17〜31嶋田論文(32白紙)



Similar documents
為 が 行 われるおそれがある 場 合 に 都 道 府 県 公 安 委 員 会 がその 指 定 暴 力 団 等 を 特 定 抗 争 指 定 暴 力 団 等 として 指 定 し その 所 属 する 指 定 暴 力 団 員 が 警 戒 区 域 内 において 暴 力 団 の 事 務 所 を 新 たに 設

Microsoft PowerPoint - 報告書(概要).ppt

国 家 公 務 員 の 年 金 払 い 退 職 給 付 の 創 設 について 検 討 を 進 めるものとする 平 成 19 年 法 案 をベースに 一 元 化 の 具 体 的 内 容 について 検 討 する 関 係 省 庁 間 で 調 整 の 上 平 成 24 年 通 常 国 会 への 法 案 提

弁護士報酬規定(抜粋)

は 固 定 流 動 及 び 繰 延 に 区 分 することとし 減 価 償 却 を 行 うべき 固 定 の 取 得 又 は 改 良 に 充 てるための 補 助 金 等 の 交 付 を 受 けた 場 合 にお いては その 交 付 を 受 けた 金 額 に 相 当 する 額 を 長 期 前 受 金 とし

私立大学等研究設備整備費等補助金(私立大学等

社会保険加入促進計画に盛込むべき内容

0605調査用紙(公民)

(6) 事 務 局 職 場 積 立 NISAの 運 営 に 係 る 以 下 の 事 務 等 を 担 当 する 事 業 主 等 の 組 織 ( 当 該 事 務 を 代 行 する 組 織 を 含 む )をいう イ 利 用 者 からの 諸 届 出 受 付 事 務 ロ 利 用 者 への 諸 連 絡 事 務

発 覚 理 由 違 反 態 様 在 日 期 間 違 反 期 間 婚 姻 期 間 夫 婦 間 の 子 刑 事 処 分 等 1 出 頭 申 告 不 法 残 留 約 13 年 9 月 約 9 年 11 月 約 1 年 10 月 2 出 頭 申 告 不 法 入 国 約 4 年 2 月 約 4 年 2 月 約


< E8BE08F6D2082C682B DD2E786C7378>

別 紙 第 号 高 知 県 立 学 校 授 業 料 等 徴 収 条 例 の 一 部 を 改 正 する 条 例 議 案 高 知 県 立 学 校 授 業 料 等 徴 収 条 例 の 一 部 を 改 正 する 条 例 を 次 のように 定 める 平 成 26 年 2 月 日 提 出 高 知 県 知 事 尾

Microsoft Word - 【溶け込み】【修正】第2章~第4章

<4D F736F F D208E52979C8CA78E598BC68F5790CF91A390698F9590AC8BE08CF D6A2E646F6378>

税制面での支援

●幼児教育振興法案

<4D F736F F D C482C682EA817A89BA90BF8E7793B1834B A4F8D91906C8DDE8A A>

ていることから それに 先 行 する 形 で 下 請 業 者 についても 対 策 を 講 じることとしまし た 本 県 としましては それまでの 間 に 未 加 入 の 建 設 業 者 に 加 入 していただきますよう 28 年 4 月 から 実 施 することとしました 問 6 公 共 工 事 の

 

定款  変更

共 通 認 識 1 官 民 較 差 調 整 後 は 退 職 給 付 全 体 でみて 民 間 企 業 の 事 業 主 負 担 と 均 衡 する 水 準 で あれば 最 終 的 な 税 負 担 は 変 わらず 公 務 員 を 優 遇 するものとはならないものであ ること 2 民 間 の 実 態 を 考

平 成 34 年 4 月 1 日 から 平 成 37 年 3 月 31 日 まで 64 歳 第 2 章 労 働 契 約 ( 再 雇 用 希 望 の 申 出 ) 第 3 条 再 雇 用 職 員 として 継 続 して 雇 用 されることを 希 望 する 者 は 定 年 退 職 日 の3か 月 前 まで

った 場 合 など 監 事 の 任 務 懈 怠 の 場 合 は その 程 度 に 応 じて 業 績 勘 案 率 を 減 算 する (8) 役 員 の 法 人 に 対 する 特 段 の 貢 献 が 認 められる 場 合 は その 程 度 に 応 じて 業 績 勘 案 率 を 加 算 することができる

●電力自由化推進法案

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 平 成 27 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 役 名 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 2,142 ( 地 域 手 当 ) 17,205 11,580 3,311 4 月 1

2. ど の 様 な 経 緯 で 発 覚 し た の か ま た 遡 っ た の を 昨 年 4 月 ま で と し た の は 何 故 か 明 ら か に す る こ と 回 答 3 月 17 日 に 実 施 し た ダ イ ヤ 改 正 で 静 岡 車 両 区 の 構 内 運 転 が 静 岡 運

Microsoft PowerPoint - 経営事項審査.ppt

PowerPoint プレゼンテーション


Ⅰ 人 口 の 現 状 分 析 Ⅰ 人 口 の 現 状 分 析 1 人

損 益 計 算 書 自. 平 成 26 年 4 月 1 日 至. 平 成 27 年 3 月 31 日 科 目 内 訳 金 額 千 円 千 円 営 業 収 益 6,167,402 委 託 者 報 酬 4,328,295 運 用 受 託 報 酬 1,839,106 営 業 費 用 3,911,389 一

< F2D E633368D86816A89EF8C768E9696B18EE688B5>

Speed突破!Premium問題集 基本書サンプル

スライド 1

Ⅰ 調 査 の 概 要 1 目 的 義 務 教 育 の 機 会 均 等 その 水 準 の 維 持 向 上 の 観 点 から 的 な 児 童 生 徒 の 学 力 や 学 習 状 況 を 把 握 分 析 し 教 育 施 策 の 成 果 課 題 を 検 証 し その 改 善 を 図 るもに 学 校 におけ

編 5ヶ 月 6 総 論 7 抜 ピ ド ピ ド 速 永 久 繰 ロ セ 慣 容 易 結 共 通 決 々 5 照 づ 具 ご 紹 介 与 監 査 比 較 場 限 提 始 箇 提 進 ご 安 心 話 提 与 監 査 雑 把 与 締 役 緒 算 類 作 機 関 従 来 税 始 忘 生 物 繰 切 忘 葉

平成17年度予算案事業本部・局別記者発表日程表(案)

< E95FB8CF689638AE98BC689FC90B390A CC8CA992BC82B582C982C282A282C E90E096BE8E9E8E9197BF2E786477>

平成16年年金制度改正 ~年金の昔・今・未来を考える~

Taro-別紙1 パブコメ質問意見とその回答

(2)大学・学部・研究科等の理念・目的が、大学構成員(教職員および学生)に周知され、社会に公表されているか

・モニター広告運営事業仕様書

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 役 名 法 人 の 長 理 事 理 事 ( 非 常 勤 ) 平 成 25 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 16,936 10,654 4,36

(2) 広 島 国 際 学 院 大 学 ( 以 下 大 学 という ) (3) 広 島 国 際 学 院 大 学 自 動 車 短 期 大 学 部 ( 以 下 短 大 という ) (4) 広 島 国 際 学 院 高 等 学 校 ( 以 下 高 校 という ) ( 学 納 金 の 種 類 ) 第 3 条

公 的 年 金 制 度 について 制 度 の 持 続 可 能 性 を 高 め 将 来 の 世 代 の 給 付 水 準 の 確 保 等 を 図 るため 持 続 可 能 な 社 会 保 障 制 度 の 確 立 を 図 るための 改 革 の 推 進 に 関 する 法 律 に 基 づく 社 会 経 済 情

学校教育法等の一部を改正する法律の施行に伴う文部科学省関係省令の整備に関する省令等について(通知)

(2) 単 身 者 向 け 以 外 の 賃 貸 共 同 住 宅 等 当 該 建 物 に 対 して 新 たに 固 定 資 産 税 等 が 課 税 される 年 から 起 算 して5 年 間 とする ( 交 付 申 請 及 び 決 定 ) 第 5 条 補 助 金 の 交 付 を 受 けようとする 者 は

2. 会 計 規 程 の 業 務 (1) 規 程 と 実 際 の 業 務 の 調 査 規 程 や 運 用 方 針 に 規 定 されている 業 務 ( 帳 票 )が 実 際 に 行 われているか( 作 成 されている か)どうかについて 調 べてみた 以 下 の 表 は 規 程 の 条 項 とそこに

Microsoft Word - 全国エリアマネジメントネットワーク規約.docx

Microsoft Word 第1章 定款.doc

3. 選 任 固 定 資 産 評 価 員 は 固 定 資 産 の 評 価 に 関 する 知 識 及 び 経 験 を 有 する 者 のうちから 市 町 村 長 が 当 該 市 町 村 の 議 会 の 同 意 を 得 て 選 任 する 二 以 上 の 市 町 村 の 長 は 当 該 市 町 村 の 議

47 高 校 講 座 モ オ モ 圏 比 較 危 述 覚 普 第 章 : 活

4 参 加 資 格 要 件 本 提 案 への 参 加 予 定 者 は 以 下 の 条 件 を 全 て 満 たすこと 1 地 方 自 治 法 施 行 令 ( 昭 和 22 年 政 令 第 16 号 ) 第 167 条 の4 第 1 項 各 号 の 規 定 に 該 当 しない 者 であること 2 会 社

Microsoft Word 役員選挙規程.doc

(Microsoft Word - \221\346\202P\202U\201@\214i\212\317.doc)

<4D F736F F D A94BD837D836C B4B92F62E646F6378>

資料2 年金制度等について(山下委員提出資料)

平成24年度税制改正要望 公募結果 153. 不動産取得税

<6D313588EF8FE991E58A778D9191E5834B C8EAE DC58F4992F18F6F816A F990B32E786C73>

鹿 児 島 厚 生 年 金 事 案 600 第 1 委 員 会 の 結 論 申 立 人 は 申 立 期 間 に 係 る 脱 退 手 当 金 を 受 給 していないものと 認 められるこ とから 申 立 期 間 に 係 る 脱 退 手 当 金 の 支 給 の 記 録 を 訂 正 することが 必 要 で

Microsoft Word - 20年度(行個)答申第2号.doc

Microsoft Word - 公表用答申422号.doc

Microsoft Word - ★HP版平成27年度検査の結果

スライド 1

安 芸 太 田 町 学 校 適 正 配 置 基 本 方 針 の 一 部 修 正 について 1 議 会 学 校 適 正 配 置 調 査 特 別 委 員 会 調 査 報 告 書 について 安 芸 太 田 町 教 育 委 員 会 が 平 成 25 年 10 月 30 日 に 決 定 した 安 芸 太 田

原 則 として 事 業 主 は 従 業 員 から 扶 養 控 除 等 申 告 書 の 提 出 を 受 けた 後 に 給 与 の ( 事 業 主 )の 番 号 を 記 載 しなければならない ただし 事 業 主 が 人 の 場 合 には 人 番 号 は 一 般 に 公 表 されている 番 号 であるた

< F2D E616C817A91E D868FF096F189BC>

<4D F736F F D D3188C091538AC7979D8B4B92F F292B98CF092CA81698A94816A2E646F63>

 三郷市市街化調整区域の整備及び保全の方針(案)

資料2 利用者負担(保育費用)

<4D F736F F D E598BC68A8897CD82CC8DC490B68B7982D18E598BC68A8893AE82CC8A C98AD682B782E993C195CA915B C98AEE82C382AD936F985E96C68B9690C582CC93C197E1915B927582CC898492B75F8E96914F955D89BF8F915F2E646F6

就 業 規 則 ( 福 利 厚 生 ) 第 章 福 利 厚 生 ( 死 亡 弔 慰 金 等 ) 第 条 法 人 が 群 馬 県 社 会 福 祉 協 議 会 民 間 社 会 福 祉 施 設 等 職 員 共 済 規 程 に 基 づき 群 馬 県 社 会 福 祉 協 議 会 との 間 において 締 結 す

Taro-学校だより学力調査号.jtd

四 勤 続 20 年 を 超 え30 年 までの 期 間 については 勤 続 1 年 につき100 分 の200 五 勤 続 30 年 を 超 える 期 間 については 勤 続 1 年 につき100 分 の100 2 基 礎 調 整 額 は 職 員 が 退 職 し 解 雇 され 又 は 死 亡 した

目 次 第 1. 土 区 画 整 理 事 業 の 名 称 等 1 (1) 土 区 画 整 理 事 業 の 名 称 1 (2) 施 行 者 の 名 称 1 第 2. 施 行 区 1 (1) 施 行 区 の 位 置 1 (2) 施 行 区 位 置 図 1 (3) 施 行 区 の 区 域 1 (4) 施

平 成 24 年 4 月 1 日 から 平 成 25 年 3 月 31 日 まで 公 益 目 的 事 業 科 目 公 1 公 2 公 3 公 4 法 人 会 計 合 計 共 通 小 計 苦 情 相 談 解 決 研 修 情 報 提 供 保 証 宅 建 取 引 健 全 育 成 Ⅰ. 一 般 正 味 財

( 補 助 金 等 交 付 決 定 通 知 に 加 える 条 件 ) 第 7 条 市 長 は 交 付 規 則 第 11 条 に 規 定 するところにより 補 助 金 の 交 付 決 定 に 際 し 次 に 掲 げる 条 件 を 付 するものとする (1) 事 業 完 了 後 に 消 費 税 及 び

の 購 入 費 又 は 賃 借 料 (2) 専 用 ポール 等 機 器 の 設 置 工 事 費 (3) ケーブル 設 置 工 事 費 (4) 防 犯 カメラの 設 置 を 示 す 看 板 等 の 設 置 費 (5) その 他 設 置 に 必 要 な 経 費 ( 補 助 金 の 額 ) 第 6 条 補

<4D F736F F D208ED089EF95DB8CAF89C193FC8FF38BB CC8EC091D492B28DB88C8B89CA82C982C282A282C42E646F63>

Microsoft Word - 目次.doc

参 考 様 式 再 就 者 から 依 頼 等 を 受 けた 場 合 の 届 出 公 平 委 員 会 委 員 長 様 年 月 日 地 方 公 務 員 法 ( 昭 和 25 年 法 律 第 261 号 ) 第 38 条 の2 第 7 項 規 定 に 基 づき 下 記 のとおり 届 出 を します この

平成16年度

158 高 校 講 座 習 モ 現 ラ 習 モ 距 離 置 示 終 向 据 示 唆 与 取 ょ 第 7576 回 第 :

[2] 控 除 限 度 額 繰 越 欠 損 金 を 有 する 法 人 において 欠 損 金 発 生 事 業 年 度 の 翌 事 業 年 度 以 後 の 欠 損 金 の 繰 越 控 除 にあ たっては 平 成 27 年 度 税 制 改 正 により 次 ページ 以 降 で 解 説 する の 特 例 (

Taro-08国立大学法人宮崎大学授業

養 老 保 険 の 減 額 払 済 保 険 への 変 更 1. 設 例 会 社 が 役 員 を 被 保 険 者 とし 死 亡 保 険 金 及 び 満 期 保 険 金 のいずれも 会 社 を 受 取 人 とする 養 老 保 険 に 加 入 してい る 場 合 を 解 説 します 資 金 繰 りの 都

根 本 確 根 本 確 民 主 率 運 民 主 率 運 確 施 保 障 確 施 保 障 自 治 本 旨 現 資 自 治 本 旨 現 資 挙 管 挙 管 代 表 監 査 教 育 代 表 監 査 教 育 警 視 総 監 道 府 県 警 察 本 部 市 町 村 警 視 総 監 道 府 県 警 察 本 部

(5) 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しの 実 施 状 況 概 要 国 の 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しにおいては 俸 給 表 の 水 準 の 平 均 2の 引 下 げ 及 び 地 域 手 当 の 支 給 割 合 の 見 直 し 等 に 取 り 組 むとされている 総 合 的

(4) ラスパイレス 指 数 の 状 況 ( 各 年 4 月 1 日 現 在 ) ( 例 ) ( 例 ) 15 (H2) (H2) (H24) (H24) (H25.4.1) (H25.4.1) (H24) (H24)

スライド 1

<819A955D89BF92B28F BC690ED97AA8EBA81418FA48BC682CC8A8890AB89BB816A32322E786C7378>

象 労 働 者 を 雇 入 れした 事 業 所 を 離 職 した 雇 用 保 険 の 被 保 険 者 である 労 働 者 の 氏 名 離 職 年 月 日 離 職 理 由 が 明 らかにされた 労 働 者 名 簿 等 の 写 し 2 要 綱 第 9 条 第 2 項 第 1 号 アに 該 当 する 労

厚 生 年 金 は 退 職 後 の 所 得 保 障 を 行 う 制 度 であり 制 度 発 足 時 は 在 職 中 は 年 金 を 支 給 しないこととされていた しかしながら 高 齢 者 は 低 賃 金 の 場 合 が 多 いと いう 実 態 に 鑑 み 在 職 者 にも 支 給 される 特 別

別紙3

Microsoft Word 利子補給金交付要綱

預 金 を 確 保 しつつ 資 金 調 達 手 段 も 確 保 する 収 益 性 を 示 す 指 標 として 営 業 利 益 率 を 採 用 し 営 業 利 益 率 の 目 安 となる 数 値 を 公 表 する 株 主 の 皆 様 への 還 元 については 持 続 的 な 成 長 による 配 当 可

1 変更の許可等(都市計画法第35条の2)

<947A957A8E9197BF C E786C73>

質 問 票 ( 様 式 3) 質 問 番 号 62-1 質 問 内 容 鑑 定 評 価 依 頼 先 は 千 葉 県 などは 入 札 制 度 にしているが 神 奈 川 県 は 入 札 なのか?または 随 契 なのか?その 理 由 は? 地 価 調 査 業 務 は 単 にそれぞれの 地 点 の 鑑 定

Transcription:

聖 書 にみるユダヤ 教 徒 の 生 き 残 り 戦 略 嶋 田 英 晴 1.はじめに ユダヤ 人 にとって, 歴 史 とはその 出 来 事 を 通 して 神 が 語 りかけ,そこで 提 起 された 意 味 に 対 し て 人 間 がいかに 反 応 するかを 問 われる 場 であるといえる そうしたユダヤ 人 が, 神 の 前 に 義 人 と なるために 最 も 重 視 していることは(1), 神 から 与 えられたとされる 律 法 の 教 えを 敬 虔 に 守 って 生 きることである この 律 法 を 守 るということの 直 接 の 現 れは, 律 法 の 外 面 的 な 規 律 を 守 って 現 世 における 他 人 との 共 同 生 活 を 正 しく 維 持 することに 他 ならない このため,ユダヤ 教 はユダヤ 人 社 会 の 存 在 と 密 接 な 関 わりを 持 っており,それ 無 しでは 意 義 を 失 ってしまう では, 自 らの 国 家 を 失 って 世 界 中 に 散 らばったディアスポラ( 離 散 )のユダヤ 人 は, 各 地 の 多 数 派 社 会 の 中 でいかにして 父 祖 伝 来 の 教 えを 守 り,いかにして 今 日 までいくつもの 文 明 や 王 朝 の 盛 衰 の 中 を 生 き 残 ってきたのであろうか この 疑 問 に 対 しては,イギリスの 歴 史 家 で 文 明 批 評 家 でもあるトインビ-(Arnold Joseph Toynbee)( 1889~1975)の ユダヤ モデル (2)が 重 要 な 示 唆 を 与 えてくれる それによれば, 政 治 的 枠 組 みたる 国 家 も 領 土 的 基 盤 たる 郷 土 も 失 ったデ ィアスポラのユダヤ 人 は, 紀 元 前 586 年 ( 新 バビロニアによるユダ 王 国 抹 殺 の 年 ) 以 来 (3), 世 界 中 にディアスポラの 共 同 体 ( 離 散 体 )を 形 成 してその 民 族 としての 一 体 性 を 維 持 してきたので ある そしてその 一 体 性 の 維 持 は, 次 のような 諸 要 素 によって 達 成 された 1 個 々の 離 散 体 がみずからの 歴 史 的 一 体 性 を 維 持 しようとの 決 意 を 持 ち,みずからの 統 合 性 と 持 続 性 を 維 持 するための 手 段 として,すすんで 厳 格 な 宗 教 的 儀 式 と 戒 律 を 遵 守 する 方 法 を 生 み 出 したこと(4) 2 強 固 な 選 民 思 想 の 存 在 が, 厳 格 な 戒 律 を 遵 守 する 動 機 付 けとなるとともに, 多 数 派 社 会 への 同 化 を 思 い 止 まらせたこと(5) 3 多 数 派 社 会 の 宗 教 を 拒 否 した 罰 として 公 的 生 活 から 締 め 出 された 離 散 民 達 が, 生 き 残 る ために 手 に 入 れることの 出 来 る 唯 一 の 力 として 経 済 力 を 重 視 し(6), 様 々な 職 業 から 富 を 生 み 出 すことに 成 功 したこと この ユダヤ モデル からも 明 らかなように,ディアスポラのユダヤ 人 にとっては 共 同 体 こ そが 独 自 の 信 仰 生 活 を 実 践 できる 唯 一 のユダヤ 人 社 会 であり,それのみが 彼 らの 生 存 の 基 本 単 位 であった したがって 共 同 体 の 存 続 は 彼 らの 死 活 問 題 であり,その 存 続 と 発 展 のために 彼 らは 定 住 先 の 諸 民 族 から 受 ける 様 々な 圧 力 と 格 闘 した これは, 強 固 な 民 族 的 連 帯 感 というナショナリ ズム( 民 族 主 義 )であると 言 える 一 方,ユダヤ 人 は, 彼 らの 共 同 体 の 存 続 を 左 右 するような 歴 17

宗 教 学 年 報 XXX 史 的 事 件 に 際 しては 勿 論, 平 時 においても 個 々の 共 同 体 の 利 害 をこえて 遠 隔 の 共 同 体 間 で 相 互 に 協 力 し 合 って, 多 数 派 の 異 教 徒 や 異 民 族 の 間 で 生 きてきた これは, 一 種 のインターナショナリ ズム( 国 際 主 義 )であると 言 える このようにユダヤ 人 は,ナショナリズムとインターナショナ リズムが 絡 み 合 った 複 雑 な 歴 史 を 営 んできたのである しかし,こうしたユダヤ 人 の 活 動 は,ホ スト 社 会 の 活 動 の 中 から 意 識 的 に 区 別 していかない 限 り, 実 際 にはユダヤ 人 がどのような 活 動 を どのような 目 的 で 行 っていたかはなかなか 判 別 し 難 い そこで 筆 者 は, ユダヤ 人 による 共 同 体 の 維 持 と, 生 き 残 りのための 諸 活 動 という 点 に 着 目 してユダヤ 教 社 会 を 捉 えることとした とこ ろが,ユダヤ 人 が 離 散 した 期 間 や 範 囲 はあまりにも 広 いため, 個 々の 共 同 体 と 定 住 先 の 多 数 派 社 会 との 関 係, 及 びそれぞれの 共 同 体 が 直 面 した 問 題 とその 問 題 に 対 する 対 処 の 仕 方 は 様 々であっ た したがって 各 地 のユダヤ 人 が, 父 祖 伝 来 の 教 えを 子 孫 に 伝 えつついかにして 困 難 な 歴 史 を 生 き 抜 いてきたかを 理 解 するには, 基 本 的 にトインビ-の ユダヤ モデル に 依 拠 しながらも, 各 時 代, 各 地 域 の 特 殊 性 を 踏 まえた 個 別 的 な 考 察 を 今 後 積 み 重 ねていく 必 要 があると 思 われる 2.トインビーとゴイテインにみられる 民 族 主 義 と 国 際 主 義 トインビーは,その 代 表 的 な 著 書 である 歴 史 の 研 究 (A Study of History) に お い て, 世 界 の 歴 史 を,めまぐるしく 生 滅 を 繰 り 返 す 民 族 や 国 家 を 単 位 とするのではなく, 数 百 年 或 いは 千 年 以 上 の 長 期 間 に 渡 って 存 在 する 文 明 を 単 位 とすることを 提 唱 した 文 明 とは,ある 特 定 の 地 域 の, 特 定 の 歴 史 上 の 時 期 における 段 階 の 人 間 社 会 を 意 味 し, 国 家 より 大 きく 全 世 界 より 小 さい 中 間 の 大 きさの 人 間 社 会 を 表 す トインビーによれば,これまで 世 界 史 上 には 21 或 いは 23 の 文 明 があり,それぞれの 文 明 は, 発 生, 成 長, 衰 退 の 過 程 をたどるという こうした 歴 史 の 見 方 を 一 般 に 文 明 史 観 と 呼 ぶ(7) こうした 文 明 による 世 界 史 の 構 成 は, 必 ずしもトインビーの 創 見 では なく, 第 一 次 世 界 大 戦 直 後 に 刊 行 されベストセラーになったシュペングラー(Oswald Spengler) (1880~1936)の 西 洋 の 没 落 における 着 想 と 似 通 っている しかしシュペングラーが, 文 明 (シュペングラーの 用 語 では 高 度 文 化 )を, 自 己 完 結 的 で 他 者 から 影 響 を 受 けない 堅 固 な 統 一 体, 有 限 の 生 命 を 持 つ 有 機 体 と 考 えていたのに 対 して,トインビーの 場 合 は 有 機 体 のアナロジー を 排 しつつ,むしろ 文 明 の 影 響 関 係 や 相 互 作 用 を 積 極 的 に 肯 定 し, 文 明 相 互 の 継 受 を 親 子 関 係 と いう 形 で 表 現 した(8) こうしたトインビーの 文 明 史 観 については, 世 間 の 名 声 とは 裏 腹 に, 総 じてアカデミズムの 歴 史 家 からは 無 視 と 酷 評 でもって 迎 えられた 即 ちトインビーは, 非 経 験 的 思 弁 と 体 系 形 成 の 作 業 を, 直 感 的 な 芸 術 家 のやり 方 で 行 った 詩 人 であって, 断 じて 真 の 歴 史 家 ではないとされた 当 然,トインビーの 歴 史 の 研 究 の 対 象 が 広 く 世 界 史 のあらゆる 時 代, 地 域, 歴 史 事 象 に 及 ぶ 以 上, 特 定 の 分 野 の 専 門 家 である 大 半 の 歴 史 研 究 者 からすれば,トインビ ーの 著 作 は, 自 己 の 専 門 分 野 に 関 わる 部 分 については 幼 稚 な 概 説 の 域 にとどまり,その 他 の 部 分 についてはそもそも 判 断 ができない 文 明 史 観 の 提 唱 についても,そもそも 枠 組, 用 語, 概 念 と して 学 問 的 厳 密 さに 欠 け,またその 宗 教 臭 いトインビーの 論 の 進 め 方 にもなじめなかったといえ よう(9) 18

聖 書 にみるユダヤ 教 徒 の 生 き 残 り 戦 略 それにも 拘 らず 筆 者 が 本 稿 でトインビーを 引 用 するのは, 彼 が 文 明 の 主 要 なモデルの 一 つとし て ユダヤ モデル を 挙 げているからである 繰 り 返 すが,ユダヤ モデルとは,ユダヤ 社 会 のように 領 土 を 持 たず, 宗 教 的 紐 帯 によってのみ 統 合 がなされ, 世 界 中 にその 民 族 が 点 在 してい るような 社 会 集 団 の 型 を 指 す トインビーは,この 世 界 に 離 散 した ディアスポラ には, 文 明 論 的 な 役 割 があるとして 重 視 している トインビーによれば,あらゆる 種 類 の 交 通 通 信 手 段 に おける 加 速 度 的 な 改 善 によって 世 界 が 狭 くなり, 人 や 物, 情 報 の 世 界 的 な 移 動 が 活 発 になればな るほど, 領 土 国 境 の 意 味 合 いが 薄 れるため, 一 定 の 領 土 の 上 にピラミッド 型 の 支 配 構 造 を 形 成 する 点 で 垂 直 的 な 構 造 を 持 つ 従 来 の 地 方 的 な 国 民 国 家 に 代 わって, 領 土 と 国 家 を 必 ずしも 必 要 とせず 水 平 的 に 限 りなく 広 がりうる 社 会 構 造 を 持 つ,(ユダヤ 人 を 典 型 とする) ディアス ポラ 共 同 体 が, 新 しい 人 間 の 居 住 条 件 としてますます 注 目 されることになるという つまりト インビーは,このディアスポラの 創 造 的 積 極 的 な 意 味 に 着 眼 して, 歴 史 上 の ユダヤ モデル を 人 類 史 のゆくえを 問 う 未 来 の 波 として 非 常 に 重 視 しているのである これは,ある 意 味 で ドイッチャー 的 インターナショナリズム( 国 際 主 義 )である(10) ところで, 筆 者 が 専 門 的 に 扱 う 中 世 イスラーム 社 会 経 済 史 の 碩 学 であるとともに, 中 世 のユダ ヤ 教 徒 の 歴 史 をも 研 究 した,20 世 紀 のユダヤ 系 の 学 者 であるゴイテイン(Shlomo Dov Goitein) (1900-85)によれば, 既 に 中 世 においてイスラーム 圏 のユダヤ 教 徒 が 多 数 派 のムスリムや 同 じ くその 支 配 下 にあったキリスト 教 徒 と 平 和 裏 に 共 生 していたという しかも,ゴイテインの 主 な 研 究 対 象 である 11 世 紀 から 13 世 紀 半 ばのイスラーム 圏 では, 北 アフリカとエジプトを 結 ぶユダ ヤ 教 徒 の 離 散 共 同 体 間 の 強 力 なネットワークを 中 心 に, 地 中 海 南 岸, 東 岸, 西 岸 一 帯 に 点 在 する 離 散 体 を 拠 点 とした 数 多 くのユダヤ 教 徒 が, 縦 横 無 尽 に 取 り 結 ぶ 巨 大 なネットワークが 存 在 して いたという ゴイテインは,ユダヤ 教 徒 の 離 散 共 同 体 を 地 中 海 的 文 化 伝 統 の 中 で 生 活 している 多 くの 社 会 の 一 つとしてゲニザ 文 書 を 用 いて(11) 詳 細 に 描 写 し,これを 一 つの 地 中 海 社 会 (A Mediterranean Society) と 名 付 け た 勿 論 ユ ダ ヤ 教 徒 の 離 散 共 同 体 は, 同 時 代 の 地 中 海 北 岸 にも 多 数 存 在 していたことが 確 認 されている(12)が,ゲニザ 文 書 には 地 中 海 北 岸 及 びイベリ ア 半 島 出 身 のユダヤ 教 徒 が 書 いた, 或 いは 彼 らについて 記 載 したと 考 えられる 史 料 が 極 めて 少 な いことから, 記 述 の 中 心 は 北 アフリカ,エジプト, 地 中 海 東 岸 となっている しかし, 以 上 の 事 柄 について 考 慮 したとしても,ゴイテインが 地 中 海 全 域 を 視 野 に 入 れていたことに 変 わりは 無 く, 彼 の 構 想 は 環 地 中 海 世 界 ( 社 会 ) という 壮 大 なものであったと 考 えることが 出 来 よう 加 えてゴイテインは, 元 々11 世 紀 以 降 のインド 洋 交 易 について 研 究 していたのであるが,イン ド 洋 交 易 に 従 事 していたユダヤ 教 徒 の 商 人 の 多 くが, 地 中 海 に 基 盤 を 据 えた 人 々であることに 気 付 き, 途 中 から 地 中 海 交 易 の 研 究 を 優 先 させたのであった その 証 拠 に, 地 中 海 におけるユダヤ 教 社 会 についての 研 究 を 一 段 落 させると, 晩 年 は 再 びその 研 究 対 象 をインド 洋 交 易 に 戻 している その 成 果 は, 彼 の 幾 つもの 論 文 によって 生 前 出 版 されて 世 に 出 たが,その 総 決 算 とでも 言 うべき ものが, 没 後 出 版 された 中 世 のインド 洋 交 易 者 達 (India Traders Of The Middle Ages)(13) 19

宗 教 学 年 報 XXX である これらの 事 から, 中 世 のユダヤ 教 徒 の 離 散 共 同 体 の 分 布 は, 地 中 海 一 帯 からインド 洋 沿 岸 にまで 及 んでおり,ゴイテインの 視 野 はそのほぼ 全 域 を 覆 うものであったということが 出 来 る つまり, 中 世 のユダヤ 教 社 会 を 考 察 することは, 未 来 のインターナショナルな 世 界 を 模 索 する 手 掛 かりとなるといえる そこで 次 章 では, 中 世 において, 広 域 のユダヤ 教 徒 どうしを 結 び 付 けた 強 力 な 民 族 的 連 帯 意 識 が,ユダヤ 教 徒 が 日 々 読 み 続 けた (ヘブライ 語 ) 聖 書 によっていかに 育 まれたか,を 明 らかにしたい 3. ( ヘ ブ ラ イ 語 ) 聖 書 にみるユダヤ 教 徒 の 生 き 残 り 戦 略 a. 聖 書 時 代 の 古 代 イスラエル 時 代 から 神 殿 再 建 まで どの 民 族 にも 通 じる 事 ではあるが,ユダヤ 人 はとりわけ 生 存 即 ち 生 き 残 りをかけて 努 力 をする しかもただ 生 き 残 る 事 のみならず,ユダヤ 人 としてのアイデンティティーを 保 持 することを 重 視 していることに 大 きな 特 徴 がある それはユダヤ 人 が 神 と 契 約 を 結 び, 神 に 選 ばれた 民 として 生 きることにより, 神 の 意 志 を 地 上 に 実 現 することを 民 族 の 使 命 と 捉 えた 時 以 来, 彼 らが 自 らに 課 してきた 定 めであったと 言 える しかし, 自 らの 価 値 観 を 最 優 先 し 安 易 な 妥 協 を 拒 んで 強 力 な 周 辺 諸 国 あるいは 多 数 派 の 異 教 徒 への 同 化 を 潔 しとしないその 姿 勢 は, 周 辺 諸 国 やホスト 社 会 との 間 に 幾 つもの 軋 轢 を 生 じ, 最 悪 の 場 合 は 生 命 を 奪 われたり, 民 族 の 絶 滅 を 企 図 されるほどの 事 態 を 招 来 してきた にもかかわら ず 古 代 から 現 代 に 至 るまで 彼 等 が 絶 滅 せずに 生 き 残 ることに 成 功 してきた 背 景 には, 他 の 民 族 に は 思 いも 及 ばないような 生 き 残 りのための 戦 略 や 戦 術 を 発 想,もしくは 模 倣 し,それらを 最 大 限 効 果 的 に 実 行 してきた 事 実 があったと 推 察 される 筆 者 の 今 後 の 課 題 は, 古 今 東 西 のユダヤ 人 が 直 面 した, 彼 等 の 生 存 を 脅 かす 様 々な 危 機 を 克 服 するために 採 られた 様 々な 戦 術 を 抽 出 し, 具 体 的 歴 史 的 状 況 においていかなる 方 法 が 用 いられた かを 調 査 することによって,ユダヤ 人 の 生 き 残 りのための 戦 略 を 明 らかにして 行 くことである そして, 成 功 例 のみならず 失 敗 例 など 事 例 を 拡 大 して,その 全 貌 を 明 らかにすることにより,よ り 普 遍 的 な 理 論 を 構 築 することが 最 終 的 な 目 標 であり,その 成 果 は, 将 来 ユダヤ 人 と 同 じような 状 況 に 置 かれる 可 能 性 のある 集 団 が 生 き 残 るために 採 るべき 戦 術 ないし 戦 略 を 提 供 するに 際 して 有 益 であると 考 える したがって,これから,ユダヤ 人 が 最 も 重 視 している (ヘブライ 語 ) 聖 書 ( 配 列 は 異 なるがほぼ 旧 約 聖 書 に 相 当 )の 記 述 から,ユダヤ 人 が, 神 とどのような 関 わりを 持 ったと 考 え,なぜユダヤ 人 としてのアイデンティティーを 維 持 しながら 必 死 に 生 き 残 りに 努 め るに 至 ったか,その 原 因 と 経 緯 を 明 らかにしていく ユダヤ 人 の 信 じる ヘブライ 語 聖 書 によれば,ユダヤ 人 を 含 むイスラエル 民 族 の 祖 はアブラ ハムである 創 世 記 において, 彼 は 一 方 的 に 神 によって 召 命 され( 選 ばれ), 神 の 示 す 地 へ 移 住 することを 命 ぜられた( 創 12:1-3) 神 は, 彼 を 飢 饉 によりエジプトへ 移 住 させたり( 創 12:10-20), 彼 が 百 歳 になって 漸 く 生 まれた 息 子 のイサクを 自 らに 対 する 犠 牲 として 捧 げさせよう とするなどして( 創 22:1-18) 何 度 もその 信 仰 を 試 みた そしてあらゆる 試 みに 悉 く 応 えた 彼 と の 間 に 契 約 を 結 び, 彼 を 祝 福 してその 子 孫 を 大 いに 増 やすこと, 及 び 彼 とその 子 孫 に 永 久 にカナ 20

聖 書 にみるユダヤ 教 徒 の 生 き 残 り 戦 略 ンの 地 を 与 えることを 約 束 した アブラハムの 例 が 示 しているのは, 神 による 個 人 の 選 び で ある 選 び とは, 神 が 集 団 の 中 から 特 定 のグループまたは 個 人 を, 御 自 身 の 業 をなすという 目 的 のために 選 ぶことを 指 す この 選 ぶ という 単 語 は,ヘブライ バーハル という בחר語で 動 詞 が 用 いられるが,これは, 注 意 深 く 考 慮 した 後, 人 や 物 を 意 識 的 に 選 択 することを 意 味 する という(14) 同 様 に, 神 はアブラハムの 息 子 イサクとの 間 にも 同 じ 内 容 の 契 約 を 結 んだ( 創 26:24) ところが,これまで 全 能 性 を 主 張 していた 神 であったが,イサクの 子 ヤコブとの 関 係 においてそ の 立 場 に 変 化 が 生 じる ヤコブは 兄 エサウから 長 子 権 を 奪 ったのみならず( 創 25:29-34), 父 を 騙 してその 祝 福 を 得 た( 創 27:1-45) さ ら に, 彼 は 後 に 神 と 格 闘 し, 勝 利 するやいなや, 神 によ る 祝 福 を 求 めた そして, 神 から 祝 福 を 授 かっただけでなく, 最 早 ヤコブではなくイスラエルと 改 名 するよう 告 げられた( 創 32:28) イ ス ラ エ ル と は, 神 と 人 と 争 い,これを 克 服 する 者 ( Vayomer lo Ya'akov ye'amer od shimcha ki im-yisra'el ki-sarita im-elohim ve'im anashim vatuchal. ( Genesis.32:28) Then the man said, your name will no longer be Jacob, but Israel, because you have struggled with God and with men and have overcome ) という 意 味 を 表 すが,ここにおいて 神 はイスラエルと 同 等 または 格 下 の 立 場 に 立 たされた この 部 分 の 記 述 は, 聖 書 でも 昔 から 謎 めいた 内 容 を 記 した 個 所 とされ, 様 々な 解 釈 を 生 んできた し かし, 後 に 神 は 改 めて 全 能 者 としてイスラエルに 臨 み, 彼 と 契 約 を 結 び, 彼 を 祝 福 し,カナンの 地 を 彼 とその 子 孫 に 与 えることを 約 束 した( 創 35:9-12) そしてそのイスラエルの 息 子 達 がイス ラエル 十 二 部 族 の 祖 となったのである 神 による 選 び には,アブラハムの 場 合 のような 個 人 の 選 び の 他 に, 集 団 の 選 び があ る 選 び は 聖 書 を 貫 く 重 要 な 思 想 として 契 約 と 密 接 に 関 連 し,ユダヤ 人 によれば, 契 約 の 民 イスラエル 十 二 部 族 こそが 選 ばれた 民 であるとされる( 申 7:6, 詩 105:6,135:4,イザ 41:8-9, 44:1) 選 び と は, 特 定 の 人 々または 民 族 が 他 と 区 別 して 扱 われ, 特 に 神 の 恵 みに 与 り, 使 命 を 与 えられることをいう 後 で 述 べるように,イスラエルが 選 ばれたのは, 彼 らが 優 れていたか らでなく( 申 9:4,6), 数 が 多 かったからでもなく( 申 7:7), 全 く 神 の 恵 みによることであった しかし, 選 びの 目 的 は 自 らが 特 権 を 与 えられることではなく, 他 のすべての 者 に 祝 福 を 分 け, 道 を 示 すことである( 創 12:3,イザ 42:1,43:10) 選 び は 神 の 恵 み で あ る か ら 感 謝 し て 励 み, 責 任 と 使 命 を 果 たさねばならない 元 来 選 び は 救 いを 内 容 とし, 義 とし, 清 めるものである から( 申 7:8,10:15,イザ 44:21-22),その 救 いにふさわしいあり 方 が 求 められる(15) ここで, 生 き 残 り 戦 略 を 考 える 上 で 非 常 に 重 要 な 事 例 がある それは,イスラエルの 子 の 一 人 であるヨセフの, 兄 達 によるエジプトへの 追 放 である ヨセフはイスラエルに 最 も 愛 された 故 に 他 の 兄 弟 達 から 妬 まれ, 奴 隷 としてエジプトへ 売 られるが, 紆 余 曲 折 を 経 てそこで 宰 相 となり, やがて 飢 饉 に 苦 しんでエジプトへやって 来 た 兄 弟 達 を 救 うことになる( 創 37-50) こ の ヨ セ フ 物 語 では, 中 心 的 部 分 に 残 りの 者 の 思 想 が 見 られる( 創 45:4b-8a) そ こ で は,ヨセフ 自 身 が 自 らを, 危 機 から 家 族 を 救 う 残 りの 者 であると 兄 弟 たちに 語 りかけている 他 の 兄 達 に よるヨセフの 追 放 は, 将 来 の 飢 饉 を 予 見 してのことではなかったのに 加 えて, 追 放 先 でヨセフが 必 ず 成 功 を 納 める 保 証 はどこにも 無 かった しかしこれは, 一 族 全 員 が 同 じ 場 所 に 留 まり, 飢 饉 をはじめとする 様 々な 危 機 に 対 処 することが 出 来 ずに 全 滅 してしまう 危 険 性 を 回 避,もしくはせ 21

宗 教 学 年 報 XXX めて 少 しでも 軽 減 する 可 能 性 を 帯 びていたことを 示 す 典 型 的 な 事 例 といえる また,これは 聖 書 における 残 りの 者 の 概 念 を 具 現 化 した 非 常 に 重 要 な 事 例 の 一 つである 残 りの 者 の 典 型 的 な 用 ) シャーアル שאר, 語としては 残 る)という 動 詞,およびその 変 化 した シュエリート ( 残 りの 者 )で 表 現 されている 聖 書 における 重 要 な 概 念 の 一 つである(16) やがて 時 を 経 て,イスラエルの 民 がエジプトで 奴 隷 となり, 神 に 救 いを 求 めるにおよび,これ に 応 えるべくモーセが 神 によって 召 命 された( 選 ばれた) これも, 神 によるモーセ 個 人 の 選 び である( 出 3:1-10) こ の 際,モーセに 対 する 神 の 立 場 は 絶 対 的 な 命 令 者 であり,モーセに 対 し て 自 らの 名 前 を エヒイェ アシェル エヒイェ 即 ち わたしはあらんとしてある 者 である 及 び あなた 方 の 先 祖 の 神,アブラハムの 神,イサクの 神,ヤコブの 神,ヤハウェ と 告 げる(17) この 時, 神 はイスラエルの 民 のエジプトからの 解 放 を 約 束 し,エジプト 人 の 全 ての 長 子 が 命 を 落 としたのに 対 して, 過 越 し によってイスラエルの 民 の 長 子 だけが 救 われて 生 き 残 った やがて エジプトを 出 て 荒 野 において, 神 はモーセを 介 してイスラエルの 民 に 十 戒 を 授 け, 彼 らと 契 約 を 結 んだ( 出 19 等 ) 契 約 と 訳 されているヘブライ ベリート という ברית語の 語 の 意 味 については 諸 説 あり, כרת, 合 決 定 する とか 規 定 する という 意 味 が 提 案 されている 契 約 を 結 ぶ という 場 カーラト ( 切 る)という 動 詞 が 使 われるが,これは 契 約 を 保 証 するために 犠 牲 の 動 物 を 切 り 裂 いた 儀 式 に 由 来 する( 創 15:10 参 照 ) 契 約 は 一 般 に 対 人 関 係 における 約 束 に 用 いられるが, 聖 書 において 重 要 なのは, 神 とイスラエルの 民 との 関 係 についてである 契 約 には, 神 の 側 から 一 方 的 に 与 えられた 恩 恵 の 場 合 と, 相 手 にも 義 務 を 要 求 する 場 合 の 二 つがある 時 代 は 遡 るが, 前 者 の 例 としてはまず ノアの 契 約 が 挙 げられる ノアの 方 舟 の 物 語 は, 一 神 教 の 信 者 のみな らず 世 界 中 に 類 似 の 物 語 が 存 在 する すなわち 神 はノアと 彼 の 息 子 たちに 言 われた わたし は,あなたたちと,そして 後 に 続 く 子 孫 と, 契 約 を 立 てる あなたたちと 共 にいるすべての 生 き 物,またあなたたちと 共 にいる 鳥 や 家 畜 や 地 のすべての 獣 など, 方 舟 から 出 たすべてのもののみ ならず, 地 のすべての 獣 と 契 約 を 立 てる わたしがあなたたちと 契 約 を 立 てたならば, 二 度 と 洪 水 によって 肉 なるものがことごとく 滅 ぼされることはなく, 洪 水 が 起 こって 地 を 滅 ぼすことも 決 してない ( 創 9:8-11)とあり, 神 の 側 の 一 方 的 な 約 束 だけでノアの 側 の 義 務 については 言 わ れていない さらに, 契 約 が 神 の 側 から 一 方 的 に 与 えられた 恩 恵 の 場 合 の 例 として 神 とアブラハ ムとの 関 係 が 挙 げられる 神 はアブラハムと 契 約 を 結 び,カナンの 地 を 与 え( 創 15:18), わ たしは,あなたとの 間 にわたしの 契 約 を 立 て,あなたをますます 増 やすであろう ( 創 17:2)と 約 束 された これに 対 して, 契 約 が 相 手 にも 義 務 を 要 求 する 場 合 の 例 として,モーセを 介 した, 神 とイスラエルの 民 との 間 に 結 ばれた シナイ 契 約 が 挙 げられる すなわちシナイ 山 で 契 約 が 結 ばれた 時, 民 の 側 は わたしたちは 神 の 言 うことはみな 実 行 し 聞 き 従 う と 約 束 している こ れはイスラエルをエジプトの 国, 奴 隷 の 家 から 導 き 出 したヤハウェがイスラエルの 神 となり,イ スラエルがヤハウェの 民 となるという 契 約 である そしてこれにはイスラエルは, 十 戒 をはじめ として 神 によって 与 えられた 戒 めを 守 ることが 義 務 づけられているのである(18) この,モー セを 介 した, 神 とイスラエルの 民 との 契 約 の 締 結 により, 神 によるイスラエルの 民 の 聖 別 が 行 わ 22

聖 書 にみるユダヤ 教 徒 の 生 き 残 り 戦 略 れて 選 民 思 想 が 発 生 し,イスラエル 民 族 の 自 覚 が 生 まれる 神 によるイスラエルの 民 の 選 びは, 神 によるアブラハムの 選 び や, 祭 司 アロンの 孫 で,エルアザルの 子 であるピネハスに 関 して, 彼 自 身 とそれに 続 く 彼 の 子 孫 が, 神 との 間 で 永 遠 の 祭 司 職 に 与 かった 個 人 の 選 び ( 民 25:1-18) に 対 して, 神 による 集 団 の 選 び を 代 表 する 典 型 的 な 例 である シナイの 荒 野 で 四 十 年 間 の 時 を 過 ごしたイスラエルの 民 は,モーセから 後 継 者 と 認 められたヨ シュアの 下 でいよいよカナンの 地 へと 侵 入 することになる この 時 の 神 とイスラエルの 民 との 関 係 であるが, 神 は 相 変 わらず 絶 対 者 であり,イスラエルの 民 の 助 け 手 である イスラエルの 民 は 神 の 助 力 の 下,カナンの 地 に 侵 入 して 生 存 地 を 確 保 することに 成 功 し,ここにアブラハム 以 来 の, カナンの 地 を 賦 与 するという, 神 との 契 約 が 一 部 成 就 する カナンの 地 へ 入 ったイスラエルの 民 は, 士 師 の 下 でカナンの 地 に 住 む 諸 民 族 との 闘 争 を 繰 り 広 げながら 次 第 に 領 土 を 広 げていく し かし,イスラエルの 民 は, 苦 境 にある 時 こそ 唯 一 神 に 縋 るが, 一 度 平 穏 が 訪 れるとその 神 を 忘 れ, 人 々の 間 における 神 の 比 重 が 低 下 した この 時 代,イスラエルの 民 を 指 導 していたのはカリスマ 指 導 者 達 であるが, 神 の 異 民 族 利 用 によるイスラエルの 民 へのけしかけによって 彼 らは 神 の 力 を 再 認 識 し, 士 師 と 共 に 諸 民 族 と 戦 った やがて,イスラエルの 民 の 要 望 に 応 える 形 で 神 が 王 政 を 容 認 し, 預 言 者 サムエルを 介 してベニ ヤミン 族 出 身 のサウルが 初 代 の 王 に 任 命 された サウルは 当 初 幾 度 も 諸 民 族 との 戦 に 勝 利 するが, 神 の 命 令 に 背 いたことから 神 に 見 放 される サウルに 代 わって 神 の 意 思 の 下 に 預 言 者 サムエルが 選 んだのがユダ 族 出 身 のダビデである これは, 神 による 個 人 の 選 び の 一 つである(サム 上 16:1-13) ダ ビ デ は,サウルの 嫉 妬 に 苦 しみながらも 最 終 的 には 王 となり, 七 年 半 の 間 ヘブロン で 治 めた 後,エブス( 後 のエルサレム)を 攻 略 してこの 町 から 全 土 を 治 めるようになった エル サレムで 治 めるようになってからも,ダビデは 幾 度 も 異 民 族 との 戦 に 勝 利 し, 神 がイスラエルの 民 に 約 束 していたカナンの 土 地 の 全 てを 手 に 入 れ, 神 のイスラエルの 民 に 対 する 約 束 がダビデの 下 で 成 就 した この, 神 とダビデの 間 に 結 ばれたのは, 神 が 相 手 にも 義 務 を 要 求 する 契 約 である それを 示 すように,ダビデの 家 が 永 遠 に 続 くという ダビデ 契 約 (サム 下 7:16)も, 戒 めを 守 ることが 条 件 となっていた(19) ダビデはエルサレムに 神 の 契 約 の 箱 を 運 び 込 み,さらにそれを 安 置 する 神 殿 を 建 設 しようと 望 むが,その 望 みは 彼 の 治 世 下 では 達 成 されなかった ダビデの 後, 王 位 を 継 いだのは, 兄 弟 同 士 の 熾 烈 な 権 力 闘 争 を 勝 ち 抜 いたソロモンであった ソロモンは 王 位 に 就 くと 神 の 契 約 の 箱 を 安 置 する 壮 麗 な 神 殿 をエルサレムに 建 設 し,その 治 世 の 下 で 古 代 イ スラエル 王 国 は 繁 栄 を 極 めた しかし,やがてソロモンは 異 教 徒 の 女 性 を 多 く 娶 り,その 影 響 で 異 教 の 神 や 偶 像 崇 拝 に 耽 るようになった そして,ソロモンが 没 すると 古 代 イスラエル 王 国 は, 北 のイスラエル 王 国 とダビデ 家 の 血 統 が 統 治 する 南 のユダ 王 国 に 分 裂 した 分 裂 後 の 北 のイスラエル 王 国 では, 唯 一 神 に 立 ち 返 るよう 促 す 預 言 者 達 による 警 告 にも 拘 らず, 王 を 始 めとする 国 民 によって 唯 一 神 が 蔑 ろにされ,やがて 政 情 が 不 安 定 化 した こうした 中,ヤ ハウェ 信 仰 とバアル 神 信 仰 の 対 決 を 物 語 る( 王 上 17 章 ) 以 下 において, 残 りの 者 は 迫 害 のた だ 中 にありつつもヤハウェ 信 仰 を 貫 いた 人 々を 指 しており,バアルにひざをかがめず,それに 口 づけしない 7 千 人 をヤハウェは 残 される ( 王 上 19:18)とされた しかし,イスラエルは 23

宗 教 学 年 報 XXX 神 によって 与 えられた 戒 めを 守 ることにおいて 完 全 に 失 敗 した これはイスラエルの 側 の 契 約 破 棄 を 意 味 した そこで 神 は 預 言 者 を 通 して, あなたたちはわたしの 民 ではない と 宣 告 した(ホ セ 1:9) そ し て や が て, 北 のイスラエル 王 国 はアッシリアによって 滅 ぼされた ここに, 生 き 残 り 戦 略 失 敗 の 例 を 確 認 することができる これに 先 立 ち,イザヤの 召 命 記 事 においては, 聖 なる 神 による 裁 きが 強 調 されるが,しかし 最 後 に それでもその 切 り 株 は 残 る その 切 り 株 とは 聖 なる 種 子 である(イザ 6:13)と 記 されている(20) また,イザヤの 息 子 は シェアル ヤシ ュブ というシンボリックな 名 を 付 けられている その 意 味 は, 残 りの 者 は 立 ち 帰 る であり, それは 残 りの 者 が 帰 ってくる ヤコブの 残 りの 者 が, 力 ある 神 に あなたの 民 イスラエルが 海 の 砂 のようであっても,そのうちの 残 りの 者 だけが 帰 ってくる 滅 びは 定 められ, 正 義 がみなぎ る 万 軍 の 主 なる 神 が, 定 められた 滅 びを 全 世 界 のただ 中 で 行 われるからだ (イザ 10:21-23) において 現 実 に 関 する 声 明 として 繰 り 返 されている 残 りの 者 とは, 神 の 道 から 離 れた 結 果 と して 人 々を 襲 う 大 災 害 を 生 きのびた 信 仰 心 の 篤 い 者 により,イスラエルの 未 来 が 保 証 されるとす る 信 条 を 意 味 する 用 語 である イザヤにおいて, 残 りの 者 の 教 義 は 最 も 発 展 した 形 で 見 受 けら れ, 未 来 についてのイスラエル(の 民 の) 思 想 に 非 常 に 重 大 な 影 響 を 及 ぼした(21) 一 方, 南 のユダ 王 国 では 唯 一 神 を 崇 拝 する 王 と 異 教 の 神 に 傾 倒 する 王 が 輩 出 したが,アッシリ アによる 攻 撃 には 何 とか 持 ち 応 えた 民 を 導 く 神 の 臨 在 の 象 徴 として 用 いられてきた 契 約 の 箱 は, 以 前 にダビデによってエルサレムに 移 されて 天 幕 の 中 に 安 置 され,その 子 ソロモンは 神 殿 を 建 築 した 際 に,それを 至 聖 所 のケルビムの 翼 の 下 に 安 置 していた その 後, 南 のユダ 王 国 の 王 ヨ シヤの 宗 教 改 革 の 時 に, 契 約 の 箱 は 聖 所 に 再 び 安 置 された しかし,ユダ 王 国 もやがて 新 バビ ロニアによって 滅 ぼされ, 神 殿 が 崩 壊 しエルサレムも 破 壊 され 尽 くした 王 族 を 中 心 とする 上 層 の 人 々はバビロニアに 連 行 され( バビロン 捕 囚 ),こうして 預 言 者 エレミアを 通 した 神 の 言 葉 が 成 就 した しかし, 神 はイスラエルを 見 捨 ててはいなかった やがて 新 バビロニアを 滅 ぼしたペルシャ 王 キュロスにより,バビロニアからパレスチナへの 帰 還 が 許 され, 早 速 エルサレムでの 神 殿 の 再 建 が 開 始 された エルサレムの 第 二 神 殿 が 再 建 された 後,エズラがバビロニアからエルサレムに 派 遣 され, 律 法 的 ユダヤ 教 を 確 立 することにより 改 革 運 動 を 開 始 し, 衰 退 していたイスラエルの 宗 教 を 復 興 させた また,その 後 ネヘミアがペルシャからエルサレムに 派 遣 され, 城 壁 を 再 建 した そして,エズラによるトーラー 朗 読 が 為 され,ユダの 民 の 悔 い 改 めが 行 われた b.ヘレニズム 時 代 におけるユダヤ 人 の 生 き 残 り 闘 争 やがてアレクサンドロス 大 王 がパレスチナを 征 服 し,その 後 プトレマイオス 朝 によるパレスチ ナ 支 配 が 始 まり, 続 いてセレウコス 朝 が 支 配 者 となった( 一 マカ 1:1-9) し か し,セレウコス 朝 のアンティオコス4 世 エピファネスがユダヤ 人 を 迫 害 し,ヘレニズム 化 を 強 制 したため( 一 マカ 1:10-2:70),マカベアのユダが 反 乱 を 起 こし,ハスモン 家 がエルサレム 奪 回 に 成 功 した マカベ アのユダはエルサレムの 神 殿 を 清 めたが,これが ハヌカー 祭 の 起 源 となっている( 一 マカ 3-4) やがてハスモン 家 のヨナタンがセレウコス 朝 によって 大 祭 司 として 認 められるが,ヨナタンは 暗 殺 されシモンが 大 祭 司 となる( 一 マカ 13) そ の 後 シ モ ン が セ レ ウ コ ス 朝 か ら 独 立 し,ハスモン 24

聖 書 にみるユダヤ 教 徒 の 生 き 残 り 戦 略 朝 を 創 始 する 紀 元 前 2 世 紀 末 にはアレクサンドロス ヤンナイオスの 治 世 の 下 でハスモン 朝 が 最 盛 期 を 迎 える c.ローマ 時 代 におけるユダヤ 人 の 生 き 残 り 闘 争 前 64 年 にはローマ 帝 国 がセレウコス 朝 を 滅 ぼし,ハスモン 家 の 後 継 者 争 いに 介 入 してきた 翌 年 ローマはエルサレムを 占 領 し,パレスチナを 支 配 するとともに,ハスモン 家 を 王 位 から 降 格 させた そしてローマに 上 手 く 取 り 入 ったヘロデがガリラヤ 知 事 に 任 命 され, 一 時 アンティゴノ ス マタティアがパルティアによって 王 と 大 祭 司 に 任 命 され,ハスモン 朝 を 再 興 するが,ローマ 元 老 院 はヘロデをユダヤ 王 に 任 命 した そして,ヘロデはローマ 軍 の 支 援 の 下 パルティアからエ ルサレムを 奪 回 して 王 朝 を 樹 立 した やがてヘロデが 没 すると,ヘロデ 家 の 統 治 権 が 廃 位 され, ユダヤはローマの 属 州 とされた この 頃 ユダヤではローマの 圧 制 から 開 放 してくれる 救 世 主 の 到 来 が 強 く 待 望 された 紀 元 66 年 にはカエサリアでのユダヤ 人 迫 害 を 契 機 にユダヤ 人 による 対 ロ ーマ 戦 争 が 勃 発 し, 激 しい 戦 闘 の 末 70 年 にローマ 軍 によってエルサレムの 第 二 神 殿 が 破 壊 され た d. 第 二 神 殿 崩 壊 からラビ ユダヤ 教 の 成 立 へ 第 二 神 殿 崩 壊 の 頃,ヨハナン ベン ザッカイがヤブネにおいてユダヤ 人 共 同 体 を 再 建 し,ユ ダヤの 教 えが 命 脈 を 保 つ 道 が 開 かれた 対 ローマ 戦 争 は 73 年 にマサダの 要 塞 が 陥 落 し,ユダヤ の 敗 北 をもって 終 結 した ヤブネにおいては,ヘブライ 語 聖 書 の 正 典 化 が 進 み,ユダヤ 教 はラビ の 称 号 を 持 つ 賢 者 が 台 頭 して, 口 伝 律 法 の 整 備 及 び 祈 りや 学 習 の 場 所 としてのシナゴーグの 利 用 が 顕 著 となった しかし,ローマに 対 する 不 満 は 収 束 していたわけではなく,アレクサンドリア などでローマに 対 するユダヤ 人 の 反 乱 が 起 こり,ついに 132 年 にバル コフバによる( 第 二 次 ) 対 ローマ 戦 争 が 勃 発 した この 時,バル コフバを 救 世 主 (メシア)と 宣 言 したラビ アキバは 殉 教 し, 反 乱 鎮 圧 後,エルサレムは アエリア カピトリーナ と 改 称 され,ユダヤ 人 の 出 入 り が 禁 止 された 加 えて 135 年 ローマ 皇 帝 ハドリアヌスがユダヤ 人 を 迫 害 し, 多 くの 学 者 がバビロ ニアに 移 住 した しかし,これを 機 にユダヤ 人 が 離 散 の 民 となったと 言 うことは 正 しいだろ うか というのも, 当 時 の 全 世 界 のユダヤ 人 の 半 数 から 三 分 の 二 は, 既 にこれ 以 前 からエレツ イスラエル(イスラエルの 地 ) 以 外 の 各 地 に 分 散 して 居 住 していたからである 正 確 には,これ により,むしろユダヤ 人 の 離 散 (ゴーラー)が 固 定 化 したというべきであろう 既 に 神 殿 を 失 い, 聖 地 であるエレツ イスラエルまで 喪 失 してしまったユダヤ 人 は,これ 等 の 事 件 の 背 後 にあ る 意 味, 即 ち 神 の 意 図 を 模 索 し,それと 照 らし 合 わせて 自 らの 態 度 を 反 省 せざるを 得 なかったこ とであろう 4. 聖 書 におけるユダヤ 教 徒 の 生 き 残 り 戦 略 のまとめ 以 上,ユダヤ 人 (イスラエルの 民 )の 起 源 から 民 族 の 離 散 が 本 格 化 するまでの 経 緯 について 聖 書 の 記 述 を 中 心 に 概 観 してきた ディアスポラのユダヤ 人 は 皆 この 経 緯 を 自 分 達 の 歴 史 として 共 有 してきた 即 ち, 自 分 達 の 先 祖 であるアブラハム,イサク,ヤコブが 唯 一 神 と 契 約 を 結 ぶこと 25

宗 教 学 年 報 XXX によって, 神 の 祝 福 を 受 け, 子 孫 の 繁 栄 が 約 束 され,カナンの 地 を 永 久 に 与 えられるという 内 容 である そしてモーセを 介 して, 神 との 契 約 がイスラエルの 民 の 構 成 員 全 てとの 間 で 交 わされる に 至 ったと 信 じた しかし,その 後 彼 らはしばしば 唯 一 神 への 敬 神 の 念 を 忘 れ, 安 易 に 偶 像 や 異 教 の 神 を 崇 拝 した これに 対 して, 神 は 異 民 族 に 働 きかけてイスラエルの 民 を 苦 難 に 陥 れ, 生 き 残 るために 最 も 重 要 なことは 唯 一 神 に 立 ち 返 ることであると, 預 言 者 達 を 通 じて 悟 らせようとし たのだ,と 解 した そのことが 最 も 明 確 に 認 識 されたのが, 背 神 行 為 に 耽 っていた 北 イスラエル 王 国 の,アッシリアによる 滅 亡 であり, 新 バビロニアによるユダ 王 国 の 滅 亡 であった これを 受 けて,バビロン 捕 囚 からの 帰 還 以 降, 特 にエズラによる 改 革 運 動 を 経 て,ユダヤ 人 の 間 で 反 省 の 念 が 高 まり, 神 によって 与 えられたとする 戒 めの 厳 守 を 尊 ぶ 風 潮 が 高 まった つまり, 捕 囚 後 の 教 団 は 自 らを 残 りの 者 と 理 解 して,その 再 生 を 目 指 した(ゼカ 8:6,11 等 )のである 今 や, 戒 律 を 守 ることは 神 との 契 約 の 履 行 と 同 義 語 であった 神 と 契 約 を 交 わした 選 民 であるユダ ヤ 人 は, 神 から 与 えられたとする 戒 律 を 厳 守 すべきであるという 考 えは,その 後 のタルムード 期, 即 ち 口 伝 律 法 が 形 成 されていく 過 程 においてラビ 達 の 指 導 の 下 で 益 々 強 化 されてゆき, 神 の 意 志 を 地 上 において 実 現 する 選 民 であるユダヤ 人 にとっての 非 常 に 重 要 な 務 めとなっていった つまり,ユダヤ 人 は, 神 と 契 約 を 交 わしたことによって 自 らが 神 の 選 民 となったとみなし, 選 民 としての 義 務 は 神 によって 与 えられたとする 戒 律 を 守 ることであり, 戒 律 を 厳 守 してい る 限 り, 神 の 意 志 を 地 上 に 実 現 することに 加 担 しており, 地 上 のどこにあっても 生 き 残 ることが できるという 確 信 の 下, 心 を 安 らかにして 日 々の 生 活 を 営 むことが 出 来 たのであった そして, やがて 世 界 に 終 末 が 訪 れた 時,ディアスポラのユダヤ 人 は 聖 地 に 集 い, 最 後 の 審 判 において 神 によって 公 正 に 裁 かれると 考 えたのであった 従 って,その 時 までユダヤ 人 がなすべきことは, 聖 書 に 生 めよ,ふえよ, 地 に 満 ちよ, 地 を 従 わせよ ( 創 1:28)とあるごとく, 子 孫 を 生 み, 彼 らに 神 の 選 民 たるユダヤ 人 としての 自 覚 を 植 え 付 けて 育 て,それによってユダヤの 教 えを 後 世 に 伝 えることであった このことこそが,ユダヤ 人 が 自 らのアイデンティティーに 人 一 倍 こ だわりつつ, 残 りの 者 として 生 き 残 ることに 執 着 する 所 以 であったと 考 えられる しかし, 既 に 述 べたが, 選 びの 目 的 は, 自 らが 特 権 を 与 えられることではなく, 他 のすべての 者 に 祝 福 を 分 け, 道 を 示 すことである 従 って,これを 間 違 えると 選 民 もその 資 格 を 失 う(ロマ 9:6-8) のである 5. むすび 本 稿 で 確 認 してきたように,ユダヤ 人 の 聖 典 である 聖 書 には, 彼 らの 民 族 的 連 帯 を 強 化 す るために 作 用 する 要 素 が 満 ち 満 ちている この 聖 書 を 日 々 繰 り 返 して 読 むユダヤ 人 は, 否 応 なくその 固 有 の 民 族 性 を 自 覚 させられる さらに,ユダヤ 人 のもう 一 つの 聖 典 である 口 伝 律 法 タ ルムードが 編 纂 され, 浸 透 していく 過 程 においても,その 傾 向 は 益 々 強 化 される 一 方 であった こうしてユダヤ 人 のナショナリズムは 日 々 強 化 されたが, 離 散 という,その 特 殊 な 居 住 形 態 故 に, 彼 らのインターナショナリズムが 開 花 する 機 会 も 度 々 訪 れたのである 筆 者 は,このような 性 格 を 宿 命 づけられたユダヤ 人 について, 古 代 から 現 代 に 至 るまでの 歴 史 に 基 づき, 彼 らが 直 面 した 対 立 およびその 対 立 への 対 処 法 ( 戦 術 乃 至 戦 略 )を 今 後 整 理 してみたい ところで, 筆 者 が 普 段 26

聖 書 にみるユダヤ 教 徒 の 生 き 残 り 戦 略 扱 うのは, 中 世 イスラーム 圏 (アラビア 語 圏 であり,ペルシャ 語 圏 及 びトルコ 語 圏 については 範 囲 外 である)のユダヤ 教 徒 の 生 き 残 り 戦 略 である 中 世 イスラーム 圏 においては, 一 般 的 にユダ ヤ 教 は 共 生 のための 障 害 とはならなかった いわゆる イスラームの 寛 容 の 下,ユダヤ 教 徒 は 経 済 活 動 や 学 問 の 分 野 で 大 いに 活 躍 した しかし,イスラーム 圏 においても, 迫 害 や 強 制 改 宗 が 皆 無 であった 訳 ではない こうした 場 合, 一 般 的 にユダヤ 教 徒 はイスラームに 改 宗 したり, 移 住 するなどして 凌 いだ それは, 改 宗 を 拒 んで 殺 害 されてしまえば 神 との 契 約 を 果 たせなくなるか らであり, 生 きてさえいれば,やがて 再 びユダヤ 教 に 改 宗 する 可 能 性 があるかもしれないからで ある また, 移 住 に 関 して 言 えば,ユダヤ 教 徒 にとって 離 散 状 態 は 神 による 罰 であるという( 主 にキリスト 教 側 からの) 見 解 もあるが,むしろ 民 族 の 生 き 残 りにとって 好 都 合 であったと 考 える ことも 可 能 ではないであろうか それは, 何 らかの 理 由 で,ある 地 域 の 共 同 体 が 危 険 に 晒 され 衰 退 なり 消 滅 しても, 他 の 地 域 の 共 同 体 に 移 住 するなどして 巧 みに 世 界 情 勢 に 適 応 していくことが 出 来 たからである その 典 型 的 な 例 がスファラディ 系 ユダヤ 人 のスペイン 追 放 である ユダヤ 人 のこの 移 住 一 つとってみても, 当 時 及 びその 後 の 世 界 に 与 えた 影 響 は 計 り 知 れない 註 (1) ユダヤ 教 では, 有 限 な 人 間 は 相 対 を 絶 する 無 限 な 神 にはなれないと 考 えるので,せめて 義 人 として 神 に 近 づくことを 目 指 す (2) トインビー,A. 図 説 歴 史 の 研 究 ( 桑 原 武 夫 訳 ) 学 研,1975 年,pp.74-80. ユダヤ モデル の 項 参 照 (3) この 年,バビロニアに 連 行 ( バビロン 捕 囚 )された 多 くの 捕 虜 やその 子 孫 はアケメネス 朝 の 下 で 故 土 への 帰 還 を 許 された( 紀 元 前 538 年 ) しかし, 既 にバビロニアに 基 盤 を 据 えていた 富 裕 層 の 多 くは,その 後 も 留 まって 離 散 体 を 維 持 し 続 けた (4) 宗 教 的 儀 式 や 掟 の 厳 格 さ 故 に,ユダヤ 教 はしばしば 律 法 の 宗 教 と 思 われがちである 実 際, ユダヤ 教 には 守 るべき 613 もの 戒 律 がある しかし,そうした 律 法 戒 律 の 根 底 にある 本 来 の 精 神 は, 謙 虚 さと 人 間 愛 と 敬 神 の 三 点 なのであって, 権 威 に 盲 従 してその 意 味 を 杓 子 定 規 に 解 釈 し,その 一 点 一 画 を 墨 守 すれば 信 仰 生 活 を 全 うできるとする 考 え 方 はユダヤ 教 に とって 異 質 なものである 要 するにユダヤ 教 は, 神 の 指 図 は 未 来 のよき 可 能 性 に 向 かって 開 かれているという 信 仰 の 下,その 指 図 を 示 すために 神 が 人 間 に 与 えたとされるトーラー の 掟 を 行 動 の 指 針 として 重 んじるのである (5) ユダヤの 選 民 思 想 はしばしば 誤 解 されがちで, 普 通 は, 自 分 達 だけが 神 に 選 ばれた 聖 なる 民 であるというユダヤ 教 徒 の 思 い 上 がりや 高 慢 な 矜 持 として 理 解 されがちである 実 際, 戒 律 の 遵 守 に 安 んじ, 自 分 の 宗 教 の 優 越 性 に 陶 酔 して 尊 大 な 言 動 をとる 安 易 な 信 者 はユダ ヤ 教 に 限 らずどこの 宗 教 にも 見 受 けられる しかし,ユダヤ 教 の 選 民 思 想 の 意 味 は, 神 が イスラエルの 民 を 愛 してこれを 救 済 へ 導 くという 点 だけでは 方 手 落 ちである 神 との 契 約 に 基 づき,ユダヤ 教 徒 自 身 も 神 の 同 労 者 としての 使 命 を 命 がけで 果 たすべく 努 める 義 務 を 27

宗 教 学 年 報 XXX 負 っているのである (6) この 点 については,ウェーバー(Max Weber)( 1864~1920)も 民 族 上 或 いは 宗 教 上 で の 少 数 者 は,( 被 支 配 者 )として 他 の( 支 配 者 )たる 集 団 と 対 立 するような 地 位 におかれ ている 場 合 には, 自 発 的 にか 或 いは 他 動 的 にか 政 治 上 有 力 な 地 位 から 閉 め 出 された 結 果 と して 別 していちじるしく 営 利 生 活 の 方 向 に 進 むことになるのが 常 であり, 彼 らのうち 才 能 に 秀 でたものは, 政 治 的 舞 台 で 発 揮 することのできない 名 誉 欲 をこの 方 面 で 満 たそうとい うのである と 同 様 の 指 摘 をした 上 で,そうした 少 数 派 の 例 としてロシアや 東 プロイセ ン 地 方 のポ-ランド 人,ルイ 14 世 時 代 のフランスにおけるユグノ-,イギリスにおける 非 国 教 派 やクェイカ- 教 徒,そして 最 も 顕 著 なものとして 二 千 年 この 方 のユダヤ 人 を 挙 げ ている (マックス ウェ-バ- プロテスタンティズムの 倫 理 と 資 本 主 義 の 精 神 上 巻 梶 山 力 大 塚 久 雄 訳, 岩 波 文 庫,1955 年,pp.22-23.) (7) 歴 史 学 事 典 第 5 巻 歴 史 家 とその 作 品, 学 研,1997 年,p.353. (8) 20 世 紀 の 歴 史 家 たち 第 3 巻, 世 界 編 上, 刀 水 歴 史 全 書 45,pp.128-129. (9) 同 上 書,pp.129-130. (10)この 節 は, 吉 澤 五 郎 トインビーの 文 明 批 評 地 球 文 明 の 道 標 として 宗 教 と 文 化 18 聖 心 女 子 大 学 キリスト 教 文 化 研 究 所,1997 年,に 多 くを 負 っている また,ド イッチャー 的 インターナショナリズム( 国 際 主 義 )については, 彼 の 非 ユダヤ 的 ユダヤ 人 において 一 貫 して 追 求 される 主 題 である (11)ゲニザ 文 書 については, 本 稿 補 遺 を 参 照 (12)12 世 紀 後 半 の 地 中 海 北 岸 各 地 のユダヤ 教 徒 共 同 体 については, トゥデラのベンヤミンの 旅 行 記 (Sefer ha-massa ot) に, 詳 細 な 情 報 が 記 載 されている (13) S.D.Goitein & Mordechai A. Friedman, India Traders Of The Middle Ages, Leiden,2008. (14) 選 び の 項, 聖 書 事 典 新 共 同 訳 日 本 キリスト 教 団 出 版 局,2004 年,pp.158-159. (15) 選 び の 項, 聖 書 事 典 新 共 同 訳 同 上 書,p.159. (16) 残 り の 者 の 項, 同 上 書,p.474. (17)モーセに 告 げられた 神 の 二 つの 名 前 について, 詳 細 に 解 説 したものとしては, 市 川 裕 ユ ダヤ 教 の 精 神 構 造 東 京 大 学 出 版 会,2004 年,pp.326-332を 参 照 (18) 契 約 の 項, 聖 書 事 典 新 共 同 訳 同 上 書,p.250. (19) 同 上 (20) 残 り の 者 の 項, 同 上 書,pp.474-475. (21)ʻREMNANT OF ISRAELʼ, Encyclopaedia Judaica, 2 nd ed., vol.17, Jerusalem, 2007, p.217. 参 考 文 献 Abulafia, D. Commerce and Conquest in the Mediterranean, 1100-1500. 28

聖 書 にみるユダヤ 教 徒 の 生 き 残 り 戦 略 Great Britain, 1993 Arberry, A.J. Religion in the Middle East. Vol.1, Cambridge, 1969 Ashtor, E. A Social and Economic History of the Near East in the Middle Ages. London,1976, 384pp. idem, Studies on the Levantine Trade in the Middle Ages. London, 1978 idem, The Jews and the Mediterranean Economy 10th-15th centuries. London, 1983 Cohen, A. Jewish Life Under Islam. London, 1984 Cohen, M.R. Under Crescent & Cross. Princeton, 1994 Curtin, P.D. Cross-cultural trade in world history. Cambridge, 1984 Cutler, A.H. The Jews as Ally of the Muslim. Indiana, 1986 Gerber, J. The Jews of Spain. New York, 1992 Goitein, S.D. Jews and Arabs. New York, 1955 idem, Studies in Islamic History and Institutions. Leiden, 1966 idem, A Mediterranean Society. 6Vols. Berkeley-Los Angels, 1967-93 idem, Letters of Medieval Jewish Traders. Princeton, 1973 idem, Ha-Temanīm. Jerusalem, 1983 idem & Friedman, M.A. India Traders of the Middle Ages. Brill Leiden, 2008 Hirschberg, H.Z. A History of the Jews in North Africa. Vol.1. Leiden, E.J.Brill, 1974 Hourani, A.H. Minorities in the Arab World. New York, 1947 Landshut, S. Jewish Communities in the Muslim Countries of the Middle East. Connecticut, 1950 idem, European Naval And Maritime History, 300-1500. Bloomington, 1985 Lewis, B. The Jews of Islam. London, 1981 Lopez, R.S. & Raymond, I.W. Medieval Trade in the Mediterranean world. New York, 1955 Margariti, R.E. Aden & the Indian Ocean Trade. Chapel Hill, 2007 Mendelssohn, S. Jews of Asia. New York, 1920 Mottahedeh, R.P. Loyalty and Leadership in an Early Islamic Society. Princeton, 1980 Prawer, J. Jews, Christians and Muslims in the Mediterranean Area. Pe amīm 45, 1990, pp.5-10 Sassoon, D.S. A History of the Jews in Baghdad. Letchworth, 1949 Stillman, N.A. The Jews of Arab Lands. Philadelphia, 1979 Tessler, M.A. Minorities in Retreat. New York, 1979 Udovitch, A.L. Partnership and Profit in Medieval Islam. Princeton, 1970 Ye`or, B. The Dhimmi. London, 1985 邦 文 参 考 文 献 29

宗 教 学 年 報 XXX 聖 書 ( 新 共 同 訳 ) 日 本 聖 書 協 会,1987 年 市 川 裕 ユダヤ 的 知 性 の 系 譜 筑 波 大 学 哲 学 思 想 学 系,1989 年 歴 史 としてのユダヤ 教 岩 波 講 座 宗 教 3 宗 教 史 の 可 能 性 所 収, 岩 波 書 店,2004 年 ユダヤ 教 の 精 神 構 造 東 京 大 学 出 版 会,2004 年 ユダヤ 教 の 歴 史 山 川 出 版 社,2009 年 岩 波 講 座 東 洋 思 想 第 一 巻 ユダヤ 思 想 1 岩 波 書 店,1988 年 岩 波 講 座 東 洋 思 想 第 二 巻 ユダヤ 思 想 2 岩 波 書 店,1988 年 植 村 邦 彦 同 化 と 解 放 十 九 世 紀 ユダヤ 人 問 題 論 争 平 凡 社,1993 年 臼 杵 陽 ( 監 修 ) ディアスポラから 世 界 を 読 む 明 石 書 店,2009 年 小 尾 敏 夫 ロビイスト 講 談 社 現 代 新 書,1991 年 カステーヨ,E.R.&カポーン,U.M. 図 説 ユダヤ 人 の 2000 年 ( 那 岐 一 尭 訳 ) ( 歴 史 編, 宗 教 文 化 篇 ) 同 朋 舎 出 版,1996 年 黒 田 美 代 子 イスラーム 世 界 におけるユダヤ 人 共 存 共 生 の 歴 史 ユダヤ 人 とは 何 か 三 友 社,1985 年,pp.89-118 小 岸 昭 スペインを 追 われたユダヤ 人 人 文 書 院,1992 年 サッスーン,B. ユダヤ 民 族 史 6 冊,( 石 田 友 雄 他 訳 ) 六 興 出 版,1976-1978 年 サルトル,J.P. ユダヤ 人 岩 波 新 書,1956 年 嶋 田 英 晴 ラビ ユダヤ 教 中 央 集 権 体 制 の 終 焉 10 世 紀 のイラクを 中 心 に ( 東 京 大 学 宗 教 学 年 報 XXII 東 京 大 学 文 学 部 宗 教 学 研 究 室 2005) 中 世 イスラーム 圏 のユダヤ 商 人 の 協 同 事 業 ( 東 京 大 学 宗 教 学 年 報 XXVII 東 京 大 学 文 学 部 宗 教 学 研 究 室 2009) ジョンソン,P. ユダヤ 人 の 歴 史 ( 阿 川 尚 之, 池 田 潤, 山 田 恵 子 訳 )( 上 下 巻 ) 徳 間 書 店,1999 年 スミス,A.D. ネイションとエスニシティ ( 青 山 靖 司 高 城 和 義 他 訳 ) 名 古 屋 大 学 出 版 会,1999 年 選 ばれた 民 ( 一 條 都 子 訳 ) 青 木 書 店,2007 年 ゾンバルト,W. ユダヤ 人 と 経 済 生 活 荒 地 出 版 社,1994 年 田 村 愛 理 世 界 史 のなかのマイノリティ ( 世 界 史 リブレット) 山 川 出 版 社,1997 年 手 島 勲 矢 編 著 わかるユダヤ 学 日 本 実 業 出 版 社,2002 年 ディモント,M. ユダヤ 人 上 下,( 藤 本 和 子 訳 ) 朝 日 新 聞 社,1984 年 ドイッチャー,I 非 ユダヤ 的 ユダヤ 人 ( 鈴 木 一 郎 訳 ) 岩 波 新 書,1970 年 トインビー,A. 図 説 歴 史 の 研 究 ( 桑 原 武 夫 訳 ) 学 研,1975 年 マリア ロサ メノカル 寛 容 の 文 化 ムスリム,ユダヤ 人,キリスト 教 徒 のスペイン ( 足 立 孝 訳 ) 名 古 屋 大 学 出 版 会,2005 年 湯 浅 赳 男 ユダヤ 民 族 経 済 史 新 評 論,1991 年 湯 川 武 ユ ダ ヤ 商 人 と 海 ゲ ニ ザ 文 書 か ら イ ス ラ ム 世 界 の 人 々 4 海 上 民 東 洋 経 済 新 報 社, 30

聖 書 にみるユダヤ 教 徒 の 生 き 残 り 戦 略 1984 年,pp.107-136 イェルシャルミ,Y.H. ユダヤ 人 の 記 憶,ユダヤ 人 の 歴 史 ( 木 村 光 二 訳 ) 晶 文 社,1996 年 歴 史 学 研 究 会 編 ネットワークのなかの 地 中 海 青 木 書 店,1999 年 ワット,W.M. 地 中 海 世 界 のイスラム ( 三 木 亘 訳 ) 筑 摩 書 房,1984 年 < 補 遺 ゲニザ 文 書 について> ) גניזה ゲニザ Genizah)とは,ヘブライ 文 字 の 書 かれた 文 書 や 儀 礼 用 具 のうち, 既 に 使 用 されなくなったものを 保 管 しておくためにシナゴーグなどの 建 物 に 併 設 された 保 管 所 を 指 すヘブ ライ 語 である 中 世 のユダヤ 社 会 では,ヘブライ 文 字 で 神 や 神 名 の 書 かれた 紙 を 破 棄 しない よう, 使 用 済 みの 大 量 の 紙 がゲニザに 貯 えられて 保 存 された この 中 で, 特 に 19 世 紀 末 にエジ プトのフスタート(オールド カイロ)のパレスティナ 系 ベン エズラ シナゴーグのゲニザか ら 発 見 された 大 量 の 文 書 が カイロ ゲニザ と 呼 ばれ, 通 常 ゲニザ 文 書 と 言 えばこれを 指 す 全 体 で 25 万 枚 以 上 にもなるゲニザ 文 書 の 原 本 は, 現 在 イギリス,アメリカ,フランス,ハン ガリー,ロシア,イスラエルなどを 中 心 とする 世 界 各 地 の 19 の 図 書 館 及 び 幾 人 かの 個 人 によっ て 分 散 して 所 有 されているが, 大 半 はケンブリッジ 大 学 図 書 館 及 びオクスフォード 大 学 の Bodleian Library に 所 蔵 されている ゲニザに 使 用 済 みの 紙 を 貯 蔵 する 習 慣 は,エジプトでは 19 世 紀 に 至 るまで 継 続 されてきたた め, 発 見 された 文 書 の 書 かれた 年 代 の 幅 は 9 世 紀 から 19 世 紀 までと 広 いが,その 大 部 分 は 11 世 紀 初 めから 13 世 紀 半 ばに 集 中 している そしてこれらの 文 書 が 書 かれた 場 所 は 西 はイベリア 半 島 から 東 はインドにまで 及 ぶ 25 万 枚 余 りの 紙 の 内 訳 は, 礼 拝 用 の 詩, 宗 教 書 の 断 片 などに 代 表 される 文 学 的 文 書 と,ユダヤ 共 同 体 の 日 常 生 活 について 書 かれた 記 録 文 書 に 大 別 されるが, 記 録 文 書 は 全 て 合 わせても( 今 の ところ)2 万 枚 余 りである 記 録 文 書 の 約 半 数 は 公 私 両 面 にわたる 手 紙, 商 業 上 の 往 復 書 簡 であ り, 以 下 種 々の 契 約 書 や 婚 姻 離 婚 証 書,ラビ 法 廷 の 裁 判 記 録, 帳 簿, 計 算 書 などと 続 く 文 学 的 文 書 の 大 部 分 がヘブライ 語 で 書 かれているのに 対 し, 記 録 文 書 の 大 半 はヘブライ 文 字 表 記 の 中 世 アラビア 語 で 書 かれている(Judaeo-Arabic) ゲ ニ ザ 文 書 は, 中 世 ユダヤ 社 会 及 びイス ラーム 世 界,また 当 時 の 東 西 交 易 の 様 子 を 解 明 しようとする 社 会 経 済 史 の 分 野 に 大 きく 貢 献 する 史 料 としても, 今 後 の 更 なる 研 究 の 進 展 が 待 たれている 31

Jewish Survival Strategies in the Hebrew Bible Hideharu SHIMADA Every people tries to survive, but the Jewish people in particular has struggled to survive. One characteristic of the Jewish people is that they not only try to survive, but also take account of such struggle in order to keep their Jewish identity. This was the destiny of Jewish people since they established a covenant with God to live as a chosen people and made it their mission to realize God s will on earth. However, their behavior toward Gentiles put their own beliefs before all else and rejected compromises with the majorities into which they would assimilate, often leading to conflicts with their host societies. At the worst, they were massacred and almost exterminated. There were many crises that Jewish people faced, such as religious conflicts, economic conflicts, political conflicts, racial conflicts, cultural conflicts and environmental changes. This paper is an attempt to show Jewish survival strategies by surveying their strategies for survival that appeared in their scriptures, especially in the Hebrew Bible. Henceforth, I intend to expand into cases of failure to show the whole picture. The results of this investigation will offer tactics for survival for peoples who may possibly face conditions similar to those confronted by the Jewish people. 248