日 帰 り 温 泉 施 設 におけるレジオネラ 症 集 団 発 生 事 例 埼 玉 県 狭 山 保 健 所 倉 島 美 穂 1 はじめに 平 成 24 年 11 月 30 日 から 平 成 24 年 12 月 17 日 にかけて 患 者 8 人 のレジオネラ 症 発 生 届 があ り 患 者 全 員 が 当 所 管 内 の 日 帰 り 温 泉 施 設 を 利 用 していた 埼 玉 県 では 患 者 及 び 施 設 の 調 査 結 果 を 踏 まえ 当 該 施 設 がレジオネラ 症 集 団 感 染 の 原 因 施 設 と 断 定 し 公 衆 浴 場 法 に 基 づく 営 業 停 止 命 令 を 行 った 2 経 過 の 概 要 月 日 経 過 11/30 金 レジオネラ 症 発 生 届 (1 人 目 ) 12/01 土 当 該 施 設 の 立 入 調 査 浴 槽 水 (18 か 所 )の 行 政 検 査 衛 生 管 理 に 関 する 指 導 実 施 12/05 水 レジオネラ 症 発 生 届 (2 人 目 ) 施 設 の 営 業 自 粛 を 指 導 営 業 休 止 (12/05~) 12/07 金 レジオネラ 症 発 生 届 (3 人 目 ) 12/08 土 12/01 採 水 の 浴 槽 水 3 か 所 からレジオネラ 属 菌 検 出 12/10 月 レジオネラ 症 発 生 届 (4 人 目 ) 12/11 火 利 用 施 設 名 を 公 表 12/14 金 12/01 採 水 浴 槽 水 由 来 と 患 者 (1 名 ) 由 来 菌 株 の 遺 伝 子 パターン 不 一 致 12/12~ レジオネラ 症 発 生 届 (5 人 目 ~8 人 目 ) 12/17 月 12/18 火 浴 槽 等 ふき 取 り 等 (12 検 体 )の 行 政 検 査 12/25 火 12/18 浴 槽 ふき 取 りの 1 か 所 からレジオネラ 属 菌 検 出 12/27 木 12/18 浴 槽 由 来 と 患 者 2 人 由 来 菌 株 の 遺 伝 子 パターン 一 致 営 業 者 に 対 し 公 衆 浴 場 法 に 基 づき 営 業 停 止 命 令 01/15 火 営 業 者 が 当 該 公 衆 浴 場 を 廃 業 3 患 者 の 状 況 (1) 発 症 状 況 等 患 者 8 人 ( 性 別 : 男 性 5 人 女 性 3 人 )( 平 均 年 齢 :71.5 歳 ) 1 人 目 2 人 目 3 人 目 4 人 目 5 人 目 6 人 目 7 人 目 8 人 目 患 者 50 代 60 代 70 代 80 代 60 代 70 代 80 代 70 代 男 性 男 性 女 性 女 性 男 性 男 性 男 性 女 性 利 用 日 11/21 11/19 11/24 11/28 11/20 頃 11/29 11/29 11/25 発 症 日 11/26 11/27 12/3 12/5 11/25 頃 12/7 頃 12/6 12/4 発 生 届 11/30 12/5 12/7 12/10 12/12 12/14 12/15 12/17 届 出 先 東 京 都 川 越 市 埼 玉 県 大 阪 市 埼 玉 県 埼 玉 県 埼 玉 県 さいたま 市
(2) 症 状 等 病 型 : 肺 炎 型 (8 人 ) 症 状 発 熱 咳 嗽 呼 吸 困 難 下 痢 全 身 倦 怠 患 者 数 6 4 4 1 1 (%) (75.0) (50.0) (50.0) (12.5) (12.5) (3) 浴 場 施 設 の 利 用 状 況 等 共 通 要 因 発 生 届 のあった 患 者 8 人 全 員 が 同 時 期 に 当 該 施 設 を 利 用 しており 当 該 施 設 以 外 に 共 通 する 利 用 施 設 はなかった 4 施 設 環 境 調 査 (1) 施 設 概 要 建 物 : 鉄 筋 コンクリート 造 2 階 建 て 冷 暖 房 :パッケージ 型 空 冷 式 空 調 機 床 暖 房 ( 加 湿 器 使 用 なし) 使 用 水 : 温 泉 水 (ナトリウム- 塩 化 物 泉 弱 アルカリ 性 ph8.1) 井 水 利 用 浴 室 :2 浴 室 ( 甲 乙 )を1 週 間 単 位 ( 木 ~ 水 )で 男 女 交 互 使 用 浴 槽 : 浴 室 毎 に 12 の 浴 槽 ( 屋 内 6 露 天 6) 循 環 : 浴 室 毎 に 循 環 ろ 過 加 温 4 系 統 循 環 加 温 のみ 3 系 統 消 毒 : 温 泉 の 消 毒 に 銀 イオン 及 び 陽 イオン 剤 併 用 井 水 の 消 毒 に 塩 素 剤 使 用 そ の 他 :エアロゾル 発 生 装 置 として 各 浴 室 露 天 浴 槽 上 部 に 霧 吹 き 出 し 及 び 甲 浴 室 のみに ミストサウナがあった ジェット ジャクジー 等 の 気 泡 発 生 装 置 はなかった 利 用 者 数 :11 月 19 日 ~12 月 4 日 総 数 13,072 人 ( 平 均 817 人 / 日 ) (2) 系 統 ( 甲 浴 室 ) No 浴 槽 等 の 種 類 位 置 使 用 水 循 環 系 統 消 毒 消 毒 注 入 箇 所 1 A-1 2 A-2 屋 内 温 泉 水 加 温 1 銀 イオン 分 岐 ヘッダー 3 B 屋 内 井 水 ろ 過 2 銀 イオン 循 環 内 ろ 過 後 4 C 屋 内 井 水 なし - 塩 素 受 水 槽 前 5 D 屋 内 井 水 なし - 塩 素 受 水 槽 前 6 E 屋 内 温 泉 水 なし - 銀 イオン 分 岐 ヘッダー 7 F 露 天 温 泉 水 ろ 過 3 銀 イオン 分 岐 ヘッダー 8 G 露 天 温 泉 水 + 井 水 ろ 過 4 銀 イオン 分 岐 ヘッダー 循 環 内 ろ 過 後 9 H 露 天 井 水 なし - 塩 素 受 水 槽 前 10 I 露 天 温 泉 水 ろ 過 5 銀 イオン 分 岐 ヘッダー 11 J 露 天 温 泉 水 加 温 6 銀 イオン 分 岐 ヘッダー 12 K 露 天 温 泉 水 加 温 7 銀 イオン 分 岐 ヘッダー 13 霧 吹 き 出 し 露 天 井 水 - - 塩 素 受 水 槽 前 14 ミストサウナ ( 露 天 ) 井 水 - - 塩 素 受 水 槽 前
(3) 貯 湯 槽 等 貯 湯 槽 : 井 水 用 6,000L 2 槽 52 設 定 ( 立 入 時 50 ) 貯 湯 槽 への 塩 素 注 入 なし 温 泉 槽 :20t 4 槽 立 入 時 40.6 温 泉 槽 へ 銀 イオン 水 注 入 (4) 管 理 状 況 1 浴 槽 換 水 頻 度 : 全 浴 槽 毎 日 清 掃 : 全 浴 槽 毎 日 高 圧 洗 浄 機 及 び 高 温 高 圧 洗 浄 機 使 用 2 循 環 系 統 集 毛 器 清 掃 : 全 系 統 毎 日 ろ 過 器 逆 洗 浄 : 全 ろ 過 器 毎 日 配 管 消 毒 :a.ワイヤー 清 掃 100ppm 塩 素 循 環 2 時 間 放 置 洗 浄 10 月 については 概 ね 週 に 1 回 程 度 実 施 していたが 11 月 7 日 以 降 に 清 掃 頻 度 が 落 ち 最 長 17 日 間 消 毒 実 施 のない 系 統 があった b. 水 空 気 砲 による 清 掃 100ppm 塩 素 循 環 2 時 間 放 置 洗 浄 11 月 7 日 実 施 毎 月 1 回 頻 度 の 実 施 3 貯 湯 槽 等 貯 湯 槽 : 平 成 16 年 の 開 業 以 来 清 掃 実 施 なし 温 泉 槽 : 高 圧 洗 浄 スポンジ タワシ 清 掃 洗 浄 100ppm 塩 素 噴 霧 洗 浄 毎 月 1 回 実 施 5 患 者 からのレジオネラ 属 菌 の 分 離 状 況 患 者 4 人 から 喀 痰 が 採 取 され うち 2 人 から Legionella pneumophila SG1が 分 離 された 6 環 境 からの 菌 分 離 状 況 1 浴 槽 水 検 査 (12 月 1 日 18 検 体 採 取 ) E ( 甲 浴 室 ) Legionella micdadei 1.0 10CFU/100mL H ( 甲 浴 室 ) Legionella pneumophila SG1 1.0 10CFU/100mL A( 乙 浴 室 ) Legionella pneumophila SG5,SG9,UT 2.0 10CFU/100mL 2 ふき 取 り 等 検 査 (12 月 18 日 12 検 体 採 取 ) 施 設 浴 槽 ふき 取 り(H 浴 槽 )Legionella pneumophila SG1 施 設 浴 槽 のふき 取 り 検 査 で 検 出 された 菌 株 について パルスフィールドゲル 電 気 泳 動 (PFGE) を 行 ったところ 患 者 2 人 の 菌 株 と 泳 動 パターンが 一 致 した 当 該 患 者 2 人 が 共 通 して 利 用 したのは 当 該 施 設 のみであり 発 症 者 8 人 全 員 が 同 時 期 に 当 該 施 設 を 利 用 していたことなどから 当 該 施 設 を 共 通 感 染 源 とする 集 団 感 染 であると 考 えられた 7 原 因 施 設 への 指 導 (1) 公 衆 浴 場 営 業 停 止 命 令 次 のことから 当 該 施 設 が 感 染 源 と 判 断 し 営 業 停 止 命 令 を 行 った 1 患 者 2 人 由 来 及 び 施 設 由 来 の 菌 株 について 遺 伝 子 パターンが 一 致 したこと
2 患 者 8 人 が 同 時 期 に 当 該 施 設 を 利 用 した 後 レジオネラ 症 潜 伏 期 間 内 に 発 症 し 当 該 施 設 以 外 に 共 通 利 用 施 設 がなかったこと (2) 改 善 に 関 する 指 導 施 設 調 査 により 管 理 上 問 題 のあった 点 については 下 表 のとおりで これらを 改 善 するよう 営 業 者 に 指 導 した なお 営 業 者 は 複 数 の 利 用 者 にレジオネラ 症 を 発 症 させたことの 重 大 性 を 受 けとめ 営 業 を 再 開 することなく 平 成 25 年 1 月 15 日 に 公 衆 浴 場 の 営 業 を 廃 止 した 問 題 点 管 理 配 管 系 統 図 がなく 配 管 系 統 が 把 握 されていなかった 清 掃 消 毒 のマニュアルが 整 備 されていなかった 消 毒 温 泉 水 の 消 毒 に 用 いられていた 銀 イオンについて 当 該 施 設 の 特 性 に 合 ったもの か 消 毒 効 果 を 検 証 していなかった 多 くの 系 統 において 消 毒 液 注 入 が 各 系 統 への 分 岐 点 となるヘッダーのみで 行 わ れ 循 環 中 に 消 毒 液 注 入 が 行 われるのは 浴 槽 B Gの 2 系 統 のみである (4(2) 参 照 ) 貯 湯 槽 等 貯 湯 槽 温 度 が 50 設 定 と 低 く かつ 貯 湯 槽 内 原 湯 の 消 毒 を 実 施 していなかっ た 貯 湯 槽 の 清 掃 消 毒 を 実 施 していなかった 温 泉 槽 温 度 は 40 前 後 であり 銀 イオン 注 入 を 実 施 しているものの 当 該 施 設 の 特 性 に 合 ったものか 消 毒 効 果 を 検 証 していなかったので 温 泉 槽 内 のレジオネ ラ 属 菌 汚 染 を 防 げたかは 不 明 であった 循 環 系 統 レジオネラ 症 患 者 発 生 前 の 11 月 中 旬 における 配 管 消 毒 が 滞 っていた 浴 槽 水 消 毒 剤 注 入 口 がろ 過 器 後 設 置 または 設 置 なしであった 浴 槽 材 質 等 ふき 取 り 検 査 で 菌 が 検 出 された 浴 槽 の 壁 が 劣 化 しており 表 面 の 凹 凸 が 顕 著 であ った 吐 水 口 が 岩 の 下 にある 浴 槽 があり 汚 れがたまりやすい 構 造 であった 浴 室 設 備 等 浴 室 霧 吹 き 出 し 口 が 容 易 に 清 掃 を 行 えない 上 部 に 設 置 されていた ミストサウナ 吹 き 出 し 口 周 辺 に 石 が 設 置 され 汚 れがたまりやすい 構 造 であった 8 まとめ 今 回 発 生 届 があった 患 者 8 人 は 感 染 の 可 能 性 が 考 えられる 時 期 に 全 員 が 同 じ 日 帰 り 温 泉 施 設 を 利 用 していた 8 人 に 共 通 する 利 用 施 設 はほかになかった 検 体 が 採 取 できた 2 人 の 患 者 の 菌 の 遺 伝 子 パターンが 一 致 し 当 該 施 設 の 浴 槽 のふき 取 り 検 体 の 遺 伝 子 パターンとも 一 致 したことから 当 該 施 設 を 原 因 とする 集 団 感 染 であると 判 断 した 特 に 浴 槽 ふき 取 り 検 体 由 来 株 の 遺 伝 子 パターンが 患 者 2 人 由 来 株 と 一 致 したこと また 清 掃 後 10 日 以 上 も 水 を 抜 いて 屋 外 放 置 されていた 当 該 浴 槽 の 表 面 から 菌 が 検 出 されたことな どから 当 該 浴 槽 壁 のレジオネラ 属 菌 汚 染 が 大 きな 感 染 要 因 になったものと 推 察 された
一 方 患 者 全 員 の 当 該 浴 槽 の 利 用 状 況 は 確 認 できなかった 検 体 採 取 前 にすでに 複 数 回 浴 槽 水 が 換 水 されてしまっていたこともあり 患 者 利 用 時 に 他 の 浴 槽 等 に 原 因 となったレジオネラ 属 菌 が 存 在 していた 可 能 性 も 否 定 はできない このため 原 因 の 特 定 までには 至 らなかった また 当 該 施 設 は 温 泉 水 の 消 毒 に 銀 イオンを 用 いているが 消 毒 方 法 の 選 択 に 関 する 具 体 的 な 指 針 等 がないことから 指 導 に 課 題 が 残 った 今 回 の 調 査 結 果 から 当 該 施 設 は 施 設 の 特 性 や 設 備 面 で 潜 在 的 にリスクを 抱 えていたところ に 衛 生 管 理 の 不 備 や 露 天 風 呂 の 屋 外 環 境 要 因 が 重 なり 集 団 感 染 が 発 生 したものと 思 われた 行 政 機 関 による 監 視 で 施 設 におけるレジオネラ 属 菌 汚 染 のリスクを 事 前 に 見 出 し 営 業 者 に 対 して 徹 底 した 対 策 を 指 導 していく 重 要 性 を 強 く 感 じた 9 その 他 今 回 の 事 例 では 8 人 の 施 設 利 用 者 がレジオネラ 属 菌 感 染 により 肺 炎 等 を 発 症 した レジオネラ 肺 炎 は 2~10 日 と 潜 伏 期 間 が 長 いため 実 際 に 集 団 感 染 が 起 こっていても 初 動 段 階 では 患 者 報 告 数 がまだ 尐 なく 後 になってから 多 くの 報 告 が 上 がってくる 場 合 がある 新 たな 患 者 の 発 生 を 最 小 限 にするためには できるだけ 早 く 原 因 と 疑 われる 施 設 を 探 知 し 安 全 が 確 認 されるまでは その 使 用 自 粛 を 指 導 することが 必 要 である 今 回 は 12 月 5 日 ( 水 )に 2 例 目 の 患 者 が 報 告 されたため すでに 採 取 済 みの 浴 槽 水 の 検 査 結 果 が 判 明 する 12 月 8 日 ( 土 )を 待 たずに 施 設 の 営 業 自 粛 を 指 導 し 営 業 者 も 指 導 に 応 じた その 後 さらに 6 名 の 患 者 発 生 報 告 があったが 施 設 の 休 止 が 遅 れていれば さらに 多 くの 患 者 が 発 生 してしまった 可 能 性 もある 初 動 段 階 における 対 応 は 大 きなポイントであり 患 者 の 発 生 報 告 があった 場 合 には 迅 速 な 調 査 指 導 適 切 な 判 断 が 求 められる このためには 日 頃 の 監 視 において 各 施 設 の 安 全 性 に 関 する 評 価 を 的 確 に 行 っておくこと が 肝 要 と 考 えられた また 今 回 原 因 施 設 特 定 の 重 要 な 要 素 となったのは 遺 伝 子 学 的 検 査 (PFGE)の 結 果 であ ったが 患 者 の 喀 痰 検 体 が 確 保 できなければこうした 検 査 調 査 は 不 可 能 である 患 者 報 告 が 医 療 機 関 からあった 場 合 には 医 療 機 関 の 協 力 を 得 てすみやかに 患 者 の 喀 痰 検 体 を 確 保 するこ とも 重 要 である