主 文 1 原 告 の 請 求 を 棄 却 する 2 訴 訟 費 用 は 原 告 の 負 担 とする 事 実 及 び 理 由 第 1 請 求 原 告 が 被 告 に 対 して 平 成 13 年 10 月 16 日 付 けでした 原 告 の 平 成 12 年 分 所 得 税 に 係 る 更 正 の 請 求 ( 以 下 本 件 更 正 請 求 という )に 対 し, 被 告 が 同 年 12 月 25 日 付 けでした 更 正 すべき 理 由 がない 旨 の 通 知 処 分 ( 以 下 本 件 通 知 処 分 という )のうち 総 所 得 金 額 6051 万 7401 円, 納 付 すべき 税 額 793 万 9000 円 を 超 える 部 分 を 取 り 消 す 第 2 事 案 の 概 要 本 件 は, 原 告 が, 勤 務 先 会 社 の 親 会 社 である 米 国 法 人 から 付 与 された 譲 渡 制 限 株 式 の 譲 渡 制 限 が 解 除 されたことにより 受 けた 利 益 について, 譲 渡 制 限 が 解 除 された 平 成 12 年 分 の 給 与 所 得 に 当 たるものとして 確 定 申 告 及 び 修 正 申 告 を したが,これは 誤 りであり,その 付 与 を 受 けた 平 成 11 年 分 の 一 時 所 得 として 申 告 すべきであったとして 本 件 更 正 請 求 をしたところ, 被 告 から 本 件 通 知 処 分 を 受 けたため, 同 処 分 の 取 消 しを 求 めた 事 案 である 1 争 いのない 事 実 (1) 訴 外 米 国 法 人 ヒューレット パッカード カンパニー( 以 下 米 国 HP 社 という )は, 平 成 11 年 3 月, 訴 外 日 本 ヒューレット パッカード 株 式 会 社 ( 以 下 日 本 HP 社 という )の 発 行 済 全 株 式 を 取 得 した 原 告 は, 当 時, 同 社 の 常 務 取 締 役 として 勤 務 していた 米 国 HP 社 は, 平 成 11 年 3 月 に 日 本 HP 社 の 発 行 済 全 株 式 を 取 得 したが,その 頃 より, 米 国 HP 社 から 訴 外 米 国 アジレント テクノロジー 社 ( 以 下 米 国 アジレント 社 とい う )を, 日 本 HP 社 から 訴 外 日 本 アジレント テクノロジー 株 式 会 社 ( 以 下 日 本 アジレント 社 という )をそれぞれスピンオフの 形 式 により 分 社 1
化 する 計 画 を 有 していた( 以 下 本 件 会 社 分 割 という ) (2) 原 告 は, 同 年 4 月 30 日, 米 国 HP 社 より, 同 社 の 譲 渡 制 限 株 式 6470 株 を 付 与 され, 更 にその 後, 平 成 12 年 6 月 2 日 に 同 社 の 譲 渡 制 限 株 式 18 20 株 を 付 与 された( 以 下,これらを 併 せて 本 件 付 与 とい,これによっ て 付 与 された 合 計 8290 株 の 譲 渡 制 限 株 式 を 併 せて 本 件 リストリクテッ ド ストック という また,これらの 株 式 のうち, 当 初 付 与 された647 0 株 を 当 初 付 与 分, 追 加 付 与 された1820 株 を 追 加 付 与 分 とい う ) (3) 本 件 リストリクテッド ストックのうち, 当 初 付 与 分 の 付 与 契 約 ( 以 下 本 件 付 与 契 約 という )は, 基 幹 従 業 員 としての 原 告 との 雇 用 を 継 続 す るためのインセンティブを 与 えるために 締 結 されたものであり,その 付 与 契 約 書 ( 甲 5)には, 次 のような 記 載 があった ア 株 式 の 付 与 (1 条 ) 米 国 HP 社 は, 原 告 に 対 し, 本 件 付 与 契 約 及 び1995 年 社 員 持 株 制 度 の 条 件 に 基 づき, 本 件 リストリクテッド ストック6470 株 を 付 与 する イ 権 利 帰 属 条 件 及 び 日 程 (2 条 ) 原 告 が1 米 国 HP 社 の 基 幹 的 地 位 又 は2 本 件 会 社 分 割 業 務 に 直 接 又 は 実 質 的 に 関 連 する 米 国 HP 社 における 基 幹 的 地 位 のいずれかに 留 まっている 場 合 で, 平 成 12 年 9 月 1 日 に 同 分 割 が 完 了 するまでの 間, 継 続 的 にフル タイムの 勤 務 形 態 で 雇 用 契 約 を 維 持 した 場 合, 同 日 ( 以 下 帰 属 確 定 日 という )において 同 ストックに 係 る 全 ての 権 利 は 原 告 に 帰 属 する ウ 譲 渡 制 限 (3 条 ) (ア)( 権 利 の 帰 属 の 確 定 ) 本 件 リストリクテッド ストック 又 は 本 件 付 与 契 約 に 基 づき 付 与 された 株 式 は, 帰 属 確 定 日 まで 売 却, 入 質 又 は 移 転 す ることができない( 以 下, 本 件 付 与 契 約 締 結 日 から 帰 属 確 定 日 までの 期 2
間 を 制 限 期 間 という ) (イ)( 没 収 ) 同 ストックは,2 条 に 基 づく 帰 属 確 定 前 に, 原 告 が 死 亡 等 を 除 く 理 由 で 退 職 若 しくは 休 職 し, 又 は 本 件 会 社 分 割 に 関 する 職 責 を 果 たすことなく 同 業 務 に 直 接 又 は 実 質 的 に 関 連 しない 別 の 地 位 に 就 いた 場 合 等 には 没 収 される エ 株 券 の 表 示 (4 条 ) 株 券 には, 本 株 券 で 表 章 される 株 式 につき 米 国 HP 社 と 原 告 との 間 の 契 約 の 適 用 を 受 け,その 契 約 書 の 写 しは, 同 社 の 主 たる 事 務 所 で 保 管 する ものとする 旨 の 表 示 を 付 する オ エクスロー(5 条 ) 本 件 リストリクテッド ストック( 当 初 付 与 分 )を 証 する 株 券 は,エク スロー エージェントとしての 米 国 HP 社 の 総 務 部 長 に 交 付 預 託 され, 更 に 原 告 名 義 で 譲 渡 制 限 株 式 帳 簿 に 記 入 登 録 され 得 る 同 株 券 又 は 帳 簿 記 入 株 式 は, 制 限 期 間 が 満 了 するまでエクスロー エージェントが 保 管 し, 制 限 期 間 が 満 了 したときは, 同 エージェント 又 は 原 告 が 保 管 する カ 原 告 の 株 主 権 (6 条 ) 原 告 は, 制 限 期 間 中, 本 件 リストリクテッド ストック( 当 初 付 与 分 ) について, 本 件 付 与 契 約 3 条 に 定 める 売 却, 入 質 又 は 移 転 の 権 利 を 除 き, 同 ストックに 係 る 全 ての 株 主 権 ( 議 決 権 及 び 配 当 受 領 権 )を 有 する (4) 本 件 リストリクテッド ストックに 付 された 譲 渡 制 限 は, 平 成 12 年 9 月 1 日 に 解 除 された( 以 下 本 件 制 限 解 除 という ) 同 時 点 における 同 ス トックの 市 場 価 格 は 合 計 102 万 6675.05ドル( 為 替 レート106. 65 円, 合 計 1 億 0949 万 4894 円 )であった( 以 下 本 件 利 益 とい う ) (5) 原 告 は, 別 表 のとおり, 平 成 12 年 分 ( 以 下 本 件 年 分 という )の 所 得 税 につき, 平 成 13 年 3 月 8 日, 本 件 利 益 及 び 日 本 HP 社 からの 給 与 額 4 3
098 万 4676 円 の 合 計 額 1 億 5047 万 9570 円 を 給 与 所 得 額 として, 総 所 得 金 額 1 億 4273 万 7489 円, 納 付 税 額 3816 万 8400 円 とす る 確 定 申 告 をした 原 告 は, 同 年 6 月 19 日 に 修 正 申 告 をしたが, 総 所 得 金 額 に 異 同 はない (6) その 後, 原 告 は, 別 表 のとおり, 本 件 利 益 は 給 与 所 得 に 該 当 しないとして 本 件 更 正 請 求 をしたが, 被 告 は, 平 成 13 年 12 月 25 日 付 けで 本 件 通 知 処 分 をし,その 後 になされた 異 議 申 立 及 び 審 査 請 求 も 棄 却 された なお, 本 件 通 知 処 分 に 処 分 理 由 は 附 記 されていない (7) 原 告 は, 平 成 15 年 7 月 11 日, 本 件 訴 えを 提 起 した なお, 原 告 は, 本 件 における 主 張 額 を 別 表 スピンオフ 配 当 の 場 合 欄 のとおり 訂 正 した 2 争 点 (1) 本 件 利 益 の 所 得 区 分 (2) 本 件 利 益 に 係 る 所 得 の 帰 属 年 分 (3) 理 由 附 記 の 適 否 3 争 点 に 関 する 当 事 者 の 主 張 (1) 争 点 (1)( 本 件 利 益 の 所 得 区 分 )について ( 原 告 の 主 張 ) 本 件 リストリクテッド ストックのうち 当 初 付 与 分 6470 株 は, 原 告 が 勤 務 する 日 本 HP 社 からではなく,その 親 会 社 である 米 国 HP 社 から 付 与 さ れたもので, 原 告 と 同 社 との 間 には 直 接 の 雇 用 関 係 又 はこれに 類 似 する 契 約 もなく, 同 社 の 指 揮 命 令 に 服 して 労 務 を 提 供 したこともない 更 に, 制 限 期 間 中 の 日 本 HP 社 に 対 する 継 続 的 勤 務 は 本 件 制 限 解 除 の 要 件 にすぎず, 株 式 を 取 得 するための 要 件 ではない したがって, 上 記 6470 株 に 対 応 する 利 益 は, 就 労 の 対 価 としての 給 与 所 得 ではなく, 一 時 的 偶 発 的 所 得 としての 一 時 所 得 に 該 当 するものというべきである また, 本 件 リストリクテッド ストックのうち, 追 加 付 与 分 1820 株 は, 4
米 国 HP 社 の 株 主 であった 原 告 に 対 し, 同 社 の 子 会 社 である 米 国 アジレント 社 の 株 式 2467.658 株 が 無 償 交 付 され,それを 等 価 交 換 により 米 国 H P 社 の 株 式 1820 株 に 変 換 したものであるところ, 米 国 アジレント 社 の 株 式 の 交 付 は, 会 社 分 割 によるものであるから, 所 得 税 法 25 条 1 項 1 号 によ って,その 利 益 はみなし 配 当 所 得 に 該 当 する ( 被 告 の 主 張 ) 最 高 裁 判 所 平 成 17 年 1 月 25 日 第 三 小 法 廷 判 決 ( 民 集 59 巻 1 号 64 頁, 以 下 最 高 裁 平 成 17 年 判 決 という )は,ストックオプションの 権 利 行 使 益 は 給 与 所 得 に 該 当 する 旨 の 判 断 を 示 しているところ, 本 件 利 益 も 同 判 決 で 問 題 とされたストックオプションに 係 る 権 利 行 使 益 と 同 性 質 のものという べきであるから, 給 与 所 得 に 該 当 する 原 告 の 主 張 は, 同 判 決 を 無 視 した 独 自 の 主 張 であって 失 当 である 仮 に, 同 利 益 が 給 与 所 得 に 該 当 しないとしても,それは 一 時 所 得 ではなく 雑 所 得 に 該 当 すると 解 すべきものである (2) 争 点 (2)( 本 件 利 益 に 係 る 所 得 の 帰 属 年 分 )について ( 原 告 の 主 張 ) 各 種 所 得 の 金 額 の 計 算 上 収 入 金 額 とすべき 金 額 は,その 年 において 収 入 す べき 金 額 ( 金 銭 以 外 の 物 又 は 権 利 その 他 経 済 的 な 利 益 をもって 収 入 する 場 合 には,その 金 銭 以 外 の 物 又 は 権 利 その 他 経 済 的 利 益 の 価 額 )である( 所 得 税 法 36 条 1 項 ) 原 告 は, 平 成 11 年 中 に 本 件 リストリクテッド ストックのうち6470 株 を 付 与 され, 同 株 式 に 基 づく 配 当 受 領 権, 議 決 権 も 有 していたのであるか ら, 少 なくとも 同 ストックに 関 する 限 り,たとえそれが 譲 渡 制 限 付 であった としても,これを 保 有 する 経 済 的 利 益 は 同 年 中 に 発 生 したものである 株 式 の 譲 渡 制 限 が 解 除 されたことによる 利 益 は, 同 条 項 にいう 経 済 的 利 益 に は 該 当 しない 5
このことは,1 権 利 等 の 換 価 可 能 性 は 必 ずしも 所 得 課 税 の 要 件 とされてい るものではないし, 未 実 現 の 利 益 であってもみなし 配 当 所 得 して 課 税 される ことがあること,2 勤 務 会 社 から 譲 渡 制 限 のない 株 式 を 付 与 された 場 合 には, その 付 与 された 時 点 での 株 価 相 当 額 が 給 与 所 得 として 課 税 されることとの 均 衡,3 我 が 国 において, 勤 務 会 社 から 定 款 により 譲 渡 制 限 が 付 された 株 式 の 付 与 を 受 けた 場 合 にも,その 付 与 された 時 点 での 株 価 相 当 額 が 給 与 所 得 とし て 課 税 されることとの 均 衡 等 の 諸 点 に 照 らしても 明 らかである 原 告 は, 平 成 11 年 分 の 所 得 税 について, 本 件 リストリクテッド ストッ クの 付 与 に 係 る 所 得 を 申 告 していないが,それは, 同 ストックを 売 却 するま では 所 得 の 発 生 がないと 理 解 していたからにすぎない また, 本 件 リストリクテッド ストックのうち, 追 加 付 与 分 1820 株 に 関 しては, 平 成 12 年 分 の 所 得 として 所 得 計 算 がされるべきであることは, 原 告 も 争 うものではないが,その 所 得 額 は, 原 告 が, 米 国 アジレント 社 の 株 式 を 付 与 された 平 成 12 年 6 月 2 日 時 点 における 同 株 式 の 価 格 (1 株 81. 875ドル)と,その 時 点 における 為 替 相 場 (1ドル107.90 円 )をも とに 計 算 されるべきであり( 米 国 アジレント 社 の 株 式 と 米 国 HP 社 の 株 式 の 交 換 は, 等 価 交 換 であるから,この 交 換 による 利 得 は 発 生 していない ), その 結 果 は, 次 のとおり2180 万 0061 円 となる 81.875(ドル) 2467.658( 株 ) 107.90( 円 ) =2180 万 0061 円 ( 被 告 の 主 張 ) 所 得 税 法 36 条 1 項 にいう 収 入 すべき 金 額 とは, 実 現 した 収 益,すな わち,いまだ 収 入 がなくとも 収 入 すべき 権 利 の 確 定 した 金 額 をいい,いわゆ る 権 利 確 定 主 義 を 表 明 した 規 定 である ここにいう 権 利 の 確 定 とは, 権 利 の 発 生 と 同 義 ではなく, 権 利 の 発 生 後 一 定 の 事 情 が 加 わって 権 利 実 現 の 可 能 性 が 増 大 したことを 客 観 的 に 認 識 することができるようになったときを 意 味 す 6
る 本 件 付 与 時 点 においては, 本 件 リストリクテッド ストックには 譲 渡 制 限 が 付 され, 株 券 も 米 国 HP 社 総 務 部 長 に 預 託 されており, 原 告 が 一 定 期 間 日 本 HP 社 に 勤 務 するという 条 件 が 成 就 しなければ 没 収 される 権 利 であって, 原 告 は 本 件 制 限 解 除 時 まで 同 ストックを 自 由 に 処 分 することはできなかった のであるから, 同 付 与 時 点 で 所 得 税 の 課 税 関 係 が 発 生 すると 解 することは 相 当 ではない したがって, 本 件 制 限 解 除 時 をもって 現 実 収 入 の 発 生 ないし 権 利 の 確 定 時 期 ととらえて 本 件 利 益 を 収 入 計 上 するのが 権 利 確 定 主 義 からの 帰 結 である なお, 本 件 付 与 に 係 る 契 約 書 によれば, 本 件 リストリクテッド ストック を 原 告 が 取 得 するのは, 本 件 付 与 時 ではなく 本 件 制 限 解 除 時 であると 解 する 方 が 素 直 な 解 釈 である (3) 争 点 (3)( 理 由 附 記 の 適 否 )について ( 原 告 の 主 張 ) 本 件 通 知 処 分 には 処 分 理 由 が 附 記 されておらず, 違 法 である ( 被 告 の 主 張 ) 更 正 すべき 理 由 のない 旨 の 通 知 処 分 に 理 由 を 附 記 することは 法 令 上 要 求 さ れていないから, 本 件 通 知 処 分 に 処 分 理 由 が 附 記 されていないからといって 同 処 分 が 違 法 となるものではない 第 3 当 裁 判 所 の 判 断 1 事 実 認 定 前 記 争 いのない 事 実 に 証 拠 等 ( 甲 2,3,5,9ないし11,14,15, 乙 1ないし7,9, 弁 論 の 全 趣 旨 )を 総 合 すると, 次 の 事 実 が 認 められる (1) 米 国 HP 社 は, 平 成 11 年 3 月 に 日 本 HP 社 の 発 行 済 全 株 式 を 取 得 したが, その 頃 より, 米 国 HP 社 から 米 国 アジレント 社 を, 日 本 HP 社 から 日 本 アジ レント 社 をそれぞれスピンオフの 形 式 により 分 社 化 する 計 画 を 有 していた 7
( 本 件 会 社 分 割 ) なお,スピンオフとは, 会 社 の 一 部 門 を 切 り 離 し 独 立 させる 分 社 化 の 一 方 式 であり, 各 企 業 の 中 で 事 業 運 営 を 実 際 に 行 っている 事 業 部 門 の 担 当 管 理 職 が 自 ら 事 業 の 経 営 者 となることにより,その 者 や 管 理 職 ら 従 業 員 等 の 会 計 責 任 意 識 やコミットメントの 向 上 を 期 待 することができるものとして, 近 年 米 国 で 活 発 に 利 用 されている (2) 米 国 HP 社 は, 同 年 4 月 30 日, 原 告 との 間 で, 原 告 が 本 件 会 社 分 割 に 従 事 する 基 幹 従 業 員 として 継 続 して 参 加 することが 同 分 割 を 適 切 な 時 期 に 完 了 させるために 必 須 であるとの 認 識 の 下 に, 基 幹 従 業 員 として 原 告 との 雇 用 を 継 続 するためのインセンティブを 付 与 するために, 本 件 リストリクテッド ストック6470 株 を 付 与 する 合 意 をした( 本 件 付 与 契 約 ) その 際 の 条 件 は, 前 記 第 2の1(3) 記 載 のとおりであった (3) 米 国 HP 社 は, 平 成 11 年 5 月 5 日, 原 告 に 対 し, 本 件 付 与 契 約 による 本 件 リストリクテッド ストック( 当 初 付 与 分 )の 付 与 に 関 する 文 書 を 送 付 し た 同 文 書 の 記 載 内 容 は, 概 ね 次 のとおりである ア 本 件 会 社 分 割 を 成 功 させるためには, 原 告 のように 米 国 HP 社 の 全 般 的 な 成 功 に 大 きく 貢 献 した 実 績 を 有 する 主 要 な 基 幹 従 業 員 の 役 割 が 重 大 であ り,その 特 別 な 尽 力 が 必 要 であって, 同 社 は, 原 告 が 更 なる 重 責 と 増 加 す る 職 務 を 引 き 受 けて 同 分 割 を 成 功 させることを 期 待 する イ 米 国 HP 社 は, 本 件 会 社 分 割 を 成 功 させるために 求 められる 原 告 の 専 門 知 識 と 更 なる 貢 献 尽 力 に 報 いるため, 特 別 な 株 式 報 奨 として, 本 件 リス トリクテッド ストック6470 株 ( 完 全 確 定 日 平 成 12 年 9 月 1 日 )を 原 告 に 付 与 する ウ エ 原 告 は, 同 ストックの 受 領 者 として 配 当 受 領 権 及 び 議 決 権 を 有 する 原 告 は, 同 ストックに 係 る 株 式 の 付 与 を 確 定 させる 条 件 として, 本 件 会 社 分 割 の 基 幹 業 務 を 一 定 期 間 継 続 することが 求 められる 8
(4) 平 成 11 年 11 月, 米 国 HP 社 と 米 国 アジレント 社 の 分 割 及 び 日 本 HP 社 と 日 本 アジレント 社 の 分 割 が 完 了 し, 各 社 は 独 立 して 営 業 を 開 始 した (5) 米 国 HP 社 の 取 締 役 会 は, 平 成 12 年 4 月 7 日, 同 社 が 保 有 する 全 ての 米 国 アジレント 社 株 式 を 米 国 HP 社 株 主 に 分 配 すること(スピンオフ)を 承 認 した 同 スピンオフに 伴 い, 原 告 も, 同 年 6 月 2 日, 当 初 付 与 分 に 係 る 米 国 HP 社 の6470 株 に 対 応 する 米 国 アジレント 社 の 株 式 2467.658 株 (スピンオフの 条 件 に 従 い, 米 国 HP 社 株 式 1 株 につき, 米 国 アジレント 社 の 株 式 0.3814 株 の 割 合 で 付 与 株 数 が 計 算 された )を 付 与 されたが, この 米 国 アジレント 社 株 式 は, 同 日 時 点 における 株 価 の 比 率 によって 米 国 H P 社 の 株 式 1820 株 に 変 換 されたため, 結 局, 原 告 は, 米 国 HP 社 の 株 式 1820 株 (ただし, 当 初 付 与 分 6470 株 と 同 様 の 制 限 付 き)を 追 加 付 与 されたこととなる (6) 原 告 は, 同 年 8 月 14 日, 米 国 HP 社 に 対 し, 本 件 リストリクテッド ス トックについて,1 証 明 書 を 発 行 して 住 所 地 に 送 付 する 方 法,2 米 国 HP 社 の 株 式 管 理 信 託 銀 行 の 口 座 に 株 式 を 入 れる 方 法 又 は3 全 株 式 を 売 却 する 方 法 のうち,1の 方 法 を 選 択 する 旨 回 等 した (7) 同 年 9 月 1 日, 本 件 付 与 契 約 に 基 づき, 本 件 リストリクテッド ストック に 付 されていた 譲 渡 制 限 が 解 除 された( 本 件 制 限 解 除 ) (8) 米 国 HP 社 は, 原 告 に 対 し, 同 月 20 日 付 けの 文 書 により, 次 の 通 知 をし た ア 1995 年 社 員 持 株 制 度 の 条 件 に 従 い, 平 成 11 年 4 月 30 日 に 本 件 リ ストリクテッド ストック6470 株 が, 米 国 アジレント 社 のスピンオフ による 配 当 の 結 果 である 追 加 の 米 国 HP 社 株 1820 株 と 共 に 原 告 に 付 与 された イ 同 ストックに 付 されていた 制 限 は, 平 成 12 年 9 月 1 日 に 失 効 したため, 原 告 は 制 限 のない8290 株 の 株 式 を 受 領 する 資 格 を 得 た 9
ウ 上 記 イの 制 限 のない8290 株 の 株 式 については, 制 限 解 除 日 から2な いし3 週 間 以 内 に 株 券 の 発 行 又 は 登 録 預 託 の 手 続 が 行 われるか, 又 は4 営 業 日 以 内 に 売 却 要 求 が 完 了 する (9) なお, 日 本 HP 社 担 当 者 は, 本 件 付 与 日 における 本 件 リストリクテッド ストックの 付 与 価 格 をいずれも0.00ドルとしている(これは, 本 件 更 正 請 求 や 本 件 訴 訟 における 原 告 の 主 張 額 とも 符 合 する ) 2 争 点 (1)( 本 件 利 益 の 所 得 区 分 )について (1) 本 件 利 益 は, 原 告 が 常 務 取 締 役 であった 日 本 HP 社 からではなく, 米 国 H P 社 から 付 与 されたものである しかしながら, 上 記 認 定 事 実 によれば, 米 国 HP 社 は, 日 本 HP 社 の 発 行 済 全 株 式 を 有 する 親 会 社 であるから, 米 国 H P 社 は 日 本 HP 社 の 役 員 の 人 事 権 等 の 実 権 を 握 ってこれを 支 配 しているもの とみることができるのであって, 原 告 は, 米 国 HP 社 の 統 轄 の 下 に 日 本 HP 社 の 常 務 取 締 役 として 本 件 会 社 分 割 を 含 む 職 務 を 遂 行 していたものというこ とができる そして, 上 記 認 定 事 実 によれば, 本 件 リストリクテッド ストックは,ヒ ューレット パッカードグループにおける 本 件 会 社 分 割 の 遂 行 上, 同 社 幹 部 役 員 等 に 対 する 精 勤 の 動 機 付 けとすることなどを 企 図 して 付 与 されたもので あり, 米 国 HP 社 は, 原 告 が 上 記 のとおり 職 務 を 遂 行 しているからこそ, 原 告 との 間 で 本 件 付 与 契 約 を 締 結 して 原 告 に 対 し 同 ストックを 付 与 し,その 譲 渡 制 限 を 所 定 の 時 期 に 解 除 したものであって, 本 件 利 益 が 原 告 が 上 記 のとお り 職 務 を 遂 行 したことに 対 する 対 価 としての 性 質 を 有 する 経 済 的 利 益 である ことは 明 らかというべきである したがって, 本 件 利 益 は, 雇 用 契 約 又 はこれに 類 する 原 因 に 基 づき 提 供 さ れた 非 独 立 的 な 労 務 の 対 価 として 給 付 されたものとして, 所 得 税 法 28 条 1 項 所 定 の 給 与 所 得 に 当 たると 解 するのが 相 当 である( 最 高 裁 平 成 17 年 判 決 参 照 ) 10
(2) なお, 原 告 は, 本 件 リストリクテッド ストックのうち 追 加 付 与 分 182 0 株 は,もともと 米 国 HP 社 の 株 主 である 原 告 に 対 し, 会 社 分 割 を 原 因 とし て 米 国 アジレント 社 の 株 式 が 無 償 交 付 され,それが 米 国 HP 社 の 株 式 に 変 換 されたものであるから, 所 得 税 法 25 条 1 項 1 号 によってみなし 配 当 所 得 と されるべきものであると 主 張 する たしかに, 原 告 に 対 しては, 平 成 12 年 6 月 2 日 に 米 国 アジレント 社 の 株 式 2467.658 株 が 交 付 され, 同 日 時 点 における 株 価 の 比 率 によって 米 国 HP 社 の 株 式 1820 株 に 変 換 されたこ とは 前 認 定 のとおりであるが,1このような 操 作 がなされた 目 的 は, 米 国 H P 社 の 分 割 により, 株 式 1 株 の 価 値 が 下 がったため,それを 補 填 することに あったことは, 日 本 HP 社 の 担 当 者 及 び 原 告 が 一 致 して 認 めるところであり ( 甲 3),これによれば, 追 加 付 与 分 1820 株 は, 当 初 付 与 分 6470 株 の 価 値 を 維 持 するために 付 与 されたものであって, 両 者 は 一 体 とみることが できること,2 原 告 は, 米 国 HP 社 の 株 主 ( 当 初 付 与 分 6470 株 の 保 有 者 )として, 米 国 アジレント 社 の 株 式 の 無 償 交 付 を 受 けたこととされている ものの,その 時 点 においては, 原 告 は, 米 国 HP 社 の 株 式 を 確 定 的 に 取 得 し ていたとはいい 難 く(この 点 については, 後 記 3の 検 討 参 照 ),したがって, 米 国 アジレント 社 の 株 式 を 確 定 的 に 付 与 し,その 処 分 を 許 すことは 本 件 リス トリクテッド ストック 付 与 の 趣 旨 に 反 するものと 考 えられたことから, 米 国 アジレント 社 の 株 式 が 直 ちに 米 国 HP 社 の 株 式 (ただし, 当 初 付 与 分 と 同 様 の 制 限 付 き)に 変 換 されたものと 推 測 されること,3 制 限 解 除 後 に 米 国 H P 社 から 原 告 に 対 してされた 通 知 ( 乙 7)においても, 当 初 付 与 分 6470 株 と 追 加 付 与 分 1820 株 は, 何 ら 区 別 がされず, 一 体 のものとして 取 り 扱 われていることなどの 事 情 に 照 らしてみると, 原 告 に 対 していったん 米 国 ア ジレント 社 の 株 式 を 付 与 する 形 式 が 採 られたのは, 追 加 付 与 すべき 米 国 HP 社 の 株 式 数 を 算 定 するための 計 算 上 の 必 要 に 基 づくものにすぎず,その 実 体 は, 当 初 付 与 分 と 同 様 の 制 限 付 きの 米 国 HP 社 の 株 式 が 追 加 付 与 されたもの 11
であると 認 めるのが 相 当 である したがって, 所 得 区 分 や 所 得 計 算 において, 当 初 付 与 分 6470 株 と 追 加 付 与 分 1820 株 とを 区 別 して 取 り 扱 う 必 要 は ないものというべきである 3 争 点 (2)( 本 件 利 益 に 係 る 所 得 の 帰 属 年 分 )について (1) 所 得 税 法 36 条 は, その 年 分 の 各 種 所 得 の 金 額 の 計 算 上 収 入 金 額 とすべ き 金 額 又 は 総 収 入 金 額 に 算 入 すべき 金 額 は, 別 段 の 定 めがあるものを 除 き, その 年 において 収 入 すべき 金 額 ( 金 銭 以 外 の 物 又 は 権 利 その 他 経 済 的 な 利 益 をもつて 収 入 する 場 合 には,その 金 銭 以 外 の 物 又 は 権 利 その 他 経 済 的 な 利 益 の 価 額 )とする (1 項 ), 前 項 の 金 銭 以 外 の 物 又 は 権 利 その 他 経 済 的 な 利 益 の 価 額 は, 当 該 物 若 しくは 権 利 を 取 得 し, 又 は 当 該 利 益 を 享 受 する 時 における 価 額 とする (2 項 )と 規 定 する ここに, 収 入 すべき 金 額 としているのは, 現 実 の 収 入 がなくても,そ の 収 入 の 原 因 となる 権 利 が 確 定 した 場 合 には,その 時 点 で 所 得 の 実 現 があっ たものとして 同 権 利 確 定 の 時 期 の 属 する 年 分 の 課 税 所 得 を 計 算 するという 建 前 (いわゆる 権 利 確 定 主 義 )を 表 明 したものであり,ここにいう 収 入 の 原 因 となる 権 利 が 確 定 する 時 期 は,それぞれの 権 利 の 特 質 を 考 慮 し 決 定 されるべ きものである( 最 高 裁 昭 和 53 年 2 月 24 日 第 二 小 法 廷 判 決 民 集 32 巻 1 号 43 頁 参 照 ) (2) 本 件 付 与 契 約 においては, 上 記 認 定 のとおり, 本 件 制 限 解 除 日 ( 帰 属 確 定 日 )において, 本 件 リストリクテッド ストックに 係 る 全 ての 権 利 は 原 告 に 帰 属 するものとされているのであるから, 同 ストックに 係 る 権 利 が 最 終 的 に 原 告 に 帰 属 したのは 同 解 除 日 ( 平 成 12 年 9 月 1 日 )であるとの 解 釈 を 許 容 し 得 るものである もっとも, 他 方,1 同 契 約 によれば, 原 告 は 本 件 付 与 日 以 降, 本 件 リスト リクテッド ストックを 売 却, 入 質 又 は 移 転 する 権 利 を 除 く 全 ての 株 主 権 を 有 するものとされていること,2 同 ストックについては, 原 告 名 義 で 譲 渡 制 12
限 株 主 帳 簿 に 記 入 登 録 され 得 るものとされていること,3 原 告 が 制 限 期 間 中 に 日 本 HP 社 を 退 職 したとき 等 には 同 ストックは 没 収 されると 規 定 されて いるところ,これは, 制 限 期 間 中 原 告 が 同 ストックに 係 る 株 主 であることを 前 提 とする 規 定 と 読 めなくもないことなどに 照 らすと, 本 件 付 与 によって 原 告 が 同 ストックに 係 る 株 主 としての 権 利 を 取 得 した 可 能 性 も 否 定 できない しかしながら, 仮 にこのような 前 提 に 立 つとしても, 本 件 においては, 上 記 認 定 判 断 のとおり,1 本 件 リストリクテッド ストックに 付 された 譲 渡 制 限 が 解 除 されるためには, 原 告 が 平 成 12 年 9 月 1 日 までの 間, 米 国 HP 社 における 基 幹 的 地 位 に 留 まりながら 継 続 的 にフルタイムの 勤 務 形 態 で 雇 用 契 約 を 継 続 すること 等 の 条 件 が 付 されており,これに 反 したときは 同 ストッ クも 没 収 されるという 不 確 定 な 権 利 が 認 められているにすぎないこと,2 同 ストックに 係 る 株 券 は,エクスロー エージェントとしての 米 国 HP 社 総 務 部 長 に 交 付 預 託 されており, 原 告 は 本 件 制 限 解 除 日 までその 交 付 を 受 ける こともできないものとされているため, 原 告 が 制 限 付 株 式 を 処 分 することは, 事 実 上 不 可 能 であったといえること,3 本 件 リストリクテッド ストックの 趣 旨 に 照 らし, 一 般 の 譲 渡 制 限 付 株 式 の 場 合 に 認 められる 株 式 買 取 請 求 権 等 の 行 使 は,およそ 想 定 されていなかったものと 解 されること,4 日 本 HP 社 担 当 者 は, 本 件 付 与 日 における 同 ストックの 付 与 価 格 をいずれも0.00ド ルとしており, 制 限 解 除 前 の 同 ストックは 市 場 価 格 が 形 成 されないものであ ると 認 められること,5 原 告 は, 平 成 12 年 9 月 1 日 に 同 ストックにつき 本 件 制 限 解 除 を 受 けたところ, 同 解 除 は, 原 告 が 制 限 期 間 中 本 件 付 与 契 約 を 遵 守 し, 米 国 HP 社 及 び 日 本 HP 社 による 本 件 会 社 分 割 等 の 業 務 を 含 む 諸 般 の 業 務 を 誠 実 に 遂 行 したことに 対 する 対 価 としての 意 味 を 有 するものであるこ とが 認 められるのである 以 上 の 点 に 照 らしてみると, 本 件 制 限 解 除 に 至 るまでの 原 告 は, 形 式 上 米 国 HP 社 の 株 主 であるとはされているものの,その 保 有 する 株 式 を 処 分 する 13
ことも, 株 式 買 取 請 求 権 等 の 行 使 によって 株 式 の 処 分 に 替 えてその 価 値 を 取 得 することもおよそ 不 可 能 な 状 況 に 置 かれていたものというべきであるから, このような 時 点 において, 株 式 の 経 済 的 価 値 を 取 得 するに 至 ったと 評 価 する ことはできず,むしろ, 本 件 リストリクテッド ストックに 係 る 経 済 的 利 益 の 取 得 は, 本 件 制 限 解 除 によって 初 めて 現 実 化 したものであって,その 年 分 の 所 得 として 認 識 するのが 相 当 であるというべきである 仮 に 本 件 付 与 日 ( 追 加 付 与 分 については,その 付 与 日 )において 原 告 が 本 件 リストリクテッ ド ストックに 係 る 経 済 的 利 益 を 取 得 したと 考 えるとすると, 原 告 は, 現 実 には 株 式 の 価 値 に 相 当 する 利 益 を 取 得 する 手 段 が 全 くないにもかかわらず, 付 与 日 の 株 価 を 基 準 として 算 出 した 所 得 に 対 応 する 多 額 の 所 得 税 の 納 税 義 務 を 負 うこととなるが,このような 結 論 は, 原 告 にとっても 酷 といわざるを 得 ないのであって,この 点 からしても, 上 記 のように 解 するのが 相 当 というべ きである なお, 所 得 税 法 36 条 1,2 項 との 関 連 で,これを,1 原 告 が 本 件 リスト リクテッド ストックに 係 る 権 利 を 取 得 したのは 本 件 付 与 日 であるものの, 上 記 の 契 約 の 実 態 に 即 しその 収 入 すべき 金 額 の 帰 属 年 分 を 本 件 年 分 とするか, 2 同 ストックに 係 る 株 主 権 のうちこれを 換 価 譲 渡 する 権 利 は 本 件 制 限 解 除 日 に 取 得 したとして,その 権 利 取 得 日 の 属 する 本 件 年 分 を 収 入 の 帰 属 年 分 と するか,3 本 件 利 益 は 同 条 1 項 の 経 済 的 利 益 に 該 当 し,それが 発 生 した 本 件 制 限 解 除 日 の 属 する 本 件 年 分 を 収 入 の 帰 属 年 分 とするかは, 説 明 の 仕 方 の 相 違 にすぎないものと 解 される(なお, 上 記 (2) 冒 頭 部 分 のように, 原 告 が 本 件 制 限 解 除 日 まで 本 件 リストリクテッド ストックに 係 る 株 主 権 を 実 質 的 に 取 得 していなかったとすれば, 原 告 が 株 主 権 を 取 得 して 本 件 利 益 を 収 入 した 日 は, 本 件 制 限 解 除 日 の 属 する 本 件 年 分 ということになる ) (3) これに 対 し, 原 告 は, 権 利 等 の 換 価 可 能 性 は 必 ずしも 所 得 課 税 の 要 件 とさ れているものではないと 主 張 するが,このような 換 価 可 能 性 は 所 得 課 税 の 担 14
税 力 を 裏 付 けるものとしても 重 要 であって, 換 価 可 能 性 ないし 経 済 的 評 価 可 能 性 の 全 く 認 められない 段 階 で 課 税 することは, 納 税 者 にとってもかえって 酷 な 結 果 を 招 くことがあることは, 既 に 指 摘 したとおりである 原 告 は, 未 実 現 の 利 益 であってもみなし 配 当 所 得 として 課 税 されることがあるとも 主 張 するが,みなし 配 当 所 得 については 別 段 の 立 法 上 の 措 置 ( 平 成 13 年 法 律 第 6 号 による 改 正 前 の 所 得 税 法 25 条 2 項 2 号 )の 下 に 課 税 されていたもので あるから, 本 件 リストリクテッド ストックに 係 る 課 税 関 係 と 同 視 し 得 るも のではない また, 原 告 は, 本 件 通 知 処 分 は, 我 が 国 において 勤 務 会 社 から 譲 渡 制 限 の ない 株 式 あるいは 譲 渡 制 限 の 付 された 株 式 を 付 与 された 場 合 にその 付 与 され た 時 点 での 株 価 相 当 額 が 給 与 所 得 として 課 税 されることとの 整 合 性 がないと 主 張 する しかしながら, 前 者 については 適 正 な 市 場 価 格 による 処 分 が 可 能 であるし, 後 者 については 裁 判 所 により 適 正 な 売 買 価 格 が 決 定 され 換 価 され 得 るものであるから( 商 法 204 条 の5),やはり 本 件 制 限 解 除 前 の 本 件 リ ストリクテッド ストックと 同 視 し 得 るものではない (4) よって, 本 件 利 益 に 係 る 所 得 の 帰 属 年 分 は 本 件 年 分 であると 解 すべきであ る 4 争 点 (3)( 理 由 附 記 の 適 否 )について 本 件 通 知 処 分 に 理 由 が 附 記 されていないことは 当 事 者 間 に 争 いがないところ, 更 正 すべき 理 由 のない 旨 の 通 知 処 分 に 理 由 を 附 記 することを 求 める 法 令 上 の 根 拠 はないから(なお, 国 税 通 則 法 74 条 の2 第 1 項 参 照 ),このことをもって 同 処 分 が 違 法 となるものではない 5 結 論 よって, 本 件 請 求 は 理 由 がないからこれを 棄 却 することとし, 訴 訟 費 用 の 負 担 につき 行 政 事 件 訴 訟 法 7 条, 民 事 訴 訟 法 61 条 を 適 用 して 主 文 のとおり 判 決 する 15
東 京 地 方 裁 判 所 民 事 第 3 部 裁 判 長 裁 判 官 鶴 岡 稔 彦 裁 判 官 清 野 正 彦 裁 判 官 進 藤 壮 一 郎 16