短歌とは5 7 5 7 7の5句31音のリズムで詠まれる短い抒情詩 俳句で使われる 季語 は不要 古くは奈良時代から身分の貴賤を問わず親しまれ 現代でも日々の想いを綴る詩形として幅広い層に詠まれています 一方で その長い歴史を国語の授業で習うこともあり 短歌とは難しいものである と思っている人もしばしば このフリーペーパーは 短歌をよく知らない人 に現代短歌の面白さに触れていただくために作ったもの 軽い気持ちで ぜひページをめくってみてください 作品テーマ香り香りと記憶は結びついて僕らは時間を飛び越えていく
冬の朝蕎麦屋が仕込む出汁の香が漂って今街が始まる
果物の香りがついたリップには味が無いこと君と知る冬
焼魚香ればひとつだけ時代を戻ったような心地で歩く
ブロッコリー茹で上げたとき立ち込めるほんのり甘い湯気がしあわせ
お別れを冬の香りのせいにした会いたいは冬の寒さのせいに
花を生むように銀河を生むように蜜柑を剥いた手の香しさ
ねじれてもつながっている輪のように煙草の香りがすれば今でも
ハーブティー何も言わなきゃ温かいほうが出てくる優しい世界
洋服がいつもの香りに戻るのをエピローグとし旅行は終わる
母さんが香りを織るとつけた名が私の触れた最初の詩です
かなしみの甘い香りをかぎわけて蝶はわたしの帽子にとまる/朝野陽々ひとかけの柚子に気づいてくれたから冬には冬のあかるさがある/久藤さえすずらんの香りがすると思ったらなんだあなたが笑ってたのか/関根裕治定食屋 コインランドリー バスの中 きみの香りがもうしない町/木村望なんらかの罠なのだろう白桃はうふふうふふと香りふりまく/藤かづえみどりごのつむじをかげばいつだって生まれる前の大地のにおい/三浦なつ鰻屋が本気になった時にだけ匂いが届く距離に住んでる/ハマノマナカ遠い日のふたり暮らしの角部屋の香りを思いだした 初雪/香村かな香水を買ってみるなら太陽を浴びた布団の香りが欲しい/無藤しち不透明すぎるメールを送られてきみから知らないひとの香がする/千原こはぎ神保町千年分のかび臭さ一部を家に買って帰った/中川智香子息をするように調香する君の指のしぐさに惚れぼれとする/緒方燕柳無香料のほうがいいって言い出せずきみの買いたいやつ買ってゆく/中嶋港人薄いカルピスで育ってきたんだねそういう感じの汗の匂いだ/川野愛奈干し終えた厚いシーツを巻く子らは宇宙のにおいがするとはしゃいだ/武内三男けんかした日もベランダに隣り合い同じ香りに乾くシャツたち/風花雫かすみ草かすかに香る風を呼びきみが初めて子宮で動く/玖嶋さくら二位じゃダメなんでしょうかとはにかんだような香りを銀木犀は/須磨蛍香りには嗅ぐより聞くを使いたい初夏です干した布団や若葉/野添まゆ子たっぷりと甘いミルクに漬けられてわたしを許す甘い食パン/衣未( みみ) 香り 香 り
日本よりお米を消費する国と知らされぬまま赴く戦地王将を奪うゲームじゃないんだと点呼係のドクくんは言うK leenex はクリネックスと訳されてクリネックスで検索されるキッスではなくてキスならこんなにも売れてなかっただろうKISS はそうそれもそうなのポルトガル語なの窓の向こうの誰かの聖夜もしぼくがイエスだったら区別しただろう神父と新婦の読みを日本人だけが知ってるさっきまで降ってた雨が出汁だったこと不老不死の薬の副作用で死ぬみたいに生きるベトナムに雪 なれないよ ってきみが言うことではないし ジェラートが溶けてるし食べなよあのひとが薦めたブリ茶漬け食べに来ましたここへ来ましたひとりおかみさんがおひつに詰めた期待感こえていきたい胃袋は もうたぶんちょっとお腹が凸なワンピース電車には凹ましてから乗るスーパーで買った もちもちパン ド ミー 嬉しいからフルネームで呼ぶ違和感を衣でくるんで焼き切って家族に供すぶたさんのにくジーーーー!(すごい音だね!キリギリス?)ジーーーーーー(そこ!)ーーーーー!向ひ合ひてただそれぞれに本を読むやさしき夜にチョコブラウニー 新しく届いた靴で三歩だけ部屋を歩けばガリバーのよう母さんがリンドバーグを口ずさみそんな裏声なんだと知ったパクチーに似ている草かパクチーか確かめたくて嗅ぐこともあるぬるい としか思わなかった人間の握った寿司をはじめて食べて雑談の合間合間で美容師に直されてまた傾く地軸タイトルは忘れた けれど水滴の手触りのある装丁だったゆるやかにひとを奥へと誘うため水族館の順路は下り過ぎながら 昨日の交通事故 を見る0人のときそうでないとき このビルをゴジラのしっぽが薙ぎはらうシーンを思いつこのビルに入る略称と略語の意味を聞けぬまま捌けた会議のあとのほうじ茶自社の持つ強み/弱みの分析に自分はどっちか分からないままマーケットに再現性はないけれど部下から同じ言い訳を聞く迷いなくハンコを押せる書類にも出会ったことがあるにはあるが細部には悪魔も宿る誤字ひとつごとに査定を下げる誘惑病欠になった同期と自分とで埋まる最終退場名簿国家予算規模の$だと見積もってオフィスの夜景を独り占めする ドル プロフィールプロフィールプロフィールプロフィールプロフィールプロフィールプロフィールプロフィールプロフィールプロフィールプロフィールプロフィール
ドヤ顔で名探偵が犯人を指さすまでに六人死んだ 犯人はたいてい星野真里よ って母が余裕で観るサスペンス張り込みの刑事も正しく使ってる望遠鏡は犯人を見るもの嘘ついてしらばっくれる犯人がこの中にいる お前だピノキオ!視聴者はみな犯人を知っている古畑任三郎より先に今きみを慰めているそいつだぞ夫のおれを轢き殺したのいやぼくじゃありませんって顔をする子猫の髭に大福の粉犯人は今日もバイキンマンだから心配ないよ怖くはないよデカホシコーヒーと 昨日はごめん を用意して寝起きのきみを待っている朝春を見る花の気持ちを知りたくて桜の色を足すアイシャドー ねこ と書くつもりで書いた ね の文字の少し長めのしっぽの辺り春をひとつ選ぶ心地で指さしているショーケースのいちごのタルトふうわりと春の空気を巻いているキャベツを購うその空気ごと三月のLINE に交わす膨らんだつぼみのような約束ひとつやわらかに川辺を吹いてゆく風にふわり弱音を吐いている髪幸せを補うために夕食後三粒服用するチョコレート エイプリルエイプリル川沿いをゆくあたらしい靴に草のきみどり東京の東京っぽくない町でそっとはじまる暮らしがあって駅の屋上庭園でふるさとのイオンを探す日が暮れるまで初めての明大前で乗り換えて瓶詰めのピクルスになる朝辻褄を合わせるように街道でひらく桜にみとれてしまう値札すらついていそうな新宿の夜景をみんな無視して帰る吉野家に寄る気軽さでタクシーをとめる大人になっていましたトマトには熊本産とありこれで里帰りしたことにしようか 二回目の春はマスクがすぐ買えてワニはわたしの海馬にねむるあるあるの話をしよう無印のコピーは に頼り過ぎてる建物を擬人化するとたのしくて免許センターは六角精児てりたまを二つ頼んでてりたまを二つ抱えて神さまみたい二百円ということしかわからない金魚をきみの名前で呼んだ 空きあり の貼り紙ぜんぶポップ体いつかドラマに映ってたビル平野レミならこの沈黙を丸ごとのブロッコリーで埋めるんだろうかんたんにキスもできない改札口遠いとこまで来てしまったね プロフィールプロフィールプロフィールプロフィールプロフィールプロフィールプロフィールプロフィールプロフィールプロフィールプロフィールプロフィール
あと二年ほんとに大人になるのかなサインコサインしてるわたしが この街で暮らして行くと決めたから ポイントカード?作ります はい 薬莢の転がるやうな音がしたわたしの云つた言葉のあとに 七色の粘土を惜しげもなく混ぜてこどもは夜の色をつくった 楽しいしなんでもいいや間違って借りた2から観てしまおうね 小魚の死因を二つ戒名に背負った煮干しから良い出汁が 彩りというより弔うためだろう舟盛りに乗る食用菊は 左辺から右辺に移行するだけでマイナスになる幸せだった 同棲を始めた社内カップルを柔軟剤探偵が見破る薬物に手を染めたならやばいかもかっぱえびせんとまらないおれ
季節とは香りの名前冬の香を吸いこんで澄みわたるよ酒は
THANK YOU! うたらば vol.29 香り 2021 年 4 月 23 日発行 企画 撮影 編集 / 田中ましろ @tnkmsr_photo モデル / 遊上なばな 短歌 / 投稿者の皆様 @i_am_787 @i_am_nabana