出 したり 改 善 を 加 えたりすることが できる その 評 価 者 の 役 を 高 御 産 単 日 ならびに 神 産 単 日 の 神 が 演 じ 始 める のである このふたりの 後 でまた 多 数 の 神 霊 が 現 われてくる そうであれ ば アマノミナカヌシは 世 界 の 発 展 を 創 始 して 自 らに 次 ぐ 諸 神 祇 ならび に 人 間 は 腐 敗 や 不 生 存 に 打 ち 勝 つ 努 力 をし 心 身 の 健 全 な 発 達 や 志 向 生 存 の 維 持 存 命 の 続 行 などがこの 世 の 生 きものの 主 要 な 目 的 となる こ れが 上 代 神 道 の 主 な 展 望 である その 展 望 全 体 にかんがみて 初 めて 日 本 神 話 やその 神 祇 系 図 の 諸 問 題 を 検 討 すべきであって 著 者 のこれまでの 解 釈 の 成 果 もこれによって 確 立 されたのである アマノミナカヌシの 後 継 者 は 多 数 であるが それらの 神 話 における 系 譜 は 幾 重 にも 分 岐 していて どの 線 もおおざっばに 三 つの 波 状 段 階 の 形 で 記 述 することができる すなわち 1 天 主 神 主 宰 の 時 期 2 太 陽 神 主 宰 の 時 期 3 現 人 神 主 宰 の 時 期 である こういうふうに 体 系 立 てた 三 区 分 は 決 して 完 全 なものでなく 第 1 点 に 見 える 天 主 神 は 伊 耶 那 岐 神 であり そ の 登 場 の 前 の 十 五 柱 の 神 は いわば 十 六 柱 の 出 現 の 条 件 を 用 意 するため に 自 然 に 形 をなして 現 われたものである 宇 宙 の 構 造 目 的 や 終 末 の 全 体 像 をもたずに 伊 耶 那 岐 神 の 使 命 は 不 成 功 だろうと 考 えてよい それ