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ROSEリポジトリいばらき ( 茨 城 大 学 学 術 情 報 リポジトリ) Title 高 齢 者 の 生 きがい 感 に 健 康 づくり 教 室 が 及 ぼす 影 響 Author(s) 櫻 井, 健 太 / 石 崎, あゆみ / 太 田, 茂 秋 / 富 樫, 泰 一 Citation 茨 城 大 学 教 育 学 部 紀 要. 教 育 科 学 (59): 295-308 Issue Date 2010-03-31 URL http://hdl.handle.net/10109/1349 Rights このリポジトリに 収 録 されているコンテンツの 著 作 権 は それぞれの 著 作 権 者 に 帰 属 します 引 用 転 載 複 製 等 される 場 合 は 著 作 権 法 を 遵 守 してください お 問 合 せ 先 茨 城 大 学 学 術 企 画 部 学 術 情 報 課 ( 図 書 館 ) 情 報 支 援 係 http://www.lib.ibaraki.ac.jp/toiawase/toi

茨 城 大 学 教 育 学 部 紀 要 ( 教 育 科 学 )59 号 (2010), 295-308 高 齢 者 の 生 きがい 感 に 健 康 づくり 教 室 が 及 ぼす 影 響 櫻 井 健 太 * 石 崎 あゆみ ** 太 田 茂 秋 富 樫 泰 一 (2009 年 11 月 30 日 受 理 ) Influence that health care classroom exerts on senior citizen's reason for living Kenta SAKURAI*, Ayumi ISHIZAKI**, Shigeaki OHTA *** and Taiichi TOGASHI **** (Revised November 30, 2009) はじめに 日 本 は 21 世 紀, 本 格 的 な 少 子 高 齢 社 会 に 突 入 した 今 後 平 成 32 年 (2020 年 )には 4 人 に 1 人, 平 成 62 年 (2050 年 )には 3 人 に 1 人 が 老 人 という 超 高 齢 社 会 になることが 見 込 まれ,また 平 成 19 年 (2007 年 )からは 人 口 が 減 少 し, 平 成 62 年 (2050 年 )には 1 億 人 を 切 ると 予 測 されている 1 ) 社 会 環 境 の 変 化 に 伴 い, 日 常 の 生 活 習 慣 が 健 康 に 大 きな 影 響 を 与 え, 日 本 人 の 死 因 は 生 活 習 慣 に 影 響 されているものが 多 くなっている 要 支 援 要 介 護 者 となる 高 齢 者 も 年 々 増 加 傾 向 にあり,そ れを 支 える 社 会 の 負 担 も 大 きくなってきている そこでこれからの 社 会 は, 疾 病 の 発 病 を 予 防 し, 要 支 援 要 介 護 にならないための 一 次 予 防 が 重 要 な 課 題 となってくる 一 次 予 防 としては, 喫 煙 や 飲 酒, 栄 養 や 運 動 に 関 することが 挙 げられる 特 に 運 動 に 関 すること としては, 身 体 活 動 量 が 多 い 者 や 運 動 をよく 行 っている 者 は, 総 死 亡, 虚 血 性 心 疾 患, 高 血 圧, 糖 尿 病, 肥 満, 骨 粗 鬆 症, 結 腸 がんなどの 罹 患 率 や 死 亡 率 が 低 いこと,また 身 体 活 動 や 運 動 が,メン タルヘルスや 生 活 の 質 の 改 善 に 効 果 をもたらすことが 認 められている 更 に 高 齢 者 においても 歩 行 など 日 常 生 活 における 身 体 活 動 が, 寝 たきりや 死 亡 を 減 少 させる 効 果 のあることが 示 されている 1) 健 康 日 本 21 とは, 一 次 予 防 を 重 視 し, 壮 年 期 死 亡 の 減 少, 健 康 寿 命 の 延 伸 及 び 生 活 の 質 の 向 上 を 実 現 することを 目 的 とし, 厚 生 労 働 省 が 前 述 したような 社 会 の 状 況 にかんがみ, 国 民 健 康 作 り 対 策 として 作 成 したものである 健 康 日 本 21 の 目 的 が 達 成 されるためには, 各 都 道 府 県 市 町 村 単 位 での 取 り 組 みが 重 要 となる 市 町 村 での 取 り 組 み 結 果 が,やがては 国 民 全 体 の 取 り 組 み 結 果 と なるからである 現 在 茨 城 県 でも 健 康 いばらき 21 プラン を 作 成 し, 県 民 の 健 康 作 りを 支 援 するため, 学 校, 職 場, 市 町 村, 地 域 ボランティア 団 体, 保 健 医 療 機 関, 健 康 作 り 関 係 団 体 及 び 県 などが 様 々な 施 策 を 茨 城 大 学 非 常 勤 講 師 ( 310-8512 水 戸 市 文 京 2-1-1;Docent of Ibaraki University, Mito 310-8512 Japan) ** ミスパリダイエットセンター イーアスつくば 店 ( 305-0817 つくば 市 研 究 学 園 C50 街 区 1;Miss Paris Diet Center, Tsukuba 305-0817 Japan) 茨 城 大 学 名 誉 教 授 ( 310-8512 水 戸 市 文 京 2-1-1;Ibaraki University professors emeritus, Mito 310-8512 Japan) 茨 城 大 学 教 育 学 部 ( 310-8512 水 戸 市 文 京 2-1-1;Faculty of Education, Ibaraki University, Mito 310-8512 Japan)

296 櫻 井 石 崎 太 田 富 樫 高 齢 者 の 生 きがい 感 に 健 康 づくり 教 室 が 及 ぼす 影 響 している 2 ) そのうちの 一 つである, 水 戸 市 保 健 センター 主 催 の 元 気 アップ ステップ 運 動 教 室 ( 以 下 元 気 アップ 教 室 )は,65 歳 以 上 の 一 般 高 齢 者 を 対 象 に 健 康 作 りを 目 的 とし, 寝 たきりの 主 要 因 である 脳 血 管 疾 患 や 転 倒 による 骨 折 の 予 防 を 図 るため, 大 腰 筋 を 意 識 した 有 酸 素 運 動 としてステッ プ 台 を 使 った 運 動 や, 足 腰 の 筋 力 トレーニングなどを 行 っている 教 室 開 始 時 期 と 終 了 時 期 に 筋 力 やバランス, 柔 軟 性 などの 体 力 測 定 を 行 い, 運 動 効 果 を 確 認 している 3 ) 健 康 作 り 運 動 教 室 において, 身 体 的 な 変 化 は 体 力 測 定 などにより 明 確 に 把 握 することができる また 高 齢 者 の 体 力 など 身 体 面 の 変 化 について 調 べた 論 文 は 今 までにも 例 がある 石 橋 ら 4 ) は, 平 均 年 齢 65.1 歳 の 女 性 たちを 対 象 に,6 ヶ 月 間 の 健 康 作 り 教 室 での 体 格 や 体 力 の 変 動 を 調 査 し, 教 室 終 了 時 点 の 体 格 面 では, 体 重 体 脂 肪 率 BMI が 有 意 に 低 下 し, 体 力 面 では 立 ち 上 がり, 上 体 起 こ し, 体 前 屈, 片 脚 立 ち,5m 歩 に 有 意 な 向 上 が 認 められたと 報 告 している 錦 織 ら 5 ) は, 健 康 体 操 教 室 に 参 加 している 高 齢 者 と 参 加 していない 高 齢 者 との 脚 伸 展 パワーの 比 較 を 行 い, 体 操 教 室 参 加 者 の 方 が 高 い 値 を 示 し, 定 期 的 な 運 動 が 高 齢 者 の 身 体 機 能 の 維 持 向 上 に 効 果 があったと 述 べてい る このように, 健 康 づくり 運 動 教 室 が 身 体 的 に 効 果 があることは 明 らかである しかしながら, 元 気 アップ 教 室 の 指 導 者 からは 身 体 的 な 変 動 だけでなく, 高 齢 者 の 表 情 やふるまいなど 精 神 的 な 面 で の 変 化 も 感 じられるとの 声 が 寄 せられた これは 元 気 アップ 教 室 が 参 加 者 にとって 単 に 体 力 向 上 を 目 的 とした 場 ではなく, 楽 しみ, 生 きがいとなっている 可 能 性 がある 高 齢 者 の 日 常 生 活 が 非 活 動 的 な 状 況 に 陥 ることのないようにするためには, 生 きる 意 欲 や 意 志 につながる 生 きがい をもつ ことが 重 要 であると 言 われている 1 ) そのため 健 康 づくり 運 動 教 室 が 高 齢 者 の 生 きがい 感 へ 与 える 影 響 を 調 査 することは 意 義 がある 高 齢 者 の 生 きがい 感 については, 体 力 との 関 連 について 調 査 した 例 がいくつか 存 在 するが 6 )7)8), 健 康 づくり 運 動 教 室 の 効 果 として 変 容 を 調 査 した 論 文 はみられない そこで 本 研 究 では, 健 康 づく り 運 動 教 室 に 参 加 した 高 齢 者 を 対 象 に, 近 藤 ら 9) の 作 成 した 生 きがい 感 スケールを 用 い, 教 室 開 始 時 とおよそ 5 ヶ 月 後 に 生 きがい 感 についてのアンケートを 行 い, 教 室 前 後 での 参 加 者 の 生 きがい 感 の 変 容 を 調 査 し, 元 気 アップ 教 室 の 精 神 的 効 果 について 検 討 した 研 究 方 法 1 調 査 対 象 および 調 査 方 法 水 戸 市 内 の 市 民 センターや 保 健 センターなど 計 9 箇 所 の 会 場 で 行 われていた2008 年 度 元 気 アップ 教 室 参 加 者 181 名 を 対 象 とし, 前 期 アンケートは 2008 年 6 月 19 日 から 7 月 9 日 にかけて, 後 期 ア ンケートは 2008 年 11 月 7 日 から 17 日 にかけて 実 施 した 回 収 人 数 は 前 期 134 名, 後 期 125 名,そのうち 前 後 期 共 に 回 収 できた 103 名 を 分 析 対 象 とした 男 女 別 では 男 性 15 名, 女 性 88 名, 年 代 別 にみると 60 代 50 名,70 代 50 名,80 代 3 名 であった 2 調 査 内 容 生 きがい 感 スケールは 全 16 項 目 あり, はい どちらでもない いいえ の 3 件 法 で 尋 ねた 得 点 化 の 方 法 としては,はいが 2 点,どちらでもないが 1 点,いいえを 0 点 とした ただし 質 問 2, 4,9,12 番 に 関 しては 逆 転 項 目 となるため, 配 点 が 逆 となる 図 1 に 質 問 内 容 を 示 した

茨 城 大 学 教 育 学 部 紀 要 ( 教 育 科 学 )59 号 (2010) 297 3 分 析 方 法 調 査 結 果 については 単 純 集 計 を 行 った 生 きがい 感 スケール 得 点 の 前 後 変 化 については t 検 定 を 行 った 分 析 には SPSS 11.0J for Windows を 用 い 有 意 水 準 5%とした また 10% 未 満 については 有 意 な 傾 向 ありとして 考 察 した 結 果 1 前 期 後 期 生 きがい 感 スケール 単 純 集 計 結 果 前 期 の 生 きがい 感 スケールの 単 純 集 計 結 果 を 表 1 に 示 した 各 質 問 で 得 点 が 2 点 となる 項 目 に 最 も 多 くの 回 答 がされている 中 でも 質 問 13 は 90%の 被 験 者 が 2 点 の 項 目 に 回 答 をしている 2 点 の 項 目 の 回 答 が 46%と 最 も 少 なかったのは 質 問 14 であり, どちらでもない の 回 答 の 割 合 が 42%と 他 の 質 問 に 比 べて 多 い 結 果 となった 得 点 が 0 点 となる 項 目 で 最 も 多 くの 回 答 がなされたのは 質 問 2 で 20%となった 後 期 の 生 きがい 感 スケールの 単 純 集 計 結 果 を 表 2 に 示 した 前 期 と 同 様 に 各 質 問 で 得 点 が 2 点 と なる 項 目 に 最 も 多 くの 回 答 がなされている 最 も 割 合 が 高 いのは 前 期 同 様 に 質 問 13 であり 89%の 被 験 者 が 回 答 している 最 も 2 点 の 項 目 の 回 答 が 少 なかったのは 前 期 同 様 質 問 14 であり 52%とな った 得 点 が 0 となる 項 目 で 最 も 多 くの 回 答 がなされたのは 前 期 同 様 質 問 2 であり,16%となった

298 櫻 井 石 崎 太 田 富 樫 高 齢 者 の 生 きがい 感 に 健 康 づくり 教 室 が 及 ぼす 影 響

茨 城 大 学 教 育 学 部 紀 要 ( 教 育 科 学 )59 号 (2010) 299 2 前 期 と 後 期 における 生 きがい 感 得 点 の 差 について 前 期 と 後 期 の 生 きがい 感 の 平 均 得 点 が 各 グループで 差 があるかどうかについてt 検 定 を 行 った 分 析 の 結 果 を 表 3 に 示 した その 結 果, 全 体 では1% 水 準 で 有 意 差 がみられ 後 期 の 平 均 得 点 が 高 か った また 男 女 別 にみてみると, 男 性 では 5% 水 準 で 有 意 な 差 がみられ 後 期 の 平 均 得 点 が 高 かった 女 性 で 後 期 得 点 の 方 が 高 い 傾 向 がみられた 年 代 別 では, 全 体 を 60 歳 代 と 70 歳 以 上 の 2 つのグル ープに 分 けたところ,70 歳 以 上 のグループにおいて 5% 水 準 で 有 意 な 差 がみられ 後 期 平 均 得 点 の 方 が 高 かった 60 歳 代 では 後 期 得 点 の 方 が 高 い 傾 向 を 示 した 3 前 期 と 後 期 における 生 きがい 感 スケールの 項 目 間 の 差 について 前 期 と 後 期 の 生 きがい 感 スケールの 各 項 目 の 平 均 得 点 に 差 があるかどうかについて t 検 定 を 行 っ た 分 析 の 結 果 を 表 4 に 示 した

300 櫻 井 石 崎 太 田 富 樫 高 齢 者 の 生 きがい 感 に 健 康 づくり 教 室 が 及 ぼす 影 響 その 結 果, 質 問 6 自 分 が 向 上 したと 思 えることがある において 1% 水 準 で 有 意 な 差 がみられ 後 期 平 均 得 点 の 方 が 高 かった また 質 問 10 私 は 世 の 中 や 家 族 のためになることをしていると 思 う, 質 問 16 私 は 家 族 や 他 人 から 期 待 され 頼 りにされている の 2 項 目 について 5% 水 準 で 有 意 な 差 が みられ 後 期 平 均 得 点 の 方 が 高 かった 質 問 5 私 にはまだやりたいことがある は 後 期 平 均 得 点 の 方 が 高 い 傾 向 を 示 した 考 察 1 前 期 後 期 生 きがい 感 スケール 単 純 集 計 結 果 前 期 後 期 ともに 得 点 が 2 点 となる 項 目 で 最 も 高 い 割 合 で 回 答 されていたのは 質 問 13 であった 質 問 13 は まだ 死 ぬわけにはいかないと 思 っている という 内 容 であるが, 健 康 づくり 教 室 に 参 加 す る 意 欲 があるということは, 健 康 でありたい, 長 く 生 きたいという 気 持 ちの 表 れと 考 えられ, 納 得 できる 数 字 である 前 期 で 5 名, 後 期 で 3 名 の いいえ に 回 答 した 被 験 者 があるが,これはおそ らく 絶 望 的 な 気 持 ちではなく, 前 向 きな 意 味 で いつ 死 んでも 悔 いはない という 意 味 ではないだ ろうか 前 期 後 期 ともに 得 点 が 2 点 となる 項 目 で 最 も 低 い 割 合 で 回 答 されていたのは 質 問 14 であった 質 問 14 は 他 人 から 認 められ 評 価 されたと 思 えることがある という 内 容 であるが,この 質 問 の 回 答 の 特 徴 は どちらでもない に 回 答 する 割 合 が 多 かったことである 認 められていないとは 思 わな いが,はっきりと 他 人 から 認 められている 自 信 が 持 てない 参 加 者 の 特 徴 がうかがえる 体 力 や 身 体 機 能 の 低 下 の 影 響 で 自 分 に 対 する 評 価 も 低 くなっているのではないかと 考 える 2 前 期 と 後 期 における 生 きがい 感 得 点 の 差 について 教 室 全 体 として 後 期 の 方 が 有 意 な 得 点 の 向 上 がみられた 健 康 づくり 運 動 教 室 は 身 体 面 だけでは なく, 精 神 面 においても 効 果 があることを 示 唆 すると 考 える 男 女 別 にみてみると 男 性 に 有 意 な 向 上 がみられ, 女 性 にも 向 上 の 傾 向 が 表 れていた 男 女 の 差 を 比 較 するために 前 期 平 均 得 点 と 後 期 平 均 得 点 についてそれぞれ t 検 定 を 行 ったところ,どちらも 5% 水 準 で 有 意 な 差 がみられ( 前 期 p=0.017, 後 期 p=0.032) 女 性 の 方 が 高 かった しかし 平 均 点 の 差 は 前 期 が 約 4.4 点 に 対 し, 後 期 は 約 2.7 点 と 差 が 小 さくなっている 女 性 ほど 生 きがい 感 の 高 くなかった 男 性 が, 教 室 を 通 して 生 きがい 感 が 向 上 したことが 考 えられる 男 性 は 女 性 に 比 べ 参 加 人 数 が 少 な いが, 貴 重 な 男 性 として 他 の 参 加 者 や 指 導 者 などから 頼 りにされたり, 少 ない 男 性 同 士 での 交 流 が 深 まったりしているのではないだろうか 年 代 別 では 60 歳 代 には 後 期 平 均 得 点 の 方 が 高 い 傾 向 がみられ,70 歳 以 上 の 年 代 には 有 意 な 差 がみ られ 後 期 平 均 得 点 の 方 が 高 かった 近 藤 ら 10) は, 女 性 の 場 合 70 歳 代 では 友 人 の 有 無 ということが 生 きがい 感 に 影 響 を 与 えると 述 べている 本 研 究 における 被 験 者 の 70 歳 以 上 の 77%が 女 性 である ことから, 元 気 アップ 教 室 に 友 人 と 一 緒 に 通 うことや, 新 しい 友 人 との 出 会 いが 生 きがい 感 の 向 上 に 影 響 したのではないだろうか 70 歳 代 の 参 加 者 にとって 健 康 づくり 運 動 教 室 は 単 に 体 力 向 上 の 場 ではなく, 友 人 との 交 流 の 場 であるのだろう 3 前 期 と 後 期 における 生 きがい 感 スケールの 項 目 間 の 差 について 生 きがい 感 スケールの 各 項 目 間 での 変 化 をみてみると 質 問 6 自 分 が 向 上 したと 思 えることがあ る, 質 問 10 私 は 世 の 中 や 家 族 のためになることをしていると 思 う, 質 問 16 私 は 家 族 や 他 人 か

茨 城 大 学 教 育 学 部 紀 要 ( 教 育 科 学 )59 号 (2010) 301 ら 期 待 され 頼 りにされている の 3 項 目 で 有 意 な 向 上 がみられた また 質 問 5 私 にはまだやりた いことがある では 有 意 な 向 上 の 傾 向 がみられた 質 問 6 については 健 康 づくり 運 動 教 室 ということで 体 力 的 な 向 上 を 実 感 した 参 加 者 が 多 かったと 考 えられる また 質 問 10 については 教 室 へ 通 って 体 力 が 向 上 し 要 介 護 になることを 予 防 することに より, 世 の 中 や 家 族 に 迷 惑 をかけていない 状 態 であること が 世 の 中 や 家 族 のためになること につながり 向 上 がみられたのではないのだろうか 質 問 16 については 教 室 に 参 加 することで 家 族 や 元 気 アップ 教 室 スタッフなど 周 囲 の 健 康 でいてほしい という 期 待 に 応 えていることが 考 えられ る 質 問 5 については 体 力 の 向 上 や 友 人 との 交 流 が 深 まることで 今 まで 以 上 に 物 事 に 積 極 的 に 取 り 組 む 意 欲 が 高 まったのではないだろうか まとめ 本 研 究 は, 水 戸 市 主 催 の 介 護 予 防 普 及 啓 発 事 業 元 気 アップ 教 室 に 通 う 高 齢 者 を 対 象 に, 教 室 開 始 時 とおよそ 5 ヶ 月 後 の 2 回 に 分 けて 生 きがい 感 の 調 査 を 行 い, 教 室 前 後 での 参 加 者 の 生 きがい 感 の 変 容 について 調 査 し, 以 下 のことが 明 らかになった 全 体 の 平 均 点 では 前 期 と 後 期 に 差 がみられ, 後 期 平 均 得 点 は 有 意 に 向 上 していた そのうち 男 女 では 男 性 に,60 歳 代 と 70 歳 以 上 の 年 代 別 では 70 歳 以 上 のグループに 有 意 な 差 がみられた 近 藤 ら 10) は, 女 性 の 場 合 70 歳 代 では 友 人 の 有 無 ということが 生 きがい 感 に 影 響 を 与 えると 述 べてい るが,70 歳 以 上 の 77%が 女 性 であり, 女 性 の 生 きがい 感 に 及 ぼす 影 響 が 反 映 されたと 考 える 70 歳 代 の 参 加 者 にとって 健 康 づくり 運 動 教 室 は 単 に 体 力 向 上 の 場 ではなく, 友 人 との 交 流 の 場 とな っている 生 きがい 感 スケールを 項 目 別 にみてみると 自 分 が 向 上 したと 思 えることがある 私 は 世 の 中 や 家 族 のためになることをしていると 思 う 私 は 家 族 や 他 人 から 期 待 され 頼 りにされている の 3 項 目 で 有 意 な 向 上 がみられた 理 由 としては, 健 康 教 室 という 場 の 影 響 が 考 えられる 運 動 を 継 続 する 点 で 体 力 筋 力 等 が 向 上 したと 感 じる 機 会 や, 教 室 での 他 者 への 関 わりの 中 から 自 分 の 存 在 を 認 識 する 機 会 もあり, 生 きがい 感 の 向 上 につながったと 考 えられる 本 研 究 を 経 て 元 気 アップ 教 室 に 通 った 高 齢 者 には, 前 後 で 生 きがい 感 の 変 化 がみられ, 有 意 に 得 点 が 向 上 していることがわかった はじめに 述 べたように, 高 齢 者 の 日 常 生 活 が 非 活 動 的 な 状 況 に 陥 ることのないようにするためには, 生 きる 意 欲 や 意 志 につながる 生 きがい を 持 つことが 重 要 である 今 回 は 1 つの 教 室 での 調 査 だが, 健 康 づくり 運 動 教 室 は 高 齢 者 の 生 きがい 感 に 有 意 な 向 上 をもたらすことが 示 唆 された 理 由 としては, 体 力 面 などの 向 上 が 自 己 実 現 と 意 欲 につなが り, 他 者 ( 同 年 代 や 指 導 者 など 別 の 年 代 )との 関 わり 合 いが 存 在 感 につながると 考 えられる 本 研 究 は 健 康 づくり 運 動 教 室 の 効 果 は 身 体 面 だけでなく, 精 神 面 にまで 及 ぶことを 明 らかにした 貴 重 な 資 料 になるものと 考 える 今 後 の 課 題 としては, 生 きがい 感 を 高 める 具 体 的 要 因 は 何 であるのか,また 指 導 者 のどのような 働 きかけが 生 きがい 感 を 高 めるのか,より 詳 しい 調 査 を 行 うことが 望 まれる 健 康 づくり 運 動 教 室 が 精 神 面 にも 与 える 影 響 を 明 確 にし, 身 体 的, 精 神 的 に 効 果 の 高 い 健 康 づくり 運 動 教 室 が 広 く 高 齢 者 の 方 に 普 及 されていく 資 料 となれば 幸 いである

302 櫻 井 石 崎 太 田 富 樫 高 齢 者 の 生 きがい 感 に 健 康 づくり 教 室 が 及 ぼす 影 響 引 用 URL 1) 健 康 日 本 21 http://www.kenkounippon21.gr.jp/ 最 終 アクセス:2009/11/23 2) 健 康 いばらき 21 プラン http://www.pref.ibaraki.jp/bukyoku/hoken/yobo/kenkou21/pdf/honpen.pdf 最 終 アクセス:2009/11/23 3) 水 戸 市 ホームページ http://www.city.mito.lg.jp/ 最 終 アクセス:2009/11/23 引 用 文 献 4) 石 橋 健 司 ; 吉 賀 正 彦 ; 口 石 愛 ; 川 辺 みさこ; 塚 本 和 代 ; 臼 杵 明 子 ; 藤 丸 和 美 ; 麻 生 智 恵 美 ; 松 本 義 人 ; 長 野 政 康 ; 石 井 聡 6 ヶ 月 間 の 健 康 教 室 が 参 加 者 の 体 格 体 力 に 及 ぼす 影 響 -50 歳 以 上 の 女 性 を 対 象 にし て- 大 分 大 学 教 育 福 祉 科 学 研 究 紀 要 27[1](2005),pp103-112. 5) 錦 織 美 鈴 ; 木 原 勇 夫 健 康 体 操 教 室 が 高 齢 者 の 体 力 に 及 ぼす 影 響 島 根 医 科 大 学 紀 要 19[12] (1996),pp39-41. 6) 星 川 保 ; 豊 島 進 太 郎 ; 亀 井 貞 次 ; 村 瀬 豊 ; 斎 藤 由 美 70 歳 男 女 高 齢 者 における[ 生 きがい]と 体 力 の 関 係 体 育 科 学 19(1992),pp151-162. 7) 星 川 保 ; 豊 島 進 太 郎 ; 斎 藤 由 美 70 歳 高 齢 者 の 体 力 と 健 康, 生 きがいの 関 係,および RPE を 用 いた 高 齢 者 のための 体 力 測 定 法 の 開 発 に 関 する 研 究 体 力 科 学 20(1993),pp137-147. 8) 藤 原 昌 樹 ; 高 齢 者 に お け る [ 生 き が い ] と 体 力 の 関 係 川 村 学 園 女 子 大 学 紀 要 13[1](2002),pp223-233 9) 近 藤 勉 ; 鎌 田 次 郎 高 齢 者 向 け 生 きがい 感 スケール(K-Ⅰ 式 )の 作 成 および 生 きがい 感 の 定 義 社 会 福 祉 学 43[2](2003),pp93-100. 10) 近 藤 勉 ; 鎌 田 次 郎 高 齢 者 の 生 きがい 感 に 影 響 する 性 別 と 年 代 からみた 要 因 - 都 市 の 老 人 福 祉 センタ ー 高 齢 者 を 対 象 として- 老 年 精 神 医 学 雑 誌 15[11](2004),pp1281-1290.