研 究 題 目 動 的 安 定 性 と 運 動 能 力 との 係 わり ジュニアおよびトップの 体 操 選 手 の 倒 立 安 定 性 研 究 代 表 者 船 渡 和 男 目 次 要 約 2 I 目 的 4 II 方 法 4 III 結 果 9 Ⅳ 考 察 17 V 結 論 2 VI 参 考 文 献 21-1 -
研 究 題 目 動 的 安 定 性 と 運 動 能 力 との 係 わり ジュニアおよびトップの 体 操 選 手 の 倒 立 安 定 性 研 究 者 名 船 渡 和 男 ( 日 本 体 育 大 学 ) 水 鳥 寿 思 ( 徳 州 会 東 京 本 部 ) 具 志 堅 幸 司 ( 日 本 体 育 大 学 ) 立 花 泰 則 ( 徳 州 会 東 京 本 部 ) 岩 噌 弘 志 ( 関 東 労 災 病 院 ) 松 尾 彰 文 ( 国 立 スポーツ 科 学 センター) 要 約 伸 腕 屈 身 力 倒 立 ( 以 下 伸 肘 倒 立 )は 体 操 競 技 において 基 本 的 な 運 動 のひ とつである 伸 肘 倒 立 とは 立 位 から 肘 を 伸 ばした 状 態 で 倒 立 姿 勢 になる 運 動 である ゆか あん 馬 つり 輪 平 行 棒 鉄 棒 など 様 々な 種 目 で 伸 肘 倒 立 を 用 いた 運 動 が 要 求 されている 多 くの 種 目 で 伸 肘 倒 立 を 応 用 した 技 が 要 求 されて おり 体 操 競 技 において 欠 かすことのできない 構 成 要 素 のひとつになっている 本 研 究 では 筆 者 らが 有 する 伸 肘 倒 立 の 主 観 的 経 験 知 と 安 定 性 に 関 するバイオ メカニクス 的 数 値 評 価 とを 合 わせて 論 じることによりスポーツ 科 学 の 競 技 力 向 上 に 関 する 研 究 に 貢 献 することを 目 的 とした 方 法 男 子 大 学 体 操 競 技 選 手 11 名 は 測 定 動 作 として 閉 脚 伸 肘 倒 立 を 行 い 伸 肘 倒 立 の 開 始 すなわちつま 先 の 離 地 から 安 定 した 倒 立 になるまでを 分 析 の 対 象 とした 伸 肘 倒 立 の 安 定 とは つま 先 の 離 地 から 体 重 移 動 による 重 心 線 を 手 掌 部 の 圧 力 中 心 からの 床 反 力 にい かにのせることができるか 否 かによって 評 価 した 分 析 の 対 象 とした 変 数 は 肩 関 節 角 度 や 股 関 節 角 度 の 違 い 身 体 重 心 (COM center of mass)と 圧 中 心 (COP center of pressure)の 関 係 性 モーメントなどとした 結 果 および 考 察 伸 肘 倒 立 の 熟 練 者 の 方 が 未 熟 練 者 と 比 較 して 肩 関 節 角 度 が 大 きい 傾 向 にあった - 2 -
肩 関 節 角 度 の 大 きい 方 が 肩 が 前 へ 出 ていない 伸 肘 倒 立 であり 熟 練 されてい ると 言 えた つま 先 離 地 のタイミングから 腰 が 重 心 に 乗 り 脚 を 倒 立 に 向 けて 伸 ばし 始 めるまでの 局 面 に 注 目 した 股 関 節 角 度 が 小 さいほど 脚 が 重 心 に 近 づき 無 駄 な 力 を 使 わずに 運 動 を 行 う 事 ができる 熟 練 者 の 方 が 未 熟 練 者 と 比 較 して 股 関 節 角 度 が 小 さくなる 傾 向 にあった COP 及 び COM の 変 位 では つま 先 離 地 までは COM は COP 上 にみられないが つま 先 離 地 時 には 熟 練 者 は ほぼ 全 員 が 同 じ 位 置 になり 未 熟 練 者 は 荷 重 がかかるのに 時 間 を 要 していた COM 回 りのモーメントは つま 先 離 地 後 は 被 験 者 間 で 大 きな 差 は 認 められな かったが 未 熟 練 者 H.T 及 び W.R は 大 きなモーメントであった 運 動 がしっ かりと 重 心 に 乗 って 安 定 していないと 倒 立 までの 段 階 でより 多 くの 力 を 使 っ てしまっていることが 推 察 できる 肩 関 節 角 度 前 腕 角 度 及 び 股 関 節 角 度 から 熟 練 者 のほうが 未 熟 練 者 よりも 運 動 を 行 なうなかで 肩 が 前 方 位 置 することがなく 下 肢 は 重 心 に 近 い 位 置 で 保 持 していることが 示 された 肩 関 節 が 前 方 へ 位 置 してしまうのは 股 関 節 の 柔 軟 性 と 関 係 しているのではないかと 考 えられた 伸 肘 倒 立 を 始 める 前 の 段 階 で は 下 肢 は 重 心 よりも 後 方 にある 下 肢 が 後 方 に 位 置 したまま 運 動 を 行 なうと 重 心 のバランスを 取 るためには 肩 を 前 方 へ 位 置 せざるを 得 なくなってしまう つまり 肩 が 前 へ 出 てしまうのは 肩 関 節 の 柔 らかさだけではないと 考 えられ る 熟 練 者 において 体 幹 角 度 9 度 を 越 えている 被 験 者 もいたが 股 関 節 の 柔 軟 性 が 高 くなければ 9 度 を 越 えることはできない 重 心 に 身 体 を 乗 せるの に 一 番 重 心 から 離 れている 下 肢 を 股 関 節 の 柔 軟 性 で 体 幹 に 引 きつけてくるこ とができれば 肩 を 前 へ 出 して 下 肢 とのバランスを 取 る 必 要 がなくなると 考 え られる - 3 -
Ⅰ 目 的 伸 肘 倒 立 の 安 定 とは つま 先 の 離 地 から 体 重 移 動 による 重 心 線 を 手 掌 部 の 圧 力 中 心 からの 床 反 力 にいかにのせることができるか 否 かによると 考 えられる 本 研 究 では 伸 肘 倒 立 の 開 始 すなわちつま 先 の 離 地 から 安 定 した 倒 立 になる までを 分 析 の 対 象 とした その 間 の 肩 関 節 角 度 や 股 関 節 角 度 の 違 い 身 体 重 心 (COM center of mass)と 圧 中 心 (COP center of pressure)の 関 係 性 モーメ ントなどを 調 べる 事 により 安 定 性 に 関 するバイオメカニクス 的 知 見 を 求 める そして 筆 者 らが 有 する 伸 肘 倒 立 の 主 観 的 経 験 知 を 合 わせて 論 じることにより スポーツ 科 学 の 競 技 力 向 上 に 関 する 研 究 に 貢 献 することを 目 的 とした 具 体 的 には 本 研 究 の 結 果 から 運 動 を 安 定 させる 方 法 を 導 き 出 し それらを 基 に 伸 肘 倒 立 の 技 術 や 指 導 方 法 を 考 案 し 今 後 の 伸 肘 倒 立 の 指 導 につなげていくことを 目 的 とした II 方 法 1. 被 検 者 被 験 者 は 男 子 大 学 体 操 競 技 選 手 11 名 で 行 なった 身 長 164.5 ± 6.6(cm) 体 重 62.6 ± 6.1(kg) 年 齢 19.8 ± 1.5 ( 歳 )である 競 技 歴 は 1.1±3.2( 年 ) であった( 表 1) 競 技 力 については 県 大 会 出 場 レベルからインカレ 個 人 総 合 優 勝 レベルまで 様 々であったが 被 験 者 の 熟 練 未 熟 練 は 実 験 前 に 伸 肘 倒 立 の 観 察 を 行 い 筆 者 の 観 点 から 優 劣 の 分 類 を 行 った 2. 測 定 手 順 測 定 動 作 として 閉 脚 伸 肘 倒 立 を 行 った 被 験 者 はフォースプレート(Kistler 社, 9287B, 6 9mm) 上 で 伸 肘 倒 立 を 行 い 足 部 はフォースプレートの 外 側 に 置 くよう 指 示 した フォースプレートの 中 心 辺 りに 手 をつき 閉 脚 で 伸 肘 倒 立 を 行 い 倒 立 が 安 定 するまでを 1 試 技 とし 実 施 させた 各 被 験 者 には 閉 脚 伸 肘 倒 立 を 2 回 実 施 させた 2 試 技 のうち 安 定 した 閉 脚 伸 肘 倒 立 1 試 技 を 選 ん だ 3. 分 析 方 法 データのサンプリング 周 波 数 は フォースプレートは1KHz カメラは 1fps(DKH 社 製 1394)とした 地 面 からの 高 さは 1mとし フォースプ - 4 -
レートの 中 心 から 7.5m 離 れ 撮 影 し 被 験 者 の 側 方 から 撮 影 を 行 った( 図 1) 画 像 解 析 にはフレームディアスⅡ(DKH 社 製 )を 使 用 した マーカー 貼 付 位 置 は 頭 頂 点 肩 峰 点 第 12 胸 椎 転 子 点 大 腿 骨 外 側 上 踝 外 果 点 足 先 点 上 腕 骨 外 側 上 踝 尺 骨 茎 状 突 起 第 5 手 中 手 骨 頭 とした 4) 被 験 者 には 画 像 解 析 ソフトによるデジタイジングを 行 いやすくするために 反 射 マーカーを 貼 付 し た 画 像 のキャリブレーションについては, 重 錘 に 反 射 マーカーを 貼 付 しフォ ースプレートの 中 心 から 左 右 の 6cm の 位 置 に 置 き 試 技 前 に 撮 影 記 録 した つま 先 の 離 地 から 倒 立 姿 勢 が 安 定 になるまでを 分 析 の 対 象 として 以 下 の 分 析 を 行 った 表 1 被 験 者 (n=11)の 身 体 的 特 性 身 長 (cm) 体 重 (kg) 年 齢 ( 年 ) 競 技 歴 ( 年 ) 平 均 164.5 62.6 19.8 1.1 標 準 偏 差 6.6 6.1 1.5 3.2 ハイスピードカメラ フォースプレート 図 1 実 験 配 置 図 - 5 -
4.データ 分 析 4 1 身 体 重 心 及 び 圧 力 中 心 身 体 重 心 ( 以 下 ;COM)はデンプスターモデル 9) によってエクセル(マイク ロソフト 23)を 用 いて 算 出 した 得 られた 座 標 データを 使 用 し 前 後 方 向 に おける 身 体 重 心 を 以 下 の 式 によって 算 出 した COMX=(XCOM1 m1)+ (XCOM2 m2) + + (XCOMn mn) ここで n は 分 節 番 号 m は n 番 目 の 分 節 の 質 量 比 X は 前 後 方 向 における 分 節 中 心 の 座 標 位 置 である 身 体 重 心 算 出 における 分 節 は 頭 部 と 頚 部 胸 部 腹 部 上 腕 部 前 腕 部 手 部 大 腿 部 下 腿 部 足 部 であった 圧 力 中 心 ( 以 下 ;COP)を フォ-スプレートによって 以 下 の 式 で 算 出 した COPx=(AZ FX-My)/FZ 及 び COPy=(AZ Fy-Mx)/FZ ここで AZ はプレート 表 面 からセンサまでの 深 さ, Mx は X 軸 周 りのモーメン ト, My は Y 軸 周 りのモーメント, FX フォースプレートに 働 く 力 の X 方 向 成 分 (N), FY フォースプレートに 働 く 力 の Y 方 向 成 分 (N), FZ フォースプレートに 働 く 力 の Z 方 向 成 分 (N)である 4 2 角 度 の 定 義 体 分 節 角 度 定 義 : 前 腕 角 度 は 尺 骨 形 状 突 起 と 上 腕 骨 外 側 上 踝 を 結 んだ 線 と 水 平 面 とのなす 角 度 とした 体 幹 角 度 は 肩 峰 点 と 第 12 胸 椎 を 結 んだ 線 と 水 平 面 とのなす 角 度 とした 大 腿 角 度 は 転 子 点 と 大 腿 骨 外 側 上 踝 を 結 んだ 線 と 水 平 面 とのなす 角 度 とした 全 て 右 水 平 方 向 を 度 とし 反 時 計 回 りをプラス とした( 図 2) 関 節 角 度 定 義 : 肩 関 節 角 度 は 肩 峰 点 と 上 腕 骨 外 側 上 踝 肩 峰 点 と 第 12 胸 椎 とのなす 角 度 とした 股 関 節 角 度 は 転 子 点 と 第 12 胸 椎 転 子 点 と 大 腿 骨 外 側 上 踝 とのなす 角 度 とした( 図 3) - 6 -
4 3 モーメント COM 回 りのモーメント: 矢 状 面 における 合 成 床 反 力 COMとのモーメン トアーム COM 回 りのモーメントを 算 出 した COM 回 りのモーメントは 時 計 回 りをマイナス 反 時 計 回 りをプラスとした( 図 5) 大 腿 角 度 + + 体 幹 角 度 + 前 腕 角 度 図 2 体 分 節 角 度 の 定 義 - 7 -
前 方 (+) 後 方 (-) 原 点 はフォースプレートの 中 心 図 3 座 標 及 び 関 節 角 度 定 義 床 反 力 モーメントアーム 重 心 回 りのモーメント 図 4 重 心 回 りのモーメント - 8 -
III 結 果 1 体 分 節 角 度 前 腕 角 度 及 び 大 腿 角 度 においては 被 験 者 間 で 大 きな 差 は 認 められなかった 体 幹 角 度 において 熟 練 者 の 方 が 未 熟 練 者 と 比 較 して 大 きくなる 傾 向 にあった 熟 練 者 においては 9 度 を 越 える 者 もいたが 未 熟 練 者 には 9 度 を 越 える 者 は いなかった 大 腿 角 度 においては 被 験 者 間 で 大 きな 差 は 認 められなかった 2 関 節 角 度 熟 練 者 の 方 が 未 熟 練 者 と 比 較 して 肩 関 節 角 度 が 大 きい 傾 向 にあった 肩 関 節 角 度 の 大 きい 方 が 肩 が 前 へ 出 ていない 伸 肘 倒 立 であり 熟 練 されていると 言 える( 図 5-1,2) つま 先 離 地 のタイミングから 腰 が 重 心 に 乗 り 脚 を 倒 立 に 向 けて 伸 ばし 始 め るまでの 局 面 に 注 目 した 股 関 節 角 度 が 小 さいほど 脚 が 重 心 に 近 づき 無 駄 な 力 を 使 わずに 運 動 を 行 う 事 ができる 熟 練 者 の 方 が 未 熟 練 者 と 比 較 して 股 関 節 角 度 が 小 さくなる 傾 向 にあった 3 COP 及 び COM の 変 位 被 験 者 11 名 分 の COP 及 び COM の 前 後 方 向 の 変 位 を 図 6 に 示 す 図 6-1 は 未 熟 練 者 5 名 分 で 図 6-2 は 熟 練 者 6 名 分 の 結 果 である 横 軸 は 時 間 で 縦 軸 は 前 後 方 向 の 変 位 である 細 い 線 が COP で 太 い 線 が COM である つま 先 離 地 のタ イミングを 縦 の 実 線 で 示 し 安 定 した 倒 立 になったタイミングを 縦 の 点 線 で 示 す つま 先 離 地 までは COM は COP 上 に 見 られないが つま 先 離 地 時 には 熟 練 者 はほぼ 全 員 が 同 じ 位 置 になり 未 熟 練 者 H.T M.H Y.K は 荷 重 が 増 すのに 時 間 がかかっている 4 モーメント 被 験 者 11 名 分 のCOM 回 りのモーメントを 図 7 に 示 す 図 7-1 は 未 熟 練 者 5 名 分 で 図 7-2 は 熟 練 者 6 名 分 の 結 果 である 横 軸 は 時 間 で 縦 軸 はモーメントで ある つま 先 離 地 のタイミングを 縦 の 実 線 で 示 し 倒 立 姿 勢 に 至 ったタイミン グを 縦 の 点 線 で 示 す 一 般 的 に つま 先 が 離 地 するまではCOM 回 りのモーメントは 時 計 回 りの モーメントであり 重 心 を 後 方 に 戻 そうとしている 事 が 分 かる つま 先 離 地 後 は - 9 -
被 験 者 間 で 大 きな 差 は 認 められなかったが 未 熟 練 者 H.T 及 び W.R は 大 きな モーメントを 示 した - 1 -
図 5-1 伸 肘 倒 立 成 否 を 決 定 するキーフレームにみる 未 熟 練 者 の 動 作 - 11 -
図 5-2 伸 肘 倒 立 成 否 を 決 定 するキーフレームにみる 熟 練 者 の 動 作 - 12 -
4 4 2-2 -4-6 2 4 6 8 1 2-2 -4-6 2 4 6 8 1-8 -8-1 -1 Y.K W.A 4 2-2 -4-6 -8 1 3 5 7 9 2-2 -4-6 -8 2 4 6 8 1-1 -1 H.T M.H 5 3 1-1 -3-7 2 4 6 8 1-9 -11 COP つま 先 離 地 COM 安 定 倒 立 W.R 図 6-1 未 熟 練 者 5 名 の 伸 肘 倒 立 開 始 から 安 定 倒 立 までのCOP 及 びCOMの 変 位 - 13 -
つま 先 離 地 COP 安 定 倒 立 COM 4 2-2 -4-6 -8 2 4 6 8 1-2 -4-6 -8 2 4 6 8 1-1 -1 A.H S.T 2-2 -4-6 -8 2 4 6 8 1 4 2-2 -4-6 -8 2 4 6 8 1-1 -1 N.K T.N 4 4 2-2 -4-6 2 4 6 8 1 2-2 -4-6 2 4 6 8 1-8 -8-1 -1 I.M S.K 図 6-2 熟 練 者 6 名 の 伸 肘 倒 立 から 安 定 倒 立 までのCOP 及 びCOMの 変 位 - 14 -
5 5 m om ent of force (Nm ) -1 2 4 6 8 1 moment of force (Nm) -1 2 4 6 8 1 Y.K W.A 15 5 moment of force (Nm) 1 5-1 2 4 6 8 1 m om ent of force (Nm ) -1 2 4 6 8 1 H.T M.H moment of force (Nm) 25 2 15 1 5 2 4 6 8 1-1 -2-25 つま 先 離 地 安 定 倒 立 W.R 図 7-1 未 熟 練 者 5 名 の 伸 肘 倒 立 開 始 から 安 定 倒 立 までのCOM 回 りのモー メントの 変 化 - 15 -
5 1 moment of force (Nm) -1 2 4 6 8 1 moment of force (Nm) 5-1 2 4 6 8 1-2 A.H S.T 1 5 moment of force (Nm) 5-1 2 4 6 8 1 moment of force (Nm) -1 2 4 6 8 1-2 N.K T.N 1 15 moment of force (Nm) 5-1 2 4 6 8 1 moment of force (Nm) 1 5-1 2 4 6 8 1-2 I.M S.K つま 先 離 地 安 定 倒 立 図 7-2 熟 練 者 6 名 の 伸 肘 倒 立 開 始 から 安 定 倒 立 までのCOM 回 りのモーメ ントの 変 化 - 16 -
IV 考 察 肩 関 節 角 度 前 腕 角 度 及 び 股 関 節 角 度 から 熟 練 者 のほうが 未 熟 練 者 よりも 運 動 を 行 なうなかで 肩 が 前 方 位 置 することがなく 下 肢 は 重 心 に 近 い 位 置 で 保 持 していた 熟 練 者 は つま 先 離 地 時 にCOMがCOP 上 に 重 なってくるのは このためであろう なお 肩 関 節 角 度 と 体 幹 角 度 は 熟 練 者 のほうが 角 度 が 大 きく 股 関 節 角 度 は 角 度 が 小 さな 値 を 示 した COP 及 び COM の 変 位 において 多 くの 被 験 者 ではつま 先 が 離 地 するまで COM は COP 上 に 見 られないが つま 先 が 離 地 すると COM は COP のほぼ 上 に 位 置 する 事 になる( 図 6) これは つま 先 が 離 地 すると 手 の 平 のみで 体 を 支 えバランスを 保 ちながら 倒 立 姿 勢 になろうとするためであろうと 考 えられる モーメントアーム 及 び COP と COM の 変 位 の 結 果 から つま 先 離 地 後 におい て COP は COM の 前 後 を 移 動 し モーメントアームも 前 後 に 移 動 し 微 妙 な 調 整 を 行 いながらバランスを 保 っていた COM 回 りのモーメントにおいては つ ま 先 離 地 までは 前 方 方 向 に 移 動 している 重 心 を 後 方 に 戻 すモーメントを 発 生 さ せながらつま 先 離 地 に 至 っていた( 図 7) また つま 先 が 離 地 してからは 前 後 の 両 方 にモーメントを 発 生 させながら 微 調 整 を 行 い 伸 肘 倒 立 から 倒 立 へと 移 行 していると 考 えられる 倒 立 姿 勢 は 直 立 姿 勢 と 比 較 して 安 定 性 に 欠 けると 考 えられるが 倒 立 姿 勢 と 比 較 して 伸 肘 倒 立 はより 大 きな 力 が 必 要 とされ バランスを 保 つ 事 も 難 しい のではないかと 思 われる 伸 肘 倒 立 においても 手 関 節 トルクはCOMの 動 揺 に 対 して 重 要 な 役 割 を 持 ち 伸 肘 倒 立 は 直 立 姿 勢 と 比 較 して 安 定 性 にかけると 考 えられる また 伸 肘 倒 立 においても 肘 関 節 の 屈 曲 によってバランスを 取 る 被 験 者 が 見 られた 金 子 ( 1977)は 伸 肘 倒 立 において 柔 軟 性 が 最 も 重 要 だと 述 べている 肩 関 節 角 度 を 大 きく 保 持 し 下 肢 を 身 体 重 心 の 近 い 位 置 に 保 持 する 事 は 柔 軟 性 が 求 められ る よって 柔 軟 性 は 伸 肘 倒 立 において 重 要 な 要 素 のひとつであると 考 えられ る 一 方 肩 関 節 が 前 方 へ 位 置 してしまうのは 股 関 節 の 柔 軟 性 と 関 係 しているの ではないかと 考 えられる 伸 肘 倒 立 を 始 める 前 の 段 階 では 下 肢 は 重 心 よりも 後 方 にある 下 肢 が 後 方 に 位 置 したまま 運 動 を 行 なうと 重 心 のバランスを 取 る - 17 -
ためには 肩 を 前 方 へ 位 置 せざるを 得 なくなってしまう つまり 肩 が 前 へ 出 て しまうのは 肩 関 節 の 柔 らかさだけではないと 考 えられる 熟 練 者 において 体 幹 角 度 9 度 を 越 えている 被 験 者 もいたが 股 関 節 の 柔 軟 性 が 高 くなければ 9 度 を 越 えることはできない 重 心 に 身 体 を 乗 せるのに 一 番 重 心 から 離 れて いる 下 肢 を 股 関 節 の 柔 軟 性 で 体 幹 に 引 きつけてくることができれば 肩 を 前 へ 出 して 下 肢 とのバランスを 取 る 必 要 がなくなると 考 えられる 股 関 節 を 重 心 に 近 い 位 置 に 引 きつけるには 柔 軟 性 が 必 要 と 考 えられるが つ ま 先 が 離 地 した 後 骨 盤 を 前 方 へ 移 動 させる 動 作 も 必 要 になるのではないか 骨 盤 を 前 方 へスライドさせるとは 腸 腰 筋 腹 直 筋 内 外 腹 斜 筋 及 び 脊 柱 起 立 筋 群 の 体 幹 部 を 固 定 及 び 保 持 しながら 骨 盤 前 傾 を 行 なう 動 きである この 動 作 により 重 心 から 遠 い 足 先 をできるだけ 重 心 に 近 い 位 置 へ 移 動 することができ る いわゆる 出 っ 尻 りの 状 態 である 熟 練 者 のなかにはこの 姿 勢 になっている ものが 複 数 人 見 られた そのため この 姿 勢 になると 体 幹 角 度 が 9 度 より 大 きくなる 骨 盤 を 前 方 へ 移 動 するためには 柔 軟 性 以 外 に 何 が 必 要 だろうか 骨 盤 を 前 方 へ 移 動 するためには 股 関 節 を 屈 曲 した 状 態 を 下 肢 が 地 面 から 離 地 してからも 保 持 しなければならない この 運 動 を 行 うためには 股 関 節 や 腹 筋 回 りの 保 持 す るための 筋 力 が 必 要 になってくると 考 えられる そして 骨 盤 を 前 方 へ 移 動 さ せる 動 きを 習 得 する 必 要 がある 具 体 的 な 方 法 として 股 関 節 の 柔 軟 性 が 高 い 事 が 前 提 であるが 下 肢 を 地 面 につけたまま 大 腿 部 と 腹 部 をつけた 状 態 でハム ストリングスのストレッチをしながら 股 関 節 を 前 へ 移 動 させる 意 識 練 習 が 必 要 であろう 次 に 肩 が 前 へ 倒 れないように 壁 に 向 かって 伸 肘 倒 立 を 行 ない 下 肢 が 離 地 した 状 態 で 大 腿 部 と 腹 部 が 離 れないように 骨 盤 を 移 動 させるトレーニ ングが 良 いのではないか 下 肢 が 離 地 した 状 態 になると 熟 練 者 でなければ 肩 が 前 へ 出 てしまい その 分 下 肢 が 離 れてしまう 為 壁 に 肩 をつけた 状 態 にするこ とで 骨 盤 を 移 動 させるというトレーニングが 可 能 になるだろう 次 にもうひとつのポイントである 肩 の 動 作 に 注 目 したい これまで 股 関 節 の 柔 軟 性 や 骨 盤 の 動 きが 肩 を 前 へ 出 さないとならない 状 態 にしていると 述 べ てきたが 肩 関 節 自 体 の 柔 軟 性 や 動 かし 方 も 重 要 になっている 肩 関 節 が 開 かなければ いくら 下 肢 を 近 くに 寄 せてきたとしても 肩 に 重 心 を - 18 -
乗 せることが 出 来 ず 前 方 へ 倒 れてしまうだろう 肩 関 節 が 開 くとは 肩 関 節 が 最 大 屈 曲 することである 肩 に 重 心 が 乗 ると 関 節 の 上 に 体 重 が 乗 り 筋 力 は あまり 使 わずに 済 むが 肩 がしっかりと 開 いて 入 っていない 状 態 だと 腕 の 筋 力 で 体 重 を 支 えなくてはならない 結 果 として 体 力 も 消 耗 してしまうし 減 点 の 対 象 にもなってしまう つまり 肩 関 節 がスムーズに 開 くようにストレッチ をする 必 要 がある そして ただ 肩 関 節 が 開 くようにストレッチをするのでは なく 肩 関 節 に 重 心 が 乗 ることを 意 識 しながらストレッチをしなければならな い 未 熟 練 者 において 肩 関 節 に 乗 っていると 見 られる 人 が 非 常 に 少 なかった 肩 関 節 を 開 きながら 乗 せる 動 作 を 身 につけるために ストレッチの 際 に 肩 甲 骨 を 開 いて 行 なうことにより 肩 に 重 心 が 乗 ることを 感 じられるであろう 肩 甲 骨 を 開 いて 行 なうとは 肩 関 節 を 最 大 屈 曲 した 状 態 で 前 鋸 筋 の 収 縮 による 肩 甲 骨 の 前 方 引 き 出 し 及 び 下 方 回 旋 及 び 外 転 の 動 作 のことである 方 法 として 平 行 棒 などのバーを 持 って 肩 を 開 いていき 肩 甲 骨 を 開 きながらバーを 押 し 返 すと 肩 関 節 に 乗 っていることが 感 じられるだろう 肩 関 節 の 柔 軟 性 が 低 かった り 普 段 から 肩 に 乗 せる 倒 立 をしていないと バーを 押 しにくかったり この ような 楽 な 運 動 でもすぐに 肩 が 疲 れてしまう だが 肩 関 節 が 柔 らかくなって きて 肩 甲 骨 もスムーズに 動 かすことができるようになってくると 力 強 くバー を 押 し 返 すことができるようになってくるだろう この 運 動 は 伸 肘 倒 立 だけで なく 倒 立 の 姿 勢 の 改 善 にもつながってくるだろう 次 に 伸 肘 倒 立 に 持 ち 込 む 姿 勢 になり 肩 関 節 を 開 いて 重 心 を 乗 せる 意 識 練 習 を 行 なう 肩 に 乗 せる 感 覚 がわかってきたら 下 肢 を 重 心 に 引 きつけることを 意 識 しながら 離 地 してい くと 徐 々に 良 い 姿 勢 の 伸 肘 倒 立 が 成 り 立 っていくものと 思 われる - 19 -
V 結 論 伸 肘 倒 立 が 得 意 な 選 手 は 肩 関 節 角 度 や 体 幹 角 度 が 大 きく 股 関 節 角 度 が 小 さい 位 置 で 保 持 されていることが 示 された また 重 心 が 圧 中 心 に 早 いタイミ ングで 重 なり 安 定 していることも 示 された これにより COM 回 りのモーメ ントも 乱 れが 少 なく 無 駄 な 力 を 使 っていないことが 示 唆 された 本 研 究 結 果 から 伸 肘 倒 立 を 安 定 させるためには 股 関 節 及 び 肩 関 節 の 柔 軟 性 と 同 時 に ストレッチした 状 態 を 保 持 及 び 移 動 させる 筋 力 や 動 作 が 必 要 で あると 考 えられる すなわち 下 肢 を 重 心 に 乗 せるために 大 腿 部 と 腹 部 が 離 れないように 保 持 しながら 股 関 節 の 骨 盤 を 前 へ 移 動 させる また 肩 甲 骨 を 開 くことで 肩 関 節 角 度 を 広 げ 肩 関 節 上 に 体 重 を 乗 せることが 指 導 上 重 要 であ ることが 示 唆 された - 2 -
VI 参 考 文 献 1) David.G. K and Grant.T: Strategies for maintaining a handstand in the anterior-posterior direction. Med. Sci. Sports. Exerc., 33(7), 1182-1188(21). 2) 伊 達 秀 : 体 操 の 基 本 姿 勢 白 樺 のポーズ について. 研 究 部 報, 79, 29-35(1997). 3) 伊 達 秀 : 体 操 の 基 本 姿 勢 白 樺 のポーズ についてⅡ. 研 究 部 報, 8, 25-33(1998). 4) 藤 田 恒 太 郎 : 生 態 観 察, 南 山 堂, 215-219,( 1976). 5) 金 子 明 友 : 体 操 競 技 教 本 ⅴ 床 運 動 ( 男 女 ) 編, 不 昧 堂 出 版, 217-223(1977). 6) 日 本 体 操 協 会 研 究 部 : 身 体 を 自 在 に 操 る 能 力 について. 研 究 部 報, 77, 29-33(1996). 7) 日 本 体 操 協 会 審 判 委 員 会 男 子 審 判 部 : 体 操 競 技 採 点 規 則, 男 子 26 年 度 版, 日 本 体 操 協 会,(26). 8) Semyon M. Slobounov and Karl M. Newell: Postual dynamics in upright and inverted stance. J. Appl. Biomech., 12, 185-196(1996). 9) W.T.Dempster: Space requirements of the seated operator, WADC Technical report, 559(1955). 1) 行 本 浩 人 : ジュニア 期 に 必 要 な 姿 勢 づくり 1, 研 究 部 報, 83(1999). - 21 -