特集 : 地域連携と栄養管理 地域包括ケアシステムにおける栄養管理の重要性 * keywords: 栄養ケア ステーション 在宅訪問栄養食事指導 介護予防における栄養改善 田中弥生 Yayoi TANAKA 駒沢女子大学人間健康学部健康栄養学科 Faculty of Human Health Dep

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計画の今後の方向性

【最終版】医療経営学会議配付資料 pptx


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居宅介護支援事業者向け説明会

高齢化率が上昇する中 認定看護師は患者への直接的な看護だけでなく看護職への指導 看護体制づくりなどのさまざまな場面におけるキーパーソンとして 今後もさらなる活躍が期待されます 高齢者の生活を支える主な分野と所属状況は 以下の通りです 脳卒中リハビリテーション看護認定看護師 脳卒中発症直後から 患者の

介護保険制度改正の全体図 2 総合事業のあり方の検討における基本的な考え方本市における総合事業のあり方を検討するに当たりましては 現在 予防給付として介護保険サービスを受けている対象者の状況や 本市におけるボランティア NPO 等の社会資源の状況などを踏まえるとともに 以下の事項に留意しながら検討を

地域包括ケアシステムの構築について 団塊の世代が 75 歳以上となる 2025 年を目途に 重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう 医療 介護 予防 住まい 生活支援が包括的に確保される体制 ( 地域包括ケアシステム ) の構築を実現 今後

2 基本理念と基本目標 本市のまちづくりの指針である 第 2 次柳井市総合計画 は 平成 29 年 3 月に策定 されました この総合計画では すべての市民が健康で安心して暮らせる 人にやさ しいまちづくり を健康 福祉分野の基本目標に掲げ その実現を目指しています これは 高齢者も含めた全ての市民

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体制強化加算の施設基準にて 社会福祉士については 退院調整に関する 3 年以上の経験を有する者 であること とあるが この経験は 一般病棟等での退院調整の経験でもよいのか ( 疑義解釈その 1 問 49: 平成 26 年 3 月 31 日 ) ( 答 ) よい 体制強化加算の施設基準にて 当該病棟に

人口構造の変化 1

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下の図は 平成 25 年 8 月 28 日の社会保障審議会介護保険部会資料であるが 平成 27 年度以降 在宅医療連携拠点事業は 介護保険法の中での恒久的な制度として位置づけられる計画である 在宅医療 介護の連携推進についてのイメージでは 介護の中心的機関である地域包括支援センターと医療サイドから医

2 経口移行加算の充実 経口移行加算については 経管栄養により食事を摂取している入所者の摂食 嚥 下機能を踏まえた経口移行支援を充実させる 経口移行加算 (1 日につき ) 28 単位 (1 日につき ) 28 単位 算定要件等 ( 変更点のみ ) 経口移行計画に従い 医師の指示を受けた管理栄養士又

区分

サービス担当者会議で検討し 介護支援専門員が判断 決定するものとする 通所系サービス 栄養改善加算について問 31 対象となる 栄養ケア ステーション の範囲はどのようなものか 公益社団法人日本栄養士会又は都道府県栄養士会が設置 運営する 栄養士会栄養ケア ステーション に限るものとする 通所介護


問 2 次の文中のの部分を選択肢の中の適切な語句で埋め 完全な文章とせよ なお 本問は平成 28 年厚生労働白書を参照している A とは 地域の事情に応じて高齢者が 可能な限り 住み慣れた地域で B に応じ自立した日常生活を営むことができるよう 医療 介護 介護予防 C 及び自立した日常生活の支援が

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高齢者を取り巻く状況 将来人口 本市の総人口は 今後も減少傾向で推移し 平成32年 2020年 には41,191人程度にまで減少し 高齢 者人口については 平成31年 2019年 をピークに減少に転じ 平成32年 2020年 には15,554人程度 になるものと見込まれます 人 第6期 第7期 第8

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, 地域包括支援センターの組織と人材 2. 1 福祉専門職の歴史と特性

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平成20年度春の家居宅介護支援事業所事業計画

表紙@C

平成 31 年度 地域ケア会議開催計画 魚津市地域包括支援センター 平成 31 年 4 月

リハビリテーションを受けること 以下 リハビリ 理想 病院でも自宅でも 自分が納得できる 期間や時間のリハビリを受けたい 現実: 現実: リ ビリが受けられる期間や時間は制度で リハビリが受けられる期間や時間は制度で 決 決められています いつ どこで どのように いつ どこで どのように リハビリ

2 保険者協議会からの意見 ( 医療法第 30 条の 4 第 14 項の規定に基づく意見聴取 ) (1) 照会日平成 28 年 3 月 3 日 ( 同日開催の保険者協議会において説明も実施 ) (2) 期限平成 28 年 3 月 30 日 (3) 意見数 25 件 ( 総論 3 件 各論 22 件

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14栄養・食事アセスメント(2)

01 【北海道】

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介護における尊厳の保持 自立支援 9 時間 介護職が 利用者の尊厳のある暮らしを支える専門職であることを自覚し 自立支援 介 護予防という介護 福祉サービスを提供するにあたっての基本的視点及びやってはいけ ない行動例を理解している 1 人権と尊厳を支える介護 人権と尊厳の保持 ICF QOL ノーマ

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愛知県アルコール健康障害対策推進計画 の概要 Ⅰ はじめに 1 計画策定の趣旨酒類は私たちの生活に豊かさと潤いを与える一方で 多量の飲酒 未成年者や妊婦の飲酒等の不適切な飲酒は アルコール健康障害の原因となる アルコール健康障害は 本人の健康問題だけでなく 家族への深刻な影響や飲酒運転 自殺等の重大

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第28回介護福祉士国家試験 試験問題「社会の理解」

事業者名称 ( 事業者番号 ): 地域密着型特別養護老人ホームきいと ( ) 提供サービス名 : 地域密着型介護老人福祉施設 TEL 評価年月日 :H30 年 3 月 7 日 評価結果整理表 共通項目 Ⅰ 福祉サービスの基本方針と組織 1 理念 基本方針

平成 28 年 10 月 17 日 平成 28 年度の認定看護師教育基準カリキュラムから排尿自立指導料の所定の研修として認めら れることとなりました 平成 28 年度研修生から 排泄自立指導料 算定要件 施設基準を満たすことができます 下部尿路機能障害を有する患者に対して 病棟でのケアや多職種チーム

2. 経口移行 ( 経口維持 ) 加算 経口移行 ( 経口維持 ) 計画に相当する内容を各サービスにおけるサービス計画の中に記載する場合は その記載をもって経口移行 ( 経口維持 ) 計画の作成に代えることができる 従来どおり経口移行 ( 経口維持 ) 計画を別に作成してよい 口腔機能向上加算 口腔

栃木県高齢者居住安定確保計画 ( 二期計画 ) 概要版 1 計画の目的と背景 高齢化が急速に進行する中 平成 24 年 3 月に県土整備部と保健福祉部が連携のもと高齢者の居住の安定確保に関する法律に基づく 栃木県高齢者居住安定確保計画 ( 以下 現計画 という ) を策定し 高齢者が安心して快適に暮

第3章 指導・監査等の実施

第 2 章垂水市地域包括ケアシステムの概要 1 垂水市の地域包括ケアシステムの考え方地域包括ケアシステムとは 高齢者等に関わる様々な人や社会資源が 地域の中でつながりを持って高齢者等の生活を支える仕組みです 高齢者については 介護が必要な状態になっても住み慣れた地域で暮らし続けることができるよう 医

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7 時間以上 8 時間未満 922 単位 / 回 介護予防通所リハビリテーション 変更前 変更後 要支援 Ⅰ 1812 単位 / 月 1712 単位 / 月 要支援 Ⅱ 3715 単位 / 月 3615 単位 / 月 リハビリテーションマネジメント加算 (Ⅰ) の見直し リハビリテーションマネジメン

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7 対 1 10 対 1 入院基本料の対応について 2(ⅲ) 7 対 1 10 対 1 入院基本料の課題 将来の入院医療ニーズは 人口構造の変化に伴う疾病構成の変化等により より高い医療資源の投入が必要となる医療ニーズは横ばいから減少 中程度の医療資源の投入が必要となる医療ニーズは増加から横ばいにな

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第1章 計画の基本的考え方 態を改善して地域社会への参加等を通じ 生きがいや役割を持てるようにすることが 重要です 4 住まい 持ち家や賃貸住宅だけでなく 有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅など 多様な形態の住まいを含みます 生活の基盤である住まいは 高齢者のプライバシー と尊厳が十分に守ら

このような現状を踏まえると これからの介護予防は 機能回復訓練などの高齢者本人へのアプローチだけではなく 生活環境の調整や 地域の中に生きがい 役割を持って生活できるような居場所と出番づくりなど 高齢者本人を取り巻く環境へのアプローチも含めた バランスのとれたアプローチが重要である このような効果的

4 月 17 日 4 医療制度 2( 医療計画 ) GIO: 医療計画 地域連携 へき地医療について理解する SBO: 1. 医療計画について説明できる 2. 医療圏と基準病床数について説明できる 3. 在宅医療と地域連携について説明できる 4. 救急医療体制について説明できる 5. へき地医療につ

まちの新しい介護保険について 1. 制度のしくみについて 東温市 ( 保険者 ) 制度を運営し 介護サービスを整備します 要介護認定を行います 保険料を徴収し 保険証を交付します 東温市地域包括支援センター ( 東温市社会福祉協議会内 ) ~ 高齢者への総合的な支援 ( 包括的支援事業 )~ 介護予

為化比較試験の結果が出ています ただ この Disease management というのは その国の医療事情にかなり依存したプログラム構成をしなくてはいけないということから わが国でも独自の Disease management プログラムの開発が必要ではないかということで 今回開発を試みました

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厚生労働省による 平成 30 年度介護報酬改定に関する Q&A(Vol.1) に対する 八王子介護支援専門員連絡協議会からの質問内容と八王子市からの回答 Q1 訪問看護ステーションによるリハビリのみの提供の場合の考え方について厚労省 Q&A(Vol.1) での該当項目問 21 問 22 問 23 A

改定事項 基本報酬 1 入居者の医療ニーズへの対応 2 生活機能向上連携加算の創設 3 機能訓練指導員の確保の促進 4 若年性認知症入居者受入加算の創設 5 口腔衛生管理の充実 6 栄養改善の取組の推進 7 短期利用特定施設入居者生活介護の利用者数の上限の見直し 8 身体的拘束等の適正化 9 運営推

各論第 3 章介護保険 保健福祉サービスの充実

千葉県 地域包括ケアシステム構築に向けた取組事例 1 市区町村名 銚子市 2 人口 ( 1) 68,930 人平成 25 年 4 月 1 日現在 ( ) 3 高齢化率 ( 1) 65 歳以上人口 20,936 人 ( 高齢化率 30.37%) ( ) (65 歳以上 75 歳以上それぞれについて記載

「介護報酬等に係るQ&A Vol.2」(平成12年4月28 日)等の一部改正について(厚生労働省老健局振興課、老人保健課:H26.4.4)【介護保険最新情報Vol.369】

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京都府がん対策推進条例をここに公布する 平成 23 年 3 月 18 日 京都府知事山田啓二 京都府条例第 7 号 京都府がん対策推進条例 目次 第 1 章 総則 ( 第 1 条 - 第 6 条 ) 第 2 章 がん対策に関する施策 ( 第 7 条 - 第 15 条 ) 第 3 章 がん対策の推進

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地域包括ケアにおけるチーム医療

加算 栄養改善加算 ( 月 2 回を限度 ) 栄養スクリーニング加算 口腔機能向上加算 ( 月 2 回を限度 ) 5 円 重度療養管理加算 要介護 であって 別に厚生労働大が定める状態である者に対して 医学的管理のもと 通所リハビリテーションを行った場合 100 円 中重度者ケア体制加算

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医療的ケア児について

平成 29 年度第 1 回徳島県医療審議会 質疑 調整会議での議論を待たずしてかなりの病床の移動が起こりつつある それをコントロールできないと 調整会議そのものが意味をなさなくなるのではないか 1 当会議の運営要領を定めてはどうか 2 病床機能分化 連携推進体制整備事業について当会議の審議事項として

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( 別紙 ) 地域ケア会議 に関する Q&A 問 1 今般 地域ケア会議 を通知に位置づけた背景は何か 団塊の世代が 75 歳以上となる 2025 年へ向けて 高齢者が尊厳を保ちながら 住み慣れた地域で自立した生活をおくることができるよう 国は 医療 介護 予防 住まい及び生活支援サービスが 日常生

地域医療構想の概要 1 地域医療構想の位置づけ 平成 25 年 3 月に 医療法に基づき 本県の疾病対策及び医療提供体制の基本方針である第 6 期岐阜県保健医療計画を策定した 平成 27 年 4 月に施行された改正医療法に基づき 保健医療計画の一部として 将来 (2025 年 ) あるべき医療提供体

介護支援専門員 ( 回答数 件 ) 介護支援専門員の基礎資格 介護支援専門員の基礎資格 n= 複数回答 0 基礎資格について 介護福祉士 が 件 ( 0.%) と最も多かった 介護支援専門員が担当する利用者 (H 年 月 ). 要介護別利用者の割合 要介護 0% 要介護

山梨県地域医療再生計画 ( 峡南医療圏 : 救急 在宅医療に重点化 ) 現状 社保鰍沢病院 (158 床 ) 常勤医 9 名 実施後 社保鰍沢病院 峡南病院 (40 床 ) 3 名 市川三郷町立病院 (100 床 ) 7 名 峡南病院 救急の重点化 県下で最も過疎 高齢化が進行 飯富病院 (87 床

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特集 : 地域連携と栄養管理 地域包括ケアシステムにおける栄養管理の重要性 * keywords: 栄養ケア ステーション 在宅訪問栄養食事指導 介護予防における栄養改善 田中弥生 Yayoi TANAKA 駒沢女子大学人間健康学部健康栄養学科 Faculty of Human Health Department of Health and Nutrition Sciences, Komazawa Women's University 2025 年開始を目指した地域包括ケアシステムは 地域住民のニーズに応じた住宅が提供されることを基本とし 生活上の安全 安心 健康を確保するために医療や介護のみならず 福祉サービスも含めた様々な生活支援サービスが日常生活の場 ( 日常生活圏域 ) で適切に提供できるような地域での体制 と定義されている この定義の中には 食生活及び栄養障害の改善 疾病の再発予防や疾病の予防ができ 地域住民が住み慣れたところでその人らしい生活を送ることができる ということも含まれており そのためには要介護高齢者は病院から施設 在宅に移り変わっても一連で適切な栄養管理が必要である 栄養ケアに関する情報の提供 ケアマネジャーを中心とした多職種の協力 地域社会に密接した全高齢者への主観的栄養アセスメントの徹底 地域家族も含めて多職種全てのスタッフが共通の概念をもつことが重要であり 科学的根拠に基づく栄養管理を地域包括ケアシステムで共有することが必務である はじめに 日本の少子高齢化の波は 世界に類をみないほどの勢いであり 地域住民への医療 介護の整備の体制づくりは急ピッチで進められている 特に現在の日本の 65 歳以上の人口は 3,000 万人以上 ( 国民の約 4 人に1 人 ) 2042 年には約 3,900 万人となり その後も増加の一途をたどると予想され 今後 約 8 0 0 万人の団塊の世代が 7 5 歳以上となる 2 0 2 5 年以降は 国民の医療や介護の需要が さらに増加することが見込まれている それを踏まえ厚生労働省高齢者医療制度改革において この 2025 年を目途に 高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで 可能な限り住み慣れた地域で 自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう 地域の包括的な支援 サービス提供体制 ( 地域包括ケアシステム ) の構築を推進している 1) 自立生活を維持していくためには 安定した衣 食 住の確保が必務である 特に食が維持できなければ 栄 養状態は安定できないことは尤もだが 食が維持できず低栄養状態に陥る高齢者も多く 地域における栄養ケアの需要が必要に迫られている 本稿では 在宅医療 介護における地域包括ケアシステムについて述べ 日常生活における栄養管理の重要性と多職種連携で進めている取り組みについて解説する 地域包括ケアシステムの構築 先に述べたように 2025 年を目途にした地域包括ケアシステムは ニーズに応じた住宅が提供されることを基本とし 生活上の安全 安心 健康を確保するために医療や介護のみならず 福祉サービスも含めた様々な生活支援サービスが日常生活の場 ( 日常生活圏域 ) で適切に提供できるような地域での体制 と定義されている この地域包括システムは ( 図 1) 保険者である市町村や都道府県が地域の自主性や主体性に基づき 地域の特性に応じて作り上げていくこととなる その構成要素として *The importance of nutritional management in the area comprehensive care system 静脈経腸栄養 Vol.29 No.5 2014 3(1143)

住まい を中心におき 生活支援 介 護 医療 予防 の 5 つを地域包括ケアシステムの対応すべき分野として特定されている 医療と介護との関係では 地域高齢者の生活は 単一の事業所から提供される単一のサービスだけで支えられるのではなく その人の身体の状況や家族 住居等の環境等に応じて 様々な地域資源を組み合わせながら支えあえるよう 複合的な支援を実現するのが 地域における様々な主体や職種の間の連携と考えられている これらのサービス提供の機能的な連携を推進するためには 医療 介護にわたるサービス提供主体が適切かつ定期的に情報共有を図り 情報が一元化されることを目標とされ 医療と介護の連携機能の高度化を図っていくためには 相互理解を進め 在宅医療連携拠点事業と地域包括支援センターなどが適切に連携 協働しあうことといった体制の整備が進められている ( 図 2 図 3 ) 図 1 介護の将来像 ( 地域包括ケアシステム ) 出典 : 平成 25 年 3 月地域包括ケア研究会報告書より 地域包括ケアシステムにおける栄養管理はなぜ必要か 急性期医療の入院中では 医療従事者全ての職種が 病気を治す ことに専念しチーム医療として最善を尽くしている 高図 2 在宅医療 介護の連携推進の方向性出典 : 平成 25 年 3 月地域包括ケア研究会報告書より齢者の場合 急性期を過ぎて回復し 慢性化から療養期に入る患者も多くみられるが 急性期で宅療養中はクリニックに通院し その後 食欲が低下し栄養管理が必要だったとしても 栄養食事指導が必要と再度入院をしたが 当院に入院できずに別の中核病院にされる場合以外は 病院内での NSTなど退院時に簡単転院が促された しかしその病院との連携ができていなな食事の説明をするケースが多い このように 在宅までいため 適切な栄養必要量が処方されず 体重減少が著の継続した栄養管理は難しく 在宅復帰後の経時を見る明で栄養状態が悪化し最終的に敗血症で死亡した例が機会は一か月に一回程度の外来通院や外来栄養食事指ある 人間の生死を考えると 食べられなくなった患者を導にすぎない 薬物や外科的治療だけで完治できることはない 体内に私が勤務していた急性期病院において Nutrition 水分や三大栄養素などを取り入れることにより治療効果 Support Team( 以下 NSTと略 ) にて栄養療法を行い も上がり運動能力も増加する この基本的なことが理解状態が安定したため 2 週間で退院した患者がいた そのでき 多職種に情報が伝達されながら関係を深めていれ患者は かかりつけ医が他のクリニックであったため 在ばこの患者はまた違った状況だったに違いない 4(1144) 地域連携と栄養管理

図 3 医療 介護機能の再編 ( 将来像 ) 出典 : 平成 25 年 3 月地域包括ケア研究会報告書より 病院の在院日数の短縮化により早期退院を余儀なくされているが 患者自身の栄養状態や身体活動機能を整えてから退院させるといったことがままならず 患者の栄養状態等が不安定のままでの生活が再開され 栄養状態が悪化し入退院を繰り返す要介護高齢者がいる さらに介護老人保健施設のように在宅復帰を目指す施設や特別養護老人ホーム等に入所した要介護高齢者では 管理栄養士を初めとした介護従事者が栄養ケア マネジメントに則り栄養管理に力を注いでいる 褥瘡の発症率を例に挙げると 福祉施設等に入居している高齢者よりも在宅で生活している要介護高齢者の方に多くみられ 在宅では要介護高齢者が低栄養状態に気が付かずいつの間にか褥瘡を形成する要因の一つとなり低栄養状態に陥っていたというケースも後を絶たない この様な状況下では 福祉施設では要観察者として丁寧に食事サービスを提供できていると思われるが いずれ在宅復帰した後には 同一のサービスができるかどうかは疑問視されている 平成 25 年度地域在住高齢者の生活環境による栄養状態とアウトカム指標との関係性の検討 ( 厚生労働科学研究費補助金 ( 長寿科学総合事業 ) 2) によると地域在住高齢者は栄養状態を把握するスクリーニング指標としては 食欲評価票 (Council on Nutrition Appetite Questionnaire;CNAQ) が有用であり 食欲が落ちるほど栄養素摂取量の減少に影響があった 地域包括 ケアシステムでの栄養管理では 地域住民の 食欲がない という情報からの早期の栄養介入が鍵を握っているといえる 在宅での栄養管理には 住み慣れた地域で 予防 医療 介護という専門的なサービスの体制を整備することが掲げられている しかし根本的に欠かすことができない食の生活支援がどこまで受け入れられるか気になるところである 生活支援者は医療 介護に関わる従事者だけではなく 地域の食堂 配食サービス事業 地域の商店 ( スーパーマーケット等 ) 買い物の支援 経済力 介護者の協力までもが関係しており 要介護高齢者に必要なサービスを模索しつつ医療 介護 生活面としての環境の整備を構築していかなければならない 以上を統括すると 栄養管理は生きていくため必要に迫られる管理である 食と栄養 栄養と治療の議論を重ねながら 高齢者の生きる源としての良い栄養と食とは を国民に伝えていく義務がある さらに命がなくなるまでの栄養管理が必要か否かなどの倫理的配慮とともに 退院支援 継続支援 在宅サービス などの喫緊の課題に地域 NSTとして取り組まなくてはならない 管理栄養士が行う訪問栄養食事指導への理解 1994 年 10 月の健康保険法の一部改正により在宅医療の推進から医療保険では在宅患者訪問栄養食事指導として 2000 年 4 月からは介護保険の居宅療養管理指導により訪問栄養食事指導が導入された ( 図 4) さらに栄養ケア マネジメントの手法として 20 05 年 20 0 6 年にわたり両保険法に導入された また同時期に介護保険法の改正として介護予防給付として通所介護に栄養改善サービスが導入されている この二つの栄養食事指導は 現在のところ病院及び診療所の管理栄養士に限られており 要支援 介護高齢者は認定をうけている限り優先的に介護保険の居宅療養管理指導として出向くことになる 静脈経腸栄養 Vol.29 No.5 2014 5(1145)

図 4 訪問栄養食事指導の種類臨床栄養 123(6):724,2013. 在宅訪問栄養食事指導による栄養介入方法とその改善効果の検証 平成 22 年に日本在宅栄養管理学会 ( 旧全国在宅訪問栄養食事指導研究会 ) で実施された表記の検証は 管理栄養士が在宅訪問栄養食事指導を展開し それにより在宅高齢者の栄養素等摂取量や栄養指導がどのように改善するのかを検討した 対象は訪問栄養食事指導を利用している 62 例とし 簡易栄養状態評価表 (Mini Nutritional Assessment: 以下 MNAと略 ) による栄養評価 食事摂取量調査 QOL ADL 等の3か月の介入調査を行った 要介護高齢者は 82% が栄養不良も しくはリスク者であり 3か月間で 9 例が入院などの理由により脱落した 指導継続者の 53 例は訪問栄養食事指導を実施した3か月後のエネルギー たんぱく質などの栄養素等摂取量は有意に増加し それに伴い体重 M NA QOL 及び ADLなども有意に改善している この訪問栄養食事指導の 3か月間の継続率は 8 5 %( 新規 1 0 0 % ) であった 脱落者は要介護度高く A DL 得点も低い寝たきり療養者で栄養状態も悪かった 管理栄養士の在宅訪問栄養食事指導は 何をする人? 好きなものを好きなだけ食べさせれば管理栄養士は必要ない? と他職種や介護者から誤解を招くことがある ただ単に療養者に300kcal 程度が不足していると予想し 栄養補助食品を渡し 身体計測値や血液検査値を改善させた報告もあるが 本研究では 管理栄養士が食事摂取量状況を明らかにしたうえで 要介護高齢者の意向を加味しながら訪問栄養食事指導を実践し 栄養素等摂取量を有意に増加させていることだけではなく 介入前後の M N A スコアー A D L 及び QOLを高めることも実施した 訪問栄養食事指導のケアプランと介入効果は ( 図 5) に示す さらにこの時点で栄養介入前後の調査として 栄養アセスメント結果に基づいた栄養ケアのニーズに対しどのようなケアプランを立てどういったサービスを提供しているのかを記述式で求め定性化しまとめている 訪問栄養食事指導時の栄養上の課題及びニーズは図 6 図 7の通りで体重の管理や間食の管理方法などの 26 項目に及んでいる 3) 6(1146) 地域連携と栄養管理

図 5 在宅訪問栄養食事指導の効果 (ADL QOL 症状回復効果 ) 期が訪問栄養食事指導の効果的な介入時期であり 病院から在宅への治療と栄養管理を同時に支援しつつ 在宅での維持期には栄養障害の予防する栄養介入が展開することが望ましいと思われる 訪問栄養食事指導は単なる栄養素等の摂取量を増加させることだけが介入目的ではない 緩和ケアでの食事サービスや胃瘻等からの経口移行として 口から食べる喜びを与えるための訪問栄養食事指導でもあることがこの論文により立証されたと言っても過言ではない 図 6 在宅訪問栄養食事指導の課題日本在宅栄養管理学会実地 実践レポートアンケート 2012 より 図 7 訪問栄養指導時の栄養上の課題およびニーズ この結果から展開される訪問栄養食事指導のニーズは 栄養補給をしっかり行い栄養障害を進行させない ことにあった また新規介入者は病院から在宅に移行する時期に要介護高齢者や介護者は 食事や栄養素について不安に思っていることも多く このことからも在宅移行 地域包括ケアシステムにおける管理栄養士の人材 公益社団法人日本栄養士会では制度改革した特定分野認定制度という画期的な制度がある この制度の一つとなった 在宅訪問管理栄養士 の認定規定である目的には以下のように示されている 在宅での栄養管理は必須であり 在宅医療と関わる多職種と連携を取りながら 療養者の疾患 病状 栄養状態に適した栄養食事指導 ( 支援 ) ができる管理栄養士を育成し そのものが社会的に重要な役割として責務を果たしていく特別分野認定制度 在宅訪問管理栄養士 を設けることによって 療養者が在宅での生活を安全かつ快適に継続でき さらに QOLの向上に寄与することを目的とする ( 一部抜粋 ) である 在宅訪問管理栄養士という認定資格をどのように活用していくか これは人的資源管理の概念が関係する この概念は人 組織 労務 職務分析などの計画 教育の 5 つを上手く同時に動かしながら在宅訪問管理栄養士として労働意欲を持たせることが重要である 地域包括的ケアシステムとしてこの人的資源管理を有効に活用して頂くためには それぞれの在宅訪問管理栄養士の持っている能力を引き出し 積極的に発揮できる状況を作ることが急務である 静脈経腸栄養 Vol.29 No.5 2014 7(1147)

地域包括ケアシステムにおける栄養ケア ステーション 公益社団法人日本栄養士会が登録商標を持つ栄養ケア ステーションは 地域に顔の見える管理栄養士 栄養士を増やすために2008 年 4 月より都道府県に一箇所設置され 現在は主に特定健診後の特定保健指導等に従事できる管理栄養士の登録機関として活用されている 栄養ケア ステーションに登録されている管理栄養士は 本年度の診療報酬改定において 有床診療所では管理栄養士の雇いあげが難しい場合に栄養管理実施加算や栄養食事指導を行う場合の管理栄養士の雇用窓口として利用してよいこととなった ここで在宅訪問管理栄養士の働く場としておおいに期待したいのは都道府県栄養ケア ステーションの下部組織となる地域支援型病院や居宅療養管理指導事業所に立ち上げた認定栄養ケア ステーションの存在である 認定栄養ケア ステーションとは 日本栄養士会会員であることが必務で 医療機関 公的機関 医療保険機関 民間機関などの地域密着型であり自立 採算性のある事業を拠点としたのが認定栄養ケア ステーションとなるが 10 年後には全国 15000 件を目標に掲げている 地域支援型病院と居宅療養管理事業者 ( 診療所 薬局など ) に認定栄養ケア ステーションを立ち上げてよりスキルの高い在宅訪問管理栄養士が食と栄養の在宅環境を整えることにより 栄養障害のある在宅療養者は減少すると見込んでいる 現在 この計画は日本栄養士会及び都道府県栄養士会や日本在宅栄養管理学会等により診療所等に認定栄養ケア ステーションのモデルを立ち上げる方向で進んでいる ( 4) 図 8) 地域包括ケアシステムと ICT 化 先に述べたモデル事業として 2014 年より 日本在宅栄養管理学会と協力して 神奈川県横浜市南区にある睦町クリニック ( 城谷典保理事長 朝比奈完院長 ) に 認定栄養ケア ステーション を微力ながらスタートさせている 現在 睦町クリニックにおいて訪問診療を行っている療養者およそ 190 名の中で 栄養ケアが必要な療養者がどのくらい存在するのかをリサーチしつつ 在宅訪問栄養食事指導の了承が得られた患者宅に訪問できるよう調整を行っている 睦町クリニックでは 職種間が同一法人内でなく まさに地域包括ケアシステムを先行している 地域の中核病院 居宅介護支援事務所 訪問看護等はまさに住宅の30 分以内に確保され 睦町クリニックにおいては 情報通信技術 (information and communication technology;ict) の手段としてサイボウズ L i v e というクラウドで稼働する無料のグループウェアを多職種との連携に利用している このサイボウズ Live に栄養ケア ステーションの管理栄養士も参加し 患者の基本的情報や意見の交換を閲覧している 短期間に患者情報収集が完了でき 同じ建物内にいなくともチーム医療としての存在と速やかな行動が期待されており 地域 N S T として在宅栄養管理の重鎮として積極的な対応に期待されている 図 8 栄養 CS と栄養 CC( ケア センター ) 地域包括ケアシステムにおける栄養管理の今後の展望 地域を基盤とした適切な栄養管理を行うことができれば 食生活及び栄養障害の改善 疾病の再発予防や疾病の予防ができ 地域住民が住み慣れたところでその人らしい生活を送る 8(1148) 地域連携と栄養管理

ことができると確信する 病院から施設 在宅に移り変わっても一連で適切な栄養管理ができるためには 1 食事や栄養の課題を解決していくうえでの栄養ケアに関する情報の提供 2ケアマネジャーを中心とした多職種の協力 サービス担当者の食事 栄養に関する意識向上 3 地域社会に密接した地域包括支援センターでの管理栄養士の配置と全高齢者への主観的栄養アセスメントの徹底 4 地域家族も含めて多職種全てのスタッフが共通の概念をもち情報を共有できるシステムの構築と栄養管理情報提供書の普及などが挙げられる どこの施設 在宅においてもその要介護高齢者の栄養管理情報を共有できる地域包括ケアシステムとなることを望む 参考文献 1) 高齢社会白書平成 25 年度版. 内閣府,2013. 2) 平成 25 年度に地域在住高齢者の生活環境による栄養状態とアウトカム指標との関係性の検討. 厚生労働科学研究費補助金 ( 長寿科学総合事業 ),2014. 3) 井上啓子, 中村育子, 高崎美幸ほか. 在宅訪問栄養食事指導による栄養介入と改善効果の検証. 日本栄養士会雑誌 5 5( 8 ): 4 0-7,2 0 1 2. 4) 公益社団法人日本栄養士会ホームページ. 栄養ケア ステーション.http://www.dietitian.or.jp/caring/ 静脈経腸栄養 Vol.29 No.5 2014 9(1149)