2014 年 5 月 7 日 片 岡 剛 士 コラム 消 費 落 ち 込 み 想 定 内 がもたらすもの 経 済 社 会 政 策 部 主 任 研 究 員 片 岡 剛 士 今 年 の 4 月 1 日 から 消 費 税 が 8%に 引 き 上 げられて 1 カ 月 が 経 過 した 4 月 第 1 週 時 点 の 企 業 の 反 応 についての 報 道 を 見 ると ファミリーマート 1 やローソン 2 といった 日 常 生 活 で 必 要 な 商 品 を 主 に 扱 うコ ンビニエンスストアにおいては 消 費 税 増 税 に 伴 う 売 り 上 げの 減 少 はあるものの 大 きなインパクトは 生 じておらず 高 島 屋 3 といった 百 貨 店 では 特 に 宝 飾 品 や 美 術 品 輸 入 ブランド 品 といった 高 額 商 品 ほど 影 響 が 大 きく 今 年 下 半 期 も 影 響 はゼロではないとの 報 道 がなされた これは 耐 久 財 や 高 額 商 品 ほど 駆 け 込 み 需 要 の 影 響 が 深 刻 であるという 増 税 前 からの 判 断 を 裏 付 ける 結 果 である だが 増 税 から 1 カ 月 が 経 過 した 5 月 2 日 の 日 本 経 済 新 聞 一 面 では 消 費 落 ち 込 み 想 定 内 と 題 し て 4 月 1 日 の 消 費 税 増 税 による 個 人 消 費 の 落 ち 込 みについて 企 業 が 想 定 した 範 囲 内 にとどまるとの 見 方 が 増 えていると 報 じている 増 税 直 後 に 約 2 割 落 ち 込 んだ 百 貨 店 の 売 上 高 は 約 1 割 減 まで 復 調 し ス ーパーなど 日 用 品 を 扱 う 店 舗 では 前 年 を 上 回 り 始 めた 企 業 もある 日 本 経 済 新 聞 社 が 実 施 した 調 査 によ れば 主 要 小 売 業 の 8 割 超 が 6 月 ごろには 売 上 高 が 回 復 するとみているとのことである こうした 見 方 は 本 当 に 正 しいのだろうか?そして 前 回 (97 年 4 月 )の 増 税 時 の 経 済 状 況 の 評 価 と 照 ら した 場 合 に こうしたポジティブともとれる 現 時 点 の 評 価 をどのように 考 えたらよいのだろうか? 本 稿 では 各 種 データの 動 きを 前 回 増 税 時 と 比 較 しながら 特 徴 をまとめ あわせて 消 費 税 増 税 に 伴 う 駆 け 込 み 需 要 の 程 度 を 現 状 明 らかとなっている 統 計 データから 把 握 する さらに 前 回 増 税 時 における 経 済 情 勢 の 評 価 の 変 遷 の 経 緯 から いくつかの 留 意 点 を 述 べることにしたい 前 回 消 費 税 増 税 時 と の 比 較 - 株 価 為 替 レート まず 現 状 把 握 できる 統 計 データに 基 づきながら 前 回 消 費 税 増 税 時 と 今 回 の 推 移 との 比 較 整 理 を 行 ってみよう 1 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140408/k13591340.html 2 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140410/k13647820.html 3 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140408/k13590250.html 1
株 価 ( 日 経 225 月 末 値 )の 推 移 についてみていくと 前 回 増 税 時 の 株 価 の 動 きは 消 費 税 引 き 上 げ 前 ま では 低 下 傾 向 で 推 移 したが 増 税 が 始 まった 1997 年 4 月 には 上 昇 に 転 じて 1997 年 6 月 以 降 再 び 低 下 している これにはアジア 通 貨 危 機 (タイ バーツ 大 幅 下 落 6 月 19 日 )が 影 響 した( 図 1) 今 回 の 場 合 株 価 は 2013 年 4 月 から 12 月 にかけて 上 昇 し 14 年 1 月 以 降 下 落 傾 向 にある 2013 年 12 月 末 に 2013 年 4 月 末 と 比 較 して 17.5% 割 高 であった 株 価 は 14 年 4 月 末 に 13 年 4 月 末 値 を 3.2% 上 回 る 水 準 まで 低 下 している 前 回 の 場 合 は 増 税 が 始 まった 4 月 の 株 価 は 前 月 を 上 まわったが 今 回 の 場 合 は 下 落 していることも 相 違 点 だ 図 1 株 価 ( 日 経 225 月 末 値 )の 推 移 140 ( 増 税 から1 年 前 の 値 =) 130 120 110 90 80 70 60 ( 出 所 ) 日 経 NEEDSより 作 成 為 替 レート(ドル/ 円 レート)の 動 きをみると 前 回 増 税 時 には 増 税 前 まで 円 安 が 進 み 増 税 後 2 カ 月 間 は 円 高 となってその 後 再 び 円 安 が 進 んだ 今 回 の 場 合 為 替 レートの 動 きは 前 回 増 税 時 と 比 較 して マイルドであり 4 月 の 為 替 レートも 3 月 とほぼ 変 わりがない 状 況 である( 図 2) FRB は 資 産 買 い 入 れのペースを 着 実 に 減 らしており 4 月 30 日 に 開 催 された FOMC で 5 月 以 降 の 資 産 買 い 入 れ 額 を 月 450 億 ドルとすることを 決 定 した FRB の 想 定 に 沿 った 形 で 成 長 率 と 雇 用 環 境 の 改 善 が 生 じ 資 産 買 い 入 れ 額 の 縮 小 が 予 定 通 り 進 むという 展 開 になれば 量 的 質 的 緩 和 策 を 継 続 するわが 国 の 通 貨 がより 安 くなる( 円 安 ) 可 能 性 が 今 後 高 まるだろうし 他 方 で 予 期 せぬ 対 外 ショックが 生 じた 場 合 には 円 高 に 転 じるリスクもありうるだろう 2
図 2 為 替 レート(ドル/ 円 レート)の 推 移 140 ( 増 税 から1 年 前 の 値 =) 130 120 110 円 安 90 円 高 80 ( 出 所 ) 日 本 銀 行 前 回 消 費 税 増 税 時 と の 比 較 - 景 気 動 向 指 数 次 に 景 気 動 向 指 数 についてみよう 図 3 は 先 行 きの 景 気 変 動 を 把 握 する CI 先 行 指 数 の 6 カ 月 前 比 を 計 算 の 上 で 比 較 を 行 った 結 果 である 図 をみると 前 回 増 税 時 の CI 先 行 指 数 6 ヵ 月 前 比 は 増 税 の 1 年 前 (1996 年 4 月 )から 緩 やかに 低 下 し 増 税 の 1 カ 月 前 (1997 年 3 月 )にマイナスとなって その 後 低 下 幅 が 大 きく 拡 大 した 今 回 の 場 合 も 2013 年 12 月 2014 年 1 月 はやや 改 善 したものの 2014 年 2 月 の 値 (0.6% 増 )は 前 回 増 税 時 (0.3% 増 )とほぼ 同 じであり 概 ね 似 通 った 動 きを 示 している 2014 年 3 月 から 6 か 月 前 の 2013 年 9 月 CI 先 行 指 数 の 値 は 110.4 であるため 2014 年 3 月 の CI 先 行 指 数 6 ヵ 月 前 比 がプラスとなるには 14 年 2 月 CI 先 行 指 数 (108.9)から 1.5 ポイント 以 上 の 改 善 が 必 要 となる 現 状 判 明 している 統 計 指 標 の 動 きを 念 頭 におけば 3 月 の CI 先 行 指 数 6 ヵ 月 前 比 はマイナスに 転 落 する 可 能 性 が 高 いと 言 えるだろう 3
図 3 CI 先 行 指 数 6 ヵ 月 前 比 の 比 較 (6ヶ 月 前 比 %) 15 10 5 0-5 -10-15 ( 月 ) -12-11 -10-9 -8-7 -6-5 -4-3 -2-1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 ( 出 所 ) 内 閣 府 景 気 動 向 指 数 図 4 は 景 気 の 波 及 度 合 いを 示 す DI 一 致 指 数 の 推 移 をみている 前 回 増 税 時 の DI 一 致 指 数 の 動 きをみ ると 増 税 一 カ 月 前 (1997 年 3 月 )までは 50 を 上 回 っていたが 増 税 が 始 まると 50 を 下 回 って 上 下 し ながら 推 移 して 増 税 から 4 カ 月 後 の 97 年 8 月 に 安 定 的 に 50 を 下 回 っている CI 先 行 指 数 6 ヵ 月 前 比 がマイナスとなり かつ DI 一 致 指 数 が 2 カ 月 連 続 で 50 割 れという 事 態 になれ ば 岩 田 日 銀 副 総 裁 が 著 書 ( 岩 田 (2008))で 指 摘 した 景 気 判 断 に 基 づくと 景 気 は 後 退 している と の 判 断 につながる 現 状 判 明 しているデータからは CI 先 行 指 数 6 ヵ 月 前 比 と DI 一 致 指 数 の 動 きは 前 回 増 税 時 と 似 通 った 動 きとなっている 今 後 の 動 向 に 要 注 目 である 図 4 DI 一 致 指 数 の 比 較 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0-12 -11-10 -9-8 -7-6 -5-4 -3-2 -1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 ( 月 ) 2013 年 4 月 1996 年 4 月 2013 年 10 月 1996 年 10 月 ( 出 所 ) 内 閣 府 景 気 動 向 指 数 2014 年 4 月 1997 年 4 月 2014 年 10 月 1997 年 10 月 2015 年 4 月 1998 年 4 月 4
前 回 消 費 税 増 税 時 と の 比 較 - 家 計 消 費 次 に 家 計 消 費 についてみていこう 図 5 は 実 質 家 計 消 費 ( 季 節 調 整 済 )につき 比 較 を 行 っている 前 回 増 税 時 の 家 計 消 費 の 動 きをみると 増 税 が 始 まる 半 年 前 から 増 加 に 転 じ 特 に 増 税 2 カ 月 前 1 カ 月 前 に 家 計 消 費 が 大 きく 増 加 していることがわかる そして 増 税 が 始 まった 97 年 4 月 に 急 落 して 97 年 5 月 も 下 落 が 続 いた 後 に 緩 やかに 回 復 している 今 回 の 動 きについてみると 実 質 家 計 消 費 が 上 向 いたのは 増 税 から 5 カ 月 前 の 2013 年 12 月 以 降 であ る 2014 年 1 月 の 実 質 家 計 消 費 も 増 加 したが 14 年 2 月 は 雪 の 影 響 もあって 減 少 した そして 3 月 の 実 質 家 計 消 費 は 大 幅 増 となっている 図 5 では 増 税 から 1 年 前 の 値 を とした 指 数 で 見 ているが 2014 年 3 月 の 値 は 109.2 と 1997 年 3 月 値 105 を 大 きく 上 回 っている 図 5 実 質 家 計 消 費 の 比 較 ( 月 次 ) 110 ( 増 税 から1 年 前 の 値 =) 108 106 104 102 98 96 94 総 務 省 家 計 調 査 より 消 費 水 準 指 数 ( 季 調 済 実 質 値 )を 掲 載 している 図 6 は 実 質 家 計 消 費 の 動 きを 四 半 期 ベースで 比 較 している 図 5 と 同 様 に 増 税 開 始 1 年 前 の 実 質 家 計 消 費 の 値 を とした 指 数 で 見 ているが 2014 年 1-3 月 期 の 値 は 104( 四 半 期 ベースの 実 質 家 計 消 費 の 値 が 公 表 されていないため 月 次 ベースの 実 質 家 計 消 費 指 数 の 単 純 平 均 をとった 値 に 基 づき 計 算 )と なり 前 回 増 税 時 の 実 質 家 計 消 費 の 値 (101.8)を 上 回 る また 2013 年 10-12 月 期 から 14 年 1-3 月 期 の 伸 び 率 は 4.3%となり 前 回 増 税 時 の 伸 び 率 3.7%(96 年 10-12 月 期 から 97 年 1-3 月 期 の 変 化 率 ) を 上 回 る 直 前 3 カ 月 の 実 質 家 計 消 費 の 伸 びは 今 回 の 方 が 大 きかったと 言 えるだろう 5
図 6 実 質 家 計 消 費 の 比 較 ( 四 半 期 ) ( 増 税 から1 年 前 の 値 =) 106 104 104.0 102 99.8 99.7 98.2 98 96.3 96 101.8 97.0 98.3 96.8 96.8 95.8 94 92 90-4 -3-2 -1 0 1 2 3 4 ( 四 半 期 ) 2013 年 第 Ⅱ 四 半 期 1996 年 第 Ⅱ 四 半 期 2014 年 第 Ⅱ 四 半 期 1997 年 第 Ⅱ 四 半 期 2015 年 第 Ⅱ 四 半 期 1998 年 第 Ⅱ 四 半 期 ( 注 )2014 年 第 1 四 半 期 の 値 は 筆 者 による 試 算 値 である ( 出 所 ) 総 務 省 家 計 調 査 より 消 費 水 準 指 数 ( 二 人 以 上 の 世 帯 世 帯 人 員 及 び 世 帯 主 の 年 齢 分 布 調 整 済 季 節 調 整 済 実 質 指 数 )から 筆 者 作 成 さて 消 費 の 増 加 が 顕 著 な 品 目 を 確 認 しておこう 図 7 は 品 目 別 にみた 実 質 家 計 消 費 の 前 月 比 伸 び 率 を みている 教 育 を 除 き 2014 年 3 月 にかけて 実 質 家 計 消 費 は 大 きく 増 加 しているが 特 に 増 加 が 著 しい のは 家 具 家 事 用 品 被 服 及 び 履 物 教 養 娯 楽 住 居 交 通 通 信 である 図 7 の 下 段 には 1996 年 4 月 から 1997 年 3 月 までの 実 質 家 計 消 費 の 前 月 比 伸 び 率 をまとめているが 2014 年 3 月 の 消 費 の 伸 びは 多 くの 品 目 で 1997 年 3 月 を 上 回 っている 前 回 と 比 較 して 今 回 の 方 が 直 前 1 カ 月 の 駆 け 込 み 需 要 が 大 きかったことがわかる 図 7 実 質 家 計 消 費 ( 品 目 別 ) 伸 び 率 <2013 年 4 月 ~2014 年 3 月 > ( 前 月 比 伸 び 率 %) 年 月 食 料 住 居 光 熱 水 道 家 具 家 事 用 品 被 服 及 び 履 物 保 健 医 療 交 通 通 信 教 育 教 養 娯 楽 諸 雑 費 2013 4-1.4-9.0-2.2 5.0-3.1-3.5-5.6-1.1 3.3 2.8 5-0.5 1.7-1.1-3.3 2.2 5.7-6.0 6.7-3.2-3.7 6 1.0-10.1 0.7 1.3 0.8 0.5 1.3-6.1 1.2-1.3 7-1.8 5.2 2.8 2.7-6.1-6.6 5.2 0.3 1.0 2.5 8 0.2 0.3 0.0 0.4 2.0 2.2-6.0 4.2-2.2-4.2 9-0.1 2.4 2.5-2.3 4.1 2.7 11.1 26.8-0.7 8.8 10-1.5 2.3-6.8 0.9-4.7-7.1 5.0-20.8-2.6-5.2 11 1.2-1.2 5.8-3.0 3.6 5.4-7.2-14.3 2.1-3.7 12-0.2 0.4-0.5 1.7-0.4 0.2 6.5 10.5-1.9 0.8 2014 1 0.4 6.3-0.7 2.9 12.3-1.9-6.0 0.5 7.4 4.4 2-0.2-1.4 2.1 19.7-18.4 5.3 0.2 1.2-12.9 1.2 3 6.4 17.9 0.0 43.2 26.0 8.4 17.6-9.5 22.9 12.7 6
<1996 年 4 月 ~1997 年 3 月 > ( 前 月 比 伸 び 率 %) 年 月 食 料 住 居 光 熱 水 道 家 具 家 事 用 品 被 服 及 び 履 物 保 健 医 療 交 通 通 信 教 育 教 養 娯 楽 諸 雑 費 1996 4 0.0 15.1 3.2-9.4-7.3-0.5 9.3 13.1 6.1-3.9 5-1.0-4.5-1.9 11.6 0.3 8.5 1.3-10.9-0.7 1.4 6 2.5 0.9-0.1 2.1 15.0 3.1 5.2-3.9 4.3 0.8 7-3.6-6.7-2.9-7.4-14.8-9.6-2.6 7.4-6.0-11.4 8-0.1 7.5 1.8 5.1 1.7 9.2-1.5-3.8 2.5 14.6 9 1.3-19.4-3.0-13.3 1.5-6.8-0.6 6.3 1.8-8.8 10 0.4 14.2 2.1 16.4-2.1 2.8 5.5-14.4-4.8 3.7 11 0.7-0.1 1.7-9.5 1.1 0.9 1.5 35.3 4.7-8.0 12 0.0 1.9 1.9 10.4 0.4-1.5 2.6-8.2-0.8 4.2 1997 1 0.4 4.2 0.1-1.1-1.7 5.0-10.5-6.1 3.0 8.0 2 0.0 2.2 0.1 12.0 8.0-6.4 5.4-3.0 2.1-6.0 3 4.0 1.9-3.0 25.4 11.3 14.3 1.9-7.5 3.5-0.4 ( 出 所 ) 総 務 省 家 計 調 査 より 消 費 水 準 指 数 ( 二 人 以 上 の 世 帯 世 帯 人 員 及 び 世 帯 主 の 年 齢 分 布 調 整 済 季 節 調 整 済 実 質 指 数 )に 基 づき 筆 者 作 成 前 回 消 費 税 増 税 時 と の 比 較 - 住 宅 投 資 家 計 消 費 と 並 び 駆 け 込 み 需 要 の 影 響 が 顕 著 となると 考 えられるのが 住 宅 投 資 である 図 8 は 着 工 新 設 住 宅 戸 数 全 体 の 推 移 を 比 較 した 結 果 である 前 回 増 税 時 には 増 税 から 5 カ 月 前 の 1996 年 11 月 に 着 工 新 設 住 宅 戸 数 はピークをつけ その 後 減 少 が 続 いた 今 回 の 場 合 は 2014 年 1 月 まで 増 加 したが 2014 年 2 月 以 降 減 少 しており 1 月 以 降 反 動 減 が 始 まったと 捉 えることができる また 今 回 の 方 が 下 落 幅 はや やマイルドであると 考 えられる 図 9 から 図 12 は 図 8 の 内 訳 である 持 家 貸 家 給 与 住 宅 分 譲 住 宅 について 前 回 増 税 時 と 今 回 増 税 時 との 比 較 を 行 っている 2014 年 3 月 までの 動 きをみると 持 家 は 前 回 増 税 時 とほぼ 同 じ 動 きであり 貸 家 及 び 給 与 住 宅 に 関 しては 前 回 増 税 時 と 異 なり 着 工 戸 数 が 一 旦 落 ち 込 んだ 後 に 増 加 に 転 じている 分 譲 住 宅 に 関 しては 前 回 増 税 時 には 増 税 2 カ 月 前 に 一 旦 底 をつけた 後 に 再 び 増 加 に 転 じたが 今 回 増 税 時 には 一 旦 下 げ 止 まった 後 で 再 び 減 少 に 転 じている 図 8 着 工 新 設 住 宅 戸 数 の 比 較 115 ( 増 税 から1 年 前 の 値 =) 110 105 95 90 85 80 75 ( 出 所 ) 国 土 交 通 省 住 宅 着 工 統 計 7
図 9 着 工 新 設 住 宅 戸 数 ( 持 家 )の 比 較 120 ( 増 税 から1 年 前 の 値 =) 110 90 80 70 60 ( 出 所 ) 国 土 交 通 省 住 宅 着 工 統 計 図 10 着 工 新 設 住 宅 戸 数 ( 貸 家 )の 比 較 ( 増 税 から1 年 前 の 値 =) 120 110 90 80 70 60 ( 出 所 ) 国 土 交 通 省 住 宅 着 工 統 計 8
図 11 着 工 新 設 住 宅 戸 数 ( 給 与 住 宅 )の 比 較 260 240 220 ( 増 税 から1 年 前 の 値 =) 200 180 160 140 120 80 60 ( 出 所 ) 国 土 交 通 省 住 宅 着 工 統 計 図 12 着 工 新 設 住 宅 戸 数 ( 分 譲 住 宅 )の 比 較 130 ( 増 税 から1 年 前 の 値 =) 120 110 90 80 70 60 50 40 ( 出 所 ) 国 土 交 通 省 住 宅 着 工 統 計 9
前 回 消 費 税 増 税 時 と の 比 較 - 出 荷 在 庫 前 回 増 税 時 には 増 税 直 後 の 97 年 4-6 月 期 において 景 気 の 実 勢 が 強 いとの 評 価 がなされた 結 果 増 産 が 続 けられて 意 図 せざる 在 庫 増 となり 在 庫 調 整 が 生 じたとの 指 摘 がある( 小 巻 (2014)) 以 下 では 出 荷 及 び 在 庫 の 推 移 について 比 較 を 行 ってみよう 図 13 は 出 荷 ( 鉱 工 業 )につき 増 税 開 始 から 1 年 前 の 値 を とした 指 数 の 形 で 比 較 している 前 回 増 税 時 の 出 荷 額 の 動 きをみると 増 税 開 始 から 3 カ 月 前 の 1997 年 1 月 に 出 荷 額 は 大 幅 に 伸 び 同 4 月 に 大 きく 落 ち 込 んだ その 後 8 月 まで 緩 やかに 増 加 するものの 8 月 以 降 低 下 している 今 回 増 税 の 場 合 も 増 税 開 始 から 3 カ 月 前 の 2014 年 1 月 に 大 幅 に 増 加 した ただし 2014 年 2 月 以 降 出 荷 額 は 減 少 を 続 けている 点 が 異 なる 図 14 は 図 13 と 同 様 に 在 庫 ( 鉱 工 業 )につき 増 税 開 始 から 1 年 前 の 値 を とした 指 数 の 形 で 比 較 している 前 回 増 税 時 には 在 庫 は 増 税 開 始 から 2 カ 月 前 の 1997 年 2 月 まで 緩 やかに 3 月 に 大 きく 低 下 してその 後 増 加 している 今 回 の 場 合 増 税 開 始 から 2 カ 月 前 までの 推 移 は 前 回 増 税 時 とほぼ 共 通 して いるが 増 税 開 始 1 カ 月 前 の 2014 年 3 月 に 在 庫 は 増 加 に 転 じている 前 回 増 税 時 と 比 較 して 出 荷 減 在 庫 増 の 開 始 が 1 カ 月 早 まったともみることができよう 図 13 出 荷 の 比 較 110 ( 増 税 より1 年 前 の 値 =) 108 106 104 102 98 ( 出 所 ) 経 済 産 業 省 鉱 工 業 生 産 10
図 14 在 庫 の 比 較 ( 増 税 より1 年 前 の 値 =) 105 103 101 99 97 95 ( 出 所 ) 経 済 産 業 省 鉱 工 業 生 産 図 15 は 出 荷 額 と 在 庫 額 の 関 係 を 在 庫 循 環 図 の 形 で 示 している 45 度 線 よりも 左 上 の 領 域 に 出 荷 額 と 在 庫 額 の 前 年 比 がある 場 合 には 回 復 局 面 45 度 線 よりも 右 下 の 領 域 にある 場 合 には 在 庫 調 整 局 面 にある と 判 断 される 図 15 の 上 図 をみると 2013 年 7-9 月 期 以 降 出 荷 増 と 在 庫 減 が 同 時 に 生 じているため 現 状 は 回 復 局 面 にある 図 からは 1997 年 4-6 月 期 以 降 出 荷 の 伸 び 率 が 低 下 するとともに 在 庫 が 増 加 していき 増 税 から 半 年 (2 四 半 期 ) 後 の 1997 年 10-12 月 期 に 在 庫 調 整 曲 面 に 入 ったことがわかる 今 回 の 場 合 も 前 回 と 同 様 に 出 荷 額 の 低 下 と 在 庫 額 の 増 加 が 同 時 並 行 的 に 生 じれば 増 税 から 半 年 程 度 のラグを 経 て 在 庫 調 整 曲 面 入 りする 可 能 性 も 視 野 に 入 れる 必 要 があるだろう 11
図 15 在 庫 循 環 図 による 比 較 <2009 年 1-3 月 期 ~2014 年 1-3 月 期 > 35 出 荷 ( 25 前 年 15 同 期 5 比 ) -5-15 (%) 回 復 局 面 2009Q4 2010Q1 2010Q2 2010Q3 45 度 線 在 庫 調 整 局 面 -25 2009Q3 2009Q1-35 2009Q2-35 -30-25 -20-15 -10-5 0 5 10 15 20 25 30 35 ( 出 所 ) 経 済 産 業 省 鉱 工 業 生 産 2014Q1 2013Q4 2013Q3 2013Q2 2013Q1 在 庫 ( 前 年 同 期 末 比 ) (%) <1996 年 1-3 月 期 ~1999 年 10-12 月 期 > 15 出 荷 ( 10 前 年 同 5 期 比 ) 0 (%) 回 復 局 面 1997Q1 1999Q4 1997Q2 1997Q3 1996Q1 45 度 線 -5 1998Q4 1997Q4 在 庫 調 整 局 面 -10-15 2009Q2-15 -10-5 0 5 10 15 在 庫 ( 前 年 同 期 末 比 ) (%) ( 出 所 ) 経 済 産 業 省 鉱 工 業 生 産 12
前 回 消 費 税 増 税 時 と の 比 較 - 賃 金 雇 用 物 価 雇 用 の 改 善 が 続 いている 2014 年 3 月 の 完 全 失 業 率 は 3.6% 有 効 求 人 倍 率 は 1.07 倍 となったが 特 に 有 効 求 人 倍 率 は 2007 年 6 月 以 来 の 高 い 値 を 記 録 している 賃 金 や 物 価 の 動 向 と 合 わせて 比 較 してみ よう 図 16 は 名 目 賃 金 実 質 賃 金 の 前 年 比 を 比 較 している 2014 年 3 月 の 名 目 賃 金 の 前 年 比 伸 び 率 は 0.7% 実 質 賃 金 の 前 年 比 伸 び 率 はマイナス 1.3%となった 前 回 増 税 時 の 動 きをみると 消 費 税 増 税 前 までは 名 目 賃 金 及 び 実 質 賃 金 は 増 加 を 続 けたが 増 税 後 の 物 価 上 昇 を 反 映 してまず 実 質 賃 金 が 下 落 し その 後 名 目 賃 金 が 下 落 するという 経 緯 を 辿 ったことがわかる 以 上 からは 名 目 賃 金 の 力 強 い 伸 びがない 限 り 消 費 税 増 税 に 伴 う 物 価 上 昇 が 実 質 賃 金 を 停 滞 させる 可 能 性 は 高 いと 考 えられる 今 回 の 場 合 増 税 前 の 名 目 賃 金 の 伸 びは 前 年 比 で 1%を 下 回 る 程 度 であり 物 価 上 昇 率 が 高 まってい ることもあって 前 回 増 税 後 と 同 程 度 の 実 質 賃 金 の 低 下 が 既 に 生 じている 今 後 の 動 きについては 名 目 賃 金 の 伸 びと 物 価 上 昇 率 の 動 きを 考 慮 する 必 要 がある 名 目 賃 金 の 動 きに ついては 今 年 の 春 闘 で 2%を 超 える 賃 金 引 き 上 げ 率 が 達 成 されたことは 好 材 料 だ しかし 春 闘 の 賃 金 引 き 上 げ 率 は 大 手 企 業 の 平 均 値 であって 中 堅 中 小 企 業 を 含 む 名 目 賃 金 の 伸 び 率 に 引 き 直 せば 4 月 以 降 名 目 賃 金 が 大 きく 上 昇 する 可 能 性 は 低 い 図 16 名 目 賃 金 実 質 賃 金 の 比 較 7.0 5.0 ( 前 年 比 %) 名 目 賃 金 ( ) 名 目 賃 金 ( 前 回 増 税 時 ) 3.0 物 価 上 昇 1.0-1.0 0.7-1.3-3.0-5.0 実 質 賃 金 実 質 賃 金 ( ) ( 前 回 増 税 時 ) ( 月 ) -12-11 -10-9 -8-7 -6-5 -4-3 -2-1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 2013 年 4 月 1996 年 4 月 2013 年 10 月 1996 年 10 月 ( 出 所 ) 厚 生 労 働 省 毎 月 勤 労 統 計 2014 年 4 月 1997 年 4 月 2014 年 10 月 1997 年 10 月 2015 年 4 月 1998 年 4 月 図 17 は 消 費 者 物 価 指 数 ( 生 鮮 食 品 除 く 総 合 食 料 及 びエネルギーを 除 く 総 合 )の 前 年 比 を 比 較 して いる 前 回 増 税 時 の 物 価 上 昇 率 の 動 きをみると 生 鮮 食 品 を 除 く 総 合 指 数 食 料 及 びエネルギーを 除 く 13
総 合 指 数 はともに 前 年 比 0.5% 程 度 で 増 税 前 まで 推 移 して 増 税 時 に 生 鮮 食 品 を 除 く 総 合 指 数 の 場 合 は 1.5 ポイント 食 料 及 びエネルギーを 除 く 総 合 指 数 の 場 合 は 1 ポイント 物 価 上 昇 率 が 高 まっている そ して 物 価 上 昇 率 の 高 まりは 増 税 から 1 年 後 の 98 年 4 月 に 剥 落 している の 消 費 者 物 価 指 数 の 動 きをみると 物 価 上 昇 率 がマイナスからプラスへと 転 じながら 高 ま っている 事 が 特 徴 である 東 京 都 区 部 の 2014 年 4 月 中 旬 値 の 前 年 比 をみると 生 鮮 食 品 を 除 く 総 合 指 数 は 2.7% 食 料 及 びエネルギーを 除 く 総 合 指 数 は 2.0%の 伸 びである 4 月 全 国 値 の 伸 び 率 は 公 表 され ていないが 4 月 には 1.7 ポイント 5 月 以 降 は 2 ポイント 強 増 税 要 因 で 消 費 者 物 価 指 数 の 前 年 比 は 押 し 上 げられることになる 前 回 増 税 時 の 推 移 を 参 考 にすれば 生 鮮 食 品 を 除 く 総 合 指 数 で 3% 超 の 物 価 上 昇 率 が 少 なくとも 1 年 程 度 続 く 可 能 性 が 濃 厚 だろう 図 17 消 費 者 物 価 指 数 の 比 較 < 生 鮮 食 品 を 除 く 総 合 > 3 ( 前 年 比 %) 2.5 2 1.5 1.6 2.0 1 0.5 0 0.5-0.5-1 ( 出 所 ) 総 務 省 消 費 者 物 価 指 数 < 食 料 ( 酒 類 を 除 く) 及 びエネルギーを 除 く 総 合 > 3 ( 前 年 比 %) 2.5 2 1.5 1 0.5 0 1.5 0.6 0.5-0.5-1 ( 出 所 ) 総 務 省 消 費 者 物 価 指 数 14
再 び 実 質 賃 金 の 先 行 きの 動 きを 考 えると 名 目 賃 金 の 前 年 比 伸 び 率 が 4 月 以 降 1% 台 で 推 移 したとし ても 実 質 賃 金 の 前 年 比 伸 び 率 はマイナス 2% 台 となり 名 目 賃 金 の 伸 び 如 何 によっては 実 質 賃 金 の 前 年 比 がマイナス 3% 台 となる 可 能 性 も 大 いにあり 得 ると 思 われる こうした 可 能 性 が 現 実 味 を 帯 びれば 今 年 4 月 以 降 の 実 質 消 費 への 悪 影 響 は 深 刻 なものとなるだろう 有 効 求 人 倍 率 の 高 まりや 人 手 不 足 の 深 刻 化 は 名 目 賃 金 の 上 昇 圧 力 として 作 用 する 今 後 名 目 賃 金 が 力 強 く 上 昇 を 続 けるには 雇 用 環 境 の 改 善 が 続 くことが 必 要 である 図 18 は 有 効 求 人 倍 率 と 完 全 失 業 率 の 推 移 を 比 較 しているが 前 回 増 税 時 の 有 効 求 人 倍 率 完 全 失 業 率 はほぼ 横 ばいで 推 移 して 増 税 から 5 カ 月 が 経 過 した 1997 年 9 月 以 降 に 有 効 求 人 倍 率 の 低 下 と 完 全 失 業 率 の 悪 化 が 生 じている の 場 合 は 有 効 求 人 倍 率 と 完 全 失 業 率 の 改 善 が 進 んでいることが 特 徴 だが 前 回 増 税 時 と 同 様 の 推 移 を 辿 るとすれば 有 効 求 人 倍 率 と 完 全 失 業 率 の 悪 化 が 顕 在 化 するのは 増 税 から 5 カ 月 程 度 経 過 した 後 とも 言 えるだろう 図 18 有 効 求 人 倍 率 完 全 失 業 率 の 比 較 < 有 効 求 人 倍 率 > 1.2 ( 倍 ) 1.1 1 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 ( 出 所 ) 総 務 省 労 働 力 調 査 < 完 全 失 業 率 > 4.2 (%) 4 3.8 3.6 3.6 3.4 3.2 3.3 3.2 3 ( 出 所 ) 総 務 省 労 働 力 調 査 15
駆 け 込 み 需 要 の 規 模 はどの 程 度 か? ここまで 様 々な 指 標 について 消 費 税 増 税 前 後 の 動 きを 比 較 した もちろん 1997 年 当 時 と 現 在 とでは 経 済 環 境 が 大 きく 異 なる これまで 見 た 指 標 を 例 にとれば 特 に 物 価 上 昇 率 や 有 効 求 人 倍 率 完 全 失 業 率 には 相 違 がある これには 当 時 と 現 在 の 金 融 機 関 の 経 営 状 況 や 日 銀 の 政 策 スタンスの 違 い そして 政 府 の 拡 張 的 な 公 共 投 資 の 有 無 さらに 労 働 力 人 口 の 推 移 といった 要 因 が 影 響 している しかし 経 済 環 境 の 違 いを 考 慮 に 入 れても 景 気 動 向 指 数 実 質 家 計 消 費 新 設 住 宅 着 工 出 荷 在 庫 は 増 税 直 前 まで 似 通 った 動 きを 示 している 2014 年 1-3 月 期 の GDP 一 次 速 報 値 は 5 月 15 日 に 公 表 されるため 民 間 最 終 消 費 及 び 民 間 住 宅 投 資 の 駆 け 込 み 需 要 の 全 容 を 把 握 することは 困 難 だが 現 時 点 で 得 られる 情 報 を 利 用 しながら 駆 け 込 み 需 要 の 規 模 がどの 程 度 か 考 えてみよう まず 2013 年 7-9 月 期 から 10-12 月 期 までの 駆 け 込 み 需 要 の 規 模 を 消 費 関 数 住 宅 投 資 関 数 の 実 績 値 と 推 計 値 の 差 から 計 測 する 4 と 民 間 最 終 消 費 は 9,155 億 円 民 間 住 宅 投 資 は 1,910 億 円 となった これは 2012 年 度 の 実 質 民 間 最 終 消 費 支 出 308 兆 円 の 0.3% 実 質 民 間 住 宅 投 資 14 兆 円 の 1.4%に 相 当 す る 家 計 調 査 から 得 た 図 6 の 実 質 家 計 消 費 の 動 きをみると 2014 年 1-3 月 期 の 前 期 比 は 4.3%であり 1997 年 1-3 月 期 の 前 期 比 3.7%を 上 回 っている 以 上 からは 2014 年 1-3 月 期 における 民 間 最 終 消 費 の 駆 け 込 み 需 要 のインパクトを 1997 年 1-3 月 期 と 同 程 度 と 見 るのは 過 大 推 計 に 当 たらないだろう こう 考 えて 1997 年 1-3 月 期 の 駆 け 込 み 需 要 と 同 じインパクトが 2014 年 1-3 月 期 において 生 じたとすると 2014 年 1-3 月 期 の 駆 け 込 み 需 要 は 1 兆 6,350 億 円 となる 住 宅 投 資 については 図 8 の 着 工 新 設 住 宅 戸 数 の 動 きからみて 2014 年 1-3 月 期 は 既 に 駆 け 込 み 需 要 の 反 動 減 が 始 まっていると 考 えられる そう すると 2013 年 10-12 月 期 までの 駆 け 込 み 需 要 を 見 込 めば 良 いことになる 以 上 から 2013 年 7-9 月 期 から 2014 年 1-3 月 期 までの 駆 け 込 み 需 要 は 民 間 最 終 消 費 2 兆 5,510 億 円 民 間 住 宅 投 資 1,910 億 円 合 計 で 2 兆 7,420 億 円 となる これは 2012 年 度 実 質 GDP 比 でみて 0.5% 程 度 である つまり 駆 け 込 み 需 要 により 2013 年 度 の 実 質 GDP を 0.5% 程 度 押 し 上 げたと 考 えられる 在 庫 投 資 や 輸 出 入 の 動 きが 実 質 GDP への 影 響 を 増 幅 もしくは 抑 制 する 可 能 性 はあるが 現 時 点 で 得 られる 統 計 データから 推 測 する 限 りは 民 間 最 終 消 費 については 前 回 並 みかやや 高 め 民 間 住 宅 投 資 について は 前 回 よりも 小 さい 規 模 の 駆 け 込 み 需 要 が 生 じたと 言 えるのではないか 4 推 計 期 間 :1980 年 1-3 月 期 ~2013 年 10-12 月 期 推 計 結 果 :log( 実 質 民 間 最 終 消 費 支 出 )=3.52+0.42 log( 実 質 雇 用 者 報 酬 )+0.23 log( 実 質 家 計 純 金 融 資 産 残 高 ) パラメーターは 全 て 1% 有 意 自 由 度 修 正 済 み 決 定 係 数 0.996 共 和 分 関 係 あり の 消 費 関 数 を 用 い 消 費 関 数 から 得 られる 推 定 値 と 民 間 最 終 消 費 支 出 の 実 績 値 の 差 として 試 算 した 結 果 民 間 住 宅 投 資 に 関 しては 推 計 期 間 :1980 年 1-3 月 期 ~2013 年 7-9 月 期 推 計 結 果 log( 実 質 民 間 住 宅 投 資 )=0.05 log( 市 街 地 価 格 指 数 )+0.06 log(15-49 歳 人 口 )+0.90 log( 実 質 民 間 住 宅 投 資 (-1)) パラメーターは 全 て 1% 有 意 自 由 度 修 正 済 み 決 定 係 数 0.966 の 民 間 住 宅 投 資 関 数 を 用 い 民 間 住 宅 投 資 関 数 から 得 られる 推 定 値 と 実 績 値 の 差 として 試 算 した 結 果 である 16
想 定 内 という 評 価 の 意 味 するものとは 本 稿 の 冒 頭 でもふれたように 消 費 税 増 税 から 1 カ 月 が 過 ぎ 政 府 筋 のみならずメディアが 報 じる 記 事 の 中 でも 想 定 内 との 記 述 が 目 につくようになった 確 かに 企 業 サイドからポジティブな 反 応 が 出 てくることは 良 い 兆 候 であるが そもそも 消 費 税 増 税 に 伴 う 駆 け 込 み 消 費 もしくは 消 費 の 落 ち 込 みに ついての 想 定 があらかじめ 示 されていないにも 関 わらず 想 定 内 という 判 断 がなぜ 可 能 なのかは 理 解 に 苦 しむ 前 節 で 述 べたように 駆 け 込 み 需 要 そのものを 把 握 するための 情 報 は 現 時 点 で 十 分 では なく かつ 十 分 ではない 情 報 から 推 測 しても 一 定 規 模 の 駆 け 込 み 需 要 はあると 判 断 できる 情 勢 である 少 なくとも 駆 け 込 み 需 要 が 一 巡 するタイミングまでは 慎 重 な 判 断 が 必 要 だろう さてこうした 想 定 内 というメディアの 報 道 を 見 聞 きするたびに 筆 者 が 思 い 起 こすのは 前 回 の 消 費 税 増 税 における 経 済 状 況 の 評 価 の 変 遷 である 小 巻 (2014)は 前 回 の 消 費 税 増 税 における 経 済 状 況 の 評 価 がどのように 変 遷 したのかをまとめている 少 し 長 いが 重 要 な 情 報 を 含 んでいるので 以 下 引 用 した い なお 棒 線 は 筆 者 によるものである 1 住 宅 投 資 を 除 き 自 動 車 等 の 消 費 財 における 駆 け 込 み 需 要 を 生 じたとの 認 識 は 97 年 2 月 以 降 で ある ただし 当 時 は 駆 け 込 み 需 要 が 弱 いと 判 断 され 各 種 の 販 売 促 進 活 動 が 行 われた 297 年 4 月 以 降 反 動 減 により 減 少 を 示 す 統 計 が 続 いていたが 97 年 7 月 頃 までは 想 定 内 と 評 価 されていた 397 年 1-3 月 期 の 駆 け 込 み 需 要 は 想 定 を 上 回 り 当 該 GDP(97 年 6 月 13 日 発 表 )の 発 表 時 には 駆 け 込 み 需 要 だけでない 景 気 実 勢 もみられる と 景 気 実 勢 が 良 いとの 評 価 がみられた このこ とを 裏 付 けるように 株 価 は 97 年 4 月 10 日 をボトムに 上 昇 し 97 年 7 月 末 まで 平 均 株 価 は 20000 円 を 超 える 状 況 にあった また 当 時 公 定 歩 合 引 き 上 げ 必 要 論 が 新 聞 紙 上 で 報 道 されていた 4 反 動 減 が 想 定 を 超 えた との 報 道 が 出 始 めたのは 97 年 7 月 中 旬 以 降 である たとえば 97 年 6 月 百 貨 店 売 上 高 東 京 5.6% 減 大 阪 4.7% 減 1-6 月 及 び 3-6 月 でみて 東 京 大 阪 ともマイナ ス( 駆 け 込 みの 蓄 え 払 拭 ) ( 日 本 経 済 新 聞 97 年 7 月 16 日 )である 5 消 費 税 の 影 響 に 対 する 評 価 に 変 更 が 生 じたのは 97 年 8 月 以 降 である 山 一 証 券 に 対 する 東 京 地 検 の 強 制 捜 査 等 を 背 景 とする 株 価 の 大 幅 減 や 住 宅 着 工 の 大 幅 減 (2 ケタ 減 少 )により 政 府 の 景 気 見 通 し( 月 例 経 済 報 告 97 年 8 月 6 日 )も 下 方 修 正 された 697 年 4-6 月 期 のGDP(97 年 9 月 11 日 発 表 )は 想 定 を 大 きく 下 回 り 発 表 時 には 当 時 の 景 況 な どを 反 映 して 単 に 駆 け 込 み 需 要 の 反 動 減 だけでなく 実 質 購 買 力 が 目 減 りし 消 費 意 欲 を 削 いで いる ( 日 本 経 済 新 聞 ) 景 気 の 先 行 き 懸 念 増 す 政 策 かじとり 難 問 ( 朝 日 新 聞 )との 評 価 が みられた 7 日 銀 短 観 (97 年 9 月 調 査 97 年 10 月 1 日 発 表 )は 景 気 悪 化 を 裏 付 けたものとして 評 価 された 業 況 判 断 DIはプラスを 維 持 ( 業 況 判 断 DIは 3)しつつも 事 前 予 測 ( 業 況 判 断 DIは 5)より 弱 く 新 聞 報 道 でも 景 気 の 足 取 りの 弱 さを 裏 付 ける 内 容 ( 日 本 経 済 新 聞 )とマイナス 評 価 となった これに 影 響 されたのか 株 価 も 97 年 1-3 月 の 水 準 (18000 円 )を 割 り 込 み 下 落 傾 向 を 強 めた 17
8その 後 政 府 の 景 気 判 断 ( 月 例 経 済 報 告 97 年 10 月 7 日 発 表 )で 約 9 兆 円 の 個 人 負 担 増 のデ フレ 効 果 などから 景 気 が 悪 化 局 面 にあることを 認 めている 9 消 費 の 回 復 を 確 認 する 97 年 7-9 月 期 の GDP(97 年 12 月 3 日 発 表 )では 事 前 予 想 より 小 幅 プラ スであったこともあるが いかにも 回 復 力 が 弱 く 景 気 が 失 速 する 懸 念 はぬぐい 切 れない ( 朝 日 新 聞 )と 当 時 の 金 融 危 機 を 背 景 に かなり 弱 い 評 価 を 受 けている 1097 年 4-6 月 期 には 反 動 減 を 示 すデータが 4 月 初 旬 から 公 表 されていたにも 関 わらず 当 時 の 評 価 は 景 気 実 勢 が 強 いと 評 価 されていた この 結 果 増 産 が 続 けられ 在 庫 水 準 が 上 昇 し 結 果 として 意 図 せざる 在 庫 増 となり 在 庫 調 整 が 生 じたと 考 えられる 少 し 補 足 しておこう まず 97 年 消 費 税 増 税 後 の 経 済 状 況 の 評 価 だが 97 年 7 月 頃 までは 想 定 内 との 評 価 がなされていた こうした 評 価 には 当 時 駆 け 込 み 需 要 が 弱 いと 判 断 されていたことも 影 響 し ていたのかもしれない 97 年 6 月 13 日 に 97 年 1-3 月 期 の GDP 統 計 が 公 表 されたが 駆 け 込 み 需 要 に ついては 想 定 を 上 回 る との 評 価 がなされたものの 駆 け 込 み 需 要 だけではない 景 気 実 勢 もみられ る という 形 で 景 気 の 実 勢 が 良 いとの 評 価 がなされた ただし 駆 け 込 み 需 要 や 反 動 減 を 示 すデータが 公 表 されていたにも 関 わらず 97 年 7 月 頃 までは 楽 観 的 な 評 価 が 支 配 的 であった まず 反 動 減 が 想 定 を 超 えた と 判 断 されたのは 97 年 7 月 中 旬 以 降 のこと である つまり 供 給 側 統 計 である 百 貨 店 売 上 高 の 6 月 の 数 字 の 弱 さが 当 初 の 想 定 以 上 の 反 動 減 をもた らしたとの 評 価 につながった そしてこうした 評 価 の 変 化 は 株 価 の 大 幅 減 や 住 宅 着 工 の 大 幅 減 といったデータが 把 握 されるに 従 っ て 強 固 なものとなり 政 府 の 景 気 見 通 しが 下 方 修 正 されることになった さらに 駆 け 込 み 需 要 の 反 動 減 を 反 映 した 97 年 4-6 月 期 の GDP 統 計 の 悪 さや 日 銀 短 観 の 予 想 外 の 悪 さといった 情 報 が 明 らかになる ことで 97 年 10 月 に 政 府 は 景 気 が 悪 化 局 面 入 りした 事 をみとめた この 時 期 には 実 質 購 買 力 ( 実 質 賃 金 )の 目 減 りが 消 費 意 欲 をそいでいるとの 評 価 がされていることも 興 味 深 い そして 97 年 12 月 に 97 年 7-9 月 期 の GDP 統 計 が 発 表 されたが 当 時 生 じた 金 融 危 機 も 相 まってかなり 弱 い 評 価 となったという 流 れである 97 年 消 費 税 増 税 における 経 済 評 価 の 変 遷 の 流 れの 中 に 現 在 の 流 れを 位 置 づければ 現 段 階 は 消 費 税 増 税 前 の GDP 統 計 が 公 表 される 前 の 局 面 (97 年 6 月 13 日 前 )であって 駆 け 込 み 需 要 の 規 模 そのものが まだよくわからない 段 階 である 今 後 の 動 きでまず 注 目 すべきは 2014 年 1-3 月 期 の GDP 統 計 が 公 表 される 5 月 15 日 後 に 経 済 判 断 が どのように 変 わるのかということだろう そして 駆 け 込 み 需 要 の 反 動 減 が 想 定 を 超 えた という 判 断 がなされたのは 6 月 の 供 給 側 統 計 が 公 表 された 後 のタイミングである 点 も 重 要 だ 駆 け 込 み 需 要 の 影 響 が 想 定 内 なのか 想 定 外 なのかが 明 らかとなるのは 今 回 の 場 合 も 7 月 頃 となるだろう つまりまだ 想 定 内 か 想 定 外 かの 評 価 を 下 すのは 早 すぎるのだ 18
さらに 97 年 消 費 税 増 税 の 教 訓 で 重 要 な 点 は 97 年 7 月 頃 までの 楽 観 的 な 判 断 に 従 って 企 業 による 増 産 が 続 けられた 結 果 意 図 せざる 在 庫 増 や その 後 の 在 庫 調 整 につながったという 点 である 図 13 及 び 図 14 で 整 理 したように 3 月 時 点 で 出 荷 は 減 少 在 庫 は 増 加 に 転 じている もちろんこの 動 きが 今 後 意 図 せざる 在 庫 増 につながるとまでは 現 時 点 で 言 えない だが 早 すぎるポジティブな 評 価 を 前 提 に 在 庫 が 積 み 上 がり 結 果 として 意 図 せざる 在 庫 増 につながるという 展 開 になれば 景 気 悪 化 が 後 ずれする 可 能 性 もある 安 倍 政 権 は 2015 年 10 月 の 再 増 税 の 判 断 を 今 年 末 に 行 うとしている 消 費 税 増 税 の 影 響 が 一 巡 した 2014 年 7-9 月 期 の GDP 統 計 が 利 用 可 能 であるから 再 増 税 の 判 断 にあたって 2014 年 7-9 月 期 の GDP 統 計 をみれば 良 いという 話 もでている だが 駆 け 込 み 需 要 が 生 じるタイミング(2014 年 1-3 月 期 )には 在 庫 が 減 り 輸 入 が 増 えるため 駆 け 込 み 需 要 を 反 映 した GDP は 民 間 消 費 や 民 間 住 宅 投 資 の 増 加 ほど 大 きな 増 加 をもたらさないだろう さらに 駆 け 込 み 需 要 の 反 動 減 が 生 じるタイミング(2014 年 4-6 月 期 ) には 在 庫 の 減 少 を 確 認 した 企 業 が 在 庫 を 積 み 増 し さらに 輸 入 は 消 費 の 低 下 を 反 映 して 減 少 するため これらを 反 映 した GDP は 民 間 消 費 や 民 間 住 宅 投 資 の 落 ちこみほどは 下 落 しない 可 能 性 がある また 消 費 税 増 税 の 影 響 が 一 巡 したタイミング(2014 年 7-9 月 期 )においては 駆 け 込 み 需 要 の 反 動 減 から 家 計 が 支 出 行 動 を 元 に 戻 していくことで GDP は 上 昇 するし 意 図 せざる 在 庫 増 が 進 めばより GDP は 高 まるだろう 再 増 税 の 判 断 にあたっては GDP の 成 長 率 といった 単 一 の 指 標 に 拘 泥 することなく 様 々な 指 標 に 基 づいて 慎 重 に 判 断 すべきである また 仮 に 10%の 再 増 税 を 先 送 りするとの 判 断 を 行 うのであれば 日 本 経 済 の 成 長 と 両 立 する 形 での 財 政 再 建 スケジュールの 再 設 定 や 社 会 保 障 制 度 改 革 の 中 身 をより 明 確 に 明 示 することも 必 要 だろう 日 銀 は 4 月 30 日 の 政 策 決 定 会 合 で 現 在 行 っている 量 的 質 的 金 融 緩 和 策 の 継 続 を 決 め 経 済 物 価 情 勢 の 展 望 (2014 年 4 月 ) を 公 表 した 2014 年 1 月 時 点 の 見 通 しとの 相 違 点 は 2014 年 度 の 日 本 経 済 の 実 質 GDP 成 長 率 が 下 方 修 正 された( 政 策 委 員 の 中 央 値 が 1.4%から 1.1%へ 低 下 ) 一 方 で 消 費 者 物 価 指 数 ( 生 鮮 食 品 を 除 く 総 合 指 数 )の 前 年 比 は 変 化 がなかったという 点 である なぜこのような 判 断 に 至 ったのかについての 考 察 は 他 に 譲 るとして 金 融 政 策 において 重 要 なポイントは 低 い 成 長 率 で も 物 価 上 昇 率 の 想 定 には 変 更 がないとの 見 通 しを 明 確 にすることで 追 加 緩 和 へのハードルがより 高 ま った( 多 少 低 い 成 長 率 であっても 追 加 緩 和 を 行 うつもりはない)とのメッセージがより 鮮 明 となったと いうことだ こうした 判 断 が 政 策 の 自 由 度 を 損 ねる 結 果 として 作 用 しないことを 祈 るばかりである 参 考 文 献 岩 田 規 久 男 (2008) 景 気 ってなんだろう ちくまプリマー 新 書 19
小 巻 泰 之 (2014) 消 費 税 増 税 における 認 知 ラグ の 影 響 基 礎 研 レポート 2014-04-17 ニッセイ 基 礎 研 究 所 - ご 利 用 に 際 して- 本 資 料 は 信 頼 できると 思 われる 各 種 データに 基 づいて 作 成 されていますが 当 社 はその 正 確 性 完 全 性 を 保 証 するものではありません また 本 資 料 は 執 筆 者 の 見 解 に 基 づき 作 成 されたものであり 当 社 の 統 一 的 な 見 解 を 示 すものではありません 本 資 料 に 基 づくお 客 様 の 決 定 行 為 及 びその 結 果 について 当 社 は 一 切 の 責 任 を 負 いません ご 利 用 にあたっては お 客 様 ご 自 身 でご 判 断 くださいます ようお 願 い 申 し 上 げます 本 資 料 は 著 作 物 であり 著 作 権 法 に 基 づき 保 護 されています 著 作 権 法 の 定 めに 従 い 引 用 する 際 は 必 ず 出 所 : 三 菱 UFJリサーチ&コンサルティングと 明 記 してください 本 資 料 の 全 文 または 一 部 を 転 載 複 製 する 際 は 著 作 権 者 の 許 諾 が 必 要 ですので 当 社 までご 連 絡 下 さい 20