アーティスト 図 1 鈴 木 康 広 氏 [ Photo : Rinko Kawauchi ] 今 日 のスライドは370 枚 くらい 入 っています この2 時 間 で 自 分 がどん なことに 興 味 が あって 今 活 動 して いるこ とを なるべく 皆 さんの 中 にあるものと 繋 がるように 紹 介 で き れ ば と 思 い ま す ( 図 1 ) 僕 にとっては 人 生 を 変 えた グ ローブジャングルという 地 球 の 形 をした 遊 具 のことをお 話 ししましょう N H Kのデジスタという 番 組 で 街 の 中 でこそ 魅 力 を 発 揮 するメディアート というテーマの 作 品 募 がありまし た 僕 はそ れ にどうしても 応 募 したく 街 中 をずっと 探 し まわっていました でもなかなか 見 つからず ほとんど 諦 めかけていたところ 目 の 前 にこの 遊 具 が 回 っていまし た 大 学 時 代 に 映 像 表 現 や 残 像 に 興 味 があり その 残 像 現 象 を 利 用 して 夜 に 映 像 が 映 りそうだと 思 いつき 応 募 したところ 審 査 に 通 ってしまいました それを 番 組 の 中 で 紹 介 され 作 品 が 世 の 中 に 出 ました 一 般 的 に 作 品 制 作 は 一 から 素 材 を 加 工 してつくると 思 いがちですが この 作 品 は 僕 が つくったわけ ではなく グ ローブジャング ルという 元 々あるものを 活 かし 皆 の 中 の 記 憶 によって 作 品 が 機 能 したり 生 きてくることで 面 白 い 作 品 になること に 気 づきました このことに 気 づくまで 何 年 も 時 間 がか かってしまいました 場 の 様 子 図 2 遊 具 の 透 視 法 [ Photo : Rinko Kawauchi ] 2
日 中 に 遊 具 の 中 から 撮 影 した 園 の 景 色 を 夜 間 にグ ローブジャングルに 投 影 したところ まさに 地 球 に 見 えました ( 図 2) 空 の 青 と 木 々の 緑 と 大 地 の 色 と 家 族 まで 投 影 されています 地 面 から 少 し 浮 いた 状 態 で い い 感 じ の 絶 妙 な 瞬 間 の 地 球 が 映 って います だんだんと 地 球 について 勝 手 に 考 え 始 めました 教 科 書 に 載 っていることや 科 学 的 な 視 点 は 一 部 分 のもの の 見 方 で むしろそうではない 見 方 を 見 つけることが 楽 しいです そうかもしれないね と 共 感 する 人 がいたな ら 個 人 の 思 い 込 みではない 新 しいアートの 世 界 が 立 ち 上 がり その 状 態 を 非 常 に 魅 力 的 に 感 じています ある 日 遊 具 で 遊 ぶ 子 供 たちの 影 が 大 陸 に 見 えま した しかも 動 く 大 陸 として プ レ ートテクトニクス まで をも 見 立 てることが できたのです 遊 具 デザイナーは 全 く 意 図 していなかったでしょうね でも 意 図 していなくて も デザインしたものを 越 えた 計 り 知 れない 状 態 に 僕 は 最 も 魅 力 を 感 じます 美 大 に 入 って まず 僕 がしたのはパラパラ 漫 画 作 りで す これはもう 子 供 時 代 の 再 来 です きっかけは ある 日 友 達 にパラパラ 漫 画 を 作 って 持 って 行 き 面 白 いね と 言 われたのが 嬉 しくて 単 純 ですが 次 の 日 また 持 って 行 っ たことでした 何 日 かして 友 達 から 今 日 は 無 いの? と 聞 かれたので つい100 冊 ぐらい 描 いてしまいました 僕 はノートに 数 ページ 描 いたら 数 ページとばし 描 く 場 所 を 変 えますから 逆 にそれがいいみたいです 大 胆 にとば すとその 都 度 描 く 方 向 だ け でなく 考 えが 変 化 す る 可 能 性 も 出 てきます パラパラ 漫 画 だと 意 味 のある 変 化 をキープするのは 結 難 しくもあります 次 のページも 一 気 に 描 いてもいいし 変 えてもいいし 重 要 なのは 変 化 の 状 態 を 常 に 保 つことで パラパラ 漫 画 だけでなく 普 段 の 生 活 の 中 でも 適 応 し 常 に 変 化 可 能 なようにしてい ます すると 意 外 なことがどんどん 起 きます だからこれ が アイデ ア を 思 い つくた め の 一 つ の 手 法 とも 言 えま す で も これはそう 簡 単 なことではなく 何 年 もかかると 思 い ますが いつか 必 ずできるようになると 僕 は 人 間 のサン プルとして 確 信 を 持 っています パラパラ 漫 画 の 白 い 裏 側 の 透 けた 部 分 は 1コマ 先 と のずれで あっ!なるほど という 納 得 した 感 覚 を 与 えま す それはページとページの 間 の 変 化 で 絵 ではないで す 動 きとして 見 ているのは2つのページ 間 にある 変 化 で す このように 飛 躍 し 次 元 を 超 えるこの 瞬 間 が 僕 にとっ てはたまらなく 楽 しいです こうした 視 点 が メディアアー トやメッセージになるなど 遊 具 の 作 品 もそういうところ に 繋 がっていきます 図 3 ノートブック 僕 の 活 動 に 欠 かせないのがノートです ずっと 同 じノー トを 使 って 今 3 0 0 冊 くらい になりました ノートからは 時 間 というものを 排 除 して います 過 去 のノートということをなくしていまして いたページにか きます くと 前 にかいたイメージが 自 然 に 出 てきて そ れ に 今 の 自 分 が 反 応 し 何 か かきたくなります このよう にイメージを 少 しずつ 積 み 重 ねていきます 一 気 に 何 かを 思 いつこうとしても 絶 対 思 いつきません 自 分 の 意 識 を 瞬 間 的 に 越 えて こう 見 えてしまった みたいに 思 いつくし か 意 外 なことは 生 まれないので ( 図 3) 今 はデジタル 化 していて メモを 携 帯 や 写 真 で 済 ます ことが 多 いですが 肉 筆 でかき 残 すたびに ひとつの 現 3
象 として 残 るので やはり 肉 筆 が 重 要 だと 思 います 今 武 蔵 野 美 術 大 学 で 教 員 もして います が 美 術 系 とかデ ザ イン 系 の 学 生 は 油 断 していて 肉 筆 でかき 残 そうとしてい ない と 思 うことが 多 々あります 羽 田 空 港 発 の 国 内 線 の 窓 から 東 京 湾 をはしっている 船 の 波 が ファスナ ーに 見 えてしまいました そ れで ラジコ ンの 船 を 改 造 し 池 でファスナーを くように 見 えるか 実 験 しました 池 にはカモとアヒルがいて ラジコンの ファ スナーの 船 と 並 んで 3つのファスナーの 勢 揃 いです ( 場 : 笑 ) 中 でも アヒルが 一 番 きれいなファスナーに 見 えました アヒルは 結 深 いところで 漕 いでいるので 余 分 な 波 が 出 ずに 純 粋 にきれいな 引 き 波 が 出 せます だ から このアヒルを 見 い もっと 深 いところにスクリュー を 設 置 しなさいとの 神 様 からのヒントだったのでしょう といけないと 思 いました ちょうどその 頃 原 美 術 館 の 方 から 造 船 所 の 社 長 さん を 紹 介 していただきました 社 長 が 船 をあげると 言 ってく ださり 僕 なりに 安 全 性 は 最 重 要 視 しつつ 実 現 を 決 意 し ました 船 が 見 つかりました と 北 川 フラムさんに 連 絡 し 先 のラジコンの 船 も 持 って 相 談 にうかがったところ ようやく 僕 が 本 気 であることが 伝 わり 一 気 に 実 現 に 向 かいました 素 材 は 発 泡 スチロールで 発 泡 スチロールを 掘 る 最 高 の 職 人 が 静 岡 県 富 士 にいらっしゃるので その 人 に 相 談 をして 造 りました 中 に 鉄 骨 も 入 っています 部 分 的 に FRPや アルミ 板 を 使 っています 全 長 11m 11 人 乗 れる 船 として 実 現 しました 芸 術 祭 では 風 が 弱 い 日 など か なり 限 定 した 日 でしたが きちんとお 客 様 を 乗 せて 運 航 す る こ と が で き まし た ( 図 4 ) ファスナーの 船 イメージスケッチ 2002 年 に 船 と 波 がファスナーに 見 え 2004 年 に ファス ナーの 船 をラジコンで 作 り 2009 年 に 本 物 の 船 の 制 作 を 始 しました それから 何 年 後 かに 瀬 戸 内 芸 術 祭 があ り 一 般 募 で 応 募 しました 結 果 は 落 選 でしたが その ディレクターの 北 川 フラムさんにお いした 際 すごく 面 白 いが 実 現 性 が 低 いのでは?と 言 われました 僕 の 考 え るアート 作 品 は 実 現 しそうな 世 界 と 実 現 しなさそうな 世 界 しかなく なんとか 実 現 できる 世 界 にもっていかない 図 4 ファスナーの 船 いろいろな 人 から よく 実 現 したね 本 当 にできると 思 わなかった と 言 われました とにかく 僕 が 実 現 したい 気 持 ちを 誰 よりも 強 く 持 っていなければすぐに 終 わり 実 現 できなかったことでしょう ポイントは 実 現 したい 人 が 他 にも 居 るかどうかだと 思 います さらに どうやった らできるかということを 誰 よりも 考 えて いました 技 術 者 というのは 安 全 性 など 今 までの 方 法 で 実 現 しようとす るので 実 現 するのは 結 難 しいです 完 璧 なものしか つくれないからでしょう だけど 僕 はもう 少 し 緩 やかな 判 4
断 が できます 職 人 や 設 計 者 が 思 いつかないような 技 術 的 な 組 み 合 わせを 自 分 なりに 考 えて 提 案 して それい いね と 思 ってもらわないと みんな 簡 単 に 諦 めてしまい ます だから どうやって 皆 をやる 気 にさせられるかが デザイナーとして 必 要 な 能 力 なのかもしれないです 技 術 者 は 経 験 値 でいろいろ 考 えてしまいますし それは 凄 く 確 かなことでもあり やる 気 になるには 経 験 者 ほど 難 しいです いい 意 味 で 好 い 加 減 で 実 現 したい 気 持 ちが 無 いと フレッシュなものとか 新 しいものは 生 まれないと 思 いま す そ の 好 い 加 減 を 探 すの が 皆 さん のような 若 い 人 のこ れからの 課 題 だと 思 います 前 例 が はびこる 世 界 なので パイオニアは 意 外 と 楽 で 未 経 験 なだけにやる 気 になれ ます 植 物 や 人 間 以 外 と 関 わりを 持 つ 人 のことを 考 えて 造 形 的 にもきちんと 作 ったのが 今 の 状 態 です ( 図 6) 樹 齢 12 年 で 何 度 も 展 示 をしていて 本 当 に 不 思 議 な 木 です 図 6 まばたきの 葉 [ Photo : Katsuhiro Ichikawa ] 図 5 まばたきの 葉 スケッチ 未 来 に もしも こんなものがあったら というテーマの コンペの 時 に 僕 が 発 表 したのが まばたきの 葉 です ( 図 5)この 先 人 類 が 木 ともっともっと 長 く 生 きていく と 木 が 人 間 のことを 覚 えるようになるかもしれないと 考 え ました ちょっと 空 想 的 な 話 に 聞 こえるかもしれませんが 自 分 の 中 で 現 実 的 に 捉 えて 考 えたものです 木 が 毎 日 通 る 人 の 顔 を 覚 えて 秋 になるとその 人 の 目 を 浮 かび 上 げ 落 葉 します 葉 はクルクル 回 って その 本 人 と 目 が 合 うとい うシーンのプ ロトタイプとして 作 り 発 表 しました そ の 後 花 火 を 打 ち 上 げて 街 中 に 大 きな 木 を 浮 かび 上 がらせ た 絵 で 食 べられる 紙 で 作 ったり 土 に 還 る 紙 で 作 った りすれば 地 球 の 害 にもならず 鳥 たちのためにもなると 思 っています これが まばたき と はばたき が 出 っ た 瞬 間 です ( 図 7) まばたきとはばたき は2011 年 に 出 した 本 のタイトルになりました 変 なタイトルだと 今 でも 思 っています が 当 時 は 自 然 に 決 まりました 5
を 考 えました 先 日 小 学 校 の 校 長 先 生 に お いして 書 き 順 について 教 えていただきましたが 書 き 順 には 決 まり は 無 いそうです なので 順 番 を 変 えるだけで 意 外 な 考 え 方 に 展 可 能 になる 感 じがしました 図 7 まばたき と はばたき が 出 った 瞬 間 のスケッチ 最 近 デザインあ が 一 般 化 したからこの 発 想 は 当 た り 前 になりました ま の 文 字 の 分 解 は 横 棒 を1 本 動 かして 文 字 の 左 に 縦 に 置 けば は になるため は と ま の 関 係 は 近 いことになります まばたきの 葉 は いろいろな 国 で 展 示 しています が イスラエル 出 身 のアーティストに った 時 の 話 が 不 思 議 で す 日 本 で は まば たきは 目 を つぶります が イスラ エルの ヘブライ 語 では 瞬 間 的 に 見 る という 意 味 だそう で まばたきの 葉 の 落 葉 時 に 目 と 目 が 合 うことと 繋 が り 鳥 肌 が 立 ちました このように 知 らない 国 の 言 葉 と 作 品 が 繋 がるのは もしかして 人 間 には 特 別 に 思 えるけど 地 球 にとっては 当 たり 前 のことかもしれません この 話 を 聞 いてから 約 2 週 間 後 にイスラエル 美 術 館 の キュレーターが 僕 のところに 来 て イスラエル 美 術 館 で 展 示 をすることになり 再 び 驚 きました 図 8 未 来 の 書 き 順 更 に 解 説 すると 大 地 芽 が 出 て 根 を 張 り 枝 が 伸 び て 実 が 成 り ま す ( 図 8 ) 未 来 と い う 漢 字 が 木 の 成 長 を 表 していることを 知 り 感 動 しました それで 最 近 僕 の 勝 手 なこじつけをしまして この 来 のチョンチョン に 見 覚 えがあるなと 気 づきました それはモミジです モ ミジの 種 は 鳥 の 羽 のような 形 で 生 えている 時 は 逆 さま ですが 落 ちる 時 はクルクルと 回 って 見 ていて 飽 きませ ん 螺 旋 を 描 く 様 が 美 しいです なるべく 遠 くに 意 外 な 所 に 行 くために クルクル 回 って 落 ちて 来 ます まさに 未 来 へという 感 じです しかも 来 る 来 る で さらに 人 に 近 づくと 来 た 来 た になります( 場 : 笑 ) ( 図 9) 未 来 の 描 き 方 を 考 え 未 来 の 中 に 木 があるこ とに 気 づきました 一 十 オ 木 の 左 右 のシュッ シュッとはらう 部 分 は 根 っ 子 を 表 し 木 の 幹 は 縦 棒 一 本 でシンプルです そして 木 に 横 棒 一 本 を 加 えると 未 になり 横 棒 が 枝 だそうで す 未 にチョンチョン と 点 を2つで 来 になります このような 未 来 の 書 き 順 図 9 来 る 来 る 来 た 来 た スケッチ 6
はんこ 現 在 / 過 去 という 判 子 の 作 品 を 制 作 した 頃 は 未 来 が 嫌 いでしたが 今 は 未 来 に 興 味 があります 未 / 来 が 現 在 / 過 去 ではなく 未 はどうなる か 分 からない 状 態 のことで 来 は まばたきとはばた き が 本 の 題 名 になったり 未 熟 だった 自 分 が15 年 経 っ て 近 所 の 地 球 のように 自 分 の 展 覧 のタイトルに 成 る 体 験 などを 表 します 未 / 来 の 間 隔 は 実 際 に 現 実 に はんこ 変 わるであ ろう 時 間 の 経 過 を 示 して いて そ れ らを 判 子 と いう 形 にできたと 考 えています ということで 1 2 分 過 ぎてしまいましたが スライドは 3 7 2 枚 ご 覧 いただきました 長 い 時 間 ご 清 聴 ありがとうござ い まし た ( 場 : 拍 手 ) 場 では 水 戸 芸 術 館 の 個 展 の 鈴 木 康 広 氏 直 筆 マッ プが プレゼントとして 配 られたことを 最 後 に 申 し 添 え ます 7