第 52 回 千 葉 県 公 衆 衛 生 学 会 優 秀 演 題 実 践 報 告 動 脈 硬 化 危 険 因 子 保 有 者 に 対 する 頸 動 脈 超 音 波 検 査 の 有 用 性 木 村 友 子 1 藤 本 恭 子 1 大 輪 孝 子 1 石 川 伸 子 1 山 地 治 子 1 杉 山 園 美 1 角 南 祐 子 1 鈴 木 公 典 1 Usefulness of the Carotid Sonography for the Persons with Risk Factors for Arteriosclerosis Tomoko Kimura 1, Kyoko Fujimoto 1, Takako Ohwa 1, Nobuko Ishikawa 1, Haruko Yamaji 1, Sonomi Sugiyama 1, Yuko Sunami 1, Kiminori Suzuki 1 要 旨 当 財 団 では 人 間 ドックや 脳 ドック 労 災 二 次 健 診 や 動 脈 硬 化 管 理 検 診 等 で 頸 動 脈 超 音 波 検 査 を 実 施 している 生 活 習 慣 を 改 善 する 上 で 保 健 指 導 等 と 連 携 して 実 施 していくのが 理 想 であるが 任 意 検 査 のため 実 態 の 把 握 が 充 分 にできず 保 健 指 導 に 活 かされていないのが 現 状 である 今 後 保 健 指 導 や 栄 養 相 談 等 と 連 携 した 管 理 検 診 を 提 案 するにあたり 頸 動 脈 超 音 波 検 査 の 現 状 を 把 握 する 目 的 で 当 財 団 総 合 健 診 センターにおける 頸 動 脈 超 音 波 検 査 結 果 を 集 計 した 頸 動 脈 内 に 内 中 膜 肥 厚 ( 以 下 IMT 肥 厚 )を 認 めた 者 は 全 体 の61.1% 隆 起 性 病 変 ( 以 下 プラーク)は 全 体 の 43.3%に 認 められた 動 脈 硬 化 危 険 因 子 別 にプラーク 出 現 頻 度 を 比 較 すると 脂 質 異 常 及 び 高 血 圧 の 両 方 を 指 摘 された 者 の89.9%にプラークが 認 められ さらに 高 血 糖 を 併 せ 持 つと プラーク 出 現 頻 度 は 96.1%に 上 昇 する 結 果 となった また 動 脈 狭 窄 率 50% 以 上 のものが9 人 (1.9%)に 認 められたが 危 険 因 子 が 肥 満 (BMI=28.5) 及 び 脂 質 異 常 (HDLコレステロール38mg/dl)だけの 比 較 的 軽 度 な 症 例 でも 高 度 狭 窄 例 があった 自 覚 症 状 がなく 生 活 習 慣 の 改 善 に 消 極 的 な 動 脈 硬 化 危 険 因 子 保 有 者 に 対 しては 頸 動 脈 超 音 波 検 査 を 積 極 的 に 実 施 し 健 康 診 断 後 の 保 健 指 導 部 門 と 連 携 して 経 過 観 察 管 理 指 導 に 活 かしてい くことを 提 言 したい ( 調 査 研 究 ジャーナル2015;4(1):27-33) キーワード: 頸 動 脈 超 音 波 検 査 動 脈 硬 化 危 険 因 子 マルチプルリスクファクター 症 候 群 内 中 膜 複 合 体 厚 (intima-media thickness;imt) プラーク はじめに 動 脈 硬 化 が 原 因 となる 病 気 には 心 臓 病 の 中 で 多 くを 占 める 心 筋 梗 塞 や 狭 心 症 などの 虚 血 性 心 疾 患 脳 血 管 疾 患 の 半 数 以 上 を 占 める 脳 梗 塞 大 動 脈 瘤 下 腿 の 壊 疽 を 引 き 起 こす 閉 塞 性 動 脈 硬 化 症 などがある いずれも 死 亡 原 因 または 重 篤 な 後 遺 症 を 引 き 起 こす 重 大 な 疾 患 である これらの 疾 患 を 予 防 し 健 康 で 質 の 高 い 生 活 を おくるためには 動 脈 硬 化 の 状 態 を 早 期 に 把 握 連 絡 先 : 木 村 友 子 261-0002 千 葉 市 美 浜 区 新 港 32-14 1 公 益 財 団 法 人 ちば 県 民 保 健 予 防 財 団 (E-mail:to-kimura@kenko-chiba.or.jp) (Received 19 Dec 2014 / Accepted 20 Feb 2015) し 適 切 な 治 療 を 受 けることが 重 要 であると 考 える 生 活 習 慣 病 に 起 因 した 動 脈 硬 化 性 疾 患 脳 心 血 管 疾 患 は 増 加 を 続 け 40~74 歳 までの 日 本 人 は 男 性 の2 人 に1 人 女 性 の5 人 に1 人 がメ タボリックシンドロームであると 言 われている 1) こうした 背 景 の 中 頸 動 脈 超 音 波 検 査 は 動 脈 硬 化 性 血 管 病 変 を 非 侵 襲 的 にリアルタイム で 評 価 できることから 普 及 してきた ちば 県 民 保 健 予 防 財 団 では 2001 年 の 厚 生 労 働 省 通 達 に よる いわゆる 労 災 二 次 検 診 の 動 脈 硬 化 判 定 に 頸 動 脈 超 音 波 検 査 が 採 用 されたことをスタート とし 人 間 ドック 脳 ドック 循 環 器 管 理 検 診 動 脈 硬 化 危 険 因 子 が 重 複 する いわゆる マルチプルリスクファクター 症 候 群 のスク リーニング 虚 血 性 脳 血 管 障 害 の 原 因 検 索 心 27
調 査 研 究 ジャーナル 2015 Vol.4 No.1 血 管 系 合 併 症 のリスク 判 断 等 においても 頸 動 脈 超 音 波 検 査 を 積 極 的 に 導 入 し 動 脈 硬 化 の 早 期 診 断 早 期 治 療 及 び 治 療 効 果 の 判 定 に 利 用 して いる また 生 活 習 慣 の 改 善 をすすめる 上 でエ ビデンスとして 活 用 している 頸 動 脈 超 音 波 検 査 結 果 を 保 健 指 導 に 活 用 する ことの 利 点 を 明 確 にするために 二 次 健 診 で 実 施 した 頸 動 脈 超 音 波 検 査 の 実 態 と 動 脈 硬 化 危 険 因 子 高 血 糖 高 血 圧 脂 質 異 常 肥 満 喫 煙 との 関 連 について 検 討 するとともに 頸 動 脈 狭 窄 がみられた 症 例 についての 検 討 も 行 なった 対 象 と 方 法 1. 対 象 対 象 は2012 年 4 月 ~2013 年 3 月 までの1 年 間 に 当 財 団 総 合 健 診 センターで 健 康 診 断 を 受 診 した 結 果 動 脈 硬 化 危 険 因 子 ( 高 血 糖 高 血 圧 脂 質 異 常 肥 満 喫 煙 )を 複 数 指 摘 され 頸 動 脈 超 音 波 検 査 を 受 けた471 人 ( 男 性 384 人 女 性 87 人 )で 平 均 年 齢 は 52.8 歳 である 2. 方 法 1) 検 査 方 法 頸 動 脈 超 音 波 検 査 の 方 法 は 日 本 脳 神 経 超 音 波 学 会 と 動 脈 硬 化 性 疾 患 のスクリーニング 法 に 関 する 研 究 班 により 示 された 頸 動 脈 エコ ーによる 動 脈 硬 化 性 病 変 評 価 のガイドライン 2) に 準 拠 し 日 本 超 音 波 医 学 会 早 期 動 脈 硬 化 研 究 会 千 葉 頸 動 脈 エコー 研 究 会 の 推 奨 する 走 査 法 3) をもとに 財 団 が 独 自 に 作 成 した 標 準 作 業 書 に 基 づいて 実 施 した 2) 観 察 領 域 まず 短 軸 で 総 頸 動 脈 (common carotid artery; CCA) 起 始 部 から 頭 側 に 向 かって 走 査 血 管 走 行 内 中 膜 肥 厚 ( 以 下 IMT) 内 頸 動 脈 ( internal carotid artery; ICA ) と 外 頸 動 脈 (external carotid artery; ECA)の 分 岐 の 状 態 病 変 の 位 置 関 係 などを 観 察 し 次 に 短 軸 での 観 察 を 参 考 に 長 軸 で 総 頸 動 脈 の 球 部 ~ 内 頸 動 脈 外 頸 動 脈 を 観 察 した 短 軸 像 も 参 考 にしながら 遠 位 壁 近 位 壁 のそれぞれのIMTを 計 測 後 最 大 IMTを 決 定 している IMT 及 び 隆 起 性 病 変 ( 以 下 プラーク)の 有 る 場 合 必 ず 短 軸 像 で 計 測 し 長 軸 短 軸 像 での 計 測 値 に 差 がないこ とを 確 認 している 左 右 ともに 総 頸 動 脈 ( common carotid artery; CCA) 頸 動 脈 球 部 ( bulbus; Bul or bifurcation; Bif ) 内 頸 動 脈 (internal carotid artery; ICA)を 必 須 観 察 領 域 とし 観 察 可 能 な 場 合 は 必 要 に 応 じて 外 頸 動 脈 ( external carotid artery; ECA ) 椎 骨 動 脈 ( vertebral artery ; VA ) 鎖 骨 下 動 脈 (subclavian artery; SCA)を 追 加 した 狭 窄 病 変 が 認 められた 場 合 には 狭 窄 率 の 評 価 には ECST 法 (European Carotid Surgery Trial)を 用 いた 3) 使 用 装 置 等 東 芝 社 製 AplioSSA-790A SSA-780A SSA- 770A プローブは 中 心 周 波 数 7.5MHzの 高 周 波 リニア 型 を 用 いた 頸 部 が 太 く 深 部 が 不 鮮 明 な 場 合 は 中 心 周 波 数 3.5 MHz 前 後 のセクタ 型 プローブも 併 用 した 4) 集 計 危 険 因 子 の 判 定 基 準 値 は 次 のとおりとした 1 高 血 圧 : 収 縮 期 血 圧 ( 最 高 血 圧 ) 130mmHg 以 上 拡 張 期 血 圧 ( 最 低 血 圧 ) 85mmHg 以 上 いずれか または 両 方 または 治 療 中 2 脂 質 異 常 : 中 性 脂 肪 150mg/dl 以 上 HDLコレステロール40mg/dl 未 満 いずれか ま たは 両 方 または 治 療 中 3 高 血 糖 : 空 腹 時 血 糖 110mg/dl 以 上 またはHbA1c 5.6% 以 上 4 肥 満 :BMI( Body Mass Index) 25.0 以 上 5 喫 煙 : 現 在 タバコを 吸 っている 最 大 内 膜 中 膜 厚 ( 以 下 Max IMT)1.1mm 以 上 を IMT 肥 厚 あり 頸 動 脈 内 の1.1mm 以 上 のプラークを プラークあり とした 動 脈 狭 窄 については 50% 以 上 の 狭 窄 を 認 めた 場 合 に 狭 窄 あり とした 病 変 の 有 無 及 び 動 脈 硬 化 危 険 因 子 との 関 連 について 危 険 因 子 別 保 有 個 数 別 に 比 較 検 討 した 5) 統 計 各 有 所 見 者 数 のクロス 集 計 は カイ2 乗 検 定 により 検 討 し p<0.05を 有 意 とした 平 均 値 の 比 較 はt 検 定 により 検 討 した 3. 倫 理 的 配 慮 本 研 究 は 当 財 団 の 疫 学 臨 床 倫 理 審 査 委 員 会 の 承 認 を 得 て 実 施 した 結 果 1. 性 別 年 齢 階 級 別 受 診 者 数 性 別 年 齢 階 級 別 の 受 診 者 数 と 割 合 を 図 1に 示 す 動 脈 硬 化 危 険 因 子 が 重 複 する いわゆる 多 重 危 険 因 子 保 有 者 ( 以 下 マルチプルリスク ファクター 保 有 者 )で 頸 動 脈 超 音 波 検 査 受 診 者 471 人 の 年 齢 分 布 は 男 性 では50 代 が274 人 ( 71.4 % ) と 最 も 多 く 次 いで40 代 の64 人 (16.6%) 女 性 では 50 代 が70 人 (80.5%) 40 代 8 人 (9.2%)であった 男 女 とも50 代 に 該 当 者 が 最 も 多 かった 全 体 では 男 性 が384 人 (81.5%) 女 性 が87 人 (18.5%)であった 2. 受 診 者 が 保 有 する 動 脈 硬 化 危 険 因 子 動 脈 硬 化 危 険 因 子 保 有 数 が2 個 の 該 当 者 は 28
男 性 が185 人 (48.2%) 女 性 が51 人 (58.6%) であった 男 性 では 高 血 圧 及 び 高 血 糖 が 59 人 (15.4%)で 最 も 多 く 女 性 では 高 血 圧 及 び 脂 質 異 常 が14 人 (16.1%)と 最 多 であ った 保 有 数 が3 個 の 該 当 者 は 男 性 が134 人 (34.9%) 女 性 が24 人 (27.6%)で 高 血 圧 脂 質 異 常 高 血 糖 のいわゆる3 大 危 険 因 子 保 有 者 が 男 性 で46 人 ( 12.0% ) 女 性 で9 人 (10.3%)と 最 も 多 い 結 果 であった 保 有 数 が 4 個 以 上 の 該 当 者 は 男 性 が65 人 (16.9%) 女 性 が12 人 (27.6%)であった( 表 1) 3. 性 別 年 齢 階 級 別 IMT 肥 厚 及 びプラーク 出 現 率 頸 動 脈 内 にIMT 肥 厚 を 認 めた 者 は288 人 (61.1%) 男 性 では240 人 (62.5%)で 40 歳 未 満 で52.2% 40 代 で82.8% 50 代 で56.6% 60 代 で84.2% 70 歳 以 上 で.0%と すべて の 年 齢 階 級 で 半 数 以 上 にIMT 肥 厚 が 認 められた 女 性 では48 人 (55.2%)で 40 代 で62.5% 50 代 で54.3% 40 歳 未 満 で50.0%と 半 数 以 上 であ ったが 60 代 では33. 3%であった プラークは 男 性 166 人 (43.2%) 女 性 38 人 (43.7%) 合 計 204 人 (43.3%)に 認 められた 年 代 別 のプラーク 出 現 頻 度 は 70 歳 以 上 では 全 員 にプラークが 認 められ 男 性 では 40 代 65.6% 50 代 で36.1%に 女 性 では 40 代 で 50.0% 50 代 で41.4%にプラークが 出 現 してい た 最 も 該 当 数 が 多 い50 代 では 男 性 に 比 較 し 女 性 に 高 頻 度 でプラークが 認 められた( 表 2) 4. 動 脈 硬 化 危 険 因 子 別 の 有 所 見 数 と 有 所 見 率 図 1で 示 したとおり 対 象 者 が 性 別 ( 男 性 81.5%) 年 齢 階 級 (50 代 73.0%)で 大 きく 偏 りが 生 じたため 危 険 因 子 別 のIMT 肥 厚 及 びプ ラーク 出 現 率 については 全 体 での 集 計 とした IMT 肥 厚 を 認 めた288 人 のうち 最 も 多 い273 人 ( 94.8% ) は 高 血 圧 保 有 者 で 次 いで212 人 (73.6%)の 高 血 糖 保 有 者 であった プラーク が 認 められた204 人 のうち195 人 (95.6%)が 脂 質 異 常 で 194 人 (95.1%)は 高 血 圧 であった ( 表 3) 5.マルチプルリスクファクター 症 候 群 のプラ ーク 出 現 率 マルチプルリスクファクター 症 候 群 の 中 では 脂 質 異 常 及 び 高 血 圧 の 両 方 を 指 摘 された 者 の 89.9%にプラークが 認 められ さらに 高 血 糖 を 併 せ 持 つと プラーク 出 現 頻 度 は 96.1%に 上 昇 する 結 果 となった( 図 2) 6. 頸 動 脈 狭 窄 例 さらに 頸 動 脈 狭 窄 率 50% 以 上 のものが9 人 (1.9%)に 認 められ 頸 動 脈 狭 窄 該 当 者 には 高 血 糖 肥 満 高 血 圧 高 年 齢 という 特 徴 があった そのなかには 危 険 因 子 は 肥 満 300 250 200 150 50 0 23 64 4 8 274 70 19 男 性 N=384 女 性 N=87 3 4 2 40 歳 未 満 40~49 歳 50~59 歳 60~69 歳 70 歳 以 上 図 1 性 別 年 齢 階 級 別 受 診 者 数 保 有 数 2 個 保 有 数 3 個 表 1 マルチプルリスクファクター 保 有 者 数 と 割 合 動 脈 硬 化 危 険 因 子 男 性 n=384 女 性 n=87 全 体 n=471 実 数 % 実 数 % 実 数 % 高 血 圧 + 高 血 糖 59 15.4 6 6.9 65 13.8 脂 質 異 常 + 高 血 糖 55 14.3 10 11.5 65 13.8 高 血 圧 + 脂 質 異 常 30 7.8 14 16.1 44 9.3 肥 満 + 高 血 糖 24 6.3 8 9.2 32 6.8 その 他 17 4.4 13 14.9 30 6.4 計 185 48.2 51 58.6 236 50.1 高 血 圧 + 脂 質 異 常 + 高 血 糖 46 12.0 9 10.3 55 11.7 肥 満 + 高 血 圧 + 脂 質 異 常 24 6.3 4 4.6 28 5.9 肥 満 + 高 血 圧 + 高 血 糖 20 5.2 4 4.6 24 5.1 肥 満 + 脂 質 異 常 + 高 血 糖 24 6.3 2 2.3 26 5.5 その 他 20 5.2 5 5.7 25 5.3 計 134 34.9 24 27.6 158 33.5 保 有 数 4 個 以 上 65 16.9 12 13.8 77 16.3 29
調 査 研 究 ジャーナル 2015 Vol.4 No.1 と 脂 質 異 常 だけで 年 齢 が40 代 と 若 く 自 覚 症 状 がないという 症 例 もみられた( 図 3) 症 例 は 40 代 男 性 30 代 より 脂 質 異 常 を 指 摘 されていた が 仕 事 が 忙 しく 食 事 が 不 規 則 なこともあり 食 生 活 や 運 動 習 慣 に 関 しては 無 関 心 であった 年 々 体 重 が 増 加 し 特 にこの1 年 間 では6kgの 体 重 増 加 がみられ BMI=28.5と 危 険 因 子 が 複 数 となった 動 脈 内 には 石 灰 化 を 伴 う 可 動 性 の 不 安 定 プラークを 認 め さらに 閉 塞 を 示 唆 す る 血 流 速 の 低 下 が 認 められた 即 日 脳 外 科 へ 紹 介 となり 内 頸 動 脈 狭 窄 症 と 診 断 され 抗 血 小 板 薬 投 与 の 治 療 を 開 始 したと 報 告 を 受 けた 考 察 健 常 者 を 対 象 とした 頸 動 脈 超 音 波 検 査 結 果 に ついては 加 齢 とともにIMT 肥 厚 が 増 高 する 傾 向 にあることが 多 く 報 告 されている 3 9) 寺 島 ら 10) は 若 年 から 高 齢 者 までは 加 齢 ととも にIMTが 増 高 し 70 代 でもその 平 均 値 は1.0mm を 超 えないと 報 告 している この 結 果 は 半 田 ら 11 ) の 報 告 でも 異 論 のないところである 我 々が 既 に 報 告 した 結 果 5) でも 同 様 であった また 健 常 者 の 頸 動 脈 プラークの 有 無 での 検 討 では 本 間 ら 12) は 人 間 ドック 受 診 者 のうち 高 血 圧 糖 尿 病 の 病 歴 がない 集 団 において 60 代 以 下 では 頸 動 脈 プラークを 認 めなかったとし また 木 暮 ら 13) は 健 常 者 においてプラークは 50 歳 未 満 ではみられず 50 代 で5% 60 代 で 7%の 出 現 頻 度 に 対 し 70 代 で24% 80 代 で 27%に 出 現 し 70 歳 を 境 に 急 激 に 増 加 したと 報 告 している 今 回 のマルチプルリスファクター 症 候 群 と 我 々の 健 常 者 の 結 果 5) でプラーク 出 現 率 を 比 較 すると 図 4に 示 すとおり 健 常 者 においては 表 2 性 別 年 齢 階 級 別 IMT 肥 厚 及 びプラーク 出 現 率 男 性 n=384 女 性 n=87 全 体 n=471 年 齢 IMT 肥 厚 あり プラークあり IMT 肥 厚 あり プラークあり IMT 肥 厚 あり プラークあり 実 数 % 実 数 % 実 数 % 実 数 % 実 数 % 実 数 % 40 歳 未 満 12 52.2 11 47.8 2 50.0 2 50.0 14 55.6 13 48.1 40~49 歳 53 82.8 42 65.6 5 62.5 4 50.0 58 80.6 46 63.9 50~59 歳 155 56.6 99 36.1 38 54.3 29 41.1 193 56.1 128 37.2 60~69 歳 16 84.2 10 52.6 1 33.3 1 33.3 17 77.3 11 50.0 70 歳 以 上 4.0 4.0 2.0 2.0 6.0 6.0 合 計 240 62.5 166 43.2 48 55.2 38 43.7 288 61.1 204 43.3 表 3 動 脈 硬 化 危 険 因 子 別 IMT 肥 厚 及 びプラーク 出 現 率 頸 動 脈 超 音 波 検 査 項 目 実 数 (%) 男 性 ( 全 体 に 占 める%) 女 性 ( 全 体 に 占 める%) 計 IMT (Max) プラーク 狭 窄 率 肥 厚 なし 肥 厚 あり p 値 なし あり p 値 50% 以 上 471() 183(38.9) 288(61.1) 267(56.7) 204(43.3) 9(1.9) 384(81.5) 144(78.7) 240(83.3) ns 218(81.6) 166(81.4) ns 6(66.7) 87(18.5) 39(21.3) 44(16.7) 49(18.4) 38(18.6) 3(33.3) 年 齢 ( 平 均 ± 標 準 偏 差 ) 52.8±7.0 52.5±6.7 53.0±7.1 ns 52.7±6.2 52.9±7.9 ns 58.1±10.5 動 脈 硬 化 危 険 因 子 の 保 有 数 (%) 肥 満 218(46.2) 82(44.8) 136(47.2) ns 119(44.6) 99(48.5) ns 6(66.7) 高 血 糖 360(76.4) 148(80.9) 212(73.6) ns 220(82.4) 140(68.6) *** 7(77.8) 高 血 圧 319(67.7) 47(25.1) 273(94.8) *** 125(46.8) 194(95.1) *** 8(88.9) 脂 質 異 常 316(67.1) 112(61.2) 204(70.8) * 121(45.3) 195(95.6) *** 8(88.9) 喫 煙 55(11.7) 18 (9.8) 37(12.8) ns 31(11.6) 24(11.8) ns 5(55.6) 2 個 236(50.1) 143(78.1) 93(32.3) 191(71.5) 45(22.1) 2(22.2) 保 有 数 (%) *** *** 3 個 以 上 235(49.9) 40(21.9) 195(67.7) 76(28.5) 159(77.9) 7(77.8) 動 脈 硬 化 危 険 因 子 の 保 2.7±0.82 2.2±0.41 3.0±0.86 *** 2.3±0.51 3.2±0.86 *** 3.8±1.30 有 数 ( 平 均 ± 標 準 偏 差 ) ns:p>0.05 *:p<0.05 **:p<0.01 ***:p<0.001 30
40 歳 未 満 では 男 女 ともプラークがみられず 加 齢 とともにゆるやかに 増 加 を 示 した マルチプ ルリスクファクター 症 候 群 では 加 齢 により 頸 動 脈 プラークの 出 現 率 は 増 すものの 健 常 者 に 比 べ いずれの 年 齢 階 級 においても マルチプ ルリスクファクター 症 候 群 の 方 がプラーク 出 現 率 が 高 かった このことからも 動 脈 硬 化 危 険 因 子 によりプラーク 出 現 頻 度 が 上 がることが 確 認 できた 今 回 のマルチプルリスクファクター 症 候 群 は 年 齢 分 布 が 極 端 に50 代 に 偏 っている ( 全 体 の73.0%)ため 若 年 者 と 高 齢 者 に 関 し ては 充 分 な 検 討 ができなかったが 最 も 対 象 数 が 多 い50 代 では 男 性 に 比 し 女 性 に 高 頻 度 でプ ラークが 認 められ 健 常 者 では 見 られなかった 40 歳 未 満 でも 半 数 近 くにプラークが 出 現 してい た 危 険 因 子 保 有 数 で 比 較 すると 保 有 数 が2 個 では IMT 肥 厚 が32.3% 保 有 数 3 個 以 上 で は 約 2 倍 の67.7%であった またプラーク 出 現 率 は 保 有 数 2 個 が22.1%であるのに 比 し 保 有 数 3 個 以 上 では77.9%と3 倍 以 上 の 頻 度 であっ た 宇 野 ら 14) は 動 脈 硬 化 危 険 因 子 保 有 数 が 多 いほどIMT 肥 厚 プラーク 出 現 率 ともに 高 い 傾 向 にあると 報 告 しているが 我 々の 結 果 では 危 険 因 子 保 有 数 が2 個 にくらべ 保 有 数 3 個 で IMT 肥 厚 プラーク 出 現 率 ともに 高 いものの 保 有 数 4 個 以 上 の 集 団 は 実 施 例 数 が 少 なく 充 分 な 比 較 はできなかった 表 3に 示 すように 単 因 子 でみると 高 血 圧 脂 質 異 常 はプラーク 出 現 と 有 意 に 正 の 相 関 があ り 脂 質 異 常 及 び 高 血 圧 保 有 者 で89.9%とプラ ーク 出 現 率 が 高 かった 危 険 因 子 を2 個 保 有 す る 者 236 人 中 プラーク 出 現 者 45 人 (19.1%)で あったことに 比 べても 脂 質 異 常 及 び 高 血 圧 保 有 がプラーク 出 現 に 関 与 することが 明 らかに 脂 質 異 常 + 高 血 圧 + 高 血 糖 96.1 脂 質 異 常 + 高 血 圧 89.9 脂 質 異 常 + 高 血 糖 59.3 高 血 圧 + 高 血 糖 57.7 図 2 おもなマルチプルリスクファクター 症 候 群 の プラーク 出 現 率 (%) % 図 3 内 頸 動 脈 に 狭 窄 がみられた 症 例 90 80 70 65.6 64.5 60 50 40 30 47.8 50 50 41.1 36.1 28.8 19.2 52.6 42 33.3 27.4 50 20 12.8 10 0 0 0 0.1 40 歳 未 満 40~49 歳 50~59 歳 60~69 歳 70 歳 以 上 男 性 健 常 者 男 性 マルチプルリスク 保 有 者 女 性 健 常 者 女 性 マルチプルリスク 保 有 者 図 4 健 常 者 とマルチプルリスクファクター 症 候 群 のプラーク 出 現 率 の 比 較 31
調 査 研 究 ジャーナル 2015 Vol.4 No.1 なった 高 血 糖 については 単 因 子 では 高 血 圧 脂 質 異 常 の 単 因 子 に 比 べプラーク 出 現 率 が 低 いと いう 結 果 がみられたが 脂 質 異 常 高 血 圧 高 血 糖 の3 個 を 保 有 する 場 合 のプラーク 出 現 率 は 96.1%と 脂 質 異 常 と 高 血 圧 の2 個 を 保 有 する 場 合 (89.9%)より 高 く また 危 険 因 子 を3 個 以 上 保 有 する 者 235 人 中 プラーク 出 現 者 159 人 の66.7%より 高 いことから 高 血 糖 が 高 血 圧 や 脂 質 異 常 と 重 なることによりプラーク 出 現 率 を 高 めることが 示 唆 された 動 脈 硬 化 学 会 ガイド ラインでは 糖 尿 病 保 有 者 にプラークが 多 く 厳 重 な 管 理 が 必 要 であるとされており 菊 池 15) の 報 告 でも 糖 尿 病 がIMT 肥 厚 プラーク 出 現 率 の 上 昇 につながっていると 報 告 している こ のことから 高 血 糖 から 糖 尿 病 という 病 態 に 進 展 することで 単 独 の 危 険 因 子 としてプラーク 出 現 のリスクが 高 くなることも 考 えられ 高 血 糖 を 保 有 する 場 合 には 糖 尿 病 という 病 態 に 進 展 する 前 に 改 善 することが プラーク 出 現 のリスク 管 理 の 点 からも 重 要 であると 考 える また 今 回 の 対 象 者 には 喫 煙 者 が 少 数 で 喫 煙 とプラークとの 関 連 性 については 明 らかな 知 見 は 得 られなかった 多 くの 報 告 4 15) で 頸 動 脈 超 音 波 検 査 対 象 者 の 条 件 が 動 脈 硬 化 危 険 因 子 を 持 たない 集 団 危 険 因 子 保 有 数 2 個 未 満 の 集 団 健 診 で 頸 動 脈 検 査 を 受 診 した 集 団 等 々 受 診 者 の 背 景 が 必 ずしも 一 致 していないため 他 施 設 との 充 分 な 比 較 ができなかったが 宇 野 ら 14) の 報 告 と 同 様 に 動 脈 硬 化 性 疾 患 予 防 ガイドライン 2012 年 版 16) で 公 表 された 高 リスク 群 高 血 圧 脂 質 異 常 高 血 糖 肥 満 といった 動 脈 硬 化 危 険 因 子 を 多 く 有 する 人 ほど 頸 動 脈 硬 化 が 進 ん でいることが 確 認 できた 一 方 で 提 示 した 症 例 のように 自 覚 症 状 がない 症 例 で 高 度 の 狭 窄 を 生 じている 場 合 があった 症 例 は 若 年 で 肥 満 と 脂 質 異 常 という 危 険 因 子 の 保 有 であるが 特 定 健 診 の 基 準 でいえば 動 機 づけ 支 援 に 該 当 し 積 極 的 な 保 健 指 導 の 対 象 外 である 危 険 因 子 の 保 有 数 が2 個 以 内 の 若 年 者 ( 特 に 男 性 ) において 頸 動 脈 超 音 波 検 査 を 実 施 することが 自 覚 のない 動 脈 硬 化 の 発 見 につながると 考 える 動 脈 硬 化 は 自 覚 症 状 に 現 れることなく 進 行 し 自 覚 症 状 が 現 れた 時 は 心 血 管 イベントが 発 生 した 時 であることが 多 い 生 活 習 慣 の 改 善 治 療 継 続 強 化 の 重 要 性 を 保 健 指 導 の 場 面 で 勧 奨 していくには 動 脈 硬 化 の 実 態 を 目 の 当 たりに することが 最 もインパクトを 与 える その 方 法 として 頸 動 脈 超 音 波 検 査 は 非 常 に 有 力 な 手 段 と 考 える 頸 動 脈 内 の 状 態 を 画 像 とともに 受 診 者 に 報 告 することで 動 脈 硬 化 の 進 展 度 を 本 人 が 確 認 することは 生 活 習 慣 改 善 の 動 機 づけ の 一 助 として 有 効 であると 言 える 今 後 の 課 題 として 各 年 代 で 症 例 数 を 増 やし 特 に 若 年 層 高 齢 者 での 頸 動 脈 超 音 波 検 査 の 有 用 性 生 活 習 慣 改 善 の 保 健 指 導 における 改 善 状 況 と 頸 動 脈 超 音 波 検 査 結 果 との 関 連 さらに 動 脈 硬 化 疾 患 予 防 のためのリスク 管 理 における 頸 動 脈 超 音 波 検 査 の 活 用 等 について 検 討 してい きたい おわりに 自 覚 症 状 がなく 生 活 習 慣 の 改 善 に 消 極 的 な 動 脈 硬 化 危 険 因 子 保 有 者 に 対 しては 頸 動 脈 超 音 波 検 査 を 積 極 的 に 実 施 し 健 康 診 断 後 の 保 健 指 導 部 門 と 連 携 して 経 過 観 察 管 理 指 導 に 役 立 てていきたいと 考 える 本 論 文 の 要 旨 は 第 52 回 千 葉 県 公 衆 衛 生 学 会 ( 平 成 26 年 2 月 )において 発 表 した 引 用 文 献 1) 厚 生 労 働 省 :メタボリックシンドローム 該 当 者 予 備 軍 の 状 況 <http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu/ 06/01.html>(2014/01/20アクセス) 2) 日 本 脳 神 経 超 音 波 学 会, 動 脈 硬 化 性 疾 患 のスクリーニ ング 法 に 関 する 研 究 班. 頸 動 脈 エコーによる 動 脈 硬 化 性 病 変 評 価 のガイドライン( 案 ).Neurosonology 2002;15 (1):20-33. 3 ) 頸 部 血 管 超 音 波 検 査 ガイドライン.Neurosonology 2006;19(2). 4) 頸 動 脈 超 音 波 検 査 の 評 価 法.Medical Technology 別 冊 超 音 波 エキスパート2004;61-74. 5) スクリーニング 頸 動 脈 超 音 波 検 査 の 有 用 性 について. 第 44 回 予 防 医 学 技 術 研 究 会 議 抄 録 集.2010;72-3. 6) 無 症 候 性 脳 梗 塞 における 頸 動 脈 血 管 壁 硬 化 と 壁 厚. 日 本 人 間 ドック 学 会 誌 (JHD)1998;13(1):89-91. 7 ) 超 音 波 診 断 頸 動 脈 IMT 測 定 の 意 義 -. 脳 と 循 環 2009;14(2):23-8. 8) 住 民 健 診 における 頸 動 脈 プラークスコアと 頸 動 脈 内 膜 中 膜 複 合 体 厚 の 特 徴. 島 根 医 学 検 査 2009;37(2):17-22. 9) 東 京 都 予 防 医 学 協 会 年 報.2014;43:105-10. 10) 寺 島 茂, 鈴 木 研 欽, 恩 田 久 孝, 他. 超 音 波 検 査 法 での 健 常 者 を 対 象 とした 頸 動 脈 硬 化 について. 超 音 波 検 査 技 術 2002;27(4):218-25. 11) Handa N, Matsumoto M, Maeda H. et al. Ultrasonic evaluation of early atherosclerosis. Stroke 1990;21: 1567-72. 12) 本 間 聡 起, 石 田 浩 之, 長 谷 川 浩, 他. 百 寿 者 の 頸 動 脈 超 32
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