特集 : 地域連携と栄養管理 地域包括ケアシステムにおける栄養管理の重要性 * keywords: 栄養ケア ステーション 在宅訪問栄養食事指導 介護予防における栄養改善 田中弥生 Yayoi TANAKA 駒沢女子大学人間健康学部健康栄養学科 Faculty of Human Health Department of Health and Nutrition Sciences, Komazawa Women's University 2025 年開始を目指した地域包括ケアシステムは 地域住民のニーズに応じた住宅が提供されることを基本とし 生活上の安全 安心 健康を確保するために医療や介護のみならず 福祉サービスも含めた様々な生活支援サービスが日常生活の場 ( 日常生活圏域 ) で適切に提供できるような地域での体制 と定義されている この定義の中には 食生活及び栄養障害の改善 疾病の再発予防や疾病の予防ができ 地域住民が住み慣れたところでその人らしい生活を送ることができる ということも含まれており そのためには要介護高齢者は病院から施設 在宅に移り変わっても一連で適切な栄養管理が必要である 栄養ケアに関する情報の提供 ケアマネジャーを中心とした多職種の協力 地域社会に密接した全高齢者への主観的栄養アセスメントの徹底 地域家族も含めて多職種全てのスタッフが共通の概念をもつことが重要であり 科学的根拠に基づく栄養管理を地域包括ケアシステムで共有することが必務である はじめに 日本の少子高齢化の波は 世界に類をみないほどの勢いであり 地域住民への医療 介護の整備の体制づくりは急ピッチで進められている 特に現在の日本の 65 歳以上の人口は 3,000 万人以上 ( 国民の約 4 人に1 人 ) 2042 年には約 3,900 万人となり その後も増加の一途をたどると予想され 今後 約 8 0 0 万人の団塊の世代が 7 5 歳以上となる 2 0 2 5 年以降は 国民の医療や介護の需要が さらに増加することが見込まれている それを踏まえ厚生労働省高齢者医療制度改革において この 2025 年を目途に 高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで 可能な限り住み慣れた地域で 自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう 地域の包括的な支援 サービス提供体制 ( 地域包括ケアシステム ) の構築を推進している 1) 自立生活を維持していくためには 安定した衣 食 住の確保が必務である 特に食が維持できなければ 栄 養状態は安定できないことは尤もだが 食が維持できず低栄養状態に陥る高齢者も多く 地域における栄養ケアの需要が必要に迫られている 本稿では 在宅医療 介護における地域包括ケアシステムについて述べ 日常生活における栄養管理の重要性と多職種連携で進めている取り組みについて解説する 地域包括ケアシステムの構築 先に述べたように 2025 年を目途にした地域包括ケアシステムは ニーズに応じた住宅が提供されることを基本とし 生活上の安全 安心 健康を確保するために医療や介護のみならず 福祉サービスも含めた様々な生活支援サービスが日常生活の場 ( 日常生活圏域 ) で適切に提供できるような地域での体制 と定義されている この地域包括システムは ( 図 1) 保険者である市町村や都道府県が地域の自主性や主体性に基づき 地域の特性に応じて作り上げていくこととなる その構成要素として *The importance of nutritional management in the area comprehensive care system 静脈経腸栄養 Vol.29 No.5 2014 3(1143)
住まい を中心におき 生活支援 介 護 医療 予防 の 5 つを地域包括ケアシステムの対応すべき分野として特定されている 医療と介護との関係では 地域高齢者の生活は 単一の事業所から提供される単一のサービスだけで支えられるのではなく その人の身体の状況や家族 住居等の環境等に応じて 様々な地域資源を組み合わせながら支えあえるよう 複合的な支援を実現するのが 地域における様々な主体や職種の間の連携と考えられている これらのサービス提供の機能的な連携を推進するためには 医療 介護にわたるサービス提供主体が適切かつ定期的に情報共有を図り 情報が一元化されることを目標とされ 医療と介護の連携機能の高度化を図っていくためには 相互理解を進め 在宅医療連携拠点事業と地域包括支援センターなどが適切に連携 協働しあうことといった体制の整備が進められている ( 図 2 図 3 ) 図 1 介護の将来像 ( 地域包括ケアシステム ) 出典 : 平成 25 年 3 月地域包括ケア研究会報告書より 地域包括ケアシステムにおける栄養管理はなぜ必要か 急性期医療の入院中では 医療従事者全ての職種が 病気を治す ことに専念しチーム医療として最善を尽くしている 高図 2 在宅医療 介護の連携推進の方向性出典 : 平成 25 年 3 月地域包括ケア研究会報告書より齢者の場合 急性期を過ぎて回復し 慢性化から療養期に入る患者も多くみられるが 急性期で宅療養中はクリニックに通院し その後 食欲が低下し栄養管理が必要だったとしても 栄養食事指導が必要と再度入院をしたが 当院に入院できずに別の中核病院にされる場合以外は 病院内での NSTなど退院時に簡単転院が促された しかしその病院との連携ができていなな食事の説明をするケースが多い このように 在宅までいため 適切な栄養必要量が処方されず 体重減少が著の継続した栄養管理は難しく 在宅復帰後の経時を見る明で栄養状態が悪化し最終的に敗血症で死亡した例が機会は一か月に一回程度の外来通院や外来栄養食事指ある 人間の生死を考えると 食べられなくなった患者を導にすぎない 薬物や外科的治療だけで完治できることはない 体内に私が勤務していた急性期病院において Nutrition 水分や三大栄養素などを取り入れることにより治療効果 Support Team( 以下 NSTと略 ) にて栄養療法を行い も上がり運動能力も増加する この基本的なことが理解状態が安定したため 2 週間で退院した患者がいた そのでき 多職種に情報が伝達されながら関係を深めていれ患者は かかりつけ医が他のクリニックであったため 在ばこの患者はまた違った状況だったに違いない 4(1144) 地域連携と栄養管理
図 3 医療 介護機能の再編 ( 将来像 ) 出典 : 平成 25 年 3 月地域包括ケア研究会報告書より 病院の在院日数の短縮化により早期退院を余儀なくされているが 患者自身の栄養状態や身体活動機能を整えてから退院させるといったことがままならず 患者の栄養状態等が不安定のままでの生活が再開され 栄養状態が悪化し入退院を繰り返す要介護高齢者がいる さらに介護老人保健施設のように在宅復帰を目指す施設や特別養護老人ホーム等に入所した要介護高齢者では 管理栄養士を初めとした介護従事者が栄養ケア マネジメントに則り栄養管理に力を注いでいる 褥瘡の発症率を例に挙げると 福祉施設等に入居している高齢者よりも在宅で生活している要介護高齢者の方に多くみられ 在宅では要介護高齢者が低栄養状態に気が付かずいつの間にか褥瘡を形成する要因の一つとなり低栄養状態に陥っていたというケースも後を絶たない この様な状況下では 福祉施設では要観察者として丁寧に食事サービスを提供できていると思われるが いずれ在宅復帰した後には 同一のサービスができるかどうかは疑問視されている 平成 25 年度地域在住高齢者の生活環境による栄養状態とアウトカム指標との関係性の検討 ( 厚生労働科学研究費補助金 ( 長寿科学総合事業 ) 2) によると地域在住高齢者は栄養状態を把握するスクリーニング指標としては 食欲評価票 (Council on Nutrition Appetite Questionnaire;CNAQ) が有用であり 食欲が落ちるほど栄養素摂取量の減少に影響があった 地域包括 ケアシステムでの栄養管理では 地域住民の 食欲がない という情報からの早期の栄養介入が鍵を握っているといえる 在宅での栄養管理には 住み慣れた地域で 予防 医療 介護という専門的なサービスの体制を整備することが掲げられている しかし根本的に欠かすことができない食の生活支援がどこまで受け入れられるか気になるところである 生活支援者は医療 介護に関わる従事者だけではなく 地域の食堂 配食サービス事業 地域の商店 ( スーパーマーケット等 ) 買い物の支援 経済力 介護者の協力までもが関係しており 要介護高齢者に必要なサービスを模索しつつ医療 介護 生活面としての環境の整備を構築していかなければならない 以上を統括すると 栄養管理は生きていくため必要に迫られる管理である 食と栄養 栄養と治療の議論を重ねながら 高齢者の生きる源としての良い栄養と食とは を国民に伝えていく義務がある さらに命がなくなるまでの栄養管理が必要か否かなどの倫理的配慮とともに 退院支援 継続支援 在宅サービス などの喫緊の課題に地域 NSTとして取り組まなくてはならない 管理栄養士が行う訪問栄養食事指導への理解 1994 年 10 月の健康保険法の一部改正により在宅医療の推進から医療保険では在宅患者訪問栄養食事指導として 2000 年 4 月からは介護保険の居宅療養管理指導により訪問栄養食事指導が導入された ( 図 4) さらに栄養ケア マネジメントの手法として 20 05 年 20 0 6 年にわたり両保険法に導入された また同時期に介護保険法の改正として介護予防給付として通所介護に栄養改善サービスが導入されている この二つの栄養食事指導は 現在のところ病院及び診療所の管理栄養士に限られており 要支援 介護高齢者は認定をうけている限り優先的に介護保険の居宅療養管理指導として出向くことになる 静脈経腸栄養 Vol.29 No.5 2014 5(1145)
図 4 訪問栄養食事指導の種類臨床栄養 123(6):724,2013. 在宅訪問栄養食事指導による栄養介入方法とその改善効果の検証 平成 22 年に日本在宅栄養管理学会 ( 旧全国在宅訪問栄養食事指導研究会 ) で実施された表記の検証は 管理栄養士が在宅訪問栄養食事指導を展開し それにより在宅高齢者の栄養素等摂取量や栄養指導がどのように改善するのかを検討した 対象は訪問栄養食事指導を利用している 62 例とし 簡易栄養状態評価表 (Mini Nutritional Assessment: 以下 MNAと略 ) による栄養評価 食事摂取量調査 QOL ADL 等の3か月の介入調査を行った 要介護高齢者は 82% が栄養不良も しくはリスク者であり 3か月間で 9 例が入院などの理由により脱落した 指導継続者の 53 例は訪問栄養食事指導を実施した3か月後のエネルギー たんぱく質などの栄養素等摂取量は有意に増加し それに伴い体重 M NA QOL 及び ADLなども有意に改善している この訪問栄養食事指導の 3か月間の継続率は 8 5 %( 新規 1 0 0 % ) であった 脱落者は要介護度高く A DL 得点も低い寝たきり療養者で栄養状態も悪かった 管理栄養士の在宅訪問栄養食事指導は 何をする人? 好きなものを好きなだけ食べさせれば管理栄養士は必要ない? と他職種や介護者から誤解を招くことがある ただ単に療養者に300kcal 程度が不足していると予想し 栄養補助食品を渡し 身体計測値や血液検査値を改善させた報告もあるが 本研究では 管理栄養士が食事摂取量状況を明らかにしたうえで 要介護高齢者の意向を加味しながら訪問栄養食事指導を実践し 栄養素等摂取量を有意に増加させていることだけではなく 介入前後の M N A スコアー A D L 及び QOLを高めることも実施した 訪問栄養食事指導のケアプランと介入効果は ( 図 5) に示す さらにこの時点で栄養介入前後の調査として 栄養アセスメント結果に基づいた栄養ケアのニーズに対しどのようなケアプランを立てどういったサービスを提供しているのかを記述式で求め定性化しまとめている 訪問栄養食事指導時の栄養上の課題及びニーズは図 6 図 7の通りで体重の管理や間食の管理方法などの 26 項目に及んでいる 3) 6(1146) 地域連携と栄養管理
図 5 在宅訪問栄養食事指導の効果 (ADL QOL 症状回復効果 ) 期が訪問栄養食事指導の効果的な介入時期であり 病院から在宅への治療と栄養管理を同時に支援しつつ 在宅での維持期には栄養障害の予防する栄養介入が展開することが望ましいと思われる 訪問栄養食事指導は単なる栄養素等の摂取量を増加させることだけが介入目的ではない 緩和ケアでの食事サービスや胃瘻等からの経口移行として 口から食べる喜びを与えるための訪問栄養食事指導でもあることがこの論文により立証されたと言っても過言ではない 図 6 在宅訪問栄養食事指導の課題日本在宅栄養管理学会実地 実践レポートアンケート 2012 より 図 7 訪問栄養指導時の栄養上の課題およびニーズ この結果から展開される訪問栄養食事指導のニーズは 栄養補給をしっかり行い栄養障害を進行させない ことにあった また新規介入者は病院から在宅に移行する時期に要介護高齢者や介護者は 食事や栄養素について不安に思っていることも多く このことからも在宅移行 地域包括ケアシステムにおける管理栄養士の人材 公益社団法人日本栄養士会では制度改革した特定分野認定制度という画期的な制度がある この制度の一つとなった 在宅訪問管理栄養士 の認定規定である目的には以下のように示されている 在宅での栄養管理は必須であり 在宅医療と関わる多職種と連携を取りながら 療養者の疾患 病状 栄養状態に適した栄養食事指導 ( 支援 ) ができる管理栄養士を育成し そのものが社会的に重要な役割として責務を果たしていく特別分野認定制度 在宅訪問管理栄養士 を設けることによって 療養者が在宅での生活を安全かつ快適に継続でき さらに QOLの向上に寄与することを目的とする ( 一部抜粋 ) である 在宅訪問管理栄養士という認定資格をどのように活用していくか これは人的資源管理の概念が関係する この概念は人 組織 労務 職務分析などの計画 教育の 5 つを上手く同時に動かしながら在宅訪問管理栄養士として労働意欲を持たせることが重要である 地域包括的ケアシステムとしてこの人的資源管理を有効に活用して頂くためには それぞれの在宅訪問管理栄養士の持っている能力を引き出し 積極的に発揮できる状況を作ることが急務である 静脈経腸栄養 Vol.29 No.5 2014 7(1147)
地域包括ケアシステムにおける栄養ケア ステーション 公益社団法人日本栄養士会が登録商標を持つ栄養ケア ステーションは 地域に顔の見える管理栄養士 栄養士を増やすために2008 年 4 月より都道府県に一箇所設置され 現在は主に特定健診後の特定保健指導等に従事できる管理栄養士の登録機関として活用されている 栄養ケア ステーションに登録されている管理栄養士は 本年度の診療報酬改定において 有床診療所では管理栄養士の雇いあげが難しい場合に栄養管理実施加算や栄養食事指導を行う場合の管理栄養士の雇用窓口として利用してよいこととなった ここで在宅訪問管理栄養士の働く場としておおいに期待したいのは都道府県栄養ケア ステーションの下部組織となる地域支援型病院や居宅療養管理指導事業所に立ち上げた認定栄養ケア ステーションの存在である 認定栄養ケア ステーションとは 日本栄養士会会員であることが必務で 医療機関 公的機関 医療保険機関 民間機関などの地域密着型であり自立 採算性のある事業を拠点としたのが認定栄養ケア ステーションとなるが 10 年後には全国 15000 件を目標に掲げている 地域支援型病院と居宅療養管理事業者 ( 診療所 薬局など ) に認定栄養ケア ステーションを立ち上げてよりスキルの高い在宅訪問管理栄養士が食と栄養の在宅環境を整えることにより 栄養障害のある在宅療養者は減少すると見込んでいる 現在 この計画は日本栄養士会及び都道府県栄養士会や日本在宅栄養管理学会等により診療所等に認定栄養ケア ステーションのモデルを立ち上げる方向で進んでいる ( 4) 図 8) 地域包括ケアシステムと ICT 化 先に述べたモデル事業として 2014 年より 日本在宅栄養管理学会と協力して 神奈川県横浜市南区にある睦町クリニック ( 城谷典保理事長 朝比奈完院長 ) に 認定栄養ケア ステーション を微力ながらスタートさせている 現在 睦町クリニックにおいて訪問診療を行っている療養者およそ 190 名の中で 栄養ケアが必要な療養者がどのくらい存在するのかをリサーチしつつ 在宅訪問栄養食事指導の了承が得られた患者宅に訪問できるよう調整を行っている 睦町クリニックでは 職種間が同一法人内でなく まさに地域包括ケアシステムを先行している 地域の中核病院 居宅介護支援事務所 訪問看護等はまさに住宅の30 分以内に確保され 睦町クリニックにおいては 情報通信技術 (information and communication technology;ict) の手段としてサイボウズ L i v e というクラウドで稼働する無料のグループウェアを多職種との連携に利用している このサイボウズ Live に栄養ケア ステーションの管理栄養士も参加し 患者の基本的情報や意見の交換を閲覧している 短期間に患者情報収集が完了でき 同じ建物内にいなくともチーム医療としての存在と速やかな行動が期待されており 地域 N S T として在宅栄養管理の重鎮として積極的な対応に期待されている 図 8 栄養 CS と栄養 CC( ケア センター ) 地域包括ケアシステムにおける栄養管理の今後の展望 地域を基盤とした適切な栄養管理を行うことができれば 食生活及び栄養障害の改善 疾病の再発予防や疾病の予防ができ 地域住民が住み慣れたところでその人らしい生活を送る 8(1148) 地域連携と栄養管理
ことができると確信する 病院から施設 在宅に移り変わっても一連で適切な栄養管理ができるためには 1 食事や栄養の課題を解決していくうえでの栄養ケアに関する情報の提供 2ケアマネジャーを中心とした多職種の協力 サービス担当者の食事 栄養に関する意識向上 3 地域社会に密接した地域包括支援センターでの管理栄養士の配置と全高齢者への主観的栄養アセスメントの徹底 4 地域家族も含めて多職種全てのスタッフが共通の概念をもち情報を共有できるシステムの構築と栄養管理情報提供書の普及などが挙げられる どこの施設 在宅においてもその要介護高齢者の栄養管理情報を共有できる地域包括ケアシステムとなることを望む 参考文献 1) 高齢社会白書平成 25 年度版. 内閣府,2013. 2) 平成 25 年度に地域在住高齢者の生活環境による栄養状態とアウトカム指標との関係性の検討. 厚生労働科学研究費補助金 ( 長寿科学総合事業 ),2014. 3) 井上啓子, 中村育子, 高崎美幸ほか. 在宅訪問栄養食事指導による栄養介入と改善効果の検証. 日本栄養士会雑誌 5 5( 8 ): 4 0-7,2 0 1 2. 4) 公益社団法人日本栄養士会ホームページ. 栄養ケア ステーション.http://www.dietitian.or.jp/caring/ 静脈経腸栄養 Vol.29 No.5 2014 9(1149)