日 本 における 介 護 保 険 の 現 状 とアクチュアリー 的 な 課 題 要 旨 近 年 日 本 では 医 療 技 術 の 進 歩 などにより 平 均 寿 命 が 伸 び 続 けており 現 在 世 界 で 最 も 平 均 寿 命 が 長 い 国 となっている しかし 高 齢 者 の 数 が 増 加 する 一 方 ライフスタイルの 変 化 など により 出 生 率 は 減 少 傾 向 にあり 人 口 に 占 める 高 齢 者 の 割 合 が 極 めて 高 い 超 高 齢 化 社 会 と なっている また ライフスタイルの 変 化 は 核 家 族 化 ( 祖 父 母 と 父 母 および 子 が 別 々に 暮 らすなど 家 族 が 分 散 して 暮 らすことをもたらしている そのため 高 齢 者 の 介 護 が 極 めて 深 刻 な 問 題 となっている そこで 日 本 では 000 年 より 公 的 介 護 保 険 制 度 がスタートした これは 40 歳 以 上 の 全 国 民 から 集 めた 介 護 保 険 料 や 税 金 を 財 源 として 介 護 が 必 要 となった 方 が 介 護 サービスを 受 けら れる 制 度 である しかし 公 的 介 護 保 険 の 介 護 サービスを 受 ける 場 合 でも 利 用 料 の 一 部 は 自 己 負 担 であり 利 用 料 の 限 度 額 が 予 め 定 められており それを 超 える 場 合 は 全 額 自 己 負 担 とな るなど 介 護 が 必 要 になった 場 合 には 依 然 として 経 済 的 負 担 が 生 じる これらのことを 背 景 として 介 護 が 必 要 になった 場 合 に 保 険 金 を 支 払 う 民 間 介 護 保 険 が 広 ま りつつある このペーパーでは 日 本 の 介 護 保 険 の 内 容 と アクチュアリー 的 な 観 点 での 課 題 を 紹 介 する.イントロダクション 日 本 では 医 療 技 術 の 進 歩 などにより 年 々 平 均 寿 命 が 伸 長 している 007 年 時 点 の 日 本 人 の 平 均 寿 命 は 男 性 は 79 歳 で 世 界 3 位 女 性 は 86 歳 で 世 界 位 男 女 平 均 でも 83 歳 で 世 界 位 である 一 方 晩 婚 化 や 子 供 一 人 あたりの 教 育 費 の 増 加 などを 原 因 として 出 生 率 は 減 少 している 007 年 時 点 の 日 本 の 出 生 率 は.34 ( 注 と 先 進 国 の 中 でも 低 い 数 字 と なっている ( 注 ここにおける 値 は 女 性 の 年 齢 別 出 生 率 を 合 計 した 値 図 日 本 における 平 均 寿 命 および 出 生 率 の 推 移 平 均 寿 命 00 90 平 均 寿 命 ( 女 性 80 70 平 均 寿 命 ( 男 性 60 50 40 30 出 生 率 0 0 0 950 960 970 980 990 000 4 3.5 3.5.5 0.5 0 出 生 率
出 典 : 厚 生 労 働 省 人 口 動 態 調 査 生 命 表 こうして 平 均 寿 命 の 伸 長 と 少 子 化 の 進 展 により 他 国 に 例 をみないほど 急 速 に 高 齢 化 が 進 んでいる 日 本 の 人 口 に 占 める 65 歳 以 上 の 割 合 をみてみると 現 在 はおよそ 5 人 に 人 であり 05 年 には 4 人 に 人 040 年 には 3 人 に 人 になると 予 想 されている 図 総 人 口 に 占 める 65 歳 以 上 人 口 の 割 合 の 国 際 比 較 (% 45.0 40.0 韓 国 35.0 30.0 5.0 0.0 5.0 日 本 ドイツ 0.0 5.0 0.0 アメリカ 中 国 インド 950 960 970 980 990 000 00 00 030 040 050 ( 年 出 典 :World Population Prospects: The 006 Revision さらに 祖 父 母 - 父 母 - 子 が 一 緒 に 暮 らす 世 帯 が 減 少 する 一 方 で 夫 婦 のみの 世 帯 一 人 暮 らしの 世 帯 が 増 加 しており 家 族 が 分 散 して 住 む 傾 向 が 強 まっている 日 本 ではこれを 核 家 族 と 呼 んでいるが 高 齢 者 を 支 える 家 族 が 同 じ 家 にいない 傾 向 にあるため 高 齢 者 の 介 護 は 国 民 にとって 極 めて 深 刻 な 問 題 となっている 図 3 日 本 における 世 帯 種 類 別 の 割 合 一 人 のみの 夫 婦 のみの 親 と 未 婚 の 子 ( 年 世 帯 世 帯 のみの 世 帯 三 世 代 世 帯 その 他 の 世 帯 986 8. 4.4 46.5 5.3 5.7 989 0.0 6.0 44.3 4. 5.5 99.8 7. 4.8 3. 6. 995.6 8.4 40.5.5 6. 998 3.9 9.7 38.9.5 6.0 00 4. 0.6 38.3 0.6 6.4 004 3.4.9 38.7 9.7 6.3 005 4.6.9 37.4 9.7 6.4 006 5.3.5 37.5 9. 6.6 0 0 40 60 80 00 (%
出 典 : 厚 生 労 働 省 国 民 生 活 基 礎 調 査 これらのことを 背 景 に 日 本 では 000 年 4 月 より 公 的 介 護 保 険 制 度 がスタートした. 日 本 の 公 的 介 護 保 険 制 度 の 概 要 日 本 と 同 じく 高 齢 化 により 介 護 の 問 題 が 深 刻 化 し 995 年 より 公 的 介 護 保 険 をスタートし たドイツの 制 度 などを 参 考 として 日 本 では 000 年 4 月 よりスタートした 概 要 は 次 のとおりである ( 対 象 者 40 歳 以 上 の 全 国 民 から 徴 収 した 保 険 料 と 公 費 により 介 護 が 必 要 になった 人 に 介 護 サービスを 給 付 する 年 齢 により 65 歳 以 上 を 第 号 被 保 険 者 40~64 歳 を 第 号 被 保 険 者 と 区 分 しており 給 付 を 受 ける 条 件 などが 異 なる 介 護 が 必 要 になったと きに 公 的 介 護 保 険 から 給 付 を 受 けられるが 40~64 歳 は 初 老 期 認 知 症 や 脳 血 管 疾 患 など 特 定 の 病 気 により 介 護 が 必 要 になった 場 合 に 限 られる 第 号 被 保 険 者 第 号 被 保 険 者 年 齢 区 分 65 歳 以 上 40~64 歳 給 付 を 受 ける 条 件 介 護 が 必 要 になったとき 初 老 期 認 知 症 や 脳 血 管 疾 患 など 主 に 老 化 が 原 因 とされ る 6 種 類 の 病 気 により 介 護 が 必 要 になったとき 保 険 料 の 支 払 方 法 年 金 から 天 引 きされる ( 注 加 入 している 医 療 保 険 と 一 括 して 支 払 う ( 注 ( 注 日 本 では 65 歳 以 上 は 公 的 年 金 が 給 付 される ( 注 日 本 では 全 国 民 が 公 的 医 療 保 険 に 加 入 することとなっている サラリーマンであれば 公 的 医 療 保 険 や 公 的 介 護 保 険 の 保 険 料 は 給 与 から 天 引 きされ 事 業 主 が 支 払 う 仕 組 みとし ている ( 介 護 サービスを 受 けるまでの 流 れ 介 護 が 必 要 となったときは 被 保 険 者 が 市 区 町 村 の 窓 口 に 要 介 護 認 定 の 申 請 を 行 う 市 区 町 村 職 員 の 調 査 や 医 師 の 意 見 書 に 基 づき コンピュータによる 次 判 定 専 門 家 による 介 護 認 定 審 査 会 において 次 判 定 を 行 い 要 介 護 認 定 が 行 われ る 要 介 護 認 定 は 介 護 が 必 要 な 重 さに 応 じて 7 段 階 に 分 かれている 要 介 護 認 定 を 受 けた 後 被 保 険 者 の 状 態 に 応 じて 介 護 サービス 計 画 ( ケアプラン という を 立 て 介 護 サービスを 開 始 する 3
介 護 が 必 要 となったとき 市 区 町 村 窓 口 に 申 請 要 介 護 認 定 訪 問 調 査 ( 市 区 町 村 の 職 員 が 被 保 険 者 宅 を 訪 問 し 調 査 医 師 の 意 見 書 取 付 け 一 次 判 定 ( 訪 問 調 査 結 果 をコンピュータ 処 理 3 二 次 判 定 ( 一 次 判 定 結 果 およびかかりつけの 医 者 の 意 見 書 をもとに 要 介 護 認 定 非 該 当 該 当 要 支 援 要 支 援 要 介 護 要 介 護 要 介 護 3 要 介 護 4 要 介 護 5 軽 度 重 度 (3 介 護 サービスの 種 類 主 に 自 宅 でホームヘルパーの 訪 問 介 護 などを 受 ける 居 宅 サービス と 介 護 施 設 で 介 護 サービスを 受 ける 施 設 サービス がある 居 宅 サービス 訪 問 介 護 ホームヘルパーが 訪 問 し 介 護 を 受 ける 通 所 介 護 日 帰 り 介 護 施 設 へ 通 所 し 介 護 を 受 ける 福 祉 用 具 の 貸 与 など 施 設 サービス 特 別 養 護 老 人 ホームなどの 施 設 に 入 所 し 介 護 を 受 ける (4 サービスを 受 ける 際 の 自 己 負 担 額 居 宅 サービスは 要 介 護 度 ごとに 利 用 限 度 額 が 定 められており 利 用 料 の 割 は 自 己 負 担 となる 施 設 サービスは 施 設 ごとに 自 己 負 担 額 が 定 められている なお 利 用 限 度 額 を 超 えて 受 けるサービス 公 的 介 護 保 険 の 対 象 とならないサービスを 受 け る 場 合 は 全 額 自 己 負 担 である 3. 民 間 介 護 保 険 の 市 場 性 と 商 品 内 容 ( 市 場 性 公 的 介 護 保 険 制 度 が 運 営 されているものの 介 護 が 必 要 となった 場 合 は 依 然 として 経 済 的 負 担 が 発 生 する 例 えば 居 宅 サービスを 受 ける 場 合 利 用 料 の 割 は 自 己 負 担 であり さらに 決 められたサービス 利 用 限 度 額 を 超 えて 受 けるサービスは 全 額 自 己 負 担 となる ま た 車 椅 子 介 護 用 ベッドの 購 入 費 用 や 介 護 を 必 要 とする 方 が 住 みやすいようにするた めの 住 宅 改 修 費 用 など 高 額 な 介 護 のために 高 額 な 費 用 がかかることもある 4
民 間 アンケートによると 公 的 介 護 保 険 と 介 護 に 対 する 経 済 的 な 私 的 準 備 をあわ せた 介 護 補 償 の 充 足 感 は 充 足 感 あり は 7.8% 充 足 感 なし は 74.6%となってい る 図 4 介 護 補 償 に 対 する 充 足 感 ( 単 位 :% 十 分 足 り ている 充 足 感 あり(7.8 どちらかといえば 足 りている わからない どちらかといえば 足 りない 充 足 感 なし(74.6 まったく 足 りない 6.8 7.6 37. 37.5.0 出 典 : 生 命 保 険 文 化 センター 平 成 9 年 度 生 活 保 障 に 関 する 調 査 なお 医 療 補 償 に 対 する 同 様 の 調 査 では 充 足 感 あり は 30.% 充 足 感 なし は 59.7% であり これと 比 べても 介 護 補 償 に 不 安 を 感 じている 人 が 多 いことがうかがえる ( 商 品 内 容 保 険 会 社 によって 異 なるが 一 般 的 な 商 品 内 容 の 例 を 紹 介 する 支 払 事 由 - 公 的 介 護 保 険 連 動 と 約 款 認 定 保 険 金 を 支 払 う 要 介 護 状 態 の 定 義 は 大 きく 分 けてつのタイプに 分 けられる 一 つは 要 介 護 状 態 を 約 款 で 細 かく 規 定 しているタイプである 例 えば 歩 行 の 際 に 杖 等 をつかっても 床 の 上 で 0 秒 間 程 度 の 保 持 ができず といった 具 合 である もう 一 つは 公 的 介 護 保 険 制 度 に 連 動 させている タイプである 例 えば 公 的 介 護 保 険 における 要 介 護 3 以 上 に 認 定 された 場 合 に 保 険 金 を 支 払 う いった 具 合 である 後 者 の 方 が 保 険 契 約 者 にとって どのような 場 合 に 保 険 金 が 支 払 われるかが 分 かりや すく 保 険 会 社 にとっても 保 険 金 の 支 払 査 定 が 容 易 であるため 近 年 増 えつつある た だし 公 的 介 護 保 険 の 内 容 が 変 更 された 場 合 ( 例 : 介 護 の 重 度 による 区 分 が 見 直 され7 段 階 から 0 段 階 になったに 保 険 契 約 の 内 容 も 連 動 して 変 えなければならないなど の 問 題 を 持 っている なお 要 介 護 状 態 が 90 日 以 上 続 いた 場 合 に 保 険 金 を 支 払 う 等 の 免 責 期 間 を 設 定 する ことが 一 般 的 である 保 険 金 要 介 護 状 態 になった 場 合 に 支 払 う 一 時 金 要 介 護 状 態 が 続 くかぎり 支 払 う 保 険 金 ( 以 下 介 護 年 金 というを 設 定 しているタイプが 一 般 的 である 介 護 年 金 は 例 えば 5
要 介 護 状 態 が 続 くかぎり 年 あたり 00 万 円 支 払 う という 内 容 である 一 時 金 年 金 のどちらかのみ 設 定 するタイプもある 3 保 険 料 の 払 込 免 除 保 険 金 を 支 払 う 要 介 護 状 態 となった 場 合 は 保 険 料 の 払 込 を 免 除 する 仕 組 みが 一 般 的 である 4 保 険 期 間 終 身 などの 長 期 の 保 険 期 間 であることが 多 い 5 主 契 約 か 特 約 か 介 護 保 険 単 体 のタイプ 死 亡 保 険 や 医 療 保 険 などの 特 約 としているタイプがある な お 日 本 では 医 療 保 険 や 介 護 保 険 など 人 が 病 気 になったことなどを 起 因 として 保 険 金 を 支 払 う 保 険 ( は 生 命 保 険 会 社 損 害 保 険 会 社 のどちらでも 取 扱 うことが 認 めら れている ( 注 日 本 では 人 の 生 死 に 対 して 一 定 額 を 支 払 う 保 険 ( 生 命 保 険 会 社 が 取 り 扱 えるを 第 分 野 自 動 車 保 険 や 火 災 保 険 など 損 害 を 填 補 する 保 険 ( 損 害 保 険 会 社 が 取 り 扱 えるを 第 分 野 人 が 病 気 になったことなどを 起 因 として 保 険 金 を 支 払 う 保 険 ( 生 命 保 険 会 社 損 害 保 険 会 社 双 方 が 取 り 扱 えるを 第 3 分 野 と 呼 んでいる 6 引 受 方 式 健 康 状 況 に 関 する 告 知 を 受 領 し その 内 容 により 引 受 可 否 引 受 条 件 を 審 査 する 告 知 書 扱 医 師 の 診 査 により 判 断 する 診 査 扱 などがあるが 死 亡 補 償 がない 医 療 保 険 や 介 護 保 険 では 告 知 書 扱 が 一 般 的 である なお 告 知 書 扱 の 中 には 健 康 状 況 に 関 する 質 問 事 項 に 関 してつも 該 当 しなければ 引 受 可 能 つでも 該 当 すれば 引 受 不 可 といった 簡 便 なものもある 4.アクチュアリー 的 な 観 点 における 課 題 介 護 保 険 の 歴 史 はそれほど 長 くないため 十 分 な 信 頼 を 得 られる 保 険 統 計 が 存 在 しない 等 の 理 由 により 様 々な 課 題 が 存 在 する 以 下 料 率 算 出 負 債 評 価 における 課 題 の 例 を 説 明 する ( 料 率 算 出 要 介 護 発 生 率 の 算 出 方 法 前 述 のとおり 介 護 保 険 の 契 約 が 増 えてきたのは 最 近 であるため 要 介 護 状 態 になる ような 年 令 ( 通 常 は 高 齢 であるに 達 していない 契 約 が 多 い そのため 十 分 な 信 頼 6
ここで 介 護 保 険 の 保 険 料 算 定 で 最 も 重 要 な 基 礎 率 の 一 つは 要 介 護 発 生 率 ( 単 位 期 間 あたりに 新 たに 要 介 護 状 態 になる 確 率 である しかし 残 念 ながら 我 が 国 にお いて 年 間 で 新 たに 要 介 護 状 態 となった 人 数 といった 一 般 統 計 は 存 在 しない しかし 特 に 公 的 介 護 保 険 連 動 型 商 品 の 場 合 ある 時 点 における 要 介 護 認 定 者 数 は 一 般 統 計 から 把 握 可 能 であり さらに 人 口 統 計 を 用 いて 要 介 護 状 態 である 者 の 割 合 が 算 出 可 能 である さらにいくかの 基 礎 率 を 用 いることにより 下 記 の 算 式 によ って 要 介 護 発 生 率 が 算 出 される < 定 義 > r : 歳 の 要 介 護 発 生 率 ( 年 以 内 に 新 たに 要 介 護 状 態 になる 確 率 : 歳 の 要 介 護 者 の 割 合 ( 歳 の 要 介 護 者 認 定 者 数 / 歳 の 人 口 : 歳 の 死 亡 率 : 歳 の 要 介 護 者 の 死 亡 率 r ( ( ( ( ( 注 このペーパーでは 要 介 護 状 態 になった 後 回 復 して 要 介 護 状 態 ではなくなる 場 合 は 無 視 す る なお 上 記 式 の 導 出 は 付 録. 参 照 ここで 上 記 の 算 式 は 要 介 護 者 の 割 合 ( 以 外 に 死 亡 率 ( 要 介 護 者 の 死 亡 率 ( を 用 いていることに 注 意 が 必 要 である 死 亡 率 ( は 一 般 統 計 あるいは 保 険 実 績 により 把 握 可 能 であるが 要 介 護 者 の 死 亡 率 ( を 明 確 に 示 す 統 計 は 見 当 たらない を 推 定 する 一 つ の 方 法 は 要 介 護 者 ( 健 康 者 の死 亡 率 ( と 要 介 護 者 の 死 亡 率 ( の 較 差 を 見 積 もり 算 出 する 方 法 である その 算 出 方 法 例 を 付 録.に 示 す このように r を 精 緻 に 見 積 もること 特 に 上 記 算 出 方 法 によれば を 精 緻 に 見 積 もることが 重 要 な 課 題 である 保 険 金 の 支 払 期 間 介 護 年 金 を 考 えた 場 合 保 険 金 を 支 払 う 要 介 護 状 態 がいつまで 続 くか も 重 要 であ る 医 療 保 険 では 回 の 入 院 で 保 険 金 を 支 払 う 日 数 に 0 日 などの 上 限 を 定 めるこ 7
とが 一 般 的 であるが 介 護 保 険 における 介 護 年 金 は 要 介 護 状 態 であるかぎり 保 険 金 を 支 払 う というように 上 限 を 設 けない 商 品 が 多 い しかし 要 介 護 状 態 の 期 間 に 関 する 統 計 も ほとんど 存 在 しない 要 介 護 状 態 になった 場 合 は 死 亡 するまで 要 介 護 状 態 が 続 くとすることが 安 全 的 な 考 え 方 であるが この 場 合 もと 同 様 要 介 護 状 態 である 者 の 死 亡 率 ( の 設 定 が 重 要 な 意 味 を 持 つこととなる 3確 率 変 動 や 将 来 の 環 境 変 化 に 対 する 不 確 実 性 の 反 映 要 介 護 発 生 率 を 精 緻 に 見 積 もることができたとしても 確 率 変 動 により 要 介 護 発 生 率 が 高 くなるリスクが 存 在 する また 環 境 の 変 化 などにより 将 来 要 介 護 発 生 率 が 高 くなる 可 能 性 もある 事 実 日 本 では 公 的 介 護 保 険 制 度 が 000 年 に 始 まって 以 来 要 介 護 認 定 者 数 が 増 加 し 続 けている これらの 不 確 実 性 を 吸 収 するために 料 率 設 定 にあたり 予 め 割 増 を 設 定 することが 一 般 的 に 行 われる よく 用 いられる 方 法 の 一 つは 想 定 される 確 率 分 布 において 期 待 値 に 標 準 偏 差 (σ の 一 定 割 合 例 えば σを 付 加 する 方 法 である ただし この 方 法 では 想 定 される 被 保 険 者 数 がどれくらいか すなわち どれくらいの 契 約 を 見 込 むかによって 割 増 水 準 が 大 きく 異 なり 被 保 険 者 数 の 設 定 によっては 過 度 に 保 険 料 が 高 くなる 場 合 がある ここで 付 録 3.のとおり 要 介 護 発 生 率 ( r のシミュレー ションを 行 った 見 込 まれ る 被 保 険 者 数 によっては 割 増 後 の 発 生 率 が 理 論 値 のおよそ 倍 になることもある このように 不 確 実 性 の 要 素 をいかに 料 率 に 織 り 込 むかが 特 に 保 険 期 間 が 長 期 の 場 合 に 重 要 となる ( 支 払 備 金 被 保 険 者 が 実 際 に 要 介 護 状 態 となり 保 険 会 社 に 保 険 金 請 求 がなされた 場 合 は 将 来 の 保 険 金 支 払 に 備 えて 支 払 備 金 を 積 む 前 述 のとおり 介 護 年 金 は 要 介 護 状 態 である 限 り 支 払 うため 支 払 備 金 が 高 額 になることが 多 い 実 際 に 生 じた 事 故 に 対 する 支 払 額 の簡 便 な 見 積 もり 方 法 としては 年 あたりの 支 払 額 事 故 時 における 被 保 険 者 の 平 均 余 命 とすることが 考 えられる この 見 積 もり 方 法 とした 場 合 前 記 (と 同 様 に 要 介 護 者 の死 亡 率 が 重 要 となる (3 責 任 準 備 金 特 に 保 険 期 間 が 長 期 の 契 約 の 場 合 適 切 な 料 率 設 定 を 行 うととともに 契 約 後 において も 将 来 発 生 する 保 険 金 支 払 に 備 えて 適 正 な 責 任 準 備 金 の 積 み 立 てを 行 うことが 重 要 で ある 日 本 の 医 療 保 険 や 介 護 保 険 において 積 み 立 てるべき 責 任 準 備 金 の 種 類 は 法 令 等 で 定 められており 主 な 責 任 準 備 金 の 概 要 は 以 下 のとおりである 8
保 険 料 積 立 金 通 常 予 測 できるリスクに 対 する 責 任 準 備 金 である 保 険 料 の 設 定 にかかわらず 保 険 会 社 の 健 全 性 に 支 障 を 来 たすことのないよう 保 険 料 積 立 金 の 積 立 方 式 計 算 基 礎 と なる 予 定 利 率 死 亡 率 などが 法 令 によって 定 められている ただし 保 険 事 故 発 生 率 などは 保 険 会 社 によって 商 品 内 容 が 異 なるため 標 準 的 な 料 率 は 定 められておらず 課 題 の 一 つとなっている 危 険 準 備 金 医 療 保 険 や 介 護 保 険 については 政 策 等 の 外 的 要 因 を 受 けやすい ( 例 えば 医 療 費 や 介 護 サービス 費 の 増 加 を 抑 制 するため 入 院 日 数 を 短 縮 化 させたり 要 介 護 認 定 基 準 を 見 直 しするなどの 政 策 が 実 施 されると 影 響 を 受 けることになる また 日 本 の 医 療 保 険 や 介 護 保 険 は 保 険 期 間 が 終 身 の 商 品 が 多 いため 長 期 的 な 不 確 実 性 を 有 し ていると 考 えられる 一 方 で 料 率 算 出 の 箇 所 で 述 べたように 歴 史 の 浅 い 商 品 が 多 く データの 蓄 積 も 十 分 でないため 事 故 発 生 率 に 関 するスタンダードな 指 標 が 存 在 しな い そのため 事 故 発 生 率 に 関 する 不 確 実 性 に 対 し 事 後 検 証 を 行 ったうえで 将 来 の 保 険 金 支 払 に 備 えて 十 分 な 積 立 を 行 うことが 重 要 である このような 背 景 から 医 療 保 険 や 介 護 保 険 に 関 する 責 任 準 備 金 の 積 立 事 後 検 証 に 関 するルールが 制 定 され 007 年 より 実 施 されている 具 体 的 には 以 下 のとおりである 実 績 の 保 険 事 故 発 生 率 に 基 づいて 今 後 0 年 間 の 保 険 事 故 発 生 率 を 予 測 する 確 率 変 動 を 考 え 今 後 0 年 間 の 99%のリスクをカバーする 水 準 を 算 出 する 確 率 99%のリスクをカバー 99% 値 予 測 値 ( 期 待 値 保 険 事 故 発 生 率 このとき 保 険 料 等 の 算 出 にあたって 予 め 設 定 した 予 定 事 故 発 生 率 が この 99% のリスクをカバーする 水 準 を 満 たさない 場 合 は 保 険 料 積 立 金 が 不 足 するとして 危 険 準 備 金 を 積 み 立 てる イメージは 次 のとおりである 9
a. 予 定 事 故 発 生 率 が 99%のリスクをカバーしているケース 予 定 事 故 発 生 率 保 険 事 故 発 生 率 実 績 に 基 づく 事 故 発 生 率 の 99%のリスク をカバーする 発 生 率 実 績 から 見 込 まれる 将 来 の 事 故 発 生 率 実 績 テスト 実 施 期 間 (0 年 間 危 険 準 備 金 を 積 む 必 要 なし b. 予 定 事 故 発 生 率 が 99%のリスクをカバーできないケース 危 険 準 備 金 実 績 に 基 づく 事 故 発 生 率 の 99%のリスクをカ バーする 発 生 率 保 険 事 故 発 生 率 予 定 事 故 発 生 率 実 績 から 見 込 まれる 将 来 の 事 故 発 生 率 実 績 テスト 実 施 期 間 (0 年 間 危 険 準 備 金 を 積 む 必 要 あり この 医 療 保 険 や 介 護 保 険 に 関 する 危 険 準 備 金 の 制 度 は 前 述 のとおり 007 年 か ら 実 施 されているものであるが 将 来 の 事 故 発 生 率 の 予 測 にあたって どのよう なモデルを 使 うか あるいは このような 分 析 を 行 うためにデータを 整 備 するこ となどが 課 題 となっている 0
なお 97.7%のリスク( 正 規 分 布 では σ 付 加 した 値 に 相 当 するリスクは 前 記 の 保 険 料 積 立 金 でカバーされるべきと 考 えられている 従 って 予 定 事 故 発 生 率 が 97.7%のリスクをカバーできる 水 準 も 満 たさない 場 合 は 99% 水 準 と 97.7% 水 準 の 差 にあたる 額 を 危 険 準 備 金 として 積 み 立 てたうえで 将 来 発 生 する 保 険 金 だけでなく 会 社 コストなど 負 債 全 体 を 保 険 料 積 立 金 でカバーできるかのテスト ( 負 債 十 分 性 テストを 行 うこととされている 保 険 事 故 発 生 率 正 規 分 布 で は σ 97.7% 値 99% 値 保 険 料 積 立 金 で 対 応 保 険 料 積 立 金 で 対 応 できな ければ 危 険 準 備 金 で 対 応 ( 4 行 政 の 監 督 規 制 前 記 (3の 危 険 準 備 金 の 制 度 でみたよう に 医 療 保 険 や 介 護 保 険 の 規 制 責 任 準 備 金 の 在 り 方 については 近 年 様 々な 見 直 しが 行 われている 特 に 責 任 準 備 金 のあり 方 につい ては 国 際 会 計 基 準 やソルベンシー マージン 基 準 の 算 出 方 法 の 見 直 しにも 関 連 して 今 後 も 議 論 されていくことと 思 われる なお 日 本 では 保 険 会 社 の 健 全 な 運 営 を 行 うため 保 険 会 社 ごとに 保 険 計 理 人 を 選 任 し ている ( 保 険 計 理 人 の 役 割 は 保 険 料 算 出 方 法 や 責 任 準 備 金 算 出 方 法 などについて 関 与 すること 責 任 準 備 金 が 適 正 に 積 み 立 てられているか 確 認 を 行 うことなどである 近 年 この 保 険 計 理 人 の 役 割 が 強 化 され 前 述 の 負 債 十 分 性 テストは 保 険 計 理 人 が 直 接 行 う 業 務 とされている また 日 本 では 保 険 商 品 の 販 売 にあたっては 基 本 的 に 監 督 官 庁 の 事 前 認 可 が 必 要 であるが 医 療 保 険 や 介 護 保 険 の 保 険 料 算 出 方 法 や 責 任 準 備 金 算 出 法 の 認 可 申 請 については 保 険 計 理 人 の 意 見 書 が 必 要 とされている 今 後 も 医 療 保 険 や 介 護 保 険 の 監 督 規 制 のあり 方 について 見 直 しが 行 われていくことと 思 われる 5.まとめ このように 日 本 において 介 護 保 険 のニーズは 今 後 ますます 高 まっていくものと 思 われ 成 長 が 見 込 まれる 分 野 である 一 方 で 要 介 護 状 態 の 発 生 率 については 確 固 たるデータが
ないなど 保 険 料 の 算 定 にあたっては 多 くの 課 題 が 存 在 している また 保 険 期 間 が 長 期 であることが 多 いため 将 来 の 不 確 実 性 を 踏 まえると 責 任 準 備 金 の 評 価 も 重 要 である 我 々 アクチュアリーは 保 険 会 社 の 収 益 性 と 健 全 性 の 両 方 に 配 慮 しつつ 適 正 な 保 険 料 の 算 定 責 任 準 備 金 の 評 価 リスク 管 理 などを 行 っていかなければならない 今 後 諸 外 国 の 例 も 参 考 にしつつ 介 護 保 険 の 発 展 に 努 めていきたい 以 上
付 録 要 介 護 発 生 率 r の 算 出 <定 義 > l 歳 の 被 保 険 者 数 そ の 他 の 記 号 は 本 文 に 同 じ 歳 の 要 介 護 者 数 は 次 のように 表 される 歳 の 要 介 護 者 数 = 歳 の 要 介 護 者 のうち 歳 まで 生 存 した 者 の 数 + 歳 の 要 介 護 状 態 でな い 者 ( 健 康 者 のうち 歳 になる 前 に 要 介 護 状 態 になり かつ 歳 まで 生 存 した 者 の 数 算 式 化 すると 左 辺 = 歳 の 生 存 者 数 歳 の 要 介 護 者 の 割 合 =l 右 辺 の= 歳 の 生 存 者 数 歳 の 要 介 護 者 の 割 合 -( 歳 の 要 介 護 者 の 死 亡 率 = l ( 右 辺 の= 歳 の 健 康 者 数 ( 歳 の 要 介 護 者 の 死 亡 率 歳 の 要 介 護 発 生 率 - = 歳 の 生 存 者 数 -( 歳 の 要 介 護 者 の 割 合 歳 の 要 介 護 者 発 生 率 - ( 歳 の 要 介 護 者 の 死 亡 率 = l ( r ( ( 注 平 均 的 に 年 の 中 央 で 要 介 護 状 態 が 発 生 するとする よって l l ( l ( r ( l r l を 代 入 し r ( ( ( ( について 整 理 すると 3
付 録 の 算 出 方 法 例 < 定 義 > p 歳 の 要 介 護 状 態 でない 者 ( 健 康 者 のうち 年 後 も 健 康 である 者 の 割 合 歳 の 健 康 者 のうち 年 以 内 に 健 康 者 のまま 死 亡 する 者 の 割 合 l 被 保 険 者 数 要 介 護 状 態 者 の 死 亡 率 ( の 健 康 者 の 死 亡 率 ( に 対 する 比 (= / その 他 は 本 文 に 同 じ 次 の 算 式 が 成 り 立 つ l p r ( p l ( ( l l ( r l l l 3 4 l を 用 いておよび3は l p ( 5 ( ( r と 表 される に5を 代 入 して r ( 7 6に4 7を 代 入 して 6 ( a ( ( について 整 理 すると ( ( ( ( ( 0 この 次 方 程 式 を 解 くことで が 得 られ 4より が 求 まる 4
付 録 3 要 介 護 発 生 率 ( r のシミュレーション < 用 語 の 説 明 > : 歳 の 要 介 護 状 態 である 者 の 割 合 : 歳 の 死 亡 率 : 歳 の 要 介 護 状 態 である 者 の 死 亡 率 歳 の 健 康 者 のうち 年 以 内 に 健 康 者 のまま 死 亡 する 者 の 割 合 要 介 護 状 態 者 の 死 亡 率 ( の 健 康 者 の 死 亡 率 ( に 対 する 比 r : 歳 の 要 介 護 発 生 率 ( 年 以 内 に 要 介 護 状 態 になる 確 率 : r が 従 う 確 率 分 布 における 標 準 偏 差 ここでは r が 二 項 分 布 に 従 うとした このとき r ( r / N ( N は 被 保 険 者 数 となる r : r に 割 増 として 加 えたもの < 結 果 > 例 えば 70 歳 においては N=,000 では r は r の 約 倍 の 値 となってしまう N=0,000 では 3 割 増 程 度 である N=000 N=0000 年 齢 3 3α 7 6 7r 8-σ 9- r' 8-σ 9- r' 70 0.0778 0.03 6.43897 0.305 0.09 0.00449 0.00 0.0087 0.00067 0.00583 7 0.007 0.036 6.84 0.309 0.007 0.005 0.008 0.00978 0.0007 0.00666 7 0.086 0.065 5.9360 0.373 0.033 0.00605 0.0045 0.0095 0.00078 0.00760 73 0.0590 0.0895 5.69959 0.4459 0.0537 0.0070 0.0064 0.08 0.00083 0.00868 74 0.0934 0.0308 5.4750 0.59 0.0783 0.008 0.0084 0.0379 0.00090 0.0099 75 0.033 0.03555 5.5446 0.603 0.0305 0.00940 0.00305 0.0550 0.00096 0.033 76 0.03759 0.03939 5.045 0.6863 0.03343 0.0088 0.0038 0.0744 0.0004 0.095 77 0.045 0.04368 4.8440 0.774 0.03663 0.058 0.0035 0.0963 0.00 0.048 78 0.04804 0.04856 4.650 0.8703 0.040 0.0456 0.00379 0.03 0.000 0.0695 79 0.0545 0.0540 4.46579 0.976 0.0445 0.0683 0.00407 0.0497 0.009 0.094 (80 0.06 ( 注 公 的 介 護 保 険 における 要 介 護 3 以 上 の 発 生 率 とした 007 年 0 月 介 護 給 付 費 実 態 調 査 ( 厚 生 労 働 省 における 要 介 護 3 以 上 認 定 者 数 およ び 007 年 0 月 日 現 在 人 口 推 計 ( 総 務 省 による 人 口 データを 用 いて 若 干 の 補 整 を 行 い 算 出 した 第 0 回 生 命 表 ( 厚 生 労 働 省 による 介 護 費 用 保 険 参 考 純 率 ( 損 害 保 険 料 率 算 出 機 構 による 付 録.の 方 法 により 算 出 した 5