序 皮 膚 科 医 にとって 膠 原 病 診 療 は 極 めて 重 要 な 領 域 である. 皮 膚 科 が, 膠 原 病 領 域 でその 存 在 価 値 をアピールしていくためには, 皮 膚 科 医 自 身 が 膠 原 病 に 対 する 十 分 かつ 最 新 の 知 識 をもっておく 必 要 がある. それでは, 皮 膚 科 医 は 膠 原 病 診 療 においてどのような 役 割 を 担 うべきなのであろ うか? まず 皮 疹 を 正 しく 診 断 することと,その 皮 疹 からいったい 何 を 読 み 取 る 必 要 があるのかを 他 科 の 医 師 に 明 快 に 伝 えていくことである.たとえば, 全 身 性 エリ テマトーデスの 患 者 で, 冬 季 に 生 じた 手 指 の 皮 疹 について 疾 患 が 増 悪 しているのか どうかについて 内 科 からコンサルトを 受 けた 場 合,もし 凍 瘡 様 皮 疹 であれば 疾 患 活 動 性 との 相 関 は 一 般 的 に 少 ないので, 血 液 検 査 をチェックして 活 動 性 がなければ, 経 過 観 察 でよいと 返 事 ができる.このような 場 合 に 皮 膚 科 医 の 膠 原 病 診 療 における 重 要 性 が 認 識 されるはずである. しかし, 皮 疹 の 評 価 だけでは 不 十 分 といわざるをえない. 皮 疹 を 正 しく 評 価 する ためには, 皮 疹 のみを 診 るのではなく, 膠 原 病 全 体 について 診 断 治 療 を 含 めて 理 解 することが 必 要 となる. 膠 原 病 の 内 臓 病 変 に 対 してどのような 治 療 が 必 要 なのか, ステロイド 抵 抗 性 の 場 合 にはどの 免 疫 抑 制 薬 を 使 用 すべきなのかなど, 実 際 的 な 知 識 をもっていなくてはならない. 膠 原 病 診 療 はオーケストラの 指 揮 にたとえること ができる. 膠 原 病 は 多 臓 器 にわたる 疾 患 であるため,ある 診 療 科 が 中 心 となって, たとえば 呼 吸 器 内 科, 腎 臓 内 科 などと 連 絡 を 取 り 合 い,その 中 で 情 報 を 整 理 して 治 療 方 針 を 決 めていくことになる.その 指 揮 者 となる 診 療 科 が 皮 膚 科 であってもよい のである. このような 観 点 から 本 書 では, 膠 原 病 全 般 の 診 断 治 療 について, 広 くかつ 深 く 最 新 のトピックスも 交 えながら 専 門 家 の 先 生 方 に 執 筆 していただいた. 皮 膚 科 医 で あっても, 積 極 的 に 膠 原 病 診 療 に 関 わり,その 診 療 の 指 揮 者 になろうとする 先 生 方 のお 役 に 立 てれば 編 者 としてこれに 勝 る 喜 びはない. 2011 年 8 月 専 門 編 集 佐 藤 伸 一 東 京 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 皮 膚 科 学
7 Contents 1 2 Raynaud 2 Raynaud 10 3 SLE 16 4 SLE 23 5 30 6 SLE 34 7 SLE 40 8 SLE 44 9 48 10 SLE 51 11 SLE 56 12 B SLE 60 13 SLE 63 14 SLE 68 15 SLE T 70 vii
16 SLE 73 17 78 18 82 19 86 Column 88 20 89 21 94 22 98 23 101 24 104 25 lupus erythematosus tumidus 107 26 1 112 27 2 TGF- 115 28 3 118 29 121 viii
Contents 30 124 31 128 32 131 33 137 34 Raynaud 141 35 144 36 147 37 150 38 154 39 158 40 161 41 B 166 42 169 43 172 44 176 45 179 46 182 ix
47 185 48 190 49 193 50 197 51 200 52 203 53 GM-like SSc 206 54 209 55 214 56 218 57 223 58 amyopathic DM 229 59 trna 232 60 ARS 235 61 238 x
Contents Sjögren 62 Sjögren 246 63 Sjögren 248 64 Sjögren 254 65 262 66 268 67 276 Column 279 Still 68 Still 282 69 290 xi
Column 292 70 294 71 297 72 301 73 304 74 308 Behçet 75 Behçet 312 76 Behçet 315 77 Behçet 319 78 Behçet 322 79 328 xii
Contents 80 TNF- 334 81 IL-6 338 82 341 83 B 344 84 348 85 351 References 354 Index 391 xiii
全 身 性 エリテマトーデス 6 SLE でみられる 皮 膚 病 変 特 異 的 皮 疹 エリテマトーデス(lupus erythematosus:le)の 特 異 的 皮 疹 は, 慢 性 型, *1 5 2 3 亜 急 性 型, 急 性 型 に 分 けることができる *1 ( 土 田 ら,1990 1) ;Watanabe ら, 1995 2) ).LE の 確 定 診 断 に 重 要 で, 存 在 すれば, 少 なくとも LE という 診 断 はできる. 全 身 性 エリテマトーデス(systemic LE:SLE)においては, 慢 性 型 ~ 急 性 型 のいずれの 皮 疹 も 生 じうる.また, 同 一 患 者 に 2 種 類 以 上 の 皮 疹 型 がみられることもしばしばある. 急 性 型 の 皮 疹 がみられる LE は 通 常 SLE である. 慢 性 型 皮 疹 *2 discoid LE DLE DLE *2 特 徴 的 な 萎 縮 性 類 円 形 紅 斑 で, 鱗 屑, 色 素 沈 着 脱 失 を 伴 う. 頸 部 より 上 に 皮 疹 が 限 局 しているときは 限 局 性 DLE 型 皮 疹, 頸 部 より 下 に 皮 疹 が 多 発 するときは 播 種 状 DLE 型 皮 疹 と 呼 ぶ. SLE で 限 局 性 DLE 型 皮 疹 がみられる 例 では, 通 常, 急 性 型 の 皮 疹 が 併 存 する. 播 種 状 DLE 型 皮 疹 を 有 する 場 合 は 急 性 型 皮 疹 の 併 存 がなくて も SLE であることがしばしばある(1 A). 特 に 男 性 SLE においては, 播 種 状 DLE 型 皮 疹 を 有 する 場 合 が 多 いので 注 意 を 要 する. SLE でみられる DLE 型 皮 疹 は, 皮 膚 限 局 性 LE でみられるものと 比 べ て, 萎 縮 瘢 痕 形 成 は 少 なく, 後 述 する 亜 急 性 型 の 皮 疹 (1 B)に 近 い 傾 向 がある. LE 寒 冷 により 増 悪 する DLE 型 皮 疹 の 亜 型 で, 手 指 が 好 発 部 位 である(2 A). 中 間 型 LE(intermediate LE:ILE)~SLE でみられるが,SLE では 軽 症 SLE の 例 が 多 い. 後 述 する 凍 瘡 様 紅 斑 (2 B)とは 区 別 する. LE 脂 肪 織 を 病 変 の 主 座 とする 皮 疹 型 で, 臨 床 的 には 皮 下 硬 結 としてみられ 34
6 SLE 1 播 種 状 DLE 型 皮 疹 と SCLE 型 丘 疹 鱗 屑 性 皮 疹 の 比 較 B A A: 播 種 状 DLE 型 皮 疹 ( 男 性 SLE). B:SCLE 型 丘 疹 鱗 屑 性 皮 疹 (SLE). 2 凍 瘡 状 LE 型 皮 疹 と 凍 瘡 様 紅 斑 の 比 較 A A: 凍 瘡 状 LE 型 皮 疹 (SLE: 特 異 的 皮 疹 ). 固 着 性 の DLE 様 皮 疹 がみられる. B: 凍 瘡 様 紅 斑 (SLE: 非 特 異 的 皮 疹,ただし 一 部 に 特 異 的 皮 疹 の 要 素 あり). B る. 頰 部, 上 腕 伸 側 が 好 発 部 位 である. 病 変 部 に DLE 型 皮 疹 が 併 存 する 場 合 としない 場 合 がある. ILE でみられることが 多 いが,SLE でも 生 じうる. *3 亜 急 性 型 皮 疹 SCLE 型 環 状 紅 斑 (3 A)と SCLE 型 丘 疹 鱗 屑 性 皮 疹 (1 B)がある. *3 subacute cutaneous LE SCLE 35
3 亜 急 性 型 皮 疹 A B C A:SCLE 型 環 状 紅 斑 (SLE). B:SjS 型 環 状 紅 斑 (Sjögren 症 候 群 )( 母 ). C: 新 生 児 LE の 環 状 紅 斑 ( 子 ).B,C は 母 子 例. 特 に SCLE 型 環 状 紅 斑 は 抗 SS A 抗 体 と 密 接 に 関 係 した 皮 疹 型 である. ILE~SLE でみられるが, 日 本 人 では,この 皮 疹 単 独 例 は 少 なく, 診 断 としては SLE であることが 多 い. Sjögren 症 候 群 (SjS)においても, 抗 SS A 抗 体 ないしは 抗 SS B 抗 体 が 密 接 に 関 与 する 環 状 紅 斑 (SjS 型 環 状 紅 斑 )がみられる(3 B). 典 型 例 では,SCLE 型 環 状 紅 斑 に 比 べ, 表 皮 変 化 が 少 ない( 臨 床 的 には 鱗 屑 などの 所 見 が 乏 しい)が,その 中 間 型 もしばしば 存 在 する. SCLE 型 環 状 紅 斑 および SjS 型 環 状 紅 斑 のいずれも 抗 SS A 抗 体 が 関 与 する 点 に 共 通 の 基 盤 がある.SCLE 型 環 状 紅 斑 は 白 人 に,SjS 型 環 状 紅 斑 は 東 洋 人 に 多 くみられる. 抗 SS A(ないし 抗 SS B) 抗 体 陽 性 の 母 親 から 抗 体 が 経 胎 盤 的 に 移 行 して 生 じる 新 生 児 エリテマトーデス(neonatal LE:NLE)の 環 状 紅 斑 は, SCLE 型 環 状 紅 斑 と SjS 型 環 状 紅 斑 の 両 者 の 要 素 がみられる(3 C). 36
6 SLE 4 蝶 形 紅 斑 (SLE) 急 性 型 皮 疹 いわゆる 蝶 形 紅 斑 が 代 表 である(4). 手 に も 同 様 の 意 義 を 有 す る 皮 疹 がみられる. この 皮 疹 型 を 有 する LE は 通 常 SLE である.SLE の 全 身 症 状 と 最 も 関 係 する 皮 疹 型 である. 特 殊 型 皮 疹 (5 A) 病 勢 と 関 係 する. 男 性 SLE で 多 くみられる. LE (5 B) Ⅶ 型 コラーゲンに 対 する 自 己 抗 体 が 関 与 する. (5 C) 高 頻 度 に 中 枢 神 経 症 状 を 生 じる. 非 特 異 的 皮 疹 多 くは 血 管 循 環 障 害 に 関 係 する 皮 疹 で,SLE の 早 期 発 見 に 重 要 な 徴 候 である.ただし,SLE 以 外 の 疾 患 でもみられるため, 診 断 においては 他 の 所 見 と 併 せて 判 断 することが 必 要 である. CLE では 通 常 みられないので,LE のなかで CLE か ILE~SLE かを 診 断 する 際 にも 役 に 立 つ 所 見 である. 37
5 特 殊 型 皮 疹 A B C A: 結 節 性 皮 膚 ループスムチン 症 (SLE). B: 水 疱 性 LE 型 皮 疹 (SLE). C: 血 管 炎 型 皮 疹 (SLE). 凍 瘡 様 皮 疹 寒 冷 によって 悪 化 する 凍 瘡 様 皮 疹 には 3 種 類 ある. 第 一 には,DLE 型 皮 疹 の 亜 型 である 凍 瘡 状 LE 型 皮 疹 (2 A)で,LE の 特 異 的 皮 疹 である. 第 二 には, LE の 特 異 的 皮 疹 の 要 素 のある( 組 織 学 的 に 表 皮 基 底 層 液 状 変 性 あり) 凍 瘡 様 紅 斑, 第 三 には 非 特 異 的 皮 疹 としての 凍 瘡 様 紅 斑 (2 B)である. 手 指 の 血 管 循 環 障 害 *4 Raynaud Raynaud *4 Raynaud 現 象 は, 全 身 性 強 皮 症 (systemic sclerosis:ssc)で 最 も 高 頻 度 かつ 高 度 に 出 現 するが,SLE, 皮 膚 筋 炎 (dermatomyositis:dm)で もみられる. アクロチアノーゼは SLE,SSc で, 凍 瘡 様 紅 斑 は SLE および SjS でみ られる.ただし,ここでいう 凍 瘡 様 紅 斑 (2 B)は,LE の 特 異 疹 とし て 前 述 した DLE 型 皮 疹 の 亜 型 である 凍 瘡 状 LE 型 皮 疹 (2 A)とは 区 別 して 用 いる( Box). 凍 瘡 様 紅 斑 はしばしば SLE や SjS の 初 発 症 状 38
6 SLE として 出 現 する. 爪 囲 紅 斑 は,DM で 最 も 顕 著 にみられ,SLE,SSc でもみられる. SSc で 高 頻 度 にみられる.DM でもしばしばみられるが SLE ではまれで ある. 血 流 障 害 が 高 度 になれば 潰 瘍, 壊 疽 を 生 じる.SSc で 最 も 問 題 になるが, SLE, 関 節 リウマチ(rheumatoid arthritis:ra)でも 時 にみられる. 手 指 以 外 の 血 管 循 環 障 害 真 皮 皮 下 組 織 境 界 部 の 動 脈 性 血 流 障 害 を 反 映 する 所 見 である. 血 管 炎 または 循 環 障 害 ( 抗 リン 脂 質 抗 体 症 候 群 など)により 生 じる. 前 者 の 代 表 が, 結 節 性 多 発 動 脈 炎 (polyarthritis nodosa:pn)である. SLE においてもリベドは 約 半 数 にみられる 所 見 であるが, 上 記 いずれの 機 序 によっても 生 じうる. PN,SSc,RA,SLE,DM のいずれでもみられる. SLE でリベドに 伴 う 潰 瘍 や 白 色 皮 膚 萎 縮 (atrophie blanche 様 皮 疹 )を みた 場 合 は, 抗 リン 脂 質 抗 体 症 候 群 の 合 併 を 考 え, 特 に 中 枢 神 経 症 状 の 発 現 に 注 意 する. 紫 斑 をみたときは,1 血 小 板 異 常,2 凝 固 因 子 異 常,3 血 管 脆 弱 性, 4 血 管 炎,5 血 中 異 常 蛋 白,6 血 管 内 圧 上 昇 のいずれの 機 序 により 生 じているかを 必 ず 考 える. SLE のみならず, 膠 原 病 のいずれの 疾 患 でも 生 じうる. 口 蓋 部 のびらん 潰 瘍 は SLE の 急 性 期 にみられることが 多 い. 疾 患 活 動 性 と 関 連 し, 特 に 漿 膜 炎 との 関 連 が 高 い. 脱 毛 は SLE において 高 頻 度 にみられる.びまん 性 脱 毛 は 可 逆 的 だが, DLE 型 皮 疹 が 頭 部 にできた 場 合 は 放 置 すれば 永 久 脱 毛 になる. 石 灰 沈 着 は SSc および DM でみられるが, 深 在 性 LE 型 皮 疹 でも 生 じる ことがある. ( 土 田 哲 也 ) 文 献 は 巻 末 に 収 載 39