GISを 利 活 用 した 固 定 資 産 税 土 地 評 価 について 川 越 みなみ 桜 井 秀 宣 髙 井 渉 ( 朝 日 航 洋 株 式 会 社 ) 今 村 政 夫 ( 株 式 会 社 日 野 ).はじめに 固 定 資 産 税 には 土 地 家 屋 償 却 資 産 があり その 評 価 は 総 務 大 臣 が 定 める 固 定 資 産 評 価 基 準 に 則 り 自 治 体 資 産 税 職 員 が 実 施 する 平 成 年 度 の 固 定 資 産 産 税 収 は8 兆,89 億 円 の 実 績 で ) 市 町 村 税 収 額 全 体 のうち 割 強 を 占 める 基 幹 税 である ) 固 定 資 産 税 の 土 地 評 価 においては 年 ごと に 評 価 替 えという 制 度 が 採 用 されている かつ ては 地 方 税 法 上 の 適 正 な 時 価 という 概 念 が 非 常 に 曖 昧 であったため いわば 自 治 体 資 産 税 職 員 による 達 観 ( 経 験 則 )に 頼 らざるをえない 部 分 も 多 々あった 公 的 価 格 の 一 元 化 により 評 価 水 準 が 地 価 公 示 の 割 とされた 平 成 年 以 降 従 来 の 自 治 体 資 産 税 職 員 の 経 験 則 に 頼 る 評 価 手 法 に 代 わ るものとして 納 税 者 に 対 し 客 観 的 科 学 的 に 説 明 できるGISを 利 活 用 した 土 地 評 価 システム を 採 用 する 自 治 体 が 増 加 してきた )) ) 自 治 体 では 行 財 政 改 革 に 基 づく 人 員 削 減 や 定 期 的 な 人 事 ローテーション 化 が 推 し 進 め. 研 究 の 目 的 公 平 な 課 税 の 推 進 には 宅 地 評 価 の 工 程 の うち 面 的 な 均 衡 を 図 る 状 況 類 似 地 域 の 区 分 の 検 証 線 的 な 均 衡 を 図 る 路 線 価 の 検 証 およ び 点 的 な 均 衡 を 図 る 画 地 評 点 数 の 検 証 が 重 要 である これらの 工 程 の 中 でも 本 研 究 におい ては 特 に 均 衡 な 評 価 に 影 響 を 及 ぼす いまだ 経 験 則 による 部 分 が 多 い 状 況 類 似 地 域 の 区 分 に 照 準 をあてる 状 況 類 似 地 域 は 固 定 資 産 評 価 基 準 でその 区 分 が 規 定 されているものの 定 量 性 が ない 判 断 基 準 となって いる このため 土 地 評 価 事 務 でも 一 番 専 門 的 な 経 験 が 必 要 で あり 標 準 化 を 求 められる 事 務 でもある 本 研 究 では 状 況 類 似 地 域 の 区 分 の 検 証 に ついて GISを 利 活 用 した 固 定 資 産 税 土 地 評 価 の 有 効 性 や 課 題 について 明 らかにすることを 目 的 とする 本 研 究 のケーススタディは 神 奈 川 県 大 和 市 とした 大 和 市 は 神 奈 川 県 のほぼ 中 央 に 位 置 する 人 口 約 万 人 の 自 治 体 である 市 域 の 地 形 は 平 坦 で 面 積 は.kmである 9) られ 結 果 として 自 治 体 資 産 税 職 員 の 専 門 知 識 は 蓄 積 され 難 くなっている また 業 務 の 効 率 化 や 専 門 知 識 の 伝 承 という 観 点 においても かつての 自 治 体 資 産 税 職 員 の 経 験 則 を 不 要 とす る 新 たな 土 地 評 価 システムが 求 められている 一 方 で 土 地 評 価 の 中 でも 後 述 する 状 況 類 似 地 域 の 区 分 は 自 治 体 資 産 税 職 員 の 専 門 的 なスキルを 要 する 状 況 類 似 地 域 の 区 分 に 係 る プロセスは 一 般 的 に 公 表 されていないためか 状 況 類 似 地 域 の 区 分 に 関 する 既 往 研 究 は 僅 少 である ))8). 地 価 分 析 と 分 析 結 果 固 定 資 産 評 価 基 準 が 定 める 状 況 類 似 地 域 は 街 路 の 状 況 公 共 施 設 等 の 接 近 状 況 家 屋 の 疎 密 度 および その 他 の 宅 地 の 利 用 上 の 便 が 類 似 していることと 地 価 の 割 を 目 途 とすることにより 区 分 すると 定 められてい る ) この 規 程 を 具 体 化 するには 地 価 分 析 を 行 ない 地 域 区 分 の 要 因 を 導 出 する 必 要 がある 最 初 に 地 価 分 析 を 実 施 するためのフローを 図 に 示 す 本 研 究 で 使 用 するデータは 平 成
基準年度評価替えの標準宅地 地点の鑑定 地域要因に係る価格形成要因の一覧と取得 評価額と の価格形成要因を使用した 地 方法を表1に示す 道路幅員や国道 市道およ 価モデルでは 鑑定評価額は目的変数に 価 び私道の道路種別等の自治体で使用している 格形成要因は説明変数にした 価格形成要因のデータは自治体より提供を受け た や商店街距離等の距離要因は GISを利用して直線距離を取得した 建物割 合や等の割合は地番図と家屋図を基 にGISで取得した 標高と傾斜は航空レーザ 測量による1m メッシュ数値標高データを基に データを取得した 土地利用と土地条件は 国 土地理院のデータを利用した 表 地価モデルの分析結果 基準としたカテゴリーの分析結果は空欄で示される 図 地価分析のフローチャート 表 価格形成要因の一覧と取得方法 価格形成要因 取得方法 道路幅員 道路種別 系統 連続性 自治体より提供 高速道路騒音エリア 浸水想定エリア 用途地域区分 建ぺい率 t値...... -. -.9 -. -.9 最寄駅名 鶴間 南林間駅 -.9 -.8 -. -. -. -. -.9 -. -. -.. -.89 基地騒音 エリア内 -. -.89 -. -..8...9.9... 店舗割合.9.8..9 工場割合 -.9-8.9 -. -.98 -. -.9 -. -.....89 決定係数 商店街距離 GIS で直線距離を取得 嫌悪施設距離 残差の標準誤差 AIC 価格形成要因 主要幹線道路距離 地番図 家屋図を基に GIS で取得 工場割合 m メッシュ数値標高データを基に 取得 土地利用 国 土 地 理 院 データ を基 に GIS で取得 土地条件 国土地 理院データ を基に GIS で取得 回帰係数 9.9 最寄駅名 その他 容積率 傾斜 t値 8. 最寄駅名 田園都市線 市街化調整区域 防火地域 標高 回帰係数 ヘドニック アプローチ 市街化区域 容積率 店舗割合 重回帰分析 基地騒音 エリア外 基地騒音エリア 道路幅員 下水道 学校距離 定数項 最寄駅名 大和駅 歩道 新幹線騒音エリア 価格形成要因 先端測量技術 号.8.8.8.8 - VIF 道路幅員. 最寄駅名.. 基地騒音..9. 店舗割合. 工場割合.8 市街化区域. 容積率.8
表 地域要因の指標 要因名称 地域要因 8% 以上 %-8% %-% %-% % 未満 m 未満 m-m m-m m-m m 以上 8% 以上 %-8% %-% %-% % 未満 やや傾斜 やや傾斜 急傾斜 急傾斜 東西北 東西南 北 準工 工業 調整区域 傾斜 平坦 方向 都市計画 用途地域 南 商業 近商 一住 二住 一低 一中高 準住 表 用途地区毎の地価水準の区分指標 単位 千円 地価分析はオープンソースの統計パッケージ R を使用した 地価分析は一般的に用途地区ご 地価区分 固定資産用途地区 区分 商業 住宅 工業 調整 とに行うが 状況類似地域の区分の検証が本 E 9 以上 以上 8 以上 研究の目的であるため 全用途地区を一つの D -9 - -8 地価モデルとして重回帰分析を行い 使用する C - 9- - B - -9 - A 未満 未満 未満 価格形成要因を決定した 次にヘドニック ア プローチによる地価モデルの作成を行った 地 価モデルの分析の結果 すべての説明変数で VIF が. 台で P 値が. 以下となり帰無 行い これらが異なる地域ごとに区分するもの 仮説が棄却された 表2 クリギングにより内 とした 挿補間して m メッシュに変換し 地価推計 本研究では 地域要因の類似性 のうち 図を作成した ①街路の状況を ②公共施設等の接 近状況を ③家屋の疎密度を建物 状況類似地域の検証 割合 ④その他の宅地の利用上の便を地勢の. 状況類似地域区分の試案の作成 傾斜方向と都市計画用途地域として代用して指 状況類似地域は 前述のとおり 街路の状況 標を作成した 表3 指標に便宜上の点数を つけ これを加算することで 地域要因の類似 公共施設等の接近状況 などが類似している ことである 本研究ではこれらを 地域要因の 性 を5カテゴリーに区分した 類似性 と定義する もう一つの 地価の2割 地価水準の同一性 は 地価推計図に基 を目途 は 地価水準の同一性 と定義する づき 2割を目途として 各用途地区で区分を この2つの視点により 階層化しクラス分けを 設定した 表4 表 評価区分 地価水準の同一性 の区分 地域要因の類似性 の区分 - 8- - 9- -8 E D C B A
本研究では シンプルなクラス区分を目指す ため 地域要因は5区分と地価水準は5区分の 計 区分にマトリックスし 7階級に評価区分 した 表5 この評価区分を m メッシュに て色分けを行い 状況類似地域の試案とした メッシュの広さは m と m と m の3種 類にて検証を行ったが 今回は m メッシュ の例を報告する. 実際の状況類似地域と試案した状況類 似地域の検証 図 実際の状況類似地域内で評価区分がほぼ同一の例.. 視覚的な検証 いままで課税で使用してきている実際の状況 類似地域 黒破線表示 と 試案した状況類 似地域 彩色 m メッシュ表示 を 重ねて 表示することで乖離状況を比較した 図2 実 際の状況類似地域内で試案した状況類似地域 の評価区分が同一でほぼ同色の場合は 状況 類似地域区分の妥当性が極めて高いと考えら れる 図3 反対に 実際の状況類似地域内 で試案した状況類似地域の評価区分にばらつ きがみられる場合は 状況類似地域の区分の 見直しが必要であると考えられる 図4 局地 図 実際の状況類似地域内で評価区分にばらつきがみられる例 的に複数の色が混在している場合や 実際の 状況類似地域区分線と配色の境界が一致しな.. 数値的な検証 い場合は ばらつきがみられるとみなした 視 本 研究では実際の状況類似地域内のメッ 覚的な検証では 自治体全域を俯瞰的にとらえ シュ総数を分母とし 最頻値の評価区分のメッ ながら 相対的な検証が可能となった シュ数を分子とした 最頻値割合という指標で 検証を行った 市全域での最頻値割合の平均 は % であった 最頻値割合が高い場合は 状況類似地域の区分がおおむね妥当であるとい える 表6に最頻値割合が高い状況類似地域 の例を示した 状況類似地域内のメッシュ総数 に対して 最頻値のメッシュ数は評価区分 6の であり 最頻値割合は 88.8% となった 市全域の最頻値割合の平均と比較して 最頻 値割合が高く この状況類似地域の区分は妥 図 実際の状況類似地域と試案した状況類似地域の検証図 8 先端測量技術 号 当であると考えられる 反対に 最頻値割合が
表 最頻値割合が高い状況類似地域の例 評価区分ごとのメッシュ数 メッシュ 総数 最頻値割合 88.8% 表 最頻値割合が低い状況類似地域の例 評価区分ごとのメッシュ数 メッシュ 総数 最頻値割合.8% 表8 評価区分ごとのメッシュ数 地価水準の同一性 の区分 地域要因の類似性 の区分 - 8- - 9- -8 E 98 D 98 9 C B 9 9 8 A 8 低い場合は 状況類似地域の区分の見直しを みなされる 評価区分を行わず 区分にて 検討する必要があると考えられる 表7に最頻 細分化した状態でも検証を行うことで より詳 値割合が低い状況類似地域の例を示した 状 細な検証が行えると考える 況類似地域内のメッシュ総数 に対して 最 頻値のメッシュ数は評価区分5の であり 最 おわりに 頻値割合は.8% となった 市全域の最頻値 本研究を通じて いまだ達観が残る状況類 割合と比較して 最頻値割合が低く この状況 似地域の検証において 定量的な検証の有効 類似地域は見直しを検討する必要があると考え 性を確認することができた 今後 この手法に られる 最頻値割合での検証では 数値的に ついてさらに研究を進めていき 主観的な経験 検証を行うことが可能となった 則にとらわれずに 客観的 科学的な状況類似 評価区分ごとのメッシュ数を表8に示す 本 地域の検証を行うことができる技術を確立した 研究では 地域要因の類似性 の区分と 地 い 価水準の同一性 の区分を7階級に評価区分 本研究では 地域要因の類似性 の区分は したことで 簡易に検証を行えた その一方で 各指標を加算した上で5カテゴリーに区分した 区分の区分けが異なる場合にも同じ評価区 地域要因の類似性 の指標ごとに重みづけ行 分となるため 実際に状況が類似している地域 うことで より精度の高い検証を行うことがで とそうではない地域が等価値とみなされること きると考える がある 例えば 地域要因の類似性 の加算 本研究のケーススタディでは 実際の状況類 した数値が5 8で 地価が E の メッシュと 似地域と試案した状況類似地域で不整合な区 地域要因の類似性 の加算した数値が 8 域もあった 今後 課題解決のために 地価 で 地価が C の メッシュは 評価区分 モデルの精度向上や複数自治体での実証実験 が同じカテゴリーであるため 等価値であると による技術研鑽をおこなっていく 9
謝 辞 本 研 究 の 趣 旨 をご 理 解 頂 き 快 く 資 料 をご 提 供 頂 いた 大 和 市 総 務 部 資 産 税 課 に 心 より 感 謝 する 本 論 文 を 作 成 するにあたり 終 始 適 切 なご 指 導 を 頂 いた 筑 波 大 学 堤 盛 人 教 授 解 析 方 法 のご 助 言 を 頂 いた 筑 波 大 学 院 生 黒 田 翔 氏 に 深 謝 する 参 考 文 献 ) 総 務 省 : 固 定 資 産 税 の 概 要 http://www. soumu.go.jp/main_content/8. pdf. ) 総 務 省 : 地 方 財 源 の 状 況 http://www. soumu.go.jp/menu_seisaku/hakusyo/ chihou/data/data/czb-. html. ) 早 川 玲 理 関 本 義 秀 中 村 秀 至 大 伴 真 吾 山 本 尉 太 : 自 治 体 における 複 数 の 業 務 部 門 にまたがる 地 理 空 間 情 報 の 共 同 整 備 の 可 能 性, 地 理 情 報 システム 学 会 講 演 論 文 集,pp.. ) 今 村 政 夫 篠 田 順 弘 高 瀬 忠 志 永 田 浩 一 郎 : 固 定 資 産 業 務 におけるGIS 導 入 利 用 の 手 順 と 留 意 点, 写 真 測 量 とリモートセン シング,vol,-9.99 ) 総 務 省 : 地 方 公 務 員 数 の 状 況 http://www. soumu.go.jp/main_content/899. pdf. ) 資 産 評 価 システム 研 究 センター: 土 地 に 関 する 調 査 研 究 その 他 宅 地 評 価 法 に 関 する 課 題 と 改 善 策 に つ い て. 9 ) 松 本 博 吉 : 土 地 に 係 る 平 成 年 度 評 価 替 えの 実 務 について, 地 方 税,pp.8-9.8 8) 今 村 政 夫 : 市 街 化 調 整 区 域 の 地 価 形 成 に おける 固 定 資 産 税 の 不 公 平 評 価 の 実 証 的 研 究 埼 玉 県 川 越 市 鶴 ヶ 島 市 日 高 市 の 市 街 化 調 整 区 域 のケースを 中 心 にして, 埼 玉 大 学 大 学 院 経 済 科 学 研 究 科 博 士 論 文,pp.-. 9) 大 和 市 : 大 和 市 の 紹 介 http://www.city. yamato.lg.jp/web/kouhou/shoukai. html. ) 固 定 資 産 税 務 研 究 会 編 : 固 定 資 産 評 価 基 準 解 説 ( 土 地 編 ), 地 方 財 務 協 会. 執 筆 者 川 越 みなみ(かわごえ みなみ) 朝 日 航 洋 株 式 会 社 資 産 情 報 部 資 産 情 報 グループ minami-kawagoe@aeroasahi.co.jp 先 端 測 量 技 術 号