リスクマネジメント最前線 2016 l No.11 そして 16 日 1 時 25 分には M7.3 の本震が発生した 本震では 再び益城町にて震度 7 を観測し 西 原村でも震度 7 となった また 熊本市内の各地で震度 6 強となり 市内は前震より大きな揺れに見 舞われた 震度観測点での震度の分

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の 提 供 状 況 等 を 総 合 的 に 勘 案 し 土 地 及 び 家 屋 に 係 る 固 定 資 産 税 及 び 都 市 計 画 税 を 減 額 せずに 平 成 24 年 度 分 の 固 定 資 産 税 及 び 都 市 計 画 税 を 課 税 することが 適 当 と 市 町 村 長 が 認 め


報道発表資料 ( 地震解説資料第 44 号 ) 平成 29 年 7 月 2 日 04 時 30 分 熊本地方気象台 平成 28 年 (2016 年 ) 熊本地震 について - 平成 29 年 7 月 2 日 00 時 58 分頃の熊本県阿蘇地方の地震について - 熊本県産山村で震度 5 弱を観測今後

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大 阪 福 岡 鹿 児 島 前 頁 からの 続 き 35

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リスクマネジメント最前線 2016 l No.11 2016 No.11 リスクマネジメント最前線 平成 28 年 2016 年 熊本地震の被害について 内陸活断層地震のリスク 2016 年 4 月 14 日夜間に 中部を震源とするマグニチュード 以下 M と記す 6.5 の地震 が発生し 最大で震度 7 が観測された その後 震源付近において余震活動が活発となっていたが 4 月 16 日未明に M7.3 の大地震が再び発生した これにより 震源周辺の益城町 熊本市などで多大な 被害が発生した 本稿では 平成 28 年 2016 年 熊本地震 の概要および地震を引き起こした布田川 日奈久断層 帯について解説し 弊社が現地にて実施した調査から 現地の被害状況を報告する 更に 日本のど こにおいても発生する内陸活断層のリスクを説明し この地震被害を教訓として 今後地震対策とし て活かすべきことについて提言する 1. 熊本地震について (1) 地震概要 2016 年 4 月 14 日 21 時 26 分頃 の中部を震源とする M6.5 気象庁暫定値 の地震 前震 が発生した の益城町で震度 7 熊本市内の各地で震度 6 弱 また 外の九州各地でも 震度 5 弱以下の揺れを観測した その後 余震活動が活発化し 本震が発生する 16 日未明までに 150 回以上の余震が発生した 余震の中には 震度 6 弱を観測する強い地震もあった 震度 3 震度 4 震度 県 震度 7 震度 5 弱 震度 5 強 震度 6 弱 震度 6 強 震度 7 前震 観測点 益城町宮園 玉名市天水町 西原村小森 宇 城市松橋町 熊本東区佐土原 震度 6 弱 熊本西区春日 等 玉名市横島町 菊池市旭志 宇 土市浦田町 大津町大津 御船 震度 5 強 町御船 山都町下馬尾 等 熊本高森町高森 阿蘇市内牧 南阿蘇村吉田 八代市千丁町 震度 5 弱 長洲町長洲 等 宮崎県 椎葉村下福良 産山村山鹿 阿蘇市波野 八代市泉町 玉名 市中尾 山鹿市菊鹿町 山都町大平 山江村 山田 延岡市北方町卯 高千穂町寺迫 下関 震度 4 市竹崎 久留米市城島町 筑後市山ノ井 佐 賀市諸富 みやき町北茂安 島原市有明町 佐伯市鶴見 薩摩川内市神田町 等 は気象庁の震度速報の観測点 庁 益城町 震源 図 1 前震 2016/4/14 M6.5 による各地の震度 震度 3 以上の観測点 出典 気象庁による震度速報より弊社作成 Copyright 2016 東京海上日動リスクコンサルティング株式会社 1

リスクマネジメント最前線 2016 l No.11 そして 16 日 1 時 25 分には M7.3 の本震が発生した 本震では 再び益城町にて震度 7 を観測し 西 原村でも震度 7 となった また 熊本市内の各地で震度 6 強となり 市内は前震より大きな揺れに見 舞われた 震度観測点での震度の分布をみても 本震の方がより広範囲で震度 6 以上のエリアが広が っており 14 日の前震より大きな揺れであったことがわかる また 有明 八代海に津波注意報 0.2 1m が発令されたが 大きな津波はなく 約 50 分後に解除された 緊急地震速報は 前震 本震と も地震発生後の 3.7 3.8 秒程度で発報されたが 震源に極めて近い熊本市内や益城町では 主要な地 震動はすでに到達していたとみられる (2) 地震発生を起こした活断層 九州には多くの活断層が存在し 今回の前震 本震は その中でも大きな断層の一つである布田川 日奈久 ふたがわ ひなぐ 断層帯による地震と考えられている 以下では文部科学省地震調査研 究推進本部の見解を中心にまとめる まず 前震は 日奈久断層帯 高野 白旗区間 で発生した 震源の深さは約 11km で 発震機構 は 南北方向に張力軸を持つ横ずれ断層型である 日奈久断層帯は 高野 白幡 日奈久 八代 海 の 3 つの区間から構成される全長約 80km の断層帯であり これらの区間において同時に地震が 発生した場合 地震規模は M7.7-8.0 程度とみられていた 今回の前震は 高野 白幡 の約 16km の 区間のみで発生したが 想定ではその場合 M6.8 程度の規模とされていた 実際発生した地震は M6.5 であり 想定よりもやや小さかった また当該断層は過去約 1600~1200 年前に活動し 右横ずれを主 体として約 2m 動いたと推定され 定期的に活動する断層であることが認識されていた 震度 3 震度 震度 7 震度 6 強 震度 6 弱 震度 5 強 震度 4 震度 5 弱 県 震度 5 強 震度 6 弱 震度 6 強 震度 7 本震 観測点 益城町宮園 西原村小森 南阿蘇村河陽 宇城市松橋町 合志市竹迫 熊本西区春日 菊池市旭志 宇城市小川町 熊本中央区大江 大津町大津 宇城市豊野町 熊本東区佐土原 阿蘇市一の宮町 南阿蘇村河 陰 玉名市天水町 大津町引 水 熊本美里町永富 山都町下 馬尾 和水町江田 熊本北区植 木町 天草市五和町 阿蘇市内 牧 など 庁 震源 南小国町赤馬場 熊本高森町 高森 八代市松江城町 山鹿市 菊鹿町 菊池市七城町 芦北町 芦北 熊本小国町宮原 南阿蘇 村吉田 八代市千丁町 など は気象庁の震度速報の観測点 図 2 本震 2016/4/16 M7.3 による各地の震度 震度 3 以上の観測点 出典 気象庁による震度速報より弊社作成 Copyright 2016 東京海上日動リスクコンサルティング株式会社 2

リスクマネジメント最前線 2016 l No.11 ちなみに今回の地震の地表の断層痕跡も 2m 程度のずれと報道されている また 前震の発生後 布 田川 日奈久断層帯周辺は多くの断層が密集していることから 多くの余震が発生したと考えられる なお日奈久断層帯は 活動間隔が推定できず 地震発生確率は不明とされていた 本震は 前震および余震により誘発されて発生したと考えられる 前震と同様に横ずれ断層型で 震源深さは 12km と地殻の浅い地域で発生した地震である 有識者による現地調査の結果では 布田 川断層帯 布田川区間 沿いに地表に現れた断層が見つかっており 布田川断層帯で地震が発生した ものとみられている 布田川断層帯は 日奈久断層帯の北方を東西に横断する全長約 65km の断層帯 で 布田川区間 宇土区間 宇土半島北岸区間 の 3 区間から構成される 全体が同時に活動し た場合が最大の地震となり この時の地震規模は M7.5-7.8 程度以上と考えられていたが 今回は布田 川区間を中心とした一部で断層が動いたとみられている 想定では布田川区間のみが活動した場合は M7.0 程度とされていたが 実際の地震は M7.3 であったので 布田川区間より長い区間で断層が活動 した可能性がある まだ本震が発生した正確な区間の特定はされていないため 今後の詳細な調査が 待たれる なお 布田川区間における当該地震発生前に算定されていた発生確率は今後 30 年以内に ほ ぼ 0 0.9% とされており 日本周辺の活断層の地震発生確率としては やや高い グループに属し ていた 九州の別府湾から熊本の八代海にかけての一帯は 布田川 日奈久断層帯を含む多くの活断層が密 集する別府-島原地溝帯として知られている 今回の地震活動により 別府 島原地溝帯である阿蘇 山の北方や別府湾周辺においても地震が頻発している また 布田川断層帯の西側や日奈久断層帯の 南西側の区間は 前震 本震で活動していないため 危険性が高いとの指摘もある 引き続き注意 警戒が必要である 庁 本震 震度 6 弱 4/16 01:25 M7.3(本震) 益城町 前震/本震 震度 7 4/14 21:26 M6.5(前震) 横ずれ断層 前震 本震 震度 6 以上を観測した余震 の震源位置 図 3 1 布田川 日奈久断層帯 出典 地震調査研究推進本部資料 1 より弊社作成 http://jishin.go.jp/main/chousa/katsudansou_pdf/93_futagawa_hinagu_2.pdf Copyright 2016 東京海上日動リスクコンサルティング株式会社 3

リスクマネジメント 最 前 線 2016 l No.11 なお 本 震 の 発 生 から 約 7 時 間 後 に 震 源 断 層 の 東 方 に 位 置 する 阿 蘇 山 において 小 規 模 な 噴 火 が 発 生 した 本 震 の 震 源 断 層 が 阿 蘇 山 付 近 まで 延 長 しているという 見 解 も 示 されているものの 気 象 庁 は 今 回 の 地 震 と 阿 蘇 山 の 噴 火 の 関 連 性 について 不 明 としている 表 1 地 震 調 査 研 究 推 進 本 部 による 長 期 評 価 ( 布 田 川 - 日 奈 久 断 層 帯 ) 地 震 規 模 (M) 今 後 30 年 以 内 の 断 層 帯 区 間 備 考 1 単 独 発 生 時 同 時 発 生 時 発 生 確 率 布 田 川 7.0 程 度 ほぼ 0~0.9% 本 震 (M7.3)に 相 当 布 田 川 7.5~7.8 宇 土 7.0 程 度 不 明 断 層 帯 程 度 宇 土 半 島 北 岸 7.2 程 度 以 上 7.8~8.2 不 明 高 野 - 白 旗 6.8 程 度 程 度 不 明 前 震 (M6.5)に 相 当 日 奈 久 7.7~8.0 日 奈 久 7.5 程 度 ほぼ 0~6% 断 層 帯 程 度 八 代 海 7.3 程 度 ほぼ 0~16% 1: 2016 年 1 月 1 日 現 在 出 典 : 地 震 調 査 研 究 推 進 本 部 今 までに 公 表 した 活 断 層 及 び 海 溝 型 地 震 の 長 期 評 価 結 果 一 覧 をもとに 弊 社 作 成 2. 被 害 について (1) 被 害 概 要 都 道 府 県 死 者 ( 名 ) 表 2 平 成 28 年 (2016 年 ) 熊 本 地 震 の 被 害 状 況 人 的 被 害 重 軽 傷 者 ( 名 ) 全 壊 ( 棟 ) 住 家 被 害 半 壊 ( 棟 ) 一 部 破 損 ( 棟 ) 熊 本 県 59 1,095 1,454 1,324 941 大 分 県 - 26-3 26 宮 崎 県 - 8-1 13 福 岡 県 - 15 - - 226 佐 賀 県 - 12 - - - 合 計 59 1,156 1,454 1,328 1,206 出 典 : 消 防 庁 災 害 対 策 本 部 平 成 28 年 4 月 21 日 ( 木 )7 時 30 分 発 表 の 熊 本 県 熊 本 地 方 を 震 源 とする 地 震 ( 第 31 報 ) をもとに 弊 社 作 成 今 回 の 地 震 は 1995 年 発 生 の 兵 庫 県 南 部 地 震 ( 阪 神 淡 路 大 震 災 )と 同 じ M7.3 の 規 模 であった しかし 人 的 被 害 は 兵 庫 県 南 部 地 震 よりずっと 小 さい これは 主 に 震 源 周 辺 の 人 口 の 集 中 度 が 大 き く 異 なるためで 兵 庫 県 南 部 地 震 は 都 市 部 において 発 生 したことから 死 傷 者 が 多 かった 加 えて 前 震 との 関 連 性 も 指 摘 される 前 震 による 被 害 で 多 くの 住 民 が 避 難 所 に 避 難 していた 本 震 は 前 震 より 揺 れが 強 く 崩 壊 した 建 物 も 多 かったが 多 くの 住 民 が 避 難 していたため 人 的 被 害 が 比 較 的 少 なくなった 可 能 性 がある Copyright 2016 東 京 海 上 日 動 リスクコンサルティング 株 式 会 社 4

リスクマネジメント最前線 2016 l No.11 前震の発生から本震が発生する前までの期間における被害は 益城町に集中しており 益城町では 建物の主要構造部の被害 家屋倒壊 2 件 や崖崩れに加え 地震後火災等の二次的被害も発生した 一方 熊本市内では 外壁の亀裂や窓ガラスの破損等の外装材の損傷や 棚や陳列物の転倒等 設備 や商品の損傷が主な被害であった また 熊本城 1607 年築城 の石垣の崩落 長塀の倒壊や瓦の落 下等 歴史的建造物の被害も特徴である 一方 本震発生後は 熊本市中央区の 3 階建て鉄筋コンクリート RC 造の建物や 西区の 7 階建 て RC 造の集合住宅をはじめとしたピロティ建築物2の 1 階部分で建物が崩壊し 他の多くの RC 造建 物でも柱のせん断破壊による被害がみられた 益城町においても 弊社の調査の範囲では大部分の木 造家屋が全半壊となっており 損傷のない木造建物は数軒しか見受けられなかった 歴史的建造物に も甚大な被害が出ており 熊本城の石垣や櫓のさらなる崩落 その崩壊に巻き込まれた熊本大神宮の 社殿の倒壊 国の指定重要文化財である阿蘇神社の楼門も倒壊した ライフラインの被害については 前震により益城町では停電 断水が発生したが 熊本市内の大き な被害はなく ホテルや店舗は通常営業しており 市電も運行していた しかし 本震後は熊本市内 でも停電 断水が発生し ライフラインが停止する事態となった 図 4 図 4 時系列でみた益城町および熊本市の被害の状況 出典 各種報道をもとに弊社作成 2 2 階以上の建物において 1 階部分が柱(構造体)を残して外部空間とした建築形式 またはその構造体を指す Copyright 2016 東京海上日動リスクコンサルティング株式会社 5

リスクマネジメント 最 前 線 2016 l No.11 表 3 平 成 28 年 (2016 年 ) 熊 本 地 震 と 過 去 の 地 震 の 比 較 平 成 28 年 (2016 年 ) 熊 本 地 震 前 震 本 震 兵 庫 県 南 部 地 震 ( 阪 神 淡 路 大 震 災 ) 発 生 日 2016 年 4 月 14 日 2016 年 4 月 16 日 1995 年 1 月 17 日 新 潟 県 中 越 地 震 2004 年 10 月 23 日 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 ( 東 日 本 大 震 災 ) 2011 年 3 月 11 日 発 生 時 刻 21 時 26 分 1 時 25 分 5 時 46 分 17 時 56 分 14 時 46 分 震 央 熊 本 県 熊 本 地 方 熊 本 県 熊 本 地 方 兵 庫 県 淡 路 町 新 潟 県 中 越 地 方 三 陸 沖 ( 仙 台 市 の 東 方 70km) 震 源 の 深 さ 11km( 暫 定 値 ) 12km( 暫 定 値 ) 16km 13km 24km 規 模 M6.5 M7.3 M7.3 M6.8 M9.0 最 大 震 度 7 7 7 7 7 益 城 町 益 城 町 西 原 村 神 戸 市 芦 屋 市 西 宮 市 宝 塚 市 北 淡 町 一 宮 町 津 名 町 新 潟 県 川 口 町 津 波 なし なし 微 弱 なし 震 源 の 種 類 最 大 余 震 死 傷 者 数 日 時 直 下 型 地 震 直 下 型 地 震 直 下 型 地 震 大 陸 プレート 内 地 震 横 ずれ 断 層 型 横 ずれ 断 層 型 逆 断 層 横 ずれ 型 逆 断 層 型 2016 年 4 月 15 日 0 時 3 分 2016 年 4 月 16 日 1 時 46 分 1995 年 1 月 17 日 5 時 50 分 2004 年 10 月 23 日 18 時 34 分 宮 城 県 栗 原 市 9.3m 以 上 ( 相 馬 港 ) 最 大 遡 上 40.1m ( 綾 里 湾 ) 海 溝 型 地 震 逆 断 層 型 ( 衝 上 断 層 型 ) 2011 年 3 月 11 日 15 時 15 分 規 模 M6.4 M6.0 M5.2 M6.5 M7.6 最 大 震 度 6 強 6 弱 4 6 強 6 強 死 者 59 人 1 6,434 人 68 人 15,896 人 負 傷 者 1,156 人 1 43,792 人 4,805 人 6,125 人 被 害 総 額 - 約 10 兆 円 約 3 兆 円 約 16~25 兆 円 岩 手 宮 城 主 な 被 害 地 域 熊 本 県 熊 本 県 大 分 県 近 畿 地 方 新 潟 県 中 越 地 方 福 島 茨 城 出 典 : 気 象 庁 消 防 庁 地 震 本 部 および 各 種 報 道 等 より 平 成 28 年 4 月 21 日 までの 情 報 を 収 集 し 弊 社 にて 作 成 1: 消 防 庁 災 害 対 策 本 部 平 成 28 年 4 月 21 日 ( 木 )7 時 30 分 発 表 の 熊 本 県 熊 本 地 方 を 震 源 とする 地 震 ( 第 31 報 ) より (2) 現 地 調 査 の 概 要 弊 社 は 前 震 の 発 生 を 受 けて 翌 15~16 日 に 現 地 で 被 害 の 概 況 を 調 査 した 調 査 地 点 は 前 震 の 震 源 からおよそ 10km に 位 置 する 熊 本 市 内 や 前 震 で 震 度 7 を 観 測 した 益 城 町 役 場 付 近 である 特 に 被 害 の 集 中 した 益 城 町 役 場 の 南 側 を 流 れる 秋 津 川 と 並 行 する 県 道 28 号 線 沿 いや 甚 大 な 被 害 が 発 生 し た 熊 本 城 が 所 在 する 熊 本 市 中 央 区 を 中 心 として 建 築 物 および 土 木 構 造 物 等 の 被 害 を 確 認 した Copyright 2016 東 京 海 上 日 動 リスクコンサルティング 株 式 会 社 6

リスクマネジメント最前線 2016 l No.11 (3) 熊本市内の被害の状況 熊本市内では国の重要文化財に指定されている熊本城の石垣や長塀の倒壊 瓦の落下 熊本城前を 流れる坪井川周辺の地盤沈下 液状化が原因と推定される噴砂や道路の亀裂 ブロック塀の倒壊 墓 石の転倒 一階駐車場部分が層破壊したビル 鉄骨鉄筋コンクリート造で柱にせん断破壊が発生した ホテル 外壁が脱落した立体駐車場 タイルが落下したビル ガラスの飛散したビル 自動車販売店 ではガラスの飛散や天井材の脱落 コンビニエンスストアについては建物自体の甚大な被害は目にす ることはなかったが 商品棚が転倒する被害等を目の当たりにした 写真 1 熊本城石垣 写真 2 熊本大神宮 道路側が約 20cm 30cm 程度沈下した 写真 3 熊本城周辺の地盤沈下 写真 4 熊本城長塀の倒壊 せん断破壊によるクラック (4) 益城町の被害の状況 益城町役場は前震と本震ともに震源から極めて近い位置に立地しており 4 月 14 日 21 時 26 分 M6.5 の前震で震度 7 16 日 1 時 26 分 M7.3 の本震でも震度 7 が観測された 役場の南側に今回の地震 の震源断層となった布田川 日奈久断層帯や 秋津川が走っており 並行する県道 28 号線に沿って本 震の約 8 時間後から調査を行った Copyright 2016 東京海上日動リスクコンサルティング株式会社 7

リスクマネジメント最前線 2016 l No.11 表 4 木造家屋 益城町における具体的な被害状況 全壊 1 階もしくは 2 階の傾斜或いは潰れたもの 外壁の脱落 瓦の落下 ブロック塀の転倒 鉄骨造建屋 柱の傾斜 外装材の脱落 道路 亀裂 路面陥没 道路の法面の崩落とこれに伴う自動車の落下 一部通行止め 電柱 信号機 傾斜 地盤 液状化に伴うマンホールの浮上 その他 LP ガスボンベの転倒 益城町の寺迫交差点付近の民家の被害率はとりわけ高く 木造家屋の凡そ半数以上が全壊している とみられる 気象庁の旧震度階級 昭和 24 年 平成 8 年 によれば 家屋の倒壊が 30%以上に及ぶ ものを震度 7 と定義しており 当地域において震度 7 相当の揺れが発生したことが予想される これ は 近年に発生した被害地震と比べても甚大な被害である可能性がある そこで 益城町役場で観測された地震動について解説したい 実際の地震の揺れは ガタガタとゆ れる場合や ユラユラと揺れる場合がある このような揺れは地震動の周期が違うことが原因であり ある特定の周期の地震が強かった場合に建物の被害が大きくなることが知られている このような関 係を示す一つの指標が速度応答スペクトルである 今回の益城町 熊本市の地震動の速度応答スペク トルを 過去の地震と比較して図 5 に示す 同図によれば 4 月 16 日の本震において 益城町で観測 された地震波は 建物に大きな被害を引き起こす周期 1 2 秒内の応答が前震や建物に対して甚大な被 害をもたらした兵庫県南部地震のスペクトルより大きいことが分かる このことは 益城町の被害が 甚大であったことと整合している 特に 兵庫県南部地震では 神戸市中央区の木造全壊率は約 15%3 であったが 今回の地震による益城町寺迫交差点付近の木造家屋の全壊率の高さはこの結果と整合し ている 写真 5 道路の亀裂 陥没 写真 6 道路の法面の崩壊 3 神戸市役所 兵庫県南部地震の地震被害と地盤 http://www.city.kobe.lg.jp/safety/prevention/foundation/higaitojiban/ Copyright 2016 東京海上日動リスクコンサルティング株式会社 8

リスクマネジメント 最 前 線 2016 l No.11 450 400 1995 年 兵 庫 県 南 部 地 震 : 神 戸 海 洋 気 象 台 2016 年 4 月 14 日 熊 本 の 地 震 ( 前 震 ): 熊 本 市 2016 年 4 月 16 日 熊 本 の 地 震 ( 本 震 ): 熊 本 市 速 度 応 答 スペクトル(cm/s) 350 300 250 200 150 2016 年 4 月 14 日 熊 本 の 地 震 ( 前 震 ): 益 城 町 2016 年 4 月 16 日 熊 本 の 地 震 ( 本 震 ): 益 城 町 100 50 0 0.00 0.50 1.00 1.50 2.00 2.50 3.00 周 期 T(s) 図 5 熊 本 地 震 と 兵 庫 県 南 部 地 震 の 速 度 応 答 スペクトル 3. 内 陸 活 断 層 のリスク (1) 内 陸 活 断 層 による 地 震 について 2011 年 に 発 生 した 東 日 本 大 震 災 は 平 成 23 年 (2011 年 ) 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 と 命 名 された 海 溝 型 地 震 によって 引 き 起 こされたものであった この 地 震 が 事 前 に 想 定 されていた 地 震 規 模 を 遥 かに 超 える 規 模 であったことから 東 日 本 大 震 災 以 降 政 府 地 方 自 治 体 等 の 地 震 対 策 では 最 大 クラス の 地 震 を 想 定 して 進 めることとなった その 結 果 南 海 トラフ 周 辺 や 相 模 トラフ 周 辺 で 発 生 する 海 溝 型 の 地 震 が 大 規 模 となる 可 能 性 があり また これらの 地 震 の 発 生 確 率 が 極 めて 高 いため このよう な 海 溝 型 地 震 への 防 災 減 災 対 策 の 関 心 が 高 まった 一 方 で 2013 年 4 月 13 日 に 発 生 した 淡 路 島 地 震 (M6.3: 負 傷 者 3 人 建 物 被 害 約 8,500 棟 )や 2014 年 11 月 22 日 に 発 生 した 長 野 県 北 部 地 震 (M6.7: 負 傷 者 46 人 建 物 被 害 約 1,840 棟 ) そして 今 回 の 熊 本 地 震 等 内 陸 活 断 層 による 地 震 は 規 模 および 発 生 確 率 が 海 溝 型 と 比 較 して 小 さい そのため リス クもまた 小 さいと 思 いがちだが そのようなことはない このような 内 陸 活 断 層 のリスクは 極 めて 大 きく 対 策 は 喫 緊 の 課 題 である 弊 社 では 2013 年 の 淡 路 島 地 震 の 直 後 に 報 告 したレポート 4 でもこのような 内 陸 活 断 層 のリスクにつ いて 報 告 した ここでは 上 記 レポート 内 容 を 一 部 引 用 し 改 めて 内 陸 活 断 層 による 地 震 のリスクにつ 4 リスクマネジメント 最 前 線 2013 年 4 月 13 日 淡 路 島 付 近 の 地 震 について ~この 地 震 の 発 生 から 何 を 学 ぶか? ~ (http://www.tokiorisk.co.jp/risk_info/up_file/201304191.pdf) Copyright 2016 東 京 海 上 日 動 リスクコンサルティング 株 式 会 社 9

リスクマネジメント 最 前 線 2016 l No.11 いて 解 説 したい 日 本 列 島 は 内 陸 に 活 断 層 が 多 く 存 在 しており 都 市 部 においても 大 きな 活 断 層 が 認 識 されている 都 市 部 で 発 生 した 内 陸 活 断 層 型 の 地 震 としては 兵 庫 県 南 部 地 震 が 代 表 として 挙 げられる この 地 震 は 都 市 部 の 直 下 で 発 生 したものであり 約 6,400 人 もの 死 者 及 び 約 43,800 人 もの 負 傷 者 を 出 した また 建 物 の 全 壊 被 害 は 約 10 万 棟 以 上 にも 達 している 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 では 死 者 行 方 不 明 者 が 約 21,000 人 負 傷 者 は 約 6,200 人 建 物 の 全 壊 被 害 は 約 120,000 棟 であったが この 大 部 分 は 津 波 による 被 害 である 揺 れによる 被 害 としては 近 年 の 被 害 地 震 の 中 で 兵 庫 県 南 部 地 震 が 突 出 して いることがわかる 都 市 部 の 内 陸 直 下 型 地 震 の 災 害 が 非 常 に 甚 大 になることが 見 て 取 れる つまり 内 陸 活 断 層 地 震 が 一 度 発 生 すると 震 源 が 地 表 面 に 近 いことから 震 源 の 近 傍 で 極 めて 大 きな 地 震 動 が 発 生 し 建 物 住 民 に 甚 大 な 被 害 を 与 える また 断 層 の 上 に 建 物 がある 場 合 には 断 層 のずれによる 大 被 害 が 発 生 する 可 能 性 もある つまり 規 模 が 小 さかったとしても 活 断 層 の 近 くに 多 くの 人 や 建 物 が 存 在 すれば 甚 大 な 被 害 となり 規 模 が 大 きければ 一 層 の 被 害 となる そのような 観 点 で 大 阪 平 野 の 上 町 断 層 帯 (M7.5 程 度 ) 関 東 平 野 の 立 川 断 層 帯 (M7.4 程 度 ) 三 浦 半 島 断 層 群 ( 主 部 / 武 山 断 層 帯 ) 等 人 口 の 集 中 する 都 市 部 の 活 断 層 に 特 に 警 戒 することが 必 要 で ある これらの 活 断 層 での 地 震 発 生 確 率 ( 今 後 30 年 間 )は 上 町 断 層 帯 :2~3% 立 川 断 層 帯 :0.5 ~2% 三 浦 半 島 断 層 群 :6~11%と 決 して 低 くはない なお 立 川 断 層 帯 については 最 近 の 調 査 に より 活 断 層 ではない 可 能 性 も 指 摘 されているが 引 き 続 き 注 意 は 必 要 である また 政 府 の 公 表 資 料 等 により 周 辺 に 内 陸 の 活 断 層 が 認 められていないからといって 安 心 して はならない 日 本 全 国 において 未 知 の 活 断 層 は 多 く 存 在 する 今 回 の 地 震 でも 本 震 の 布 田 川 断 層 帯 では 想 定 していた 区 間 より 北 部 まで 断 層 が 動 いたとされる 見 方 もされている よって 未 知 の 断 層 が まだ 日 本 に 多 くあることを 強 く 認 識 し どの 地 域 であっても 周 辺 に 活 断 層 があるというつもり で 対 策 を 検 討 することが 必 要 である (2) 内 陸 活 断 層 地 震 の 活 動 期 と 静 穏 期 日 本 列 島 が 地 震 の 活 動 期 に 入 ったとの 指 摘 があり 南 海 トラフを 震 源 とする 大 地 震 が 近 い 将 来 発 生 すると 予 測 されている 南 海 トラフで 大 地 震 が 発 生 する 前 後 は 西 日 本 の 内 陸 で 活 断 層 による 地 震 が 頻 発 することが 指 摘 さ れている 2013 年 の 淡 路 島 地 震 や 今 回 の 熊 本 地 震 も このような 活 動 の 一 つであり 今 後 も 引 き 続 き 内 陸 の 活 断 層 による 地 震 が 発 生 することが 懸 念 される 図 6 に 南 海 トラフにおける 地 震 発 生 年 と 内 陸 活 断 層 の 地 震 の 関 係 を 示 すが 南 海 トラフで 地 震 が 発 生 する 前 後 では 内 陸 の 活 断 層 において 地 震 が 頻 発 していることがわかる 最 も 新 しい 地 震 の 発 生 は 1944 年 の 東 南 海 地 震 1946 年 の 南 海 地 震 であ るが それ 以 降 西 日 本 では 活 断 層 での 地 震 が 静 穏 化 した そして 約 50 年 を 過 ぎて 発 生 した 1995 年 兵 庫 県 南 部 地 震 以 降 2000 年 鳥 取 県 西 部 地 震 2001 年 芸 予 地 震 2013 年 淡 路 島 地 震 2016 年 熊 本 地 震 と この 数 年 で 立 て 続 けに 内 陸 活 断 層 の 地 震 が 頻 発 した 今 後 も 西 日 本 では 内 陸 活 断 層 の 地 震 が 発 生 する 傾 向 が 続 き 近 い 将 来 に 南 海 トラフ 周 辺 で 大 地 震 となる 可 能 性 が 高 い 過 去 に 発 生 した 地 震 の 傾 向 を 見 てみると 南 海 トラフの 地 震 が 発 生 するとその 後 は 地 殻 変 動 に 伴 う 誘 発 地 震 が 内 陸 において も 頻 発 し やがて 活 動 が 静 穏 化 していくと 考 えられる Copyright 2016 東 京 海 上 日 動 リスクコンサルティング 株 式 会 社 10

リスクマネジメント 最 前 線 2016 l No.11 地 震 規 模 (M) 9.0 8.5 8.0 7.5 1605 慶 長 1707 宝 永 1854 安 政 南 海 1891 濃 尾 1944 東 南 海 1946 南 海 1995 兵 庫 県 南 部 静 穏 期 静 穏 期 静 穏 期 静 穏 期 は 南 海 トラフで 発 生 した 地 震 次 の 南 海 トラフ 地 震 M8クラス?M9クラス? 2000 鳥 取 県 西 部 2016 熊 本 7.0 6.5 活 断 層 による 地 震 が 頻 発? 6.0 1600 1650 1700 1750 1800 1850 1900 1950 2000 2050 西 暦 ( 年 ) 図 6 南 海 トラフにおける 地 震 発 生 年 と 内 陸 活 断 層 の 地 震 4. まとめ 東 日 本 大 震 災 以 降 政 府 地 方 自 治 体 企 業 個 人 など 様 々な 主 体 で 地 震 リスクへの 対 策 が 進 めら れてきた 特 に 内 閣 府 は 南 海 トラフで 発 生 する 巨 大 地 震 や 首 都 直 下 地 震 など 発 生 確 率 が 高 く 日 本 全 体 にとって 大 きな 災 害 となりえるシナリオから 優 先 して 対 策 の 検 討 を 進 めてきた そのため 内 陸 活 断 層 による 地 震 は 海 溝 型 地 震 と 比 べて 対 策 の 優 先 度 が 低 くなる 傾 向 があった しかし 内 陸 の 活 断 層 による 地 震 が 甚 大 な 被 害 をもたらす 可 能 性 を 認 識 し 早 急 に 対 策 について 検 討 する 必 要 があると 考 える 本 地 震 の 被 害 による 経 験 を 踏 まえて 今 後 の 地 震 に 対 する 防 災 減 災 において 考 えるべきことを 以 下 に 纏 める 直 下 型 の 内 陸 活 断 層 地 震 への 備 え 南 海 トラフで 発 生 する 巨 大 地 震 や 相 模 トラフ 周 辺 の 地 震 など 海 溝 型 地 震 は 再 現 期 間 が 短 く また 規 模 も 大 きい 現 在 これらの 地 震 の 発 生 確 率 が 高 いことが 政 府 地 震 調 査 研 究 推 進 本 部 からも 示 さ れており また 内 閣 府 が 優 先 的 に 対 策 を 検 討 していることからも これらの 地 震 対 策 が 注 目 を 浴 び がちである もちろん このような 地 震 対 策 は 必 要 であるものの 内 陸 活 断 層 による 直 下 型 地 震 の 発 生 について 備 えを 怠 ってはならない まずは 地 震 調 査 研 究 推 進 本 部 などが 公 開 する 活 断 層 に 関 す る 情 報 から 自 らの 近 隣 に 断 層 があるか?その 発 生 確 率 はどの 程 度 か?といった 情 報 の 取 得 から 始 められたい 最 新 の 知 見 に 基 づくリスクの 認 識 地 震 調 査 研 究 推 進 本 部 では 地 震 に 関 する 様 々な 情 報 を 公 開 している 活 断 層 に 関 わる 情 報 として は 主 に 主 要 活 断 層 の 長 期 評 価 と 活 断 層 の 地 域 評 価 がある 長 期 評 価 は 主 要 な 活 断 層 で 発 生 する 地 震 規 模 や 発 生 確 率 を 取 りまとめた いわゆる 断 層 のカルテである 全 国 で 約 100 の 主 要 な 活 Copyright 2016 東 京 海 上 日 動 リスクコンサルティング 株 式 会 社 11

リスクマネジメント 最 前 線 2016 l No.11 断 層 ごとにそれぞれレポートしている 現 在 九 州 地 域 と 関 東 地 域 についての 2 編 のレポートが 公 開 されており 各 地 域 の 地 震 発 生 確 率 や 断 層 について 纏 められている このような 情 報 は 定 期 的 に 更 新 されており 様 々な 研 究 や 知 見 から 大 きく 内 容 が 変 わることも 多 い 例 えば 今 回 地 震 が 発 生 した 布 田 川 - 日 奈 久 断 層 帯 は 政 府 地 震 調 査 研 究 推 進 本 部 が 2013 年 に 長 期 評 価 を 更 新 している 2013 年 の 更 新 では 布 田 川 断 層 帯 の 宇 土 区 間 宇 土 半 島 北 岸 区 間 が 追 加 され 各 区 間 について 詳 細 な 評 価 がなされるなど 今 回 の 地 震 発 生 が 懸 念 される 評 価 となっていた また 2013 年 に 公 開 された 九 州 の 地 域 評 価 では 九 州 において M6.8 以 上 の 地 震 が 今 後 30 年 以 内 に 発 生 する 確 率 は 30-42% 程 度 であるとの 結 果 が 示 されており 非 常 にリスクが 高 いことが 認 知 されていた 今 後 は このような 最 新 の 知 見 を 常 に 注 視 し 早 急 に 対 策 の 検 討 を 実 施 していくことが 重 要 である 恒 常 的 な 地 震 防 災 の 意 識 東 日 本 大 震 災 の 発 生 直 後 から 企 業 などにおいても 地 震 対 策 の 必 要 性 が 重 要 課 題 となり 地 震 対 策 の 計 画 がなされ 耐 震 補 強 や 事 業 継 続 計 画 (BCP)の 策 定 などが 実 施 された その 後 震 災 から 5 年 が 経 過 し 一 定 の 対 策 の 実 施 は 完 了 しているのではないかと 考 える しかし 一 度 対 策 を 実 施 したか らといって 歩 調 を 緩 めずに 対 策 の 実 効 性 の 確 認 や 改 善 を 継 続 して 実 施 していくことが 必 要 である これらの 事 項 を 地 震 対 策 に 活 かして 防 災 減 災 を 強 く 推 進 することが 急 務 と 考 える 本 稿 が 防 災 減 災 活 動 の 取 組 の 一 つの 動 機 づけになれば 幸 いである 2016 年 4 月 21 日 発 行 企 業 財 産 本 部 経 営 リスク 定 量 化 ユニット 100-0004 東 京 都 千 代 田 区 大 手 町 1-5-1 Tel. 03-5288-6234 Fax. 03-5288-6645 http://www.tokiorisk.co.jp/ Copyright 2016 東 京 海 上 日 動 リスクコンサルティング 株 式 会 社 12