Microsoft Word - 要旨林有珍.docx



Similar documents
Microsoft PowerPoint - 報告書(概要).ppt

<4D F736F F D E598BC68A8897CD82CC8DC490B68B7982D18E598BC68A8893AE82CC8A C98AD682B782E993C195CA915B C98AEE82C382AD936F985E96C68B9690C582CC93C197E1915B927582CC898492B75F8E96914F955D89BF8F915F2E646F6

Ⅰ 調 査 の 概 要 1 目 的 義 務 教 育 の 機 会 均 等 その 水 準 の 維 持 向 上 の 観 点 から 的 な 児 童 生 徒 の 学 力 や 学 習 状 況 を 把 握 分 析 し 教 育 施 策 の 成 果 課 題 を 検 証 し その 改 善 を 図 るもに 学 校 におけ

共 通 認 識 1 官 民 較 差 調 整 後 は 退 職 給 付 全 体 でみて 民 間 企 業 の 事 業 主 負 担 と 均 衡 する 水 準 で あれば 最 終 的 な 税 負 担 は 変 わらず 公 務 員 を 優 遇 するものとはならないものであ ること 2 民 間 の 実 態 を 考

<6D313588EF8FE991E58A778D9191E5834B C8EAE DC58F4992F18F6F816A F990B32E786C73>

<4D F736F F D C482C682EA817A89BA90BF8E7793B1834B A4F8D91906C8DDE8A A>

平成25年度 独立行政法人日本学生支援機構の役職員の報酬・給与等について

<4D F736F F D208ED089EF95DB8CAF89C193FC8FF38BB CC8EC091D492B28DB88C8B89CA82C982C282A282C42E646F63>

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 平 成 27 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 役 名 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 2,142 ( 地 域 手 当 ) 17,205 11,580 3,311 4 月 1

(2) 地 域 の 実 情 に 応 じた 子 ども 子 育 て 支 援 の 充 実 保 育 の 必 要 な 子 どものいる 家 庭 だけでなく 地 域 の 実 情 に 応 じた 子 ども 子 育 て 支 援 の 充 実 のために 利 用 者 支 援 事 業 や 地 域 子 育 て 支 援 事 業 な

< DB8CAF97BF97A6955C2E786C73>

ていることから それに 先 行 する 形 で 下 請 業 者 についても 対 策 を 講 じることとしまし た 本 県 としましては それまでの 間 に 未 加 入 の 建 設 業 者 に 加 入 していただきますよう 28 年 4 月 から 実 施 することとしました 問 6 公 共 工 事 の

公 的 年 金 制 度 について 制 度 の 持 続 可 能 性 を 高 め 将 来 の 世 代 の 給 付 水 準 の 確 保 等 を 図 るため 持 続 可 能 な 社 会 保 障 制 度 の 確 立 を 図 るための 改 革 の 推 進 に 関 する 法 律 に 基 づく 社 会 経 済 情

(2)大学・学部・研究科等の理念・目的が、大学構成員(教職員および学生)に周知され、社会に公表されているか

●幼児教育振興法案

m07 北見工業大学 様式①

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 役 名 法 人 の 長 理 事 理 事 ( 非 常 勤 ) 平 成 25 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 16,936 10,654 4,36

公表表紙

<4D F736F F D F8D828D5A939982CC8EF68BC697BF96B38F9E89BB82CC8A6791E52E646F63>

別 紙

預 金 を 確 保 しつつ 資 金 調 達 手 段 も 確 保 する 収 益 性 を 示 す 指 標 として 営 業 利 益 率 を 採 用 し 営 業 利 益 率 の 目 安 となる 数 値 を 公 表 する 株 主 の 皆 様 への 還 元 については 持 続 的 な 成 長 による 配 当 可

18 国立高等専門学校機構

鳥 取 国 民 年 金 事 案 177 第 1 委 員 会 の 結 論 申 立 人 の 昭 和 37 年 6 月 から 38 年 3 月 までの 国 民 年 金 保 険 料 については 納 付 していたものと 認 められることから 納 付 記 録 を 訂 正 することが 必 要 である 第 2 申

セルフメディケーション推進のための一般用医薬品等に関する所得控除制度の創設(個別要望事項:HP掲載用)

しかし 主 に 欧 州 の 一 部 の 回 答 者 は 受 託 責 任 について 資 源 配 分 の 意 思 決 定 の 有 用 性 とは 独 立 の 財 務 報 告 の 目 的 とすべきであると 回 答 した 本 ED に 対 する ASBJ のコメント レターにおける 意 見 経 営 者 の 受

った 場 合 など 監 事 の 任 務 懈 怠 の 場 合 は その 程 度 に 応 じて 業 績 勘 案 率 を 減 算 する (8) 役 員 の 法 人 に 対 する 特 段 の 貢 献 が 認 められる 場 合 は その 程 度 に 応 じて 業 績 勘 案 率 を 加 算 することができる

代 議 員 会 決 議 内 容 についてお 知 らせします さる3 月 4 日 当 基 金 の 代 議 員 会 を 開 催 し 次 の 議 案 が 審 議 され 可 決 承 認 されました 第 1 号 議 案 : 財 政 再 計 算 について ( 概 要 ) 確 定 給 付 企 業 年 金 法 第

Microsoft Word - ★HP版平成27年度検査の結果

平成21年9月29日

Taro-H19退職金(修正版).jtd

Microsoft Word - 19年度(行個)答申第94号.doc

第2分野 男女共同参画の視点に立った社会制度・慣行の見直し、意識の改革

Microsoft Word - 目次.doc

国立研究開発法人土木研究所の役職員の報酬・給与等について

Microsoft Word - 19年度(行情)答申第076号.doc

<4D F736F F D208E52979C8CA78E598BC68F5790CF91A390698F9590AC8BE08CF D6A2E646F6378>

2. ど の 様 な 経 緯 で 発 覚 し た の か ま た 遡 っ た の を 昨 年 4 月 ま で と し た の は 何 故 か 明 ら か に す る こ と 回 答 3 月 17 日 に 実 施 し た ダ イ ヤ 改 正 で 静 岡 車 両 区 の 構 内 運 転 が 静 岡 運

平成16年年金制度改正 ~年金の昔・今・未来を考える~

<819A955D89BF92B28F BC690ED97AA8EBA81418FA48BC682CC8A8890AB89BB816A32322E786C7378>

1 総 合 設 計 一 定 規 模 以 上 の 敷 地 面 積 及 び 一 定 割 合 以 上 の 空 地 を 有 する 建 築 計 画 について 特 定 行 政 庁 の 許 可 により 容 積 率 斜 線 制 限 などの 制 限 を 緩 和 する 制 度 である 建 築 敷 地 の 共 同 化 や

3 体 制 整 備 等 (1) 全 ての 特 定 事 業 主 が 共 同 して 取 組 むものとする () 総 務 部 人 事 管 理 室 人 事 課 を 計 画 推 進 の 主 管 課 とし 全 ての 市 職 員 により 推 進 する (3) 実 施 状 況 を 把 握 し 計 画 期 間 中 で

答申第585号

景品の換金行為と「三店方式」について

異 議 申 立 人 が 主 張 する 異 議 申 立 ての 理 由 は 異 議 申 立 書 の 記 載 によると おおむね 次 のとおりである 1 処 分 庁 の 名 称 の 非 公 開 について 本 件 審 査 請 求 書 等 について 処 分 庁 を 非 公 開 とする 処 分 は 秋 田 県

学校教育法等の一部を改正する法律の施行に伴う文部科学省関係省令の整備に関する省令等について(通知)

(Microsoft Word - \212\356\226{\225\373\220j _\217C\220\263\201j.doc)


Microsoft Word 行革PF法案-0概要


1 リーダーシップと 意 思 決 定 1-1 事 業 所 が 目 指 していることの 実 現 に 向 けて 一 丸 となっている 評 価 項 目 事 業 所 が 目 指 していること( 理 念 基 本 方 針 )を 明 確 化 周 知 している 1. 事 業 所 が 目 指 していること

子ども手当見直しによる家計への影響~高所得者層の可処分所得は大幅減少に

質 問 票 ( 様 式 3) 質 問 番 号 62-1 質 問 内 容 鑑 定 評 価 依 頼 先 は 千 葉 県 などは 入 札 制 度 にしているが 神 奈 川 県 は 入 札 なのか?または 随 契 なのか?その 理 由 は? 地 価 調 査 業 務 は 単 にそれぞれの 地 点 の 鑑 定

<81696D373188A E58A77816A E93788D9191E5834B C8EAE82502E786C73>

第4回税制調査会 総4-1

<6E32355F8D918DDB8BA697CD8BE28D C8EAE312E786C73>

Taro-07-1提言概要.jtd

<4D F736F F D A94BD837D836C B4B92F62E646F6378>

Microsoft Word - 交野市産業振興基本計画 doc

1 林 地 台 帳 整 備 マニュアル( 案 )について 林 地 台 帳 整 備 マニュアル( 案 )の 構 成 構 成 記 載 内 容 第 1 章 はじめに 本 マニュアルの 目 的 記 載 内 容 について 説 明 しています 第 2 章 第 3 章 第 4 章 第 5 章 第 6 章 林 地

Ⅰ 元 請 負 人 を 社 会 保 険 等 加 入 建 設 業 者 に 限 定 平 成 28 年 10 月 1 日 以 降 に 入 札 公 告 指 名 通 知 随 意 契 約 のための 見 積 依 頼 を 行 う 工 事 から 以 下 に 定 める 届 出 の 義 務 ( 以 下 届 出 義 務 と

<4D F736F F D D3188C091538AC7979D8B4B92F F292B98CF092CA81698A94816A2E646F63>

1 書 誌 作 成 機 能 (NACSIS-CAT)の 軽 量 化 合 理 化 電 子 情 報 資 源 への 適 切 な 対 応 のための 資 源 ( 人 的 資 源,システム 資 源, 経 費 を 含 む) の 確 保 のために, 書 誌 作 成 と 書 誌 管 理 作 業 の 軽 量 化 を 図

02【発出】280328福島県警察職員男女共同参画推進行動計画(公表版)

定款

Microsoft Word - 02第3期計画(元データ).doc

(1) 社 会 保 険 等 未 加 入 建 設 業 者 の 確 認 方 法 等 受 注 者 から 提 出 される 施 工 体 制 台 帳 及 び 添 付 書 類 により 確 認 を 行 います (2) 違 反 した 受 注 者 へのペナルティー 違 反 した 受 注 者 に 対 しては 下 記 のペ

 

77

( 別 紙 ) 以 下 法 とあるのは 改 正 法 第 5 条 の 規 定 による 改 正 後 の 健 康 保 険 法 を 指 す ( 施 行 期 日 は 平 成 28 年 4 月 1 日 ) 1. 標 準 報 酬 月 額 の 等 級 区 分 の 追 加 について 問 1 法 改 正 により 追 加

Microsoft Word - 佐野市生活排水処理構想(案).doc

Microsoft Word - 19年度(行情)答申第081号.doc

Microsoft Word - A6001A.doc

<4D F736F F D C93FA967B91E5906B8DD082D682CC91CE899E2E646F6378>

スライド 1

(Microsoft Word - \220\340\226\276\217\221.doc)

Microsoft Word - 05_roumuhisaisoku

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 平 成 27 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 役 名 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 法 人 の 長 A 18,248 11,166 4, ,066 6,42

< F2D8ED089EF95DB8CAF939996A289C193FC91CE8DF42E6A7464>

2 前 項 前 段 の 規 定 にかかわらず 年 俸 制 教 職 員 から 申 し 出 があった 場 合 においては 労 使 協 定 に 基 づき その 者 に 対 する 給 与 の 全 額 又 は 一 部 を 年 俸 制 教 職 員 が 希 望 する 金 融 機 関 等 の 本 人 名 義 の 口

<4D F736F F D2095BD90AC E D738FEE816A939A905C91E D862E646F63>

社会保険加入促進計画に盛込むべき内容

主要生活道路について

70 愛媛大学

係 に 提 出 する 2 財 形 担 当 係 は 前 項 の 規 定 による 財 形 貯 蓄 等 の 申 込 みがあった 場 合 には 当 該 申 込 みの 内 容 を 点 検 し 財 形 貯 蓄 等 の 契 約 の 要 件 ( 第 6 条 に 規 定 する 基 準 を 含 む )を 満 たしている

慶應義塾利益相反対処規程

Microsoft PowerPoint - 【資料5】社会福祉施設職員等退職手当共済制度の見直し(案)について


Microsoft Word - 奨学金相談Q&A.rtf

Microsoft Word - 諮問第82号答申(決裁後)

参 考 様 式 再 就 者 から 依 頼 等 を 受 けた 場 合 の 届 出 公 平 委 員 会 委 員 長 様 年 月 日 地 方 公 務 員 法 ( 昭 和 25 年 法 律 第 261 号 ) 第 38 条 の2 第 7 項 規 定 に 基 づき 下 記 のとおり 届 出 を します この

リクナビ派遣様_生活ラボニュース_リリースPDFフォーマット.PPT

<4D F736F F D B8E968BC695E58F CA A2E646F63>

(6) 事 務 局 職 場 積 立 NISAの 運 営 に 係 る 以 下 の 事 務 等 を 担 当 する 事 業 主 等 の 組 織 ( 当 該 事 務 を 代 行 する 組 織 を 含 む )をいう イ 利 用 者 からの 諸 届 出 受 付 事 務 ロ 利 用 者 への 諸 連 絡 事 務

<6D33335F976C8EAE CF6955C A2E786C73>

長 は10 年 ) にすべきことを 求 める ⑸ 改 善 意 見 として 事 務 引 継 書 にかかる 個 別 フォルダーの 表 示 について 例 えば 服 務 休 暇 全 般 ( 事 務 引 継 書 を 含 む) といったように 又 は 独 立 した 個 別 フォルダーとして 説 明 を 加 え

ような 厚 生 年 金 基 金 関 係 の 法 改 正 がなされており (2)については 平 成 16 年 10 月 1 日 から (1) 及 び(3)については 平 成 17 年 4 月 1 日 から 施 行 されている (1) 免 除 保 険 料 率 の 凍 結 解 除 ( 母 体 企 業 (

Microsoft Word - 通達(参考).doc

文化政策情報システムの運用等

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 平 成 26 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 役 名 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 法 人 の 長 副 理 事 長 A 理 事 16,638 10,332 4,446 1,

就 学 前 教 育 保 育 の 実 施 状 況 ( 平 成 23 年 度 ) 3 歳 以 上 児 の 多 く(4 歳 以 上 児 はほとんど)が 保 育 所 又 は 幼 稚 園 に 入 所 3 歳 未 満 児 (0~2 歳 児 )で 保 育 所 に 入 所 している 割 合 は 約 2 割 就 学

Transcription:

要 旨 本 論 文 の 目 的 は, 日 本 企 業 の 人 材 マネジメントとしての 育 児 期 従 業 員 に 対 する 両 立 支 援 施 策 とその 運 用 が, 育 児 期 の 女 性 正 社 員 の 定 着 と 動 機 づけにもつ 影 響 とそのメカニズムに ついて 理 論 的 に 考 察 し, 実 証 を 行 うことにある. 本 論 での 両 立 支 援 施 策 は, 主 に, 従 業 員 が 仕 事 と 育 児 を 両 立 するにあたって, 企 業 が 提 供 する 諸 人 事 施 策 を 指 す. 具 体 的 には, 育 児 休 業 施 策 と 短 時 間 勤 務 施 策 に 焦 点 を 当 てる. また, 本 論 における 両 立 支 援 施 策 の 運 用 とは, 企 業 の 持 つ 各 自 の 目 的 と 慣 行 に 従 って 導 入 拡 充 された 両 立 支 援 施 策 が 実 際 に 利 用 されるにあたって, 従 業 員 の 組 織 行 動 に 影 響 す るとされる 諸 組 織 経 験 を 指 す.とりわけ, 研 究 対 象 としての 両 立 支 援 施 策 の 運 用 は, 採 用 育 成 評 価 処 遇 といった 人 材 マネジメントの 諸 機 能 を 用 いる 組 織 内 活 動 の 中, 両 立 支 援 施 策 の 主 な 利 用 者 群 としての 女 性 正 社 員 の 認 識 および 態 度 に 影 響 を 与 えるものである. 育 児 期 における 女 性 従 業 員 の 勤 続 と 人 材 マネジメントとの 関 係 を 中 心 にした 多 くの 研 究 は, 女 性 の 就 業 継 続 は 変 化 がなく( 武 石,2006; 武 石 編,2009), 両 立 支 援 施 策 の 利 用 が 女 性 の 雇 用 継 続 に 対 して 必 ずしも 統 計 的 に 有 意 ではないことも 多 く 報 告 されている. 職 業 と 家 庭 生 活 に 関 する 全 国 調 査 を 用 いて 結 婚 出 産 前 後 での 雇 用 非 雇 用 についてロジット 分 析 を 行 った 今 田 (1996)は, 結 婚 前 後 においては 雇 用 継 続 の 割 合 は 高 まっているものの, 出 産 育 児 期 での 雇 用 継 続 は 必 ずしも 高 まっているとは 言 えないと 結 論 づけている.こう いった 見 解 に 関 し 松 繁 (2005)は, 育 児 休 業 取 得 率 の 向 上 がそのまま 低 離 職 率 に 結 びつくわ けではなく, 法 で 定 められた 施 策 の 導 入 やその 利 用 だけでは 女 性 の 就 労 継 続 への 効 果 が 不 十 分 で,より 手 厚 い 施 策 が 講 じなければ 女 性 の 離 職 行 動 に 変 化 を 及 ぼすことはできないと 主 張 している. こういった 流 れのなか, 企 業 における 両 立 支 援 施 策 の 有 効 性 が 実 現 しにくい 問 題 に 向 け て, 法 律 上 の 規 制 に 応 じる 形 の 受 動 的 な 対 応 ではなく, 企 業 内 の 積 極 的 な 取 り 組 みと 意 識 の 変 革 が 伴 わないとうまくいかない,といった 見 方 が 強 まりつつある. 両 立 支 援 施 策 に 関 する 多 くの 研 究 報 告 は, 男 性 中 心 の 人 材 マネジメントに 対 する 懸 念 を 示 すようになってきており, 男 性 を 含 む 働 きすぎの 企 業 文 化 を 是 正 しなければならないと の 見 解 が 多 い( 熊 沢, 2000; 佐 藤 武 石,2004,2010,2011; 櫻 木, 2005; 山 口 樋 口 編, 2009; 山 口, 2009; 武 石 編,2010; 濱 口,2011). 加 えて, 両 立 支 援 施 策 そのものから 他 の 人 事 施 策 との 関 係 を 強 調 し 両 立 支 援 施 策 の 運 用 に 注 目 する 見 解 (ニッセイ 基 礎 研 究 所, 2005, 2006; 脇 坂, 2009)や 両 立 支 援 施 策 を 利 用 するにあたって 当 事 者 が 抱 える 葛 藤 (ワーク ラ

イフ コンフリクト)を 描 写 することで 女 性 従 業 員 の 認 知 心 理 の 側 面 を 扱 っているもの( 櫻 木,2004; 萩 原,2006)など, 組 織 と 従 業 員 との 関 係 を 切 り 口 にした 見 解 は 少 なってきてい る. 両 立 支 援 施 策 の 有 効 性 に 向 けての 理 論 を 構 築 するうえで, 両 立 支 援 施 策 を 単 1 の 施 策 ではなく, 企 業 の 人 材 マネジメント 特 性 と 連 動 し 影 響 しあうシステム 的 な 思 考 で 発 展 した といえよう. 以 上 をまとめると 次 の 4 点 に 表 すことができる.1 女 性 の 就 労 継 続 を 左 右 する 要 因 とし て, 仕 事 と 育 児 との 両 立 の 難 しさが 挙 げられる.2 女 性 の 就 労 継 続 を 促 す 意 味 での 両 立 支 援 施 策 の 有 効 性 がなかなか 得 られない.3 両 立 支 援 施 策 の 有 効 性 を 高 めるにあたって, 両 立 支 援 施 策 の 運 用 に 関 する 要 因 が 指 摘 されることが 多 く, 既 存 の 日 本 的 人 材 マネジメン トに 根 付 く 意 識 の 改 革 および 改 善 が 求 められており,4 企 業 内 部 の 実 態 と 従 業 員 個 人 の 心 理 的 側 面 の 観 点 が 十 分 に 蓄 積 されていないのが 現 状 である. 多 くの 先 行 研 究 が 両 立 支 援 施 策 と 女 性 の 就 労 継 続 との 関 係 を 明 らかにするため 様 々 なアプローチを 行 っており, 本 論 と 類 似 する 問 いである, 両 立 支 援 施 策 の 拡 大 が 女 性 の 就 労 継 続 を 支 援 するはずなのに,なぜ, 育 児 を 理 由 とする 退 職 傾 向 は 改 善 しないのか とい う 問 いに 答 えるために 知 識 の 蓄 積 を 行 ってきたことは 先 述 したとおりである.すなわち, 少 子 化 対 策 として 出 生 率 の 増 加 が 期 待 されてきた 一 方 で, 企 業 では, 業 務 の 効 率 化 および 働 き 方 の 改 革 をもたらす 一 歩 として 期 待 されるようになった.ただし, 第 1 利 用 者 として の 育 児 期 の 女 性 正 社 員 がいかにして 働 き 続 ける 選 択 ができ, 両 立 支 援 施 策 の 運 用 がそのプ ロセスにどのようにかかわるかについての 十 分 な 情 報 の 蓄 積 がされないまま,ワーク ラ イフ バランスという 言 葉 が 一 人 歩 きしているのではないかという 疑 問 を 抱 かざるを 得 な い. そこで, 本 論 は, 両 立 支 援 施 策 への 社 会 的 かつ 理 論 的 な 関 心 が 高 まるなか, 経 営 問 題 と しての 人 材 の 定 着 と 活 用 の 手 段 としての 両 立 支 援 施 策 がどのような 条 件 で 有 効 に 機 能 する かに 関 する 統 一 した 理 論 的 枠 組 みが 欠 如 しているという 問 題 意 識 の 下,それぞれの 問 いと 答 えで 構 成 される 次 の 4 つの 章 をもって, 育 児 期 における 女 性 正 社 員 の 人 材 マネジメント を 考 察 することになった. 第 二 章 では, 両 立 支 援 施 策 の 利 用 と 組 織 行 動 が, 企 業 が 投 資 育 成 してきた 女 性 正 社 員 にとって,どのような 意 味 を 持 つのかについて 問 う.これは, 企 業 側 からすると, 仕 事 と 育 児 を 支 援 する 両 立 支 援 施 策 を 利 用 した 女 性 正 社 員 のうち, 退 職 に 至 る 人 と 勤 続 する 人 を 分 ける 要 因 の 中 で, 企 業 が 統 制 できる 要 因 があるならば, 何 か という 問 いでもある.そ こで, 本 研 究 の 持 つ1つの 特 徴 としての 心 理 的 契 約 理 論 の 採 用 が 行 われることになった.

それぞれに 異 なる 企 業 で 働 く 女 性 正 社 員 8 名 から 得 られた 定 性 的 資 料 を 分 析 した 結 果, 両 立 支 援 施 策 の 利 用 経 験 が 従 業 員 の 心 理 的 契 約 に 影 響 する 可 能 性 が 発 見 されたのである.さ らに, 両 立 支 援 施 策 を 利 用 した 後 に 働 き 続 けている 群 と 退 職 に 至 っている 群 を 比 較 した 場 合 には, 人 材 マネジメント 上 の 運 用 の 役 割 がその 境 目 を 規 定 している 可 能 性 が 窺 えた.す なわち, 調 査 の 対 象 となった 退 職 群 と 勤 続 群 の 間 では, 両 立 支 援 施 策 の 利 用 に 伴 う 人 材 マ ネジメント 上 の 運 用 経 験 が 心 理 的 契 約 を 違 反 するように 働 くか,あるいは 既 存 の 心 理 的 契 約 を 再 定 立 するように 働 くか,という 点 で 異 なっていた. 具 体 的 に, 両 立 支 援 施 策 を 利 用 した 後 に 退 職 した 女 性 正 社 員 は, 両 立 支 援 施 策 を 利 用 することで 経 験 した 人 材 マネジメン トの 運 用 で 企 業 との 長 期 的 な 交 換 関 係 に 期 待 できず, 関 係 的 契 約 の 違 反 から 破 棄 に 至 った. これと 比 較 して, 両 立 支 援 施 策 を 利 用 した 後 に 勤 続 している 女 性 正 社 員 は, 両 立 支 援 施 策 を 利 用 することで 経 験 した 人 材 マネジメントの 運 用 (とりわけ 育 成 機 能 と 評 価 機 能 )で 本 人 たちが 抱 いていた 関 係 的 契 約 の 違 反 への 不 安 を 乗 り 越 え, 企 業 との 長 期 的 な 交 換 関 係 を 期 待 できるようになっていた. 第 三 章 では, 両 立 支 援 施 策 の 運 用 が 持 つ 重 要 性 に 着 眼 し, 企 業 は 実 際 にどのような 考 え 方 に 基 づき, 両 立 支 援 施 策 の 運 用 を 行 っているのかについて 問 う.そのため, 両 立 支 援 施 策 の 運 用 に 関 する 要 因 が 女 性 正 社 員 の 勤 続 有 無 を 左 右 する 役 割 を 持 つにもかかわらず, 企 業 間 に 存 在 する 捉 えきれない 運 用 実 態 はどのように 分 類 比 較 できるのだろうか という 問 いを 立 てた. 企 業 は, 両 立 支 援 施 策 を 利 用 する 従 業 員 の 仕 事 と 育 児 の 両 立 を 支 援 すると いう 福 祉 的 な 側 面 を 考 慮 する 一 方 で, 彼 女 たちを 除 く 正 社 員 のモチベーションと 受 容 をと もに 確 保 しなければいけないのであるが, 先 行 研 究 の 多 くがどちらかの 一 方 の 立 場 だけに 注 目 している.そのため, 既 存 研 究 の 視 点 を 十 分 に 考 慮 しながら, 統 一 的 な 枠 組 みの 必 要 性 を 主 張 した. 具 体 的 には, 既 存 研 究 で 重 視 されてきた 複 数 の 要 因 ( 公 平 性 管 理 者 意 識 両 立 が 可 能 である 組 織 文 化 )は 実 際 の 運 用 に 先 行 し, 企 業 側 が 想 定 するとされる 考 え 方 の 束 が 反 映 された 結 果 でもあり 十 人 十 色 的 な 両 立 支 援 施 策 の 運 用 実 態 を 理 解 するにあた って, 両 立 支 援 施 策 とその 利 用 で 予 想 される 人 材 マネジメント 上 の 運 用 に 対 する 企 業 の 立 場 は 何 かを 求 めなければならない,と 考 えられた.こういった 探 索 的 仮 説 のもと, 日 本 の 大 企 業 で, 両 立 支 援 施 策 を 有 効 に 活 用 している 2 つの 企 業 側 の 意 思 決 定 者 としての 人 事 担 当 者 と 管 理 者 を 対 象 にインタビュー 調 査 を 実 施 した. その 結 果, 少 なくとも 5 つの 意 思 決 定 で 構 成 される,いわば, 両 立 支 援 施 策 の 運 用 原 理 と 称 せるものが 発 見 された. 企 業 は 両 立 支 援 施 策 を 導 入 拡 充 し, 職 場 に 浸 透 させるにあ たって, 組 織 公 正 性 と 経 済 合 理 性 とバランスするために 5 つの 意 思 決 定 を 行 っていた. 具

体 的 には,2 つの 会 社,X 社 と Y 社 は, 各 組 織 における 従 業 員 構 成 と 人 材 マネジメント 上 の 特 徴 を 考 慮 したうえで 両 立 支 援 施 策 の 有 効 な 運 用 に 向 けた 意 思 決 定 を 行 っており,その 結 果, 一 見, 捉 えきれないほど 多 様 な 形 で 現 れる 運 用 のあり 方 が 運 用 原 理 によって 規 定 され ていることが 分 かった.たとえば,5 つの 意 思 決 定 のうち, 両 立 支 援 施 策 の 利 用 者 と 非 利 用 者 で 構 成 される 組 織 において 公 正 性 を 保 つ 手 段 とは 何 か に 対 して,X 社 は 育 成 機 能,Y 社 は 評 価 機 能 を 用 いるように 立 場 が 決 められていた.それゆえに,X 社 では, 運 用 のあり 方 では, 短 時 間 勤 務 者 は 地 域 限 定 社 員 化, 丁 寧 なフィードバック が 重 視 されており, 上 司 の 理 解 および 組 織 文 化 は, 特 別 扱 いはしないように しつつ, 仕 事 を 全 うする 業 務 態 度 を 評 価 するようになっていた.Y 社 では 評 価 機 能 を 用 いた 工 夫 がなされ, 運 用 のあり 方 では, 短 時 間 勤 務 者 は 通 常 勤 務 者 に 比 べ 査 定 が 低 く 設 定 される, 両 立 支 援 施 策 の 利 用 と かかわらず 衡 平 の 評 価 が 重 視 されており, 上 司 の 理 解 および 組 織 文 化 は, 両 立 支 援 施 策 を 利 用 する 選 択 を 支 持 しながら, 貢 献 に 応 じた 誘 因 を 提 供 する という 信 頼 を 築 いてい た. 第 四 章 では, 組 織 と 個 人 間 の 雇 用 関 係 の 手 がかりとしての 心 理 的 契 約 が 両 立 支 援 施 策 の 運 用 で 変 容 するのであれば, 異 なる 運 用 原 理 に 基 づいて 行 われた 運 用 のあり 方 はそこで 働 く 従 業 員 の 心 理 的 契 約 の 変 容 プロセスに 違 いを 生 じさせるのではないか.また,その 変 容 プロセスの 違 いは, 企 業 の 人 材 マネジメント 上,いかなる 役 割 を 果 たすのであろうか と いう 問 いを 立 てた. 企 業 調 査 では,2 つの 企 業 に 勤 める 育 児 期 の 女 性 正 社 員 にも 聞 き 取 り 調 査 を 実 施 分 析 した. 具 体 的 に, 異 なる 運 用 原 理 を 持 つ 2 つの 企 業,X 社 と Y 社 で 働 く 育 児 期 の 女 性 正 社 員 計 13 名 のインタビューから, 育 児 期 の 女 性 正 社 員 が 抱 える 心 理 的 契 約 上 の 葛 藤 が 共 通 していながら,2 社 の 異 なる 両 立 支 援 施 策 の 運 用 原 理 ゆえに, 各 社 で 働 く 女 性 正 社 員 の 葛 藤 プロセスも 異 なっている 可 能 性 を 求 めた. その 結 果,X 社 と Y 社 では 運 用 原 理 において, 両 立 支 援 施 策 を 巡 って 育 成 評 価 といった 人 材 マネジメント 上 の 運 用 を 用 いる 方 法 が 異 なるゆえに, 各 社 に 勤 める 育 児 期 の 女 性 正 社 員 は, 所 属 する 企 業 の 運 用 原 理 による 運 用 のあり 方 を 異 なった 認 識 的 プロセスを 経 ること で, 心 理 的 契 約 の 変 容 を 行 っていた.さらに, 本 研 究 で 期 待 していた 両 立 支 援 施 策 の 効 用 としての 定 着 プロセスには, 従 業 員 が 組 織 に 対 して 表 明 する 重 要 な 認 識 および 態 度 が 含 ま れていた. 具 体 的 には,ロイヤルティの 向 上, 恩 義,チーム メンバーとの 協 同 意 欲 の 強 化, 業 務 に 対 するプロフェショナリズムの 確 立 などが 挙 げられた. 第 四 章 は, 第 三 章 の 対 象 となった 2 つの 企 業 について, 第 一 章 でその 可 能 性 が 示 された 心 理 的 契 約 の 再 定 立 のプロセスを, 運 用 原 理 の 受 容 という 観 点 から 分 析 している 点 に 特 徴

がある. 運 用 実 態 とその 前 後 における 文 脈 を 詳 細 に 記 述 しながら, 両 立 支 援 施 策 の 利 用 経 験 によって 形 成, 修 正,あるいは 安 定 する 従 業 員 側 の 認 識 プロセスに 焦 点 を 当 てた.とり わけ, 人 材 マネジメントの 育 成 機 能 と 評 価 機 能 に 関 わる 運 用 実 態 とその 根 底 にある 企 業 側 の 考 え 方 が, 組 織 と 個 人 間 におけるマッチングに 向 け 雇 用 関 係 の 中 身 を 再 定 義 していく 可 能 性 が 提 示 された. 第 五 章 では, 定 性 的 分 析 を 重 ねることで, 企 業 側 の 両 立 支 援 施 策 の 運 用 原 理 と 従 業 員 側 の 心 理 的 契 約 との 関 係 こそ, 女 性 正 社 員 の 定 着 をもたらす 両 立 支 援 施 策 の 有 効 性 を 確 保 す る 鍵 であることが 分 かった.しかし,この 理 論 は,どの 程 度 一 般 的 な 説 明 力 を 持 つのだろ うか という 問 いを 立 てた. 定 性 的 研 究 から 発 見 された 両 立 支 援 施 策 の 運 用 原 理 と 従 業 員 の 心 理 的 契 約 の 変 容,およびその 結 果 心 理 的 契 約 の 変 化 が 勤 続 意 思 に 与 える 影 響 を 主 に 扱 う.インタビューから 得 られた, 女 性 正 社 員 たちに 共 通 に 見 られた 語 りを 中 心 に 設 問 を 設 計 し, 統 計 分 析 を 行 った. モデルの 検 証 のために, 育 児 期 の 女 性 正 社 員 618 名 を 対 象 とした 定 量 データを 収 集 し 分 析 した.その 結 果, 両 立 支 援 施 策 の 運 用 原 理 の 中,3 つすなわち, 目 的 意 義, 運 用 柔 軟 性, 運 用 一 貫 性 因 子 が 従 業 員 の 心 理 的 契 約 の 変 容 に 対 して, 統 計 的 に 有 意 な 説 明 力 を 持 つことが 分 かった.さらに, 心 理 的 契 約 の 変 容 のなかでも, 両 立 支 援 施 策 の 利 用 前 後 において, 心 理 的 契 約 を 構 成 する 中 身 に 関 係 的 記 述 が 高 い 水 準 で 維 持 された 場 合 に 限 り, 心 理 的 契 約 と 勤 続 意 思 との 間 に 正 の 因 果 関 係 が 生 まれた. 本 論 の 特 徴 と 本 研 究 の 意 義 について, 次 の 3 点 を 述 べることができる. 第 1 に, 既 存 知 識 に 新 たな 概 念 を 付 加 した 点 である. 両 立 支 援 施 策 の 有 効 性 について 研 究 と 議 論 が 増 えている 中, 両 立 支 援 施 策 の 運 用 と 効 果 について, 心 理 的 契 約 理 論 を 採 用 し て 検 討 した 研 究 はほとんどなかった.さらに, 両 立 支 援 施 策 の 運 用 という 実 用 的 な 側 面 に 運 用 原 理 という 概 念 を 導 入 することでより 理 論 的 に 企 業 間 の 比 較 を 行 うことが 可 能 になっ た. 第 2 に, 企 業 側 の 視 点 と 従 業 員 側 の 視 点 をともに 考 慮 しその 間 に 存 在 するやり 取 りのプ ロセスを 観 察 している 点 である. 本 研 究 は, 長 時 間 をかけた 調 査 計 画 の 下, 一 人 ひとりの 協 力 者 に 対 し 丁 寧 な 手 続 きを 経 て 定 性 的 な 資 料 を 収 集 した. 企 業 側 では 運 用 原 理, 従 業 員 側 では 心 理 的 契 約 という 概 念 を 用 い, 調 査 と 分 析 を 重 ねていくことで, 一 方 の 立 場 に 傾 か ないバランスのとれた 議 論 を 試 みた. 第 3 に, 研 究 手 法 として 定 性 定 量 をともに 行 っている 点 である. 定 性 的 調 査 を 持 って 吸 い 上 げられた 多 くの 文 脈 情 報 から 仮 説 とモデルを 作 っていき,もう 一 度, 語 りから 一 般

的 な 記 述 に 変 換 し 定 量 データを 収 集 した.その 結 果, 一 方 では, 定 性 的 分 析 の 利 点 である, 事 象 の 詳 細 な 記 述 と 社 会 現 象 に 付 随 する 多 様 な 要 因 と 例 外 事 例 などの 理 解 も 示 すことがで きた. 他 方 では, 定 量 的 分 析 の 利 点 である, 要 因 間 の 因 果 の 検 証 と 一 般 的 に 共 通 した 主 要 因 を 確 認 することで 実 用 面 に 応 用 できる 可 能 性 が 広 がった. 本 研 究 が 学 問 的 かつ 実 用 的 に 貢 献 した 点 は 次 の 3 つであると 思 われる. 第 1 に, 先 行 研 究 の 多 くが 両 立 支 援 施 策 と 女 性 人 材 の 定 着 または 退 職 との 因 果 関 係 を 前 提 としてきたにもかかわらず,そのメカニズムに 関 する 理 論 的 議 論 が 少 なかった.とりわ け, 人 材 マネジメント 戦 略 と 人 事 施 策 の 運 用 を 捉 えるにあたって 運 用 原 理 と 心 理 的 契 約 概 念 の 導 入 は, 一 方 では, 企 業 が 施 策 を 導 入 し 従 業 員 は 施 策 を 利 用 し 満 足 する という 短 編 的 記 述 から 脱 皮 し, 他 方 では, 両 立 支 援 施 策 を 捉 える 企 業 の 戦 略 的 な 視 点 と 従 業 員 の 合 理 的 な 判 断 とが 整 合 した 際 に, 両 立 支 援 施 策 とその 運 用 は 従 業 員 の 定 着 をもたらす という メカニズムが 明 らかになった.このような 試 みは, 両 立 支 援 施 策 と 女 性 人 材 の 定 着 を 説 明 する 際 に 必 要 とされてきた 統 一 した 枠 組 みの 可 能 性 を 示 唆 した 点 で 学 問 的 な 貢 献 につなが ると 思 われる. 第 2 に, 人 事 施 策 の 運 用 について, 両 立 支 援 施 策 の 運 用 実 態 とそれに 対 する 従 業 員 の 多 様 な 反 応 について 明 らかになっていなかった 側 面 が 多 かった. 本 研 究 では, 定 性 と 定 量 の 双 方 の 研 究 手 法 を 用 いることで, 一 般 的 に 通 用 される 説 明 のみならず, 人 事 施 策 と 従 業 員 の 認 識 との 間 に 存 在 する 様 々な 文 脈 的 情 報 を 提 供 することができた.その 結 果, 個 別 的 な 雇 用 関 係 を 健 全 に 維 持 するにあたって 重 視 されてきた 従 業 員 側 の 視 点 が 明 らかになり, 人 材 の 確 保 と 活 用 における 従 業 員 のライフ ステージに 応 じた 人 材 マネジメントに 関 して 示 唆 を 与 えている. 本 論 では, 企 業 の 人 材 マネジメントが 女 性 正 社 員 の 出 産 というライフ ステージによる 変 化 をどのように 企 業 の 問 題 としてとらえ 対 応 できるか,または, 企 業 は 育 児 の 場 として 家 庭 という 従 業 員 の 私 的 空 間 をどこまでマネジメントできるのか,につい ていくつかの 示 唆 点 がある. 具 体 的 には, 従 業 員 の 家 庭 内 助 力 や 従 業 員 固 有 の 価 値 観 に 働 きかけるのではなく( 私 的 領 域 ),または, 従 業 員 を 満 足 させて 組 織 に 留 めさせるのではな く, 企 業 と 従 業 員 間 の 雇 用 関 係 をすり 合 わせるプロセスを 通 じて 従 業 員 の 納 得 を 確 保 する ように 努 めることこそ, 企 業 の 戦 略 達 成 に 順 応 する 人 材 を 長 期 的 に 確 保 活 用 できる 人 材 マネジメントシステムが 構 築 できる.こういった 視 点 は, 他 のライフ ステージに 面 した 従 業 員 への 対 応 にも 応 用 できる 可 能 性 があり,ひいては, 多 様 化 しつつある 労 働 市 場 へ 対 応 するように 発 展 する 可 能 性 もあると 期 待 したい. 第 3 に, 人 材 マネジメントの 道 具 として 両 立 支 援 施 策 がいかにして 従 業 員 一 人 ひとりの

認 識 と 態 度 に 働 きかけるかについて 問 いかけた 本 研 究 は, 両 立 支 援 施 策 を 用 いた 従 業 員 の マネジメントが, 単 なる 道 具 にとどまらず, 諸 運 用 における 企 業 の 立 場 を 明 確 にするステ ップを 含 むことを 示 唆 している 点 で 実 用 的 な 貢 献 がある.その 中 には, 各 社 の 両 立 支 援 施 策 がなぜ 必 要 でどのような 有 効 性 を 求 めるかについて 経 営 上 の 判 断 がなされる 必 要 性 と, 自 社 の 人 材 マネジメントにおける 両 立 (ワーク ライフ バランス) について 独 自 の 定 義 を 行 う 作 業 の 重 要 性 が 含 まれる. しかしながら, 本 研 究 には 大 きくの 2 つの 限 界 および 課 題 を 含 んでいる. ひとつは, 両 立 支 援 施 策 の 運 用 原 理 という 概 念 は,それを 持 って 企 業 を 分 類 比 較 し, 意 思 決 定 の 組 み 合 わせおよび 強 弱 が 当 該 組 織 の 女 性 正 社 員 の 組 織 行 動 を 予 測 できることを 示 してはじめて, 外 的 妥 当 性 と 信 頼 性 が 確 保 されることになる. 本 研 究 で, 企 業 側 と 従 業 員 側 のマッチングの 現 れとして 従 業 員 の 運 用 原 理 の 受 容 という 視 点 を 用 いてはいるものの, この 概 念 を 詳 細 まで 定 量 的 に 検 証 できる 水 準 まで 至 らなかった. もう 1 つは, 心 理 的 契 約 の 変 容 とその 結 果 としての 従 業 員 の 態 度 変 数 を 求 めるにあたり, 勤 続 意 思 ( 定 年 まで 働 きたい)に 限 って 議 論 を 終 始 している 点 である. 心 理 的 契 約 の 変 容 は 従 業 員 の 定 着 という 結 果 を 持 ってはじめて 心 理 的 契 約 の 再 定 立 という 現 象 を 浮 き 彫 り にする.しかしながら 本 論 文 では, 現 在, 勤 続 中 である 女 性 正 社 員 から 得 た 結 果 を 持 っ て, 心 理 的 契 約 の 変 容 と 心 理 的 契 約 の 再 定 立 という 説 明 が 混 在 している.この 限 界 は, 勤 続 意 思 以 外 の 組 織 行 動 変 数 を 扱 いきれなかったという 限 界 とあいまって, 本 論 における 重 要 な 主 張 につながる 心 理 的 契 約 の 再 定 立 という 概 念 の 意 義 が 薄 まる 問 題 を 生 んでいる. 今 後 の 展 望 として, 上 記 した 2 つの 課 題 に 取 り 組 むことを 含 め,もう 2 つが 加 えられる. 人 材 マネジメントにおける 内 的 外 的 整 合 性 を 発 端 としたシステム 的 なアプローチは 戦 略 的 人 材 マネジメントの 核 心 を 成 している. 本 研 究 は, 他 の 人 事 施 策 と 同 様 に, 両 立 支 援 施 策 を 対 象 とした 人 材 マネジメントにおける 整 合 性 が 組 織 的 効 果 に 与 える 影 響 の 検 証 の 可 能 性 を 示 した. 今 後 は 企 業 と 従 業 員 間 の 雇 用 関 係 に 関 する 多 くの 研 究 蓄 積 を 生 かしつつ, 両 立 支 援 施 策 の 運 用 から 明 らかになった 人 材 マネジメントの 各 機 能 間 の 相 互 作 用 の 効 用 性 を 求 めていくことが 重 要 であろう. また, 両 立 支 援 施 策 の 運 用 原 理 を 用 いた 企 業 側 の 視 点 からは, 組 織 の 哲 学 および 価 値 観 との 関 係 性 が 窺 えた.このことは 組 織 変 革 に 関 わる 研 究 に 拡 張 できる 可 能 性 がある. 従 業 員 の 心 理 的 契 約 の 変 容 がもたらす 多 様 性 は, 人 種 や 文 化 の 多 様 性 に 欠 ける 日 本 企 業 におい て, 特 有 のダイバーシティ マネジメントの 対 象 となりうる.