1 17' ノ11ゅ. 八 M""1m /1 化 仏 Q)". V()1.18,73-80(1997) レルヒとロフラーノ ー 騎 兵 の 物 語 における 鏡 像 と 他 者 - '11ITIlliilI ホフマンスタールのこの 煙 繍 は1899 年 の 発 表 以 来 多 くの 読 肴 や 研 究 者 を 魅 了 しつつも 他 力 で 解 き 難 い 謎 を 今 日 まで 残 して 現 代 のわれわれの 眼 前 に 横 たわっている 本 論 は 作 品 分 析 そ のものよりも まずそれへの 足 掛 かりを 探 すのが 目 的 である 試 作 SchreibUbung である と 作 者 はこの 小 iii1i1を 発 行 人 への 手 紙 において 呼 び またそれへの 言 及 も 以 後 ほとんどないのだ が それでも 幾 度 かの 初 期 散 文 集 の 出 版 に 際 してはリストから 除 くことはなかった ') 物 語 はiiiなる 一 般 的 賛 辞 を 拒 否 するほど 優 れた 作 品 には 違 いないとしても ここにいかなる 文 学 的 l111ilili(をいかにして 見 出 すかという 議 論 になると 分 析 の 方 向 は 千 差 万 別 である 2) 鉱 脈 は 深 肘 に 隠 されている 鍍 考 は 以 下 の 論 述 において ホフマンスタールが 世 紀 末 のオーストリア 帝 同 の 抱 え 込 んだ 病 理 にどんな 象 徴 的 表 現 をもって 立 ち 向 かったのかの 一 端 を 探 り 当 てたいと 考 え る 物 語 は 独 立 運 動 が 激 しさを 増 した1911t 紀 半 ば オーストリア 傘 下 のイタリアの 都 市 ミラノ に 台 頭 した 独 立 派 を 再 制 LlLようと 乗 }) 込 んだ 騎 兵 ili ト の 入 城 から 始 まる 語 り 手 はまるで 戦 時 ニュースでも 読 み 上 げるかのような 1 調 でその 様 子 を 語 り 始 め この 口 調 は 作 品 のテーマそ のものが 深 臓 心 理 の 領 野 の 奥 深 <にまで 達 すると 推 測 されるにもかかわらず 簸 後 まで 変 化 す ることがない つまり この 物 語 世 界 外 の 語 りの 視 点 はいわば 焦 点 化 ゼロに 設 定 されていると 同 時 に 等 質 的 物 語 世 界 という 特 徴 によって そのまま 内 的 焦 点 化 にもスライドする 可 能 性 を 秘 めている 3) 1848 年 7)]22に1 午 前 6 時 前 ヴアルモーデン1W 騎 兵 団 第 二 騎 兵 [ I 隊 の 値 察 分 遣 隊 すなわ ち 馬 上 の 百 七 名 の 兵 を 引 き 連 れた 騎 兵 大 尉 ロフラーノ 男 爵 はサン アレッサンドロ 将 校 館 を 立 ち 去 り ミラノ 方 面 へと 馬 を 駆 っていたJ1.')この 美 しい 非 武 装 のままの 大 都 iljはしかし 騎 兵 た 旭 1111 矢 科 大 学 医 学 Wllドイツ 語 e-mail: 上 344@asahikawa-med acjp -73-
, レルヒとロフラーノー 騎 兵 の 物 語 における 鏡 像 と 他 者 - ちの 入 城 を 何 の 抵 抗 もなしに 許 したのではない 光 のなかにたゆたいつつみずからそのなかに 溺 れ 幾 重 にも 重 なる 色 彩 の 絨 毯 の 隅 々には マナラ 軍 団 の 歩 士 たち ピサ 軍 団 の 姿 艇 しい 学 生 たち ベルガモ 風 衣 装 の 伝 令 さらには 法 王 軍 所 脇 のナポリ 義 勇 兵 らが 潜 んでいたのである しかし 形 勢 に 変 化 はなく 競 実 に 武 装 解 除 を 進 めた 末 に 捕 虜 護 送 のため 隊 を 離 れた 兵 を 除 いた 78 名 の 中 隊 は 市 門 をくぐる そのなかには 郊 外 の 美 しい 邸 宅 を 包 囲 し かの18 人 の 学 生 たち を 捕 えたアントン レルヒ 騎 兵 曹 長 も 含 まれている この 短 篇 の 主 人 公 レルヒ( 焦 点 化 を 受 ける 人 物 という 意 床 で)は 他 の 兵 士 同 様 血 の 混 じっ た 壌 だらけの 顔 ( 非 人 格 化 された Maske )で 空 虚 な 歓 呼 のジェスチャアーを 演 じる 群 衆 たちへの 警 戒 のF1を 光 らせつつテイツイネーゼ 門 から 出 てゆく この 門 には 皮 肉 にもオースト リア 人 によってHzcliPD/Woγ""zS()Sノウji/ 5)と 刻 まれている こうして 兵 士 たちの 行 進 は 彼 らが 捧 げ 持 つ 刀 身 の 放 つ 反 射 光 に 包 まれて 町 を 勇 壮 な 凱 旋 気 分 一 色 に 染 めたのである ただし この 町 への 入 城 を 指 揮 したのはロフラーノ 男 爵 であった ことを 忘 れてはならない 彼 は 自 らにもまた 中 隊 に 対 してもこの 行 動 を 断 念 することができな かった と 語 られる 中 隊 が 市 門 を 出 て 間 もなく 語 り 手 の 視 点 はレルヒのそれへと 溶 け 込 む ヴーイッチ エピ ソード がここから 始 まる 好 奇 心 が 馬 上 の 彼 の 注 意 を 沿 道 のとある 淡 黄 色 の 家 の 窓 辺 へと 誘 う 彼 は 窓 辺 に 垣 間 見 た 女 性 (まなざしの 比 噛 )を ひと 昔 ほど 前 にウィーンで 出 会 ったス ラブ 人 らしいと 予 感 し さらに 確 信 をもって 彼 女 と ヴーイッチ という 姓 であった 女 性 とを 同 一 視 する 彼 の 脳 裏 には 彼 女 の 母 性 的 な 鏡 像 が 浮 かび 上 がる その 際 彼 女 の 体 型 や 身 振 りの 特 徴 さらに 媚 態 のこもった 微 笑 などが 過 去 と 現 在 の 彼 女 を 橋 渡 しする 窓 辺 の 目 辮 天 竺 葵 の 植 木 鉢 それに 室 内 のマホガニー 製 の 箪 笥 素 焼 きの 徹 物 は 神 話 的 世 界 を 模 倣 してい る 白 い ベッドも 欠 けてはいない これらも 瞬 時 に 彼 の 網 膜 に 像 を 結 ぶ そればかりではな い 部 屋 の 奥 で 髭 のない 肥 満 した- 人 の 男 が 隠 し 扉 の 向 こうに 姿 を 消 すのも 見 逃 さない しかし レルヒはこの 男 を 捕 えようと 駆 け 出 さない そうするには 彼 は ヴーイッチ のまな ざしにあまりにも 捕 縛 されている 彼 女 のまなざしのなかに 映 し 出 された 男 ( 実 際 には レル ヒは 奥 の 部 屋 の 正 面 に 立 ててある 姿 見 に 映 った 男 の 動 きを 知 覚 したのだが)を 捕 えにゆく と いうことはどういうことなのか 可 能 であろうか 彼 にとって 見 知 らぬ 男 は ヴーイッチ の 鈍 像 を 通 して まさにこの 鏡 像 に 癒 着 したもうひとつの 鏡 像 であるにすぎない とすればどう であろう 次 の 引 用 を 参 照 されたい 彼 の 知 覚 と 意 識 の 両 レベルで 捕 えられた 対 象 が 無 意 識 の 領 野 へ と 流 れ 込 んでゆく lmaugenblickaber,w 罰 hrendermitetwasschwerf 乱 UigenBlickeinergroBenFliege nachsah,dienberdenhaarkammderfraulief,undaui3erlichaufnichtsachtete,ais -74-
旭 川 医 科 大 学 紀 要 3 wieerseinehand,diesef1iegezuscheuchen,sogleichaufdenwei6en,warmund kiihlennackenlegenwiirde,erfiiuteihndasbewu6tseinderheutebestandenen GefechteundandererGliicksftillevonobenbisunten,soda6erihrenKopfmit schwererhandnachvorwnrtsdruckteunddazusagte:>vuic -diesenlhrennamen hatteergewibseitzehnjahrennichtwiederindenmundgenommenundihren Taufnamenvollstandigvergessen-, inachttagenrijckenwirein,unddannwird dasdameinquartier,aufdiehalboffenezimmerturdeutend6) 語 り 手 は 過 去 の 記 憶 を 正 確 にたどることのできないレルヒの 目 下 の 知 覚 (imaugenblick)を 語 りの 時 間 に 繰 り 入 れる にもかかわらず いわば ヴーイッチ のまなざしによって 骨 抜 き にされたたような 彼 のなんとなくだるそうな 視 線 (schwerftilligerbiick) 彼 女 の 櫛 の 上 を 飛 んでゆく 大 きな 蝿 (einegrobefliege)-これは 後 に 彼 が 近 郊 の 村 で 目 撃 する 花 模 様 の 汚 れ た 絹 スカートの 女 への 欲 動 をも 予 示 するような 蝿 なのだが-さらにそもそもそれを 追 い 払 う 敏 捷 さも 力 も 萎 えた 手 (Hand)などの 知 覚 は 語 り 手 のものである レルヒにとっての 唯 一 の 知 覚 は ヴーイッチ の 鏡 像 である しかし 逆 に 言 えば それが 鏡 像 であるゆえに 語 り 手 は レルヒの 知 覚 を 合 わせ 鏡 を 使 ってのように 写 し 取 ることができるのである 内 的 焦 点 化 が 等 質 的 物 語 世 界 においても 焦 点 化 ゼロの 機 能 を 果 たし 得 る 鍵 はここにある レルヒは ヴーイッチ という 眼 前 の 肉 体 をもった 女 性 を 見 ているのではない 彼 女 が プラスかマイナスの つまり 暖 かいか 冷 たいカユの 在 か 不 在 かの 象 徴 と 化 しているかの 如 く 語 られるにすぎない 彼 は 大 儀 そうに 彼 女 の 頭 上 を 飛 んでゆく 大 きな 蝿 を 目 で 追 うのだが この 蝿 を 追 い 払 うはずの 彼 の 手 が 彼 女 のうなじにあてられる 様 子 は それがまるで 彼 自 らの 意 志 か ら 発 した 行 為 ではないかの 如 く 語 られる ヴーイッチ 姓 を10 年 この 方 一 度 も 口 にしたこと はなく 名 前 すらすっかり 忘 れていたレルヒが かくも 鋭 く 彼 女 を-たとえそれが 彼 女 の 鏡 像 であったとしても- 窓 辺 に 見 出 すとき 彼 をそのようにしむけている 欲 望 とはどこに 由 来 す るものなのか 他 方 引 用 にもあるように 彼 の 意 識 は 当 日 成 功 裡 に 終 わった 戦 闘 と 一 連 の 僥 倖 に 占 有 されていた ので (sodab) -と 語 られる- 彼 の 舌 は 唐 突 にも 彼 女 の 家 を 駐 屯 軍 のための 否 彼 自 身 のための 宿 舎 にする 旨 宣 言 する この ので はレルヒの 知 覚 において のみ 可 能 である 彼 は 自 らが 髭 の 男 に 代 わって さきに 垣 間 見 た 半 開 きの 扉 の 向 こうの 部 屋 を 占 有 するのを 当 然 のこととして 受 け 入 れている しかし 一 体 誰 からその 資 格 を 得 る のか この 宣 言 に 対 して 彼 女 のほうは 当 惑 して 肩 をすくめて 笑 うだけである 彼 は 中 厳 に 追 い つくべく 速 足 で 馬 を 駆 る やがて 足 取 りの 重 くなった 馬 に 揺 られながら レルヒはますます 得 体 の 知 れない 白 日 夢 のなかに 落 ち 込 んでゆく 曹 長 の 舌 はその 責 任 を 負 わねばならない すな わち 口 外 した 言 葉 が 圧 力 をかけ 始 めた のである 今 彼 を 制 圧 し 始 めた 力 は 単 なる 観 念 連 合 ではない つまり 彼 は 馬 上 で 再 びあのマホガニー 製 の 家 具 と 目 籍 天 竺 葵 の 植 木 鉢 のある 部 -75-
4 レルヒとロフラーノー 騎 兵 の 物 語 における 鏡 像 と 他 者 - 屋 を 知 覚 しただけでなく サーベルの 篭 柄 を 寝 巻 の 左 ポケットに 差 し 込 んだスリッパばきの 日 常 の 生 活 形 式 を 自 らの 鏡 像 の 一 部 として 夢 想 したのだが その 際 例 の 隠 し 扉 から 姿 を 消 した 髭 のない 男 が 大 きな 役 割 を 演 じたとも 語 られる この 男 は レルヒの 妄 想 のなかで 先 に 目 撃 したとき 以 上 の 価 値 を 帯 びた 鏡 像 となる DerRasiertenahmbalddieStelleeinesvertraulichbehandelten,etwasunterwiirfigenFreundesein,derHoftratscherzahlte,TabakundKapaunenbrachte,bald wurdeeralldiewandgedriickt,mubteschweiggelderzahlen,standmitallen mijglichenumtriebeninverbindung,warpiemontesischervertrauter,piipstlicher Koch,Kuppler,BesitzerverdHchtigerHiiusermitdunklenGartensiilenfiirpolitische Zusammenkiinfte,undwuchszueinerschwammigenRiesengestalt,dermanan zwanzigstellenspundl6cherindenleibschlagenundstattblutgoldabzapfen konnte-7) シニフィァン レノレヒが 坊 主 か 年 金 つき 退 職 近 13 侍 かと 推 測 した 人 物 からは 示 す 言 葉 の 換 楡 的 連 鎖 が 次 々と 生 ずる このような 多 重 規 定 の 連 鎖 を 止 める 結 節 は 何 か 換 言 するならば レルヒ の 欲 望 において 欠 如 しているがゆえに 求 められている 対 象 は 何 か この 欲 望 にはつねに 示 す 言 葉 としての 他 者 が 組 み 込 まれている レルヒ 自 身 は 能 動 者 となり 他 者 に 働 きかけ 結 節 の 産 出 物 である 様 々な 表 象 と 無 意 識 に 戯 れる にもかわらず この 結 節 は 髭 のない 男 の 体 によって 否 定 的 に 語 られるように おぞましい 欠 如 としてしか 現 出 しない その 内 部 からは 血 のかわりにお 金 が 流 れ 出 る しかし だからといって 語 り 手 は であるかのよ うにレルヒは 夢 想 した というような 接 続 法 の 表 現 茜 使 わず 淡 々と 直 接 法 過 去 の 時 制 で 語 り 続 ける 曹 長 のr 白 日 夢 はこの 日 の 午 後 に 至 ってさらに 強 度 を 増 してゆく マホガニー 家 具 のある 部 屋 が 再 び 金 銭 的 報 酬 への 賞 欲 な 欲 求 に 連 なって 彼 の 知 覚 を 侵 す 夢 想 は 肉 のなかにとど まり 周 囲 を 化 膿 させてゆく 弾 の 破 片 と 等 しいものとなる 夕 方 近 く 彼 の 偵 察 中 隊 は 敵 の 潜 伏 を 予 想 しながら 進 軍 し とある 町 の 郊 外 に 架 かる 橋 をめざす 彼 は 前 段 で ヴーイッチ の 家 を 鋭 く 知 覚 したのと 司 様 に ここでも 疑 わしくはあるが 誘 惑 的 な 村 落 に 引 き 寄 せられ る 兵 卒 二 人 とともに 中 隊 を 離 れる 彼 らを 左 右 に 配 し 自 らは 朽 ちかけた 鐘 楼 に 向 かっ て 正 面 から 馬 を 駆 る 地 面 には 油 が 敷 かれているらしく 慎 重 に 並 足 で 進 む 他 ない 勲 功 を 立 てることと 彼 の 無 意 識 の 欲 望 つまり 自 己 に 斜 線 を 引 いてそれを 他 者 に 欲 望 される 対 象 として 欲 望 することとは レルヒにおいて 矛 盾 なく 連 動 している この 村 において レルヒは 馬 上 から 家 々の 戸 口 の 内 部 を 垣 間 見 る そこでは 粗 末 なベッドに 薄 汚 い 半 裸 の 人 間 がごろごろしていたり 腰 を 痛 めたように 部 屋 のなかをのそのそ 歩 いていた -76-
旭 川 医 科 大 学 紀 要 のだが これは 例 の 髭 のない 男 にljMして 夢 想 されたいくつもの 幻 像 とりわけ 艇 められた 男 性 性 のイメージを 浮 かび 上 がらせる ここでも 馬 の 鉛 を 引 くよう 鈍 い 歩 みが 目 前 の 回 避 し 難 い 遭 遇 の 準 備 をする 擦 り 切 れた 花 模 様 のある 汚 れた 絹 のスカート を 腰 に 巻 き 肌 を ほとんどむき 出 しのままのサンダルI 趣 きの 女 がそこにいた 彼 女 は 馬 のすぐ 前 を 横 切 るが レ ルヒにはその 顔 が 見 えない しかし 馬 の 鼻 孔 から 押 し 出 される 息 は 彼 女 の 束 ねられた て かてかする 髪 の 下 の うなじ にあたる 示 す 言 葉 の 換 噛 的 連 鎖 がさらにレルヒの 知 覚 によっ てliliiえられる 彼 が 足 元 に 転 がり 出 てきた 噛 み 合 う 鼠 二 匹 に 注 意 を 逸 らされいる 間 に 女 は 入 口 に 姿 を 消 す 乳 首 の 垂 れ 下 っている 薄 汚 れた 白 い 雌 犬 を 皮 切 りに 何 頭 もの 犬 そのなか には 胴 体 が 膨 れ こがって 太 鼓 のように 張 った グレイハウンドがいたし 炎 症 をおこした 両 眼 をもつ F1い 犬 劣 等 糠 のグックスフントもいた 追 い 払 おうとピストルの 引 き 金 をi] い たが 弾 はなぜか 出 ず そのまま 去 ろうとするレルヒの 前 にさらに 屠 殺 場 へと 引 かれて 行 く 牝 牛 が 現 われる レルヒの 食 欲 と 羨 望 は ヴーイッチ から 再 生 不 能 にまで 破 壊 された 女 性 性 の 象 徴 形 成 にまで 及 んだ つまり 彼 の 自 己 分 裂 は 妄 想 分 裂 態 勢 と 抑 欝 態 勢 との 間 の 激 しい 心 理 的 葛 藤 の 産 物 なのである 彼 はここに 安 住 することはできない しかし r 女 性 性 の ということは 母 性 的 なるもの の 想 像 的 イマーゴをさらに 象 徴 的 母 として 形 成 するには(それがもし 可 能 だと しても) 彼 には 準 拠 すべき 父 の 名 の 示 す 言 葉 が 欠 如 したままであることも 明 白 なのだ 想 像 的 ファルスは 父 の 名 を 代 置 できない 髭 のない 男 をめぐる 換 嶬 的 連 鎖 によってレルヒ がこの 名 を 探 し 求 めているのがわかる 8) 馬 の 歩 みは 以 前 にもまして 遅 くなり 周 囲 の 事 物 もべっとり 壁 に 貼 りついたかのようになか なか 過 ぎ 去 ろうとしない レルヒの 時 間 感 覚 は 麻 癖 し 惇 ましいこの 場 をとてつなもく 長 いこ と 枕 纏 っているように 感 じる 馬 の 変 調 がここでも 不 気 l 床 なものの 到 来 を 予 告 する 非 人 ll11 的 で 疎 遠 だが にもかかわらず 確 実 に 自 分 の 一 部 ないしそれ 以 上 であるような 不 気 l 床 なものとは 何 か そしてついに 彼 は 自 己 自 身 の 鏡 像 とめぐり 会 う bemerkteerjenseitsdersteinbrijckeundbeil 罰 ufigingleicherenlfernungvon dieseralswieersichselbstbefand,einenreiterdeseigenenregimentsaufsich zukommen,undzwareinenwachtmeister,undzwarau[einembraunenmit weibgestiefeltenvorderbeinel1.9) 橘 の 向 こうとこちら 側 に 対 照 的 に 位 lliiするレルヒと 彼 の 鏡 像 がある 彼 は1コ 分 が 今 乗 って いる 馬 以 外 にはこのような 栗 毛 が 中 隊 内 に 存 在 しないことを 知 っている 馬 上 の 兵 士 は 誰 なの か 確 かめようと 拍 車 を 加 えるが 相 手 も 司 様 にして 橋 へと 向 かってくる 顔 が 見 えない しか し この 者 が 紛 れもなく 内 分 自 身 であることを 知 覚 する それは 次 の 瞬 '''1には 消 滅 した -77-
6 レルヒとロフラーノー 騎 兵 の 物 語 における 鏡 像 とに 他 者 - そもそもこの 知 覚 はどこからくるのか それが 彼 であると 教 える 者 は 誰 か 次 の 瞬 間 彼 がさらに 敵 兵 たちの 真 っ 只 中 に 突 入 し 獅 子 奮 迅 の 戦 いをする 如 く 語 られるのだ が それは 何 ら 英 雄 的 行 為 ではない むしろ 極 限 にまで 張 りつめ 今 や 決 壊 した 主 体 の 岻 裂 から 吹 き 出 した 死 の 欲 動 と 等 しいものである この 欲 動 は 象 徴 的 に 血 みどろの 戦 いを 繰 り 広 げる 独 立 勢 力 ピエモンテ 軍 と 支 配 勢 力 の 騎 兵 中 隊 の 双 方 に 向 けての 自 己 分 裂 ( 疑 わしくは あるが 誘 惑 的 な 対 象 /ロフラーノに 体 現 される 父 の 名 )として 提 示 される こうした 状 況 下 にあるレルヒが 敵 味 方 を 区 別 したであろうか 彼 の 知 覚 は 敵 兵 と 自 分 との 攻 防 だけでなく 他 ならぬ 騎 兵 大 尉 ロフラーノが 容 赦 のない 怒 りの 表 情 で 彼 を 腕 む 様 子 をも 捕 える sah(er)dichtnebensichdasgesichtdesrittmeistersmitweitaufgerisseney1 AugenundgrimmigentblOBtenZ2ihnen 10) 戦 闘 が 終 息 に 向 かった 頃 レルヒは 突 然 一 人 とり 残 された 自 分 を 発 見 する そして 前 方 に 今 まさに 川 を 渡 ろうとしている 葦 毛 の 馬 に 乗 った 敵 の 士 官 の 背 を 知 覚 する 馬 がためらってい る そして この 士 官 がくるりと 馬 首 をめぐらせ その 若 い 蒼 白 の 顔 とピストルの 銃 口 を 向 け たときには レルヒの 憎 悪 に 満 ちたサーベルはすでに 敵 の 口 に 突 きささっていたのである 彼 は 鹿 のように 軽 く~ 優 雅 に 死 んでゆく 主 人 の 上 に 高 く 足 をかかげるろ 獲 の 馬 を 連 れ 帰 った この 馬 がどれほどの 価 値 をもっていたか それはロフラーノにレルヒヘの 銃 殺 刑 の 適 用 をまっ たく 無 言 のうちに 正 当 化 する 権 利 を 与 えるほどの(illi(illiをもったものであった すなわち 大 尉 の ひき 馬 を 放 せ/ の 命 令 に 対 して 鞍 に 腰 を 据 えたまま 彼 を 凝 視 しつつ 異 様 な 満 足 感 を 湛 えた 幻 像 の 重 なり に 浸 りきるほどの 落 ち 着 きを 与 えるものだったのである なぜ レルヒ はこのような 気 分 に 捕 縛 されていたのか F1 己 自 身 の 鏡 像 に 出 会 ったことの 帰 結 として 一 体 彼 に 何 が 取 り 戻 された のか しかし この 問 題 に 関 して これまでの 騎 兵 の 物 語 をめ ぐる 議 論 は 残 念 ながらその 解 答 を 見 出 すことができなかった 鋤 者 はこの 試 論 において レルヒによってロフラーノの 眼 前 に 誇 示 された 燕 毛 の 獲 物 がまさ に 一 瞬 であれ 他 者 となり 得 た 曹 長 の 黄 金 数 すなわち 彼 にとって 永 遠 に 失 われていたか に 見 えた 対 象 aの 等 価 物 であると 結 論 づけたい 髭 のない 男 村 の 薄 汚 い 女 自 己 の 鏡 像 馬 上 の 若 い 敵 の 兵 士 のいずれにも 共 通 するのは 顔 を 見 定 めることができないということで ある しかし rヴーイッチ の 顔 も 例 外 ではない レルヒは 結 局 のところ 彼 女 に きめの 細 か い 白 い 肌 以 上 のものを 見 ていないからである 鏡 像 とはそもそもそれを 見 る 者 とは 鏡 而 を 隔 てて 対 1 時 している 曹 長 は 確 かにいずれの 遭 遇 においてもそれらの 鏡 像 を 見 たのだが 但 しそれを 背 に1コの 方 向 から 見 ていたである 彼 に それが 自 己 自 身 であると 教 えた 者 は 他 者 となったレルヒ 自 身 であったのである こうしたレルヒにとって 自 己 の 欲 望 を 他 者 の 欲 望 として 鏡 像 自 己 へと 向 け 変 えることは 何 の 前 提 もなしに 果 たし 得 ることではなかった つま -78-
旭 川 医 科 大 学 紀 要 7 り この 目 的 のためには 鏡 像 他 者 としての 母 性 的 なるもの と 本 来 の 大 文 字 の 他 者 であ る 認 知 の 審 級 への 自 己 同 一 化 の 試 みと 挫 折 によって 彼 の 行 為 が 象 徴 化 されていなければならな い 上 段 で 妄 想 分 裂 態 勢 と 抑 欝 態 勢 という 表 現 を 用 いたが これは ヴーイッチ と 村 の 薄 汚 い 女 の 対 照 性 に 見 られるように また 執 劫 に 雌 性 が 強 調 されるように レルヒが 鏡 像 他 者 の 背 後 に 自 己 を 確 立 しようとしたときの 瀞 Iwll 的 外 傷 を 示 しているし 髭 のない 男 の 身 廠 体 から 破 れ 出 てくる 金 銭 は 父 性 に 鏡 像 自 己 を 託 した 際 に 何 度 も 滅 び 去 った 自 分 自 身 を 象 徴 し ている いわば 彼 自 身 の 残 骸 ミイラなのである しかし 他 人 にはそれがどれほど 悴 ましい ものと 映 ろうと レルヒにとっては このミイラがかつての 彼 の 欲 動 の 結 実 根 源 的 受 動 者 と してのかつての 彼 自 身 であるゆえに そこから 特 別 な 誘 因 力 を 受 け 取 ることが 語 られる Aberinihmwal-einDurstnachunerwartetemErwerb,nachGratifikationen,nach plotzlichindietaschelallendendukatenregegeworden '1) 髭 のない 男 は 父 の 名 が 崩 壊 寸 前 の 廃 屋 の 壁 から 剥 がれ 落 ちてゆく 土 のようにその 認 知 の> 権 威 を 失 墜 してゆくことの 象 徴 としてレルヒが 知 覚 した 鏡 像 であるが そこにはひび 割 れ た 鏡 像 他 者 としてのに 母 性 的 なるもの も 重 ね 合 わされている これら 両 而 において 殺 害 され た 本 来 の 自 己 を 回 復 する 手 立 てはどこにあるだろうか ここで 母 性 的 なるもの が 彼 において 想 像 的 イマーゴの 形 成 の 段 階 でどれほど 激 しい 死 の 欲 動 の 攻 撃 に 曝 されたかをふりかえってみる 必 要 がある しかし その 際 看 過 してならないの は 彼 が 村 で 目 撃 した 乳 首 の 垂 れ 下 っている 薄 汚 れた 白 い 牝 犬 あるいは 屠 殺 台 へ 引 かれ て 行 く 牝 牛 すでに 屠 られた 仲 間 の 血 の 臭 いに' 怯 え 足 を 突 っ 張 りそこを 動 こうとしないこの 牝 牛 の 哀 れな 眼 との 遭 遇 が レルヒの 破 壊 本 能 の 奥 底 に 一 筋 の 母 なるもの_,への 罪 の 意 識 を 生 じさせることである この 観 点 から 見 れば 髭 のない 男 はいわゆるレルヒの 抱 く 去 勢 への 恐 怖 の 象 徴 であるだけではなく 金 銭 = 価 値 のあるもの= 勲 功 =ろ 獲 をその 内 部 よ り 生 み 出 す 母 の 身 体 の 象 徴 でもあることになる レルヒが 異 様 な 満 足 感 に 包 まれて 父 の 名 を 自 己 の 存 在 そのものによって 扇 ることに 飽 きないロフラーノ 大 尉 にろ 獲 の 葦 毛 を 差 し 出 すことができたのは むしろ 母 の 認 知 をこそ 欲 望 したからではないのか レルヒが ヴーイッチ の 家 を 宿 舎 に 定 めることは こうして 自 らを 葦 毛 の 馬 と 同 様 に 彼 女 に 捧 げる 欲 望 の 表 現 となる この 馬 は 彼 にとって 彼 が 他 者 として 自 ら 認 知 し 得 る 唯 一 の 対 象 a 黄 金 数 なのだ *** 騎 兵 物 語 は 成 立 からほぼ--. 世 紀 を 経 て その 秘 密 のヴェールを 取 り 払 われる 時 がそろそろ 来 てもよいように 思 われる 筆 者 は 今 同 提 起 した 諸 問 題 を いずれさらに 詳 細 に 論 じる 考 えで -79-
8 レルヒとロフラーノー 騎 兵 の 物 語 における 鏡 像 と 他 者 1- ある その 際 にはもちろん ホフマンスタールの 他 の 短 禰 特 に チャンドス 卿 の 手 紙 も 同 様 の 観 点 から 考 慮 されることになるだろう 註 使 用 テクストは HugovonHolmannsthal:ReiLergeschichte FischerTaschenbuchl357 Frankfurt/M l97a RGと 略 記 する 1)RiidigerStein1ein,HZ 忽 Dilノ077 日 1リラ)7α'2"SIIル(Ms (RGilc? 酉 BSC/Iz1icル11F (1991),Deutsche PhilologieBdllO/Helt2.p 209 2)OtfriedHoppe,H21gUヒ ノ0 LMMT7777s/MbReノルフ 蔀 scaijwb(1980),deutschen()vellenvoll GoethebisWalser,ScriptorTbpp 70-73 3) 田 LljmI(1993) 親 和 力 あるいは 物 語 のサイクロイド 旭 川 医 科 大 学 紀 要 ( 一 般 教 育 第 14 号 ) pp29-43 4)RG,p33 5)TheodoreFiedler,HQ/7?z z"s/haks (Rciic?ggsc/)libハノe', " ブルゼLcse/ (1976),GRM,Bd XXVI/Heft2,pl44 VgLOtfriedlloppe,Hi 巴 Dzノ0 H1フル? "72s"z`/:Rci/e7gescノ(zjch/c(1980),DeutscheNovel lenvongoethebiswalser,scriptortb.p 51 6)RG,p36 7)RG,p 37 8) 田 中 剛 (1996) GUnterGrassのく 局 所 麻 酔 をかけられて>と 他 者 の 問 題 旭 川 医 科 大 学 紀 要 ( 一 般 教 育 第 17 号 ) p 37 9)RG,p41 10)RG,p 42 11)RG,p38-80-