テーマA-2 中 学 校 理 科 基 山 町 立 基 山 中 学 校 教 諭 奥 園 洋 光 要 旨 理 科 では, 自 然 の 事 象 と 既 習 の 内 容 を 関 連 付 けて 論 理 的 に 説 明 したり, 表 現 したりする 力 におい て 課 題 があるといわれている そこで,2つの 事 象 を 比 較 させ, 変 化 をもたらす 要 因 に 着 目 して 学 習 問 題 を 設 定 し, 問 題 を 解 決 させていった その 結 果, 生 徒 は, 目 的 意 識 をもって 観 察, 実 験 に 取 り 組 み, 学 習 問 題 と 実 験 結 果 を 関 連 付 け, 思 考 した 内 容 を 表 現 することができるようになってきた キーワード 1 科 学 的 な 思 考 表 現 2 目 的 意 識 3 比 較 を 用 いた 事 象 提 示 1 研 究 の 目 標 第 1 学 年, 物 理 領 域 において, 観 察, 実 験 の 結 果 を 自 然 の 事 象 と 関 連 付 けながら 考 察 する 力 を 育 成 するために, 生 徒 自 ら 問 題 意 識 や 疑 問 をもつことができるような 授 業 の 在 り 方 を 探 る 2 目 標 設 定 の 趣 旨 平 成 20 年 9 月 に 示 された 学 習 指 導 要 領 解 説 では, 科 学 的 な 思 考 力 表 現 力 の 育 成 を 図 る 観 点 から, 生 徒 が 目 的 意 識 をもって 観 察 実 験 を 主 体 的 に 行 うとともに, 観 察 実 験 の 結 果 を 考 察 し 表 現 するな どの 学 習 活 動 を 一 層 重 視 する その 際, 小 学 校 で 身 に 付 けた 問 題 解 決 の 力 を 更 に 高 めるとともに, 観 察 実 験 の 結 果 を 分 析 し, 解 釈 するなどの 科 学 的 探 究 の 能 力 の 育 成 に 留 意 する 1) と 中 学 校 理 科 の 改 善 の 具 体 的 事 項 が 述 べられている 本 県 でも 平 成 23 年 度 4 月 に 行 った 佐 賀 県 学 習 状 況 調 査 において, 自 然 の 事 象 と 既 習 の 内 容 を 関 連 付 けて 論 理 的 に 説 明 したり, 表 現 したりする 力 を 問 う 問 題 において 正 答 率 が 低 い 本 校 1 年 生 において も, 観 察, 実 験 に 対 しては, 大 変 意 欲 的 に 取 り 組 むが, 考 察 の 場 面 になると 単 に 感 想 を 述 べたり, 学 習 問 題 と 関 連 付 けて 記 述 できない 生 徒 が 多 い その 原 因 として, 解 決 すべき 問 題 が 何 であるのかを 確 実 に 把 握 していないこと, 観 察, 実 験 で 何 を 明 らかにするのかという 目 的 を 明 確 にもっていないこと などが 考 えられる 上 記 の 課 題 を 克 服 するために, 平 成 22 23 年 度 佐 賀 県 教 育 センタープロジェクト 研 究 では, 小 中 学 校 理 科 授 業 の 導 入 場 面 において, 比 較 可 能 な 事 象 を 提 示 したり, 言 語 活 動 を 充 実 させたりすること で 成 果 を 上 げている しかし, 事 象 提 示 については, 小 学 校 では 多 くの 実 践 例 があり,その 有 効 性 が 検 証 されているが, 中 学 校 では 事 例 が 少 なく,また 領 域 も 偏 っているため,その 有 効 性 については 検 証 の 余 地 が 残 されている そこで 本 研 究 では, 研 究 テーマ, 研 究 課 題 を 受 け, 中 学 校 において 事 象 提 示 を 含 む 授 業 の 導 入 を 工 夫 することで, 学 習 問 題 と 関 連 付 けた 考 察 ができるようになると 考 え, 本 目 標 を 設 定 した 3 研 究 の 仮 説 導 入 において, 比 較 可 能 な 事 象 提 示 を 行 い, 共 通 点 や 差 異 点 に 着 目 をして, 事 象 に 対 する 自 分 の 考 えを 説 明 させる さらに,その 考 えを 基 に 交 流 を 行 わせれば, 問 題 意 識 や 目 的 意 識 をもった 観 察, 実 験 ができるようになり, 実 験 結 果 と 学 習 問 題 を 関 連 付 けながら 考 察 することができるようになるだろ う 4 研 究 方 法 (1) 文 献 や 先 行 研 究 を 基 にした 効 果 的 な 事 象 提 示 に 関 する 理 論 研 究 - 127 -
(2) アンケートやワークシートの 記 述 分 析 による 生 徒 の 実 態 調 査 と,それを 基 にした 検 証 授 業 計 画 の 作 成 (3) 検 証 授 業 を 行 い, 導 入 部 分 に 事 象 提 示 を 取 り 入 れた 指 導 の 検 証 及 び 考 察 5 研 究 内 容 (1) 研 究 紀 要 や 先 行 研 究 を 基 にした 効 果 的 な 事 象 提 示 の 方 法 に 関 する 理 論 研 究 を 行 う (2) 実 態 に 関 するアンケートを 行 い, 科 学 的 な 思 考 力 を 高 めるような 事 象 提 示 及 びワークシートを 作 成 する (3) 所 属 校 1 年 生 における 単 元 音 の 性 質 (3 時 間 )と 力 と 圧 力 (3 時 間 )による 検 証 授 業 を 行 い, 仮 説 を 検 証 し, 手 立 ての 有 効 性 を 示 す 6 研 究 の 実 際 (1) 文 献 等 による 理 論 研 究 中 学 校 学 習 指 導 要 領 では, 問 題 を 見 いだし 観 察, 実 験 を 計 画 する 学 習 活 動, 観 察, 実 験 の 結 果 を 分 析 し 解 釈 する 学 習 活 動, 科 学 的 な 概 念 を 使 用 して 考 えたり 説 明 したりする 学 習 活 動 を 充 実 することが 述 べられている 田 代 は,この3つの 活 動 のうち, 最 も 難 しいのは 問 題 を 見 いだし 観 察, 実 験 を 計 画 する 学 習 活 動 であり, 生 徒 が 主 体 的 に 問 題 を 見 いだして,それを 自 らの 課 題 として 追 究 していくことは 非 常 に 難 しいとした 上 で, 生 徒 に 何 が 問 題 か 見 いださせるためには 比 較 という ことを 意 識 して 用 いていけばよいと 述 べている 角 屋 は, 子 どもはその 事 象 と 出 会 う 前 に,すでにそれに 関 係 する 事 象 と 出 会 ったり, 何 らかの 経 験 をしているものである つまり 子 どもは 白 紙 ではなく,すでに 経 験 に 基 づいた 何 らかの 考 えをも っているといえる そして 目 の 前 の 事 象 について,そうした 考 えを 使 って 解 釈 しようとするのであ る また 子 どもの 経 験 や 身 近 な 事 象 を 使 って 解 釈 できないような 事 象 に 対 しては, 当 然 子 どもは 解 決 の 見 通 しをもつことができず, 考 えが 当 てずっぽうになったり, 解 決 への 意 欲 をもてなかったり することになる 2) とも 述 べており,このことから,いかに 子 どもの 経 験 や 考 えを 引 き 出 すような 事 象 提 示 を 行 うかが 大 切 であると 考 える 以 上 のことから, 比 較 を 取 り 入 れた 事 象 提 示 により 生 徒 の 経 験 や 考 えを 引 き 出 し,それを 基 に 学 習 問 題 を 設 定 し, 解 決 させるような 授 業 を 行 えば, 研 究 の 目 標 に 迫 ることができるのではないかと 考 えた (2) 生 徒 の 実 態 把 握 所 属 校 1 年 生 の 事 前 意 識 調 査 において 理 科 の 授 業 でその 日 何 をするか, 予 測 がついている と 答 えた 生 徒 は, 当 てはまる,どちらかといえば 当 てはまるを 含 めても46%(14 名 )だった また, 今 日 の 実 験 は 何 のために 行 うのか( 実 験 の 目 的 )が 分 かっている と 答 えた 生 徒 は,66%(20 名 )だった このことから, 生 徒 は 何 のために 実 験 を 行 うのかという 目 的 をもたないまま 実 験 を 行 っていると 考 えられる また 友 達 と 協 力 して 実 験 や 観 察 をすることは 好 きだ と 答 えた 生 徒 が83%(25 名 )であ ったことから, 観 察 や 実 験 は 好 きだが, 目 的 意 識 や 見 通 しをもたないで 授 業 を 進 めている 状 況 が 分 かった (3) 検 証 授 業 について ア 1 単 位 時 間 の 学 習 過 程 平 成 22 23 年 度 佐 賀 県 教 育 センタープロジェクト 研 究 で 提 案 された 学 習 過 程 に, 交 流 と 事 象 の 再 説 明 を 加 えた9つの 場 面 を1 単 位 時 間 の 学 習 過 程 として 設 定 する( 次 頁 図 1) - 128 -
事 前 アンケートから 得 た 生 徒 の 実 態 を 踏 まえて, 目 的 意 識 をもたせて 学 習 活 動 を 行 わせるために, 導 入 として 行 う 図 1の1~4までを 工 夫 した 事 象 提 示 を 行 う 際 には, 比 較 の 視 点 3) ( 図 2)を 参 考 にしな がら 中 学 校 第 1 学 年 物 理 分 野 において 適 切 な 事 象 提 示 を 考 えた まず, 本 時 の 目 標 に 関 係 する2つの 事 象 を 提 示 し 比 較 させる 次 に, 共 通 点 や 相 違 点 に 注 目 させ, 事 象 に 対 する 自 分 の 考 えを 説 明 させる このとき, 自 分 で 説 明 できる 生 徒, 説 明 できない 生 徒 が 出 てくる ので,クラス 全 体 で 交 流 を 行 い, 自 分 の 考 えをもた せるようにする その 後, 事 象 の 変 化 に 影 響 を 及 ぼ す 要 因 を, 生 徒 の 説 明 から 抽 出 して 解 決 のキーワー ドとして 設 定 する このような 流 れの 中 で 目 的 を 焦 点 化 していく さらに, 解 決 のキーワードを 使 い 学 習 問 題 を 設 定 することで, 生 徒 の 中 に, 今 日 の 授 業 はどういうことを 明 らかに していくかを 明 確 に 意 識 させるように する 導 入 後, 実 験 計 画 を 立 て, 班 で 実 験 を 行 わせる 実 験 結 果 は, 全 体 で の 交 流 を 通 して 整 理 し, 結 果 からいえ ることを 学 習 問 題 に 対 応 する 形 で 考 察 させる 最 後 に, 授 業 で 学 んだことを 基 に, 最 初 の 事 象 を 再 説 明 させるようにする イ 検 証 の 視 点 と 具 体 的 な 手 立 て (ア) 検 証 の 視 点 Ⅰ 事 象 提 示 から 始 まる 導 入 を 工 夫 することで, 問 題 意 識 や 目 的 意 識 をもった 観 察, 実 験 ができるようになったか 事 象 提 示 は, 物 理 領 域 の 特 性 を 考 え, 比 較 の 視 点 ( 図 2)アとウを 中 心 に 行 うようにする ま た, 日 常 生 活 で 使 う 生 活 用 品 や, 実 際 見 せるこ とのできる 事 象 提 示 を 心 掛 ける さらに, 生 徒 の 実 態 に 即 して, 要 因 に 着 目 しやすい 事 象, 実 感 を 伴 った 理 解 が 得 られるような 事 象 を 心 掛 けるよ うにする 図 1 事 象 提 示 を 再 説 明 させる 学 習 過 程 ア 素 朴 概 念 (イメージ)と 科 学 的 な 概 念 を 比 較 させる 事 象 提 示 イ 操 作 を 加 える 事 象 と 加 えない 事 象 を 比 較 させる 事 象 提 示 図 2 事 象 提 示 を 行 う 上 での 比 較 の 視 点 事 象 提 示 から 始 まる 学 習 に 見 通 しをもたせるために, 電 子 黒 板 を 使 って 本 時 の 学 習 過 程 を 示 し( 図 3), 今 どの 活 動 を 行 っているのか,この 後 にどのような 活 動 を 行 うのかが 分 かるようにする 最 初 の 説 明 の 交 流 では,クラス 全 体 で 自 由 に 交 流 を 行 い, 自 分 と 同 じ 考 えの 人, 違 う 考 えの 人 を 見 付 けて, 考 えを 互 いに 紹 介 させる 自 分 が 参 考 になった 他 人 の 考 えは 朱 書 きで 加 筆 させ, 事 象 の 説 明 ができなかった 生 徒 でも, 交 流 を 行 うことで 自 分 の 意 見 をもつことができるようにする その 後, 事 象 の 説 明 の 中 から, 変 化 の 要 因 を 解 決 のキーワードとして 発 表 させる 教 師 は 生 徒 か ら 出 た 様 々な 解 決 のキーワードを 整 理 し,2つか3つに 精 選 し, 生 徒 が 出 した 解 決 のキーワードを 9 事 象 の 再 説 明 1 事 象 提 示 2 事 象 を 説 明 する 3 最 初 の 説 明 の 交 流 4 学 習 問 題 を 立 てる 5 実 験 計 画 を 立 てる( 予 想 ) 6 実 験 を 行 う 7 結 果 を 交 流 する ( 結 果 の 把 握 ) 8 結 果 からいえる ことを 考 察 する ウ 既 習 事 項 と 未 習 事 項 を 比 較 させる 事 象 提 示 エ 異 なる 物 質 に 同 じ 操 作 を 加 えて 比 較 させる 事 象 提 示 図 3 電 子 黒 板 に 示 した 授 業 の 流 れ 検 証 の 視 点 Ⅰ 検 証 の 視 点 Ⅱ - 129 -
使 って 学 習 問 題 を 設 定 する このように, 導 入 に 比 較 可 能 な 事 象 提 示 を 用 いて 授 業 を 展 開 し, 学 習 問 題 を 設 定 することにより, 生 徒 に 目 的 意 識 をもたせ 学 習 を 進 めていくことができると 考 えた (イ) 検 証 の 視 点 Ⅱ 実 験 結 果 と 学 習 問 題 を 関 連 付 けながら 考 察 することができたか 実 験 結 果 を 交 流 させる 場 面 では,ワークシートの 結 果 記 入 の 部 分 を 拡 大 した 紙 に, 班 の 結 果 を 記 入 させ, 黒 板 にまとめて 貼 ることで, 他 の 班 の 実 験 結 果 も 見 ることができるようにする また, 実 験 結 果 が 何 を 意 味 するのか, 独 立 変 数 と 従 属 変 数 の 関 係 はどうなっているのかなどの 視 点 を 与 えな がら 交 流 させていく その 上 で, 実 験 結 果 からいえることを, 解 決 のキーワードを 使 って 考 察 させ るようにする さらに 授 業 の 最 後 には, 導 入 で 提 示 した 事 象 を 学 習 で 明 らかにしたことを 基 に 再 説 明 させる ウ 授 業 の 実 際 (ア) 第 1 学 年 力 と 圧 力 ( 全 13 時 間 )の 概 要 本 単 元 は, 力 や 圧 力 に 関 する 実 験 を 行 い, 結 果 を 分 析 し て 解 釈 することを 通 して 規 則 性 を 見 いださせ, 力 や 圧 力 に 関 する 基 礎 的 な 性 質 やその 働 きを 理 解 させ, 力 の 量 的 な 見 方 の 基 礎 を 養 うとともに, 力 や 圧 力 に 関 して 科 学 的 にみる 見 方 や 考 え 方 を 養 うことが 主 なねらいである 以 下 では 第 4 時 について 授 業 の 詳 細 を 述 べる 図 4 下 駄 で 乗 った 場 面 (イ) 単 元 力 と 圧 力 (4/13)の 授 業 の 実 際 本 時 の 目 標 は, 圧 力 についての 実 験 を 行 い, 圧 力 は 力 の 大 きさと 面 積 に 関 係 があることを 見 いだすことである 事 象 提 示 では, 生 花 用 吸 水 スポンジに 下 駄 を 履 いて 乗 る 事 象 をAとし, 生 花 用 吸 水 スポンジに 草 履 を 履 いて 乗 る 事 象 を Bとして 比 較 させた まず 個 人 で 事 象 の 説 明 を 行 い, 交 流 を 行 った 後, 何 が 関 係 しているのかを 考 えさせ, 変 化 の 要 因 を 解 決 のキーワードとして 挙 げさせていった 生 徒 から 出 た 力 のかかりやすさ, 力 の 大 きさ 等 の 言 葉 は 力 図 5 草 履 で 乗 った 場 面 の 加 わり 方 という 言 葉 に 整 理 し,また 靴 底 の 形, と がっている, 平 べったい などの 言 葉 はオアシスの 変 形 した 形 と 関 連 させて 力 を 受 ける 面 積 という 言 葉 に 整 理 した その 後, 本 時 の 学 習 問 題 を 解 決 のキーワードを 用 い て 加 える 力 と 力 を 受 ける 面 積 はどのような 関 係 があるだ ろうか に 設 定 した 実 験 に 入 る 前 に, 実 験 道 具 を 確 認 し, 実 験 結 果 の 予 想 を 個 人 で 立 ててワークシートに 記 入 させた 図 6 生 徒 実 験 の 場 面 実 験 では, 力 を 加 えるものとしてレンガを, 力 を 受 けるも のとしてスポンジを 使 って 行 った( 図 6) まずレンガの 質 量 を 量 り,レンガがスポンジに 触 れる 面 積 を 求 め,レンガ の 置 き 方 を 変 えてスポンジの 上 に 置 き,スポンジのへこみ の 深 さを 測 定 させた 実 験 結 果 は, 各 班 に 配 ったホワイト ボードに 記 入 させ, 黒 板 に 提 示 することで 結 果 の 交 流 を 行 った( 図 7) 3 種 類 のレンガで 実 験 を 行 わせ, 結 果 の 交 流 では 種 類 が 違 っても 傾 向 は 同 じになることを 確 認 した そ 図 7 結 果 の 交 流 の 場 面 の 後, 結 果 からいえること, 事 象 の 再 説 明 をワークシート - 130 -
に 記 述 させた エ 考 察 (ア) 検 証 の 視 点 Ⅰ 授 業 の 導 入 における 抽 出 生 徒 の 様 子 と 事 後 アンケートの 分 析 導 入 において, 目 的 意 識 をもつことができたかを, 第 4 時 における3 名 の 抽 出 児 の 様 子 を 基 に 分 析 する 1 学 期 の 評 価 において 科 学 的 な 思 考 表 現 がA 評 価 の 生 徒 を 生 徒 E,B 評 価 の 生 徒 を 生 徒 F,C 評 価 の 生 徒 を 生 徒 Gとして 抽 出 した 以 下 に3 名 の 抽 出 生 徒 の 理 科 に 関 するプロフィールを 記 す( 表 1) また, 表 2は 検 証 授 業 の 導 入 から 学 習 問 題 を 設 定 するまでの 授 業 の 詳 細 であり, 検 証 の 視 点 Ⅰに 関 わることを 検 Ⅰ, 検 証 の 視 点 に 関 わる 教 師 の 発 問 や 手 立 て, 生 徒 の 発 言 をゴシック 体 で 表 記 している 表 1 抽 出 生 徒 のプロフィール 生 徒 E 生 徒 F 生 徒 G 学 習 問 題 を 把 握 してこの 実 験 で どんな 問 題 を 解 決 するべきか 分 か って 実 験 を 行 っている 考 察 の 場 面 では, 結 果 から 分 かったことをまと めることができる 学 習 問 題 から 何 を 調 べるのか 分 かり 実 験 を 積 極 的 に 行 うことがで きる 考 察 では, 結 果 の 規 則 性 など が 表 せないことがある 学 習 問 題 をよく 把 握 しないまま, 実 験 を 行 うことがある 実 験 を 行 っ た 後, 考 察 をどう 書 けば 良 いか 悩 む ことが 多 い 表 2 検 証 授 業 (2/3)の 実 験 の 様 子 と 抽 出 生 徒 のワークシート 記 述 1 教 師 の 事 象 提 示 を 見 る ( 前 に 生 徒 を 集 めて, 演 示 実 験 を 行 う ) A 下 駄 を 履 いて 生 花 用 吸 水 スポンジの 上 に 乗 る B 草 履 を 履 いて 生 花 用 吸 水 スポンジの 上 に 乗 る 着 目 する 視 点 は, 下 駄 や 草 履 で 生 花 用 吸 水 スポンジに 乗 った 後, 生 花 用 吸 水 スポンジはどうなったか 下 駄 と 草 履 の 形 事 象 提 示 の 様 子 2 事 象 を 説 明 する T1: 壊 れやすい 生 花 用 吸 水 スポンジですが,AはへこんでBはへこまなかったのはなぜでしょう (1 分 間 自 分 一 人 でじっくり 考 えさせる) 生 徒 Eの 事 象 の 説 明 生 徒 Fの 事 象 の 説 明 生 徒 Gの 事 象 の 説 明 生 花 用 吸 水 スポンジに 触 れる 下 駄 と 草 履 の 裏 の 形 が 下 駄 の 方 乗 る 物 の 裏 の 形 で 生 花 用 吸 面 積 がAの 方 が 少 ないから 一 が 大 きいからげたの 方 の 生 花 用 水 スポンジが 変 化 する 部 に 重 さがかかったから 吸 水 スポンジがへこんだと 思 う T2: はい では 書 くのを 止 めてください 書 けた 人, 書 けなかった 人,まだ 途 中 の 人 ( 挙 手 をさせ, 書 い ている 人 を 確 認 させる) それでは, 同 じ 考 えの 人, 違 う 考 えの 人 を 一 人 ずつ 見 つけて 交 流 しましょう なるほどと 思 った 意 見 があったらいただきましょう じゃ 赤 ペンを 持 って では 交 流 始 め 3 考 えを 交 流 させる T3: 生 花 用 吸 水 スポンジの 表 面 はなぜ 変 化 したと 思 いますか? S1: 下 駄 と 草 履 の 裏 の 形 が 違 うから 生 徒 F: 下 駄 の 底 の 部 分 が 大 きく 出 っ 張 っている T4: 生 花 用 吸 水 スポンジと 接 している 部 分 はどうなっています? S2: 下 駄 は 小 さい, 草 履 は 大 きい 交 流 をしている 生 徒 Fの 様 子 - 131 -
T5: 小 さい, 大 きいって 何 のことを 言 っているのかな? 検 Ⅰ 生 徒 F:あっ, 分 かった 面 積 だ T6:さすが 良 く 気 付 けましたね 面 積 は 今 日 の 勉 強 で 大 切 なものになりそうだね 生 徒 Eの 交 流 後 の 加 筆 ( 交 流 後 に 生 徒 が 加 筆 した 記 述 ) 生 徒 Fの 交 流 後 の 加 筆 生 徒 Fの 交 流 後 の 加 筆 加 筆 なし( 主 に 分 からない 生 花 用 吸 水 スポンジについて 生 花 用 吸 水 スポンジに 触 れ 生 徒 に 解 説 をしていた) いるげたの 面 積 が 違 うから ている 部 分 がげたは 少 なく て,ぞうりは 多 いから 4 学 習 問 題 を 設 定 する T7:では, 生 花 用 吸 水 スポンジの 表 面 に 変 化 があらわれた 理 由 を 発 表 してください S3:はい 下 駄 は2カ 所 しか 力 が 加 わらないからへこんだ 草 履 は 平 らな 面 全 体 に 力 が 分 散 されるからへこ まなかった T8:へこむへこまないは, 下 駄 と 草 履 の 力 の 加 わり 方 に 関 係 ありそうですね 要 因 抽 出 ( 板 書 力 の 加 わり 方 ) 検 Ⅰ T9: 他 の 意 見 はありませんか S4:はい 下 駄 は 力 の 入 る 面 積 が 小 さくて, 草 履 は 力 の 入 る 面 積 が 広 いように 力 の 入 り 方 が 違 うから T10:そうですか 下 駄 と 草 履 の 力 の 入 る 面 積 が 違 うと 考 えたのですね T11:もしどれぐらい 力 が 加 わったかを 調 べるためにはどこを 見 ればいいですか? ( 実 験 で 使 ったへこんでない 生 花 用 吸 水 スポンジとへこんだ 生 花 用 吸 水 スポンジを 見 せる ) S4:あっ 生 花 用 吸 水 スポンジがどれぐらいへこんだか T12:そうです 生 花 用 吸 水 スポンジがへこんだ 部 分 の 面 積 を 見 たらいいですね 要 因 抽 出 ( 板 書 力 を 受 けた 面 積 ) 検 Ⅰ T13:それでは, 力 を 加 えた 面 積 と 力 を 受 けた 面 積 という 言 葉 を 使 って 学 習 問 題 を 設 定 しましょう 学 習 問 題 力 の 加 わり 方 は, 力 を 受 ける 面 積 とどのような 関 係 があるだろうか 表 2の2の 記 述 を 見 ると, 生 徒 Eは, 最 初 の 事 象 提 示 により 下 駄 の 底 の 部 分 が 触 れる 面 積 に 着 目 して いることが 分 かる 生 徒 Fは, 下 駄 の 底 が 大 きいと 表 現 している 生 徒 Gは 乗 るものの 裏 の 形 で 違 うと 表 現 しているが, 靴 底 の 形 は 見 たことをそのまま 表 現 しているだけで,この 時 点 では 生 徒 F, 生 徒 Gは 要 因 に 着 目 できているとは 限 らず 生 徒 Eと 比 べ,この 状 態 では 学 習 問 題 につなげにくいと 考 えられる 表 2の3では, 生 徒 Fは 下 駄 の 底 の 形 にばかりとらわれていたが, 教 師 の 発 問 生 花 用 吸 水 スポンジに 接 している 部 分 はどうなっているかな (T 4)から 始 まり, 生 花 用 吸 水 スポンジに 接 して いる 下 駄 と 草 履 の 部 分 に 着 目 させ, 面 積 が 関 係 しているのではないかと 考 え 始 めた この ことから, 交 流 活 動 によって 最 初 の 考 えを 比 較 検 討 することにより, 目 的 意 識 をもちつつ あることがうかがえる アンケートによる 意 識 調 査 の 分 析 結 果 から 目 的 意 識 をもって 学 習 を 進 めることができた n=33 かについて 述 べる 検 証 授 業 後 (H25 年 2 月 実 図 8 検 証 授 業 後 の 生 徒 の 意 識 調 査 - 132 -
施 )に 事 象 提 示 と 交 流 に 対 してアンケートを 行 った( 図 8) 項 目 1では, 事 象 提 示 からの 導 入 によって, 何 を 明 らかにすればよいのかが 分 かったと 感 じている 生 徒 は, 当 てはまる,どちらかといえば 当 ては まると 合 わせると85%(28 名 )いた 項 目 2では, 交 流 がAとBの 違 いをはっきりさせることができた と 感 じている 生 徒 は, 当 てはまる,どちらかといえば 当 てはまると 合 わせると88% (29 名 )いた この ことから, 事 象 提 示 から 始 まる 導 入 と, 交 流 という 手 立 てが, 目 的 意 識 を 持 って 学 習 を 進 めることに 有 効 にはたらいたのではないかと 考 える (イ) 検 証 の 視 点 Ⅱ 抽 出 生 徒 におけるワークシートの 記 述 の 分 析 と 事 後 アンケートの 分 析 実 験 結 果 からいえることを, 実 験 結 果 を 基 に 解 決 のキーワードを 使 って 考 察 することができてい たか,また 再 説 明 をすることができていたかを 抽 出 生 徒 の 記 述 を 基 に 考 察 を 行 う 音 の 性 質 ( 検 証 授 業 前 ) 単 元 名 考 察 事 象 の 再 説 明 生 徒 E 生 徒 F 生 徒 G 音 は 音 源 から 近 い 所 から 遠 い 所 へ 順 に 伝 わっていく ホースが 短 かったら 音 は 早 く 伝 わり,ホー スが 長 いと 遅 く 伝 わ る 音 源 から 近 い 所 から 伝 わっていく ホースの 長 さが 短 い ほど 聞 こえる 速 度 は 速 く 長 さが 長 いと 聞 こえ る 速 度 は 遅 い どんどん 伝 わってい く ホースの 長 さが 関 係 ある 力 と 圧 力 ( 検 証 授 業 ) 考 察 事 象 の 再 説 明 力 を 受 ける 面 積 がせ まい 方 が 力 の 加 わり 方 が 大 きい げたと 生 花 用 吸 水 ス ポンジの 触 れ 合 う 面 積 がせまかったから, 力 の 加 わり 方 が 大 きく て, 生 花 用 吸 水 スポン ジがへこんだ ぞうり は, 触 れ 合 う 面 積 が 広 くて, 力 の 加 わり 方 が 小 さかったからへこま なかった スポンジと 触 れ 合 う レンガの 面 積 が 大 きい ほどスポンジのへこみ が 小 さい げたが 生 花 用 吸 水 ス ポンジに 触 れている 面 積 が 小 さかったからへ こんだ ぞうりは 面 積 が 小 さいからへこまな かった あたる 面 積 が 小 さい とへこみが 大 きい ぞうりとげたの 面 積 は,げたの 方 が 小 さい からへこんだ 資 料 1 検 証 授 業 の 前 後 における 記 述 の 変 容 検 証 授 業 をする 前 の 考 察 の 記 述 と, 検 証 授 業 での 考 察 の 記 述 を 比 較 してみた( 資 料 1) 生 徒 Eは, 検 証 授 業 前 も 考 察 は 書 けていたが, 検 証 授 業 では, 解 決 のキーワードをすべて 使 い 事 象 の 再 説 明 まで 論 理 的 な 文 章 で 表 現 するようになっている 生 徒 Fの 検 証 授 業 前 の 記 述 では, 速 さ, 時 間, 距 離 の 関 係 を 間 違 って 捉 えている 検 証 後 は,すべての 解 決 のキーワードを 使 ってはないものの, 面 積 と 力 の 関 係 を 関 連 付 けて 考 察 を 述 べることができている 生 徒 Gは 検 証 授 業 前 では, 結 果 と 考 察 を 区 別 でき ていないため, 考 察 や 再 説 明 ができてい ない しかし, 検 証 授 業 後 は, 結 果 を 踏 まえて, 考 察 や 再 説 明 をしている これ らの 記 述 の 変 容 から, 個 人 差 はあるもの の, 実 験 結 果 と 学 習 問 題 を 関 連 付 けなが ら 考 察 ができるようになりつつある 次 に,アンケートによる 意 識 調 査 の 分 析 結 果 (H25 年 2 月 実 施 )から, 実 験 結 果 n=33 と 学 習 問 題 を 関 連 付 けながら 考 察 するこ 図 9 検 証 授 業 後 の 生 徒 の 意 識 調 査 - 133 -
とができたかについて 述 べる ( 前 頁 図 9) 項 目 3で, 授 業 の 最 初 より 事 象 の 再 説 明 を 書 けるようになっ たと 感 じている 生 徒 は,85%(28 名 )であり, 多 くの 生 徒 が, 事 象 の 再 説 明 を 書 けるようになった と 感 じている n=33 また, 検 証 授 業 前 の3 時 間 と 図 10 生 徒 の 記 述 内 容 の 変 容 検 証 授 業 3 時 間 の 全 生 徒 のワー クシートの 記 述 を 分 析 したところ( 図 10), 検 証 授 業 後 には, 実 験 結 果 を 踏 まえて 考 察 でき ている 生 徒 が 17%(5.8 名 )から 86%(25.3 名 )になっており, 多 くの 生 徒 が 実 験 結 果 を 踏 ま えて 事 象 の 再 説 明 を 記 述 することができていた このことからも 実 験 結 果 と 学 習 問 題 を 関 連 付 けながら 考 察 ができるようになってきていると 考 えられる 7 研 究 のまとめと 今 後 の 課 題 (1) 研 究 のまとめ 今 回 の 研 究 を 通 して, 次 のような 成 果 を 得 ることができた 導 入 時 に, 比 較 を 用 いた 事 象 提 示 を 用 いることにより, 生 徒 が 目 的 意 識 をもって 学 習 を 進 める ようになった 学 習 問 題 と 実 験 結 果 を 踏 まえて 考 察 を 書 くことができる 生 徒 が 増 えた 学 習 してきたことを 生 かして, 授 業 の 最 初 の 事 象 を,より 科 学 的 に 表 現 して 説 明 できる 生 徒 が 増 えた このような 授 業 を 繰 り 返 すことで, 理 科 学 習 において 生 徒 自 ら 目 的 意 識 をもって 観 察, 実 験 に 取 り 組 み, 実 験 から 得 られる 結 果 を 自 然 の 事 象 と 関 連 付 けながら 考 察 する 力 の 高 まりが 期 待 できる (2) 今 後 の 課 題 1 分 野 物 理 領 域 以 外 での 事 象 提 示 の 効 果 的 な 示 し 方 と 事 象 の 再 説 明 をする 授 業 方 法 の 研 究 要 因 抽 出 の 際 の 教 師 のつなぐ 言 葉,また 交 流 の 効 果 的 な 進 め 方 の 研 究 引 用 文 献 URL 1) 文 部 科 学 省 中 学 校 学 習 指 導 要 領 解 説 理 科 編 平 成 20 年 9 月 2) 角 屋 重 樹 編 著 理 科 の 学 ばせ 方 教 え 方 事 典 教 育 出 版 2005 年 p78 3) 佐 賀 県 教 育 センター 科 学 的 な 思 考 力 表 現 力 の 育 成 を 目 指 した 理 科 学 習 の 在 り 方 http://www.saga-ed.jp/kenkyu/kenkyu_chousa/h23/05%20rika/index.html (2012 年 6 月 ) 参 考 文 献 URL 田 代 直 幸 問 題 の 発 見 と 実 験 の 計 画 を 行 う 内 外 教 育 時 事 通 信 社 2012 年 10 月 p4 佐 賀 県 教 育 センター 平 成 23 年 度 佐 賀 県 小 中 学 校 学 習 状 況 調 査 Web 報 告 書 http://www.saga-ed.jp/kenkyu/scholastic_attainments_analysis/web_report_h23/index.html (2011 年 10 月 ) - 134 -