医 科 学 だより2 肘 関 節 の 痛 み(テニス 肘 を 中 心 に) 医 科 学 委 員 松 島 年 宏 テニスプレイヤーの 約 10%に 利 き 腕 の 肘 痛 がおこる 肘 関 節 の 痛 みで 考 えられるものは ジ ュニアプレーヤーでは 野 球 肘 といわれる 骨 軟 骨 異 常 や 骨 端 線 ( 成 長 線 ) 障 害 や 中 高 年 以 降 で は 変 形 性 肘 関 節 症 という 骨 関 節 変 形 など 多 岐 に 渡 ります しかし ほとんどの 場 合 テニス 肘 といわれる 前 腕 から 肘 まで 伸 びる 手 首 を 反 らせる 筋 肉 と 骨 をつなぐ 腱 の 細 かい 断 裂 を 伴 った 炎 症 が 原 因 です 多 くは 不 適 切 なバックハンド フォームによ りますが 手 首 を 過 度 に 使 うフォームならフォアハンドでもサービスでも 腱 の 障 害 が 生 じます 重 症 になると 物 を 持 ったり タオルを 絞 ったりといった 日 常 生 活 にも 支 障 をきたすようになりま す ちなみに テニス 以 外 にも 職 業 柄 や 中 高 年 の 女 性 に 多 いなどの 特 色 があります 年 齢 が 第 一 の 要 素 で 20 歳 以 下 は 滅 多 になくアラフォーが 最 も 多 いです 中 上 級 者 週 2 3 回 テニスをす る 人 が 多 く 初 心 者 や 週 1 回 以 下 の 人 ではむしろ 少 ないのです では 原 因 として 多 いのは 一 体 何 でしょう? 無 理 なフォーム 多 すぎる 練 習 量 や 合 わないラケッ トによる 筋 肉 腱 の 過 負 荷 ( 使 いすぎ)と 加 齢 にともなう 筋 肉 腱 の 衰 えの 2つが 最 大 の 要 因 で す テニス 肘 は 主 にバックハンド 型 フォアハンド 型 サーブ 型 の 3 種 類 に 分 けられますが 全 体 の 8~9 割 はバックハンド 型 です 運 動 部 に 所 属 している 中 高 生 や ハードヒットやサーブの 際 の 手 首 のスナップが 原 因 になる 場 合 にはフォアハンド 型 がおこりやすいです (1)バックハンド 型 テニス 肘 肘 の 外 側 ( 手 を 伸 ばして 手 のひらを 上 にしたときの 親 指 側 )の 痛 み 圧 迫 痛 と 運 動 痛 があり 指 を 反 らすと 痛 むときはかなり 悪 い 状 態 です ボールを 打 つ 瞬 間 に 手 首 を 内 側 ( 手 のひら 側 )に 返 して その 反 動 でバックハンドを 打 つと 肘 の 外 側 の 前 腕 伸 筋 群 が 強 い 伸 びと 収 縮 を 受 けて 腱 にストレスがかかり その 繰 り 返 しで 腱 に 微 細 な 断 裂 が 生 じます 医 学 的 には 上 腕 骨 外 側 上 顆 部 の 炎 症 筋 肉 と 腱 部 分 の 疲 労 性 障 害 日 常 生 活 では 物 を 持 ち 上 げる 動 作 物 をつかむ 動 作 手 を 振 る 動 作 皿 洗 い ドアを 開 けるときに 疼 痛 が 増 強 テニス 中 ではバックハンドストロークでボールを 打 った 瞬 間 に 疼 痛 が 生 じ 熟 練 者 より も 初 心 者 のほうがなりやすいです ボールを 打 つときに 手 関 節 が 屈 曲 している 手 関 節 の 伸 展 筋 群 の 筋 力 と 柔 軟 性 が 劣 ることがその 理 由 とされています (2)フォアハンド 型 テニス 肘
肘 の 内 側 ( 手 を 伸 ばして 手 のひらを 上 にしたときの 小 指 側 )の 痛 み サーブまたはフォアハンド のトップスピンを 打 ったときの 痛 みや 握 力 低 下 が 生 じ ゴルフやボーリングで 手 首 をひねる 動 作 で 痛 みが 出 現 しやすい 手 首 を 後 ろに 反 らして その 反 動 でラケットヘッドを 前 に 動 かすようにボールを 打 っていると 前 腕 屈 筋 群 の 付 け 根 の 腱 がダメージを 受 けます 手 首 をぐらぐらさせるフォームが 原 因 医 学 的 には 上 腕 骨 内 側 上 顆 部 の 炎 症 ゴルフ 肘 も 同 じ 機 序 で 生 じます 上 級 者 でしばしば 見 られ サー ブまたはフォアハンドのトップスピンを 打 ったときの 手 関 節 のスナップ 時 に 生 じます (3)サーブ 型 テニス 肘 肘 の 後 ろ 側 ( 肘 頭 )の 痛 み テニスのサーブは 野 球 の 投 球 動 作 と 似 ており サーブ 肘 は 野 球 肘 と 似 ています 尺 骨 の 先 端 は ひじを 伸 ばしたときに 上 腕 骨 とぶつかることで 肘 が 必 要 以 上 に 曲 がらないようにブロックし ているのですが サーブのインパクトまたはフォロースルーの 段 階 で 肘 が 伸 びきると ふたつの 骨 が 急 激 に 衝 突 して 炎 症 を 起 こします インパクトのときに 腕 が 一 直 線 になるフォームは 必 ず 肘 を 痛 め また スピンサーブ ツイストサーブは 肘 の 内 側 に 大 きなストレスをかけます 治 療 ほとんどの 場 合 テニス 肘 は 完 治 し 得 るスポーツ 障 害 ですが 半 年 か それ 以 上 かかることが あります 筋 腱 付 着 部 の 血 流 は 乏 しいために 障 害 の 治 癒 には 数 週 間 ~ 数 ヶ 月 を 要 することが 多 いことに 留 意 しましょう 急 性 期 の 処 置 :テニスをやっていて 肘 痛 が 急 に 起 こったときの 応 急 処 置 冷 却 : 痛 みに 気 付 いたら 運 動 後 すぐに 患 部 のアイシングを 15 分 間 おこなう 痛 みや 熱 があるうちは 冷 やし 続 けるのが 基 本 1 回 15 分 を 1 日 2 回 の 目 安 でおこなう 1 週 間 ほど 続 ける 安 静 : 痛 みの 強 いときは 安 静 にして 痛 みをともなう 動 きを 避 ける 完 全 な 休 養 を 与 えると 筋 肉 の 硬 直 や 衰 弱 萎 縮 を 招 くので できるだけ 早 く 腕 を 使 う 訓 練 も 必 要 つまり 腕 はできるだけ 頻 繁 に 使 うようにするが 痛 みを 感 じる 動 きは 避 ける 包 帯 で 緩 く 巻 くことも 有 効 ストレッチも 大 事! リハビリテーション : テニスプレーの 頻 度 と 時 間 および 強 度 は 非 常 にゆっくり 増 やしてゆくべきです 慢 性 期 の 処 置 リハビリテーション 予 防 1 フォームの 改 善
フォームを 改 良 しない 限 り 必 ず 再 発 するので 肘 に 負 担 のすくないフォームに 改 造! (1)バッ クハンド 型 テニス 肘 手 首 とラケットの 角 度 を 固 定 し インパクトまで 振 る インパクトの 瞬 間 は 手 関 節 は 真 っ 直 ぐになるようにする インパクト 後 は 手 首 は 脱 力 してリラックスさせる 両 手 打 ちバックハンド に 変 更 するのもよい (2)フォアハンド 型 テニス 肘 肘 を 過 伸 展 させた 状 態 でインパクトしない 肘 を 曲 げた 状 態 でインパクトする フォアハンド サーブ オーバーヘッド 時 の 手 関 節 の 動 きを 制 限 する 極 端 なウエスタングリップをやめて セ ミウエスタングリップとする (3)サーブ 型 テニス 肘 インパクト 時 にある 程 度 の 肘 の 曲 げ 腕 が 一 直 線 にならないにようにする 上 半 身 の 力 を 抜 いてサーブする 2 腕 の 筋 肉 強 化 トレーニング 前 腕 よりも 肩 や 体 幹 の 筋 力 強 化 が 重 要!! 総 合 的 強 化 多 くのトーナメントプロが 行 っているトレーニング 法 の 一 つに コートに 入 る 前 に ラケット カバーをつけたまま ボールを 打 つようにバックハンドの 素 振 りを 行 なう 方 法 がある 空 気 抵 抗 による 負 荷 により 必 要 な 筋 肉 を 強 化 することが 可 能 となる プロは 少 々 暑 く 感 じるようになる まで 行 なうという 次 の 段 階 では ボールを 1~3 個 カバーの 中 に 入 れて 同 様 に 素 振 りをする け れども 決 して 自 分 の 限 界 を 越 えて 行 なってはならない 部 分 的 強 化 (1) 上 腕 部 や 肩 の 筋 肉 を 鍛 える (2) 上 腕 二 頭 筋 (ちからこぶ)を 鍛 える 鉄 アレイなどを 持 って 腕 を 下 にだらりと 伸 ばした 状 態 から 30 程 度 まで 曲 げる 運 動 強 度 は 15-20 回 できる 程 度 筋 肥 大 を 目 的 にするので 肘 を 60 曲 げた 状 態 からスタート 速 度 は 1~2 秒 に 一 回 あまり 遅 いのは 筋 力 アップにならないので NG 頻 度 は 早 期 に 肥 大 を 求 めるのなら 5セットで 週 6 回 通 常 は 2~3セットを 週 2~3 回 筋 肉 の 運 動 速 度 について 筋 肉 を 肥 大 させたいときは ゆっくり 行 う パワーをつけるときは 速 く 行 う はじめての 時 は まず 15-20 回 できる 強 さで ゆっくり 行 って 筋 肉 を 大 きくする
何 週 間 かで 筋 肉 が 大 きくなったら 1 秒 に 一 回 のスピードにする さらに 何 週 間 かして 強 度 を 10 回 にして 最 大 限 のスピードで 行 う (3) 手 首 を 鍛 える 手 首 の 巻 き 上 げ 運 動 手 首 をそらせる 運 動 も 行 う 1~2キロ 程 度 の 鉄 アレイをゆっくり 持 ち 上 げる 動 作 を1 日 10 回 行 う 筋 力 トレーニングは 痛 みがある 時 期 に 行 うとかえって 症 状 が 悪 化 するので 必 ず 痛 みがとれてから 行 いましょう 腕 を 下 にだらりと 伸 ばした 状 態 のまま 手 首 を 回 転 させる 運 動 も 合 わせて 行 うと 良 いです 3 上 記 以 外 の 肘 の 保 護 法 (1) 練 習 量 を 減 らす テニス 肘 は 慢 性 化 すると 治 るまでの 時 間 がかかるので 軽 い 場 合 でも 急 性 期 には 痛 みが 起 こ る 運 動 は 控 えましょう なお 肘 を 圧 迫 すると 痛 いが その 他 の 痛 みはない 場 合 やバックハンド ストロークをするときだけ 痛 いなどの 軽 症 の 場 合 にはバックだけしないなどの 部 分 的 に 休 む 方 法 もあります さらに 痛 みが 強 くなり 軽 いものを 持 つと 痛 む 中 等 症 の 場 合 は 約 2 週 間 ぐらいテ ニスは 休 むとよいです (2)ストレッチとマッサージ ストレッチは 柔 軟 性 を 高 めます テニス 中 に 肘 に 違 和 感 を 感 じたら 疲 労 回 復 のためのストレッ チとマッサージを 行 い 運 動 前 や 後 入 浴 時 にもストレッチとマッサージを 丹 念 に 行 いましょう 右 腕 の 場 合 右 腕 を 前 伸 ばして 手 のひらを 下 に 向 け 指 先 を 左 手 で 持 ち 手 前 に 引 っ 張 るよう に 手 首 を 曲 げます 静 止 30 秒 3 回 次 に 右 手 のひらを 上 に 向 け 左 手 で 指 先 を 持 ち 手 前 に 引 っ 張 るように 手 首 を 曲 げます 静 止 30 秒 3 回 (3) 練 習 の 直 前 のウォーミング 練 習 後 のアイシング 運 動 前 は 15 分 間 の 温 熱 パックを 行 い ゆっくりと 軽 い 運 動 から 始 めるようにしましょう 運 動 後 は 15 分 のアイシングを 行 い 氷 をビニール 袋 にいれて 熱 をもった 肘 を 冷 やすといったことが 良 いですが 冷 やしすぎると 逆 効 果 熱 がなくなったらすぐに 冷 やすのをやめるぐらいにとどめ ましょう また 肘 が 熱 いときは 炎 症 が 強 いので 入 浴 など 肘 を 暖 める 行 為 は 禁 止 です まず 冷 やして 常 温 になってから 入 浴 するようにしましょう (4)テニス 肘 用 サポーター 前 腕 サポーター( 肘 の 直 ぐ 下 に 付 ける)も 役 立 ちます 手 首 の 上 にもう 一 つ 付 けるとさらに よいです これらはぴったりとあってこそ 効 果 があるが きつく 巻 きすぎると 血 行 を 悪 くするの で 強 く 巻 きすぎないことに 注 意 テニス 以 外 での 着 用 も 有 効 です (5)ラケットやガットは 衝 撃 の 少 ないものを 使 う 濡 れたボールは 使 わない ラケットは 薄 い 物 硬 いもの 重 いもの(ヘッドが 重 い 物 は 負 担 が 大 きい) 軽 すぎるもの グリップが 細 いもの(ラケットのねじれが 大 きくなる) スイートスポットが 小 さいものは 衝 撃 が 強 いのでよくない また ガットの 張 力 (テンション)が 高 いと 衝 撃 が 強 い 振 動 止 めも 有 効 製 品 には 色 々あり 効 果 に 差 がある しっかりとしたものがよい 小 さいと
効 果 が 弱 い また ラケットガット 面 の 中 央 に 近 い 方 が 効 果 が 高 い 濡 れたボールは 重 たくなり 衝 撃 が 強 くなるので 使 わない 医 療 機 関 での 治 療 手 術 しない 保 存 療 法 が 原 則 まずスポーツ 活 動 を 一 時 中 止 し 出 来 るだけ 肘 や 手 首 を 使 わない ようにする 消 炎 鎮 痛 剤 の 外 用 薬 ( 塗 り 薬 など)または 内 服 を 行 う それでも 痛 みが 強 い 場 合 に は ステロイドの 局 所 注 射 を 行 うこともあります ステロイドは 腱 組 織 を 一 時 的 に 弱 めるので 2 週 間 ほどは 絶 対 に 運 動 を 避 けます 順 調 にいくと 1~2 週 間 ほどでテニスができるようにな るので 症 状 が 改 善 するとテニスエルボーサポーターを 着 用 させてプレーを 再 開 する なお 慢 性 化 すると 治 るまでに 数 カ 月 から1 年 ほどかかることが 多 く 急 性 期 にきちんと 治 療 をしておく ことが 大 切 です それでも 良 くならない 場 合 には 手 術 も 考 慮 せざるを 得 ないので 最 寄 りの 医 療 機 関 を 訪 ねてく ださい