平 成 24 年 度 (4) 炭 素 窒 素 安 定 同 位 体 比 を 用 いた 食 物 網 の 多 様 性 評 価 手 課 題 名 法 の 開 発 実 施 機 関 研 究 室 名 増 養 殖 研 究 所 北 海 道 区 水 産 研 究 所 担 当 者 氏 名 渋 野 拓 郎 鬼 塚 年 弘 長 谷 川 夏 樹 真 鍋 尚 也 1. 目 的 干 潟 生 態 系 において 無 機 有 機 物 から 低 次 ~ 高 次 消 費 者 に 至 る 食 物 網 を 把 握 するためには 関 連 有 機 物 の 種 類 や 構 成 生 物 の 捕 食 被 食 関 係 を 調 べる 手 法 が 一 般 的 であるが 多 大 な 労 力 を 要 するうえ 数 値 化 することは 極 めて 困 難 であ る 近 年 用 いられてきている 炭 素 窒 素 安 定 同 位 体 比 による 解 析 手 法 は 生 態 系 における 食 物 起 源 と 栄 養 段 階 を 二 次 元 的 に 表 現 できる 特 徴 があり 餌 生 物 から 捕 食 者 へ 栄 養 段 階 が1つ 上 がると 生 物 体 内 の 炭 素 安 定 同 位 体 比 (δ 13 C)が 約 1 窒 素 安 定 同 位 体 比 (δ 15 N)が 約 3 高 くなることが 知 られている また 炭 素 窒 素 ともに 構 成 種 の 同 位 体 比 の 分 散 が 大 きいほど 群 集 の 食 物 網 の 多 様 性 が 高 いこ とが 推 察 される 本 調 査 では 本 事 業 において 調 査 定 点 としている 亜 寒 帯 温 帯 亜 熱 帯 の 干 潟 域 に 生 息 するマクロベントスの 炭 素 窒 素 安 定 同 位 体 比 を 分 析 した 海 域 毎 の 特 徴 を 検 討 するため 二 次 元 プロットにおけるバラツキ 度 合 いを 数 値 化 するこ とによって 干 潟 アマモ 場 における 食 物 網 の 多 様 性 の 定 量 化 を 試 みた また 水 産 重 要 種 のアサリについては その 餌 料 源 に 関 して 議 論 の 余 地 が 残 っている( 例 :Kasai et al. 2004;Watanabe et al. 2009; 児 玉 ほか 2011) 今 回 アサリのサンプルが 多 数 得 られたので 餌 候 補 の1つである 底 質 中 有 機 物 (Watanabe et al. 2009)をアサリが 餌 料 源 にしているかどうか 検 討 した 2. 方 法 充 分 量 の 筋 肉 部 位 のサンプルが 採 取 しづらい 小 型 のカニ(ヒライソガニ)と ヤドカリ 類 について 餌 料 の 摂 取 が 盛 んと 思 われる 高 水 温 期 に 個 体 全 体 と 個 体 の 一 部 ( 足 のみ または 胃 を 除 去 した 個 体 )を 試 料 として 炭 素 および 窒 素 の 安 定 同 位 体 比 を 比 較 することにより 試 料 の 前 処 理 の 影 響 を 検 討 した 北 海 道 琵 琶 瀬 東 京 湾 海 の 公 園 瀬 戸 内 海 中 津 石 垣 島 周 辺 の 4 海 域 の 干 潟 において 年 4 回 それぞれ 環 境 の 異 なる 2 調 査 地 点 を 設 定 し 調 査 地 点 毎 に マクロベントスの 採 集 を 行 った これらの 試 料 は 冷 凍 もしくは 冷 蔵 して 保 存 の 後 生 物 分 類 群 毎 に 炭 素 窒 素 安 定 同 位 体 比 測 定 に 供 した なお 小 型 のベント スは 数 個 体 合 わせて 1 検 体 とし 甲 殻 類 については 塩 酸 処 理 を 施 し また 貝 類 については 軟 体 部 のみを 検 体 とし 質 量 分 析 計 によって 炭 素 窒 素 安 定 同 位 体 113
比 を 測 定 した 調 査 地 点 の 食 物 網 の 多 様 性 を 定 量 化 する 手 法 として 採 取 された 生 物 をカテ ゴリー( 二 枚 貝 類 肉 食 性 巻 貝 類 多 毛 類 ヨコエビ 類 ヤドカリ 類 カニ 類 など)に 分 けたうえ δ 13 C δ 15 N それぞれについて カテゴリー 毎 の 標 準 偏 差 の 平 均 値 を 求 めた これに 全 体 の 標 準 偏 差 をかけることにより 炭 素 窒 素 各 々 について 安 定 同 位 体 比 のバラツキ 度 合 いの 指 標 化 を 試 みた ここでは 仮 にこれ らを IvC および IvN とした( 図 1) 3. 結 果 および 考 察 試 料 の 前 処 理 方 法 の 検 討 では カニの 炭 素 安 定 同 位 体 比 (δ 13 C)で 個 体 全 体 を 用 いた 場 合 の 方 が 足 のみを 用 いるよりも 有 意 に 高 い 値 を 示 したが その 差 は 0.5 程 度 であり 食 物 起 源 の 違 いにより 生 じると 思 われる 値 に 比 べて 小 さく ( 図 2) 小 型 のカニについて 個 体 全 体 を 用 いても 解 析 結 果 に 大 きな 影 響 な 無 い ものと 思 われた 干 潟 ベントスの 安 定 同 位 体 比 では 全 調 査 地 の 範 囲 は 炭 素 安 定 同 位 体 比 (δ 13 C) が-25.2~-6.7 窒 素 安 定 同 位 体 比 (δ 15 N)が 3.2~16.4 であった 北 海 道 およ び 東 京 湾 では 底 質 中 有 機 物 (SOM)を 起 点 とした 右 肩 上 がりの 繋 がりにより 食 物 連 鎖 の 存 在 が 伺 われた( 図 3) 北 海 道 では St.1 2 ともに SOM アサリやオオノガイなどの 二 枚 貝 類 多 毛 類 という 繋 がりが 伺 われた 一 方 サビシラトリガイ( 二 枚 貝 )とヨコエビ( 甲 殻 類 )はこれらとは 異 なる 食 物 起 源 を 想 起 させた また 多 毛 類 は 二 枚 貝 類 より 炭 素 窒 素 安 定 同 位 体 比 の 分 散 が 大 きい 傾 向 を 示 し 二 枚 貝 類 に 比 べて 多 様 な 餌 料 を 摂 取 している 可 能 性 が 伺 われた 東 京 湾 においては SOM アサリなどの 二 枚 貝 類 肉 食 性 巻 貝 という 食 物 連 鎖 の 存 在 が 伺 われた 多 毛 類 は 二 枚 貝 類 よりδ 15 N の 分 散 が 大 きい 傾 向 を 示 し 多 毛 類 の 中 でも 多 様 な 栄 養 段 階 が 存 在 することが 示 唆 された カニ ヤドカリ ヨコエビなど 甲 殻 類 についてはサンプル 数 が 少 なく 特 定 の 傾 向 は 認 められな かった 東 京 湾 の SOM のδ 15 N 値 は 他 の 調 査 地 に 比 べ 高 かった 生 活 排 水 や 畜 産 排 水 由 来 の 栄 養 塩 ( 硝 酸 など)は 天 然 と 比 べてδ 15 N 値 が 高 いことが 知 られてい る 従 って 東 京 湾 では 他 の 海 域 に 比 べて 富 栄 養 化 が 進 んでいると 考 えられた また 食 物 段 階 の 多 さを 示 すと 考 えられる SOM からベントスのδ 15 N 値 の 幅 は 他 の 調 査 地 に 比 べて 小 さかった これは 富 栄 養 化 により 一 次 生 産 者 のδ 15 N 値 が 上 昇 し δ 15 N 値 の 幅 が 短 くなったと 推 測 された 瀬 戸 内 海 では SOM アサリなど 二 枚 貝 肉 食 性 巻 貝 甲 殻 類 という 食 物 連 鎖 の 存 在 が 伺 われた( 図 4) 多 くの 動 物 でδ 13 C の 分 散 が 大 きく 雑 食 性 の 生 物 が 多 く 存 在 することが 示 唆 された St.1 St.2 共 に SOM のδ 15 N 値 が 低 く 環 境 調 114
査 の 項 目 で 述 べたように 一 次 生 産 活 動 は 不 活 発 であった このことから 瀬 戸 内 海 は 貧 栄 養 であると 推 測 された 石 垣 島 では 多 様 な 生 物 が 存 在 するが 食 物 網 については St.1 で SOM 二 枚 貝 類 肉 食 性 巻 貝 類 の 繋 がりが 想 定 された( 図 4) 甲 殻 類 のδ 13 C は 分 散 が 大 きく 海 草 やデトライタスなど 様 々な 餌 料 を 摂 取 していることが 示 唆 された また St.1 の 非 肉 食 性 巻 貝 のδ 13 C は 他 の 動 物 と 一 致 せず そのため 非 肉 食 性 巻 貝 と 他 の 動 物 の 生 産 起 点 は 異 なると 考 えられた また SOM のδ 15 N が 低 く 一 次 生 産 活 動 は 不 活 発 であったことから 石 垣 島 St.1 は 貧 栄 養 であると 推 測 された 石 垣 島 St.2 ではδ 15 N の 平 均 値 はどの 生 物 も 同 様 の 値 を 示 したが どの 生 物 もδ 13 C やδ 15 N の 分 散 が 大 きかった このことからどの 生 物 も 多 様 な 餌 料 を 摂 取 してい ることが 示 唆 された 石 垣 島 St.2 において SOM のδ 15 N 値 は 他 の 調 査 地 に 比 べ 高 い 値 を 示 し 食 物 段 階 の 多 さを 示 すと 考 えられるδ 15 N の 幅 は 東 京 湾 と 同 様 に 小 さかった これは 富 栄 養 化 により 一 次 生 産 者 のδ 15 N 値 が 上 昇 し 一 次 生 産 者 からベントスまでのδ 15 N の 幅 が 短 くなったと 推 測 された 図 5にアサリの 餌 料 候 補 の 底 質 中 有 機 物 (SOM)とアサリの 炭 素 窒 素 安 定 同 位 体 比 の2 次 元 プロットを 示 した 各 海 域 の SOM とアサリの 炭 素 窒 素 安 定 同 位 体 比 には 対 応 関 係 があり 特 に サンプル 数 が 多 かった 北 海 道 と 東 京 湾 における アサリのδ 15 N 値 は SOM の 値 より 約 3 高 くなっていた 図 6 に 北 海 道 と 東 京 湾 における SOM とアサリのδ 13 C の 季 節 変 化 を 示 した アサリのδ 13 C の 季 節 変 化 は SOM の 季 節 変 化 とよく 合 っており 多 くの 月 でアサリのδ 13 C の 値 は SOM の 値 よ り 約 1 高 くなっていた 他 の 餌 候 補 も 検 討 する 必 要 があるが 本 研 究 におい てアサリは SOM を 餌 料 源 にしている 可 能 性 が 高 いことが 示 された 炭 素 窒 素 ともに 構 成 種 の 同 位 体 比 の 分 散 が 大 きいほど 群 集 の 食 物 網 の 多 様 性 が 高 いことが 推 察 される 調 査 地 点 の 食 物 網 の 多 様 性 を 定 量 化 する 手 法 とし て 炭 素 窒 素 各 々について 安 定 同 位 体 比 のバラツキ 度 合 いの 指 標 化 を 試 みた (IvCおよびIvN) IvCは 石 垣 島 St.1が 最 大 値 で 北 海 道 St.1が 最 小 値 を IvNは 石 垣 島 St.2が 最 大 値 で 東 京 湾 St.1が 最 小 値 を 示 した( 図 7) 指 標 値 は 図 3 図 4のδ 13 C δ 15 NのXYプロット 上 の 分 布 状 況 と 対 応 が 見 られた すなわち 北 海 道 ではδ 13 Cの 分 散 は 小 さくδ 15 Nの 幅 は 大 きかった 東 京 湾 ではδ 13 Cとδ 15 Nの 分 散 は 共 に 小 さかった 瀬 戸 内 海 ではδ 15 Nよりδ 13 Cの 分 散 の 方 が 大 きかった 石 垣 島 St.1ではδ 13 Cとδ 15 Nの 分 散 は 共 に 大 きかった しかし 石 垣 島 St.2の 多 毛 類 のようにサンプル 数 が 少 ない(n=3)と 標 準 偏 差 が 大 きくなる 場 合 があり( 図 4) 指 標 値 も 過 大 になった これらのことから それぞれの 分 類 群 でサンプル 数 が 十 分 ある 場 合 には 指 標 値 は 有 効 であると 考 えられた 指 標 値 から 各 海 域 の 特 徴 を 検 討 した 貧 栄 養 の 石 垣 島 St.1では 炭 素 窒 素 共 に 指 標 値 は 大 きいことから 食 物 網 が 多 様 であることが 示 唆 された 東 京 湾 では 115
St.1 St.2 共 に 指 標 値 は 小 さかった このことから 富 栄 養 の 東 京 湾 で 食 物 網 の 多 様 性 は 低 いことが 伺 われた また 貧 栄 養 の 瀬 戸 内 海 と 石 垣 島 St.1では δ 13 Cの 分 散 は 大 きく 雑 食 性 のベントスが 多 いことが 示 された 貧 栄 養 の 海 域 では 栄 養 塩 類 濃 度 が 低 いため 生 物 生 産 活 動 が 活 発 ではなく 生 物 は 比 較 的 少 な くなる そのため 雑 食 性 の 生 物 が 多 くなり 食 物 網 は 複 雑 になると 考 えられた 4. 今 後 の 課 題 ベントスの 餌 料 推 定 のため 底 質 中 有 機 物 だけでなく 水 中 の 有 機 物 やデトラ イタス 海 草 などのサンプルがステーションごとに 必 要 である 指 標 値 につい てはサンプル 数 が 少 ないと 過 大 になる 傾 向 があった 指 標 値 を 各 海 域 で 比 較 す るためには ベントスのそれぞれの 分 類 群 について 十 分 なサンプル 数 が 必 要 で ある 本 事 業 により 南 北 に 長 い 我 が 国 の 藻 場 干 潟 の 生 物 群 集 の 餌 利 用 食 物 連 鎖 について 同 一 尺 度 により 解 析 し 理 解 することが 出 来 たが 本 手 法 は 解 析 の ために 多 大 な 労 力 と 専 用 機 器 が 必 要 とされ 漁 業 者 や 一 般 市 民 による 藻 場 干 潟 の 保 全 活 動 へ 利 用 することは 非 常 に 困 難 と 考 えられる 5. 参 考 文 献 Kasai A, Horie H, Sakamoto W (2004) Selection of food sources by Ruditapes Philippinarum and Mactra veneriformis (Bivalva: Mollusca) determined from stable isotope analysis. Fisheries Science 70: 11-20. 児 玉 真 史 渡 部 論 史 八 木 宏 灘 岡 和 夫 鈴 木 紀 慶 古 殿 太 郎 (2011) 多 摩 川 河 口 域 に 生 息 する 二 枚 貝 類 の 炭 素 窒 素 安 定 同 位 体 比 の 変 動 特 性. 土 木 学 会 論 文 集 B2( 海 岸 工 学 )67: I_961-I_965. 永 田 俊 宮 島 利 宏 (2008) 流 域 環 境 評 価 と 安 定 同 位 体 水 循 環 から 生 態 系 ま で. 京 都 大 学 学 術 出 版 会, 京 都 市.pp476. Watanabe S, Katayama S,Kodama M, Cho N, Nakata K,Fukuda M (2009) Small-scale variation in feeding environments for the Manila clam Ruditapes philippinarum in a tidal flat in Tokyo Bay. Fisheries Science 75: 937-945. 6. 成 果 の 発 表 Hiroshi Ito and Satoshi Katayama (2010) Carbon and nitrogen stable isotope ratio variation of organisms in four Japanese tidal flats from subarctic region to subtropic region. Abstracts for the Joint Meeting of the Plankton Society of Japan and Japanese Association of Benthology, Kashiwa, 174. 116
眞 鍋 尚 也 澁 野 拓 郎 鬼 塚 年 弘 長 谷 川 夏 樹 (2013) 炭 素 窒 素 安 定 同 位 体 比 を 用 いた 干 潟 生 態 系 における 食 物 網 の 多 様 性 の 解 析. 第 24 回 魚 類 生 態 研 究 会, 水 産 大 学 校 田 名 臨 海 実 験 実 習 場,2013 年 2 月 16-17 日 (ポスター 発 表 ). 117
図 1 炭 素 窒 素 安 定 同 位 体 比 のバラツキの 指 標 値 の 算 出 方 法 図 2 カニ(ヒライソガニ)およびヤドカリ 類 の 安 定 同 位 体 分 析 結 果 118
図 3 北 海 道 と 東 京 湾 における 干 潟 ベントスなどの 炭 素 窒 素 安 定 同 位 体 比 塗 り つぶしと 白 抜 きのマーカーはそれぞれ St.1 と St. 2 を 示 す 119
図 4 瀬 戸 内 海 と 石 垣 島 における 干 潟 ベントスなどの 炭 素 窒 素 安 定 同 位 体 比 塗 りつぶしと 白 抜 きのマー ーカーはそれぞれ St. 1 と St.2 を 示 す 120
図 5 アサリと SOM の 炭 素 窒 素 安 定 同 位 体 比 塗 りつぶしと 白 抜 きのマーカーは それぞれ St.1 と St.2 を 示 す 図 6 北 海 道 と 東 京 湾 における SOM とアサリの δ 13 Cの 季 節 変 化 121
図 7 各 調 査 地 における 干 潟 ベントスの 炭 素 窒 素 安 定 同 位 体 比 のバラツキの 指 標 値 (IvC IvN) 122
(5)その 他 中 止 した 課 題 について 1 アマモ 場 現 場 実 験 21~22 アマモ 場 の 生 物 多 様 性 と 生 物 生 産 との 結 びつきを 明 らかにする 観 点 から2 1~22 年 度 に 実 施 アマモ 場 ではマダイ 稚 魚 は 低 次 のベントスのみ 利 用 し ていることがわかった 当 初 の 計 画 通 り( 神 奈 川 県 の 事 業 計 画 に 基 づき)2 2 年 度 で 調 査 取 り 止 め 2 底 質 硬 度 からみた 多 様 性 指 標 の 探 索 20 泥 底 における 底 生 生 物 の 生 息 環 境 に 関 する 物 理 的 指 標 の 観 点 から20 年 度 に 実 施 底 生 生 物 の 分 布 様 式 と 底 質 硬 度 との 示 唆 に 富 んだ 関 連 が 得 られたも のの 予 算 減 額 による 事 務 局 の 意 向 のため20 年 度 で 調 査 取 り 止 め 3 メイオベントスの 餌 生 物 としての 機 能 20 高 次 生 産 を 支 えているといわれるメイオベントスの 役 割 を 評 価 する 観 点 か ら メイオベントスの DNA 情 報 を 蓄 積 するとともに メイオベントス 相 およ びその 食 物 と 考 えられる 底 性 微 細 藻 類 相 を 簡 便 に 網 羅 的 に 検 出 する 方 法 を 検 討 した 分 析 手 法 の 諸 条 件 は 大 きく 改 善 され 手 法 としての 前 進 がみられた ものの 期 待 された 程 の 生 物 相 を 検 出 することはできなかったため20 年 度 で 調 査 取 り 止 め 4 葉 上 生 物 群 集 組 成 および 生 物 体 珪 素 20 アマモ 等 海 草 の 付 着 珪 藻 を 起 点 とした 食 物 連 鎖 の 中 で 付 着 珪 藻 中 に 含 ま れる 生 物 体 珪 素 (BSi; Biogenic silica)に 注 目 し これを 多 様 性 に 関 わる 指 標 と 考 え アマモ 等 葉 上 動 物 の 多 様 度 と 対 比 させることにより 海 草 藻 場 の 生 物 多 様 性 を 評 価 するための 指 標 の 抽 出 を 試 みた その 結 果 BSi は 多 様 度 指 数 と 負 の 相 関 を 持 ち 指 標 として 有 効 でないと 判 断 されたため 予 算 減 額 による 事 務 局 の 意 向 のため20 年 度 で 調 査 取 り 止 め まとめ 漁 場 環 境 における 生 物 の 多 様 性 を 評 価 するための 指 標 を 開 発 するため (1) 細 菌 群 集 の 炭 素 源 資 化 能 ( 成 育 のための 有 機 物 利 用 能 ) (2)メイオベントスの 主 構 成 者 で ある 線 虫 (3)マクロベントスの 幼 生 (4) 安 定 同 位 体 を 用 いた 食 物 網 の 各 々の 多 様 性 に 着 目 したアプローチを 行 った (1)では 生 物 多 様 性 の 保 持 された 漁 場 環 境 においては 場 の 細 菌 群 集 の 分 解 能 に 123
も 多 様 性 があり 健 全 な 物 質 循 環 が 行 われているであろうとの 考 えの 下 Biolog キ ットを 使 用 して 場 の 細 菌 群 集 が 有 する 炭 素 源 資 化 能 の 多 様 性 について 調 べること を 検 討 した まず 環 境 試 料 ( 底 泥 水 )を 対 象 とした 調 査 手 法 が 検 討 され 問 題 点 を 抽 出 した 上 で 本 手 法 を 用 いて 調 査 を 行 った その 結 果 天 然 土 壌 を 養 殖 場 に 転 用 した 場 合 に 土 壌 細 菌 群 集 の 炭 素 源 資 化 能 の 多 様 性 が 低 下 すること 干 潟 の 細 菌 群 集 の 炭 素 源 資 化 能 に 一 定 の 季 節 変 化 があるなど 多 様 性 と 生 産 性 の 両 面 から 指 標 候 補 としての 有 効 性 を 示 唆 する 知 見 が 得 られた (2)では まず 調 査 手 法 について 検 討 し 少 量 の 砂 泥 あるいはアマモ 葉 サンプルか ら 採 取 した 線 虫 類 の DNA を 小 スケールで 効 率 よく 抽 出 し 18S rrna 遺 伝 子 の 塩 基 配 列 を 解 析 する 手 法 を 開 発 した 本 研 究 とあわせて 行 われたメイオベントス 調 査 に より 塩 基 配 列 による 線 虫 類 の 多 様 度 指 数 の 動 向 は メイオベントス 多 様 度 指 数 を 反 映 していること メイオベントス 多 様 度 指 数 はマクロベントス 多 様 度 指 数 と 正 の 相 関 関 係 を 示 すことが 明 らかとなった このことから 線 虫 類 の 多 様 度 指 数 をモニタ リングすることは 干 潟 あるいは 藻 場 の 多 様 性 の 動 態 をモニタリングする 手 段 として 有 効 であると 考 えられた (3)では 干 潟 生 物 の 多 様 性 を 産 み 出 す 基 となる 幼 生 に 着 目 し 幼 生 の 出 現 度 合 い を 簡 便 に 評 価 するため モノクロナール 抗 体 を 用 いた 手 法 と DNA-Barcoading を 用 い た 手 法 による 幼 生 同 定 手 法 の 開 発 を 行 った 次 に 開 発 された 手 法 を 用 いて 調 査 を 実 施 した 結 果 漁 場 により 幼 生 の 出 現 数 や 遺 伝 的 多 様 性 に 大 きな 差 があることが 観 察 された そこで 幼 生 に 関 するこれらの 情 報 を 漁 場 指 標 として 使 用 することの 有 効 性 について 検 証 を 行 った その 結 果 二 枚 貝 では 資 源 量 の 豊 富 な 海 域 に 比 べ 資 源 量 の 低 下 している 海 域 では ライフサイクルが 短 い 種 が 卓 越 していることが 明 らかとなった また 調 査 点 数 が 充 分 ではないものの 全 国 の 主 要 アサリ 漁 場 にお けるアサリの 遺 伝 的 多 様 性 と 漁 獲 量 との 間 に 正 の 相 関 がみられ マイクロサテライ トなどの 遺 伝 的 情 報 を 漁 場 の 健 全 性 や 持 続 可 能 性 を 示 す 指 標 として 利 用 できる 可 能 性 が 示 唆 された また 今 回 開 発 された 幼 生 検 出 ツールを 用 いて 調 査 をする 過 程 で シカメガキが 大 分 県 海 域 に 分 布 することが 初 めて 明 らかとなるなど 外 見 から では 判 別 し 難 い 生 物 種 の 分 布 域 を 調 べるなどの 目 的 にも 役 立 つ 成 果 と 考 えられた (4)では マクロベントスの 炭 素 窒 素 安 定 同 位 体 比 のバラツキ 度 合 いから 指 標 値 を 定 義 し 海 域 ごとの 食 物 網 の 多 様 性 を 評 価 することを 検 討 した この 指 標 値 をグラ フに 表 すと サンプル 数 が 少 ないと 過 大 な 数 値 になるという 問 題 があったが 炭 素 窒 素 安 定 同 位 体 比 の 分 布 を 示 すグラフと 対 応 する 様 相 を 示 した 指 標 値 から 食 物 網 の 多 様 性 は 貧 栄 養 の 海 域 で 高 く 富 栄 養 の 海 域 で 低 くなることがわかった また 貧 栄 養 の 海 域 では 雑 食 性 のベントスが 多 く 存 在 することが 示 された 貧 栄 養 の 海 域 すなわち 何 でも 食 べていかないといけない 所 では 雑 食 性 のベントスが 多 くなると 考 えられた 本 解 析 手 法 は 安 定 同 位 体 比 の 分 析 に 専 用 機 器 を 必 要 とするなど 一 般 124
市 民 向 けの 普 及 に 適 さない 点 があるが 南 北 に 長 い 我 が 国 の 干 潟 の 生 物 群 集 の 食 物 網 についての 比 較 検 討 を 可 能 にする 手 法 の 一 つとして 提 案 された 以 上 4 つのアプローチとも 各 々 新 しい 切 り 口 を 持 っており 場 の 生 物 多 様 性 に 関 係 する 興 味 深 い 指 標 候 補 が 得 られたが 次 の 段 階 では 一 般 市 民 への 普 及 し 易 さと いう 観 点 も 加 味 しながら 指 標 候 補 を 絞 り 込 んで さらに 深 く 生 物 多 様 性 の 指 標 開 発 を 進 めて 行 く 必 要 があろう 125