< 研 究 紹 介 自 己 紹 介 > 研 究 項 目 A1 計 画 研 究 ア 周 期 構 造 を 利 用 したマイクロ 波 メタマテリアルの 開 発 と 応 用 研 究 分 担 者 堀 井 康 史 ( 関 西 大 学 ) 研 究 計 画 アで,マイクロ 波 用 メタマテリアルデバイスの 開 発 を 目 指 している 関 西 大 学 の 堀 井 康 史 です.ここでは, 私 自 身 が 行 ってきたメタマテリアル 研 究 とその 背 景 についてご 紹 介 したいと 思 います. 2 年,D.R.Smith がスプリットリング 共 振 器 と 金 属 細 線 の 組 み 合 わせて 左 手 系 メタマテリアルの 実 現 に 成 功 し,これによって 多 くの 研 究 者 がメタマテリ アルに 関 心 を 寄 せることになったのはご 周 知 の 通 りです.しかし,マイクロ 波 デバイスの 開 発 に 携 わっていた 私 には,その 2 年 後 に 登 場 した 伝 送 線 路 系 メタ マテリアルこそ 本 当 の 意 味 で 大 きなショックでした.UCLA の T.Itoh 氏, C.Caloz 氏,A.Sanada 氏 が 中 心 となって 22 年 に CRLH 伝 送 線 路 を 提 案 し, コンデンサとコイルを 組 み 込 んだ 簡 単 な 伝 送 線 路 構 造 で 左 手 系 メタマテリアル 特 有 の 特 異 な 物 理 現 象 を 広 帯 域 に,かつ 低 損 失 に 発 現 できることを 報 告 しまし た. 左 手 系 帯 域 ではバックワード 波 が 伝 搬 し, 位 相 進 みが 発 生 する.この 位 相 特 性 を 利 用 すれば, 従 来 にはない 広 帯 域 動 作 のデバイスや 多 周 波 動 作 のデバイ スが 自 由 に 設 計 できるという,まさに 夢 のような 研 究 成 果 が 続 々と 生 まれてき ました.さらに, 漏 れ 波 アンテナでは,18 度 のビーム 走 査 が 可 能 なアンテナ も 紹 介 され, 一 気 にメタマテリアル 研 究 が 熱 を 帯 びてきました. その 当 時, 私 の 職 場 では 23 年 度 の 在 外 研 究 員 の 募 集 があり, 何 としてもと いう 思 いで 書 いた 計 画 書 が 評 価 されたのか, 運 よくその 権 利 を 獲 得 することが できました.23 年 9 月 から 1 年 間 の 海 外 生 活.とはいえ, 海 外 経 験 の 乏 しか った 私 は ロス 市 警 24 時 間 のテレビ 番 組 を 見 るにつれ, 家 族 ( 当 時, 子 供 が 8 歳 )をロサンゼルスに 連 れて 行 ってもいいものかと 思 い 悩 み, 在 外 期 間 の 前 半 を 家 族 と 治 安 の 良 いビクトリア(カナダ)で 暮 らし,その 後, 単 身 で 私 だけが アメリカにわたることに 決 意 しました. UCLA では C.Caloz 氏,S.Han 氏,そして DGS(Defected Ground Structure) の 生 みの 親 として 知 られる D.Ann 氏 と 同 室 となり, 彼 らの 研 究 スタイルを 眺 め つつ, 昼 夜 を 問 わず 研 究 に 打 ち 込 んだものでした.UCLA における 研 究 効 率 の 良 さは, 即 座 のディスカッションにあったように 思 います. 誰 かが 新 しい 案 を 1
思 いつくと, これ,どう 思 う とすぐさま 同 室 の 仲 間 とディスカッションに 入 る.それと 同 時 に 元 のアイデアにどんどんと 磨 きがかけられ, 骨 格 ができ 上 が り,そこから 枝 葉 が 広 がっていく.さらに High Frequency Center では,エッ チング 用 マスクの 作 成 から 測 定 までを 瞬 時 に 行 える 環 境 が 整 っており, 朝 に 得 たアイデアがその 日 のうちに 検 証 できるような 態 勢 がとられていました.かつ て,Caloz 氏 より 1 日 1 本, 論 文 を 書 こう と 言 われたことがありましたが, まんざらジョークではなかったのかもしれません. 在 籍 中,Caloz 氏 にさまざま な CRLH 回 路 を 見 せていただき,それらの 回 路 がデバイス 設 計 に 極 めて 魅 力 的 な 特 性 を 持 ち 備 えていることを 教 えていただきましたが,1 点 どうしても 気 にな ったのが 回 路 寸 法 でした.せっかくの 特 性 もあのように 大 きくては, 実 用 の 際 に 問 題 になることは 明 確 でした.その 点 を 何 とか 克 服 しようとして 生 まれたの が 積 層 型 CRLH 伝 送 線 路 です. メアンダ 線 路 を 2 組 の 金 属 平 板 でサンドイッチ 状 に 挟 んで 積 層 化 し,これら をビアで 結 んでユニットセルとしたものを, 上 下 に 積 み 重 ねることで 積 層 型 CRLH 伝 送 線 路 を 実 現 します. 動 作 原 理 は 従 来 の 平 面 型 CRLH 伝 送 線 路 と 同 じ ですが,いざ 広 帯 域 で 挿 入 損 の 小 さなものを 作 ろうとしてもなかなか 特 性 が 出 ず, 結 果 的 に 図 1 のような 実 用 性 を 欠 いた 特 性 となってしまいました.おまけ に,12 枚 の 基 板 を 力 づくで 積 層 した 手 製 の 試 作 モデルでしたので,その 実 験 特 性 も 大 きく 乱 れてしまいました. -2-4 -6 S 21 (simulation)..2.4.6.8 1. 図 1 UCLA において 考 案 した 初 代 積 層 型 CRLH 伝 送 線 路 [1] 在 外 研 究 を 終 え, 日 本 に 帰 国 後 もその 特 性 の 改 善 を 細 々と 行 っていました. 今 から 思 えばずいぶんとさまざまな 構 造 を 試 したものでしたが, 最 終 的 な 構 造 2
では, 平 行 金 属 板 の 中 央 の 金 属 を 取 り 除 いて 右 手 系 直 列 インダクタンスを 大 き く 取 れるように 工 夫 し,さらにメアンダ 線 路 と 平 行 金 属 板 との 結 合 を 抑 えるよ うにメアンダ 線 路 の 配 置 を 調 整 することで, 特 性 が 大 幅 な 改 善 へとつながりま した. 図 2 は 28 年 に 発 表 した 2 代 目 の 積 層 型 CRLH 線 路 で, 図 1 のものに 比 べて 通 過 帯 域 が 非 常 にフラットで, 挿 入 損 も 大 きく 改 善 されていることがお 分 かりいただけるかと 思 います.なお,このモデルは, 比 誘 電 率 2.59 の Rexolite 22 基 板 を 用 いて 6. x 5. x 2.85 mm 3 の 寸 法 で 実 現 したものです. -2-4 S -6 21 (simulation) 5 1 15 2 図 2 28 年 に 報 告 した 第 2 世 代 の 積 層 型 CRLH 伝 送 線 路 とその 特 性 [2] 最 後 にご 紹 介 するのが,LTCC 積 層 化 技 術 で 作 製 した 図 3 の CRLH 伝 送 線 路 で, 回 路 寸 法 は 1.5 x 1.5 x.95 mm 3 と 米 粒 大 です. 回 路 構 造 がこれまでご 紹 介 したものと 大 変 似 ているためあまり 変 化 がないように 思 えるかもしれませんが, 圧 倒 的 な 小 型 化 を 実 現 しています.また,このような 小 型 化 を 図 るとさまざま な 箇 所 で 思 いもよらない 結 合 が 生 じ,その 結 果,いとも 簡 単 に 伝 送 特 性 が 劣 化 してしまいます.これを 防 ぐため, 回 路 形 状 の 微 調 整 とセラミック 材 料 の 選 定 には 注 意 を 払 っています. 散 乱 特 性 から 確 認 できるように 3GHz から 16GHz まで 挿 入 損 の 少 ないフラットな 特 性 を 実 現 できていることが 確 認 できます.ま た,さらに 注 目 すべき 点 は 左 手 系 帯 域 が 非 常 に 広 いことで,このモデルの 左 手 系 帯 域 は FCC が 掲 げる 3.1GHz から 1.6GHz の UWB 帯 域 と 完 全 に 一 致 して います.このように 左 手 系 が 広 くなるのは, 左 手 系 回 路 パラメータの 寄 与 にく らべて, 右 手 系 パラメータの 寄 与 が 大 幅 に 少 ないためで, 純 粋 な 左 手 系 メタマ テリアルを 作 ることが 不 可 能 といわれてはいますが, 小 型 化 することで 右 手 系 回 路 の 寄 与 を 抑 圧 し, 純 粋 な 左 手 系 特 性 に 近 い 特 性 を 実 現 できることをこの 米 3
粒 大 モデルは 物 語 っています. r = 5 r = 7.1 r = 5 (b) 側 面 図 15 1 5 RH branch LH branch -18-12 -6 6 12 18 Phase (degree/uc) -2-4 -6 S 21 (simulation) 5 1 15 2 (a) 分 散 特 性 図 3 21 年 に 報 告 した 第 3 世 代 の 積 層 型 CRLH 伝 送 線 路 とその 特 性 [3] 今 後 のデバイス 研 究 においては,ここでご 紹 介 した 積 層 メタマテリアル 技 術 をさまざまな 高 周 波 回 路 設 計 にフル 活 用 することで,より 小 型 高 機 能 なデバ イスを 提 案 し 続 けていきたいと 考 えています. [1] Y. Horii, C. Caloz, and T. Itoh, "Super-compact multi-layered left-handed transmission line and diplexer application", IEEE Trans. on Microwave Theory and Tech., vol.53, no.4, 1527-1534, April 25. [2] Y.Horii, "A super-compact balanced multi-layered CRLH transmission line with wideband LH properties for microwave phase engineerings," IEEE Int'l Microwave Symp., Proceedings, TU1F-4, pp.53-56, June 29. 4
[3] Y. Horii, N. Inoue, T. Kawakami, and T. Kaneko, "Super-compact LTCC-based multi-layered CRLH transmission lines for UWB applications," European Microwave Conf., Proceedings, Manchester, UK, Sep. 211. 5